風邪を引いた。  
よく「夏風邪を引くヤツは馬鹿だ」と言うけど、別にボクは勉強が出来ない訳ではない。  
……まあ、確かに出来る方でもないけど。  
それでも滅多な事では病気になんてかからないし、  
身体が丈夫という点は数少ないボクの取り柄だ。  
じゃあどうしてこんな季節に体調を崩してしまったのかと言うと――  
「うぅ〜……ごめんね、おにいちゃん」  
「病み上がりなのに、らら達が外に連れ出しちゃったから……」  
「いや、二人は何も悪くないよ。そもそも花火を見ようって言い出したのはボクの方だしね」  
頭の鈍痛を表情には出すまいと、ベッドの傍でちょこんと並んでいる二人の少女に笑顔を向ける。  
彼女達の名前は雛菊るるとらら。  
双子だけあって顔立ちを一見しただけでは区別が難しい。  
簡単な外見的差異を挙げるなら、ツインテールにした髪の長い方が姉のららで、  
それよりちょっと短い方が妹のるる。  
二人ともボクを慕ってくれていて、本当に良くしてもらっているのだけど――  
如何せんその心意気が空回り気味になってしまっている感は否めない。  
実際、そうして大変な目にあった事もしばしば……  
否。今となってはそれも笑える思い出だ。  
兎に角、そんな訳で今もこうしてるるとららは甲斐甲斐しくボクの看病をしてくれている。  
「でも……」  
るるとららが顔を見合わせる。  
彼女達にしてみれば、ボクがどう言おうと自責の念に駆られてしまうのは無理もないかもしれない。 
ボクがこうしているのも、  
元はといえば二人の料理に当たって体力が落ちていたところで、  
花火を見ようと外に出て夜風を浴びてしまったせいなのだ。  
だけど、さっき言った通り花火の件を切り出したのは他でもないボク自身。  
ちょっとした失敗で落ち込んでいた二人を元気付けようと思っての事だったけど、  
そうして勝手に自爆してしまっただけだ。  
るるとららに落ち度は無い。  
「デモもストライキも無し。ボクが体調管理を誤っただけなんだから。ね?」  
「おにいちゃん……」  
「うん……ごめんね、おにいちゃん……」  
「ん。分かればよろしい。  
じゃあ、ボクはそろそろ寝るから、二人とも今日はもう休んでいいよ」  
「あっ、待って!」  
ベッドに横になりかけると、るるが制止の声を上げた。  
ボクは中途半端に傾いた上体を片手で支えて首を傾げた。  
「どうしたの?」  
「おにいちゃん、晩御飯まだ食べてないでしょ」  
「あ〜……そういえば、そうだったっけ」  
今日は朝から物凄く気怠くて、遅めの朝食を取った後はずっと寝ていただけだった。  
ボクとしてはまるで食欲がわかなかっただけに、気にはならなかったけど。  
「まあ、別にいいよ。全然お腹も空いてないし」  
「えーっ、ダメだよ!」  
「そうだよ! ちゃんと食べないとダメだよ!」  
「え? で、でも……」  
「お薬だって飲まないといけないんだよ!」  
「少しは食べないと栄養だって足りなくなっちゃうんだから!」  
なかなか説得力のある言葉を二人して矢継ぎ早に飛ばしてくる。  
まあ、薬とか栄養とか、その辺りは確かに彼女達の言う通りだ。  
ここはるるとららに従ってもいいかもしれない。  
二人なりに今度はちゃんと責任を取りたいという意思もあるのだろうし。  
「分かった。それじゃあ何か簡単なものでも用意してくれるかな」  
「うんっ、任せて!」  
「すぐにらら達が作ってあげるからね!」  
待っててね、と言い残してるるとららはぱたぱたと部屋を飛び出して行った。  
その健気な後姿に自然と笑みが零れて――ふと、脳裏に蘇る。  
つい先日、思わず悶絶してしまったばかりの彼女達の料理の味が。  
「……」  
さあっと音がしそうな勢いで顔から血の気が引いた。  
 
もし今あの料理を口にしようものなら、  
下手をしたら倒れるどころの騒ぎじゃ済まなくなってしまうのでは……  
ヤバい。るるとららのあの張り切り様は何か嫌なニオイがする。  
別に二人を信用していない訳ではないけど……  
しかし、あの味は信用とか信頼とかそういうものとは別次元に置いて考えなければならないものだ。  
言わば化学兵器の域にも達している。  
水飴に蜂蜜を混ぜて作った様な甘煮や、お菓子細工の様なビーフストロガノフなんて、  
どう考えたって人間が通常食べるべきものではないだろう。  
事実、それらを平らげてしまったボクは味覚を完膚なきまでに破壊された上、  
数日も寝込んでしまった訳で……  
「う〜ん……」  
思わず唸り声が出てしまう。  
いっその事、このまま横になって狸寝入りを決め込もうか。  
うん。そうしよう。  
ボクだって何度もあんな目には遭いたくないし。  
それにまたボクの具合が悪くなったりでもしたら、あの二人は更に落ち込んでしまうだろう。  
そうだ。このまま寝てしまった方がボクの為でもあり、るるとららの為でもあるんだ。  
ボクは胸中で言い訳がしくそう思い、マットレスに身体を沈めた。  
そうして逃げる様に目を閉じる。  
が――  
『ごめんね、おにいちゃん』  
本当に申し訳なさそうに瞳を潤ませたららの顔が。  
『うんっ、任せて!』  
必死にボクの為になろうと真剣な表情をしたるるの顔が。  
『おにいちゃんっ』  
無邪気に笑いかけてくれる二人の顔が、瞼の裏に浮かんで……  
ボクはすぐに起き上がった。  
胸を抉られる様な後悔。そして凄まじい自己嫌悪。  
最低だ。どうかしていた。  
よりにもよって二人を盾にして言い逃れするだなんて。  
彼女達がボクに寄せてくれている好意を無碍にしてしまう所業じゃないか。  
「……ごめん……るる、らら……」  
嘆息と共に呟く。  
無論、返事は無い。だがそれでいい。  
るるとららなら笑って済ませてくれるだろうけど、むしろ赦免など無い方がずっと楽だ。  
そうして自分を責めながら待つこと十数分。  
部屋を戻ってきたるるとららは小振りな土鍋と薬の入った袋を抱えていた。  
「お待たせ、おにいちゃん」  
「今回はちゃーんと出来たよ」  
二人は得意げにそう言い、机の上に土鍋を置くとその中身を茶碗によそう。  
「はい、どうぞ」  
声を重ねたるるとららがプラスチックの蓮華と共に差し出してきたのは、  
見た目も綺麗なお粥だった。  
特になんの付け合せも無いのに、何故かその白さが異様に食欲をそそる。  
ついさっきまでは何も食べる気なんてしなかったのに。  
「美味しそうだね。ありがとう。るる、らら」  
ボクは茶碗を受け取り、蓮華で軽く掬ったお粥に何度か息を吹きかけてから口に運んだ。  
舌の上にほんのりと塩味が広がる。  
薄味なのはきっとボクに気を遣っての事だろう。  
病人には正しく最適な味付けだ。  
はっきり言って、かなり美味い。  
この間の激甘殺人料理は一体何だったんだと問い詰めたくなるほどだ。  
「うん、美味しい。これならいくらでも食べれそうだよ」  
ちらちらと控え目にこちらの様子を窺っている二人にボクは笑いかけた。  
その瞬間、るるとららが視線を絡ませ合いながら顔を綻ばせた。  
やはり多少は先日の件を引きずっていたらしい。  
ボクの笑顔を見て、二人は肩を寄せ合いながら身を乗り出してくる。  
「あのね、るぅがお粥にしようって言ったんだよ。  
前にるぅ達が風邪を引いた時、お母さんが作ってくれたから」  
「味付けはね、ららがしたんだよ。お塩は少な目にしたんだけど、良かったかな?」  
 
「うん。むしろこれぐらいの方が食べやすいよ。ありがとう」  
短い時間でよく成長してくれたものだ。  
ボクは感謝と感心と、そして謝罪の思いを込めてららの頭を撫でた。  
最初は少し驚いた様に固まっていたけど、すぐに薄く頬を染めて嬉しそうに目を細める。  
「あーん、ららちゃんばっかりずるーい! るぅの事も撫でてよー」  
「はいはい。るるも、ありがとう」  
不貞腐れた様に頬を膨らませていたるるも、  
その小さな頭を撫でてあげると気持ち良さそうに表情を緩めた。  
こうして見ると、やっぱり二人とも物凄く可愛い。  
何年後かには母親似の美人になるだろう。  
るるもららもボクの「お嫁さんになる」と宣言しているけど、  
果たしていつまでその想いを持っていてくれる事やら。  
所詮は子供の言う事――いま抱いている感情を大きくなっても抱いているとは限らない。  
否、むしろ子供の頃の想いなど大多数の人がいずれは捨て去ってしまうものだ。  
この二人とて、恐らくはその例外ではないだろう。  
ちょっと虚しいけど、それが現実だ。  
だからこそ――ボクは今、二人を大事にしてあげたいと思う。  
いつかボクがるるとららの思い出の住人となった時、その中で暖かい存在で居たいから。  
「……おにいちゃん?」  
「……どうかしたの?」  
「あ、え? な、何だって?」  
「何だか急にぼーっとしちゃってたよ」  
「ひょっとして、何処か痛いの?」  
るるとららが心配そうに顔を覗き込んでくる。  
ボクは彼女達の澄んだ瞳から逃れる様に手元の茶碗に視線を落とした。  
「いや……ちょっと、考え事を、ね」  
「考え事?」  
「何を考えてたの?」  
「全然大した事じゃないよ。明日はどんな天気かな、って思ってさ」  
適当にはぐらかし、笑みを浮かべる。  
いつかボクはるるとららの心の住人になるかもしれない。  
じゃあ、二人がボクの心の住人となった時、ボクは二人にどんな存在であって欲しいのだろう。  
可愛い妹の様な女の子? 遊び相手になってあげた女の子? 一生懸命世話を焼いてくれた女の子?  
――ちくりと、何かが胸を刺す。  
それでいいのだろうか。  
いつかお互いが幻影の様な存在になってしまって、それでいいのだろうか。  
「おにいちゃん。はい、お薬」  
「ああ、ありがとう……」  
ボクはるるから薬を受け取りながら、それでは治せない様な息苦しさを覚えていた。  
 
 
ふと、瞼が上がる。  
まるで細い糸が切れる様に眠りから覚めたものだから、  
一瞬、長い瞬きをしていたのだと錯覚してしまった。  
実際、るるから手渡された薬を飲んだその後の事は何も思い出せなかった。  
横になった記憶も無ければ、二人に挨拶をした記憶も無い。  
ボクは体を起こして薄暗い室内を見回した。  
既にるるとららの姿は無く、土鍋や薬の袋も無くなっていた。  
一体どれくらい寝ていたのだろう。  
傍らの目覚まし時計を見やると、文字盤の針は丁度12時を指し示していた。  
やはりそれほど長い時間眠っていた訳ではなさそうだ。  
だけど、妙に気分がいい。  
がんがん殴られている様な頭痛も、世界が遠のいてゆくみたいな眩暈も消えている。  
それに、意識もよく冴えていた。  
昼間に寝ていたからだろうか。  
そのせいかどうかは分からないけど、少しべた付く体が妙に気になってしまう。  
(夏に一日中シャワーも浴びないのは流石に良くないか……)  
一度気にしだすともう振り払う事はできなかった。  
ボクはベッドを抜け出し、月明かりを頼りに部屋を出た。  
もう眠っているであろうるるとららを起こさないように注意しながら一階に下りる。  
そのまま浴室へ行き、湯船にぬるめのお湯を入れる。  
……さて、しばらくの間は手持ち無沙汰になってしまった。  
いっその事さっさと入ってしまおうかとも思ったけど、  
ふと喉の渇きを覚えたので水でも飲みに行く事にした。  
そうしてリビングのドアを開けたところで――思わず、固まってしまう。  
もう深夜なのにも関わらず電気がついていたのだ。  
それだけじゃない。  
テーブルにはるるとららが仲良く並んで突っ伏しているではないか。  
一体どうしたのかと近寄ってみる。  
二人ともそれぞれ計量カップとボウルを手にしたまま器用に目を閉じていた。  
どうやら、明日の朝食の支度でもしている間に眠ってしまったらしい。  
この季節なら風邪を引く事もないだろうけど――  
でも、こんな格好でいたら寝違えて何処か痛めてしまいそうだ。  
「るる、らら。ほら起きて」  
その前にちゃんとベッドで寝せようと、ボクは二人の肩を揺さぶった。  
「そんな格好で眠ってちゃダメだよ。自分の部屋に行きなさい」  
「むにゃ……ん〜……?」  
「へあ……あ、あれ……?」  
るるとららが閉じた瞼を擦りながら顔を上げる。  
二人は何度か目を瞬いたした後、はっとした様に自分達が持っている物に目をやった。  
「ああ〜! るぅ、明日のご飯の準備しようとしてたのに〜!」  
「二人で起こし合おうって言ったのに……どっちも寝ちゃったみたい」  
ららがしょんぼりと肩を落とす。  
まあ、小学生が起きていられる時間でもないのだから仕方ない。  
ボクは項垂れたららの頭をくしゃりと撫でた。  
「ボクの為に色々してくれるのは嬉しいけど、無理はいけないよ。  
二人の意思と行動で手が回る範囲で構わないんだから」  
「うん……」  
「さ、早く部屋に戻りな。片付けはボクがやっておくから」  
「で、でもおにいちゃん、風邪引いて……」  
「二人のお粥と薬のお陰でだいぶ具合はよくなったからね。この程度なら大丈夫だよ」  
るる達が逡巡する様にお互いを見やる。  
そして、渋々と言うか、申し訳さそうと言うか、不承不承と言うか……  
いかにも重たそうに二人同時に頷いた。  
彼女らにしてみればボクの役に立ちたい一心だった筈だ。  
気分が沈むのも分からないでもない。  
「るる、らら」  
消沈したままリビングから出て行きかけた二人の背中を呼び止める。  
一緒に振り向いた彼女達にボクは微笑みかけた。  
「おやすみ」  
出来得る限りに意識した優しい表情が功を奏したのか、るるとららが僅かに口元を綻ばせてくれた。  
 
「おやすみなさい、おにいちゃん」  
曖昧な笑顔は何を孕んでいるのだろう。  
ボクがそれを推し量る前に、二人は扉の向こうへ消えてしまった。  
「……」  
もう見れないものを考えていてもどうにもならない。  
それに、別段気にかける様な事でもないだろう。  
ボクは二人が出した道具を棚に戻し、コップに二杯の水を飲んだ。  
まだ渇きの残滓はあったけど、  
あまり一度に取りすぎると腹に溜まって気持ちが悪くなってしまうのでそれ以上は止めておいた。  
それから浴室に戻ると、既に湯船は一杯になっていた。  
お湯加減も丁度いいぬるさだ。  
脱衣所でさっさと服を脱ぎ、湯気の昇らない浴槽に身を沈める。  
「ふう……」  
年寄り臭い、と思いつつも漏れてしまう溜息。  
汗と熱がゆっくり身体から染み出してゆくのが分かる。  
それと同時に、倦怠感と眠気がねっとりと纏わりついてきた。  
まるで母親の胎内で羊水に包まれているみたいだ。  
――勿論、その時の事なんか覚えちゃいないけど。  
とりあえず、ボクは両手で湯を掬って何度か顔を洗った。  
風呂で夢を見ながら溺死なんてオチは笑うに笑えない。  
「やれやれ……」  
ぽつりと呟き、浴槽の縁に肘をかける。  
何が“やれやれ”なのだろう。  
るるとららの事だろうか?  
自分の事だろうか?  
或いは別の何か? それとも路傍の塵の様に何の意味も無いのだろうか?  
分からない。自分でも分からない。  
否――やはり溜息と同じだ。何の意味も無い。  
ボクはもう一度顔を洗った。  
頭が変に冴えているせいで、普段なら気にもかけない事を意識してしまっている。  
こういう時は脳内を空っぽにしてしまえばいい。  
瞼を下ろして大きく息を吐く。  
そうしていると、段々ともやもやと胸の内に渦巻いていた何かが消えてゆく気がした。  
……どれだけそのままでいただろうか。  
不意に、何か物音が聞こえた。  
目を開けて浴室の中を見回す。磨りガラスの向こうの脱衣所に小さな人影が二つ在った。  
考えられる人物は、決まっている。  
「るる、それにららも。どうかしたの?」  
呼びかけると、二人はぴたりと止まった。  
しかしまたすぐに動き出す。どうやら服を脱いでいるらしい。  
「ららもお風呂に入る〜」  
「るぅもおにいちゃんと入るの〜」  
「な……! ふ、二人とももう入ったんじゃなかったの?」  
「その前に寝ちゃったもん」  
と、るるの声。  
「で、でも、今日はもう遅いよ。明日の朝にシャワーでも浴びればいいでしょ」  
「ヤだ」  
「どうして?」  
「べたべたして気持ち悪いんだもん」  
と、今度はららの声。  
ボクも同じ理由でこんな時間に風呂を使っているだけに、止めろと言おうにも格好がつかない。  
しかし――  
「だからってボクが入ってる時に入らなくても……」  
「ダメだよ! おにいちゃんと一緒じゃないと恐いもん!」  
「ららも恐ーい」  
そう言えば、るるもららもかなりの恐がりだ。  
今時の女の子にしては珍しく、オバケに怯えて深夜は一人でトイレにもいけない程に。  
いや、しかし、だからと言って……  
などとボクがごにょごにょとしている間に、引き戸が無抵抗に開かれる。  
「おっじゃまっしま〜す」  
 
まるで友達の家にでも上がるみたいに、二人とも無駄に元気良く浴室に入り込んでくる。  
ボクはその彼女達の姿を見て、思わず目を剥いてしまった。  
「る、るる! らら! 何で二人とも裸なんだよ!」  
慌てて視線を逸らしつつ、浴槽の縁にかけておいたタオルを腰に巻きつける。  
「お風呂に入るんだから裸になるのは当たり前だよ」  
「あはは、ヘンなおにいちゃん」  
「いや、ボクが言ってるのはそういう事じゃなくて……  
女の子が簡単に男に裸を見せるもんじゃないって事を……いや、って言うか……何て言うか……」  
もっともらしく口では言いながらも、ちらちら二人に目が行ってしまうのは男の悲しい性。  
まだ歳が歳だけに女性としての魅力はほぼ皆無と言ってもいいるるとららだけど、  
ボクだって思春期真っ盛りの男だ。  
贔屓目を差し引いても十分に可愛い彼女達の裸に興味を持てない訳もない。  
しかし、ここは年長者としての風格と言うか威厳と言うか倫理観と言うか、  
そういうものを示さなければならないのであって――  
「あ〜っ、分かった! おにいちゃん、らら達がセクシーだから照れちゃってるんでしょ」  
「そっか。でも、おにいちゃん。るぅの事なら遠慮なく見てもいいよ。ほらほら」  
などと言いながら、何処で覚えたのかグラビア誌のモデルみたいなポーズを取る二人。  
相応しい人なら扇情的な雰囲気を醸し出せるのだろうけど、  
男の子とあまり変わらない体型のるるとららではむしろ滑稽なだけだ。  
特にるるの肩を寄せて前屈みになる格好は、俎板みたいなその胸ではギャグにしかなっていない。  
「……まあ、とりあえずバカな事してないで、入るなら入りなよ」  
そのお陰で幾分、ボクの方は落ち着く余裕が生まれた。  
二人に溜息を送って、また目を閉じる。  
「んもー。おにいちゃんノリが悪いよ」  
「こういう時、男の人はオオカミになるものだよ。おにいちゃんのかいしょーなしー」  
「はいはい、そうですね」  
もうツッコミを入れるのも面倒だ。  
ボクはるるとららの不満の声を適当にいなし、湯船から上がった。  
「あ、おにいちゃん、まだ出ちゃダメ」  
「分かってる。身体を洗うだけだよ」  
るるの頭をぽんぽんと叩き、彼女らに背を向けて椅子に腰を下ろす。  
全く――時々、二人のテンションについていけなくなってしまう。  
いくらボクを信頼して好意を寄せてくれているとは言え、無防備過ぎるのではないだろうか。  
まあ、それも子供だからなのだろうけど。  
将来、嗜みのない女性になってしまうのではないかと少し心配だ。  
そんな風にボクがお兄ちゃん的思考を巡らしていた、次の瞬間。  
ふと、背中が柔らかなぬくもりに覆われた。  
ボクの中で文字盤の針が止まる。  
るるとららが抱きついてきたのだと分かるまでに、たっぷりと数十秒は要した。  
そしてそうと分かった途端、俄かに心の奥底から抑え難い興奮が湧き上がってくる。  
るるとららの体躯が貧弱とは言え、こうして直接的に干渉されてはそんなものは関係ない。  
背中に当たる女の子特有の柔らかい身体と、その中に紛れる硬い感触。  
二人の姿が見えない分、様々な妄想が脳裏に過ぎり、それがまた新たな興奮を誘う。  
「るる、らら――」  
「鈍チン」  
――離れなさい。  
片隅に追いやられつつある理性を引き戻してそう言おうとしたけど、  
その前にぽそりと呟いたららにボクの言葉は遮られてしまった。  
「おにいちゃんの鈍感。意気地無し。カマ野朗」  
「いや、最後のはちょっと聞き捨てならないんだけど……」  
「じゃあどうしてらら達によくじょーしないの?」  
「よ、欲情って……何処でそんな言葉覚えてくるんだ……」  
そもそも意味を理解して使っているのだろうか。  
「こんなにアピールしてるんだよ? ららは、おにいちゃんならいつでもイイのに……」  
「るるだって、おにいちゃんならイイんだよ……」  
左右の耳に熱を帯びた息を吹きかけられる。  
幼い声色に宿る確かな色情に、ボクの背筋はぞわぞわと震えた。  
二人がどれだけ意識しているのかは分からない。  
ただ、耳朶に当たる吐息の艶かしさはまるで経験を重ねた娼婦のそれだ。  
 
ボクは、今すぐにでも道徳やら倫理やらそんな奇麗事なんかかなぐり捨て、  
るるとららに触れてしまいたい衝動に駆られた。  
だが――  
「……駄目、だ」  
意思に反して動こうとしている右手を反対の手で爪を立てながら押さえつける。  
「るる、らら……二人にはまだ早いんだ。二人ともまだ子供なんだから。  
いつか……いつか、大人になって、本当に心から好きと想える人が出来た時にするべきなんだよ」  
ボクは正しい事を言えた。決して間違ってはいない筈だ。  
それなのに、どうして。  
どうして――こんなにも、息苦しい程までに、胸が痛むのだろう……  
「おにいちゃん。確かに、らら達は子供かもしれないけど――」  
「子供だったら、おにいちゃんの事を好きになっちゃいけないの?」  
「……」  
「ららは今は子供だよ。でも大人になってもおにいちゃんが好き」  
「るるも、今までも今もこれからも、ずっとおにいちゃんが好き」  
ボクは間違ってはいない筈だ。  
でも、ボク自身の気持ちとしてはどうなのだろう。  
二人が子供である事を逃げ道にして、自分の想いから目を背けてはいなかったか。  
「子供でも大人でも、ららの気持ちは変わらないよ」  
「だからるぅは、るぅの全部をおにいちゃんにあげるって言ったんだよ」  
……嗚呼、そうか。  
子供と言うなら、きっとボクの方が子供だったのかもしれない。  
その想いに身体の大きさなど関係ないのに。  
二人はボクに全てを捧げるほどボクを慕ってくれている。  
だからこそボクは弱腰になっていた。  
るるとららの想いの強さを受け止める自信がなかったから。  
でも、はっきりと言える。ボクの本心は唯一つだ。  
「ボクも……好きだよ。るるの事も、ららの事も」  
肩越しに後ろを振り向く。  
るるもららも笑ってくれていた。  
いつもより凄く可愛らしく。いつもよりちょっと大人っぽく。  
ボクはるるとららを自分の前に来るように促して、二人をそっと抱きしめた。  
一人一人は小さくても、二人になると両手に一杯だ。  
その感触はとても暖かくて、とても心地良い。  
「ねっ、おにいちゃん」  
暫く三人で抱き合っていると、不意にるるが耳元で囁いてきた。  
少し顔を離し、首を傾げて彼女を見やる。  
「チュウ、して」  
そう言って瞳を閉じるるる。  
要望通り、ボクはその小さな唇に自分の唇を重ねた。  
と――その瞬間、いきなりるるがボクの口の中に舌を差し入れてきた。  
その思いもよらない行動につい目を見開いてしまう。  
しかしそれ以上の事は知らないらしく、戸惑った様におずおずと動くだけだ。  
やはりテレビか何かの見様見真似だろうか。  
(無理はしなくてもいいって言ったのに。何処か背伸びしたがる嫌いがあるんだよなあ……)  
ボクは胸の内で小さく苦笑した。  
とりあえず、と言った感じでボクの歯を舐めているるるの舌に軽く触れる。  
すると、彼女は身体ごとぴくりと震えて動きを止めた。  
そのまま舌を押し込んで、今度は逆にボクがるるの口腔に入り込む。  
「はあ……ん、ん……」  
心なしざらざらした小さな舌を何度か擦り、或いはその輪郭をなぞるようにくすぐる。  
その度にるるは頬を上気させ、喉の奥で喘いだ。  
「ん……はん、ん……あ……」  
一頻り舌を絡めあった後、ゆっくりと顔を離す。  
一瞬だけ透明な橋が架かって、すぐに切れた。  
「あ、はあ……はあ……」  
るるが顔を真っ赤に染め、荒い呼吸を繰り返す。  
もしかして息が出来ていなかったのだろうか。  
ボクだってこんなに深いキスは初めてだったから、  
彼女の負担になるような事をしてしまったのかもしれない。  
 
「ゴメン、苦しかった?」  
るるの口元を伝う唾液を拭ってやりながら問いかける。  
「ううん……」  
彼女は小さく首を振り、  
「何だか、気持ち良くて……ぞくぞくって身体が震えちゃった……」  
そう言って、ほうっと艶っぽい吐息を漏らした。  
何処と無く地に足が着いていないと言うか、熱病に浮かされているみたいな様子だ。  
るるにとっては少し刺激が強すぎただろうか。  
(まあ……何だかんだ言っても小学生だし……)  
と、改めて思い至り、そして微妙な後ろめたさを覚える。  
確かに年齢的にはボクと彼女達は四つしか違わない。  
しかしやはり小学生とこういう行為に及ぶのは、  
どこか倒錯的なものを感じずにはいられないのも否定は出来ない。  
ただ、その暗い側面が興奮を後押ししている事に、ボク自身、薄々ながら感付いてはいた。  
「……おにいちゃん」  
くいっ、と腕を引っ張られる。  
見れば、耳まですっかり紅潮したららが物欲しそうに瞳を滲ませていた。  
「お願い……ららにも、して」  
「ああ、勿論だよ」  
控え目ながらも自ら唇を突き出したららにそっとキスをする。  
舌を絡ませなくてもこの口唇の柔らかな感触をいつまでも味わっていたいと思わせてくれる。  
本当に。本当に、女の子の身体は男にとって魅力的で誘惑的だ。  
「んん……あ、ん……」  
ボクが舌を出してららの唇を割ると、彼女は驚いた様に顔を引きかけた。  
が、それもほんの瞬間的な事。  
舌同士が触れ合う頃には、ららは切なげに眉根を崩し、  
閉じた目の際からは一筋の雫を零していた。  
「はぁ……ん……はあ……」  
浴室に粘着質な音が響くほど濃厚に舌を絡ませ合う。  
気付いた頃には、ららの方が積極的に動き回っていた。  
自分でより快感を強く得られる場所を見つけたのか、単調に舌先をボクに擦り付けてくる。  
どうやら、こういう時でもおませさんなのはららの方らしい。  
――それなら、もう少しぐらい踏み込んでみようか。  
「んんっ! あっ、ふああぁっ」  
思うより先に手が動いていた。  
ようやく膨らむ兆しが出始めた程度の、ららの限りなく平坦に近い胸に手を這わせる。  
瑞々しい幼い肌は、その表面に浮かぶ汗と室内に満ちる湿気とで、まるで璧の様な感触だ。  
「あ、あぁっ……ふぅ、ん……!」  
小さいながらもしっかりと自己主張している頂を押し潰すと、  
ららは仔犬が鳴くみたいな高い声を上げた。  
更にもう片方の手で乳頭を挟み込む様にして擦る。  
「あうぅ! お、おにいちゃ……そ、それ、だめッ、ダメぇ――んんっ!?」  
抵抗の言葉は再び口ごと封じてしまう。  
ボクはボクで殆ど自制心も無くなってきていた。  
こちらの動作の一つ一つに敏感に反応してくれるららが、  
自分より小さくずっとか弱い女の子であるという事さえ色欲の中に埋もれて薄れてゆく。  
ただ自身の本能と劣情の赴くままに。  
そのままに、ららに対する征服欲を振るう。  
「ん、んんっ……ひああぁっ!」  
ぷにぷにとした乳首を軽く指で掴んで捻ると、ららは全身を小刻みに震わせて膝を崩してしまった。  
「あ、あぁ……は……ああ……」  
両腕両膝を床に着いて頭を垂れ、  
半開きの口からはだらしなく舌を出しまま、法悦の余韻を反芻するらら。  
その姿はボクに淫靡さ以上に追い詰められた小動物の様な弱々しさを感じさせた。  
(な、何してるんだ、ボクは……)  
るるはキスだけで半ば気が抜けてしまったのに。  
まだ幼いららにとって、先刻の行為は刺激が強すぎたであろう事は明白だった。  
それをボクは、一時の情欲に囚われていたとは言え、何の考えも無しに……  
「らら、大丈夫だった?」  
まだ這い蹲って途切れ途切れの息をしているららの頬に触れる。  
 
「ん……」  
ららは心地良さそうにボクの手に頬擦りし、のろのろと顔を上げた。  
「大丈夫だよ、おにいちゃん……  
あんなの初めてだったから……ちょっと力が抜けちゃっただけ……」  
ふう、と大きく息をついてららが上体を起こす。  
「でも……凄く、気持ち良かったよ……」  
そう言って、ららは何処か気怠げな笑みを浮かべた。  
その声音も、その表情も、その色香も――まるで年格好に釣り合わないほど官能的だ。  
数十秒前の後悔は何処へやら。  
すぐにでもまたららを攻め立てたくなってしまう。  
と――  
「おにいちゃん、ららちゃんばっかり相手にしてないで、るぅにもしてよぉ」  
今度はるるがボクの手を取った。そして、自身の発達前の胸へと導く。  
「ここも――」  
更に、まだ産毛さえ生えていない、つるつるの下腹部へと。  
「ここも、触ってもいいからぁ……」  
舌足らずな声で言うるるのそこは、既に熱を帯びていた。  
身体はこんなにも小さいと言うのに、しっかりと女性としての部分は反応している。  
その事実に、ボクは誘惑とも感激ともつかない感情で意識が遠退きそうになった。  
「……いけない子だな、るるは」  
そして、その事実がボクに決心させてくれた。  
考える余裕を破棄してしまう事を。  
「ここをこんなにいやらしくして」  
「あっ、はぁあ……あんっ」  
中指を折り曲げ、るるの秘所に突き入れる。  
じっとりと濡れた彼女の内側は、予想通り物凄くきつい。  
その力は、ボクの指を動かすまいと言う積もりなのか。或いは、離すまいと言う積もりなのか。  
「う、んんっ……るぅ、いけない子だからぁ……もっとたくさん、掻き回してぇ……」  
とろんとした目つきでるるが言う。  
快感に浮かされながら、何処まで意識しての言動かは分からない。  
ただ、その言葉を無碍にする積もりは、ボクには毛頭無かった。  
「はうぅ、うああぁっ、ああっ!」  
柔らかくも硬いるるの中を拡げる様に指を動かす。  
その度に、くちゅくちゅと淫猥な音が響いた。  
「お、おにいちゃん……凄い、よぉ……あ、あうぅっ」  
いつしか、るるは両手でボクの腕にしがみついていた。  
目に見えて痙攣している太腿にはもう力を入れる事さえ出来ないらしい。  
お陰で少し手を動かし難い状態だけど、その程度で止めたりはしない。  
親指で小さな突起を探り当て、それを爪先で弾いてみる。  
「ひあぁっ!? そ、そこ――あああっ!」  
瞬間、その身体が大きく跳ねた。  
るるはまるで不可視の手で揺さぶられているみたいにがくがくと震えながらボクの腕に爪を立てる。  
その痛みも今は興奮を助長してくれるだけだ。  
「おにい、ちゃん……」  
「るる……」  
ふと、視線が絡む。  
ボク達はどちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねた。  
「ふぁ、ん……ん……っ」  
二度目だけあって、るるの方も積極的に動いてくる。  
ららと同じ様に自分の好みの場所を見つけたのだろう。  
舌の使い方は殆ど変わらないけど、それでもボクも十分に気持ちいい。  
ボクは上の口はるるのしたいようにさせたまま、彼女の下の口に入れた指のペースを速めた。  
「うんっ、んん、ん……っ」  
段々とるるの呼吸の間隔が短くなってゆく。  
最早、唾液を飲み下す事さえままならない様だ。  
口の際から涎を垂らしながら、それでも一心不乱にボクの舌を吸っている。  
そろそろ限界が近いだろうか。  
確証は無い。でも、あまりにも乱暴になったキスが、るるの余裕の無さを物語っている様に思えた。  
「ん、んっ……ふあ……ん……」  
それまで転がす様に弄っていた陰核を押し潰してみる。  
 
「ひゃあぁっ、ああああっ!」  
るるが弾かれた様に顔を離した。  
背筋を弓なりに仰け反らせ、一際高い嬌声を上げる。  
「はあ、はあ、はあ……」  
強張った全身の筋肉を弛緩させると、るるは糸が切れた人形の様に力なくへたり込んでしまった。  
やはりその様には艶かしさなどよりも、  
むしろ思わず優しくしてあげたくなる弱々しげな印象を受けた。  
「るる」  
そっと、労わる様に小さな頭を撫でてあげる。  
「可愛かったよ」  
普段なら面と向かって言うには恥ずかしい台詞だろうけど、今は微塵の躊躇いも感じない。  
そして、ただ口唇を合わせるだけのキス。  
「ん……」  
顔が離れて目と目が合うと、るるは擽ったそうに笑んだ。  
この笑顔も、唇も、そして身体も、全てがボクのものなのだ。  
その全てが堪らなく愛おしい。  
「ねえ、おにいちゃん」  
つんつんとららがボクを突いてくる。  
「何だい、らら」  
「おにいちゃんも、ちゃ〜んと裸になって」  
ららはボクの腰に巻きつけたタオルを指差して言った。  
「らら達ばっかり裸にされて、その上、おにいちゃんに手込めにされちゃったんだよ?」  
「いや、ボクが裸にした訳じゃないし。そもそも『手込め』なんて言葉、何処で覚えてきたの」  
「それなのに、おにいちゃんばっかりタオル巻いてるなんて、不公平だよ。だから、ね?」  
ボクの言葉は何事も無かったかの様に黙殺し、ららは笑顔でちょこんと顔を傾けた。  
まあ、ららの言う事ももっともではあるけど……  
 
「う、うん……それは、そうなんだろうけど……」  
やはりいざとなると恥ずかしいのが実情だ。  
ボクが曖昧に語尾を濁すと、るるとららは申し合わせた様にお互いを見やった。  
ニヤリと悪戯っぽくその口元が歪む。  
『危ない』と感じた時には、もう遅かった。  
「それっ!」  
「う、うわ!?」  
二人に抱きつかれる様な格好で押し倒されてしまった。  
圧し掛かられ、殆ど身動きが取れなくなる。  
「こ、こら! 二人とも離れなさい!」  
「やーだよー」  
振りほどこうと試みるも、女の子――ましてやるるとららが相手では無意識に力を加減してしまう。  
そんなボクを見透かしているのか、るるは余裕の笑みを浮かべていた。  
「ららちゃん、おにいちゃんの事、しっかり押さえててね」  
「うん。任せて」  
肩に乗っかっていたるるが離れ、入れ替わりにららがボクの胸に跨った。  
ららの熱を帯びた下腹部の感触がはっきりと伝わってくる。否応無く動悸が速まった。  
一方で、その興奮とは裏腹に言い様の無い嫌な予感もしていた。  
「る、るる、何をする積もりなんだ?」  
唯一自由が利く頭を持ち上げる。  
るるがボクの体の傍で膝を着いているのが見えた。  
「ふふふ。さっきのお返しだよ、おにいちゃん」  
「お返しって……くあっ!?」  
るるがボクの臍周りに指先で円を描いた。  
不意打ちの刺激にぞくぞくと全身が反応してしまう。  
情け無いと思いつつも、声が漏れ出すのを止められなかった。  
この反応がるるを調子付かせてしまったらしい。  
彼女は自分の責めが効果覿面と見るや、ボクの臍に舌を這わせてきた。  
まるで身体の内側を擽られる様な快感が駆け巡る。  
「う、くぁ……る、るる……そんな、所……汚い、から……」  
「汚い? おにいちゃんの身体に汚い所なんて無いよ」  
空中分解しそうになる言葉を必死に繋ぎ合わせるも、  
嬉しい様な嬉しくない様な台詞であっさりと一蹴されてしまう。  
その間もるるは情けも容赦も無く舌を動かし、ボクはひたすら声が漏れない様に堪えていた。  
だから気付けなかった。  
ボクを熱っぽく見下ろすららの瞳にも、不純な悪戯心が宿ってしまった事に。  
「っ……うぁ……く……」  
「あはっ、おにいちゃん可愛い」  
「え……ら、らら?」  
「ららも、おにいちゃんに仕返ししよ〜っと」  
言うや否や、ららがボクの乳首に唇をつけた。  
今度は『危ない』と感じる暇さえ無かった。  
「ら、らら! 駄目だっ、今すぐ――くっ!?」  
「ん……おにいちゃんの味だ……」  
何処でそういう言い回しを覚えてくるんだ。  
そうツッコミを入れたかったが、もう口を開けば喘ぎ声しか出そうになかったので止めた。  
それほどまでにららの愛撫は堂に入ったと言えるものだったのだ。  
吸ったかと思えばざらりと舌で舐め、前歯で甘噛みする。  
優しくも絶妙な加減のその責めはボクの一物を滾らせるのに十分だった。  
「おにいちゃん、るぅ達でイッパイ感じてるね。もう、変態さんなんだから」  
「あはは、そうだね。そんな顔見せられたら、もっともっと苛めたくなっちゃうよ」  
るるとららは天使の様に微笑みながら、悪魔の様な事を口にする。  
ボクはと言えば、もう二人の言葉に反応も出来ずにいた。  
張り詰めた下半身は痛いのを通り越して切なささえ感じるほどだ。  
一向に出口を見つけられない悦楽が急かす様にそこに溜まっている。  
「うわあ……ねえららちゃん、凄いよ」  
「ホントだ……おにいちゃんのココ、凄く大きくなってるよ」  
ボクからはららに遮られていて見えないが、自分でも何となく分かった。  
普通に勃起するのとは明らかに感覚が違う。  
女の子に触れた感動と興奮。  
 
女に子に触れられた羞恥と喜悦。  
それらが混沌として斑色の劣情を織り成し、激しく欲望を駆り立てていた。  
「よぉし、ららちゃん。タオル取っちゃうよ」  
「うん! やっちゃえやっちゃえ〜!」  
その所為か、るるとららが(半ば面白半分にしても)  
ボクの腰に巻かれたタオルを取り去ってしまうのを止める道理など無いように思えた。  
るるの手が、迷う素振りさえなく腰に触れる。  
タオルを外した瞬間、二人が僅かに息を呑むのが分かった。  
何だかんだ言っても怒張しきった男の性器を見るのは、  
るるとららにとって初めての経験である事は間違いない。  
「……すごい……」  
やや間の抜けた頃、二人がぽつりと呟いた。  
心なし恐る恐ると言った感じで彼女達の手がボクのそこに重なる。  
「とっても、熱くて、硬い」  
興味深そうに一物を撫で回しながら、ららが言った。  
「でも、るぅはコレ嫌いじゃない、かも」  
と、やはりららと同じ様にしながら、るる。  
二人はただ単に観察している様な感覚なのだろうけど、  
四つの手が無造作に動く度にボクは驚くほどの快感を得られた。  
下手をすればそれだけで射精してしまいそうだ。  
「きゃっ」  
思わずそこに力を込めると、るるとららは小さく悲鳴を上げて手を引いた。  
「おにいちゃん?」  
そろりとるるがボクの顔を窺う。  
「るぅ達、ひょっとして痛くしちゃったかな?」  
「いや……気持ち良かったんだ。それで、思わず……」  
「ホントに? 気持ち良かったの?」  
ボクが黙って頷くと、二人は安心した様に息をついた。  
「そっかぁ、気持ち良かったんだぁ」  
「ふふ、それってちょっと嬉しいな」  
そう言ってららは微笑むと、陰茎に手を伸ばした。  
「じゃあ、おにいちゃん。ららがもっとおにいちゃんの事、気持ち良くしてあげるね」  
「るぅもるぅも〜」  
再び二十の指がボクのそこに絡んだ。  
暖かく柔らかいるるとららの手が、愛おしそうにゆっくりと動く。  
二人ともその触り方から手そのものの感触も、似ているけど何処か微妙に違っていて、  
それぞれがそれぞれの個性を表しているように思えた。  
と――  
不意に、るるが屹立する陰茎に顔を近づけた。  
「ん……」  
舌先で何かを確かめる様に、るるがそっと亀頭を舐めた。  
今までとは比べものにならない程の快感が電流の様に背筋を走り抜ける。  
「く……っ」  
堪えきれずに声を漏らしてしまうと、るるが上目遣いにボクを見た。  
「大丈夫、続けて」  
るるが頷き、今度はそこを唇で挟み込んだ。  
それを見たららが対抗する様に陰嚢を口に含み、睾丸を吸い込んでころころと舌で転がした。  
同じ部位にもたらされる異なる快感に、急速に限界が迫り来る。  
少しでも長くこの悦楽を感じる為に、少しでもその時を遅らせようと、  
ボクは胸の上に載っているららの臀部に手を伸ばした。  
「んあ……お、おにいちゃ――ああっ!」  
ゆで卵の様な尻の感触を堪能して、濡れそぼった秘所に指を滑り込ませる。  
ちょっと硬い膣壁を軽く引っ掻くと、ららは嬌声を上げて陰嚢から顔を離した。  
「はあぁ、おにい、ちゃ……だ、だめぇ、そんなぁ……っ」  
「ほら、らら。ボクを気持ち良くしてくれるんだろ? 続けなきゃダメじゃないか」  
「あんっ……い、意地悪だよぉ……」  
でもそんなおにいちゃんも――と呟いて、熱い息を漏らしながら、ららは再び顔を下ろした。  
その時だった。ふと、物欲しげにひくひくと蠢く“そこ”が目に付いたのは。  
“そこ”を情交の、言わば一種の『バリエーション』として使う事があるのを、  
その手の本なんかを見てボクは知っていた。  
 
「……」  
実際にしてみたらどんな反応をするのだろうと言う好奇心と、  
ららをもっとよがらせたいと言う嗜虐心とに唆され、その穴の入り口に指を当ててみた。  
「ん!? んんっ!」  
びくんと大きくららの身体が跳ねる。  
苦痛の反応か、羞恥の反応か、快感の反応か。  
それを判断する事はせずに、ボクは“そこ”に中指を進入させた。  
「ん、は……あっ……うあ、あ――」  
指を根元まで穴に捻じ込んでしまうと、ららは掠れた声を絞り出す様にして喘いだ。  
ゆっくりと指を引く。  
「ひあぁ、う、くあ……お、おに……いぃ……」  
そして、再び突き入れる。  
「かぁっ……あうぅ……」  
ただそれだけで、ららは下半身を痙攣させて、今にも溶け出してしまいそうにぐったりと脱力した。  
一見、悶える事すら出来ずに苦しんでいる様にも見える。  
だが、すぐにそうではないと分かった。  
力無く崩れているららの身体とは対照的に、  
ボクの指を銜え込んでいる膣の力は恐ろしいほどに強まったのだから。  
「お尻の穴でこんなに感じてるなんて、ららも変態さんだな」  
「ひ……あ……あぁ……」  
最早、まともな言葉を紡ぐ事すら叶わないらしい。  
中指を出し入れし、膣内を掻き回す度に、ららは惰性的にびくびくと震えた。  
殆ど青息吐息と言っても差し支えない様子だ。  
すぐ傍でそんなららを見ていたからだろうか。  
るるもまた、ボクの陰茎を口に含みながら、自分の股間に伸ばした手を忙しなく動かしていた。  
――全く、狂いに狂いきった景観だ。  
辛うじて頭の隅っこに生き残っていた冷静なボクが呆れた様に呟く。  
でも、それでもいい。そうボクは思った。  
――るるとららになら、その愛情の中で何処までも狂ったって、それでもいいさ。  
完全に解き放たれた二人への想いを、今までの様に目を逸らす事をせず、  
真正面からそれを認めて、ボクは激しい絶頂を迎えた。  
 
 
 
「ねえ、おにいちゃん……」  
ボクの右肩に頭をもたせかけたるるが、思い出した様に言った。  
「このまま、しよ」  
みんな一緒に絶頂に達した後、ボク達はシャワーを浴びて、三人並んで湯船に浸かっていた。  
落ち着いて考えてみれば、実に激烈な行為だったと思う。  
少なくとも小学生と中学生がやる様な事では無かったかもしれない、とも。  
だからと言う訳ではないけど――  
「いや……」  
ボクは首を振った。  
「やっぱり、それはまだ二人には早いよ。駄目だ」  
「でも――」  
るるとららが同時に抗議の声を上げる。  
ボクはそれをもう一度首を振る事で遮った。  
いくら二人が「したい」と言っても、流石に本番だけは抵抗があった。  
まだるるもららも幼すぎる。  
今の段階では無駄に彼女達の身体を傷つける事になってしまうとしか思えなかった。  
「もう少し大きくなったら、また改めて三人で最後までしよう。だから――」  
ボクは二つの小さな頭を撫でた。  
「その時まで、ボクはずっとるるとららを好きでいるよ。  
だから、るるとららもボクの事を好きでいて欲しい」  
流石に恥ずかしい。  
やや今更と言った感もあるけど、告白の積もりだった。  
るるとららは一瞬、ぽかんと呆けた様に口を開けていた。  
その表情がみるみる喜悦に染まってゆく。  
「うんっ! おにいちゃんっ」  
二人は大きく頷くと、左右からボクに抱きついてきた。  
 
「ずっと、ずっと、ずぅ〜っと! 大好きでいるよ、おにいちゃん!」  
――嗚呼、そうだ。  
るるとららを抱き返しながら、ボクは確信した。  
ボクは二人の心の住人になどなりたくはない。  
二人にもボクを心の住人になどしてもらいたくはない。  
いつも、いつまでも、遥かな永遠のその彼方の時までも。  
二人の姿を瞳に映して、手で触れていたい。  
ずっと、ずっと――  
 
 
 
そんなロマンチックで、情熱的で、詩的な交わりの後で――  
「おにいちゃん、これからは毎日ららにチュウしてね」  
「あ〜、るぅにもするんだよ、おにいちゃん」  
「ま、毎日? 毎日はしなくてもいいんじゃ――」  
「え〜っ、ダメだよ!」  
「そうだよ! 毎日してくれないと、るぅ、お母さんに今日のこと言いつけてやるんだからぁ!」  
「わ、分かったよ……するよ……」  
――なんてやり取りがあったとか無かったとか。  
まあ、何にせよ、三人が幸せである事に間違いは無いのであった。  
 

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