・・・何故だろうか。  
刹那は、自分に注ぐ好奇と羨望の眼差しを一身に浴びていた。  
 
 
事の起こりは一週間前。両親の都合で昔住んでいたこの街に帰ってきた日のことだった。  
懐かしさも相まって街を散策していると、酷似している二人の美少女が歩いていた。  
ただ二人は、刹那の知る幼なじみにも見えた。  
 
 
「・・・菫子ちゃん達な訳・・・ないよな」  
 
刹那ははっとした。  
口をついて出たのは、彼が昔裏切った少女の名前だった。  
 
幼なじみで、二人は双子で、何時も一緒にいた記憶。  
鮮明に脳裏に蘇るその風景をもみ消すかの様に、刹那は何度も頭を振った。  
 
「・・・帰ろう」  
 
刹那はそう独り言を漏らすと、少女たちに背を向けて歩き出す。  
首から下げているロザリオが夕日を反射し、赤ともオレンジともとれる色に染まった瞬間。  
 
 
「・・・刹那ちゃん?」「私たち・・分かるよね?」  
 
背中に声がかけられる。・・少々変わってはいるが、紛れもなく幼なじみの双子の声だ。  
頭でそう理解した刹那は、一気に走り始めた。  
 
 
過去、彼女たちとの約束を守れなかった罪から逃げるように。  
まるでピエロだ、なんて思いながら、野球をしていたために鍛えられた脚力を全力で振るった。  
 
「はぁっ・・はぁ・・」  
 
息を切らして、それでも走り続けた刹那の体力は限界をとうに突破しており。  
小高い丘にたどり着いた刹那の視界には、夕焼けに照らされた街が美しく映っていた。  
 
 
「ここで・・・あの娘たちと会ったんだよな」  
 
 
脳裏をよぎる幼かったあの日。  
そう、あの日もこんなに綺麗な夕焼けの中、彼女たち・・年上のお姉さんたちは佇んでいたのだ。  
 
「・・いるわけないか。もう社会人だろうしな」  
七年近く前の時点で、彼女らは高校生だった。  
今は立派な社会人だろうし、幼い自分の眼にも美人と解るほどの美しさがあったのだ。  
彼氏や、下手をすれば夫もいるんじゃないか。  
 
 
大樹にもたれかかりながら、刹那はそう思っていた。  
 
 
「あーあ、また来ちゃったー・・・・」  
「久しぶりね。あの子、元気にしてるかしら・・・」  
 
 
二人並んで誰かが歩いてくる気配がして、刹那は後ろを向いた。  
 
 
・・・眼を疑った。  
風に揺られる長い髪、木の陰から姿を露わにする美しい女性達。  
 
まるで七年近く前のあの日の、リプレイじゃないかー!?  
 
 
絶句した刹那。  
驚きのあまり声も出ない、といった様子の彼を見たのか、女性達も眼を見開いた。  
 
幾ばくかの沈黙が場を制し・・・・何度目かのそよ風が三人の頬を撫でた、そのとき。  
 
 
「・・・もしかして」  
「刹那・・・くん?」  
 
二人の女性は、同時に声を出した。  
 
「お姉・・・さん・・」  
どこか虚ろな眼で、刹那は彼女らをみた。  
柔らかな笑顔と、悪戯っぽい微笑み。  
頬が薄く紅に染まっているのは、夕焼けのせいだけなのか、否か。  
 
「会いたかったわよ、刹那ちゃん」  
「格好良くなったわね」  
 
呆然として立ち尽くす刹那に、二人が歩いてくる。  
 
「お帰りなさい」  
「・・またあえたね」  
 
二人は微笑みをそのままに、刹那の左右に立つ。  
 
「・・愛さん、舞さん」「また、一緒だね」  
「大好き・・・」  
 
 
七年前の記憶が、加速度的に色を取り戻す。  
刹那の家の隣に住んでいた双子のお姉さんが、大袈裟な程可愛がってくれた記憶。  
 
 
ある時偶然に出会い、次第に仲良くなり、一緒に勉強したり一緒に遊んだり、時にはお泊まりとして一緒にお風呂に入って二人に抱かれて眠った。  
そして、二人と行った性交と呼ぶには稚拙な性交。  
やがてキスも日常のこととなったころ。  
 
 
刹那は両親の仕事の都合で、引っ越すことになった。  
 
 
「舞さん、愛さん!!」  
とうとう堪えきれず、刹那は二人を抱きしめた。白い透くような肌。  
ふくよかに、それこそ女の象徴と言わんばかりの胸。  
甘い吐息。  
 
そのすべてが、刹那の想いを増大させていった。  
 
愛と舞の身体が刹那に密着する。  
野球をやっていたせいか、平々凡々な中学生とは全く比べものにならないほどがっしりした胸板に当たり、二人の胸が潰れる。  
 
 
「会いたかったよ・・」「寂しかったんだから・・。・・もう、離さないわよ・・・」  
「俺も・・・俺もです」  
感極まったのか、瞳を潤ませ出した愛と舞に微笑みかけて。  
刹那は、愛と舞それぞれに優しいキスをした。  
 
「ねぇ刹那ちゃん、こっちにはおじさん達も来てるの?」  
 
舞がふとした疑問を刹那にぶつける。  
刹那の右腕に抱きついている顔は、幸せそのものだ。  
 
「いや、俺の一人暮らし。親父もかーさんもいないから」  
「じゃあ、今晩私たち遊びにいってもいい?」  
 
 
左腕をとる愛は、眼を光らせて刹那に詰め寄る。  
「あぁ、構わない。・・・二人、だからな」  
「やったぁ!」  
「たくさん可愛がってあげるからねっ♪」  
 
どうやらノリノリらしい。  
刹那はこの無邪気なお姉さん達をどうするか、少し考え出した  
 
「私たち先生になったのよ♪」  
「アナタの担任になってるかもしれないわね」  
「そう・・・なんだぁ」  
 
夕食の材料を買いにスーパーまで来た三人。  
だが愛と舞は相変わらず引っ付き通しで、すれ違う男達は皆刹那に羨望の眼差しを向けた。  
 
「何かすっげぇ見られてません?」  
「刹那ちゃんが羨ましいのよ?ねぇ舞?」  
「そうそう!私たちみたいな美人姉妹に愛されるなんて滅多にないものね♪」  
 
また悪戯っぽい微笑みを浮かべて、二人は刹那により密着する。  
身長は刹那の方が少々高いため、なかなかどうして絵になりそうな感じだ。  
 
「・・・・」  
「舞・・愛・・・」  
「はい、よく出来ました♪」  
 
 
刹那がつまりながらも二人を呼び捨てると愛と舞は破顔一笑し、ソファにもたれている刹那にしなだれかかった。  
 
テーブルの上には、夕食で使われた食器が置かれている。  
 
 
「二人共、マジで呼び捨てていいの?」  
「何言ってるの。・・・私たちは、アナタのモノなんだから。ね、愛?」「そうよ、刹那ちゃん」  
 
二人が刹那にキスをする。  
あまりに艶っぽい二人の表情に、刹那の理性は焼ききれる寸前だ。  
 
「エッチはダメよ?」  
「今日は危ない日だからね?・・明日、たくさんしてあげるからっ」  
 
 
フフ、と微笑む双子。  
やる気を空かされた感じがした刹那は、しかし苦笑して。  
 
 
「・・まるで小悪魔だ」  
と呟いた。  
 
 
 
 
翌日以降、三人は場所を問わずに身体を求めあうようになるのだが、それはまた別の話。  
 

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