あるよく晴れた日の昼下がり、僕は学校の帰り道、楽器店で足を止めた。  
(そういえば今使ってる曲集に載ってる曲も、めぼしいのは殆どマスターしたな… 久しぶりに新しい楽譜でも買うかな。)  
 そうして楽器店に入ること数十分。  
「よしこれにしよう」  
 ボクは購入する楽譜を決めてレジへと向かうとそこには良く知ったクラスメイトがいた。  
「やぁ、ユラちゃん。」  
「あ、こんにちは。こんな所で逢うなんて奇遇ですね。」  
 ユラちゃんは振り向いて笑顔で挨拶をしてくれた。  
「フルートの新しい楽譜を買いにきてたんです。貴方も楽譜を?」  
「うん、ちなみにボクはピアノのね。」  
 話ながらボクはレジで会計を済ませる。  
「まぁ、実は私とキラちゃんも以前習ってたんですよ。」  
「以前、って事は今はもう習ってないんだ?」  
「ええ、当時キラちゃんが途中で弾くのが厭になって止めちゃって…」  
「ああ…ちょっと解かる気がする。 お稽古や習い事ってやらされてるって感じがイヤでやりたくなくなったるするんだよな。 実はボクもそれで一時弾いてなかったし」  
 そんなボクの呟きを聞いてユラちゃんはクスッと笑った。  
「それでね、私はその後も暫らく習ってたんですけど。 当時いつもキラちゃんと一緒にいたから、一人で習いに行っても寂しくてつまらなくなっちゃって…」  
「そっか…」  
(…話題マズったかな…)  
「でもね、やっぱり楽器を演奏する愉しさが忘れられなくて…」  
「あ、その気持ちも分かるな。 ボクもそれでまたピアノ弾き始めてね。」  
「はい、それで今度はフルートを始めたんです。 それでね、その時はキラちゃんが後押ししてくれたの。」  
「へぇ」  
「多分、以前に私も一緒にピアノやめちゃったのを気にしてたんだと思うの。 だからフルート始める時物凄く応援してくれて… あの時はとっても嬉しかったな。」  
「本当に仲良しなんだね。 ユラちゃんとキラちゃん。」  
「はい。私にとって何より大切なかけがえの無い最高のお姉ちゃんです。」  
 そう言ったユラちゃんの笑顔はとてもステキだった。  
 
「そうだ。今日これから時間有ります?」  
「え? うん。 特に予定は無いけど」  
「でしたらこれから私の家に来ませんか? 折角ですから貴方のピアノ聴いてみたいし。」  
 突然のお誘いにボクはビックリした。  
「…イヤ、ですか?」  
「そ、そんな事無いよ。 嬉しいよ。 ちょっとビックリしちゃって…。 でもボクなんかお邪魔しちゃってイイのかな?」  
「ハイ、是非。 ウチのグランドピアノも最近弾いてくれる人もいなくて寂しいですし」  
「グ、グランド…?!」  
 ボクは思わず声を上げた。  
(そう言えばユラちゃんのウチって、あんな立派な車で送り迎えしてもらってるくらいだもんな… グランドピアノぐらいあったっておかしくないよな…)  
「ハイ。 あ、調律は毎年欠かさずやってくれてますから音色はキレイですよ。」  
「そ、そう。 ウチは普通のアップライトで、グランドピアノなんて滅多に弾く機会無いからとっても楽しみだよ。」  
 
 ユラちゃんの家までは結構距離があったが、道中ずっとお喋りしてたのでとても楽しかった。  
「さぁ、着きましたよ。」  
…言葉を失った。 イヤ、さっきも言った事だが、お嬢様でお金持ちな事は予測をしてたが… まさか。これほどとは。  
 門をくぐると使用人の人たちが出迎えてくれて…  
 只々目に映るもの全てに驚かされながら、ボクは幾つもある部屋の一つに通された。 そこにあったグランドピアノは想像をはるかに越えた立派なものだった。  
(こんな凄いのテレビとかでしか見たこと無いよ…)  
「どうしたの?」  
 硬直してたボクはユラちゃんの声で我に返った。  
「あ、うん…。 あんまり立派なんでビックリしちゃって…。 でもこんなに立派なピアノ、本当にボクなんかが弾いていいの?」  
「勿論です。そのためにココにお招きしたんですから。」  
「う、うん。 それじゃぁ遠慮無く弾かせてもらいます。」  
 ボクは椅子に坐り鍵盤の蓋を開けた。  
「あら、楽譜は?」  
「若しかして今日買った楽譜の事? ボクの腕じゃ初見では無理だよ。 先ず練習しなきゃ。 でも今まで練習し習得した曲の多くには暗譜してるのも沢山有るから。 あと…一応言っとくけどあんまり期待しないでね…。」  
「ウフフ…、そんなに緊張しないで。 貴方が楽しく弾いてくれればそれでいいですから。」  
「そ、そう? それじゃぁ。」  
 ボクは鍵盤に手を置き弾き始めた。  
 スゴイ。 さすがグランドピアノだ! 音の張、ツヤ、響き方、迫力の全てが段違いだ! いつも弾きなれてる曲なのに全く違って聞こえてくる。  
 ボクは夢中になって弾き、気付けば暗譜してるレパートリーもほぼ一通り弾いたので手を休めた。  
 
 パチパチパチパチ…  
 見るとユラちゃんが笑顔で拍手を送ってくれてた。  
「アハハ…。 つ、拙い演奏だったけど…」  
「ううん。 そんな事ないよ。 とってものびのびと楽しそうに弾いてて良かったよ。 それにやっぱり男の子ね。 とっても元気で力強くってステキな演奏だったわ。」    
「ハハハ…。」  
 なんだか嬉しいやら照れくさいやら…  
「ねぇ、一息ついてお茶にしません?」  
「え、うん。 じゃぁご馳走になろうかな。」  
「はい。ところで貴方はミルクティーとレモンティーのどちらがお好き?」  
「ミルクティーかな。 ウチで紅茶飲む時もいつもそうしてるし」  
「じゃぁ私と一緒ですね。 私もミルクティー大好きなんです。 それでは待っててくださいね。 直ぐに準備してきますから。」  
 
「ごちそうさま。 ケーキも紅茶もとても美味しかったよ。」  
「どういたしまして。 お気に召して良かった。」  
「あ、そうだ。 折角だからユラちゃんの演奏も聴きたいな。」  
「え、私のフルート…ですか?」  
「うん、是非聴きたいんだけど…。イイかな?」  
 ユラちゃんは照れくさそうにはにかんで  
「はい、では今フルートを持ってきますので少し待っててくださいね。」  
 そう言ってユラちゃんは部屋を出た。 程なくしてフルートを手にしてユラちゃんは戻ってきた。 ボクに向かって一礼すると、そっとフルートに唇を当てて吹き始めた。  
 
 演奏が終わった後、そのあまりの素晴らしさにボクはしばらく固まってしまっていた。  
「あ、あのお気に召しませんでした…? 私の演奏。」  
「と、とんでもない! 凄く良かったよ! あんまりにもキレイな演奏だったんで思わず聴き惚れちゃって…。」  
 ボクはユラちゃんに向け拍手を送った。  
「ありがとう」  
 そう言ってユラちゃんは頬を赤らめながら微笑んだ。  
「…しっかし今思い出すと、こんな上手な娘の前であんな未熟な演奏したかと思うと恥ずかしくなってきた…」  
 途端に恥かしさが込み上げてきた。  
「そんな事無いですよ。 貴方の演奏だって十分ステキでしたよ。 それにホラ」  
「…え?!」  
 ユラちゃんはボクの手首をそっと掴むと手の平を自分の方に向けさせ、そして自分の手の平を重ねた。  
「手だって私よりこんなに大きいんですから」  
「あ、ありがとう」  
(そりゃ女の子の手に較べりゃ大きいけど、そんなに大きい訳じゃ… っていうか、や、柔らかい! 女の子の手の平ってこんなに柔らかくて温かいものだったのかぁ!?)  
「だから、もっと自信を持ってがんばってくださいね。」  
 ユラちゃんはにっこり微笑んでくれた。  
「う、うん。 が、がんばるよ…」  
 心臓がバクバク言って言葉にならない。  
「え、えっと今日は本当にありがとう。 これ以上長居すると辺りも暗くなるから、そ、そろそろお暇するね。」  
「ハイ。 また何時でも弾きにいらしてくださいね。 歓迎しますから。」  
 

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