「先生さぁ、これじゃあいつまで経ってもカノジョできないよ?」  
「うっせーほっとけ!」  
 
夏休みも終盤。9月間近だというのに全く秋を感じさせない猛暑にうだり、傘は冷房のきいた部屋でネットゲームを興じていた。  
そこに不意に現れた襲撃者、もとい教え子である上下山虎子(1-6随一の問題児だ)は部屋を物色しては文句をつける。  
「ねーねー。えっちぃ本とかないの?」  
「うっわ、なにこのカップラーメンの山」  
「アタシにもネトゲやらせてやらせて!」  
 
休日に女生徒が教師の家に一人で遊びに来る。  
多くの男性には夢のようなシチュエーションかもしれないが、相手はあの上下山虎子だ。  
初めての出会いの際に腹パンチを決め、買ったばかりの携帯をへし折った、1-6にいる数々の問題児の中心ともいえる人物なのである。  
傘が自分に降りかかった災厄を呪っていると、不意に奇声が聞えた。  
 
「おおおおーーっ、ね、コレひょっとして夏休み明けのテスト?!」  
「あ、こら馬鹿!見んな触るな!」  
「へっへーん、ちょっと見ちゃったもんねー」  
「おまえなぁ!もう帰れよ!」  
「ヤダよお土産分は遊んで帰るもん」  
「この土産返すから、な?!」  
「だーめ。あ、そうだった、お土産食べようよ先生」  
 
 
――これだ、この笑顔。  
こいつはこの笑顔が曲者なんだ。今まで何度騙されてきたことか。  
そう思いつつも溜息一つで立ち上がると台所に向かった。  
 
スプーンを2つ取り出し戻ると、虎子はどこから発見したのかAVのパッケージをまじまじと見ている。大きな2つの瞳を更に大きく開いて、まじまじと。  
ひぃいいいいい、と声にならない叫び声をあげながら慌ててAVを取り上げる。  
「ちょ、マジやめてやめて触らないでー!!」  
「ご、ゴメンナサイ……」  
「おおおおまえなぁ!マジやめろよじっとしてろ!」  
「だ、だからゴメンってば……」  
 
先ほどまでの元気が消え、虎子はしゅんと座り込む。  
やることなすこと無茶苦茶な少女だが、やはりまだ16歳の子供だ。刺激が強かったのか顔が真っ赤に染まっている。  
それに比べて自分はなんと汚れた大人か。羞恥心から怒鳴ったことを少し後悔する。  
頭をかきながら虎子の土産であるカップアイスとスプーンを渡す。  
 
「ったく……、ホンット無茶やるな、おまえ」  
「だ、だって、ホントにえっちぃのがあるとは思わなかったんだもん!」  
「大人はみんなそういうの持ってるの!分かったか?」  
「……ハイ」  
「ついでに一人暮らしの男の家に気軽に遊びに行くな!なにされても文句言えねーぞ?」  
「……ハイ」  
「分かったらこれ食べてとっとと帰れ」  
 
カップアイスは少し溶けかけていた。虎子の顔はまだ赤いが、黙ってアイスを味わっている。  
この妙な雰囲気はどうしたものか。傘は頭を抱えたくなった。夏休み明けでこれをネタにされることは必至だからだ。  
どうやって口止めしたものか。いやこいつ相手に口止めは無理か。  
傘が必死に考えていると、虎子はおずおずと口を開いた。  
 
「あ、あのさっ」  
「あん?」  
「せ……せんせい、も、そういうこと、するの……?」  
「そういうこと?」  
意味が分からず問い返す。虎子の顔はまだ赤い。  
 
 
「ア、アタシとっ、その、そういうこと、したい…って思う……?」  
 
 
 
傘の頭の中で虎子の言葉がぼんやりと響く。クーラーはきいているはずなのに、汗が出てきた。身体が熱い。  
暑さでおかしくなったか。こいつ今なんて言った?  
 
「……わ、悪い、聞えなかった」  
 
「だっ、だから!男の人ってそういうことしないと溜まっちゃうんでしょ?先生カノジョいないし、た、溜まってんのかな、って」  
「そういうビデオみるよりは女の人とした方がいいって兄ちゃんが言ってたし……」  
「今日のお詫びに、その、……してもいい、よ」  
 
矢継ぎ早な言葉に傘の思考は停止した。やばいこれ本当にそういう話なのか。  
休日に女生徒が教師の家に一人で遊びに来る。今になってこの状況を思い返す。  
遠くで蝉の鳴き声がうるさい。思考が再開しないのはPTAの所為でも脳裏にちらつく淫行罪という言葉の所為でもない、蝉の所為だ、きっとそうだ。  
完全停止している傘の目前に虎子の顔が迫る。虎子は両手で傘の右手を掴むと、そのまま自らの胸にあてがった。  
 
「ね、せんせい……しよ?」  
 
 
残暑の厳しい8月の終わり。  
少女は教師の家に一人来襲。自らの膨らみに教師の手をあてがい、どでかい爆弾を投下した。  
 
 
「ね、せんせい……しよ?」  
 
 
それは虎子にとって精一杯の性的アプローチ。勿論そんなことをするのは初めてだ。  
兄の持つ猥雑なビデオや本で得た付け焼刃の知識をフル活用させる。  
 
「〜〜〜〜〜っ!!!バカバカおまえまじ勘弁して!!」  
 
確かな感触に傘の思考が再び動き始める。まずいまずいまずい。ホントにまずい。  
ガバッと身を引くが、虎子はぷぅっと頬を膨らませて再び傘に迫る。  
潤んだ瞳。赤く染まった頬。惜しげもなく晒されている細い手足。そのどれもが傘の目を奪っていく。  
 
「なんでよ、いーじゃん」  
「よよよくねぇ!おまっ、ちょ、離れろ!」  
「かわいい女の子がここまでしてんのになんでさー!」  
傘が狼狽している姿がおかしい。  
人は他の人間が慌てていると案外冷静になるものだ。虎子は本来の調子を取り戻しつつあった。  
一方の傘はますます狼狽していく。『PTA淫行罪PTA淫行罪…!!!』と繰り返し心の中で呟いて理性を引っ張り出す。  
しかし虎子は傘の首筋に両腕を絡ませる。視線が、吐息が、鼓動が近い。――傘の耳には、もう蝉の鳴き声も自らの心の呟きすらも聞えなくなってきた。  
 
「……先生、煙草くさい」  
「……上下山、ね、頼むから降りろ離れろやめて」  
「やだ」  
 
虎子は瞳を閉じ、傘の唇に自らの唇を重ねた。触れるだけの柔らかなキスが何度か降る。  
その感触に傘の思考が再度ショートした。思わず虎子の唇を開かせ、自らの舌を強引に割り込ませる。  
「……ん、ぅ、」  
か細いうめき声に僅かな水音。傘の身体と思考が背反する。抱きたい。離れたい。もう分からない。  
おずおずと小さな舌が反応を見せる。虎子なりに応えようとしているのだろうか、互いの吐息が絡まりあう。  
うめき声すらも飲み込むかのように、互いの唇を貪る。  
その息苦しさから顔を背けようとする虎子をみて、傘は現状を再確認した。パッと唇を離す。  
「わ、わるい……」  
自らの膝の上に座る虎子の顔を見上げると、唇から垂れる唾液を拭きながら、肩で息をしている。  
その小さな姿に再び罪悪感が過ぎる。  
「だ、大丈夫か」  
「へ、へいき……ぜんっぜん、大丈夫」  
 
「……なぁ、上下山。もうこれ以上は俺もやばい。俺だって一人の男だ。おまえに何しでかすか分からない」  
傘は虎子の前に正座した。虎子も倣って正座する。  
「クビが怖いとかそんなんじゃねーんだ。おまえを傷つけるのが怖いんだよ」  
 
 
この少女に自分の欲望をぶつけるのが怖かった。  
どこまでも無邪気で、自分に素直に生きるこの少女を汚したくなかった。  
欲望のままに少女を抱き、失望されるのが恐ろしかった。  
 
――いや、勿論バレたらクビだなという現実問題も先ほどから脳内をちらついてはいるのだが。  
 
 
「大丈夫だってば、誰にも言わないし、さっきのは、その…ちょっとびっくりしただけ!続き、しよう」  
「上下山、俺の話を聞け」  
「……アタシだって、誰にでもこんなことしないもん。せ、先生だから、したいんだってば……」  
 
小さな声だが、確かにその言葉は傘の耳に届いた。その言葉にまじまじと虎子を見る。  
こんな時でも虎子の瞳は真っ直ぐだ。目を逸らすこともなく、傘を見つめている。  
あぁ、そうだ。この少女に俺は勝てないんだ。初めて会った時からそうだったじゃないか。  
傘の葛藤は少しずつ揺るいでいく。自分はロリコンだったのかと自嘲しながらも、虎子に向き合う。  
 
「……どうなっても知らねーぞ」  
「……いいよ、先生。キモチよくして」  
 
今度は傘から口付ける。PTA?高校教師、教え子に淫行で逮捕?そんなの知るか。葛藤を追いやり、虎子を抱き寄せる。  
虎子は「あっ、そうだ」と小さな声を上げると自らボーダー柄のポロシャツを脱ぎ捨てた。その行動に傘は再び固まる。  
「お、まえなぁ……」  
「へ、なに、もしかして先生脱がせたかった?」  
あっけらかんとした虎子の言葉に、何で俺はここまで振り回されて悩んでいるんだという沸々としたやり場のない怒りが込みあがる。  
それなのに小さな花があしどられた薄い水色の下着に興奮している自分が恨めしい。  
傘が今まで相手にしてきた女性たちと、虎子はどこまでも違う。身体も思考も態度もなにもかも。  
 
傘の視線を感じたのか、虎子は気まずそうに口を開いた。  
「……ち、ちっちゃい、かな」  
「あ?」  
「その、アタシの胸…そりゃスズよりはあるけどさぁ、アタシの周りっておっきい子が多い気がして」  
大場湊兎や能乃村歩巳といった少女よりは確かに虎子の胸は小さかった。未発達というわけではないが、比べる相手が悪い。  
「……別に。普通じゃねーの」  
「ウソだ!だってさっきの先生が持ってるビデオ、巨乳の女の人だったもん!」  
「う、うっせーよ!」  
「どうせ先生だっておっぱいおっきい子の方がいいくせにー!」  
「そりゃ小さいよりは…ってバカ!言わすな!」  
「む〜〜〜」  
 
恨めしそうに傘を見上げる虎子だが、突如にんまりと笑った。傘の耳元で囁く。  
「せんせ、……おおきくして?」  
思いっきり甘えた声はもはやあざといとすら言えたが、傘は不意を突かれた。思わず反応してしまう。  
「どこでそういうの習うんだ」  
「兄ちゃんが教えてくれた。ホントに役立つ時がくるもんだなー」  
悪戯が成功した子供のようにケラケラと笑う虎子。大人の男として何とか主導権を握りたくて、傘は虎子の首筋に唇を這わせた。  
「はわわっ」  
「……おっきくしてやるよ」  
再度虎子の身体を引き寄せ、その膨らみに鼻先を押付ける。  
鼓動が早鐘を打っているのに気づき、傘は内心笑った。なんだかんだでガキなんだよな、こいつは。  
「せ、せんせい、」  
挙動不審に虎子の瞳は泳いでいる。大分余裕はなくなっているようだ。構わずホックを外し、乳房を露にする。  
掌に収まるサイズのそれは、傘の掌に馴染んでいるように思えた。案外これくらいが本当にいいのかもしれない。  
理性なんてとっくに消え失せていた。その突先を口にしながら虎子を床に押し倒す。  
「ひあっ…んっ」  
音を立てて吸い上げると、ビクッと反応を見せる。 それに気を良くしてだんだん硬くなってきた突起を舐りながら、内股を撫でる。  
虎子は思わず反射的に足を閉じようとしたが、それを許さず強引に足を開くとショートパンツを脱がせる。  
「やっ、ぅああ」  
虎子は羞恥のあまりか両腕で自分の顔を覆ったため、その表情は見えない。  
 
 
――大胆に自分から脱いでみせたかと思えば、急に少女らしい恥じらいを見せる。  
その2極のアンバランスさに傘は麻痺していく。  
 
「……んあっ、あ、っ」  
初めて与えられる快楽に虎子の息は絶え絶えになっている。指先が震えている。  
下着を剥ぎ取り、彼女の秘部を責め立てる。既に蜜を流す入り口を舌で味わう。  
「だっ駄目、そこ、汚いっ――」  
その抵抗する様子を無視してあえて水音を立てて舌先を彼女の中に挿れた。  
「ゃ、やだやだっ、駄目だってば、これやだ…ッ、ぁああ……ッ!!」  
一際大きな声が響く。腰がはねる。虎子の目に涙が滲んでいるのを見て、とっくに失せたはずの理性が再び顔をみせる。  
それでも平静を装って虎子の目じりをぬぐった。  
「……大丈夫か?」  
「……う、ん、――…びっくり、した」  
「しんどいならもうやめるか?」  
「や、やめない、最後まで、して」  
「だけどおまえ」  
「先生だって、このままじゃキツイんでしょ?アタシなら平気だから、ね、最後まで――しよう?」  
 
 
覚悟が足りないのは自分の方なのかもしれない―――傘は思った。  
こいつはとっくに覚悟を決めているのだ。初めての行為に戸惑いながらも、傘を受け入れる覚悟は出来ている。  
処女のくせにどういう神経をしているのかと、改めて上下山虎子という人物の不可解さに驚く。  
 
 
傘は小さく息を吐くと、着衣を払い自らのそれを取り出した。  
自己主張のやたら激しいそれに虎子の視線は釘付けになっている。  
虎子の驚いた表情に少し気恥ずかしくなって、誤魔化すようにその身体に覆い被さる。  
「……挿れるぞ」  
「う、ん」  
ぎゅっと目を瞑った少女に初めて愛おしさが沸いた。滅茶苦茶に犯したい、掻き混ぜたいという欲望をどうにか抑え付ける。  
「力、抜いとけよ」  
「は、はい」  
先端を入り口に触れさせると、既にそこが熱く疼いているのがわかる気がした。  
「力抜けって……」  
擦れた声でそれだけを言うと、何度か入り口を先端で撫で上げ――一気に中に挿れた。  
「ぁあああああッ――!!」  
虎子の口から今まで聞いたことのないような悲鳴が上がる。その口元には涎が垂れている。  
傘はその涎を自らの舌で拭き取ると、奥へ奥へと更に挿れていく。その度に上がる嬌声。  
「ひ、んあッ、やああ……せんせ、せんせ、ッ――!」  
「上下山…力抜けっ、」  
「ぁ、ぁ、あっ、ッぁ―――!」  
傘が自らの欲望を吐き出すと、虎子の身体は一瞬電流でも流れたように震え、ぐったりとなった。  
 
 
 
「くしゃんっ」  
可愛らしいくしゃみが部屋に響く。その後でずるずるという(可愛らしいとはいえない)鼻水をすする音も。  
傘は横目で虎子を見ると、ティッシュを寄越した。  
「お、ありがと。あーぁ、風邪ひいたかも」  
「………」  
「冷房の中でマッパはまずいよねー」  
「………」  
「汗かいた運動の後はちゃんと後始末しなきゃだったかな」  
「………」  
 
無言を貫き通す傘に、虎子は膨れてみせると背中にしがみついた。  
「なになに〜?センセ、ひょっとして責任感じてたり?」  
「あぁもううっせーなおまえ!ちょっとはこっちの気持ちにもなれ!」  
「気持ちって?……例えば、教え子犯しちゃった先生の気持ち?」  
「だーあー!!!」  
「うそうそ、冗談だってば、怒んないでよ」  
「おまえが言うと冗談に聞えねーんだよ!」  
「だって冗談じゃないじゃん」  
「………」  
虎子の言葉に傘は頭を抱えてもがいている。虎子はその頬に軽く口付けた。  
「だ、か、らぁー、誰にも言わないってば」  
「俺の道徳観・倫理観が崩れてく……――もう来学期から学校行けねーようわああっ」  
「だーめ。ちゃあんと来てね。こないとバラしちゃうよ〜?」  
 
いつもの悪戯っぽい瞳で笑うと、虎子はすっくと立ち上がり窓を開けた。一気に暑さが部屋に充満し、蝉の鳴き声が響く。  
「……来学期、楽しみだね。また学校でしようね」  
「あぁ?!」  
「あーぁ、この暑さの中帰るのだるっ」  
「おまえマジ学校で言うなよそういうこと!」  
「う〜〜ん、またえっちしてくれたら考えてあげよっかなー」  
「なあっ――?!!!」  
 
 
 
 
―――夏の終わりの訪問者に、教師叶一狼は来学期も狂わせられることは間違いないようだ。  
 
 
 
 
 

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