ある日の昼下がり、陽は一軒の建物の前で足を止める。  
「何時の間にかこんなデカい図書館が出来てたんだ」  
 陽は図書館を見上げ呟き、そして時計を見た。  
「まだ予定まで少し時間有るか。折角だから一寸寄って行くかな」  
 そう言うと陽は図書館の中に入っていった。  
 
 中に入ると館内は実に広々としており、陽は暫らく図書館の中を見て回った。  
 そして一通り見終わった頃ある棚で足をとめた。 視線の先には一冊の本。  
 かって大好きで何度も読み返した事のある本。  
 思わず懐かしくなり、久しぶりの読んでみようと本を手にとりカウンターに向かおうとした。  
 
「あっ!」  
 カウンターに向かおうとする陽の耳に女の子の声が飛び込む。  
 その声に陽が振り返るとそこには一人の少女が残念そうな顔をして立ってた。  
 背は陽よりもふた回りほど小さく、柔らかな淡い長髪をリボンで大きく二つに分け束ねた大人しく穏やかで優しそうな感じの少女。  
 少女の視線は陽の手にした本に注がれていた。 そして陽は気付いた。  
 あの娘もこの本を借りるつもりだったのだろう、と。  
 
 陽は歩み寄った。そして――。  
「はい」  
 微笑み語りかけ少女に向かって本を差し出した。  
「え?! そ、そんな……良いんですか?」  
 少女はあどけない其の顔に驚きの色をあらわにし問い返した。  
「うん。 実は何度も読んだことのある本でね。 それに大好きな話を他の人も読んでくれてるって嬉しい事だし」  
「そ、そうですかそれでは遠慮無く読ませて頂きますね」  
 少女は本を受け取るとギュット本を抱きしめた。  
 そして陽の方を向くと頬をほんのり赤らめながら  
「ありがとうございます」  
 そう言って笑顔を向けた。  
「どういたしまして。」  
 陽もまた笑顔で返した。  
 
「お〜い、双樹〜」  
「あ、沙羅ちゃん」  
 その時別の女の子の声が響いたかと思うと少女――双樹はその声の方に向かって返事をした。  
 陽も双樹の視線を追うように声のした方を見た。  
 視線の先にいた――沙羅と呼ばれた少女は双樹と同じ制服、同じ様な背格好をしてた。  
 だがコチラは髪を結ばずストレートに下ろしていた。  
 顔立ちもソックリであったが、良く言えば凛とした、というかキツ目の印象である。  
「探してた本は見つかったのか? ん? 誰だソイツ」  
 沙羅は怪訝そうな表情で陽を見ながら双樹に小声で尋ねた。  
「うん。 見つかったよ。と言うよりこのおにいさんが、自分が借りようとしてたのを双樹に譲ってくれったの」  
 そう双樹が笑顔で返事をすると沙羅は少し警戒心を解いたようだ。  
 沙羅は陽に向かって軽く会釈をした。  
 
 陽も会釈で返し沙羅の方を見た。 手には写真集が抱えられていた。 どうやら海や海洋生物の写真集らしい。  
「海、好きなの?」  
 陽が尋ねると沙羅の代わりに双樹が答える。  
「双樹もですけど、沙羅ちゃんイルカが大好きなんです。 その本もやっぱりイルカが載ってるからでしょ?」  
「うん。 まあな。」  
 沙羅はぶっきらぼうに答える。 だがその表情はお目当ての本が見つけられて満足してると言った感じだ。  
 
 陽は何かを思い出し歩き始め、ある本棚の前に来ると双樹たちに手招きした。  
 双樹は沙羅の手を引き陽のもとに来た。  
 陽はやって来た双樹と沙羅に一冊の画集を手渡した。  
 それはある人気アーティストの画集で、その作家はイルカなど海洋系のイラストを得意とし好んで描いてる作家であった。  
 沙羅は表紙を見た瞬間から気に入ったのか陽の手からふんだくるように受け取り、ページを捲り始め食い入るように見つめ始めた。  
 
「……本当にイルカ好きなんだね」  
 陽は感心したような呆れたような表情で笑いながら呟いた。  
「あらら、沙羅ちゃんスイッチ入っちゃったかも。 ごめんなさい沙羅ちゃんイルカの事になると夢中になって回りが見えなくなっちゃって」  
 双樹は苦笑を浮かべながら申し訳無さそうに陽を見た。  
「いいよ。気にしなくても。 それより気に入ってもらえたようで紹介した甲斐があって嬉しいよ」  
 陽は双樹に向かって微笑んだ。  
「さてと、僕はこのあと用事があるんで行くね」  
「そうですか。 今日は本当に色々ありがとうございました。 あの……また会えますか? 改めて御礼もしたいので」  
「お礼なんてそんな大げさに考えなくても良いよ。 そうだね、ココで会ったって言う事は同じ町に住んでるって事だよね。 じゃあまたその内何処かで逢えるんじゃないかな」  
 言って陽は時計を見た。  
「ゴメン、マジでそろそろ行かないとやばいんで。それじゃあ」  
 そう言って陽は駆け出した。  
「あ、ハイそれでは」  
 そうして双樹達と陽はその場は別れた。  
 
 
 
 
 その日の夜、双樹と沙羅の家の彼女たちの部屋。  
「沙羅ちゃんってばまた見てる。 よっぽど気に入ったんだね」  
「うん、まあな」  
 そっけない返事ではあったが沙羅のその顔は美しいイラストに魅せられとても楽しそうだった。  
「それなのにお兄さんにろくにお礼も言ってないんだから」  
「う……」  
 双樹の言葉に沙羅は言葉に詰まった。  
「お、怒ってなかったか……?」  
「大丈夫、でも一寸呆れてたかな?」  
「え……」  
 沙羅の顔が赤くなる。  
「あれ? 沙羅ちゃん、もしかして照れてる?」  
 双樹は悪戯っぽく笑って沙羅に話し掛けた。  
「そ、双樹〜」  
 沙羅は焦ったように益々其の顔を赤らめる。  
 そんな沙羅に双樹は口元を綻ばせ、だが直後やや真剣な面持ちで口を開く。  
「それはそうと今度会ったらちゃんとお礼言わなきゃダメだよ」  
「あ、ああ。 そうだな」  
 そして沙羅は気圧されるように応えた。  
 そんな沙羅に双樹は再び其の顔に笑顔をともしたのだった。  
 

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