「今日もユラちゃんは来ないの?」  
「うん、ゴメンね。 貴方に申し訳なくって会えない…って。」  
「う〜ん。 そんな気にしなくっても良いのに。 むしろ僕のほうが謝らなきゃいけないような気がするくらいなのに。」  
 ユラが来ない以上、結果的に二人で逢っていた。 今までの内緒のデートとは違いユラも知っての上での事。 隠し事せず堂々と逢ってる訳である。 だが二人共気持ちは今一つ浮かなかった。  
「もしかしてユラちゃん、他に好きなヤツでもいるのかな。」  
 少年は何の気なしに呟いた。  
「え?」  
 だがキラはその一言に思わず声を上げた。  
「あ。 イヤ、そんな事ある訳ないよね。 ゴメン。 何となく言ってみただけだから。」  
 少年は慌てて答えた。  
「もう。 変な事言わないでよね。」  
 キラはクチを尖らせて言った。  
「アハハ。ゴメンゴメン。」  
 少年は照れ笑いで返す。  
「でも…、もしそんな人がユラちゃんにいたら…、貴方はどうする?」  
「え…? う〜ん。 でも若しそうなっても僕にはキラちゃんがいるし…。」  
 言いかけで少年はキラの視線に非難の色を感じハッとした。  
「って、そんな事ある訳無いじゃん! ね? そうだよ。 ありえない仮定の話をしたってしょうがないじゃん。」  
 少年は慌てて答えた。  
「うん。 まぁ、それもそうね。」  
 
 キラは少年の答えが期待とは違ってたので少々残念だった。  
 てっきり…  
<キラちゃんもユラちゃんも僕の大切な恋人なんだ!! 例え相手が誰だろうとコレだけは譲れない!!>  
…そんなセリフを期待してたからである。  
 だが返ってきた返答は自分への愛は感じられたものの、ユラに対しては何処か冷めたものだった。  
 だが、そんな返事をさせてしまったのは、多分自分にも非があるのだろうとキラは感じた。  
 二人っきりのデート、 それはキラから言い出すこともあれば少年から切り出した事もあった。 大体がユラに用事があって来れない場合であった。  
 だが思い起こせばユラを思えばそういう時は、二人とも逢わないのが一番良かったはず。  
 だが二人っきりで逢瀬を重ねてしまった。 後ろめたさは有ったものの二人っきりの秘密で有ると言う事に魅惑も感じていたからである。  
 そうして出逢い続けてた事が少年の中でキラとユラにそれぞれ違う思いを抱かせる事に繋がったのかも知れなかったからである。  
 二人っきりで逢ってたのはユラには当然内緒であった。 だがもしかしたらユラも心のどこかで勘付いていたのかも知れない。 そしてそれが原因で心が離れていってたのかも知れなかった。  
 
「ねぇ。この後ウチに来ない?」  
 キラは少年に言った。  
「え、でもまだユラちゃんは…。」  
「もう、そんな悠長な事言っててどうするの?! 大丈夫よ。 ユラちゃんだって本心では逢いたいに決まってるんだから。」  
 そうしてキラは半ば強引に少年を家に招いた。  
(そうよ。 大丈夫よ。 実際に会えば直ぐ元通りになるはずよ。)  
 
 
「ただいまー!」  
 玄関に元気の良いキラの声が響く。  
 ややあってユラが出迎えに現れる。  
「おかえりなさい。 キラちゃ…」  
 言いかけてユラは言葉に詰まった。 心の整理も準備も出来てないままの突然の少年の来訪にユラは戸惑った。  
 少年もまたそんなユラの姿に戸惑い、照れ笑いを浮かべるしかなかった。  
 二人が固まってる間にキラはこっそりユラの後ろに回り、そして不意にユラの背中を押した。  
「きゃっ?!」  
 キラに押されたユラはそのまま前につんのめって、少年の胸に飛び込む形になる。  
 少年に抱き止められたユラが驚いて顔を上げると少年と視線が合った。 驚きと困惑がユラの顔に浮かぶ。 そして次の瞬間  
「ゴ、ゴメンナサイ!!」  
 そう言ってユラは少年の腕から飛び退き、そして後退る。  
「あ…あの、わ、私…。」  
 顔にはより一層困惑の色を深めたままユラは走り出した。  
「ちょ…ちょっと! ユラちゃん?!」  
 キラは驚きの声を上げる。 隣では少年も困惑してる。  
「ま、待ってよ!! ユラちゃん! ホ、ホラ! 貴方もボーッとしてないで!」  
 キラも少年の腕を取ってユラを追いかけ走り出した。  
 だが、キラ達が追いつくより先にユラはある一室に飛び込み鍵をかけてしまった。  
 
「ごめんなさい。ユラちゃんたら本当にもう…」  
「いや、僕なら大丈夫。 気にしてないから。 ユラちゃんのそういう引っ込み思案でシャイなところ僕は嫌いじゃないし。 そんな所が彼女の魅力なんだから。 でも…。」  
 少年は言いかけて言葉を呑んだ  
「でも…?」  
「ううん。 何でもない。」  
 少年は…  
<やっぱり3人で付き合うってのがそもそも無理だったんじゃ>  
…そう言おうとしたが止めた。 先程も同じ様な事を言ってキラから非難の視線を浴びたばかりだったのだから。  
 
 少年を門まで送った後、キラが屋敷に戻るとそこには申し訳無さそうに佇むユラの姿があった。  
「ユラちゃん!!」  
 キラはユラの姿を見るなり思わず怒鳴りつけてしまった。  
「ご、ごめんなさい…。 あの、わ、私…。」  
 キラに怒鳴りつけられユラの顔は今にも泣き出しそうだった。 そんなユラの顔にキラは我に返った。  
「ゴ、ゴメンね。 ユラちゃん。 思わず怒鳴っちゃって。」  
 慌てて取り繕うキラ。  
「ううん。 悪いのは…私、だから…。」  
 ユラは泣き出しそうな顔のまま頭を大きく横に振る。  
「ねぇ、でも本当にどうしちゃったの? ユラちゃん。」  
「…分からない。 分からないの…。」  
 キラの問いにユラはただ首を横に振るだけだった。 そんなユラに対しキラはこれ以上問い詰める事など出来なかった。 ユラが嘘をついたり隠し事など出来ない性格である事は、キラが誰よりも良く知っていたから。  
 
 キラは少年が呟いた言葉を思い出していた  
【 もしかしてユラちゃん、他に好きなヤツでもいるのかな。 】  
 少年が何気なく言ったこの言葉、実はキラには思い当たる節が無い訳ではなかった。  
 ユラにはとても親しい男子クラスメイトがいた。 ユラはそのクラスメイトに対しかなり心を開いており、家にも何度も招待してた。 それ故キラも家で会った事があった。  
 その時、そのクラスメイトがユラに向ける眼差しにキラは気付いた。 その眼差しにユラに対する恋慕の想いが込められてる事に。   
 だがユラがその気持ちに気付いてる様子は無く、クラスメイトの方も気持ちを明かすつもりは無さそうだった。 それ故キラも大して気に止めなかった。  
 だが本当にユラは気付いていなかったのだろうか。 またユラが向ける想いも本当にクラスメイトとしてだけだったのだろうか。  
 キラは先程ユラが駆け込んだ部屋の扉を見た。  
 そこはグランドピアノが置いてある部屋。 ユラがそのクラスメイトを招いた際必ず通し、演奏会兼お茶会を開いてる部屋だった。  
(さっきユラちゃんがこの部屋に駆け込んだのは偶然なの? それともまさか…?)  
 キラの胸に疑問が沸き起こる。  
 
 日付も変わって翌日の昼下がり。 キラはユラに問い掛ける。  
「ねぇ、ユラちゃん。 最近は彼来てないの? ホラ、時々ウチにピアノ弾きに来てる…」  
「ええ。 夏休みだから家で練習に専念したいんですって。 練習中の曲を完成させたいって言ってたわ。 どんな曲なんだろう。 楽しみだなぁ。」  
 そう言ってユラはうっとりとした表情で瞳を閉じた。  
「そうだ。 もうすぐ夏休みの登校日よね。 逢ったら聞いてみよっと。 若しかしたら新しい曲、完成してるかもしれないし。 そうしたらまたウチに弾きに来て欲しいな。」  
 楽しそうに話すユラを見ながら、キラは胸の内の疑問を解くべくユラに問い掛ける。  
「ユラちゃん。 彼の事好きなの?」  
「ええ、大好きよ彼のピアノ。 とっても元気で力強い演奏で、聴いてるとコッチまで元気を分けて貰えるみたいなの。 あ、でも優しい曲やロマンチックな曲も得意なのよ。 コッチもとってもステキなの。」  
(いや、あのね。 私が訊いてるのは演奏の話じゃなくって…)  
 とは言え楽しそうに話すユラの口調や、夢見るかのようなうっとりとした表情。 それはキラの疑問に対する回答としては十分なものであった。  
 そしてキラは胸の内である決心をした。  
 
 

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