キラちゃんはボクと目が合った途端、何かを哀願する様に身を乗り出してくる。  
その期待に応えるべくボクは半開きの彼女の唇を奪った。  
「ん、ふぅ……はあ……」  
ユラちゃんとは対照的に、キラちゃんは待ちかねていたかの様に自分から舌を絡ませてくる。  
どうやらこういう時でもキラちゃんの方が積極的らしい。知識の差、ということも考えられるけど。  
まあ、それを確かめるのは今じゃなくてもいいだろう。  
「自分から入れてくるなんて、大胆だね」  
どちらからともなく唇を離した後、ボクはわざとらしく言った。  
「キラちゃんも意外とエッチなんだなぁ」  
「そ、そんなこと……」  
「そんなこと、あるよ」  
ボクはキラちゃんの言葉を遮って彼女の胸に触れた。  
その頂は、まだキスしかしていないというのにしっかりと自己主張している。  
「もうこんなに硬くなってるし」  
「それ、は……ん……あ、貴方がユラちゃんに、あんな事してるから……」  
あんな事もそんな事も誘ってきたのは二人の方だ。  
きっかけを作ってしまったのは、ボクだけど。  
とりあえずこの際それは置いておく事にして、ボクは言い訳をしたキラちゃんに制裁を加える事にした。  
おもむろに――彼女自身に見せつける様に、その胸の頂を口に含む。  
「くっ、ああ! あ……やあぁんっ!」  
乳首の周りに舌を這わせると、キラちゃんは面白いように反応を示した。  
双子だけあって弱い場所も同じなのだろうか。それとも感度が良いのか。  
舌がちょっとでも動く度に大袈裟とも言える勢いでよがってしまう。  
調子に乗ったボクは、尖った先端をわざと音をたてて吸ってみた。  
「ああ! お、音! あっ……や、やめ……ふああぁん! あああぁっ!」  
壊れた録音機の様に嬌声を上げ続けるキラちゃんが、不意にボクの頭を抱え込むように腕を回してきた。  
びくびくと小刻みに震える彼女の身体は、  
 
もう自身の意思で力を入れられないのか、殆どボクにのしかかっている状態だ。  
「はあ、あ! も、胸……気持ち、良すぎてぇ……だ、めェ……!」  
完全に舌っ足らずになってしまったキラちゃんの言葉は無視して、  
ボクは口の中の蕾を犬歯で挟み込むと、そのまま顎に力を入れた。  
「――――ッ!!」  
ひゅう、と息を漏らしたきりキラちゃんの嬌声が止まる。  
突然のことに驚いたボクは思わず彼女の胸から顔を離した。  
支える物を失ったキラちゃんの上体が仰向けにベッドに沈む。  
「ご、ゴメン。痛かった?」  
「……ううん……」  
焦るボクとは逆に、何かが抜け出していってしまった様な、どこか虚ろな様子でキラちゃんが口を開く。  
「なんだか……上手く言えないけど……スゴかった……」  
「凄かったって、良かったってこと?」  
ボクの問いかけに対してキラちゃんはかくんと頷いた。  
「じゃあ、続けてもいいかな?」  
再びかくんと頷くキラちゃん。  
その動作はあまりにも機械的で、ちゃんとボクの言葉を理解できているのか怪しいところだ。  
正直、躊躇いを感じなくもないけど――  
でも苦痛だったり不快だったりすればそう言うだろうと思い、ボクはまたキラちゃんの胸に手を伸ばした。  
「あ、あぁ……あ……はあ……」  
先刻よりも喘ぐ声に勢いがない。  
しかし、彼女の身体の反応は確実に大きくなっていた。  
快感に熱る白皙の肌も。  
悦楽に煌く清純な瞳も。  
キラちゃんのあらゆる所が淫らに変貌してゆく。  
そろそろ頃合いだろうと見たボクは、キラちゃんの胸から臍にかけて指を這わせ、そしてスカートの中へと差し入れた。  
「あ……そこ、は! やああっ!」  
 
ボクの指が下着越しにキラちゃんの女の子の部分に触れた途端、  
それまで抜けていたものが戻ってきたみたいにキラちゃんは素早く足を閉じた。  
その結果、むしろ更に強くボクの手がその部分に押し付けられる。明らかに逆効果だ。  
しかもそのお陰ではっきりと分かった事があった。  
「キラちゃん……濡れてる」  
そう。キラちゃんの秘所は下着越しでもはっきりと分かる程に濡れていたのだ。  
「やあぁ……恥ずかしいよぉ……」  
羞恥に顔を染めたキラちゃんが右腕で目を覆う。  
彼女としては単純にボクの視線から逃れたいが為の仕草なのだろうけど、  
はっきり言ってポーズ自体はかなり扇情的だ。  
ボクは半ば無意識的な欲求に駆られてキラちゃんの秘所にあてがった指を動かした。  
「ああっ! あ! ああああぁっ!」  
キラちゃんの足から力が抜け、ぴくぴくと太腿が震える。  
その隙にボクは下着を押し退けて彼女の割れ目に指を滑り込ませた。  
「はっ、ああ!? ふああああぁんっ!」  
そこに他人が侵入するのは初めての筈だけど、以外に抵抗無くボクの指を飲み込んでゆく。  
指先に感じるキラちゃんの中はとても熱く、そして潤っていた。  
「キラちゃん」  
ボクはやんわりとキラちゃんの腕を退かし、涙の溢れる彼女の瞳を見据えた。  
「大丈夫? もし嫌ならちゃんと言ってね」  
「ん……ありがとう」  
上気しきった顔でどこか気怠そうにキラちゃんが微笑む。  
可愛い――と言いかけて慌てて言葉を咽喉の奥に仕舞いこんだ。  
流石に相応しからぬシチュエーションだ。特にボクの方が。  
だから何も言わずに笑い返すだけに留め、そしてゆっくりと優しく指を動かした。  
「あっ、くぅ……ああっ! はあぁ! ああんっ!」  
指先に感じる抵抗に沿って徐々に触れる位置を上げてゆくと、硬い突起に辿り着いた。  
 
ボクは殆ど何も考えずに突起を押し潰す。  
「うあぁ!? ああああああぁぁ――ッ!!」  
その瞬間、キラちゃんが一際甲高い声を上げた。  
四肢を突っ張り、身体を弓なりに仰け反らせ、カチカチと歯が鳴るほど全身を痙攣させ――  
「あ――はあッ! はあっ! はあ……は……」  
ほんの一瞬だけぴたりと硬直した後、荒々しく息を吐き出した。  
どうやら、達したらしい。  
ボクは脱力しきったキラちゃんに軽く口づけし、彼女の中から指を引き抜いた。  
「……凄いよ、ほら」  
低く掲げたボクの右手はてらてらと輝き、指と指の間には透明な糸が架かっている。  
「や……あぁ……」  
もうキラちゃんには恥ずかしがる余裕もないのか、自分の痴態を明かされても喘ぐ様に呻くだけだ。  
ボクも経験が無いから詳しくは分からないけど――  
(これだけやれば十分、かな)  
本なんかで知識はある。  
多分、本番に移っても問題ない筈だと判断して、ボクはキラちゃんを見つめた。  
「キラちゃん」  
出来る限り穏やかな口調で呼びかける。  
彼女を落ち着かせる為と言うより、さっきから破裂しそうなほど高鳴っているボク自身の鼓動を抑える為に。  
「いいかな」  
……もっと言い様はないのだろうか。  
こんな時に至っても飾り気を出せない自分に軽い自己嫌悪を抱いてしまう。  
ホント、ボクって男はプレイボーイの資質が無いらしい。  
「……」  
でも、キラちゃんはそんな事など気にしていないのか、にっこりと笑みを浮かべた。  
「イイけど……でも、ダメだよ」  
「……え?」  
 
「最初は私じゃなくて、ユラちゃんにしてあげてほしいの」  
キラちゃんはそう言って傍らの彼女と瓜二つの妹を見た。  
「キスは私が最初だったから。だから今度はユラちゃんが最初」  
「キラちゃん……」  
彼女達は手を取り合い小さく頷いた。  
またもや何か通じるものがあったのだろうか。  
「キラちゃんもユラちゃんも、それでいいのかな」  
野暮かと思いながらも一応訊いてみる。  
キラちゃんは迷う様な素振りも無く、まっすぐに首肯した。  
「うん。だって、貴方が言ってくれたから……」  
「私達を、どっちもこれ以上はないほど愛してるって……」  
キラちゃんの言葉を引き継いだユラちゃんも、姉と同じ笑みを浮かべる。  
そして二人は口をそろえて言った。  
「だから、最初の喜びも、二人で分かち合うの」  
正直、ボクには分かるような分からないような理屈だ。  
だけど彼女達が納得しているのなら、それでいい。  
「分かった。じゃあユラちゃん、いい?」  
一応、半ば儀礼的に確認する。  
「うん……おねがい」  
ユラちゃんが両手を胸の前で組んで瞳を閉じた。  
ボクは彼女の唇を啄ばむ様に突っつき、その隙にパジャマのズボンに手をかけた。  
「あ……」  
ユラちゃんが僅かに息を呑むのが分かったが構わずに脱がしてしまう。  
その下の白い下着となると、これに触れるのは男のボクでも少し躊躇いを感じた。  
ならば女の子のユラちゃんであれば尚更、それこそ苦痛にも似た羞恥に苛まれるのではないだろうか――  
ボクは無駄な逡巡はするまいと、さっさと下着も脱がすことにした。  
今度は何の挙動も無い。  
 
「……」  
ボクはユラちゃんを覆う物を全て取り除き、生まれたままの姿の彼女の身体に視線を滑らせた。  
端的に表すなら『美しい』と言う以外に無い。  
火照った白蝋の様な肌。黒い絹の様な髪。しっとりと塗れた長い睫毛。  
瑞々しい口唇。細い喉。未成熟な故に形の整った乳房。すらりと伸びた四肢。  
なだらかな臍周り。産毛しか生えていない下腹部。適度にふくよかな大腿部。  
ボクは自分の性欲を超えたところで、彼女の純粋な魅力にくらくらした。  
至高の芸術品を観る感覚に近いかもしれない。  
この存在を穢す資格が自分ごときにあるのだろうか――そんな思いさえ抱いてしまう。  
「へ、変……かな? 私の身体」  
ボクの視線に耐えきれなくなったのか、ユラちゃんが不安そうに訊いてきた。  
「いや、そんな事ないよ。凄く綺麗だ」  
ボクは、ともすれば震えそうになる手を必死の思いで抑え、ユラちゃんの太腿に添えた。  
ぴくりと彼女の足が揺れる。それ以上の抵抗は無い。  
ボクは指先でユラちゃんの腿に軌跡を描きながら秘所に指を入れた。  
ボクとキラちゃんが絡んでいたのを見ていたからか、そこは既にじっとりと湿り気を帯びていた。  
それでも念の為と、指を動かす。  
「ふあ……ああ! あ、うああぁっ!」  
ユラちゃんは痛がる様子もなく、ボクの指の動きに合わせてあられもなく喘ぎだした。  
その声に促される様に彼女の中を弄っていると、  
他の所とは感触の違う、少しざらついた部分があるのに気づいた。  
ふと興味がわいて、そこを指の腹で重点的に擦ってみる。  
「ああっ! ソコ、何だかぁ……あ、はああぁんッ!」  
ユラちゃんの身体が小刻みに跳ねる。予想以上の乱れ様。  
嗜虐心をそそられたボクは、更に尖った陰核を捻ったり潰したりと容赦なく嬲った。  
「ひあぁ! ああああああぁっ!!」  
ユラちゃんは身体を硬直させ、喜悦に震えながら背筋を反らした。  
 
膣の中の指がきつく締め付けられる。  
同時に彼女の奥から熱いものが溢れてくるのが分かった。  
「はあっ! あ……はあ……は……」  
何かが抜け落ちた様にくたりと脱力するユラちゃん。  
そんな彼女に耳元にそっと口を寄せ、紅潮した耳朶を軽く噛む。  
「ふふ。エッチさではユラちゃんの方が上かもね」  
意地悪く囁いて、蕩ける様に快感の余韻に浸っているユラちゃんの秘所から指を抜いた。  
さて……実を言えばこっちの方も余裕なんてない。  
ボクはズボンのファスナーを下ろし、痛いくらいに張り詰めた一物を引っ張り出した。  
出来ることなら今すぐにでも欲望をぶちまけたかった。  
そんな獣じみた本性は隠してやおらに穏やかに、ユラちゃんの秘所に先端を当てる。  
「入れるよ」  
可能な限りの優しい声でボクは言った。  
彼女を怖がらせないように。ボク自身にゆとりを持たせるように。  
ユラちゃんは無言で頷いた。  
ボクも軽く頷き返し、少しずつ少しずつ割れ目に陰茎を挿入してゆく。  
「う、くぅ……ん……」  
未知の異物が身体に入り込んできた苦しみからか、ユラちゃんの眉間に皺が寄る。  
半分ほど彼女の中に進めた所で何かにぶつかる様な感触がった。  
二度三度、突っつくようにして角度を調整すると、  
やはり何かを退ける様な感覚がして、中が急に狭くなった気がした。  
「つぅ……くっ……」  
その瞬間、ユラちゃんの顔が一際大きく歪む。  
「大丈夫? あんまり痛いようなら止めてもいいけど」  
自分の欲望の為に無理強いする訳にもいかない。多少、残念ではあるけど。  
心配するボクにユラちゃんは涙を溜めながらも笑みを作ってみせた。  
「ちょっと痛いけど……でも、思ってたほどじゃなかった、かも……」  
 
「そう……」  
「全部入ったの?」  
「いや。だけどもうちょっとだよ。少し休もうか?」  
ユラちゃんは何度か深呼吸を繰り返し、首を振った。  
「そのまま、来て」  
その態度は痩せ我慢かもしれない。  
でもここから引き返すのはボクも辛いし、多分ユラちゃんも辛いだろう。  
ボクは再びゆっくりと自身を彼女の中に押し進めた。  
必死に唇を噛み締めているユラちゃんが痛々しくもいじらしい。  
やがて、全てが彼女に包み込まれたところで、ボクは一つ大きく息をついた。  
彼女の中はとても熱く、そしてとてもきつかった。  
「全部入ったよ」  
「ほんと?」  
ユラちゃんが頭を上げ下腹部に目をやった。  
不意に、その瞳から新しい雫が零れる。  
「そ、そんなに痛い? やっぱり無理はしない方が――」  
「ううん。違うの。うれ、しくて……貴方と一つになれたのが……それで、涙が出たの……」  
ボクは何とも言えない愛おしさを覚え、ユラちゃんに唇を重ねた。  
「……動くよ」  
顔を離して言う。  
ユラちゃんが頷くのを確認して、ボクは慎重に腰を動かした。  
「うあっ……ああぁ……」  
ボクの動きに合わせてユラちゃんが声を上げる。  
さっきまでの嬌声とは違って、抑えに抑えた悲鳴の様な響き。  
「はあ、あ……くぅん……っ」  
ふと、所在無げにユラちゃんの手がシーツの上を動いているのが目に留まった。  
一旦腰の動きを止めてボクはその手を取った。  
 
ユラちゃんはすがる様に握り返してくる。痛いくらいに強い力で。  
ボクには、男には、分からない不安があるのだろうか。  
ボクは手から伝わる圧迫感を胸に刻んで再び緩やかに動き始めた。  
「あ……く……あ、はあっ……ああっ」  
しばらく腰を揺すっていると、次第にユラちゃんの声に混じる苦痛の色が褪せてゆくのが分かった。  
「まだ痛い?」  
「わ、分かんない……でも、何だか、痺れるような……」  
ボクは試しに少し勢いをつけて腰を打ち付けてみた。  
「ふあああぁんっ!?」  
「どう?」  
「す、ごい……すごい、よぉ……なに、これェ……」  
ユラちゃんが全身を震わせながら曖昧に言葉を紡ぐ。  
ただ、苦しそうな様子も痛そうな様子もない。  
ボクは今度は更に勢いをつけて腰を動かした。  
「ひゃあぁん! ああんっ! ああ、あああっ!」  
発せられる声は艶やかなソプラノ。  
どうやらもう痛みはないらしい。  
今までユラちゃんの方に気を遣っていたから自分の欲望はできる限り抑えていたが――  
こうなれば余計な心配をする必要は無くなる。  
「あんっ! あ! な……急に……はげ、し……ああんっ!」  
そして一度抑制を排してしまえば、ボクも思春期の盛りのついた男だ。  
下半身から伝わる快感に酔い痴れるまま、ボクは一心不乱になってユラちゃんの身体を貪った。  
深く大きく。早く激しく。  
結合部からぐちゅぐちゅと音が響き渡るほどユラちゃんの中を掻き乱す。  
「ああ! はあっ! あん! あああぁ――ッ!」  
そんなボクの動きに応えるかの様に、彼女の中も一突きの度に違った絡みつき方をしてきた。  
まるでそこだけが別の生き物みたいに。  
 
実際、ユラちゃん自身はだらしなく涎を垂らし、汗と涙とで顔をくしゃくしゃにしていた。  
普段の清楚な雰囲気など微塵もない。  
ボクが秘所を穿つ度に嬌声をあげながら、  
ただ悦楽の奔流に身を委ねるだけの乱れに乱れきった姿がそこにあった。  
「ああぁ! へん、ヘンだよぉ! わたし……ふあああっ!」  
ユラちゃんが迫り来る何かを拒むかの様に首を振った。  
彼女の膣内が激しく蠢動する。  
「く……っ」  
不意打ちの刺激に一気にボクの限界が近づく。  
衝動的に腰の動きが早まった。  
「はっ、あ! あああああああぁぁ――――ッ!!」  
ユラちゃんが絶叫にも似た嬌声を上げた。  
その華奢な身体ががくがくと跳ねる。  
ボクは一切の思考を放棄して、何かを搾り取ろうとするかの様に収縮するユラちゃんの中に精を放った。  
「あ……は、あぁ……あ……」  
「はあ、はあ、はあ……」  
程無く、全てを出し切った。  
射精の快感が波が引く様に何処かへと去ってゆく。  
終わってみれば、存外に呆気なかったかもしれない。  
身体はまだ熱いというのに、頭は急速に冷えて、そして醒めてゆく気がした。  
(これで、こんなので、よかったのかな)  
何を今更、と自分でも思う。  
でも、振り返ってみれば半ば流されるような形でこういう事に及んでしまったわけで。  
勿論、二人を愛していると言ったその言葉に偽りはないけど、もっと相応の過程があった筈ではないのだろうか。  
(はあ……ボクがこんな風に思ってちゃ二人に失礼だよなぁ)  
と、ユラちゃんに視線を落とす。  
行為の余韻か、小刻みに震えている。  
 
ボクは彼女の中から自身を抜き、額に浮かんだ汗を拭った。  
途端、ボクにも耐え難い脱力感がのしかかってきた。  
ついユラちゃんに覆い被さる様に倒れかけて、慌てて腕を伸ばして上体を支える。  
「あ……」  
ユラちゃんがさっと目を伏せた。  
どうしたのだろう?  
ボクは訝しく思いながら、ふと自分とユラちゃんの位置関係を見てみた。  
顔同士は鼻の頭がくっ付きそうなほどに近くて。  
身体同士は火照ったまま殆ど密着していて。  
(これじゃあ、まるで……)  
まるで純愛映画の一コマみたいだ。  
――愛し合った余韻に浸る二人は、初々しくはにかみながら、最後に軽く唇を重ね合わせる……  
(なんてコトできないって! 恥ずかしすぎるよ!)  
離れようとしたところで、思いがけずユラちゃんの眼を覗いてしまった。  
恥ずかしげに伏せられていながら、それでいて熱っぽく潤んだ瞳。  
…………  
嗚呼。まったく。  
小さな事でぐだぐだと思い悩むのはきっとボクの悪い癖だ。  
ユラちゃんの表情を見ると、やはりそう思う。  
「ユラちゃん」  
ボクも二人も想いは同じなのだ。  
過程はそれで十分であり、相対的に結果は気にする必要は無い。  
「好きだよ」  
ボクはユラちゃんにそっと口唇を重ねるだけのキスをした。  
唇の温かさはボクのものだろうか。それとも、ユラちゃんのものだろうか。  
どちらからともなく顔を離す。  
「私も、大好きだよ」  
 
僅かに掠れた声で言うユラちゃん。  
今までも何度か口にし合った台詞なのに、何故かとても新鮮な響きがあった。  
初めて三人の想いを告白した夜の様に。  
彼女の瞳にもその時の光景が視えているだろうか。  
「……」  
「……」  
ボクとユラちゃんは視線を絡め合ったまま、くすくすと忍び笑いを漏らした。  
多分。きっと。  
いつの日かこの場面を思い出すと、幸せな気分になれるんだろうなあ……  
そう、思えた。  
と――  
「あの〜っ」  
和やかな空気を打ち破るかの様に傍らから不機嫌そうな声。  
振り向いてみれば、キラちゃんが小さく頬を膨らませていた。  
「私のコト、忘れてないよね」  
「え、あ……も、もも、勿論!」  
ついどもってしまう。  
忘れていたわけではない。念の為。  
頭の隅の隅の隅のそのまた片隅ぐらいに押しやられていただけで。  
「ふぅん。じゃあ、そろそろ私の相手もしてくれるよね……?」  
そう言ってキラちゃんが浮かべる微笑はまるで天使の様。  
でも、どうして。どうして目が笑っていないのだろうか。  
ボクは背中に流れるじっとりとした汗が顔にも出てこないように気をつけながら、ただ頷くしかなかった。  
実際のところ、間を置かずに連戦はかなり辛いのだが。  
ただ、今のキラちゃんには有無を言わせぬ雰囲気があるのだ。  
(う、嬉しいけど、素直に喜べない……)  
ボクは胸中で血涙を流し、しかし顔には少し引きつった笑みを貼り付けて、キラちゃんの頬に触れた。  
その瞬間。  
――コン、コン  
部屋に扉を叩く音が響く。  
ぴたり、とボク達は静止画さながらに固まった。それこそ呼吸すら一瞬止まったかもしれない。  
 

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