あらすじ:伊手高体育祭。一足早く前日の準備を終えて部室に入った
皮村は、藤原が所持していたあるモノを目撃する。それは、特に皮村
のような人間が手にしてはいけない恐るべきものだった。
晩夏の陽射しと秋を迎える涼しい風が交差する中、伊手高校は今年も体育祭を
迎えようとしていた。本日はいよいよ前日となり、柔道部員も大忙しであった。
「ああ〜疲れちまった。」
そういってタオルを首に巻き、廊下を歩いているのは皮村だった。
「体育祭つったってだりいだけであんまいい思い出ねえよな〜。どうせ、
体力あったり上手いやつだけがいい思いすんじゃん?やってらんねー。」
かく言う皮村も、実は足も速く機敏で運動神経は抜群なのだが、単に面倒なだけだった。
部室に入ろうと廊下の角を曲がった時、ひそひそ話が聞こえた。皮村は耳を傾けた。
「林田先輩!!わ、私・・・先輩のことが、す、す、す・・・・・・・。」
「だぁ〜〜!!もう!!なんでそこから先が言えないんだよ中山ちゃん!」
「そうだよ!スパって言っちゃえば、中山さんも私みたいにうまくいくよ!」
「無理です・・。私、吉田さんみたいに魅力ないし。」
「大体さー、あんたが言っても説得力ないんだよ。あんたは彼の方から声
かけられたんでしょ?立場が違うからなんともいえないじゃん。」
ひときわ厳しいツッコミをきかせていたのは奥野有里だった。
「とにかく!明日は体育祭で先輩と触れ合える最後のチャンスだと思っておいた方が
いいよ。3年生になったら先輩達忙しくなって相手にしてくれないだろうし。」
「そんなぁ・・・。」
「ユリッペ!またそうやってきつく言うんだから!」
中山朔美の最大の理解者である山咲幸子が必死にフォローする。
皮村はそんなてんやわんやの情景を見てひっそり笑って部屋に入った。
(中山か・・・。)
そうつぶやきながら部屋に入ると、何やら叫び声が聞こえてきた。
「チョメジ!しっかり抑えといて!!」
「虎呂助・・・早く・・・・苦しい・・!!」
「何だ何だ!?」
そう叫んだとたん、ドスンと机の倒れるような音がした。
中にいたのは、藤原とミウラだった。
皮村は慌てて部室に駆け込んだ。
「藤原!どうしたんだよ!」
「ああ、皮村じゃないの。今ね、チョメジとふざけてたらミウミウ起こしちゃって・・。
ミウミウそれでなくてもお腹空いてて機嫌悪いみたいだったから、なだめるのに
苦労したわぁ・・・。」
と、藤原は大相撲のテレビ中継で上位力士を負かしてインタビューを受ける関取のように、
息も途切れ途切れに汗を拭きながら話している。
「ふーん、それで他のみんなはどうした?」
「さぁ・・・全然来てないわ。まだ準備終わってないんじゃないの。」
そういうと、藤原はどこかへ行ってしまった。
「んだよ・・つまんねえの。」
そうつぶやくと、皮村は部屋の隅に寝転んでいつものようにヌル天を読み始めた。
やがて、寝返りを繰り返していた矢先に、偶然にも藤原のバッグに当たってしまった。
(そういや、藤原っていつも何持ち歩いてんだ?何か気になんな・・。)
皮村はついつい好奇心に買われ、罪悪感に囚われながらも、藤原の鞄の中を覗き込んだ。
藤原の鞄の中には、とても高校生が持ち歩くとは思えないような怪しげなグッズが
たくさんつまっていた。たくさんの薬品に、難しそうな書物、怪しげな本も入っていた。
「こんなのどこで手に入れてんだよ!・・っていうか、あいつ高校生かどうかも疑わしいな。」
皮村はいくらか荷物をまさぐるうちに、ある本を見つけた。
(ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!こっこれはああああああああああああ!!)
皮村は思わず大声を上げそうになったが、寸前でとめることが出来た。
『5分でマスターできる催眠術入門』
(・・・・・・・・・!!)
皮村は、邪心にかられながらも本を恐る恐るめくってみた。
本の中には、台風の時に使用されたろうそくから、5円玉、それに秘孔突きによるものまで、
ありとあらゆる催眠術に関する手引きが載っていた。
皮村は、他のものをしまうと、何食わぬ顔をしてヌル天に重ね合わせて本を読み始めた。
帰ってきた藤原は、不覚にもそれに気付かなかった。
帰ってきた藤原は、なんとなく皮村の行動に不信感を覚えたが、気にしないでおいた。
しかし、皮村の脳内では恐るべき計画が着実に進められていた。
「ふっふっふ・・。いいこと思いついたぜ。」
そうつぶやくと、皮村は白い歯をこぼしながらどこかへ去った。
そして、しばらくして何かを持って戻ってきた。手には大量のカツサンドがあった。
「藤原ー、今日はお疲れだったな!ほんの少しの気持ちだけどよ、差し入れだぜ!」
「あら!!何それ!!皮村、あんたもバカだけどたまには気がきくじゃないの!!」
そう喜ぶと、藤原は皮村の手からカツサンドをむしりとると、パクパク食べ始めた。
藤原の食がだいぶ進んだところで、皮村はうやうやしく話しはじめた。
「藤原ぁ・・・実はさ、さっきオレ、これ見ちゃったんだよね・・。」
そういうと、皮村は手元から先程の本を取り出した。
「あっ!!それは・・・・!?・・・・・ウグッ!!!」突然、藤原は崩れ落ちた。
「か、皮村・・・あんた、一体・・!?」
ぶつぶつと鳥肌が肌に滲み出る。藤原は青くなりながら懸命に声を絞り出した。
「悪いな藤原。それ最近売店に入ったチキンカツなんだ。しかも、特性ピリ辛ソースが
入ってっから、しばらく痺れて満足に動けねーかもな。明日の夕方までは無理っぽいぜ。」
「!!・・・あんた・・・何を・・」
ガクッ
藤原は一言二言残し、果てた。
「キヒヒヒ・・・楽しい体育祭になりそうだぜ。」
皮村は不気味に微笑むと、携帯を取り出して、親しきものに電話をかけ始めた。
「・・・・・・・そうそう、そうゆうこと。教室に集合って言っといてくれ。じゃあな。
頼んだわ。」
電話をかけ終えると、皮村は教室に向かった。
やがて夕方の5時になり、皮村のクラスに人が集まり始めた。
「みんなお疲れのとこ、ご苦労さん!それではこれから伊手高体育祭特別実行委員会を
開きたいと思います!!」
放課後の教室。そこには、皮村属する伊手高7大巨乳選定委員の他、数々のエロ仲間
もたくさん集まっていた。委員長は、もちろん皮村だった。
「何なんだよ皮村、こんな忙しい時に集めやがって。」
「くだらねー計画ならさっさと抜けさせてもらうぜ。」
「まあそうゆうなって、これから計画の全貌を説明すっから。」
そういって皮村は、文字がびっしり詰まったレポート用紙を取り出した。
皮村はそれを読みながら、後ろの黒板も使って、具体的な中身を説明した。
「ほっホントにやんのか!?そんなこと・・お前正気か?」
「ったりめーだろ。マジでなきゃやんねえよ。」
「んなこといったって・・・。賛成するけど、実際にできるわけねえだろ。」
「いや、おめーらはやるしかねえんだよ。」
「どういうこったよ、それ。」
すると、皮村は手元から紐にくくりつけた5円玉を取り出した。
「これを見ればわかるよ。」
「んな5円玉がどうしたっつうんだよ。」
「よーく見てみな・・・。」皮村は軽く呪文を唱えると、絶妙の手つきで5円玉を振った。
男達の視線はそれぞれあらぬ方向に流れた後、同じような目つきになった。
「・・・・・・・・わかったぜ!!その計画ノッた!」少々の沈黙の後、仲間達は目を光らせた。
「わかりゃいいんだ。」と皮村はしめたように相槌を打った。
こうして、皮村は一同を中ほどにあつめ、それぞれ何かを持たせた後、解散した。
本に書いてあった手引きを利用して、自分の持ってるものと同じ催眠セットを手渡した
のである。これを仲間達にも手渡し、催眠を広がらせるのだ。
「ふふふ・・・これでねずみ算式に増えていけば・・・。明日が楽しみだぜ。
おっと、その前にもう一つだけやり残したことがあったな。」
そういうと、皮村は職員室に向かった。
--------------------------------------------------------------------------------
「というわけでー、先生方と保護者の方々の参加はご遠慮願いたいんすよー。
ここは一つ、生徒の自主性に任せるということで、ね?いいじゃないっすか。」
西日の射す職員室で、皮村はおどおどしながらある男に話しかけていた。
その男の名は、鬼藤勇次。体育顧問で、今度の体育祭の責任者でもあった。
「ふーん・・・んで、それがてめえの言い分か?」やくざ張りの低音が威厳を大きくする。
「は・・・はい♪」パーーーーーーーーーーーーン 乾いた音が無人の室内に響き渡った。
「でぇぇぇぇぇぇっっ!!」例によって、鬼藤所有の竹刀で殴られたのだ。
「バカもほどほどにしとけ・・・。いいか、別にてめぇらを信用しねえわけじゃねえけど
な、何かあったらオレの責任になるんだぞ。」面倒なことになったらどうしてくれるっつーん
だ・・。」
「そこを何とかお願いします!先生の力に免じて!」
「できねえつってんだろーが・・・。」
「どうしてもだめっすか・・・じゃあこれで!!」
皮村は例の5円玉を取り出し、鬼藤の目の前で振った。
「うご!!何す・・・この・・や・・・野郎・・・が・・・・」
-----------------------------------------------------------------------
「というわけで明日の体育祭、我々教員、及び保護者各位の不参加を決定しましたんで・・。」
そういう鬼藤の横には、放課後HRで生徒に渡すはずだった保護者宛の体育祭の案内が
積まれていたままだった。
「本当ですか!?鬼藤先生!!」教員ほぼ全員が声をあげた。
「いくら何でも・・・生徒達にそこまで信頼を寄せていいんですかね?」
「まあよいじゃありませんか。教育の基本は信頼です。生徒たちに任せましょう。
PTAの方にも私の方から話をつけておきましたんでな。」
「校長先生がおっしゃるなら、仕方ありませんね。我々もたまにはのんびりしますか!」
「そうですな!!ここんとこ生徒も頑張ってますし・・・。まあ大丈夫でしょう。」
ちなみに、皮村はちゃっかり校長にも暗示をかけていた。
職員会議の様子を聞くと、皮村は安心したように立ち去った。
やがて部室は、先に到着していた皮村の他、部員達でにぎわっていた。
「あー、つかれた!!明日本番だってのに、こんなに疲れてどうすんだろなー。」
「明日が楽しみだね、林田君!!」
「そ・・・そうですね、森さん(赤)。」
林田としては、無念の境地だった。去年は桃里のブルマー姿を拝めたはずにもかかわらず、
東に連れ去られて目に入れることができなかったのだ。それに、そもそも
この体育祭を通じて、さらに関係を深めようという下心もみえみえだった。
「そういえば、今日はやけにテンション上がらない(怒らない)と思ったら、藤原がいないな。
皮村、藤原はまだこねえのか?あいつ今日も部活あるって思ってるのかなー。」
ギクッ!! 皮村はびびったが、何食わぬ顔で返答した。
「さ・・・さぁ。明日に備えて寝てるんじゃねーの。」
「おかしいなぁ・・・」と林田が考え込む暇もなく、1年生部員が突如駆け込んできた。
「林田先輩!!こんなとこで何ボンヤリ道草くってるっすか!!みんな大騒ぎっすよ!」
後輩部員の愚地よしおである。相変わらず側にいるだけで腹の立つ存在ではあったが、
林田はそこは抑えて受け答えした。
「どうしたんだよ、よっしー。そんなに慌てて(イライラ」
「どうしたもこうしたも・・明日の体育祭、先生と保護者みんなこないんすよ!」
「はぁ!?嘘だろ・・・。そんなことありえるのか!?」
「えー、それ本当!?よっしー。」桃里も信じられないといった表情である。
皮村は表情を悟られないよう、何食わぬ姿でぬるぬる天国を読みふけっていた。
廊下に出てみると、たしかに皆それぞれがひそひそ話をしていた。
明日の体育祭に関する話である。林田は一抹の不安を感じながらも、明日に備えて
解散命令を出した。
ちなみに藤原はどうしたのかといえば、皮村によって倉庫に隠されていた。
「はぁ・・・。」
中山朔美は、溜息をつきながら一人帰路を急いでいた。
「確かに・・・先輩たち来年は忙しくなるし、チャンスっていったら今年しか
ないよね・・。でも・・もしダメだったらどうしようかな。ああ〜、また悪い
方に考えるから余計ダメになっちゃうよ〜・・・。」
どんどん最悪のケースに流れていきそうな自分を引きとめながら、朔美は途中
商店街に立ち寄り、夕飯のためのおかずを買った。両親が都合で家を空けるため、
明日は一人で過ごすからである。朔美にとっては、初めて一人で過ごす夜である。
「どうしよ・・・。もし先輩とか家に来ちゃったら・・・。二人だけで・・。
キスとかするのかな・・・(赤)あ〜、変なこと考えちゃって、私最低だな〜・・。」
「ちょっとお譲ちゃん!お金払い忘れてるよ!」
ふいに思考回路を遮って、野太い声が朔美の耳をつんざいた。
「ごっごめんなさい!」朔美は慌ててお金を取り出した。
キスのその先まで考えないのは、なんとも愛らしい純情さである。
朔美は家へ帰って、荷物を置いて、勉強に励んだが、あまり集中できなかった。
夕飯を食べ、お風呂に入りながら、明日の事を思い浮かべた。
山咲幸子たちから受けた様々なアドバイスだ。もっとも、ほぼ筒ぬけ状態ではあったが。
そして、風呂から上がった後、ベリ子から渡されていたバストアップに効くという
例の薬を一粒口に入れ、水で流し込んだ。
美も年頃の女とあり、その辺りは表に出さずとも本能が意識していた。
風呂から上がり、ベッドへ入る前に、朔美はバッグから様々なグッズを取り出した。
「明日・・・いいことがありますように。」
そうつぶやいて、朔美は財布にお守りらしきものを入れ、、ミサンガのようなものを手首に巻いて
眠りについた。それらは、通販で買った、恋愛運上昇のためのアイテムとされているものだった。
朔美が眠りについた時、読んでいる途中に寝てそのまま枕もとに置いてあった本が寝返りを打った拍子に、
床に落ちた。見開いたページには、朔美が見忘れていた項目が、一つだけあった。
「明日のあなたのキーワード・・・・初めての〇〇」