「あ〜あ、暇だな。」  
皮村は冬休み最後の日、時間を持て余していた。  
毎日エロ本とエロビデオ鑑賞でまさしくヌルヌル天国に明け暮れていたが、冬休み中ずっと見ていると、  
さすがにそれにももう飽きだしていた。  
とその時、突然、携帯電話の着信メロディが鳴り響いた。  
「誰からだ?」  
皮村は机の上に置いてあった携帯電話を手に取ると、それは藤原からの電話だった。  
「アイツからの電話なんて、珍しいな。」  
皮村はそう思いながら、電話に出た。  
「もしもし」  
「もしもーし、皮村、あんた、今暇?」  
陽気な藤原の声が聞こえてきた。すぐに皮村には、藤原が何か面白いことでも思いついたなと思った。  
以前、林田の家に行って、林田を驚かせようと言ってきた時と同じような、ノリノリな感じだ。  
「ああ、暇だけど、何か面白いことでもあったのか?」  
「アラ、あんたにしては珍しく勘がいいわね。そうよ、ちょっと面白そうなものを見つけたのよ。」  
珍しくは余計だよ。そう思いつつも、あまりにも楽しそうな藤原の様子に少し興味も出てきた。  
「で、何があるんだ。」  
「とにかく、今からこっち来てよ。場所はね・・・」  
藤原が何を見つけたかは知らないが、暇だったこともあり、  
皮村は藤原に言われた場所に向かうことにした。  
 
指定された場所は、家から結構離れている場所で、到着するのに20分ほどかかった。  
そこには、藤原が相変わらずの力士と見間違うような格好で待ち構えていた。  
思わず声をかけるのを躊躇う皮村。しかし、藤原が皮村に気づいて、声をかけてきた。  
「オーイ、皮村。意外と来るの早かったじゃない。」  
「藤原、どうでもいいけど、お前、その格好何とかならないのかよ。」  
呆れるようにポツリと皮村は言ったが、藤原には聞こえなかったようだ。  
「で、何だよ。面白いものって。」  
「ほら、あそこ見て、あのアーケードの入り口。」  
皮村は藤原が指差す方向を見ると、そこには時計を見ながら立っている林田の姿があった。  
 
「おい、林田が立っているだけじゃねえか。これのどこが面白いものなんだよ。」  
「バカね、あんた、部長の様子をよーく見てみなさいよ。」  
藤原に言われて、皮村は林田の方を見た。  
林田の様子を見ると、そわそわしていて、どうやら、誰かと待ち合わせているようだ。  
ピーンっと、皮村の頭が閃いた。  
 
「おい、アイツ、まさかデートの待ち合わせでもしてるのか?」  
「相手が来ていないから、まだ断定はできないけど、99%の確率でデートだと、あたしは思うわ。」  
「でもよ、デートの相手って誰だよ。まさか・・・」(東だったりしてな。)  
「まさかも何も、部長があんなにそわそわして待ち合わせる相手なんて、モリモリしかいないでしょ?」  
「えーーっ」思わずのどちんこが飛び出しそうになるくらい、思いっきり驚く皮村。  
「でも、アイツが森さんをデートに誘うなんて、信じられねえな。」  
少し驚いた皮村に、楽しそうに声をかける藤原。  
「ねえ、面白そうでしょ? モリモリが来たら、二人をつけてみましょうよ。」  
やっぱりそういうことだったか。  
デートの待ち合わせだとわかった時点で、藤原の考えていることは大体予想できていたが。  
まあ、今日は暇だったし、実際に、少し面白そうだから付き合ってみることにするか。  
そんなことを考えている皮村の耳に、突然藤原の「あ、来たわよ。」という声が聞こえてきた。  
入り口の方を見ると、林田の前に桃里が到着していた。  
「林田の奴、本当に森さんをデートに誘いやがったんだ。」  
皮村は、林田の行動に少し驚きつつも、林田が桃里をデートに誘えた様子を見て、  
自分のことのように少し嬉しくなった。  
「ちょっと、皮村、二人が移動しだしたわよ。私達もあとつけるわよ。」  
しかし、藤原にせかされ、喜びに浸る間もなく、皮村は藤原と一緒に林田と桃里に  
気づかれないように後をつけることとなった。  
 
しばらく楽しそうに話しながら歩き続ける林田と桃里。  
その背後には、こそこそ物陰に隠れながら尾行する藤原と皮村の姿があった。  
しかし、皮村はだんだん自分のやっていることにむなしさを覚え始めていた。  
しかも一緒に隠密行動(のつもり)を取っている藤原だが、その容姿と格好から、  
かえって周りの注目を集めており、とても尾行と呼べる代物ではなかった。  
周りの冷視線が気になり、だんだん嫌気が指してきた皮村だったが、  
やがて二人が映画館に入るのを知って少しホッとした。  
「どうする、藤原。アイツら、映画館に入っていったぜ。残念だけど、尾行もここまでだな。」  
さっさと切り上げたい皮村はしきりに止めようと訴えた。  
しかし、これくらいで終わる藤原ではなかった。  
「何言ってるのよ。これからじゃないの。」  
「だってさ、映画見るにしても満員だぜ。林田の奴はちゃっかりチケット買ってるから、  
すんなり中に入れたけど、チケット買ってない俺らは入れないぜ。」  
(入れたとしても、バリバリのラブストーリーだし、藤原と一緒に入るのだけは絶対嫌だ。)  
「大丈夫よ。こんな時のためにチョメジがいるんじゃない。」  
そういうと、藤原の頭からチョメジが登場した。慌てる皮村。  
「おい、こんなところでチョメジ出すなよ。」  
「大丈夫だって、あたし達の影に隠れているから、周りの人には気づかれてないわよ。」  
元々この二人が建物の隅の方に隠れていたこともあったが、実際チョメジは藤原の足元の影と  
見事に一体化していた。  
 
「チョメジ、あんた、映画館に忍び込んで部長とモリモリの様子見てきなさいよ。」  
「虎呂助、拙者、そのような盗人のような真似はしたくない。」  
「何言ってるのよ。同じ柔道部の中から生まれた新しいカップルを暖かく見守りたいという、  
あたしのこの親心がわからないの。」  
皮村(いつから、お前はアイツ等の親になったんだよ。)  
最初は嫌がっていたチョメジだったが、何だかんだであの二人を気にしている藤原の思いを汲んで、  
藤原の言う通りに、林田と桃里の偵察に出かけることにした。  
「フッ、わかった。虎呂助。」  
「いーい、とりあえず15分ごとぐらいに、定期報告に戻ってきてよ。」  
「わかった。では行って来る。」  
 
バッ、シティー、バッ、バッ、シティー  
 
軽快なリズムに乗ってチョメジが去って行った後、建物の隅にしゃがみこんで、とりあえず待つ二人。  
歩き疲れたせいか、しばらく無言の時が流れる。しかし、しばらくして藤原が沈黙を破った。  
「しかし、あの二人がここまでの仲になっていたとわね。  
まあ、部長がモリモリのこと意識してたのは前から知ってたけどね。」  
「ああ、あの催眠術以来だろ?」すかさず、皮村が返す。  
「いや、あたしはもっと前から気がついていたわよ。」  
藤原の発言にちょっと驚く皮村。  
「え、いつから気づいてたんだよ。」  
「普段の部長の言動と行動を見ていたら、大体予想がつくでしょ?そんなこと。」  
「え、そうなのか?」少し驚く皮村。  
「部長の行動は単純だからすぐにわかるわよ。問題はモリモリの方ね。  
あの子にはあたしにもよくわからないところがあるわ。」  
「森さんが林田のこと意識しだしたのは、やっぱり天文部の一件以来じゃないか?  
何と言っても、最後に森さんを助けたのは林田だったからな。」  
「ちょっと待ちなさいよ。忘れてもらっちゃ困るけど、あの二人を救ったのはあたしよ。  
あたしがいなければ、あの二人だって今頃どうなっていたか、わからないんだからね。」  
少し怒りぎみの藤原を「まあまあ」と少しなだめる皮村。  
 
とそこへチョメジが帰ってきた。  
 
「あら、あんた、随分帰ってくるの早いじゃない。」  
少し不機嫌気味に話す藤原。  
「それが、拙者が入って、やっとあの二人を見つけたと思ったら、  
すぐにこちらに引き返してきたから、拙者も戻ってくるしかなかったでござるよ。」  
それを聞いて物陰から見ると、確かに映画館から二人が出てくるのが見えた。  
一体、どうして映画も見ないで映画館から出てきたのだろうか?  
不思議に思いつつも、再び動き出した二人の後を、皮村と藤原はつけることになった。  
 
(林田〜。何でおとなしく映画を見ていてくれなかったんだよ。)  
 
皮村の心の叫びが、林田に届くことは、もちろんなかった。  
「薫よ、案ずるな。こうなったら拙者も尾行に協力しようではないか。」  
皮村の嘆きを察したかのようにチョメジが探偵の格好をして話し掛けてきた。  
ちょんまげ力士と黒人探偵に挟まれて、二人の尾行を続ける皮村。  
(これじゃ、余計に目立つだろうが)  
皮村の嘆きは続く。  
 
二人はどうやら、この前できたばかりのデパートに向かっているようだった。  
デパートに入り、中の店をいろいろと見てまわる二人。  
とても楽しそうな二人の背後には、歩き疲れて、少し虚しさを覚え始めた2人がいた。  
ちなみにチョメジは、途中で藤原が疲れてきたので引っ込めていた。  
「あの二人は楽しそうだからいいけど、後をつけてるだけのこっちはただ疲れるだけだわ。」  
だったら尾行をやめようぜと言おうと思った皮村だったが、  
この後、二人がどこまで進展するのか、興味もあった。  
夜になったら、きっと何らかの進展を見せてくれるはず・・・。  
そう考えた皮村は、何とか夜まで粘ってみようと藤原を説得し、尾行を続けることにした。  
 
しばらくして、林田と桃里の二人はある店に入っていった。  
よく見ると、二人がその店で何かを楽しそうに見ていた。  
疲れ果てていた二人は、やっと少し休めると思い、  
少し離れた自販機コーナーにある椅子に座り、様子を見ていた。  
とその時、突然二人の携帯の着信音が鳴り出した。  
「何だ?二人同時にメールが来るなんて・・・」慌てて携帯を手に取る二人。  
二人の携帯にはメールが送られてきた。しかもそのメールの送信者は、なんと林田だった。  
メールには画像が添付されていた。  
「何、チョメジにそっくりなTシャツを見つけたから、画像を送るだって・・・」  
画像を見ると、なるほど、確かにチョメジに少し似ている。  
あの二人が見ていたものはこれだったのか。  
何だかわざわざ林田がデートの状況報告をしてくれたみたいで、二人は少しおかしくなって笑った。  
林田と桃里の二人がその店を後にすると、藤原と皮村の二人はその店に行ってみた。  
林田から送られてきたTシャツは、結構目立つところに置いてあって、すぐにわかった。  
チョメジそっくりのTシャツを見ながら、皮村がポツリと言った。  
「林田の奴、自分が送ってきたメールのTシャツを、今、俺達が見ているとは夢にも思わないだろうな。」  
チョメジそっくりなTシャツを確認した後、二人は再び尾行を開始した。  
 
しばらくして、後をつけていた二人の視界に見慣れた人物が入ってきた。  
「アラ、あの子は。」一度だけしか会っていない藤原は、それほど驚かなかったが、  
「ゲッ、佐藤さんだ。」皮村はパニックになった。  
しかも佐藤ちえの隣には、彼氏の姿もあった。  
「藤原、何してるんだ。さっさと隠れるぞ。」  
「でも、部長達、先に行っちゃうわよ。」  
「オイ、頼むからあっちに行こうぜ。」皮村は半ば強引に藤原を引っ張っていった。  
佐藤ちえとその彼氏が楽しそうに話しながら目の前を通り過ぎていくのを、物陰から見つめる皮村。  
「あんた、まだ彼女のこと諦めてなかったの。もう二度と取り返しがつかないのにねぇ。」  
「う、うるへえ」皮村は半べそをかきながら、二人の去っていった方向をずっと見続けていた。  
「そんなことより、早く行かないと、部長達見失っちゃうわよ。」  
今度は、泣きべそをかいている皮村を、藤原が引きずりながら、再び尾行を開始した。  
 
ものすごい人ごみの中、藤原と皮村は何とか二人を見つけ出した。  
二人はフードコート内の一席に、座っていた。  
「そういえば、あたしもおなかすいたわね。皮村、あたし達も何か食べていきましょう。」  
「オイ、ちょっと待てよ。もしあの二人に見つかったらどうすんだよ?我慢しろよ。」  
しかし、藤原は皮村の忠告を無視して、さっさと食べ物を買いに行ってしまった。  
 
戻ってきた藤原の両手には、おびただしい数の食べ物が抱えてあった。  
藤原が豪快に食べるのを見て、皮村はただ呆れるばかりだった。  
とその時、桃里が席を立つのが見えた。どうやらこっちに向かってくるようだ。  
「おい、藤原、まずいぞ。隠れようぜ。」  
「わかってるわよ。さっさと行くわよ。」  
そういうと、そそくさと二人はフードコートのコーナーを曲がったところにあるトイレに駆け込んだ。  
幸い、ものすごい人ごみのため、二人には気づかれてないようだった。  
トイレに逃げ込んで落ち着いた皮村は、いつの間にか藤原があれだけの食べ物を  
全部食い終わっていることに気づき、驚いた。  
「藤原、いつも思うことだが、お前、感心するくらいによく食うな。」(しかも食うの早っ。)  
「そんなことよりも、外を見てみなさいよ。何だか面白いことになってきたわよ。」  
皮村が恐る恐るコーナーの角から顔を出すと、ゴミ箱のそばで桃里と佐藤ちえが対面していた。  
「何か話しているようだわね。」この藤原の一言を聞いて、  
「え、もしかして森さん、俺のことを、佐藤さんにアピールしてくれてたりして。」  
と勝手に希望の光を灯し始める皮村だったが、藤原が  
「いや、それはなさそうね。モリモリの方が、何だか慌てているようだし。」  
と言うと、勝手な希望の光は、あっさりと皮村の中で自然消滅した。  
「やっぱりダメか。」再び少し、いや、かなり落ち込む皮村。  
「ん?、何かモリモリの様子が変ね。これは探りを入れる必要がありそうね。  
チョメジ、ちょっと探ってらっしゃい。」  
またまた、チョメジ登場。  
「まだ、探偵の真似事でござるか。虎呂助。」  
「いいから、さっさと行きなさいよ。」  
強気な藤原に押されて、再びチョメジは、しぶしぶ人ごみに紛れながら、部長と桃里の元に向かう。  
 
バッ、シティー、バッ、バッ、シティー  
 
桃里はしばらくして林田のいる席に戻った。  
何か話しているようだが、トイレの脇からではわかるわけもなく、チョメジの報告を待つしかない。  
しかし、皮村は、桃里の席についてからの様子を見て、何となく悪い予感が走ったのだった。  
 
そして、どうやら、皮村の悪い予感は的中したらしい。  
何をしゃべってるか聞き取れなくても、凍りついている林田の表情から、何となく察することができた。  
それまで、ひやかし半分であとをつけていた皮村と藤原の表情からも、笑顔が消えた。  
そして、林田は今までに見せたことのない表情を浮かべると、桃里を置いて席を立ってしまった。  
 
驚く藤原。  
「ちょ、ちょっと部長。モリモリを置いて、一体どこに・・・」  
行くつもりなのと言おうとして、藤原は言葉を失った。  
去っていく林田の顔が、今までに見たことがない、とても暗くて哀しそうな顔をしていたからだ。  
「オ、オイ、藤原・・・」  
皮村が何か言おうとしたその時、桃里が走って店を飛び出していくのが見えた。  
あまりの二人の豹変に言葉を失い、唖然とする二人。  
「モリモリ、何だか泣きそうな顔してたわね。」  
一体、二人の間に何があったというのだろうか?  
と、ここで二人は偵察に出したチョメジのことを思い出した。チョメジが何か聞いてるかも知れない。  
藤原は大慌てでチョメジを呼び戻した。  
 
「おい、チョメジ。一体あの二人に何が起こったんだ。なんであんなことになったんだよ。」  
チョメジを問い詰める皮村。  
しかし、チョメジは  
「すまない、拙者の口からは何も言えない。」  
と言うだけだった。  
チョメジの性格を知っている二人は、これ以上チョメジを問いただしても無駄だと思った。  
 
そうこうしているうちに気がついたら、辺りはもう暗くなり始めていた。  
「帰るか」の皮村の提案に、藤原も「そうね」というしかなかった。  
 
それにしても、嫌なものを見てしまった。二人はそう思った。  
明日、あの二人に会ったら、なんて話し掛けたらいいんだろうか?  
皮村は、何で自分が二人のためにそんなことを考えなけりゃいけないんだと思いつつも、  
やはり見てしまった以上、考えざるを得ないことに、苛立ちを覚え始めた。  
そして、皮村はその苛立ちを、藤原に対してぶつけ始めた。  
「オイ、藤原。何が面白いものを見せてやるだよ。  
明日あの二人に会うのが、気まずくなっただけじゃねえか。」  
「何よー。あんただって、二人がどこまで進むか見届けたいなんて、乗り気満々だったじゃないの。」  
しばらく言い争う二人だったが、やがてそれも虚しくなり、無言で家路に向かうのであった。  
二人とも無言のまましばらく歩き続けたが、やがて藤原の方から口を開いた。  
 
「ねえ、皮村。」  
「何だよ。」少し不機嫌気味に返す皮村。  
「あんた、明日、休み時間にでも、部長の様子を見てきてよ。あたしはモリモリの方を見るから。」  
藤原の意外な発言に少し驚く皮村。  
「しゃーねーな。教科書忘れた振りでもして、様子見てきてやるよ。ったく、世話のかかる二人だぜ。」  
「本当にね。それにしても、あの二人に一体何があったのかしらね?」  
「しかし・・・」皮村は少し笑いながら、藤原に話した。  
「お前が、アイツらのことをそこまで心配してやるなんて、少し意外だったな。」  
「変な誤解しないでよ。あたしは自分が不快な場所にいたくないだけよ。  
だって、今柔道部は7人しかいないのよ。  
その内の二人に、いつまでも今日のような状態でいられてごらんなさいよ。  
部の雰囲気も悪くなって居心地が悪くなっちゃうでしょ。あたしはそれを心配してるだけよ。」  
「・・・確かにそうだな。」  
藤原の必死な様子に少しおかしく思いつつも、皮村も藤原の意見は一理あると思った。  
まして、林田は柔道部の部長だ。  
二人があのままでいたら、近いうちに柔道部全体に影響が出るのは目に見えていた。  
幸いにも明日は部活が休みだ。できれば明日中に何とか解決して欲しい。二人は心からそう思った。  
 
翌日。  
今日から新学期ということで、心なしか校内はいくらかの高揚感に包まれていた。  
しかし柔道部の面々はこぞって重苦しい雰囲気に包まれていた。  
「何で俺まで、気が重たくなるんだよ。」そう思いながら、皮村は家を出た。  
皮村は学校に向かう途中で、前方に元気のなさそうな桃里が歩いているのを見かけると、  
昨日の出来事を嫌でも思い出させられた。  
今日は、なんか桃里に声をかけづらい。  
そう思った皮村は、少し遠回りになる道をあえて選ぶことにした。  
 
1時間目の休み時間、皮村は林田の様子を見るため、林田のいるC組に向かった。  
林田の様子を見ようとC組の教室をのぞいた皮村は、座席に座っている林田を見て凍りついた。  
そこには、マジ顔で下を俯いたまま、何か思いつめた様子の林田の姿があった。  
しかも林田の周囲にはシリアスな雰囲気がピーンと張りつめており、  
冗談など、とても言える雰囲気ではなかった。  
よく見ると、周りのクラスメートも、林田の異様な雰囲気に近寄りがたそうにしていた。  
(ダ、ダメだ。これは、とても気軽に話せる雰囲気じゃないよぉ〜。)  
そう思った皮村は、後ずさりして撤退するしかなかった。  
 
2時間目の休み時間、藤原は東と久しぶりに話をしていた。  
しかし、話の流れから、ついうっかりと昨日部長を見かけたことを東に話してしまう。  
しまったと思ったが、もう遅かった。  
こうなったら、モリモリのことはうまく隠して、適当にごまかすしかなかった。  
「そ、そうなのよ。昨日部長をチラッと見かけたんけど、何だか元気なかったのよ。」  
藤原の話を聞いて、心配する東。  
「そうなんだ。僕、今からぶちょーを励ましに行ってこようかな。」  
東の発言に、慌てる藤原。  
「だ、大丈夫よ。部長のことだから、今頃、何事もなかったかのようにケロッとしてるわよ。」  
「えー、そうだったらいいんだけど。」  
「きっと、そうよ。大丈夫よ。」  
強引に何とか東を説得する藤原。  
(余計なこと喋るんじゃなかったわ。  
菊には悪いけど、今日は余計なギャラリーを増やしたくないからね。)  
どうやら東も納得してくれた様子で、ホッとする藤原。  
しかし、その直後、聞き覚えのある大きな声が隣の教室から聞こえてきた。  
 
「ミウミウーー!!!」  
隣のJ組の教室ではミウミウにすがりついて号泣しているベリ子の姿がそこにはあった。  
「ド、ドウシタノ?」  
クラスメートの注目を浴び、かつ様子のおかしいベリ子に、ミウミウはオロオロするしかなかった。  
 
「やっぱりお嬢の声だったのね。隣のクラスまで声が響き渡ってるわよ。」  
藤原と東が慌てて駆け寄ってくる。  
「どうしたの。」  
東が優しく問い掛ける。東と藤原に声をかけられ、再び泣き出すベリ子。  
 
「桃ちゃんの、桃ちゃんの様子がおかしいんだョー。」  
 
ベリ子の話を聞いて、ドキッとする藤原。  
とりあえず、もう休み時間が終わる時間だったので、藤原は放課後に話を聞くからと説得し、  
何とかベリ子を落ち着かせ、自分の教室に帰らせた。  
「あのお嬢があんなに号泣したところ、初めて見たわ。  
でも、おかしいわね。  
朝、こっそり様子を見に行った時には、モリモリ、普通に友達と笑って話していたのにね。  
どうやら、モリモリの笑顔に騙されたようね。」  
しかも、さっき皮村から入った報告によると、林田の方も様子がおかしいらしい。  
(たったの半日で周りにこれほど影響を与えるとは・・・。これは、いよいよ、放っては置けないわね。)  
こうなったら、藤原は部長に会って、話をするしかないと思い、放課後部室に行ってみようと考えた。  
おそらく、部長は部室によるはずだから、その時に捕まえて話をしようと藤原は考えた。  
 
そして放課後。  
藤原と東のいるI組の教室に、べり子とミウミウがやってきた。  
しかし、そこに藤原の姿はなかった。  
「あれ〜。コロスケはどこ行ったの?」 ベリ子は東に問い掛ける。  
「あれ、さっきまでここに居たんだけどな。」  
藤原をしばらく待つ3人。しかし、やがて待ちきれなくなったのか、東がベリ子に話し掛けた。  
「ねぇ、さっき森さんの様子がおかしいって言ってたよね。」  
「ウン、最初会った時には笑顔で挨拶してくれたんだけど、その後あたちが何話し掛けても、  
ボーっとしてて何にも話してくれないんだョ。  
それにね、桃ちゃん、時々泣きそうな顔するんだョ。  
悲しそうな桃ちゃんの顔見てたら、何だかあたちまで悲しくなってきて・・・。」  
話しながらも、またベリ子の目に涙が溜まってくる。ベリ子を懸命になぐさめるミウミウ。  
桃里の様子がおかしいと言う話を聞いて、東は藤原から聞いた話を思い出した。  
「森さんもか〜。そういえば、虎呂助から話を聞いたんだけど、部長の様子もおかしいらしいんだ。」  
「えっ!?」  
それを聞いて、ベリ子は桃里が元気がない理由がなんとなくわかったような気がした。  
きっと、桃ちゃんが元気がないのは部長と何かあったからに違いない。  
だったら、二人の仲を元に戻せばいいだけのことだ。  
原因がわかったような気がして、ベリ子は落ち着きを取り戻した。  
「そっかー、ミウミウ、桃ちゃんね、ブチョーとケンカしたから、元気がなかったんだョ。  
てっきり、あたちは、モモジが危篤にでもなったのかなぁと思って、すっごく心配してたんだョ。」  
ミウミウは、ベリ子の動揺が収まったのを見て、ホッと息を撫で下ろした。  
「ヨカッタ」  
ベリ子もミウミウも、林田が桃里を意識しており、桃里の方も林田を意識し出している事に  
うすうす気がついていた。  
つまり、林田と桃里が互いに意識しあっていることは、柔道部のメンバー全員が  
とっくに気づいていることだったのだ。  
東「はぁ〜、ブチョー、一体どうしちゃったんだろうなぁ。」  
約1名を除いては・・・。  
 
一方、皮村は部室に向かっていた。さっき藤原から電話がかかってきたのだ。  
藤原も3人を教室に置き去りにして、部室へと向かっていた。  
部長に話を聞きたいから、皮村にも一緒に来るようにと電話で言ってきたのだ。  
皮村は、正直言って部室には行きたくなかった。  
空気が重いのが行く前からわかりきっているからだ。  
しかし、桃里をデートに誘うよう、しきりに林田にふっかけていたのは、他でもない。自分だった。  
「しゃーねーな。」皮村はどうやって林田を励まそうか、それだけを考えて歩いていた。  
とその時、ふと、知っている誰かが視界に入ったような気がして、頭を上げた。  
自分の目の前を楽しそうに佐藤ちえと山田の二人が歩いているのが見えた。  
近くの建物の陰に慌てて隠れる皮村。涙を流しながら、二人が去っていくのを  
しばらく呆然と見つめていた。  
しかし、しばらくしてから、ふと気づいた。  
あの二人が校門の方向に向かっていないことに・・・。  
「あの二人、一体どこに行くつもりだ?」  
不思議に思った皮村は、そっと二人の後をつけてみることにした。  
 
藤原は道場の前で皮村が来るのを待っていた。しかしなかなか皮村が来る気配がない。  
「遅いわね〜。アイツ、一体何やってるのかしら。」  
その時、遠くに桃里の姿が見えた。反射的にとっさに隠れる藤原。  
桃里は考え事をしているようで、どうやらこっちには気づいていないようだ。  
ホッとする藤原。  
 
「どうして隠れるのだ。虎呂助。」  
突然チョメジが、藤原に声をかけたので、ビックリする藤原。  
「ビ、ビックリするじゃないの。いきなり、声をかけるんじゃないわよ。」  
「ス、スマヌ。でも、あの二人と話をするのではなかったのか?」  
「確かにあの二人と話をしようと思ったけど、モリモリはどうやら部室に向かっているようだし、  
だったらまずは二人で直接話したほうがいいと思ったのよ。」  
藤原の考えを聞き、納得したチョメジ。  
何だかんだ言って、二人の世話を焼いている藤原を少しおかしく思いながらも、  
チョメジは自分にもあの二人のために何かできないかと思い始めていた。  
「虎呂助。あの二人のことだが、よかったら拙者も手助けしようか。」  
「いいわよ。どうせあんたは命をかけて愛すのだとか、そんな大げさなことしか言えないんだから。」  
藤原に図星を突かれて、チョメジは返す言葉を失った。  
 
一方皮村は、あの二人を尾行していた。一体どこに行くつもりなのだろうか?  
校舎に入っていく二人の後を、こっそりとつける皮村。(最近こんなのばっかりだな。)  
そうこうするうちに二人はやがて最上階の扉を開けて、屋上に出て行った。  
「校舎の屋上なんかに来て、一体どうするつもりだ?あの二人。」  
屋上への扉をそーっと開けて覗いて、皮村は凍りついた。  
屋上の片隅で、抱きしめキスしている二人の姿が見えてきたのだ。  
(あの佐藤さんが・・・、こんなところで・・・、キスしてる・・・。しかもディープだぁー。)  
後ろからハンマーで殴られたくらいの衝撃を受けた皮村は、フラフラになりながら  
元来た階段を下りていった。  
 
桃里が部室に入っていくのを見た藤原は、しばらく外で待っていたが、やがて雨が降ってきたので、  
藤原は武道場の近くの校舎の玄関で待つことにした。  
多分、今、部室には二人がいるだろうから、部室にはいけないし、道場も二人が出てきたことを考えたら、  
何となく居づらかった。  
(話をするつもりだったけど、実際に二人が揃ってしまったら、やっぱり何だか入る気がしないわね。)  
「結局、待っているしかなさそうね。」  
土砂降りになってきた外を、あきらめムードで眺めていると、向こうからずぶぬれになった皮村が、  
まるで捨てられた子犬のように、泣きじゃくりながら柔道場に向かってやって来るのが見えた。  
皮村は藤原の姿を見かけると、藤原の方に走ってきた。  
「オーイ、藤原〜。」  
「シーーッ、静かにしなさいよ。」慌てて建物の外に飛び出し、皮村を制止する。  
「藤原、佐藤さんが〜、ちえちゃんが〜。」  
そう言いながら雨の中で号泣する皮村。  
「この子は、また見てはならないものを見てしまったのね。」皮村を不憫に思う藤原。  
しばらく号泣していた皮村だったが、武道場の方から扉を開ける音がして、ハッと我に返る。  
「そ、そういえば林田は来ているのか?」  
「今、部室に部長とモリモリがいるわ。」  
「な、なんだってー。」  
藤原と皮村はあわてて外から、こっそりと道場の中を覗いて見ると、林田が思いつめた顔をして立っていた。  
 
「オイ、藤原、ありゃやばいぞ。アイツ、相当思いつめてるぞ。林田のあんな顔、初めて見たよ。」  
皮村は藤原にそう話すと、本気で林田のことが心配になってきた。  
その時、部室の扉が勢いよく開いて、すごい勢いで桃里が飛び出して来た。  
 
「森さん―――・・・」  
息を切らして泣いて出てきた彼女の勢いに圧倒されて、林田は絶句した。  
「林田くん・・」  
「どうしたの――森さ・・」  
桃里は何も言わず林田に抱きついた。思ったよりも随分広い胸に、桃里は額を押し付けて泣いた。  
「ごめんなさい―・・ごめんなさい、ごめん・・」  
何が彼女をそうさせたのかは全く分からないが、すっかり取り乱した桃里の様子に、林田は  
胸が痛くなり、空いた右手を彼女の頭に回した。  
さらり、と何気なく置かれた指が髪を梳いてゆくと、仄かに甘い香りが漂った。  
微かな嗚咽の音が胸の辺りでこもって、熱を帯びていた。  
「大丈夫。」  
自分でも思いがけず、そんな言葉が口をついて出た。  
何が大丈夫なのかは意味不明だったけれど、ほかに言う言葉も選ぶほど無かった。  
「とにかく入ろう、ここ寒いし。」  
そうして、林田は桃里を部室に入るように促した。  
 
その様子を外から見守る藤原と皮村。  
「オ、オイ、一体何がどうなってるんだよ。」  
ただ事ではない二人の様子にオロオロする皮村。  
しかし、  
「なによ、あの二人いい感じじゃない。なんだか心配して損しちゃったわね。」  
と何かを悟ったように藤原は話した。  
「えっ、どういうことだよ。」  
「まあ、そのうちわかるわよ。」  
藤原は、意味深な笑みを浮かべながら、皮村に話した。  
 
外はますます雨が激しくふってきた。  
近くの校舎でしばらく待機していた二人だったが、部室から二人が一向に出てくる気配がない。  
雨の音だけが響き渡る静寂の中、だんだん皮村は苛立ってきた。  
「ええーい。あの二人、全然出てくる気配がないぞ。一体何やってるんだ?」  
そう言った後でハッとなった。  
 
狭い密室の中、男と女が二人きりで何をやってる?→ナニをやってる?→ま・さ・か!!!  
 
(えー、だって中にいるのは林田と森さんだぞ? あの二人に限って、そんなことまさか。  
でも、さっきの様子は普通じゃなかったもんな。)  
皮村はこっそりと道場に入るとそっと部室に近づいて、中の様子を確認してみることにした。  
部室の扉のガラス部分に影を出さないように、しゃがみこんで中で話している会話を聞き取ろうとした。  
どうせ、中でくだらない話をしているだけに違いない。皮村はそう思い、扉に聞き耳を立てた。  
その皮村の耳に最初に聞こえてきたのは、桃里の「はぁん・・っ」という声だった。  
 
(ウッソだろ? オイ、マジでやってるのかよ!!!)  
 
自分の知っている二人が扉の向こうで行なっていることを知り、なぜかショックを受ける皮村。  
 
扉の向こうから艶っぽい桃里の声が聞こえてきた。  
 
「は・・林田くん・・」  
「・・・人が来ちゃうよ・・」  
 
(・・・もう来てます。)  
 
心の中で突っ込むも、皮村は心臓をバクバクさせていた。  
しかもその後、中から部室の扉のカギを閉める音が聞こえた。  
(えーーっ、それはこれから本格的にやっちゃいますよっていうアピールですか?)  
皮村は心の中で、思いっきり問いただしたが、その答えはすぐに返ってきた。  
その後、中から一層激しい桃里の喘ぎ声が聞こえてきたのだ。  
皮村はだんだん聞いているのが辛くなって、こっそりと部室の扉から、  
藤原のいる場所まで戻っていった。  
どうやら藤原には何もかもお見通しだったようだった。  
「ねっ、あの二人、仲良くやってたでしょ。  
今日一日、二人の心配して何だか馬鹿馬鹿しくなってきたわ。」  
藤原の話を聞いて、皮村は段々腹が立ってきた。  
「全くだぜ。あんな意味深な別れ方しやがるから、何があったのかと思って心配してやったら・・・。  
部室でファックとはいい気なもんだぜ。何だかムカついてきたぜ。」  
皮村が腹を立てている様子を見て、藤原が冷静に一言。  
「あんたは、相変わらず上半身と下半身の思考が一致しないわね。」  
そう、皮村は表情こそ激怒していたが、下の方は股間を思いっきり膨らませていた。  
 
「おい、どうするよ。これから。」  
皮村は藤原に尋ねた。  
「そうね。もうあの二人はそっとしておいてあげときましょうよ。  
あっ、でもあたしのコタツ布団汚したら、後でクリーニングに出させるけどね。」  
「意外とそういう所、細かいな、お前。」  
まあ、二人をそっとしておく分には皮村も賛成なのだが、誰かが道場に来ないとも限らない。  
「そうね、今日は業者が道場を清掃に来たってことにでもして、建物に誰も入らないようにって  
玄関に貼り紙でもしときましょうよ。」  
剣道部の人間は、今日は部活が休みでどうせ誰も来ないだろうから、心配なのは他の柔道部のメンバーと  
時々不意にふらふらと現れる老師ぐらいだった。  
「しゃあねえな。じゃあ俺が貼り紙作るよ。」皮村は仕方ないなと言った感じで、貼り紙を書き始めた。  
「全く、なんでこの俺が、あの二人のためにここまでやってやらなきゃなんないんだよ。」  
少し腹立たしく思いつつも、皮村は二人に気づかれないよう、道場の片隅に座り、立入禁止の貼り紙を書き始めた。  
しばらくは真面目に貼り紙を書いていた皮村だが、やがて桃里の嬌声が道場にも聞こえてくるようになると、  
集中して貼り紙を書けなくなった。  
「チキショー。アイツらばっかりイイ思いしやがって。」  
ふくらんだ股間を腹に当てながら、貼り紙を書きづらそうにしている皮村の姿がそこにあった。  
 
一方玄関の方にいた藤原に、傘をさして佐藤ちえと山田の二人が肩を寄せ合いながら、仲良く帰る姿が見えてきた。  
藤原は慌てて皮村のところに行き、二人の姿が見えなくなるまで、  
皮村にくだらない話をふっかけて時間を稼いだ。  
もちろん、部室に声が届かない程度の小声でだが・・・。  
「やれやれ、今日はやたら、人に気を使う一日ね。」  
この危機を乗り越えた藤原はホッとしながら、そんなことを思った。  
そしてちょうど皮村も貼り紙を書き終えたところだった。  
「藤原、貼り紙できたぞ。」  
「じゃあ、さっさと貼って帰りましょうよ。」  
藤原と皮村は、二人に気づかれないようにそっと玄関に行き、貼り紙を貼り付けた。  
 

          (`'ヽ,  _  
       ,⌒ヽ..iiii ⌒ノ  
       ヽ__,,-'''、__ン    , '~) ,、  
        `ー'( )      /''~  ノ )  
            |   ,,-/__,--("> )ミ;  
      ,、 _,, --(ヽ,()/'ー'   ̄ ''ヽノ'  
  ,,-,-,-(__ノ~ , -、,'⌒') ゚/)---=(>⌒>  
  `-'~ __, -'''ヽ__ ヽ,ノ ⌒ヽ\_,,- ,~       〜 しばらくおまちください 〜  
    /~ ノ~ /~  !!!!!ヽ--'ソ (⌒)'⌒)  
    `- (_ノ_ヽ、__.〉、__,,,)( し' ミ';';'; く  
   //(~ )、)ノ/ノi') ( `、 )人_ノ  
  /,,ノ  `-' ,-''て入,,_ ~ ~ ~  
//     <ノ( , ノ、 )  
          ~ `'`' ~ ~  

 
 
「あんたね。何よ、この意味深な絵↑は。こんなもの貼ってたら、余計に変に思われるじゃないの?」  
(第一、しばらくお待ちくださいって、何を待てって言うのよ。)  
藤原は貼り紙をはがすと、ビリビリに破り捨てた。  
「ほんの冗談だってば。」  
皮村は少し笑いながら、今度はちゃんとした貼り紙を玄関に貼り付けた。  
「さあ、さっさと帰りましょう。何だかバカバカしかったわ。」  
「でもよ〜。こんな貼り紙貼ってたら、あの二人が気がつくぜ。」  
「大丈夫よ。あんたの字、特徴ある字だから、誰が書いたかすぐにわかるわよ。」  
「それじゃ、俺がやばいじゃんか。」  
「大丈夫よ。むしろ、あんたに感謝するわよ。あの二人は。  
それに学校なんかでしてたら、誰かに見られても仕方ないってことを教えてあげないとね。」  
藤原のもっともな意見に同調する皮村。  
 
「そうだな。ったく、どいつもこいつも校内でいちゃつきやがって、学校を何だと思ってやがるんだ。」  
それは、毎日学校でエロ本を読んでいる皮村のセリフとは思えない、優等生発言であった。  
そんな皮村の様子を見て、藤原は皮村のことを心の底から不憫に思うのであった。  
 
道場の入口に入室禁止の貼り紙を貼って、さっさと帰ろうと建物を出た二人に、  
遠くから近寄ってくる3人の姿があった。  
東、ベリ子、ミウミウの3人だった。  
 
「ゲッ、よりにもよってこんな時に来るなんて。」  
藤原と皮村の姿を見かけたベリ子が、二人の方を指差す。  
「アー、やっぱり、コロスケ、あたち達を置いて、道場に行ってたョー。」  
3人が走ってこっちに向かってくるのを見て、慌てて道場から飛び出す藤原と皮村。  
藤原と皮村は3人を制止させると、近くの校舎に3人をひきずりこんだ。  
 
「どうして、あたち達が道場に行っちゃダメなんだョ?」  
不思議がるベリ子を懸命に説得しようとする藤原。  
「だ、だからね〜。今、部長とモリモリがとても大切な話をしているところなのよ。」  
「そうそう、大事なお話が終わって、二人仲良く添い寝しているところだよ。」  
皮村が半分からかい口調でボソッとベリ子に話す。  
「あたちとミウミウも、早く道場で一緒に寝たいんだョ。」  
ベリ子の背後で、大きなあくびをするミウミウは、本当に眠そうだった。  
(あんた達、道場に何しに来てるの?)心の中で冷静につっこむ藤原。  
あくまで道場に行こうとするベリ子を皮村が制止する。  
「だから、アイツらの寝るってのはベリちゃんの言う寝るとは違ってだな。  
ぶっちゃけて言うと、アイツらは今、部室でこういうことをやってるんだよ。」  
皮村はそう言うと、かばんの中に入っていたヌルヌル天国を広げて、ベリ子に見せた。  
 
「ちょっと、皮村、あんたねー。」藤原が暴走ぎみの皮村を止めようとしたその時、  
 
「う、嘘だーーーーーーー!!!。」  
 
ベリ子はまた目に涙を浮かべて、そのまま校舎の奥に走っていってしまった。  
ベリ子の声に眠気もすっ飛んだミウミウが、心配になってベリ子の後を追いかけた。  
「ちょっと、あんた、何考えてるのよ。」  
「うるせーな。ちょっと腹が立ってきたんだよ。大体アイツらのためにだな・・・」  
「ちょっと待って、皮村。」  
皮村を制止する藤原。  
「なぜだかわからないけど、いつの間にか菊がMAX寸前よ。」  
「フォッ、フォッ、フォーッ」部室のある方向を向いて、覚醒寸前の東。  
「まさか、東の奴、部室にいる、おそらく裸の林田を本能でキャッチして、メーターを上げてるのか?」  
(あの状態にあっても、東にとっては、無問題なのか?)  
ある意味、東に感心する皮村。  
「と、とにかく、止めるわよ。皮村。」  
そういうと、藤原はMAX寸前の東の顔に、皮村の顔を強引に近づけた。  
 
ベリ子は、1階の一番奥にある、誰もいない教室の前に座り込んで泣いていた。  
桃里が林田のことを好きになりつつあったことは、ベリ子も気がついていた。  
実際、林田と一緒にいる時の桃里は楽しそうに笑うことが多かった。  
そんな楽しそうな桃里を見て、桃ちゃんを柔道部に誘ってよかったと心から思っていた。  
でも、それとこれとは違う。  
ベリ子は、あのHな雑誌に載っていることと同じことを、今、自分の親友が行なっているということが、  
信じられなかった。いや、信じたくなかった。  
しばらく俯いて泣いていたベリ子だったが、ふと気がついて顔をあげると、そこにはミウミウが立っていた。  
 
「ダイジョーブ?」  
少し心配そうに、こちらを覗き込むミウミウの顔を見るや、ベリ子はミウミウに飛びついて泣き出した。  
「ミウミウー、桃ちゃんが、イケナイ子になっちゃったョー。」  
「ソ、ソンナコトナイヨ。」  
必死で励ますミウミウ。しかしベリ子の涙は止まらない。  
「でも、こんなの、あたちの知ってる桃ちゃんじゃないョー。」  
「あら、そうかしら?」  
向こうから、東を背中に背負った藤原が現れた。  
「お嬢、あなたにはまだわからないかもしれないけどね、  
男と女ってのは本当に惹かれあった時は、心も体も一つになりたくなるものなのよ。  
今、部長とモリモリが部室でやってることもそれだけのことよ。全くお嬢も大げさね。」  
「で、でもね・・・」  
「大丈夫よ。あなたももっと、モリモリのことを信頼してあげなさいよ。  
それとも部長とセックスしたぐらいで、壊れるほどの薄っぺらい友情だったの?」  
いつもよりも少しやさしい口調でベリ子に問い掛ける藤原。  
「ウウン」ベリ子は涙を拭いながら、静かに首を横に振った。  
いつもより少しやさしい藤原とミウミウの励ましのおかげで、ベリ子のショックは少し拭われた。  
 
でも、まだベリ子には一つ不安なことがあった。  
「桃ちゃんとブチョーのこと、モモジが知ったら、きっと大変なことになるョ。  
絶対ブチョーに、モモジの怒りのプロレス技が炸裂することになるョ。」  
なぜプロレス技?と思う二人だったが、しばらくしてから、モモジが伝説のプロレスラー、  
マスク・ド・ダルマンであったことを思い出す。  
そして、やたらマッチョで、鬼神のような表情をしたモモジが、部長にプロレス技(藤原はパワーボム、  
ミウミウはラリアート、ベリ子はキン肉バスター)をかけるシーンを想像して、血の気が引く3人。  
「ブチョー、死んじゃうョー!!!」べり子が絶叫すると、  
「ア、アウーーー!!!」言葉にならず、首を横に振るミウミウ。  
「モ、モモジには、本人達の口から話すまで、当分の間は、秘密にしておきましょう。」  
そして青ざめた藤原は、慌てて二人に堅く口止めをするのであった。  
 
そうこうしているうちに、玄関にいた皮村もこっちにやってきた。  
「オイ、みんな、今から道場に行こうぜ。」  
皮村のいきなりの提案に驚く一同。  
「あんた、さっきからどうしたのよ?  
今頃、あの子(佐藤ちえ)のショックが頭に来て、おかしくなったの?」  
「うるせーよ。いい加減アイツらに気をまわして、こそこそ隠れるのにウンザリしたんだよ。」  
皮村の心の叫びに少し納得する藤原。  
「そうね。確かに、あたし達は少しあの二人に気を使いすぎてたかも知れないわね。それに・・・」  
何かを思いついて、黙り込む藤原。それに気づく3人。  
 
皮村「それに?」  
ベリ子「それに?」  
ミウミウ「ソレニ?」  
 
「あたし達がもう気づいていることを、あの二人に教えてあげないと、あの二人の事だから、  
これからずっとあたし達に気を使い続けそうで、そっちの方が気の毒ってものだわ。  
だからあたし達が、あんた達二人のことはもう知ってるわよってことを、あの二人に教えるためにも、  
これから道場であの二人が部室から出てくるのを待って、思いっきり冷やかしてあげましょうよ。」  
少し意地の悪い笑みを浮かべながら話す藤原。  
しかし、  
「オーッシ、俺はその計画にのったー。でも、出てくるのを待つ必要はないぜ。  
それに時間的に言っても、もうそろそろ終わってる頃だろうしな。」乗り気満々の皮村が答えると、  
「あたちも賛成。桃ちゃんを思い切りからかってやるョ。」完全に吹っ切ったようにベリ子にも元気が戻り、  
「ボクモー」ベリ子の笑顔を見て、自然と、ミウミウの顔にも笑顔が戻った。  
「拙者も参加するぞ。」突然チョメジも飛び出してきて、いつもの雰囲気を取り戻した柔道部の面々は、  
思いっきり二人を冷やかすべく、堂々と柔道部道場に入っていった。  
ガラガラガラ・・・。わざと思いっきり大きな音が鳴るように、柔道場の扉を開けた。  
そして道場に入るや否や、部室まで聞こえるように、皆わざと大きな声で、喋りだした。  
 
「皮村〜。今日の道場、何か変なニオイがしない?」  
(本当は何もしないけどね。プッ)  
「ああ、それに、さっき道場に来たら、どっかから、生々しい声が聞こえてきたぜ。」  
「ミウミウ、セックスって大人になってからするものなんだョー。ってもう寝てるョ。」  
「ZZZZZ・・・・」  
(ベリちゃん、それはストレートすぎ)  
「虎呂助、拙者、あの閉まりきった部室が怪しいと思うのだが?」  
ドキッ、ドキッ  
「そうね、そういえば今日まだ部室に一度も入ってないわね。  
これは入って調べてみる必要があるわね。」  
「ヨッシャー、皆で部室にでも行くかー。」  
「じゃあ、みんな、行くわよ。」  
「オーーーッ!!!」  
「ちょっと待て、東がいつの間にか目覚めてるぜ。」  
「で、また、なぜか東MAXが・・・」  
「フォーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」  
「・・・・・まっ、今日は、自業自得だな・・・。」  
「よーし、今日は皆、菊に続くわよーーー!!!」  
 
ドタドタドタドタ・・・。  
 
こうして、伊出高柔道部はいつもの雰囲気を取り戻したのであった。  
で、この後、林田と桃里の二人がどうなったかは・・・・。  
 
                                  (END)  
 

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