「もうすぐクリスマスだねぇ…。」  
「街もイルミネーションで飾られて…。」  
「ただ、その前にテストという現実。」  
「「ダーリン、夢がな〜い!」」  
よこの二人に突っ込みを食らうが、それすら幸せな12月。  
もうすぐクリスマスなので、街はそれ一色だ。  
赤い服来た人が店の前で客寄せしていたり、トナカイの着ぐるみが歩いていたり。  
「いや、二人みたいに余裕ないし、テスト。」  
「でも、成績上がってるんでしょ?」  
それはそうだが、気を抜くと直に落ちてしまう。  
「俺は、薫子ちゃんや菫子ちゃんみたいに優秀じゃないんで。」  
「何だか嫌味な言い方〜…。」  
「そんなに優秀でもないよぉ…?」  
常に学年トップ20に入っている人の何処が優秀じゃないと?  
「高校に入ってあんまり10位以内に入った事無いし…。」  
「テニスも私達より上手な人居るし…。」  
「まあ、高校にはいろんな人が居るからね…人数も多いし。それで、それだけの成績なら充分優秀だよ。」  
俺も頑張らないといけないな…とため息をつく。  
「ところでダーリン。」  
「24日はどうするの?」  
「ん〜…どうしようか?」  
とりあえず、一緒に過ごすことは前提。  
恋人同士だからというよりは、昔からそうだった気がする。  
「だったらさ、中央広場に行かない?」  
「中央広場って…ああ、あれか…。」  
「そうそう、あれあれ!」  
この街の真中に丸い大きな広場があって、クリスマス・イヴにはそこを中心とした商店街が賑わう。  
今年は、クリスマスの為に中央に大きな木が植えられ、クリスマス・イヴに初めてライトアップされるというので話題になっている。  
「それのせいか、周りの飾り付けも今年は凄いらしいよ?」  
「すっごくキレイなんだろうね〜。」  
「じゃあ、それで決まりかな?」  
二人は嬉しそうに微笑み腕を絡める。  
「その前に、二人ともテスト勉強手伝ってくれない?」  
「いくらで?」  
「…一生分の俺の愛で。」  
「あはは、いいよ。私たちがみっちりしごいてあげるv」  
あとは、プレゼントか…と二人を見た。  
 
「ん〜…菫子ちゃん、どれがいいかな?」  
「これなんか良いんじゃない?」  
「でも、派手じゃないかな?」  
「ダーリンなら大丈夫じゃない?」  
二人は洋服売り場でなにやら選んでいるようだ。  
「本当なら、自分で編んでみたかったんだけどね…。」  
「もうちょっと練習が必要だよね…。」  
会話をしつつも、掛かっている服を手にとっては、う〜ん…と考えている。  
「来年こそは…。」  
「そうだね…来年こそは!」  
二人は顔を見合わせてふふふと笑う。  
二人で居るのは楽しい…二人で大好きな人のことを考えるのはもっと楽しい…。  
これから先も…そうやって笑う事ができればどんなに幸せだろうか…。  
「あ!ねぇねぇ、これは?」  
「ん〜うん、良いと思うvっていうかこれっきゃない!」  
それは、黒い太いラインが斜めに入ったセーターで、菫子は同じものを三着手にとるとレジへ向かった。  
「あ、菫子ちゃん…もう…せっかちなんだから…。」  
その時、薫子の目に一組のカップルの姿が目に入った。  
先ほどから何組も居たのだが、菫子と話していたせいで特に意識はしなかった。  
「普通は…ああなんだよね…。」  
普通、カップルと言えば一対一…自分たちが変わっているのは分かっている。  
大好きな人がいて…その横に自分がいて…でも、もう一人は居ない。  
もしかしたら、居ないのは自分の方かもしれない…。  
「そんなの…ちっとも楽しくないよね…。」  
周りがどうであれ、自分たちは三人一緒がいい…。  
「…薫子ちゃん?」  
菫子に呼ばれはっとする。  
「どうしたの?なんか考え込んでたみたいだったけど。」  
「ううん、何でもないの。」  
「そう?」  
 
二人はデパートを出て、中央広場にいた。真中には話題の木があった。  
「菫子ちゃん…。」  
「どうかしたの?」  
「さっきね…ちょっと考えてたんだ…。」  
「何を?」  
「…ほら、私たち三人で付き合ってるじゃない?」  
その言葉に菫子は黙って頷いた。  
本当は、男と女一人ずつ…それが普通の形。  
「それが、正しいのかどうか分からないけど…それ以外考えられないんだ…。」  
「そうだよね…。」  
何となく予想していたのか、少し笑いながら菫子は言葉を続けた…  
「結婚とか…子供とか…どうなるか正直わかんないけど…三人が良いよね…。」  
「私たちはそれがとっても幸せ…でも…ダーリンは?」  
二人は暫く沈黙していたが…先に口を開いたのは菫子だった。  
「なんだか…何にも考えてなさそうだよね…v」  
「えっ…?」  
「だってさ、『俺は考え込むのは苦手だ』とか言ってるし。」  
「そういえば…そうだね。」  
「だから、信じるしかないと思う…あの人が私たちのこと信じてるように…。」  
こんな時、双子に生まれてよかったと思う…。  
一人では超えられない壁も、二人なら簡単に超えてしまえるから…。  
「菫子ちゃん、ありがとv」  
「いえいえ、どういたしまして。」  
二人は、再び顔を合わせて笑いあう。  
「そうだ、家の飾り付けに使うお花でも買っていこうか?」  
「そうだね、そこにお花屋さんあるし。」  
二人はそこで花を買い帰路についた…。  
 
「ありがとうございました〜。」  
尊は笑顔であいさつをし、花を買っていった双子の少女を見送った。  
「流石に、人多いですね〜。」  
「そうだねぇ…クリスマス前は毎年こんな感じなんだけど、今年は特にかしら…。」  
「やっぱり、あの木…でしょうか…。いらっしゃいませ〜。」  
尊は相手が注文してきた花を取り、包装する為に奥へ持っていく。  
「いつもいつも悪いわね…。」  
「気にしないで下さい、楽しんでやってますから。」  
包装した花を客に渡し笑顔で挨拶をする。  
「それに、あの二人と出会えたのもここのお陰ですし。」  
そう言いながら、近くにあった白い花を手に取る。  
「最近、あんまりあの子達見てないけど、どうかしたの?」  
「いえ、学校帰りには会ったりしてますよ。ただ、する事があるみたいで、夕方は家にこもってるみたいです。っと…いらっしゃいませ〜。」  
一息つく暇もなく接客に移る。店長も別のお客様の相手をする。  
何時の間にか、花は殆ど売り切れていた。  
「少し早いけど、閉店かしらね。あとは、私がやっておくから先にあがって良いわよ。」  
「いえ、手伝います…。」  
「何を言ってるの、貴方も色々と準備があるんでしょ?」  
尊は、何処か見透かされているような気がして苦笑した。  
「じゃあ…お先に失礼します。」  
「あ、本当に24日は良いのかい?」  
「はい、多分夕方からになると思うので…それでは…。」  
尊は店を後にして歩き出す。空を見上げれば一面に星が広がっている  
「もう、こんなに経つんだね…。」  
あの時もこうやって空を見上げたような気がする…もっとも、その時とは色々と違っている。  
「今ごろ何をしてるのかな…。」  
 
「あれ…?沙羅ちゃんそこ…ずれてない?」  
「え、嘘…?ホントだ…またやり直しか…。」  
沙羅は手に持っているものを少し解いて毛糸に戻す。  
「こんなので間に合うのかな…さっきから失敗してばっかりだし…。」  
「大丈夫だよ、沙羅ちゃん。頑張れば間に合うよ。」  
双樹も同じように手を動かし、毛糸を形にしていく。  
「でも、こんなに大変だなんて…。」  
「それは、しょうがないよ…私たち初めてだし。」  
二人で話しつつも手は休めない。ぎこちない手つきだが確実に完成に近づいていっていた。  
「おにいさん、喜んでくれるかな…?」  
「当たり前だ!双樹がこんなに頑張ってるんだ。喜ばない奴なんていないよ。」  
「沙羅ちゃんも頑張ってるよね。」  
双樹にそう言われ沙羅は顔を赤らめる。  
誰かの為に…それも異性の為に、こうやっている自分がいると思うとなんだか恥ずかしい。  
「私は…私は…その…。」  
「私は…何?」  
沙羅の声がボソボソと小さくなっていく、双樹はふふっと笑って作業に集中した。  
沙羅は相変わらず何かボソボソと言っているが、その手は止まることなく動いている。  
暫くそうしたあと、沙羅はふと双樹を見る。  
「………」  
真剣な双樹の表情を見ると、嬉しく思うと同時に寂しくもあった。  
小さい頃から、双樹は自分が守るのだと…そう思って生きてきた。  
けれど、尊と出会ってから双樹は変わっていった…少しずつ…少しずつ…。  
そして…双樹だけでなく…。  
「私も…だよな…。」  
思わず口にしてしまい慌てて目線を下げるがどうやら双樹は気付いてなかったらしい。  
なんとなくホッとして作業を進める…。  
「あ…」  
「どうしたの?」  
「…また間違った…。」  
 
作業を終えて、二人は一緒にベッドに入っていた。  
「沙羅ちゃん…。」  
「どうした?眠れないのか…。」  
「色々と考えちゃって…あんまり…。」  
「…アイツのことか?」  
「うん…。」  
沙羅はため息をついた。  
好きなのは良いがこういうのは少し困る。  
「ちゃんと寝ないと、体調崩しちゃうよ…?」  
「うん…分かってるんだけど…。」  
双樹にはそういったものの自分も同じようなものだ。  
「…今ごろ何してるのかな…。」  
「何してるんだろうね…。」  
「花に水やってるとか?」  
「お花に『今日も元気だったか?』とか話し掛けてたりして…。」  
「それは…さすがにないと思う。」  
二人はクスクスと笑う。  
「少しは双樹たちのこと…考えててくれてるかな…。」  
「うん…そうだと良いな…。いや、きっとそうだ。」  
「ふふふ…そうだよねv」  
「あいつも『双樹ちゃん、ちゃんと寝てるかな…』とか思ってる。」  
「え〜そうかな…?」  
「うん、そうに違いない、だから…ね?」  
「ふふ…沙羅ちゃん何だか嬉しそう…。」  
「な…別に…そういうわけじゃ…。」  
「ありがとう、沙羅ちゃん…おかげでぐっすり眠れそう…。」  
「そ…そうか?なら良かった。おやすみ…双樹。」  
「おやすみなさい、沙羅ちゃん…。」  
―おやすみなさい…おにいさんv―  
 
 
とある場所で双子の少女が眠りについた頃…  
「…どうしましょうかね…」  
「何、また作る気?」  
双子の少年が何か話している。  
正確には一方が考え込みもう一方が覗き込んでいる。  
「そんなに、手作りにこだわる必要もないと思うけどね。」  
「でも、買えるものも面白くないでしょう…。」  
机にはカラフルなビーズと銀線が置かれていた。  
「蒼…お前本当に凝り性だよな…。」  
「貴方も、あんまり人のこと言えないんじゃないですか…紅?」  
「俺は、手作りにこだわったりしないけど?」  
「プレゼント選びに2日かける人が何を言ってるんですか…。」  
「それは、普通だ。」  
蒼は力を抜いて背もたれに体重をかける…会話をしてないと不思議なくらい静かだ。  
「静かですね…」  
「静かだな…」  
ここには、あと二人…同居人がいた。  
しかし、高校に上がってから色々と状況が変わった為、再び離れる事になった。  
「ま…それが普通なんですけどね。」  
「遠距離って訳でもないし…。」  
二人は写真立てに飾ってある写真を見る…。  
自分たちのほかに二人、同居人だった少女たちが写っていた。  
「楽しくやっているかな…。」  
「いやいや、毎日学校で顔合わせてますよ…。」  
「ん〜そうなんだけどさ…なんとなくね。」  
「考えてるのか、考えていないのか…どちらでも構いませんけどね。」  
二人は暫く黙る…考えているのは少女たちの事だ…。  
「あ〜…年寄りくさいけど、茶でも飲むか…。」  
「そうですね…」  
と、その時…  
プルルルルル…プルルルルル…  
「電話?誰でしょうか…はい、片桐です…。」  
 
「あ…もしもし…えっと…蒼君?」  
〈あれ…ユラさん?〉  
「ごめんね…こんな時間に。」  
〈いえ、構いませんけど。珍しいですね…君から電話だなんて〉  
「ううん、何でもないんだけど…キラちゃんとお話してたら…声が…聞きたくなって…。」  
〈それはそれは…。〉  
「それに、24日のことも少し話しておきたかったし…。明日でも良かったんだけど、早い方がいいかなぁって…。」  
「ユラちゃ〜ん…私にも喋らせてよぉ〜。」  
「も、もう少しだけ…え?ううん、キラちゃんとちょっと。」  
〈キラさんも横に?〉  
「う、うん。ちょっと代わるね。はい、キラちゃん。」  
「やったw もしもし、蒼君?」  
〈こんばんは、キラさん。〉  
「あのね、24日なんだけど、蒼君たちの家に行っちゃ駄目かな?」  
〈どういうことですか?〉  
「うん、蒼君たちの家に居たとき、自分たちでご飯作ってたでしょ?大変だったけど…とっても楽しかった…。だから、自分たちで色々と作ってパーティしたいな…って思って。だめかな?」  
〈そういうことなら、全然構いませんよ。〉  
「それと、中央広場の事は知ってる?」  
〈一応、人並みほどには。一緒に見に行きませんか?〉  
「え?あ、うん!私もそれが言いたくて…ありがとう。」  
〈どういたしまして。〉  
「ん〜と…紅君いるかな?」  
〈はい、今横に…〉  
〈もしも〜し、キラちゃんかな?〉  
「うんvこんばんは、ごめんなさい、こんな時間に。ユラちゃんがどうしてもって言うから…。」  
「ひど〜い!私のせいにするなんて…!」  
〈大体の話は横で聞いてたよ。24日、楽しみにしてるよ。〉  
「うん!私たちも楽しみv」  
〈それとさ、いつでも良いからね?〉  
「え?」  
〈二人の部屋、そのままにしてあるし。いつでも歓迎するよ。〉  
「うん…ありがとう…。」  
〈もう遅いから、そろそろおやすみしない?〉  
「そうだね…ユラちゃんも横であくびしてるしw」  
〈ははは、それは大変だ。〉  
「じゃあ…ほら、ユラちゃん。」  
「ふぇ?あ…うん。」  
「「おやすみなさい…」」  
〈おやすみ〜〉  
 
「ふぅ…初めての電話…何だか緊張するね…?」  
「うん…ふわぁ…」  
「ふふふ…大きなあくび…。」  
「え?んむっ…」  
ユラは慌てて口を閉じ手で押さえた。  
本当なら寝ている時間…電話中は緊張していたせいか急に眠気が襲ってきた。  
「紅君がね…来たければいつでもどうぞ…だって。」  
「…また…一緒に暮らしたいね…。」  
一時期…大好きな人たちと一つ屋根の下で暮らした…。  
黒い瞳の少年が…朝扉を開けて「おはようございます」と言ってくれた…。  
気の良い少年が…夜扉を閉めながら「おやすみ」と言ってくれた…。  
この家でも、そう言ってくれる人はいる…けれど…違う。  
「ここ…私たちの家…なんだよね?」  
「………」  
ユラは黙って頷いた。  
そう、ここは自分たちの家…一度は居られなくなったが、また戻ってくることが出来た…。  
なのに…  
「何だか、変だね…。」  
「そうだね…。」  
大好きな人と24時間一緒に居る生活…普通なら味わうことの出来ない幸せを二人は知ってしまった…。  
それ故、普通の生活が…本来幸せであるはずの生活が物足りない…。  
「なんで…かな…?」  
「声…聞いたせいかな…?」  
「そう…かもね。」  
「会いたいね…。」  
「そうだね…v」  
キラはふふっと笑い、ユラもそれにつられて笑った。  
この状態は少しだけ寂しい…けれどその分…会う事を考えると幸せになるのだ…。  
「紅君と蒼君に、こんなに上手になったんだよっ!って見せてあげよう?」  
「うん!二人とも驚くかな?」  
紅と蒼の顔が目に浮かぶ…。  
「「ふふふふw」」  
 
時の流れは止まることなく、夜の次は朝が来る。  
そして、朝から災難にあっている少年がここに一人。  
「「起きろ〜!」」  
小柄な少女の体が宙を舞い、ベッドに落ちる。そこには、人が一人寝ていて…  
「ぐふはぁ!」  
二人分のボディーアタックをモロに食らってしまった。  
「朝だよ〜!」  
「遅刻しちゃうよ〜!!」  
「………」  
少年は答えない、二人分の攻撃を食らえば悶絶するのも仕方ない事だ。この少年、名前を翠河一馬という。  
「るる…らら…頼むからボディーアタックは止めてくれ…○づきママじゃないんだから…。」  
「うづきママ?」  
「誰それ?ママの名前はみやびだよ?」  
「…るる…せっかく伏せたのに…。はいはい、起きます…起きますから。」  
ゆっくりと体を起こそうとするが起き上がれない…。  
「るる…らら…起き上がれない。」  
「「頑張れ〜!」」  
「ど・い・て!」  
るるとららは笑いながらベッドの上から飛び降りる。  
こういったことがちょくちょくあるからたまらない…  
「らら…今日何日?」  
「え〜っと…23日…?」  
23日と言えばお偉いさんの誕生日で…  
「…なんだ…休みじゃないか…と言うより…今日から冬休みだった…。」  
なら、もう少し寝ていてもいいかと再び横になったが…  
「だめ〜!!」  
「今日は私たちとお出かけするの〜!!」  
「お出かけ〜?」  
そう言えばみやびさんがそう言っていた…  
「しょうがないな…」  
諦めておきる事にしたようだ…朝日はいつもと代わらずまぶしい…。  
 
「あ〜これ美味しそうだよ!」  
「ママ〜、これ食べたい!」  
「はいはい。悪いわねぇ…付き合せちゃって。」  
「いえ、お世話になっているお礼と言う事で。」  
一馬は、るる、らら、それにみやびさんとデパートへ来ていて、今は食材購入中だ。  
おそらく、るるとららへのプレゼントも買わないといけないのだろうが…  
「でも、みやびさん…二人にばれないんですか?」  
「だから、貴方に来てもらったの。少しでいいからるるとららの相手をしててくれないかしら?ほら…」  
そう言って、指差したのはデパートの一階によくある食事コーナー。  
そこで、二人の相手をしていろと言う事らしい。  
「るる、らら、何か食べないか?」  
「え?いいの!?」  
「食べる、食べる〜。」  
るるとららは一目散にダッシュ…そっちの方が都合はいいのだろうが…  
「じゃあ、お願いね?」  
「分かりました。 るる〜、らら〜走ると危ないぞ〜!」  
見ると、二人はどれにしようか悩んでいる。  
そこには、アイスやクレープ…ケーキなど女性好みの店から、うどんやラーメンといった普通の店も並んでいた。  
食事コーナーとはこういうものだ。  
「二人とも、何が良い?」  
「ん〜何にしようか…?」  
「…アイスクリームにしようか?」  
アイス…今は冬…。デパート内は暖房が効いている、食べている客も居る、冬に食べても構わない…。  
「クレープって食べた事ないね…。」  
「じゃあ…クレープ?」  
「…うん、決まり!」  
そのコーナーに行くと、お姉さんが営業スマイルを向けていた…。  
「おにいちゃん、いくつまで?」  
「一つ。」  
二つにしてあげてもいいが…少し多い気がする。  
「「ひとつ…?」」  
そうやって、二人でハモられても困る…悩んだ末…。  
「分かった、二人でもう一つ、半分ずつな?」  
 
「あま〜いw」  
「おいしいね、るるちゃん。」  
二人は美味しそうに食べていく。  
クレープなるものを始めて食べたが結構いける。  
「おにいちゃん、口にチョコついてるよ?」  
「本当だ、拭いてあげなきゃ。」  
「いや…自分で…」  
断る間もなく、るるとららが二人して紙ナプキンで一馬の口を拭く。  
周りからクスクスと笑う声が聞こえる…orz  
その場から立ち去りたくなるのを堪え、るるとららに話題を切り出す。  
「るる、らら、サンタクロースに何頼んだんだ?」  
さっきのみやびさんの様子からするとおそらく、この二人はサンタクロースを信じている。  
いや、実在はする。ソリに乗ったりしないだけで。  
「えへへ〜。」  
「ひ・み・つw」  
知られたくないものなのだろうか?  
「だって、言っちゃったらサンタさん来ないんだよ?」  
「プレゼント貰えないんだよ?」  
サンタクロースってそんなのあっただろうか…。  
一馬はるるとららの歳から既にサンタクロースと言うものを信じてなかったので、よく分からない。  
「じゃあさ…俺が二人にプレゼントしてあげるって言ったら何が良い?」  
「くれるの!?」  
「いや、例えばの話な?」  
参考にはさせて貰うつもりだ。  
「そりゃあ…あれだよね…るるちゃん。」  
「あれだよね…ららちゃん。」  
「決まってるんだ?」  
「「こんやくゆびわ!」」  
「こ…婚約指輪は早いんじゃないかな…?」  
まあ、二人らしいと言えば二人らしい…。  
「それに、二人とも大きくなるから直にはまらなくなるぞ?」  
「その時は、またプレゼントしてね?」  
苦笑いする一馬とは対照的に、二人ともそんな期待をもった眼差しを向けた。  
「ごめんなさい、少し手まどっちゃった。二人とも良い子にしてた?」  
そこに、買い物を終えた雅さんが来た。プレゼントの入った袋は別の紙袋でカモフラージュされている。GJだ、みやびさん。  
とりあえず、この場はどうにかなったが…何かプレゼントした方がいいかな…髪飾りなんかどうかな?  
一馬は悩むのであった…。  
 
同アパート三階おもちゃ売り場では…  
「…俺…なんでこんなところにいるんだろう…。」  
少年…鈴宮橙花は自分の居る場所を見渡す…周りにはぬいぐるみがたくさん。  
「なんでって…あの二人へのプレゼントなんだけどさ…。」  
自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟く…  
「そりゃ、アクセサリーとかも考えたよ?けど、なんかあの二人金属って感じしないんだよな〜…。どっちかと言えばこういうぬいぐるみとか…動物物系?なんか、抱いて寝てそうだし。」  
ぬいぐるみを一つ手にとって見てみる。  
「俺って今周りからどんな風に見えてんだろ…」  
ため息をつきながらぬいぐるみを棚に戻す。  
ぬいぐるみがいいと思いながらも、どうも、これだ!というものが見つからない。  
「そもそも、何で俺はこんなに真剣に選んでるんだ?」  
誰かの為にプレゼントを…自分がそんな事をしているとは…。  
「…惚れた弱みって…やつ?って…何言ってるんだろう俺。」  
ボソボソ呟いては頭を抱える…ぬいぐるみ売り場に居る事よりもそちらの方がおかしい。  
「…そっか…あえてそっちの方をプレゼントするのもありかも…。」  
何か思いついたのか、考え事をしながらぬいぐるみ売り場をあとにし、デパートも出る。  
向かったのは近くにあるアクセサリーショップ。  
「うん…ここなら何とか。」  
ぬいぐるみの方があの二人には似合いそうだが、あえて冒険させてみるのも手かもしれない。  
「う〜ん何がいいんだろ…。あんまりこういうの着けてるの見た事ないからなぁ…」  
指輪、イヤリング、ブレスレット、ピアス…あらゆるアクセサリーが所狭しと並んでいる。  
「ピアスは絶対無理だな。耳に穴あけるとか言ったらその場で卒倒しそうだし…。」  
その姿を想像し、口に手を当てクククと笑う。その予想は当たらずとも遠からずだろう。  
「指輪は…まだ早いかな。うん、まだ早い。あとは、ブレスレットか…ネックレスか…イヤリングか…。」  
再びブツブツと言いながら考え込む。どうやら性格らしい。  
「色は何色だろ…あの人たち全体的にオレンジ…赤系だからな…。」  
「贈り物ですか?」  
「…そうなると、青…いや、緑か…?」  
「あの〜お客様?」  
店員の声は耳に入っていない。因みにこの後一時間ほど悩む事になる。  
 
「いよいよ…明日だね…。」  
「明日…だね…。」  
何匹もの犬を散歩させているのは初と恋。  
預かっている犬を散歩させるのは二人の日課だ。  
「どんな服…着ていけば…良いのかな…?」  
「う〜ん…あの人…どんな服が…好きなのかな…。」  
「「…………」」  
二人はしばし考えたが…  
「なんだろうね…。」  
答えは出なかったようだ。そもそも、服の好みがあるのかどうかすら怪しい。  
「私たちが…一番…素敵だと思う…服で…いいの…かな?」  
「私は…それで…いいと思う。」  
だが、自分たちが一番素敵だと思っているのはどういう服装だろうか…。  
二人はまたそこで詰まってしまった。  
「…帰ってから…考えようか…?」  
「うん…それが良いかもね…。」  
とりあえず、二人は散歩に専念する事にした。  
二人が散歩しているのは公園の中だが、よく見ると申し訳程度に飾り付けしてある。  
「クリスマス…だもんね…。」  
「うちも…何か…飾り付けした方がいいのかな…?」  
「…あんまり…灯りとかつけると眠れない子とか…いるかも…。」  
「じゃあ…少しだけなら…?」  
「…少し…なら大丈夫かも…。」  
「帰ったら…飾り付け…してみようか…?」  
「うん…パパにも手伝ってもらわなきゃ…。」  
そんな事を話しながら、歩いていると…  
「ああ…!!」  
「あ…あの人…」  
二人の視界に、橙花が入った…  
 
「…もう少しボリューム下げたら…?俺が恥ずかしかったよ…。」  
「ご…ごめんなさい…。」  
「慌てちゃってて…。」  
突然の事にパニックになった二人は、かなりの大声で呼んでしまった。  
「なに?散歩中?」  
「はい…」  
「運動不足になると…いけない…ので…。」  
幸か不幸か、せっかく会う事ができたので二人は思い切って聞いてみた  
「あの…貴方は…その…」  
「どんな…服装が…好み…なんでしょうか…?」  
「服装…?」  
「「はい…。」」  
「…別に何でも、TPOにあってれば何でも良いんじゃない?なに?服選びで困ってるの?」  
「…はい…どんな服を着れば…いいか…。」  
誰の為に服を選ぶのかこの二人はしっかり頭に入れいるのだろうか…?  
「別にいつものやつで良いんじゃない?」  
「いつもの…ですか?」  
「そう。無理しても、笑いの種になるのが関の山。」  
「笑いの…種…。」  
こういう人だとは分かっていたが、そう言われると流石にショックだ。  
「ようは、元が良いんだから、あんまり飾る必要はないってこと。」  
「…それは…」  
「ま、馬子にも衣装って言うくらいだし、頑張ってみるのも良いんじゃないかな?」  
「馬子にも…衣装…。」  
「大丈夫、誉め言葉。じゃ、俺はこの辺で…また明日ね、千草さん。」  
それだけ言うと、橙花はその場を立ち去った。  
「また…あした〜…。」  
「…初ちゃん…」  
「なぁに?」  
「誉め言葉…だったっけ…?」  
「………微妙…だよね…。」  
 
そして…ついに24日となった…  
「ありがとうございました〜。」  
中央広場の一角、尊は相変わらず花屋のバイトに勤しんでいた。  
「いよいよ、今夜ですね…。この木がどれ位綺麗になるのか…。」  
「そうねぇ…。それにしても、本当に良いの?」  
本当なら、二人の恋人がいる尊はこんな事をしている場合ではないのだが…  
「いえ、大丈夫です。夕方からって言ってきたの、沙羅ちゃんたちのほうですし。」  
「そう?でも、夕方からは私一人でいいから…。」  
「すみません…気を遣ってもらって…働かせてもらってる側なのに…。」  
「いいのよ、気にしなくて。貴方のおかげで売上は絶好調なんだから。」  
「そう言ってもらえると、働き甲斐があります。」  
お客様に言われた花を花束にし渡す…その作業を繰り返すうち少しずつ日は傾いていった。  
「さて…そろそろ上がっていいわよ…。あの娘たちも来たみたいだし。」  
「あ…本当だ…。」  
向こうから、沙羅と双樹が歩いてくる。  
「おにーさーん!」  
双樹が手を振ってきたので、自分も小さく手を振る…自然に笑みがこぼれてしまう。  
「ほら、行ってきなさい。」  
「すみません…。」  
エプロンを外し、掛けてあったコートを着て二人のところへ向かう…  
「お前も大変だな…こんな日もバイトだなんて…。」  
「こんな日だからこそ、人手が要るんだよ…。」  
「おにいさんから、お花の香りがしますv」  
「…ホントに…?…臭い?」  
「いや…どっちかと言えばいい香りだ…。」  
「なら良かった…。」  
ふと、尊は二人が手袋をつけていないのに気付いた。二人の手は少し赤くなっていた。  
「二人とも、手袋つけてないの?」  
「ああ、ちょっと急いでて…付け忘れたんだ…でも大丈夫。」  
「貸そうか?」  
「それだと、おにいさんが…。それに片方ずつになっちゃうし…。」  
「それなら大丈夫。」  
手袋を片一方ずつ預けると、それぞれの手を握り、自分のコートのポケットに突っ込んだ。  
「お…オマエ…///」  
「これなら、オッケーでしょ?」  
「ふふふ…そうですね…。」  
沙羅は照れくさそうに横を向き、双樹は嬉しそうに目を細めた。  
「暗くならないと点灯されないし、それまで時間あるからあちこち回ろうか?」  
「「さんせ〜いw」」  
 
その頃、住宅地にある民家では…  
―ピンポ〜ン  
「あ…誰か来た。」  
「きっとダーリンだよw」  
「「は〜い!」」  
勢いよくドアが開く。中から、薫子と菫子が二人一緒にでてきた。  
違う人だったらどうするつもりだったのだろうか。  
「ごめん、少し遅れちゃったかな…?」  
「ううん、全然そんな事ないよ。」  
「私たちも、少し手まどっちゃったし。」  
本当に手間取っていたのかどうかは分からないが、それほど待たせずに済んだようだ。  
「私はこっちv」  
「じゃあ、私はこっちv」  
そう言いながら、左側に菫子、右側に薫子がきて腕を組みピタッとくっつく。  
「あんまりそうやってもらっても…」  
「照れない、照れないw」  
「折角のクリスマス・イヴなんだからw」  
時折擦違う人たちの(特に独り者)視線が痛い…。  
「ま、いいか…。」  
「どうしたの?」  
「いや、こっちの話。」  
「ふ〜ん…とりあえず、何か食べない?」  
「そうしようか?お腹も空いてきちゃったし。」  
こういうときに行く、しゃれた店はあまり詳しくないのでここは二人に任せた。  
「そう言えば、新しい店が出来てたよね?」  
「ええと…イタリア…というよりパスタ料理店?」  
「そうそう、そこに行ってみない?」  
「でも、新しく出来たのなら人多いかもよ?」  
「そっか…と言ってファミレスじゃ味気ないよね…?」  
「ん〜…ダーリンは?」  
「とりあえず、そのパスタの店に行って、多かったらその後考えよう。」  
「…ダーリンっていつも…」  
「行き当たりばったりだよね?」  
「…俺、考え込むの苦手だから。」  
 
そして、ここ…千草動物病院では…  
「恋ちゃん、準備できた?」  
「うん…大丈夫…。」  
二人は時計を確認する…約束の時間まで40分ある。  
待ち合わせの中央広場までは10分とかからずに行けるのだが、自分たちの歩行速度、相手の性格等を考慮するとこのくらいで丁度良い。  
「それじゃあ、パパ…行って来ます…。」  
「おお、しっかりな!」  
「しっかりな…だなんて///」  
二人がドアを開け、家を出ようとすると門を開け誰かが入ってきた。腕に何かを抱えている。  
「すみません、こんな時間に…うちの犬が急に…苦しみだして…!」  
よほど大切な犬なのだろうか、飼い主は急いできた様子で、しかも取り乱していた。  
抱えられていた犬はぐったりとしている…それが初と恋を迷わせた。  
「こ…恋ちゃん…。」  
「ど…どうしようか…。」  
一時間半後…  
「こんな時間に…なっちゃった…」  
父親には大丈夫だと言われたがどうにもほっとけなくて結局手伝ってしまった。  
そのせいで、約束の時間をかなりすぎてしまった。  
「まだ…待ってるのかな…?」  
「分からない…もう…帰っちゃってるかも…。」  
理由を話せば少しは許してくれるかもしれない…しかしそれは、まだ待っていたらの話だ。  
それに、いかなる理由があろうと待たせたという事実は変わらない。  
こうなる前に連絡を入れておけば良かったのだが、犬のことで頭がいっぱいになりそこまで回らなかった…。  
それだけが悔やまれる。  
「とにかく…急がなきゃ…。」  
「うん…急がなきゃ…!」  
普通の人ならきっと帰ってしまっている…あの人がそうだとしても…それは自分たちのせいで文句は言えない…。  
けれど、待っていてほしい…それは、自分たちの我侭に過ぎないけれど…それでも…。  
 
「ねぇねぇ、おにいちゃん!」  
夕食の後片付けをしている一馬にるるが話し掛けてきた。  
「中央広場のツリーを見に行こうよ!」  
「うん、行こう、行こう!」  
「そう言えば、そんなのあったな…。」  
それほど興味は持ってなかったが、何かで見た記憶がある。  
「良いよね?ママ?」  
「そうね…あんまり遅くならなければ構わないわよ。」  
「「やったー!」」  
「と、言う事で、お願いできるかしら?」  
「仕方ないな…そのかわり、片付けてからな?」  
「は〜い!」  
「準備してくる〜!」  
るるとららは、嬉しそうに階段を駆け上がっていった。  
「とりあえず、食器だけでいいですか?また、後で手伝いますので…。」  
一馬が片付けを終える頃、るるとららが降りてきた。  
「終わった?」  
「今、丁度。それじゃみやびさん…」  
「はい。気をつけてね?」  
一馬は、一旦部屋に上がって、上着と二人へのプレゼントを取った。  
「じゃ、行くか。」  
「「わ〜い!」」  
外に出ると、ぼんやりと中央広場のほうから光が見えた。  
「あそこかな〜?」  
「早く早く!!」  
るるとららが両側から手を引っ張る、それだけ楽しみにしていたのだろう…。  
「(なんか、渡すタイミング逃しそうだな…。ま、明日でもいいんだけど…)」  
渡すつもりで持ってきたのだが、どうもそのタイミングがつかめない…。  
送り主不明で、枕元に置いておくのも良いかもしれない…。  
そう思った一馬は、自分も少し小走りで二人についていくことにした。  
 
「ふぅ…すっかり冬だな…。」  
「そうだね…。」  
冬は他の季節よりも星が綺麗に見える。  
しかし、今日だけは地上の光に負けてしまっているような気がする。  
「紅君の家は、飾り付けしてないんだね。」  
「まぁね…。住んでるの男だけだし。キラちゃんの家は飾り付けしてるの?」  
「うん!たっくさんのライトをつけて…ツリーも大きなもみの木を持ってきて…。」  
「…そ…そう…。」  
中央広場よりもそっちの方がずっと綺麗なんじゃないだろうかと思ったが合えて口には出さないでおいた。  
「あ…蒼君…さっきはごめんね?」  
「さっき…ああ、料理の事ですか?」  
ドアの鍵を閉めている蒼の横で、ユラは申し訳なさそうな様子で立っていた。  
「あの位のミスなら誰にでもありますよ。だから、気にしないで下さい。それに、上達してましたよ?」  
「ほ…ホント?あのね…少しでも上手になりたかったから、家のコックさんに頼んで手伝わせてもらってたの!」  
嬉しそうに話すユラの表情を見て蒼はホッとする…この瞬間が自分は一番好きだ…。  
「何話してるんだ〜?遅くなると人増えて大変だぞ。」  
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ…。」  
蒼とユラは紅とキラの背中を追う…。その時…  
「良いかな…?」  
「…ふふ、良いですよ…。」  
ユラの右手が蒼の手を握っていた…そっと…けれどしっかり…。  
「ねぇ…ユラちゃ…あ〜!」  
見事なタイミングでキラが振り向き、ばっちり見られてしまった。  
「ユラちゃんだけずる〜い!!私も〜!」  
キラはととと、と走ってくると、ユラが握っている方と反対側の手を握り…  
「ほら、紅君も…」  
前を歩く紅に向かって空いている手を差し伸べる。  
「良いの?」  
「四人一緒…でしょ?」  
紅はふっと笑ってキラの手を握る。こういう風に手を繋いでいるとなんだか子供みたいだ。  
少しだけ恥ずかしさがあるが、キラはそんなの気にならないのだろうか…。  
「むぅ…」  
向こうのお姫様は少し複雑な気持ちなのだろうか…何時の間にか両手を蒼に添え、寄り添うように歩いている。  
けれど、ここでキラが手を離しても…複雑な表情をするのだろう…きっと。  
 
中央広場では話題のツリーが鮮やかなライトで飾られ輝いていた。  
ライトの色の数も一つや二つではなく七色…虹の色だ…。  
ツリーのてっぺんには金色の星が周りの光を反射して輝いている。  
ツリーだけでなく周りの店も、何時も以上に飾られていて、人で溢れている。  
中には外で物を売っている店もあり、何だかお祭りのようだ。  
そして、ツリーを中心にしてたくさんの人がいる…。  
クリスマス・イヴなのでカップルの数がかなり多い。  
二人で手を繋いで歩いている恋人たち…  
待ち合わせに遅れたのか必死に彼女のご機嫌を取ろうとしている男…  
相手が来ないのか、時計を気にしながら立っている者…。  
当然ながら、双子もいるようです…  
 
「きれ〜い。」  
「本当、この街もよくやるぅ!」  
「電気代どのくらいかかるんだろうね。」  
「…ダーリン…冗談なんだろうけど…」  
「微妙にリアルで…夢がない。」  
「…そうかな…?」  
顔を合わせて笑う。このくらいのバランスが丁度いいのではないかと思う。  
二人が夢の世界に行きそうなところを少し引き戻す…意味があるかどうかは分からない。  
「ところで、さっきの店…運が良かったよね。」  
「うん、一ヶ所だけ空いてて、私たちが座った後から人が多くなったし。」  
「俺のおかげかな?あそこで考えてたら座れなくなってたしね。」  
「あははwなにそれ〜?」  
「そう言われれば、そんな気もするけど…。」  
実際のところ運が良かっただけだろうが…。偶然の一致と言うやつか…  
「そうだ…薫子ちゃん、菫子ちゃん、ちょっと良いかな?」  
上着のポケットからある物を取り出し、二人のそれぞれの左手…薬指にはめる。  
「「…!!」」  
二人は驚いた顔をした。取り出してから二人に見えないように、そして素早くはめたので気付くと何時の間にか…というやつだ…。その手際を見るとそうとう練習したらしい…  
「これ…。」  
「ペアリング。三人だからそう呼ぶのか知らないけど。」  
「いいの…?」  
「もちろん。」  
そう言って、残っていた三つ目の指輪を自分の左手薬指にはめて見せる。  
「メリー・クリスマ…?」  
見ると、薫子も菫子も目に涙を浮かべている…。  
「…えっと……。…うわっ」  
どうすべきかと考えていると、いきなり二人が抱きついてきた。  
「ありがとう…ダーリン!」  
「すっごく…すっごく嬉しいよ!」  
どうやらこの二人の涙腺…嬉しい事に弱い(?)らしい。  
二人の背中を優しく叩く…正直この場所でこの状況はかなり恥ずかしい。  
「…かっこ良すぎるよ…。」  
「…私たちの願い…何でもかなえちゃうんだから…。」  
願い…どうせならもう一つかなえてあげても良い…。二人は…きっとこう願っている…  
 
「うっわ〜!」  
「すっご〜い!」  
「結構凄いな…。」  
「でも…」  
「あんまり見えないね…」  
るるとららはぴょんぴょんと跳ねる。  
「…おにいちゃん…。」  
「何だ、るる?」  
「肩車して?」  
一馬は苦笑いを浮かべ固まる…果たして自分にできるだろうか…。  
「…あ〜…やるだけやってみるど期待しないように…。」  
身を屈めるとるるかららか…どちらかが乗ってきた。  
気合を入れて下半身に力をこめる…。  
「きゃはは!高〜い、すごーい!」  
「(何とかなったけど…重い…)」  
「おにいちゃん、あとでるぅにもやってね?」  
「…頑張ってみるよ…。」  
「よく見える〜。きれー…!」  
暫くららを肩車して、るるに変わった…やはり辛い。  
「さっきより良く見える〜!」  
無邪気に喜ぶ姿を見れば…いや、実際には見えないのだが、この苦労も多少は報われる。  
「ねぇねぇ、ららちゃんお願いしようよ!」  
「うん!しようしよう!!」  
「ツリーにするなんて聞いた事無いぞ〜?」  
「いいの!おにいちゃんも一緒にするの!」  
「ええ〜…」  
とりあえず、るるを下に下ろす。本当にするつもりだろうか。  
「ほら、一緒に言うんだよ?」  
「言うの?俺も?」  
「「言うの!」」  
と言われても何を願えばいいか分からない。  
「「せーの…」」  
…多分これだろう…  
 
「虹みたいだよ、沙羅ちゃん。」  
「本当だな…見に来てよかった…。」  
沙羅、尊、双樹と三人並んでツリーを見上げていた。  
「結構大きいよね…どのくらい生きてるんだろ…。」  
「オマエ、花屋のバイトしてるのに分からないのか?」  
「いや、花の種類とかは分かるけど…木の樹齢まではちょっと…。」  
「ふ〜ん、そうなのか?」  
「沙羅ちゃん…そろそろ。」  
「あ…そうだな、ちょっといいか?」  
沙羅と双樹は尊から手を離し、バッグの中から何かを取り出す。  
「「メリー・クリスマス!」」  
「ありがとう、沙羅ちゃん、双樹ちゃん。」  
「沙羅ちゃんと一緒に頑張って編んでみたんです。」  
サイズ的にはおそらくマフラーだろう…だが…  
「一緒に?」  
「ああ。半分は双樹、半分は私が編んだんだ…たぶん、どっちが何処を編んだか分からないはずだ。」  
分かっても、黙ってようと尊は決めた。  
「その時の沙羅ちゃん…面白かったんですよ?」  
「そ…双樹!」  
「へぇ…何かあったの?」  
「編みながらぶつぶつと、『あ、間違えた』とか『何でこんなに…』とか…。」  
「そ、双樹だって結構言ってたぞ!」  
「え〜そんな事ないよ〜?」  
「いいや、そうだった。」  
「まあまあ、何にしてもありがとう。嬉しいよ。じゃあ、お返し…。二人とも目を瞑ってくれるかな…。」  
尊は二人の首の後ろに手を回し何かをつける。  
「いいよ、二人とも。」  
「ネックレス…?」  
「ホントだ…雪…。」  
先には、金属でかたどられた雪の結晶がついていた。  
「雪の結晶…スノーフレークって言うよね?実は同じ名前の花があって…花言葉は…美。二人にぴったりかなって…。」  
「美…素敵ですね…w」  
「おまえ…言ってて恥ずかしくないか…。」  
尊は言葉ではなく、笑顔で答える…。  
二人はもらったネックレスを見つめる…願い事でもしてみようか…  
 
「おっそいなぁ…」  
中央広場の入り口当たりで橙花は待ち惚けを食らっていた…時間はとっくに過ぎている…と…。  
「「ごめんなさい!!」」  
初と恋が走ってきた、よほど急いでいたのか暫く下を向いて呼吸を整えようとする。  
「ほんとうに…本当に…ごめんな…さい…。」  
「こんなに…遅くなって…しまって…。」  
二時間近く遅れてしまった…怖くて相手の顔が見られない…嫌われても仕方ない…。  
そう覚悟した二人だったが…。  
「…犬か猫か知らないけど…無事だったの?」  
その人の言葉はあまりに以外だった…。  
「…え…?」  
「どうして…知ってるんですか?」  
「やっぱりね…時間過ぎても全然来る気配がないから…。もしかしたら、急患でも入ったかなって…。その通りだったんだ…。」  
「…怒って…ます…よね?」  
「いーや。そんなの、怒ってもしょうがないしね。なに?怒っててほしいの?」  
「…許して…くれるんですか…?」  
「ま、そのお陰で…クリスマス・イヴに破局するカップル見れたしね。それはそうと…いつまでも下向いてないで…行くよ?」  
橙花は自然に二人の手を引いた…そこで初めて…初と恋の目にあのツリーが写った。  
「「わぁ…」」  
「俺はさっきから見てたから、あんまり感動ないけど…ってあれ…?」  
なんだか、二人に違和感を覚える……  
「…眼鏡と…髪は?」  
そう言えば…眼鏡も掛けておらず…髪も縛ってない…  
「あの…これは…。」  
「治療の時…眼鏡を外してそのまま…髪もちゃんと直す時間がなくて…。」  
「ふうん…なら丁度いいかな…はいこれ、プレゼント。開けてみて…。」  
二人の前に小さな袋が差し出され、中には緑色のガラスのついたイヤリングが入っていた。  
「あんまり着けてるの見た事ないけど、なんか似合いそうだったし。今なら尚更ね。」  
こういうものは…あんまり着けた事ないのか…戸惑いながらも二人は着けた…  
「…うん。俺の目に狂いはないね…よく似合ってる。」  
「…本当ですか…?」  
「何だか…恥ずかしいです…。」  
少し照れくさそうに…とっても嬉しそうに二人は笑った…。  
…今はもらってばっかり…、けれど、いつか…自分たちもこの人に何かをあげられるようになりたい…  
「メリー・クリスマス」  
「「…メリー・クリスマス」」  
二人は願う…この幸せがずっと続くように…そして…  
 
「へぇ…結構豪華だな…。」  
「張り込みましたねぇ…。」  
「家のより…小さいかなぁ…。」  
「でも、色はこっちの方が多いみたい。」  
日本…いや世界でも有数の大富豪の家と比べてはさすがに酷だろう。  
「それにしても…何だか縁日みたいだよな…。」  
「流石に出店はありませんけど…まあ、祭り好きな民族ですから…。」  
蒼は周りを見る…見た目は縁日と明らかに違うが、感じ取れる雰囲気は何となく似ている。  
「毎年、家でパーティだったけど…こういうのも…楽しいね…v」  
「うん…何だかたくさんの幸せがここに集まってるみたい…。」  
中には、恨み辛みが混ざっているかもしれないが、間違ってはいないだろう…。  
「でも、クリスマス当日よりも前日の方が盛り上がるのって何でだろうね?」  
「ん〜…当日だと次の日が普通の日だから?」  
「…(週末のサラリーマンみたいですね…)…っと…。」  
蒼はユラが何か言いたげにこちらを見ているのに気付いた。  
「あの…蒼君…あのね…?」  
「どうしました…?遠慮なくどうぞ。」  
「今夜ね…その…蒼君たちの家に…泊っちゃダメかな…?」  
ユラは恥ずかしそうに顔を赤くしながら聞いた。  
「俺たちは構いませんけど…?」  
「ホント?あのね…イヴの夜に…大好きな人とずっと過ごしてみるの…夢だったから…。」  
ユラは嬉しそうにふふっと笑った。  
「ねぇねぇ、ユラちゃん、ツリーにお願いしてみない?」  
「お願いって…普通ツリーにお願いはしないよ?」  
「でも何だか叶いそうじゃない…?したらダメって決まりもないし。」  
「はははっ…確かにそんな気はするね。」  
紅は軽く笑いながら言ったそして、自分もツリーを見上げる。  
「四人一緒なら…もっと良いかもしれませんね。」  
蒼はユラとキラを見てニコッと笑う。  
ユラとキラは目を閉じて両手を目の前で握る…  
蒼と紅は何か話し掛けるようにツリーを見上げる…  
そして…四人一緒に願う…  
 
 
― 聖なる夜に ―  
― 恋人たちは願う ―  
― ずっと一緒にいられるように… ―  
 
 

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