曹操が、肩に鞄をかけて部屋に戻ってきた。  
 どうやら用を済ますついでに昼寝もしていたらしく、気だるそうに伸びをしながら歩いてくる。  
 だがベッドの上の惨状を見ると、面白そうに目を輝かせた。  
「よう。どうだ、気分は」  
 
「……いま、貴方の……、顔を、見て……最悪になりました、ねっ……」  
 趙雲は息も絶え絶えに、悪態をつく。  
 顔は上気し、玉のような汗が浮かぶ。  
 全身がぴくぴくと震え、時折もどかしそうに内ももをこすり合わせ、そのたび恥ずかしそうに表情を歪める。  
 普段からは想像もつかない色気を全身から醸しだし、彼女に憧れる無数の男子生徒に見せれば、それだけで射精しそうな姿。  
 生真面目な関羽が、言葉通り本当に全身余すところなく、二時間責め続けた結果がこれだった。  
「言われたとおり、一度もイかせてないぞ」  
 趙雲のすべてを舐め溶かそうとでもするかのように舌を這わせていた関羽が、主に向かって成果を報告する。  
「どこを触っても感じる淫乱のくせに、イきそうになって私が手を止めても意地になって何も言わないんだ。  
相当やせ我慢してるぞ」  
 かつての戦友からの赤裸々な批評に、堪えきれぬ恥ずかしさが顔に出る。  
 その言葉通り、薬に冒されたとはいえ、性的快感を感じてしまった自らの身体に腹が立った。  
「よくやった。良い子だ」  
 曹操がベッドに歩み寄りながら、関羽の頭を撫でる。  
 目を閉じて気持ちよさそうにする関羽を横目に、趙雲を真正面から見下ろした。  
 
「待たせたな。お前の欲しがっている快楽を、今から与えてやるぞ」  
「……戯れ言を。このような行為に快楽など感じることはありません。貴方のようなケダモノと一緒にしないでいただきたい……!」  
 やせ我慢と言われようと、誇りだけは捨てるわけにはいかない。  
 それが文字通り手も足も出ない趙雲の、唯一できる抵抗だった。  
 その言葉に愉悦の笑みを浮かべながら、曹操は先ほど部屋に帰ってきたとき持ってきた鞄の中から、何かを取り出す。  
 デジタルビデオカメラだった。  
「そうかそうか。そりゃすごいな。じゃあ、その様子をお前の主君にも見てもらおうか」  
 一瞬、彼の言った言葉が理解できなかった。  
 その意味が脳にゆっくりと染みこんでいくにつれ、彼らが一体何をしようとしているのかがだんだんとわかっていく。  
「あ、容量があんまり残ってないな。そうか、こないだお前とハメ撮りしてそのままか。これ見てるとき惇が部屋に入ってきてな、  
もう一瞬であたりが鼻血まみれになって酷いことに」  
「っ! ま、まだ残っていたのか、それ! あれほど消せと……!」  
 何やらじゃれ合いながら保存用のメディアを交換する曹操に、青ざめた顔で問う。  
「な、そ、それ……それで一体、何を……」  
「言ったろう。お前の主君に見てもらう。お前が俺に犯される様を、俺に屈して腰を振り乱れる様を録画して、  
成都に送りつけてやる」  
 当たって欲しくない想像は、無惨にもぴたりと当たった。  
「せっかくだからAV仕立てに編集するか。名付けて『美少女剣士趙雲子龍、屈辱の調教! 〜貴方の剣で私を貫いて〜』」  
「なんだそのネーミングは」  
 興が乗ってきたのか、いらぬ提案をする曹操と、それを呆れた目で見る関羽。  
 そんなことはどうでもよかった。  
 見られる。玄徳に。あの汚れを知らぬ可愛らしい主の目を、自分のはしたない姿で汚してしまう。  
 それは趙雲にとって、最も耐え難い拷問だった。  
「や……、やめて……。それだけは……!」  
 自分にかかるどんな苦痛も耐えられよう。だが主の苦痛だけは耐えられない。  
 肉を裂かれ骨を折られても吐いたことのない懇願の台詞が口をつく。  
 しかし、その台詞が陵辱者をどれほど喜ばせるか、それがわからない程度には趙雲は若く、性の未熟な少女であった。  
 趙雲の悲鳴を聞いて、まるで小さな子供が待ちに待った夕飯のテーブルにつくように、とても楽しげに彼女の  
スカートに手を伸ばす曹操。  
 
「じゃあ賭をするか。もしお前がまったく濡れていなかったら、そのときはお前の忠誠心に感服だ。素直にお帰りいただくさ。  
だがもしも犯されているのに、感じて濡れていたりしたら、お前は闘士なんかじゃなくただの淫乱だ。変態だ。雌犬だ。  
そんなやつの言葉に耳を貸してやる義理はないな」  
 意地の悪いことを。関羽はそう独りごちる。  
 曹操は、趙雲の秘所がすでに濡れそぼっていることを十分承知で言っている。彼女の冷静な仮面を剥ぎ、慌てふためく  
姿を見たいだけだ。  
 案の定趙雲は、自分が濡れてしまっていることを自覚し、狼狽して何も言えなくなっている。  
 だが。ふと思う。  
 多分、今の瞬間、彼女の愛液の量はさらに増したのではないだろうか。  
 それはおそらく――――彼女も、自分と同じ人種だから。  
「はい、びしょびしょだな。小便を漏らしたみたいだ。下着は湿ってはりついて、愛液が太ももまで垂れてる。恥ずかしくないのか?  
そうだよな、変態だもんな」  
「――――ッ!」  
 曹操は趙雲のスカートをめくり、中の様子を事細かに口に出しながら(その辺りが彼曰くのAV仕立てであるらしい)、  
左手に持ったビデオカメラに納めていく。  
 趙雲の股間の様子は彼の言ったとおりで、関羽に責め続けられた間に一度も触れられなかったにも関わらず、感じてしまった  
証拠が滝のように流れ出ている。  
 それを晒されて闘士の誇りが傷つけられたこと、生まれて初めて男にそこを見られたこと、いろいろな悔しさと恥ずかしさが  
入り交じり、趙雲は目を固く閉じて羞恥に耐える以外術がない。  
「さて、賭けに負けた感想はどうだ? 淫乱の趙雲」  
「…………せいで……」  
「ん?」  
「……媚薬を嗅がされた、せいです……! でなければ私がこんなっ……こんな、はしたない……!」  
 振り絞るように、最後の言い訳をする。  
 感じたのは自分の身体でも、感じさせたのは薬の力だ。断じて自分の弱さではない。それが趙雲の、最後の一線だった。  
 
「媚薬ね……」  
 しかし動じることなく、ベルトを外し服を脱いでいく曹操。  
 ついには全裸となった彼の逸物は、ついに獲物を狩ることができるという喜びで、すでに限界まで膨張していた。  
 その様はまさしく雌を屈服させる威容に溢れており、目の前の女を威圧する。  
「ひぅっ……」  
 息を飲み、言葉も出ない趙雲。  
 これを見たのは二度目だが、これほどまじまじと近くで見たことはない。  
 ただ汚らわしいだけであるはずのそれが、逞しく思えるのは何故だ。身を任せたくなるのは何故だ。心の底まで、  
蕩けさせられそうになるのは何故だ――――  
「お前が、変態だからだよ」  
 彼女の葛藤を読んだかのように、最後通告を発する。  
「ッ……だから! 濡れてしまったのは媚薬のせいで、私は貴方などに――」  
「媚薬なんてものがあると思ったのか? お前が嗅がされたのはただの痺れ薬だけだ」  
 現実を、突きつける。逃げ道が残らないように。  
「――――え」  
「あると信じたのは、その方が都合が良かったからだろう。強く頭の良い特A闘士。趙雲子龍が女として乱れるには、  
そうしないと割り切れなかったからだろう」  
 関羽を見る。  
 彼女はこの場にそぐわない、どこか優しい顔でこちらを見ていた。  
 それはまるで、仲間を歓迎するような顔で。  
「お前が感じたのはお前が淫らだからだ。お前は関羽と同じだ。女の身でありながら強くて、あまりにも強すぎて、自分より  
強い者を求めている。征服したことしかないから、自分より強い男に征服されたがっている。上に昇ったことしかないから、  
下に貶められる背徳を欲している。お前たちは同じ、マゾの変態だよ。趙雲子龍」  
 言いながら、腰を突いた。  
「ひっ……ぃいいあああああああああぁぁぁ!」  
 趙雲の二つ目の初めては、今破られた。  
 
 愕然と目を見開き、似つかわしくない大声を上げる。そのすべてを、ビデオに収めながら腰を動かす。  
「痛いか? それすらも快感になるはずだ。お前は真性の変態なんだからなっ」  
「ひぅっ! はひっ、ひぃぃぃ!」  
 何も言い返す余裕がない。だが――彼の言ったとおり、痛いと思ったのは最初の一瞬だけ。今ではその痛みも心地良い。  
散々焦らされ、触れられることを待ち望んでいた箇所への暴虐。それの与える快楽に翻弄される。  
「んはぅ、嘘っ、嘘ですっ! こんな、こんなああぁぁああぁぁ!」  
 自分の反応が信じがたい。  
 本来なら即座に斬り倒さねばならない敵に犯されて、あろうことか快感に震えている。  
 そのことを思うたび、この様子を主君に見せられることを想像するたび、危険な快楽が身体に走った。  
 それはまるで幼い頃門限を破って遊んだときのような、いけないことをしているという罪悪感と、それが倍増させる  
快感が全身を貫く。  
 それこそが趙雲子龍という、女の業だった。  
(何故ッ……何故私は女なのか……男なら、1800年前の趙雲子龍のように、ただ忠義に生きる男なら……!)  
 男であったら、こんな醜態は晒さないはずだ。  
 今までの人生において、運動時に乳房が邪魔なことと、生理が面倒なこと以外では、特に意識したこともない性別。  
 今はそれがたまらなく憎かった。  
「いいや、女だからこそだ」  
 思考に、曹操の声が割り込む。  
 まるで考えを読まれたかのような――いや、実際読まれているのだろう。  
「1800年前のお前たちの失敗は、男だったことだ。男だからこそ忠義のみに拘り、俺の誘いにもなびかず、劉備玄徳に従い続けて  
天下を見ることなく死んでいった」  
 腰を止め、自分の言に一片の疑いも持たない目で語り続ける。  
「お前の幸せは女であることだ。俺が男であることだ。だからこそくだらん拘りを捨て、真の主に仕えることができる」  
 そう言い放って、趙雲の顔をじっと見た。  
(主……馬鹿な! 私が使えるは玄徳だけ。こんな男に肉欲で籠絡されるなど――)  
 
「もしも自分の主は玄徳しかいないと思うのならば……関羽」  
「ああ」  
 言って振り返ると、どこから出したのか趙雲の刀を抜き身で構えた関羽が立っていた。  
 その刀を、こともなげに数度振り下ろす。  
 瞬間、趙雲の四肢を拘束していた鎖が、音を立てて断ち切られた。  
「っ!」  
 驚く趙雲に、抜き身のままの刀が差し出される。  
「もし心がまったく変わらんのなら、それで俺を斬り殺せ。俺は止めん、関羽も動かん」  
 この期に及んでも表情を変えぬまま――すなわち、自分に絶対の自信を持った笑みのまま、そう勧める曹操。  
 関羽も平然と立っている。結果はすでにわかっている、そう言わんばかりに。  
「……随分と余裕ですね。過ぎた自信は、あひゃうっ!?」  
 信じがたい心持ちで刀を受け取り、彼の真意を確かめようとする趙雲の台詞は、しかし途中で遮られた。  
「止めんとは言ったが……これをやめるとは言っていないぞ」  
 趙雲の表情が崩された様をビデオに収めて上機嫌に、曹操は言った。  
「くっ……こ、のぉぉぉ……っ!」  
 動きが、徐々に速くなる。  
 ついにはビデオを後ろに放り、撮影を関羽に任せ、自らは両手を趙雲の腰に回して突き穿つことに専念する。  
「ひぅっ! はあっ、はっ、はぁんっ!」  
 この右手に握られた刀。これを振り下ろすだけで事は済むというのに、それができない。  
 股間に響く快感に気を取られ、身体にまったく力が入らない。  
 俗に、男性器と女性器の形が合うことを、相性が良いということがある。  
 だが曹操の男性器は規格外の大きさを持って趙雲の女性器に押し入り、無理矢理に掻き回し蹂躙する。女性器を、自分の形に  
合うよう掘り進めているような錯覚を覚え、趙雲は戦慄した。  
「だめっ、だめっ……これじゃぁ、私の、が、曹操の形になってしまうぅ……曹操のしか入らなくなるぅぅ!」  
「わかってるじゃないか。お前のすべては、俺のものだ」  
 どきりと、胸が高鳴る。  
 身勝手極まりない男の台詞に、ときめきと興奮を感じてしまう。これでは彼の言う、自分が変態という説が本当のようでは  
ないか――そう思い至り、また感じる。その繰り返しだった。  
 
「嫌っ、玄徳、玄徳っ、げん、とくッ! 玄徳ぅ……!」  
 このままでは、恐ろしいことになる。理屈ではなくそう感じ、すがるように心の主に呼びかける。  
 だが、それすらも目の前の男は許さなかった。  
「黙れよ」  
「んむっ!? ちゅぶっ、んぢゅっ……!」  
 手で上半身ごと顔を引き寄せ、唇を奪われる。  
 その体勢はまるで恋人同士の睦み合いのようで――視界の隅に、ふて腐れたような関羽の顔が写った。  
 そんな思考も、霞がかかるように薄れていく。  
 曹操の舌は趙雲の口内だけでなく脳みそまで掻き回すかのように勢いよく動き、舐め、しゃぶる。そのたびに趙雲の大事な  
ものが薄れるような危うさと、大事なものに包まれているような心地よさを感じる。  
 刀を握る手の力は徐々にゆるみ、ほどけていき――  
 ついには、からからと音を立て、刀は床に転げ落ちた。  
「ぷ、はああああぁぁぁぁ……! はぁぁぁ、ん……」  
 唇が離され、唾液が糸を引く。  
 見苦しいほどに惚けた顔で、天井を見上げる趙雲。  
「答えは出たかな……? なら、褒美だ……イかせてやる」  
 言って、腰を震わす。射精が近いのだ。  
 それを悟った趙雲が、止めようとして――止めなかった。  
(射精――あの白くて、臭くて、熱いもので……私の中を満たすというの……?)  
 初めてそれを浴びた数時間前から、その存在を忘れられない。  
 あの醜悪なはずの匂いが、今も顔に残っている匂いが、ひどく愛おしい。  
 それは自分がいやらしいから? それとも、……曹操の物だから?  
(…………両方、でしょうか)  
 蕩けた頭で、そんなことを思う。恥ずかしくて、口には出せないけれど。  
 やがて、最後の時を迎えた。  
「ぐっ……!」  
「はぉぅっ……ひあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  
 どくどく、と。身体を震わせ、子を孕ませる本能のまま、雄が雌に自らを浴びせていく。  
 信じがたい量の、白く濃い粘液が、趙雲の胎内を真っ白に染め上げる。  
「あああ……っ! だめ、染められちゃう……全部っ、全部ッ!」  
 自らも待ち望んだ絶頂を味わいながら、震える。  
 すべてが白く染まっていく。  
 身体も。  
 心も。  
 
 
 いまだ繋がったまま、ベッドに仰向けに倒れ伏す趙雲。  
 息は荒く、意識があるかどうかもさだかではない。  
 それを上から見下ろしながら、曹操が言った。  
「さて……心変わりはしてくれたのかな」  
 答えられず、目だけを彼に向けて心で言う。――わかっているくせに。  
「もしそうなら、これで終わりだ。ただ、もしもまだ俺に刃を向けるつもりなら……」  
 相変わらずの表情。自信に溢れた顔。自分の主にふさわしい、王者の顔。  
「そのときは、まだまだ続けなくちゃいけないな。お前の全身を突いて、汚して、屈服するまで……朝まででもな」  
 子宮が、震えた。  
 戦うために鍛え上げたこの身体は、まだまだ動けると言っている。今ほど日常のトレーニングに感謝したことはない。  
 この生まれて初めての快感を、もっともっと味わわなくては。  
 横では我慢できなくなった関羽が自ら服を脱ぎ、孟徳はお前だけには独占させんからな! と書いてある顔でこちらを見てくる。  
「……ん、ふふ……当たり前でしょう曹操。私が、この程度で……屈するとお思いですか?」  
 期待に胸が震える。  
 夢の時間の始まりだ。  
「私を自分のものにしたいのなら……もっと、もっと突いて……私のすべてを汚してみせるのですね……!」  
 
 ある日の昼。  
 ここのところ、他校の女生徒を攫って犯すという奇行に目覚めた曹操ではあるが、彼の重臣たち……特に軍師連中には、  
概ね好意的に受け入れられていた。  
 単純に戦力増強にもなるし、なによりも目を離したらふらふらとどこかへ行き、いつ暴走するとも知れないやっかいな大将が、  
女に夢中になっている間はおとなしくしていることが有り難がられた(夏候惇だけが、勝負は拳でつけるもんだ! と吠えたが、  
弁で軍師たちに敵うわけもなく無視された)。  
 そういうわけで、今では許昌学園の制服に身を包んだ女二人が、今日も曹操の部屋に入り浸っていた。  
 
「んちゅっ、んふ、ちゅぅっ……」  
「んはぁ……気持ちいいですか? 孟徳様」  
「ああ、良い感じだ」  
 ベッドの縁に座り、服を着たまま局部だけを露出した曹操の逸物を、計四つの乳房が挟み込んでいる。  
 足下にすがる二人の女性――関羽雲長と趙雲子龍が、自らの乳房で主に奉仕しつつ舌で舐めしゃぶっていた。  
「もう、元気になったな……孟徳、我慢できないんだ……入れて、欲しい……」  
「お待ちください。関羽さんは昨日、最初の濃いのを頂いたでしょう。今日は私のはずです」  
「うぐっ」  
 気づいたか。そんな顔で、趙雲を振り返る関羽。  
 奴隷が二人に増えたことで、どちらが先に主人の寵愛を頂くか、少し揉めた。  
 最初は試合で一本取ったほうからということにしたが、勝負が白熱し体育館が半壊しても決着がつかなかったため、平和的に  
毎日交代ということになった(なお、止めようとした夏候惇が全治二週間の怪我を負った)。  
 趙雲は曹操に降って以来、どうも何かが吹っ切れたのか、おおっぴらに彼に愛してもらうことを求めるようになった。関羽としては  
油断ならないライバルが現れたことと、主が喜んでいることで、複雑な気分だ。  
「……しかし、毎日こうも中出ししていたら、そろそろ孕むかもな」  
「あんっ、はんっ……良いです、孕んでもいいですぅ! だから孟徳様の、もっとくださぁい……!」  
「んちゅっ……孟徳、孟徳の子供が欲しい……! お願い、孕ませてくれ……!」  
 二人の反応に、満足げに頷く曹操。  
 そして、部屋の隅――――三脚にセットしてあるビデオカメラに、笑いかけた。  
 
 そこで、映像は終わった。  
 成都学園の視聴覚室。広い部屋でたった一人、淫猥な映像を諸葛亮孔明が観ていた。  
 デッキからDVDディスクを取り出す。表には、『ご主人様とふたりの雌奴隷闘士 〜あなたとわたしで三国鼎立〜』と、  
タイトルと思わしき文字列が手書きで記してあった。どうやら候補が二転三転したらしく、二、三文字書いてぐしゃぐしゃと  
消した跡がある。  
 これは劉備始め、成都の人間は誰一人観ていない。孔明宛に送られてきたものだ。その意図を読むのは容易い。  
(次の獲物は、……わたし)  
 そもそも関羽が許昌に捕らわれたまでは孔明の計算のうちだったが、まさかあの関羽が、男に惹かれて本当に寝返るとは  
思わなかった。そしてそれを知る間もなく趙雲が同じ目に合い、事実上成都に打てる手はなくなった。  
 なにしろ成都で最も強い者は誰か、と人に聞けば、間違いなく独走であろう二人が揃って敵に回ったのだ。  
 だが、この映像を観ては手をこまねいて敗北を待つわけにはいかない。  
 敵の狙いは明らかだ。外堀から埋めていき、最終的には自分たちの主――劉備玄徳が、同じように性の拷問を受けるのだろう。  
(それだけは、だめ)  
 あの愛おしい主君だけは、守らなければいけない。それが孔明の誓いであった。  
 
 だが、心を決めても晴れはしない。  
 1800年前の諸葛亮孔明は、兵の動きから天変地異まで、あらゆる事象をまるで予言するかのように読み切っていたという。  
 その力を受け継いだ孔明だからこそわかる。  
 この戦力比では、どんな策を考えようとも勝利は難しいということ。  
 敗北すれば、自分も関羽や趙雲と同じ目に遭わされるということ。  
 そして、――――幼くも女に目覚めた自分の身体は、それを密かに望んでいるということ。  
 廊下を歩きながら、袴に染みるかすかな水気に、顔をしかめる。  
 DVDを観ている間、聞いたことのない関羽の喘ぎ、見たことのない趙雲の悶えが、彼女の心を捕らえて離さなかった。  
(……だめ、この感情は)  
 わずかに沸いた邪念を振り切るように、早足で外に出る。  
 成都の曇り空は、重く、暗かった。  
 

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