春、草木が芽吹き新たな一年の始まりを告げる季節  
 ボクがユラちゃんと出逢ってから丁度一年。 だがあの頃と決定的に違う事が一つ。 それはボクとユラちゃんの間柄が単なる親友やクラスメイトではなく付き合ってる恋人同士だと言う事。  
 一時は友達同士ですらいられないと覚悟した時もあった。 でも今はこうして晴れてお互い恋人同士になれてボクの心は幸せで満ち溢れてた。 しかも嬉しい事に今年度も同じクラスになれたのだ。  
 
 そして教室で待ってるとユラちゃんが入ってきた。  
「おはよう ユラちゃん」  
 ボクはユラちゃんに向かって挨拶を送る。  
「おはようございます」  
 そしてユラちゃんも笑顔で挨拶を返してくれた。 だが心なしか其の笑顔に陰りが見える。 いや、陰りと言うより何か遠慮して気持を押さえようとしてるような……。  
 次の瞬間その理由が解かったような気がした。 一緒に入ってきたユラちゃんの双子の姉のキラちゃんがあからさまに不機嫌なオーラを放っていた。  
 
「ユラちゃん、キラちゃんどうかしたの?」  
 ボクはユラちゃんにそっと耳打ちして尋ねる。  
「うん、ホラ、キラちゃんのカレ今年別のクラスになっちゃったでしょ。 それで……」  
 なるほど。 そう言うことか、とボクは事情を理解した。 其の次の瞬間背後に気配を感じ、振り返るとそこにはキラちゃんがいた。  
「キ、キラちゃんん?!」  
 驚きのあまりボクは椅子からずり落ちそうになった。  
「なによ失礼ね。 そんなに驚かなくったって良いじゃない」  
 そう言ってキラちゃんは膨れてみせる。 そうは言ってもボクは、以前キラちゃんとの間にあったあることのお陰で正直苦手だった。  
「ふふっ、相変らず仲がいいのね。 あ、私のことは変に気遣わなくったっていいからね」  
 そう言ってキラちゃんはユラちゃんに向かって微笑みかけた。 二人は双子の姉妹だけあってとっても仲良しだから。  
 だが、僕に送られた視線には程々に自重しときなさいよ、と言わんばかりのものだった。 正直言って肝が冷えた。  
 
「ゴメンね」  
 そんなボクに向かってユラちゃんは気遣い語りかけてくれる。  
「ううん。 全然気にしてないから」  
 ボクはそう言って笑顔で答えて見せた。  
 確かにキラちゃんの事は気の毒とは思うが、まぁそれにしたって同じ学校で校舎なんだから、ねぇ。  
 だが事態はボクの知らない所でややこしい方向に動きだそうとしていた。  
 
 
 
  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇    
 
 
 
 同時刻、キラの彼氏こと緋守 双司(ひかみ そうし)のクラス。  
 双司が席に付いて待ってると先生が入ってくる。 そして転入生が来る事を告げられた。  
 丁度一年前のキラたちと出会った時を思い出すな、なんて事を考えてると、先生に促され入ってきたのは二人の少女達――もとい一組の双子の少女達であった。  
 双司はますます一年前にソックリだな、と思った次の瞬間記憶の底から埋もれてた記憶が蘇る。  
「薫子ちゃんと菫子ちゃん!?」  
「えっ? って、もしかして緋守 双司クン?!」  
「やだ! 本当にダーリンなの?!」  
 3人はほぼ同時に声を発した。   
「そっかー。ココってむかしダーリンが引っ越した町だったんだ」  
「そうだよ。 そして今またココに君たちが引っ越してくるなんて凄い偶然だね」  
「違うよー。偶然なんかじゃないよ」  
「そうそう。 こういうのは運命、って言うんだよ」  
「やっぱり私達は運命の赤い糸で結ばれてるんだよ」  
 3人は互いに再会できた喜び沸き語り合ってると先生の注意する声が聞こえた。  
「あ、いっけなーい」  
「先ずは転入の挨拶しなきゃだね。じゃ、またあとでね」  
 
 予期せぬ懐かしい幼馴染との再会に双司の胸中は驚きと喜びで満ち溢れていた。 おまけに幼い頃から可愛かった二人が成長して更に綺麗になってたのだから。  
 さらに先生は三人が気心の知れた仲だと知ると気遣って席も隣同士にしてくれた。  
 休み時間になると3人は待ちかねたように話し出した。 会えなかった時間の空白を埋めるようにお喋りに夢中になった。  
 だが話の最中双司は背後に強烈な視線と気配を感じる。 振り向くとドアのところに視線の主は、桜月キラは立っていた。  
 キラと視線が合った瞬間双司の顔から一気に血の気が引く。  
 双司は薫子と菫子に断わりを入れてキラの元へ駆けていった。 そして二人は廊下に出た。  
 
「や、やぁキラちゃん……」  
「ゴキゲンヨウ双司クン」  
 双司がぎこちない笑顔で語りかけるとキラもにっこりと微笑んだ。 だが其の声は刺刺しく、目は全く笑ってはいなかった。  
「随分と仲良さげに話していたけれど、あの娘達だぁれ?」  
「え、えっとその、幼馴染なんだ。 懐かしくって昔話に花を咲かしていたんだ。 ハハ……」  
「あらそう、幼馴染。 でも私幼馴染って居ないからどういうのか良く解からないわ」  
「え、えっとその。 兄弟や姉妹みたいなものだよ」  
「ふーん? きょうだい、ね」  
「そ、そうなんだ」  
「でも私異性のきょうだいって居ないから解からないわぁ」  
 一言言葉を交わすたびに周囲の気温が一度、また一度と下がっていってるような寒々しさを双司は感じていた。  
 そんな背筋が凍りつく思いを抱きながらも切り出す。  
「で、でね。 一つお願いがあるんだけど、僕達が付き合ってるって言うの二人には暫らく内緒にしておいてくれない……?」  
 双司の其の言葉を聞いた瞬間キラのこめかみが引きつった。  
「え、えっとね。 ボクに付き合ってるヒトがいるって知ったらあの二人きっと必要以上に気遣って僕と距離を置こうとしちゃうと思うんだ、きっと」  
 また気温が下がったような錯覚を覚える。 最早体感温度は氷点下に達していたのだろう。  
「も、勿論折りを見てちゃんと話すよ?! で、でももう暫らくは幼馴染として昔話とかに興じたいんだ。 だ、だから……」  
 懇願するように双司が続けてると、キラは一つ溜息をついて微笑んだ。  
「解かったわよ」  
 あんまりにも必死に懇願する双司が哀れに思ったのだろうか。 キラの顔から険が取れた。  
 その笑顔に双司は安堵の息を洩らす。  
「あ、ありがとう。 キラちゃんならわかってくれると思ったよ。 え、えっとそれでの今日の放課後なんだけど……あの二人と一緒に帰るって約束しちゃったんだ。 だ、だからその……」  
「解かったわよ。 もう、そんな遠慮がちに顔色伺わなくってもいいから。 じゃぁ私そろそろ行くわね」  
 
 
  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇    
 
 
 休み時間、ボクがいつものようにユラちゃんとお喋りに興じていると、戸が開きキラちゃんが帰ってきた。  
「あ、キラちゃんお帰りなさ……」  
 だが明らかにいつもと違う雰囲気を放っているキラちゃんにユラちゃんは口をつぐんでしまった。  
 今朝も不機嫌だったが、いまのキラちゃんはそれに輪をかけたものだった。 そしてそんなキラちゃんはそんな気持を覆い隠すかのように微笑んだ。 そのあからさまに不自然な笑顔にボクは思わず腰が抜けそうになり、ユラちゃんも其の違和感に戸惑いの色を隠せなかった。  
「えっ、と確かキラちゃんはアイツの所に行ってきたんだよね……?」  
「うん。 彼のクラスに遊びに行ってたはず……」  
 で、帰って来たらあからさまに不機嫌で……??  
 そうこうしてると授業開始のチャイムが鳴った。  
「とりあえず授業が終わったらボク様子見に行ってみるよ」  
 
 そして休み時間あボクはあいつの教室へ向かいそっと戸を開け中の様子をうかがう。  
 そして探す。 居た、けど問題は話してる相手だ。  
 知らない相手、しかも双子の女の子。  
 それは髪形を除けば瓜二つな双子の女の子達。 キラちゃんという彼女がいながら他の女のコと仲良くお喋りしてる事に突っ込むべきか、あるいはよくよく双子の女の子と縁があるヤツだなァと突っ込むべきか、そんな事が頭をよぎる。  
 そして一言声をかけ少し尋ねてみようかと思ったその時背後に視線を感じる。 振り返れば視線の主はキラちゃんだった。  
 キラちゃんはにっこり微笑み視線で僕に来るように促す。 相変らず傍目には優しげな笑顔だが無言の圧力を持ってる。 こういうところもユラちゃんとは違うんだよなと思いながらすごすごと従う。  
 
「こんな所に何の御用かしら?」  
 廊下に出たボクはキラちゃんから問い詰められてるような形になる。  
「えっと、その……」  
 相変らず静かな圧力を放っているキラちゃんの問いに思わず口ごもる。 だが別に悪い事してるわけじゃないんだから、と思い切って口を開く。  
「さ、さっきからキラちゃんが不機嫌そうにしてるからチョット気になっちゃっ……」  
「貴方には関係ないでしょ」  
 ボクが言い終わるよりも早くキラちゃんはスパッと切り捨てるように鋭く言葉を放った。 そしてボクは其の言葉に少しムっとした。  
「そりゃ確かにそうかも知れないけどさ、そのせいでユラちゃんも困惑してるんだ。 ユラちゃんの姉である貴方に何かあるとユラちゃんにだって影響与える以上は無関係とは言えないと思いますが?」  
 ボクがそう言うとキラちゃんは一瞬驚いたように眼をパチクリさせ、そして微笑んだ。 だが其の微笑には少し影や憂いが含まれた寂しげなものに見えた。  
「? 何かおかしかったですか?」  
「いえ、何でも。 ただ、チョット羨ましいな……って」  
「羨ましい?」  
「いえ、何でも有りません。 心配してくださったのに失礼な物言いしてしまって申し訳ありませんでした」  
 そう言ってキラちゃんは微笑んで頭を下げた。  
「い、いやそんなボクの方こそ……」  
 其の丁寧な対応にボクが戸惑っているとキラちゃんは口を開く。  
「コレは私自身の問題ですから心配はご無用です。 私からも言っておきますが貴方からもユラちゃんに伝えて置いてください」  
「そ、そうですか? 分かりました。 貴方がそう言うのなら……」  
 
 
 少し釈然としないまま、ボクは自分の教室へと戻った。 教室に戻ったボクと視線が合ったユラちゃんが駆け寄ってくる。  
「ねぇ、何か解かった?」  
「いや、ゴメン……」  
 実際には多少は察しがつくが、だがキラちゃんから直に釘を刺れてしまってるからなぁ……。  
「そう……」  
 ボクが答えるとユラちゃんは寂しそうに声を洩らす。  
「大丈夫だよ。 キラちゃんがシッカリしてて、多少の困難があっても跳ね返す気丈なコだってことは妹であるユラちゃんが誰より知ってるはずだろ?」  
「ええ、それは勿論……」  
「だからさ大丈夫だよ。 信じようよ」  
「分かったわ。 貴方がそう言うのなら。 でも……」  
「うん、分かってる。 若しどうしてもって時には、そのときはボクも出来る限り力になるよ。 キラちゃんはユラちゃんの大事なお姉さんなんだ。 それはボクにとっても姉――この場合義姉かな?みたいなものなんだからさ」  
 
 
  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇    
 
 
――羨ましい。 思わずキラの口から出てしまった其の言葉。  
 ユラが其の彼に対し向ける想いの強さ、そして彼の返すそれにも負けないほどの強い、強い想い。  
 キラとて自分の恋人――双司を想う気持の強さに掛けては誰にも負けないつもりだった。  
 例え双司から返ってくる想いがそれに見合ったもので無かろうと。  
 自分は見返りが欲しくて彼を愛してる訳ではないのだと。  
 そう思っていた。  
 だが今日の双司を見て何だかやるせない気持がこみ上げてきてしまった。  
 
 つい思ってしまう。 ユラ達なら例え其の間にどんな人が現れようと決して揺らがないのだろうと。  
 決して其の間に何者も割り込ませたりしないだろうと。  
「いけない、いけない。 そんなヒトと比べるのなんて間違ってるわね。 うん、こんな時こそ……信じなくちゃ」  
 
 だがそれから数日間はキラにとってはあまりにもやるせないものだった。  
 あれ以来双司と学校で会う機会、話す機会がめっきり減った為。  
 いつも転校生の双子――薫子と菫子と一緒であったからだ。  
 暫らくはキラは口を挟まなかった。 だがいい加減焦れてきた。  
 
 
 
「双司クン」  
 ある日の休み時間廊下で双司は自分を呼ぶ声に振り返る。  
 確かめずとも分かるぐらい耳に馴染んだ声――キラだった。  
「や、やぁキラちゃん」  
 微笑んで応えるが表情がややぎこちない。  
「ねぇ久しぶりにお昼一緒に食べましょ」  
 にっこりと微笑みを浮かべての誘い。  
 普通の男子であれば一も二も無く応じる所なのであるが双司は答えを言いあぐねてる。  
 そしてややあって双司は重そうに口を開く。  
「あ、ありがとう。 でも実は既に今日は先約があって……」  
 其の答えにキラの笑顔が僅かに、ほんの僅かであるが引きつる。  
 先約の相手が誰だか聞かずとも分るから。  
 
「そう、残念ね。 じゃぁ明日なら良いかしら?」  
 其の言葉には有無を言わさぬ圧力を双司は感じる。  
「あ、明日? あ、うん大丈夫だよ」  
「そう? 良かった。 じゃ、明日は双司クンのお弁当も私が準備しとくから」  
「あ、うん。 楽しみにしてるよ……」  
「ありがと。 期待しててね。 じゃ、私は教室に戻るわね」  
 そう言ってキラは笑顔で教室へと駆けていった。  
 だがそれを見送る双司の表情はどこか重たげであった。  
 
 
 その日の昼休み。 双司は薫子と菫子と共に昼食をとっていた。  
 ここ数日の日課とかした光景。 だが昨年度までは其の相手は薫子と菫子ではなくキラだった。  
 そして明日久しぶりにキラと共に昼食をとる。  
 だが其の事を双司は中々切り出せずにいた。 そして切り出せぬまま昼食時間も終わろうとしていた。  
 幾ら言い出しずらいからと言って言わないわけには行かない。  
 そう決心して口を開こうとした時遮るようにそれより早く薫子と菫子が口を開く。  
「ねぇ、双司クン」  
「お弁当美味しかった?」  
 そう、薫子と菫子と共に昼食をとってるだけでなく、其のお弁当もまた彼女達の手作りであった。  
「うん、とっても美味しかったよ」  
「良かった。 明日も期待しててね」  
「頑張って作っちゃうんだから」  
「そ、其の事なんだけど……」  
 双司が重たい口を開くと二人は不思議そうな顔をする。  
 
「あ、明日はその約束しちゃったんだ。 去年のクラスメイトと一緒にご飯食べるって。  
だから気持は嬉しいんだけどゴメンね……」  
「え〜そうなの?」  
「残念〜。 でも約束なら仕方ないか」  
 二人の答えを聞いて双司はほっと胸をなでおろす。 だがそれも束の間であった。  
「あ、じゃぁさ私達も其の席に一緒させてもらえないかな」  
「あ、それ良いネ。 ダーリンの友達なら私達も会いたいし」  
「え?」  
 その声を聞いて双司の顔が蒼ざめる。  
「楽しみだね菫子ちゃん」  
「うん、私達の知らないダーリンの話一杯してもらおうね」  
(ああぁぁぁ……)  
 もはや双司が何を言っても耳に届かないと言った風であった。  
 
To be continued.....  
 
 

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