「・・・・」
『・・・・』
妙に静かな雛菊家のリビングには、今現在十三人の女性陣と一人の少年という世にも奇妙な人数構成が出来上がっていた。
「・・あの」
「どうしたの葵ちゃん」「逃げようなんて思ってないよね?」
少年−篠田葵−は、秒の単位で自分の言葉をかき消した幼なじみたちをちらりと見る。
・・目が笑っていない。ひしひしと身体全体で感じるプレッシャーは、間違いなくこの二人が放っているのだろう。
女は怖いぞ・・・いつか本で読んだそのセリフが、彼の頭に鳴り響いた。
そもそも何故こんな状況になったのかが葵には理解しきれなかった。
周囲にいる女性陣を大まかにあげていけば、幼なじみの一条姉妹・お嬢様の桜月姉妹・後輩の白鐘姉妹・一つ年上の千草姉妹・従姉妹である雛菊姉妹・幼なじみのお姉さんたちである桃衣姉妹・雛菊姉妹の母親のみやび。
(僕、悪くないよね?)
心の中で呟いてみるも、当然答えはない。
はぁ、と彼が十数回目の溜息をついたとき、不意にみやびが立ち上がった。
「私たちが日替わりで葵くんを愛してあげるのはどうかしら?」
「みやびさんっ!?」
葵は驚きのあまり声をあげてしまった。
日替わりで愛するという意味が分からないほど純粋ではないのだ。
「でも、葵くんならこれからもっと沢山の女の子を籠絡することも出来そうだし・・・」
「私たちに溺れさせて周りを見えなくするってことね?」
「そんなこと・・・」
ない、と言い切れない。それが彼が彼である所以なのだが。
そもそも、今日この場にこれだけの女性陣が集まったのも葵が本当は誰が好きかをはっきりさせるためだ。
これから一週間、一日ずつ彼と夜を共にすることで少しでも彼の意識をはっきりさせられれば、というみやびの考えはすぐさま受け入れられた。
「じゃあ、私とユラちゃんが月曜日ね」
「葵くん、よろしくね」
桜月姉妹が先ず口を開いた。
「じゃあじゃあ、るるたちは火曜日ねーっ♪」
「うんうんっ」
続いて雛菊姉妹。どうやら早い者勝ちみたいだ。
「なら私と双樹は水曜日にするからな」
「お兄さん、よろしくお願いしますね」
白鐘姉妹は水曜日のようだ。
「私と愛は木曜ね♪」
「おねーさんにおまかせなさいっ♪」
やたら嬉しそうな桃衣姉妹。
「じゃ・・じゃあ、私たちは金曜日で・・・」
「葵さん、お手柔らかに・・・・」
やはりビクついている千草姉妹。無理もないか。
「なら私と薫子が土曜日だね」
「絶対に負けないよっ」
妙に意気込んでいる一条姉妹。
「日曜日は私ですね」
最後に微笑むみやびさん。だが、その微笑みの中に艶が感じられた。
「あの、僕の意見は?」「言える立場なの?」
一応抵抗してみるが、菫子に返され葵は黙る。
「じゃあ、来週の月曜日からだね」
「私たち絶対に負けないからね!」
話し合いが終わったらしく、和気藹々とした雰囲気に包まれる雛菊家のリビング。
だがそんなものとは無関係に、葵はテンションの下がりを感じていた。
ていうかみやびさん人妻なのにいいのか?