「今日は誰に告白されたのよ、舞?」
「・・・バスケ部の佐藤君と、野球部の西田君」「で、断ったってわけ?あの二人、この高校のトップ2なのよ?」
あーあ、もったいない。親友がそう言うのを、愛と舞は苦笑で誤魔化した。
桃衣姉妹は、彼女らが通う高校では名の通った美少女姉妹である。
しかし、天真爛漫な性格からは想像も出来ないほど身持ちが堅く、全ての告白を断っている。
その理由は、三人だけの秘密なのだが。
親友と別れた二人は、心持ち・・・いや、確かに足の回転を早くした。
早く家に帰りたい。
双子だからだろう、以心伝心と言わんばかりに同じ速度で歩いていた。
「ただいまー!」
「刹那くーん!」
玄関を開けるのももどかしく、愛と舞は声をあげる。
しかし、聞こえてくるのはテレビの声のみ。
首を傾げた二人は、室内に足を踏み入れた。
リビングでテレビを見ていたのは、二人の母親だった。
いつものこの時間ならば、刹那は間違いなくこの家にいて、出迎えてくれるはずなのに。
「ねぇ母さん、刹那君は?」
舞が、震える声を絞り出す。
まだ帰ってきていないと言われれば、すぐにでも家を出ていくつもりだ。
「刹那君なら一条さんの家に泊まることになったわよ?」
「・・・」
母親がそう言った時、二人は心が砕けたような錯覚に襲われた。
毎日顔を合わせて、抱きしめたりムギュッとしたり、一緒にお風呂に入ったりしてたのにと、黒いモヤモヤしたものが満ちてくる。
一条、と言う名前は、二人にとっては禁句に近かった。
刹那の幼なじみで。
双子で。
同い年で。
尚且つ、一緒にいる時間が長い。
刹那を奪い合うことになれば、勝てる気がしない。
それから何をしたか、二人は覚えていない。
気がつけば朝になっていて、寝過ぎだと母親に叱責されて。
これほどまでに刹那は彼女らの生活に馴染んでいたのだ。
「ただいまー」
待ちに待った声が玄関から聞こえた瞬間。
二人は、先程までの生気のなさが嘘のように飛び出した。