春休みも半ばを過ぎたある日、ボクは隣町のデパートに来てた。   
家族に頼まれてた買い物も済ましそろそろ帰ろうかと思ってたその時子供の泣き声が耳に飛び込んできた。   
泣き声の方に目をやると幼い女の子が泣いている。   
そしてその前には自分と同じぐらいの年頃の少女がしゃがみこんで必死になだめようとしてた。  
「どうかしたんですか?」  
 思わずボクは声をかけた  
「あ、どうやらこの女の子迷子らしいんです」  
 振り向いたその娘の顔を見てボクは思わず息を呑んだ。   
藍色のリボンで纏められた艶やかなストレートの黒髪、整った端正な顔立ち、優しく穏やかそうな大きな美しい瞳は見てると吸い込まれそうだった。  
 女の子は一向に泣き止む様子は無く、それどころかなだめようとしてる少女までもが今にも泣き出しそうな顔をしてた。   
よく見れば時折腕時計に目をやってる。  
「こういう大きいデパートには大体迷子センターとか有るんですよ。  
そこに連れて行けば多分アナウンスとかでこの子の母親を探してくれるハズですよ。」  
「そうなんですか? 私こういうデパートとかってあまり来たことなくって」  
 少女は感心したように大きく目を見開きボクを見つめた  
「それよりさ、若しかして人と待ち合わせしてるんじゃないですか?」  
「ええ!? た、確かにそうですけど… どうして分かったんですか?」  
 彼女の問いにボクは彼女の左手首を指して答えた。  
「時計。さっきから気にしてたみたいですから。 だからさ、この子の事はボクが何とかするから」  
「え? でも… 」  
「相手の人、待たしちゃ悪いだろ?」  
「そ、それではお言葉に甘えて、この子の事よろしくお願いします。 ありがとうございます。  
このご恩は一生忘れません。 それでは失礼します」  
 彼女は深く頭を下げ丁寧にお辞儀をし、踵を返し足早に走り去っていった。  
「さて…と、それじゃぁお嬢ちゃん。 ママを探してくれる所に行こうか。   
きっと直ぐにママに会えるよ。」  
 
 女の子を送り届けたあと、家に帰り着いたボクは晩御飯も済ませ部屋で昼間出逢った少女の事を思い出していた。  
(可愛かったよな… それも物凄く。 いや、ただ可愛いだけじゃない。 清楚でおしとやかで… 優しくって。)  
 思い出すと自然と頬が緩む。   
(また逢いたいな…。 でも、もう2度と会う機会も無いだろうな…)  
 そう思うと途端に気持ちがブルーになる。  
(だけどもし再会できたなら… それって運命かもしれないな。 …なーんてな)  
 
 その後町や道を歩きながら彼女との再会を心のどこかに期待してたりもしたが、結局春休みの間に出逢う事は無かった。  
 ま、現実なんてそんなものだ。  
 そして春休みも終りを告げ始業式の日を迎える。  
 
 始業式も終り教室で先生を待った。 程なく先生が入ってきてホームルームが始まった。   
一通りのお決まりの挨拶が済むと先生は今日転入してくる生徒がいることを告げた。  
 先生に呼ばれ戸を開けて一人の少女が入ってきた。  
(あ、デパートで出逢った女の子…?)  
 だが何か違和感を感じた。 あの時と違う赤いリボンをしてるからなのか、それとも制服で身を包んでる為か…。   
いや違う。 もっと根本的な何かが…。 だが、次の瞬間その理由が解かった。   
 少女の後から同じ容姿の少女が入ってきたのだ。 だが全く同じというわけではない。   
髪を留めてるリボンの色もそうだが、あと表情や仕草などから微妙に異なる印象を受ける。  
{双子…、 だったんだ」  
 先生が少女達に自己紹介するように促す。  
「桜月キラです」  
「桜月ユラです」  
 まず赤いリボンをした少女が、続いてデパートで出逢った藍色のリボンの少女が名乗った。  
(ユラちゃんっていうんだ)  
「「これから一年間、どうぞよろしくお願いします。」」  
そして二人揃って丁寧に深々とお辞儀をした。  
 
「ハハ… マジかよ。 まさか再び逢えるなんて、しかも同じクラス。 若しかして本当に運命…?」  
 だが、そんな考えは次の瞬間粉々に砕け散った。  
 二人は揃って顔をあげた。その時赤いリボンの方の少女-キラちゃんが突然  
「あっ!!」  
と大きな声を上げた。 続いてユラちゃんも  
「わぁっ」  
と声を上げる。  
そして二人揃って一人の生徒の前に駆け寄り告白したのだ。  
「「私たち貴方に逢いたくてこの学校に転校してきたの!!」」  
 残念ながらその生徒はボクじゃない。 目の前が真っ暗になった。   
これが運命だというのならあまりにも皮肉で、そして残酷じゃないか。 ボクは呆然となった。   
突然の告白にクラス中も大騒ぎになってしまった。 気が付けばホームルームも終り生徒たちも殆ど帰ってしまった。   
当然ユラちゃん達や彼女達に告白を受けたクラスメイトも。  
「帰ろう。落ち込んでてもしょうがない」  
 とは言えその日は気持ちの沈んだまま終わってしまった。  
 
 日付も変わって翌朝。 気持ちが落ち込んでいようといまいと学校を休む訳にはいかない。  
 学校に到着し席につきホームルームが始まるのを待っていると、扉を開けてユラちゃん達が入ってきた。   
キラちゃんと例のクラスメイトと3人で楽しそうにお喋りしながら…。   
「あっ!あなたは」  
 その時ボクと目線が合ったユラちゃんが二人に断わりを入れて、ボクの元に駆け寄ってきた。  
「やぁ、あのあとはちゃんと待ち合わせの時間に間に合った?」  
 駆け寄ってきたユラちゃんにボクは話し掛けた。  
「はい。お陰様で遅れずに済みました。 あの時は本当にありがとうございました。」  
 笑顔で答えてくれたユラちゃんはやっぱり最高に可愛かった。  
「同じクラスだったなんてビックリです。 あ、それなのに昨日は気付かずにご挨拶も出来ずに…」  
 ユラちゃんは申し訳無さそうに顔を曇らせる。  
「い、いや。気にしなくていいよ。 だって昨日は大騒ぎでそれどころじゃなかったし。」  
「そ、そうですか。 でも本当にごめんなさい。 あ、そう言えばあの女の子は…」  
「うん。 無事お母さんに会えたよ。 迷子センターに連れて行ったら丁度あの女の子のお母さんも来ててね。」  
「良かったぁ。」  
 ボクからの報告を聞いて、ユラちゃんは本当に嬉しそうに顔をほころばせた。  
{あと君…、ユラちゃんにも感謝してたよ。」  
「そんな…、私なんて只何も出来ずにオロオロしてただけなのに…。」  
「そんな事無いよ。一生懸命なだめよとしてたじゃない。」  
「あ、ありがとうございます… そう言って頂けるなんて。 貴方ってやっぱり、とても優しいんですね。  
そんな貴方と同じクラスになれて本当に良かった。」  
「え…?!」  
 ユラちゃんの言葉に思わずドキッとした。  
「私たち転校なんて初めてで… 初めてのクラスで知ってる人がいなくて不安だったんです。   
でも貴方みたいに親切な方がクラスメイトにいてくれて、とっても嬉しいです。」  
(クラスメイト… か。)  
「うん。 困った事分からない事が有ったらなんでも言ってよ。 ボクで良ければ力になるから。」  
 
 チャイムの音が鳴り響いた。  
「チャイムが鳴っちゃったね。」  
 名残惜しさを感じながらボクは呟いた。  
「もう直ぐ先生が来てホームルームが始まるから席に戻った方がいいよ」  
「そうですね。 それでは私は席に戻りますね。 また後ほど…」  
「うん、じゃぁまたね。」  
 軽く会釈をして席に向かうユラちゃんをボクも軽く手を振り見送った。  
 
「クラスメイトか…。 そうだな、再会できた上に一緒のクラスで友達になれて。 それだけで十分幸せだよな。」  
 席に戻ったユラちゃんを見つめながらボクは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。  
 

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