「ユラちゃん!」
キラがユラのところまでいくと、ユラは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
「無理だよ、キラちゃん!私…笑ってなんて…そんなの無理…。」
「ユラちゃん…私も、同じだから…。でも…でも…」
「キラちゃん…」
「あの人が、帰ってくるまで待つしかないよ…寂しいけど。」
だいぶ走ったのか、街並みで駅は見えなかった。自分も、涙を必死でこらえている…。
「…帰ろう…」
「…うん…」
二人が歩き出すとドンッと誰かにぶつかった。
「あ…ごめんなさい…」
「ああ!?どこ見て歩いて…おっ?」
見ると、いつぞや出くわした不良たちだった、しかも前回より人が多い。
「あ…」
「ん?へへっ前に会った女じゃねぇか、何で泣いてんだ?」
「俺達が遊んでやろうか?」
「キラちゃん…どうしよう…」
「大丈夫かな…二人とも…。」
紅は駅に向かって歩いていた。やはり二人が心配だった。
「…あれなら、大丈夫かもしれないけど…おや?」
紅の目にキラ達が映った、当然そこにいるのは二人だけではない。
「くそっ!」
「へへへっ…いいじゃねぇかよぉ!」
「いやです!」
一人がユラの腕を掴もうとしたとき
ドガッ!
「ぐっ!」
何かが飛んで来て不良の顔を直撃した。
「なんだこ…ぐはぁっ!!」
その直後、ユラとキラの後方から人が飛び出し、思いっきり飛び蹴りを決めた。
「…二人に…触るな…!!」
「!!」
ユラとキラは言葉を失った、そして、目から一筋の雫が落ちた。
―もう、見ることが出来ないと…覚悟さえした、その顔…
「二人とも…大丈夫ですか?」
「蒼君…どうして…?」
「いや…まぁ…ごめん。」
蒼は、あははと頬をかいた。
「とりあえず、今はここをどうにか切り抜けるのが先決ですね。幸い、人もあんまりいませんし。」
「こいつ…この前のやつじゃ?」
「こ…このお!!」
一人が殴りかかってくる、しかし、それを交わして頭部へ見事なハイキックを決めた。
「…これでも、やりますか?」
蒼は、残った不良たちを睨みつけた…。実は蒼、喧嘩は“しない”と言うだけで、“弱い”と言うわけではない。
「ちっ…ちくしょう!」
不良達は、気絶している二人を抱えて逃げていった。
「……」
蒼はユラとキラを見た。二人は下を向いて震えていた…。
「え…と。」
何か言わなければ…と考えていると、
「「蒼君!!」」
急に二人が抱きついてきた
「うわっ…」
不意にそうされたので、蒼はバランスを崩して体が後ろに傾いた。
「おっと…。」
それを、紅が後ろから支えた。
「紅…。なんでここに?」
「二人が心配だったし、もしかしたらと思って。話し方、戻ってたし。頭は、冷えたのか?」
二人はふっと笑った。
「よかったぁ…」
「嘘じゃないよね…ここにいるんだよね…?」
蒼は一度は電車に足を踏み入れた。
「(ユラさん、泣いていましたね…。)」
蒼は再び考えた、自分は何をしているのかと。
二人は、自分の気持ちを伝えてくれた…きっと、不安だっただろう。
それでも、気持ちを伝えてくれた。なのに自分は自分は何をしているのだろう…。
自分は逃げてるだけだ…あの時も、そして今も…。
「…そう逃げてるだけ…二人から…自分の気持ちから!」
蒼は閉まる寸前のドアから駆け出して、二人の元へ急いだ。
ユラとキラは蒼の胸に顔を埋めて泣いていた…暫くは離してくれそうにない。
「そのままで良いです…そのまま聴いてもらえれば…。」
蒼は、いったん深呼吸をした。
「二人は…俺の事を好きだって言ってくれました、でも…俺はユラさんかキラさんかどちらかだけを好きなんて言う事は出来ません…。
本当は…決めないといけないのかもしれないけれど、まだ良く分からなくて、まだそんな勇気もありませんから…。
だけど…いえ、だからこそ、今の気持ちを素直に伝えます…。」
―俺は、ユラとキラ、二人の事が好きなんです…。
「「……」」
ユラとキラは、蒼から離れて顔を上げた。その顔には笑顔が浮かんでいた。
「ありがとう、蒼君…。貴方の正直な気持ちが聞けて…うれしい…。」
「ごめんなさい…あやふやなままで…。」
「ううん、とってもうれしい…だって、好きって言ってくれたもの…。」
「それに、私達も…まだ、どちらか一方だけ…とか言うのはまだ…。」
「今は…二人一緒に貴方の側にいられたらって思うから…でも、二人じゃ迷惑?」
蒼は首を横に振った。
「いえ、そんな事はありませんが…。」
「二人支えるのが大変だって言うんなら…少しぐらいは、手助けできるぞ、蒼?」
後ろいにいた紅が、笑いながら言った。
「うん!私達は、蒼君のことが好きだけど…やっぱり…四人の方が楽しいと思うし…。」
「だから、紅君も一緒にいてほしいな…。」
「…それはまた注文の多い事で・・・」
紅は苦笑いをした、これは、俗に言う我侭と言うものではないかと…その後まあいいかとそっと頷いた。
「いづれ…こた…」
「「ストーップ!」」
蒼の言葉をキラとユラがさえぎった。
「その先は…またそのとき言ってくれればいいから…」
「いまは、二人一緒に、貴方の側にいさせて…?」
「…」
蒼は無言のまま微笑んだ。
「ん〜さっきはああ言ったけど、冷静に考えると、俺って邪魔だよな…?」
「さっき言ったよ、四人の方が楽しいからって…ね?」
「そうでした…。」
紅は軽く両手を上げた。
「(きっと、今は、好きだから側にいてほしい…ただそれだけ。
恋人になりたい…とかそんなのじゃなくて、一緒にいたい、そう思っているんだろうな。
キラちゃんもユラちゃんも…そして、蒼も…俺も…。)」
「三人には迷惑をかけてしまいましたね…」
無事ことは済んだと言ってもその事実が消えたわけじゃない。
「ううん…もういいの、でももう二度とあんなこと言わないでね?」
「でも、次にあんな事言い出したら…ね?」
ユラとキラは顔を見合わせてウフフと笑った。
「何を考えてるかは知らないけど…お前、暫くあの二人に逆らえないな…。」
「…かもしれませんね…。」
あの2人が、何か命令してくる事は無いと思うが…でも、頼まれたりしたら確実に断れない。ことわった事は無いけど今まで。
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん、そうしよう…あ…」
ユラとキラは蒼の方を見た
「「私達、二人一緒にあなたの側にいたい…」」
「だけど…私は桜月キラで…」
「私は…桜月ユラ…だからね?」
二人が言いたい事を察したのか、蒼はゆっくり頷いた。
いずれ…必ず答えを出さなければいけないときが来る、本人達望まなくても。
だからその時までは、自分達のわがままを通してても構わないだろう…。
必ず…答えを出さなければいけない時は来るのだから。
4人は家への帰路へついていた。
キラと紅が話してその後ろから蒼とユラがついていっていた。何だかんだ言っても、キラは紅のほうが話しやすいようだ。
「ユラさん…ありがとう。」
「どうしたの、急に?」
「君が駅でああ言ってくれなかったら、もしかしたら…ここにいないかもしれませんね。」
「私…あんな事言っちゃって…今考えるとすっごく恥ずかしい…。」
ユラは両手で口を覆った。
「ありがとう…ユラ。」
その言葉と、表情にユラの鼓動が高鳴った…
「蒼君…。」
「はい?」
蒼がユラのほうを向くと、どこか、うっとりとしたようなユラの顔が間近にあり、
「!」
ユラの唇が自分のそれに押し付けられた。
「…えへへ…。」
ユラは照れくさそうに笑って二人のところへ走っていった。
「…ユラさん…?」
見ると、ユラがキラに抱きついて、騒いでいる…何だったんだろうと呆けていると
「「何してるの〜、置いて行っちゃうよ〜!」
ユラとキラの声が当たりに響いた。蒼は、戸惑いながらも三人のところへ急いだ。
数日後、
「早くしないと遅刻しちゃうよ!」
「先に行っちゃうからね…!」
キラとユラがドアから駆け出してきた。続いて、紅と蒼が出てきた。
「鍵は…これでよし。」
「なあ、蒼…」
「なんですか、いつに無くまじめな口調で。」
紅は蒼の頭を軽くこづいた。
「前、話した事があったよな…なんで、俺達双子だったんだろうって。」
「その事ですか…あの時は、そんな事考えてましたね…。」
「でも、今なら分かる気がする。」
「…そうですね…。」
自分達が双子として生まれてきた理由…きっとそれは
―…桜月キラ、桜月ユラ…二人の為―
紅と蒼は軽く笑ってキラとユラの後を追った。