「……ユラちゃん、寝ちゃったみたい」  
瞼を閉じて静かな呼吸を繰り返すユラちゃんを覗き込みながら、キラちゃんが言った。  
「そう。薬飲んだ後だって言ってたしね……  
ボクも迂闊だったよ。食事の後なら当然、薬だって飲んでる筈だし。  
ひょっとして無理させちゃったかなぁ」  
「そんな事ないよ。ユラちゃんだって喜んでたじゃない」  
キラちゃんは自分のベッドにすとんと腰を下ろした。  
横になっているユラちゃんを挟んで、ボクとキラちゃんが向かい合う形になった。  
「明日には絶対、元気になってるよ」  
「だといいね」  
見ている方が癒される様なユラちゃんの寝顔を眺めながらボクは頷いた。  
「それにしても、今日の貴方は大胆だったね。いきなりユラちゃんに……その、しちゃう、なんて」  
「あ、や、あれは……その、ね。あはは……」  
「でもいいなぁ、ユラちゃん。  
私の時は事故みたいな感じだったのに、貴方の方からしてもらえるなんて」  
「き、キラちゃん。もうその話は勘弁して。恥ずかしいから」  
確かに、何の断りも無く突然女の子にキスするなんて、らしくない行動だったと今更ながら思う。  
でもその後のユラちゃんの浮かれようを見たから後悔なんてない。  
あの調子なら多分明日にはすっかり元気なっているだろう。  
「さてと。じゃあ、そろそろ失礼しようかな」  
「そ、そんな……も、もう少しゆっくりしていって。そうだ、お茶でも……」  
「ありがとう。でも、遠慮しておくよ」  
「え……」  
「下手してユラちゃんを起こしちゃったら悪いしね」  
相変わらず、ぐっすり眠っているユラちゃんを見ながら言った。  
 
だから気付けなかった。  
キラちゃんの様子が、少し変わっていた事に。  
「……なんだか、ユラちゃんの事、凄く気にかけてるね」  
「そ、そうかな?」  
「学校でも、家に来てからも、ずっとずっとそうだったよね」  
――何かがおかしい。  
見れば、キラちゃんは深く俯いていた。  
殆ど項垂れている様な格好だ。  
「貴方は、心ここにあらずって感じで……見えないユラちゃんを見てた……」  
そしてその声は何かに耐えているかの様に、微かに震えていた。  
「……キラ、ちゃん?」  
「私だけしか居ないときに私だけ見てほしいのに……  
どうして? 私がユラちゃんより可愛くないから……?  
それとも……ユラちゃんの方が好きだから……?」  
「キラちゃんッ!」  
自分でも驚くほど鋭く放った制止の声。  
もっとも、驚いたのはキラちゃんの方も同じだろう。  
彼女はびくりと肩を揺らすと、恐る恐るといった感じで顔を上げた。  
滲んだ瞳が、そこにはあった。  
今にも涙が溢れそうな彼女の眼を見つめながら、ボクは静かに口を開く。  
「前に言ったよね? ボクはキラちゃんもユラちゃんも同じくらい好きだって。  
ボクは二人をそういう風に比べた事はないし、そんな事をする積もりもないよ」  
「……分かってる、よ……分かってる……けど……貴方は優しいから……とても優しいから……」  
キラちゃんはゆっくりとした足取りでユラちゃんの寝ているベッドを回り、こちらに近づいてきた。  
その速度――今すぐ立ち上がって後退れば、追いつかれる事はないだろう。  
 
なのにボクは立ち上がることは愚か、身体を動かすことすらできなかった。  
まるで何かの魔法をかけられたかの様に。  
「だから――不安になっちゃう……」  
彼女は金縛り状態のボクの正面に立つと、神の前で赦しを乞う憐れな罪人の様に跪いた。  
「こんなの意地汚いって思うよ……卑怯だとも思うよ……でもダメなの。止められないよ……」  
呟く様に言うと、キラちゃんはボクの背中に手を回した。  
反射的に身を引くが……椅子に座っていることを失念していた。  
キラちゃんが抱きついてきた衝撃と相俟って、ボクとキラちゃんは重なりながら床に転がってしまった。  
「……ごめん、なさい……」  
謝罪の言葉。  
それはボクに対してか。  
或いはユラちゃんに対してか。  
考える暇もなく、次の瞬間にはボクの唇はキラちゃんの唇で塞がれていた。  
「は……ん……」  
さっきボクがユラちゃんにした様な軽いキスではない。  
キラちゃんは暴力的と言っていい勢いで舌を伸ばし、口腔に侵入してきた。  
背中に回された腕にこもる力も、まるでボクと融合してしまおうとしているみたいに強まる。  
「ん……あ……はぁ……」  
キラちゃんは一頻りボクの口を蹂躙した後、静かに顔を離した。  
口元に覗く舌先から唾液が滴る。  
途轍もなく淫猥な絵だ。  
ボクは情けなくも興奮せずにはいられなかったが、それでも理性と度胸を総動員して声を絞り出した。  
「キラちゃん……こんなのは駄目だ。  
ユラちゃんだって居るんだし、少し落ち着こう」  
「……」  
 
潤んだ瞳のままキラちゃんは僅かに首を振った。  
確かに説得力は無かっただろう。彼女の目などまるで見れなかったのだから。  
正直、この体勢から力ずくでキラちゃんを引き離すことも不可能ではないと思う。  
でも出来なかった。  
いや。そうする気力すら起きなかった。  
「おねがい……」  
彼女の双眸が――  
「私を……」  
彼女の表情が――  
「貴方の……」  
彼女の体温が――  
「モノに、して……ください……」  
そして言葉が。  
抵抗しようという理性を確実に殺ぎとっていってしまった。  
ある意味、それは力を超えた力だ。  
ボクはどうする事もかなわず、  
自分の上で震えながら上着を脱ぐキラちゃんをただ見ていることしか出来ない。  
やがて、彼女の上半身は何も纏わない姿をボクの眼前に晒した。  
白い陶磁器の様な臍周りも、ほっそりとした腰も、形の良い胸も、桜色のその先端も。  
「……おねがい……」  
キラちゃんがボクの手を取ってその膨らみかけの胸に押し当てる。  
やはりまだ成熟しきっていない乳房そのものは少し硬い。  
それでもボクを欲情させるには充分だった。  
ただ――  
「キラちゃん」  
 
「……なに?」  
「やっぱりダメだ」  
流されてしまうわけにはいかなかった。  
たとえ彼女に恥をかかせる事になろうとも。  
「……どう、して……? どうして、抱いてくれないの? 私に魅力がないから?  
それとも、やっぱり……やっぱり、私よりユラちゃんが……」  
「そうじゃない。キラちゃんは可愛いし、魅力的だし、抱けるものなら抱きたいよ」  
「じゃあ――!」  
「出来ない」  
ボクはキラちゃんの言葉を素早く遮った。  
そっと手を伸ばして目尻を拭う。  
「こんなに悲しそうに泣いてるキラちゃんを、このまま抱くなんて出来ないよ」  
「あ……」  
キラちゃんはボクに言われて初めて泣いている事に気付いたらしい。  
「あれ……? どうして私……どうして……」  
止め処なく溢れる涙を「どうして」と繰り返しながら拭い続けるキラちゃん。  
ボクはそんな彼女の頭を優しく撫でた。  
 
 
そのままどれだけの時間が経っただろうか。  
一分か、十分か、それとももっと長いのか、或いはもっと短いのか。  
「私……嫉妬、してた……」  
多少は感情の波が鎮まったのか、キラちゃんはぽつりと漏らした。  
ちなみに、まだ彼女はボクの上に跨ったままだ。  
正直、こんな状態ではこっちの方が落ち着けないけど……  
でも余計に刺激したくはないからあえて指摘しないことにした。  
「あの日――花火大会の夜――私は、三人で一緒になることを望んだのに……」  
力なくキラちゃんが頭を垂れる。  
きっと今、他人の想像など及ばない程の自責に苛まれているのだろう。  
自分の半身にも等しい双子の妹をあと一歩で裏切ってしまうところだったのだから。  
「貴方がユラちゃんを……ユラちゃんだけを心配しているだけで……  
私は怖がっちゃった……貴方の心がユラちゃんに傾いているのかもって……」  
「キラちゃん……」  
彼女の告白にボクも少なからぬ衝撃を受けた。  
確かにボクを押し倒す前から「ユラちゃんばかり――」と言ってはいた。  
勿論、ボクとしてはただ単に病気のユラちゃんを気遣っていただけの積もりだった。  
だけどその態度が結果的にキラちゃんを追い詰めていたなんて……  
「私、馬鹿だね。勝手に思い込んで、貴方に迷惑かけて……  
ユラちゃんまで騙しちゃいそうになって……」  
「キラちゃん、もういい。もういいよ」  
ボクは聞くに堪えない思いでキラちゃんを止めた。  
まるで自分の浅慮を次々と暴かれていく様な心地だった。  
「二人と付き合うって決めた時からボクが気をつけなきゃいけない事だったんだ」  
「う、ううん! 違う! 私が悪いの! 私が……私が……」  
ぶんぶんと首を振り、声を詰まらせるキラちゃん。  
 
どうやら相当自虐的になっているようだ。  
そんな彼女を前にしながら、ボクは宥める言葉も慰める言葉も見つからない。  
(無力、だよなぁ)  
なんて思ってしまうのは、上に乗っかっているキラちゃんに感化された所為だけではない筈。  
ない筈だけど、ボクの方もちょっと思考回路がネガティブになってきているみたいだ。  
もし女の子の扱いになれたプレイボーイなら上手いこと口八丁で切り抜けられるんだろうけど、  
嘘も苦手な上に口下手なボクではどうしようもない。  
 
――やっぱり、ただ好きってだけでは、三人で付き合うのは難しかったんだろうか……  
 
そんな最悪の考えも脳裏にちらついてしまう。  
恐ろしい。  
ただ、恐ろしい。  
些細な歪にここまで大きく心が揺らいでしまう事が。  
「……」  
ちらりとキラちゃんを見やる。  
「……」  
だが彼女は目を合わせようとはせず、明後日の方向に視線を泳がせた。  
ボクの心の内を悟ってしまったかの様な態度だった。  
そしてそれは彼女の胸中にもボクと同じ考えがあるという証拠でもある。  
でも……  
「イヤだ」  
「……え?」  
「ボクは、イヤだ」  
ボクは呟いた。  
こんな不本意な形で彼女達との関係が崩れてしまうのは嫌だ。  
 
考え付くのは否定的なことばかりだけど、本当にそうなってしまうことを望んでいるわけじゃない。  
「ボクが二人を同時に幸せにするなんて、そんなの役不足かもしれない。  
でもボクはキラちゃんもユラちゃんも大好きだ。いや、愛してる。  
何があってもボクは二人と一緒にいたい」  
「でも……でも、私は貴方を……ユラちゃんを……信じられなかった……」  
「だったらこれから信じればいいよ。  
ボクはキラちゃんもユラちゃんも愛してる。どっちも同じ様に愛してる」  
「…………」  
大きく見開かれたキラちゃんの眼から新しい涙がぽろぽろと零れる。  
「いい、の? 私……とんでもない事をしちゃったのに……愛して……くれるの……?」  
「当たり前だよ。好きなんだから」  
「貴方を……愛しても、いいの……?」  
「勿論。むしろ愛してくれなきゃ困るし」  
「う……うぅ……ひっく……」  
堪えきれなくなった様に嗚咽を漏らし、キラちゃんがボクにしがみついてきた。  
「ずるい! ずるいずるいっ! そんなこと言われたら……私……  
私……甘えるしかない……! 甘える……しか……うぅ……」  
それでいいよ、とボクは心の中で囁いた。  
キラちゃんはユラちゃんに比べて積極的で外向的だけど、どちらも色々と溜め込んで引きずる性格をしている。  
だからと言って、いつかこういう事になると予想していた訳ではないけど。  
ただ、こうしてボクに頼って、そして甘えて欲しいとは考えていた。  
大体そうでもないと、いつも二人の方から与えられてるばっかりで、こっちから与えるものがないし……  
「でも……貴方が赦してくれても、ユラちゃんに申し訳がないから……  
私、ユラちゃんにちゃんと話さなきゃ……」  
「そう、だね」  
「ユラちゃん、怒るかもしれないけど。悪いのは私だもんね」  
 
キラちゃんがボクから手を離して涙を拭う。  
「赦してくれるかなぁ」  
不安げに漏らす彼女にボクは明るく笑いかけた。  
「大丈夫だよ。きっと分かってくれるさ。ね、ユラちゃん」  
「……え?」  
ボクがベッドの上に言葉を投げかけると、釣られた様にキラちゃんも振り返る。  
すると布団がもぞもぞと動いて――  
何とも言えない曖昧な表情のユラちゃんが布団を退けて起き上がった。  
「ユラ、ちゃん……起きてたの……?」  
「う、うん。だって、二人であれだけ騒ぐから……つい……」  
半ば唖然としているキラちゃんに対して、ユラちゃんは申し訳なさそうに目を伏せた。  
「えーっと、その……あのね、キラちゃん。私も、悪かったかなって思ってたの。  
彼とキスして浮かれっぱなしで……キラちゃんのこと何も考えなくって……」  
「ううん! 違うよ!」  
キラちゃんが弾かれた様に頭を振る。  
彼女は立ち上がってベッドの傍まで行き、ユラちゃんの手を取って固く握り締めた。  
「私が! 私が一人で勝手に思い込んだだけなの!  
ユラちゃんは何も悪くないよ!」  
「キラちゃん……」  
見詰め合ったまま涙を滲ませる二人。  
姉妹愛の麗しさを感じずにはいられない光景だ。  
……けど、キラちゃんはさっきから同じ格好。即ち、上半身は真っ裸……  
(うわ……な、なんて言うか……)  
神様が描いた様な美少女が手を取り合ってベッドの上、それも片方は半裸なワケで。  
こんな時に不謹慎だとは分かりつつも、それでもボクだって男なワケで。  
色々と考えが頭の中に巡るのは、ある意味では必然であるワケで。  
 
つまり、まあ、そういうワケで。  
(――ってそれじゃダメだろ! とにかく落ち着け! 落ち着けボク!)  
ボクは理性を総動員して雑念(と言うより煩悩)の駆逐に努めた。  
しかし飛び跳ねる心臓はどうしようもなく、  
それでも上っ面だけは平静を繕って、キラちゃんとユラちゃんの肩を抱いた。  
「二人とも、どっちが悪いとかそういう話はよそう。もう過ぎた事だよ」  
「で、でも……」  
二人とも同時に躊躇いの色を見せる。  
ボクは二人を抱く腕に少し力を込めた。  
「もう一度、はっきり言うよ。ボクはキラちゃんを愛しているし、ユラちゃんを愛している。  
どっちが上なんてことはない。だって――」  
と、二人に笑いかける。  
「二人とも、もうこれ以上は愛せないってぐらい愛してるから」  
「あ……」  
キラちゃんとユラちゃんは申し合わせたみたいに顔を見合わせた。  
途端に二人とも表情を綻ばせ、一緒に口を開く。  
「わ、私も、貴方を愛してます! 貴方に負けないくらい!」  
「じゃあ、三人でこうして想いを確かめておけば、もう大丈夫だよね」  
「うん」  
まるで鏡を向かい合わせた様に頷く双子の姉妹。  
その様子を見てボクもようやく胸が軽くなった気がした。  
これでめでたしめでたし、だろうか。  
「……」  
いや。あんまりめでたくなかった。  
何故なら彼女たちの視線がボクに――具体的に言えばボクの下半身に――向けられていたからだ。  
その部分はキラちゃんの半裸姿を前にすっかり興奮状態だったりする。  
 
「えっと……」  
ボクは何とか言い繕おうと言葉を探した。  
でも女の子にこんな状態を見られながら冷静に頭を働かせられる筈もない。  
どうしたものかと一人で悶々としていると、不意にキラちゃんがとんでもない事を口にした。  
「したい、のかな?」  
「なな――ッ!?」  
あんまりにも率直すぎる表現に思わず舌がもつれてしまう。  
動揺しまくりのボクを他所に、二人はまじまじとボクの下腹部を凝視している。  
「何だか苦しそうだよ?」  
と、ユラちゃん。  
その彼女達の言動でボクも下手な言い訳を考えるのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。  
「まあ、キラちゃんはそんな格好だし……ユラちゃんも服装は無防備だし……ボクも男だし……」  
素直に心情を並べてみる。  
「…………」  
キラちゃんとユラちゃんが顔を見合わせた。  
やっぱり呆れられたのだろうか。  
不安と後悔がちらりと胸中に過ぎったその直後、彼女達は何やら通じ合った様に頷いた。  
「あの、貴方がしたいなら……好きにしてもいい、よ……?」  
………………  
…………  
……  
一瞬。  
いや、暫くの間――思考回路が停止したのが分かった。  
「――え?」  
ようやくひり出せたのは自覚できるほど間抜けな声だった。  
願望が幻聴になったのだと、むしろそうに違いないと思った。  
 
だけど二人は真っ赤になって俯いて、それでもチラチラとボクの反応を窺って……  
そんな彼女達の様子が何より現実を物語っていた。  
「え、え〜と……ほ、ホントにいいのかな?」  
緊張のあまり声が上ずってしまう。  
まさかこんな展開になるなんて考えてもいなかった。  
「大体、ユラちゃんは今日は学校休んでたんだし……」  
「だ、大丈夫。だって、今日は――」  
「……? 今日は、何?」  
「そ、その、今日は……え〜っと――」  
ごにょごにょと口ごもるユラちゃん。  
その隣でキラちゃんが忍び笑いを漏らした。  
「あのね、ホントはユラちゃん、風邪でもなんでもないの」  
「え……えぇ!? じゃあどうして学校休んだの?」  
「あのね――」  
「き、キラちゃん! わ、私が言うから!」  
キラちゃんが何か言いかけたのを真っ赤になってユラちゃんが止める。  
ボクが首を傾げてユラちゃんを見やると、彼女はぎゅっと目を瞑って、  
「み、みんなの前で貴方と……その、キス、するんだって思ったら……は、恥ずかしくなっちゃって……  
一人で凄く赤くなってたからそれを見た剣持さんが病気だと勘違いしちゃったの!  
それで休まされちゃったの!」  
と言った。もっとも、最後の方は殆どヤケクソ気味に早口でまくし立ててたけど。  
ボクはそんなユラちゃんの独白を聞いて思わず呆然としてしまった。  
「……」  
「……」  
「…………」  
「…………あ、あの」  
「………………」  
「な、何か言ってよ〜!」  
何か言ってよ〜、と言われても。  
ある意味、これからしようとしている事の方が余程恥ずかしさの度合いが上なワケだし。  
キスでそんなに恥ずかしがってるのに、どうして裸の付き合いをあっさり提案できるのかと……  
それが女心の機微なのだろうか?  
(まあ……いいか)  
どうせ深く考えてもボクには分からないだろう。  
それに考える必要もない。  
ボクは余計な些事を脳裏から追い出した。  
そして、目の前で赤くなっているユラちゃんの肩をそっと掴む。  
「え、えっと……」  
逃げ惑う様に忙しなく動くユラちゃんの瞳を見据えながらボクは少しずつ顔を近づける。  
ユラちゃんが慌てて瞼を閉じた。  
そのままボクはユラちゃんと唇を重ねる――のではなく、額をこつんとぶつけてやった。  
「ひぇ……?」  
ユラちゃんが奇妙な声を出して目を開ける。  
その瞬間、ボクとユラちゃんの視線が、文字通り息がかかる程の距離でぶつかった。  
もう逃げられないと思ったのか、それとも緊張で動かせないのか、  
さっきの様にゆらゆらと瞳が彷徨う事はない。  
ボクは真正面からユラちゃんの眼を見て、そして言った。  
「本当に、いいんだね?」  
それだけを最後に確認したかった。しっかりと。  
「うん。いいよ」  
ユラちゃんも、ボクの目を見つめながら頷いた。逡巡の素振りもない。  
ボクはさっと彼女にキスすると、今度はキラちゃんの方に向き直った。  
 
「キラちゃんもいいんだね?」  
「うん。私も貴方と、したい」  
キラちゃんの返事を聞き届けたボクは、彼女を抱き寄せて唇を重ね、二人一緒にベッドに押し倒した。  
 
   ■   ■   ■  
 
とりあえず、ボクはまだパジャマ姿のユラちゃんの上着を脱がしにかかった。  
上から一つずつボタンを外してゆくと、それと比例してユラちゃんの顔の赤みが増す。  
「は、恥ずかしいよ」  
「大丈夫。可愛いから」  
「そ、そんなの関係な――あっ」  
ボタンを全部外し終わって前をはだけてやるとユラちゃんは小さく声を上げた。  
ボクの視線は露わになったその小振りな乳房に吸い寄せられてしまう。  
流石に双子だけあって形はキラちゃんそっくりだ。  
だけど、ユラちゃんの方がほんのちょっと大きさで劣ってる……気がする。  
「あんまりじっと見ないで……恥ずかしい、から」  
「……ゴメン」  
別にキラちゃんと比べる意味なんてなかった。  
ボクは謝ってからユラちゃんと唇を重ねる。  
舌でユラちゃんの歯を軽く撫でると、彼女はおずおずと口を開いた。  
ボクはユラちゃんの口腔に唾液を流し込みながら、手を彼女の胸に伸ばした。  
「ふぁ……ん……」  
一瞬、ユラちゃんが身体を強張らせる。  
だけどすぐに力を抜いてボクに身を任せる姿勢を見せた。  
「可愛いよ、ユラちゃん」  
「そ、そん……あ……」  
 
壊れ物を扱うように優しく乳房を揉むと徐々にその頂が硬くなっていった。  
それと共にユラちゃんの息が乱れ、目にもうっすらと涙が浮かぶ。  
どうやら感じてくれているらしい。  
そうと分かるとボクの胸中には安堵と、ちょっとした悪戯心が芽生えた。  
ボクはユラちゃんの耳元に口を寄せ、  
「どうしたの? もしかして、苦しい?」  
と、耳孔に息を吹き込む様にして囁いた。  
「あ……イジ、ワルぅ……」  
ユラちゃんが抗議の言葉を口にするが、その声音に混じる艶は更に濃くなっている。  
ボクは今まで抱いた事の無い、言い様の無い感覚に駆られ、ユラちゃんの胸の蕾を摘んだ。  
「ああぁん! そ、それっ、ダメぇ!」  
その感覚をあえて表すならば――嗜虐心――だろうか。  
ボクの手の内で悶えるユラちゃんを眺めて、心の片隅で悦んでいる自分が居る気がした。  
もっとも、本当の意味で彼女を傷つけようとか痛めつけようとか考えてる訳ではないけど。  
「ああ! あっ! んああぁッ!」  
摘んだ乳首を軽く捻ると、ユラちゃんはピンと四肢を突っ張った。  
「ユラちゃん、ココ、まるで小石みたいになってるよ」  
「そん、なぁ……言わ、ない……ひゃああ!」  
首筋に舌を這わせただけでユラちゃんは全身を震わせ、恍惚の表情で嬌声を漏らす。  
早くも彼女は快感の波に飲まれ始めている様だった。  
「はあ……ぁ! や、あ……んん」  
指先で触れるか触れないか程度の加減で乳房をなぞると、それだけでユラちゃんは焦れた様に身を捩ってしまう。  
普段の淑やかな振る舞いからは想像に難い痴態だ。  
ボクはもっと乱れた彼女を見てみたい欲望を覚えた。  
でも――そうはいかない。  
「んっ、あ……あ……?」  
唐突に愛撫を止めたボクをユラちゃんが縋る様に見つめてくる。  
「ど、どう……して?」  
いかにも物足りなさそうに身体をくねらせるユラちゃん。  
「ごめん。ちょっとの間、待っててね」  
ボクは切なげな表情のユラちゃんに唇を重ねると、傍らで荒い息をしているキラちゃんの方に向き直った。  
 

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