「ユラちゃん…いよいよ明日ね!」
「そうだね、キラちゃん。とうとう、あの人に会えるのね!」
「「私達の…憧れのあの人に!」
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双愛学園、ここには市内よりたくさんの生徒が通っていた。
「蒼、確か今日転校生がくるんだったな。」
「興味ないです…」
二人の男子が靴箱に向けて歩いていた。
「何でも二人くるらしいぞ?」
「だったら貴方のクラスじゃないですか、紅…貴方のクラスだけ、なぜか28人しかいませんし…」
二人はそんな会話をしながら教室へあがっていった。
「じゃあな、また後で」
「知りません…帰るときは勝手に帰ります…」
二人はそれぞれの教室へ入っていった。
「転校生ねぇ…いったいどんな人なのか…」
紅は席につき窓から外を眺めていた
「そろそろ…2年だな」
紅は何を思ったのか少し眼を細めた
「は〜い、みんな席について!」
そこに女の担任が入ってきた。
「え〜、みんなもうわかってると思うけど、今日転校生が二人きます。
それで、このクラスがほかのクラスより2人少ないでしょ?
だから、二人ともこのクラスなの。入ってきて」
「(へぇ…蒼の予想があたったな…)」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
その瞬間、クラスに歓喜の叫びが響いた。
「桜月キラです。」
「桜月ユラです…」
「双子!?」
紅はしばらくその双子に目を奪われた
「ユラちゃん、あの人!!」
「あ!きっとそうよ!!」
キラとユラは紅の元に駆け寄った。
「…?」
「やっぱりこの学校だったのね!」
「私達、どうしても貴方に会いたかったの!!」
『なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
クラスが一斉に騒ぎ出したが紅の耳には入ってなかった
「…はい?(どうなってるんだ?さっぱり分からない…)」
困惑する紅をよそに二人は話しつづけた。
「それにしても、同じクラスになれるなんて…」
「なんてついているのかしら私達…」
「あの〜片桐君…知り合い?」
先生が紅に聞いた。
「いえ…初対面ですが?」
紅がそう言うと、
「ああっ!いけない…私達ったらつい…」
「ごめんなさい…いきなりこんなのは、困るよね?」
微妙にズレてる気がしたが、とりあえず
「詳しい話は、後でお願いできる?桜月さん…」
「「はい!」」
「ええと…それで、桜月さん?いったいどういうこと?」
紅は自分を目の前にニコニコ笑っている二人に聞いた。
「私達…」
「貴方のことが…」
「「好きなんです!」」
『ボソボソ…おい聞いたか?今の』
『ボソボソ…転校してそうそう告白!?』
『ボソボソ…やっぱり、片桐君に一目ぼれ!?』
周りの話を聞こえていない振りをしつつ、
「…でも、初対面ですが?」
「ううん!私達は前に貴方を見たことあるの!」
「それも、2回も!」
嬉しそうに話す二人を前に紅はどういう顔をしたものかと悩んでいた、
「それで、すっかり貴方のことを…」
「どうしても、貴方に会いたくて…転校してきました。」
「…俺のこと調べたの?」
「「はい!」」
どうやって調べたのか気になったが、なぜか恐ろしかったので聞かなかった。
「…とりあえず、友達からってことでいいでしょうか?」
「もちろんです!」
「よろしくお願いしますね!」
「(これってついてるのか?)」
「それと…私達、桜月さんだと二人とも返事しちゃうから…」
「名前のほうで呼んでくれますか?」
紅は一呼吸置いて
「それじゃ、ええと…」
「キラちゃんと」
「はい!」
「ユラちゃん、」
「はい…!」
「で、いいかな?」
「あと…」
「お名前を…」
紅ははっとした顔で、
「ごめん、まだ教えてなかったね、
ええと、片桐 紅(くれない)皆は“コウ”って呼ぶけど。
二人も、そう呼んでもらっていいから。」
「「はい!!」」
放課後
「あれぇ、どこ行ったんだろうね、あの人。」
「せっかく一緒に帰ろうと思ったのに…あ!キラちゃん!!」
二人は階段の下に片桐の姿を見つけると急いで降りて、
「ねぇ、校門まで一緒に帰りませんか?」
「お迎えがあるから、そこまでだけど…」
しかし、
「…貴女たち、誰ですか?」
片桐の口から出たのは信じられない言葉だった、
「え…」
「あの…私達…」
確かに、片桐君だよね…
そう思ったとき、
「おおい、蒼。
…あれ、キラちゃんにユラちゃんも。」
階段から降りてきたのは、
「「ええ!?」」
まったく同じ顔をした人物。
「紅、知り合いですか?」
「ああ、例の転校生、桜月キラちゃんに桜月ユラちゃん。」
紅は、キラとユラの方を向いて、
「こいつは、片桐 蒼(あおい)俺の、双子の兄。」
蒼は頭を下げた。
「あなた達も…」
「双子だったんですね…」
双子同士の男女、周りから見るとさぞかし面白いだろう…。
赤いリボンをつけた黒髪のストレート、性格は活発な“桜月キラ”。
青いリボンをつけた黒髪のストレート、性格は少しおとなしめな“桜月ユラ”。
成績優秀、容姿端麗、非の打ち所のない美少女である。そして
黒髪のショートヘア、至って社交的な“片桐紅”、
黒髪のショートヘア、どちらかと言えば、非社交的な“片桐蒼”。
やはり、成績優秀、容姿端麗、非の打ち所のない美少年。
ただ一つ二人の違うところ、
蒼の瞳はほかの誰よりも黒いつまり‘漆黒’だった。
これだけそろっている人間が集まって周りの目を引かない訳がない。
「うわぁ…あそこ見て…なんかすごぉい。」
「なになに!?この学校の美形勢ぞろい?」
「くそぉ…やっぱり、美形同士じゃねえとだめなのか!?」
周りにの声を気にしていないのか、
「うわぁ…すっごい偶然…」
「まさか、あなた達も双子同士なんて…」
「俺のこと調べたんでしょ?」
キラとユラはお互いに顔を見合わせて。
「うん、兄弟がいるって言うことはは分かってたんだけど、まさかそれが双子の兄弟だなんて…」
「本当にびっくり…。でも、これなら双子同士だし…」
「はははは、本当にそうだね。」
会話を進める三人に。
「どういうことか説明してくれませんか…?」
明らかに、不愉快な口調で、しかし表情はあまり変えずに蒼が言った。
「…そういうことですか…」
話を聞いた蒼はため息をついて
「でも、君達が見たのは俺と紅のどちらなんですか?」
「それが…遠くからだったしはっきりわからないの…」
「2回とも?」
「うん…ごめんなさい…」
うなだれたキラとユラは、暫くそうしていたが、キラが突然何か思いついたように。
「それなら、四人でお付き合いしましょう?」
「うん、それいいね!さすがキラちゃん…。」
キラとユラは嬉しそうに笑った。
「…」
紅は黙って蒼をみた。
「俺は、御免ですよ…初対面の人といきなり付き合うなんて…」
なぜか、四人でという事には突っ込まなかったあたり、微妙にズレているのだろう。
「いや…ですか?」
「と、いうよりもですね…」
「蒼ちょっと来い!」
紅は蒼を引っ張って階段の陰に隠れた。
「いいか、あの子達はわざわざ転校までしてきたんだぞ?それをお前は無駄にするつもりか?」
「それなら、貴方が付き合ってあげればいいでしょう?なんで、俺まで巻き込まれないといけないんですか!」
「…お前、あの子達嫌いか?」
蒼は呆れた顔で紅を見て、
「初対面なんですよ?そんないきなり…」
「嫌いかって聞いてるんだ。」
「…それは、一目見ただけですごく良い子達ってのは分かりますが…」
「じゃあ、いいじゃないか!!それに、あの子達が見たのがお前だったらどうする?」
「違ったらどうするんですか?」
「そのときはその時、四人でいれば、そのうちあの子達はお前のこと好きになるかもしれないだろ?
それとも…お前一人であの子達と付き合うのか?」
「なんか、ずれてません?…分かりましたよ…まったく、どうしていつも…(でも…)」
蒼は紅の顔を見た。
紅と蒼は二人で、階段の影から出てきた。
「あの、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと相談を。」
「そう…それで…。」
「うん、いいよ。」
「「やったぁ!!」」
キラとユラは手を取り合ってはしゃいだ。
しかし、何も言わずどちらかと言えば不機嫌な顔をしてる蒼に気づくと。
「…私達のこと、きらい?」
「迷惑…ですか…?」
二人が蒼のことを見つめると。
「いえ…嫌いとかじゃなくて…そのですね…いえ…お願いします。」
「(そう言えばこいつ、こういうことに関しては究極的におくてだからなぁ…
あ〜あ、顔真っ赤だ…てことはこいつもまんざらじゃないのか?)」
「よかったぁ、ね、ユラちゃん?」
「うん…。」
紅は三人を見た後
「そう言えば、何か用だったの?」
「あ!そうだった。ねぇ、校門まで一緒に帰らない?」
「いいけど?」
「蒼君も。いいでしょ…?」
蒼は、ため息をついて
「俺達でよければ、ご一緒しましょう、桜……」
「「あの!」」
蒼が言い終わらないうちにキラとユラは、
「できれば、名前で呼んでほしい…な。」
「名前…ですか?ん…それじゃ、キラさんとユラさんで…。」
「はい。」
「よろしくお願いします…。」
その光景を柱の影から(ベタ…)見つめている存在があった。
一週間後
「蒼君、お昼一緒に食べよ?」
「紅君は先に屋上で待ってるって…。」
「ふぅ…分かりました、このプリント仕上げてから行くので、先に行っててください。」
「うん、分かった。早く来てね…。」
キラとユラは教室から出て行った。紅と二人は同じクラスだが、蒼は隣のクラスだった。
「さて、さっさとしますか…待たせるわけにも行きませんしね。って…」
蒼は手を止めて軽く頭を振った。
「何を考えているんでしょうか…俺は。あの人たちには、いやいや付き合っているはずなのに…」
蒼は、そう考えると何か自分が別の人間のような気がした。
今まで、誰とも深く関わらないようにしてきた自分…親友とかそんな者は必要ない、他人はあくまで他人なのだから。
紅以外の人間を一度も対象として見たことのない蒼にとっては不可解なことだった。
「いけませんね…紅の毒気に当てられたのでしょうか…」
………
「おはよう、蒼君!」
「おはよう…。」
「おはようございます、ユラさん、キラさん。」
「よっ!」
「さっき会ったばっかりですが…紅。」
「いや、二人がどうしてもって言うからさ?」
蒼の教室にキラとユラ、そして紅が入ってきた。蒼の席は後ろのほうなのでその辺りだと入るのにも楽だ。
「はぁ…貴方達がきた後、クラスの視線を一身に浴びる俺の身にもなってください…」
ややあって、
「…あの…私達、もしかして迷惑?」
「え、いや、だから迷惑とかじゃなくて…その。」
「ああ、よかったぁ…。」
キラとユラにはどうしても勝てない蒼、そんな3人を紅は笑いながら見ていた。
………
蒼は、物思いにふけつつも手は進めていたらしく、
終わらせたプリントをファイルにしまうと前もって用意していたパンを持って教室を後にした。
「キラちゃん、紅君待ってるよね…?」
「うん、だから急がなくっちゃ!」
『待ちなさいよあんた達!!』
キラとユラが屋上への階段を駆け上がっていると、後ろのほうから声がした。
振り向くと、そこには自分達よりも若干背の高い女子生徒とその横に二人の女子生徒がいた。
「貴方達、これから誰に会うつもり?」
キラ達と同じようなロングヘアだったが、髪の色は若干茶色を帯びていて、顔立ちもよく、二人に負けない美人だった。
その横にいる生徒は…まあ、特に書するべきところもない平凡な女子だった。
「私達、これから屋上で…」
「まさか、片桐君たちと一緒なんじゃないでしょうね?」
「えっと…そのまさかです。」
「「なんですって!?」」
「私の前で、いい度胸じゃない…私のこと知らないわけじゃないんでしょ?」
普通の女子ならこれで小さくなるはずなのだが。
「御免なさい、私達まだ転校したばっかりだから…。」
「まだ、皆の名前覚えてないの。」
天然お嬢様の二人にはまったく無意味だったようだ。
「ウフフフフフフ…あのお二人に近づいただけではなくて、私のことまで知らないなんて…これは私に対する、いえ!
“片桐ファンクラブ”のメンバー全員に対しての挑戦ね…いいこと!片桐君たちは貴方達だけのものじゃないのよ?
あのお二人は、私達女子生徒にとって希望の星…そして私達の“Star Of Hope”!」
「隊長、それ、同じ意味です!」
「おだまり!!ともかく、“片桐ファンクラブ”の面々はみな健全に、平等にあの二人に接しないといけないの…」
「まあ、抜け駆けするなってことですね!」
「…それなのに!貴方達は、あんなにも片桐君にべったり…なんてうらやま…もとい、なんて許せない!!
……私のいってることわかるわよね?」
「…キラちゃん…」
「…ユラちゃん…」
「ふっ…それでいいのよ。」
「「すっごぉい!!」」
「へっ?」
「やっぱり、紅君と蒼君、すごい人気なのね!」
「うん、やっぱり、私達の目は間違ってなかったのね…!」
ファンクラブをよそに二人で盛り上がるキラとユラ、恐るべし、お嬢様…
「話…聞いてた?」
とにかく!これ以上あの二人に近づかないで頂戴!!もちろん、告白したもの取り消しなさい!」
「ええ!?そんな…」
「…いやです!」
きっぱりと言ったのは、ユラの方だった。
「折角、ここまで来て…やっと会えたのに…そんなの絶対に嫌!」
「隊長…どうしましょう?」
「こうなったら実力行使ね…実力行使部隊!この子達をどこかへやっておしまい!!」
『ははっ!』
すると、どこに隠れていたのか、体格のいい(世間ではポッチャリ系という)女子が4人ほど出てきてキラたちを捕まえた。
「いやっ!」
「離して!!」
「オーホホホホホホホホホホホホ!私達に逆らうとどうなるか、分かったかしら。」
「そんな笑い方…今時の悪女はしませんよ。いったい、何年前の悪役をやってるんでしょうかね…」
「あら、そう?今時の悪…って失礼ね!!いったいどこのどいつ!?私を悪女なんていうのは!!」
隊長が声の主を見ると
「!!!!!!!!!!!!!!!!片桐君!」
「さて、その子達をいったいどうするつもりなんでしょうね?」
普通なら、軽く笑いながら言うせりふだが、蒼はそんな愛嬌を持ち合わせてはいなかった。
「蒼君…」
「はなしてもらえます?」
「…」
キラとユラを捕まえていたポッチャリ達は黙ったまま手を離した。
二人はすかさず、タタタと蒼の横に寄った。
「あの、えっと私達その…片桐君が急にこの子たちに言い寄られてさぞ迷惑してるだろうと思って、助けてあげたかった…」
隊長はいかにもな言い訳をはじめたが、それを全部言い終わるまでに、
「いますよね、こういう勘違いした人…好きな気持ちを理由にしてやりたい放題やって、
それなのに、自分ひとりじゃ何もする勇気がないから、ファンクラブなんてくだらないもの作って、
それが、本人達にどれほど迷惑なのかも知らずに…」
言葉をいったん切って、
「はっきり言いましょう、俺…そういう人一番嫌いですから…。
そうですね、一人で告白してくれば少しは見直してあげましょう、
ま、二度と目を合わせることはありませんけど…」
ここまで言えば、普通は良心が痛むはずなのだろうが、蒼いは口調をまったく変えず無表情で言い切った。
「いきましょう、キラさん、ユラさん…」
3人は屋上のドアを開いて出て行った。
後には、呆然としたファンクラブの面々がいた。
屋上では、紅が手すりにもたれかかって空を見上げていた。
「ごめんなさい、紅君」
振り向いた、紅の表情は一瞬だったが悲しそうに見えた。
「ごめんね…待たせちゃって…。」
「いいえ、これぐらい平気。まだ30分ぐらいあるから。」
4人は屋上に備え付けてあるベンチに腰を下ろした。
「……」
「…蒼、なんかあったか?すっごい不機嫌な顔をしてるけど?」
「別に…」
「ボソボソ…キラちゃん、何かあった?」
「ボソボソ…えっと、ファンクラブの人たちと…。」
「ボソボソ…それで、私とキラちゃんがファンクラブの人たちに絡まれてたのを助けてくれたの。」
「ほほう…」
紅は呆れた顔で、
「お前、またなんかきついこと言ったんじゃないのか?」
「…あの人たちには、あのくらい言ったほうが効果があります。」
「なんか、あの人たちすっごく驚いてたね?」
「うん、なんかこの世の終わりみたいな顔をしてたね…。」
普通、あの台詞を聞けば誰でもそうなるのだろうが平気なところを見ると、さすがお嬢様である。
「そんなに、ひどい事言ったのか?」
「…」
蒼は黙ってお茶を口にした。
「そんなにキラちゃんとユラちゃんにちょっかい出されたのが頭に来たのか?」
「「えっ!?」」
「ブッ!ゲホッ、ゲホッ!!いったい何を言ってるんですか!!そんな、そんなのでは…」
「じゃあ何だ?俺にはそれ以外の理由なんて考えられないんだけど?ねぇ、キラ…」
紅はキラとユラを見てはっとなった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
二人ともこちらを向いてはいるが、顔は紅く、ぼうっとした表情だった。
「あの…大丈夫。」
「うれしい…。」
ぽそっと呟くと、二人は蒼の前に来て、蒼の手を握った
「助けてくれてありがとう…。やっぱり私達が思った通りの優しい人…。」
「うん…。ありがとう、蒼君…。」
「え!?いや、それほどの事は…」
「「本当に、ありがとう!」」
「う…あ…」
「お前、本とに二人には弱いんだな…。」
「…誰のせいだと思ってるんですか…?ほら、キラさんもユラさんも、早く食べないと昼休みが終わってしまいますよ?
聞いてますか?キラさん!ユラさん!!」
「「あっ…」」
キラとユラははほぼ同時にはっとすると、
「ごめんなさい…私達ったらつい…。」
「あんまり、嬉しかったものだから…うふふ。」
「うう…。」
先ほどまで、完全に無表情だった蒼が、今は顔を真っ赤にして引きつった笑いを浮かべていた。
「(本とに弱いな…)」
その夜、桜月家。
「今日も楽しかったね、ユラちゃん。」
「うん…!前の学校じゃ考えられないくらい…。」
二人は、パジャマに着替えてベットに座って話していた。
「紅君はいつも笑ってて…」
「蒼君はいつも、ブスッとしてるけど、とっても優しくて…」
二人は、ぽうっと頬を赤らめた。
「それにしても、ファンクラブまであるなんて…。」
「ほんと!あの人達、とっても人気あるのね。隊長さんは少し怖かったけど…。でも」
「「蒼君が助けてくれた!きゃっ!!」」
両手を顔に当てて、いっそう頬を紅くした。
「ねぇ、ユラちゃん、紅君釣りが趣味って言ってたよね?」
「うん…どうして?」
「今度連れて行ってもらおうよ!」
「それはいい考え…!でも、いつにするの?」
「ううん…もうすぐテストがあるからその後にお願いしようよ!」
「それなら、大丈夫ね…あ…」
「どうしたの?」
「そう言えば、蒼君の趣味って何なんだろう…?」
「…紅君とお話してて聞きそびれちゃったね…何なんだろうね?」
二人は暫く考えていた…
「う〜ん、ちゃんと聞いておかなくちゃね…?」
「そうだ!今からこっそり会いに行っちゃおうか?あの人達二人で暮らしてるって言うし。」
「ええ!?だめだよそんなの、家も遠いし、夜も遅いし…。」
「大丈夫、冗談だから。それは、明日のお楽しみ、ね?」
「楽しみだね…。」
片桐家
「紅、あの子達本気なんでしょうか…あ、それまだ洗ってません。」
「本気って、あれが冗談なら世の中何が本気なんだ?…これすすいだのか?」
二人は台所に立って二人そろって朝と夜の洗い物をしていた。
「…ですが、二人そろって同じ人を好きになるなんて…それに、彼女達が好きなのは俺か貴方のどちらかなんでしょう?」
「そうらしいけど、今は4人でいるのが楽しくってしょうがないって感じだな…。
双子のボーイフレンドなんて初めてだろうし…」
「ボーイフレンド…直訳して受けときますね。それはそうですが。あの二人もまったく同じ人間という訳ではないですし
このまま、4人でという訳にもいかなくなりますよ?」
「いつかは、そうなるけど、まだ二人に出会って一週間しかたってない、今は楽しければそれでいいと思うけど?」
「気楽ですねぇ…」
二人は洗い物を終えて、居間に移動してソファに座った。小さなテーブルをソファが囲むように置いてあった。
「お前も、あの子達の事好きなんだろ?」
「なんで、いきなりそうなるんですか…?」
「ファンクラブに絡まれてるのを見て、頭に来るぐらいだからな…」
「…はぁ…それは、まあ、自分でも良く分かりませんが…いつもよりかは確かに…」
「それで充分。まだ、一週間とはいっても、楽しかったしな…だろ?」
「それは、そうですが…。」
二人は暫く黙った。言葉が出ないわけではなくそれぞれに何か考えていた
「なあ、あの子達に釣りが趣味って、俺言ったよな?」
「言いましたね…ん?」
「お前も分かったか?」
「…次のテスト終わったあたりでしょうかね…やっぱり。」
そういった、蒼の口元がわずかに緩んだように見えた。
「…珍しいな、お前が何もないのに笑うなんて…万年無表情男が…」
「失礼ですね…万年も生きませんよ?」
「(やっぱり笑ってるな…)なあ?」
「何でしょう?」
「いい子だな、あの子達…」
「はい…」