紅と蒼は桜月家に呼ばれていた。
「「はい!クリスマスプレゼント!」」
「ありがとう。ごめんね、あんまりたいした物じゃなくて…。」
キラとユラがあげたものは何かわからないが、紅は二人にぬいぐるみをプレゼントした。
「ううん、この子とっても可愛い…。」
「やわらかくて、温かくて…ありがとう。」
「そう言ってくれるとうれしいよ。…蒼…」
紅は蒼をじっと睨んだ。
「分かってますよ…すこし、目を閉じててもらえますか?キラさん、ユラさん…。」
ユラとキラは言われるまま目を閉じた。その間、二人の両手に何かつけられたような感じがあった。
「いいですよ…。」
「「わぁ…」」
キラには右腕に赤の、ユラには左腕に青色の、キラキラと光るブレスレットが付けられていた。
それも、単色ではなく濃から淡へ、淡から濃へグラデーションのような色合いをしていた。
そして、中をとおってる糸もただの糸ではなく銀色に輝いていた。
「きれい…。まるで宝石みたい…。」
「これ…」
「え…と…色はリボンの色に合わせて作ってみたんですけど…他の色が良かったですか?」
「「作ったの!?」」
二人は、えっ?と言うような顔を向けていた。狼狽する蒼の変わりに紅が答えた。
「こいつ、昔からこういうのが趣味で…何ていうの?ビーズアクセサリー?
しかも、不気味なくらい上手でさ、結構前から二人のために作ってたみたい…。」
ユラとキラは腕で光っている宝石に見入っていた。
「でもこれ…宝石みたいに光っているよ?」
「ガラスも、加工のしかた次第では光を反射するようになりますし…いつもは糸はテグスのような透明なもので作るんですが…
今度のは、ちょっと特別なやつを使ったので…。」
蒼は、二人が喜んでくれて嬉しいのか、照れているようだった。
「ふふふ…綺麗だねユラちゃん…。」
「うん…とっても綺麗…。世界に二つだけの…」
二人は、お互いの腕を見てふふっと笑った。
しかし、その後一瞬だけユラの表情が曇った…。
「キラちゃん、ユラちゃん、呼んでくれてありがとう。」
「いいの!私達もとっても楽しかったから。」
「いつも、二人だけで…寂しくはないんだけど…今日は楽しかった…。」
「こちらこそ…。」
「あの、門のところに車が用意してあるから…。」
「ごめんね、わざわざ。じゃ…」
紅はさっさと蒼を置いて行こうとした。
「紅、そんなさっさと行かなくても…」
「蒼君…」
紅を追おうとした蒼を呼び止めたのはユラだった。
「(ユラちゃんファイト!)」
「どうしたんですか?ユラさん。」
「あの・・これ…!」
そう言ってユラが差し出したのは小さな猫のマスコットだった。よく見ると手作りのようだ。
「下手でごめんね…蒼君がくれたのに比べると、全然ダメだけど…心をこめて作ったから…受け取ってくれるかな…?」
「え…俺だけ…ですか?」
ユラは黙って頷いた。そして…
「私…貴方のことが…好きなの!!」
その言葉に、蒼は漆黒の瞳を丸くした。そんな、蒼をユラはまっすぐに見つめた
「貴方が、猫を拾ったときに気づいたの…私が…好きになったのは…貴方だって……」
ユラはいったん言葉を切って、
「今は…まだ…4人でいたいって気持ちもあるけど…これだけは言っておきたかったの…」
「…ユラさん…」
「まだ、返事はいらないから…ううん、まだ返事はしないで…」
ユラはキラのほうを見て…
「キラちゃんも、貴方のことを好きになるかもしれないから…そのときは…」
「二人一緒にお願いします…。今はユラちゃんのマスコット受け取ってあげて…?」
「貴方は、あんなに素敵なものをくれたのに…やめようかなって思ったんだけど…。」
さっきの表情はそのせいかと、蒼は納得した、そして蒼は黙ってマスコットを受け取った。
「ありがとう…」
ユラとキラはにっこりと笑った。
「…桜月さんが?」
「そうらしい…。」
紅は、今朝担任から聞いた話を蒼にしていた。
―キラ達の…お父さんが亡くなった…
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蒼と紅はキラたちの家に来ていた。そこには、数え切れないほどの人がいた。
「いた…。」
その中で、二人はキラとユラを見つけると、人を掻き分けて二人のもとへ行った。
「あ…」
「片桐くん…。」
二人は、見るからに落ち込んでいたが、泣いていたのはユラだけだった。
「大丈夫?」
「……」
二人は、なんと言っていいのか分からなかった。
「お父さん…取引先の外国で…」
キラが、か細いことで話し始めた。二人はそれを、なんとも言えぬ気持ちで聞いていた。
「蒼…俺達ここにいても…」
「そう…ですね…。」
二人が、そう言った時、ユラがふっと顔を上げて見つめてきた。
何も言わなかったが、紅と蒼にはユラが何を言いたいのか分かった、おそらくキラもだろう…
―おねがい…ここにいて…―
結局、通夜が始まり、葬式が終わるまで泊まることになってしまった。
最初は、親戚に人に悪いから、と言う理由で帰ろうとしたのだが、大丈夫だからといわれそうなってしまった。
実際に、自分たちのことは追及されなかった。
「というより…キラちゃんとユラちゃんには興味ないって感じだったな…。」
「そうですね…ユラさんたちの話によると…なんか、仲が悪かったみたいですから…
成功したものをねたむ気持ちは分からないでもないですが…。」
「だからって、兄弟同士で…。キラちゃんとユラちゃんどうなるのかな…。」
「分かりません…あまりいい予感はしませんが。」
二人はキラとユラの部屋で話していた。キラとユラからの強い願いで、ここに泊まっていたのだった。
その時、ドアが開いてキラとユラが入ってきた。
「ごめんね、無理言っていてもらって…。」
「ありがとう…もう大丈夫だから…。」
二人は、紅と蒼のすぐ横に座った。ユラは幾分大丈夫そうだったが問題はキラだった。
「キラちゃん…顔色悪いよ?」
「え?…そんなことないよ、心配しないで紅くん。」
そういって、にこっと笑ったがどこか無理をしていた。
蒼にはその理由がなんとなくわかっていた。
「でも…泣いてませんよね…キラさん。」
「……」
キラの表情が固まった。
「蒼!!」
紅が強い口調で言った、しばしその場を静寂が包んだ。
キラは下を向いて、体が僅かに震えていた。
そんなキラと蒼をおろおろと交互に見つめるユラ…
そして、
「紅…」
蒼はちらりと紅を見た…紅はふうと溜息をつくと、
「ユラちゃん、ちょっといいかな?」
ユラと一緒に部屋の外へ出た。
「蒼君…?」
「いまなら、泣いていいですよ…?」
キラのは戸惑った表情を見せた。
「人は、楽しいことがあれば笑うし、悲しいことがあれば泣くものです…そうやって、抱えきれない気持ちを吐き出してるんです。
だけど、キラさん…俺達が来てからずっと泣いてないでしょう?あれでは、心に負担がかかるだけです…」
「でも…」
「わかってますよ…ユラさんが泣いていたから自分はしっかりしないと…そう思ったんでしょう?
自分じゃそうは思ってなかったとしても、無意識にそういうふうになってしまったんじゃないでしょうか…
本当は……悲しいんでしょ…?だって、もう、お父さんと会えないんだから…。大好きな人に…もう二度と…」
蒼はそう言うと優しくキラを抱き締めて…
「…今は無理しなくてもいいですよ…きみが、しっかりしないといけない理由もありませんし…」
―俺がいますから…―
「うっ…ぐすっ…蒼…くん…わたし…」
キラは蒼の服をぎゅっと掴み声を上げて泣き出した。
「それで…いいんです…」
―本当は、泣きたかった…けど、泣けなかった…。でも、今なら私を支えてくれる人がいる…―
「キラちゃん…大丈夫かな…。」
「大丈夫だと思うよ、蒼、人を慰めたりするのは上手いから…。アイツ、人の心を良く分かってやれるやつだから…」
「紅君も…でしょ?」
「いや…俺なんかよりも、ずっとアイツはすごいよ…俺なんかよりも…ずっと。俺は、キラちゃんのこと分かってあげられなかったから…」
「紅君…」
「だから、ユラちゃんもアイツの事を好きになったんでしょ?」
「!!知っていたの…?」
「まあ…ね。ユラちゃんの視線がしょっちゅうアイツのほうにいってたし…。」
紅はふふっと笑ってユラのほうを見た、
「頑張ってね、俺も応援してるから。」
それから数日後のことだ、案の定、桜月の血縁者の間で様々なことが問題になった。
遺産などは、本来キラとユラの物なのだが、まだ管理を出来る歳ではないのでそれを誰が管理するかなど、
あとは、誰がキラとユラの面倒を見るのか…。
「…それってあり?」
「…うん…」
キラとユラの話によると、父の会社で同じように経営に携わってた伯母が会社を引き継ぎ、二人の面倒を見る事になった。
しかし、この伯母と父の仲が悪かったらしく(伯母が一方的に妬んでいただけのようだったらしいが)そこで問題が生じた。
「何も家を壊さなくても…で、キラちゃんとユラちゃんはどうするの?」
「もしかしたら…学校…変わっちゃうかも…。」
キラの伯母は県外に住んでいるらしく、自分はこっちまでこれないから変わりにキラとユラが来いという事だった。
家の件は、管理する人間もいず、土地に戻したほうが価値があるからという理由で壊される、もしくは売られると言う事だった。
「俺達には分からない世界ですけど…なんとなく、嫌な感じはしますね…。」
「家のことは…仕方ないの…でも…」
「転校したら、貴方達に会えなくなっちゃう…それは…嫌なの!」
キラとユラは目に涙を浮かべていた
「と、言われても…」
「…お父さんの遺言状でもあれば別ですけど…まさかね…。」
桜月さんは不慮の事故でなくなったのだ、遺書など残っているはずもない。
「大丈夫、まだ分からないから…。」
「もしかしたら…もしかしたら…こっちに居られるかもしれないから…。」
その表情は、現実を知った上で、わずかな希望にすがろうとしている感じだった。
しかし、物事は上手く進むときにはとことん上手く進むようだった。
数日後の夜、片桐家。
「どうにかならないかな…キラちゃんたち…。」
「どうしょうもないでしょう…。俺達は所詮他人なんですから。家の事情にまで介入するわけには行きませんから…。」
例のごとく、食器を洗いながら二人は会話していた。
「だけどな…そう、やり切れるもんじゃないぜ?あの子達の意思とは考えなしに物事が進んでいくってのは…」
「そうですね…俺達は幸運だったのかもしれません…。」
紅と蒼も両親を亡くしている。
彼らがまだ幼いとき母親が逝去した。当時の二人には何が起きたか理解できなかったが…。
それからは、男手一つで育てられた、彼らの父も若くして成功したくちで生活には困らなかったが、紅と蒼、二人でいる時間が多かった。
それでも、二人は父親を尊敬していたし、心から好きだった…。
しかし、その父親も過労がたたったのか、心臓の病気でこの世を去った。
父に兄弟はなく、祖父母もすでに他界していた。母が勘当同然で家を出て父と結婚したため、そちらには頼れなかった。
それからは、二人は父親の残した遺産を頼りに二人で生活していた。
「…まさか…キラちゃんたちまでなぁ…。」
「俺達も、親戚とかがいたら…もっとややこしい事になっていたかもしれませんね…。」
実際、母方の親類と多少あったのだが、父の遺書のおかげで事はすんだのだ。
二人は、食器を洗い終えると、いつぞやのようにリビングに腰を下ろした。
「何か力になってあげられないでしょうか…。」
「…キラちゃん達にもここに住んでもらうか?部屋は十分あるし。」
「いや…それは流石に無理でしょう…。」
―ピンポーン
「こんな時間に…いったい誰でしょう。」
蒼が玄関に言ってドアを開けると…
「こ…こんばんわ…!」
「ごめんなさい…こんな時間に…」
先ほど、話をしていた二人が立っていた。
「…で、ここに来たわけですか…。」
蒼はふうと溜息をついた。
話によると、なんと、父親の遺書と言うより手紙があったらしい。もしものときを考えて残してい置いたようだ。
その遺書に、“自分の事は、自分達で決めなさい。そうだ、少年達の家に行けばいい!”みたいな事が書いてあったそうだ。
「…だからって、本当に来るものなのか…?」
「ごめんなさい…迷惑だよね…?」
「あ、でも片桐君たちにもパパからの手紙が入ってたの。」
「俺達に?」
そう言うと、キラとユラは手紙を差し出した。字を見るのは初めてだが、書き方を見るとどうやらそのようだ。
“やあ、少年達。元気かな?
この手紙が読まれていると言う事は、ちょっと大変な事になっているだろう。
もう一つの手紙…遺書と言うべきかな?そっちのほうがいろいろと解決してくれるだろう。
まあ、最低限の事しか書かれていないから、それでも、まだまだと言う感じだが…。
さて、本題に移るが…率直に言おう、私の娘達の事を頼む。
親戚に任せるのが筋だろうが…どうも信用できん連中ばかりだからな…あまり、いい結果にはならないだろう…。
もちろん、娘達だけでも何とかなるとは思う、執事達もいるしな…。
しかし、姉や弟の手が回されるだろうから、それも、うまくいくとは思えないんだ…。
多分、娘達もいま君達の家にいるだろう…私がそう書いておいたからな!ははははは!!
しかし、私は一つの道を提案しただけだ。それをどうするかは娘達の心次第……。
とにかく、娘達がそちらに行ったときは、よろしく頼む。金銭面なら心配しなくてもいいから…。
それと、前は言わなかったが、私は君達のお父さんと知り合いなのだ…というより、私の恩人だ…。
私が、成功するきっかけをくれたのも、お父さんのお陰なんだ…。
親子二代に渡って、世話になるが…私は、これも何かの縁だと思いたい。
それでは…よろしく頼むぞ、我が息子達よ!”
「息子達って…それと、金銭面っていったい…?」
「キラさん…もう一度聞きますけど、君達の手紙にはいったい何が?」
「やっぱり、普通に文章と…あと、何かの暗証番号かしら?」
「暗証番号…と、言う事はそこにか…。ところで、荷物とかは?」
キラとユラはいったん顔を見合わせて、
「それは、後で届く事になってるの…最低限のものだけ。」
「届くって…それっておかしくない?」
「実は、1人だけ、昔からパパに仕えている執事さんがいて、その人に相談したら…
“お嬢様方のお好きなようになさいませ、必要なものは後でこっそりと運びますから…”」
「そうですか…でも、それだけじゃすみませんよね…多分。」
そんな話をしていると、表に車が止まった。
「…いい方だと良いんですが…。」
表に出てみると、おそらく、話に出た執事のようだ。本当に、荷物を持ってきたようだ。
「お嬢様方を…お頼みします…。」
それだけ言い残して走り去っていった。
「最低限って…結構多いな…流石お嬢様。部屋足りるか?ってか…どうやって運び出したんだ?」
「分かりませんよ…とりあえず、今日のところは荷物運んで、また明日考えましょう…。キラさんとユラさん…食事は?」
「それは、大丈夫…」
グゥ〜………
「…何か作りますね…」
同時におなかを鳴らしたキラとユラは顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。その横では紅が必死に笑いをこらえていた。
その時、蒼がふと思いついたような顔をして
「…ユラさん…キラさん…さっきの執事さんの連絡先…分かりますか?」
「分かるけど…どうするの?」
「気になる事があるんです…ちょっとだけ。」
翌日
「紅君、蒼君、一緒に帰りましょう?」
「わざわざ聞くの?」
「一応…ね…。」
「毎日恒例ですがね…。」
そう言って、4人は一瞬固まった。
「「「「一緒の家だよねぇ…」」」」
お互い何を思ったのか分かったのか、4人はへらっと笑った。
「嫌な予感があたりましたね…。まあ、当然の事でしょうが…。しかし翌日とは…タイミングが悪すぎましたね…。」
家の前まで来るとやたらと高級そうな車が止まってた、その前には葬式の時にいたキラたちの伯母さんがいた。
「キラ、ユラ…貴方達いったいどういうつもりなの…。連絡があったから飛んできたら…」
「なんで…ここが?」
「さぁ…見た人がいたか…それとも内通したのが居たのか…いずれにしても、調べられたのでしょう…。」
「馬鹿な事はやめて、さっさと戻ってもらうわ!」
横にいた男が、キラとユラに向かってきた、しかし、蒼と紅がさえぎった。
「あなたたち…何のつもり?」
「…」
蒼と紅は黙って睨んでいた、すると
「私達…帰りたくない!」
「転校なんか…したくない!!」
キラとユラがそろって叫んだ…
「何をわがままを言っているの…?そんな訳にはいかないのよ…」
「まてよ…おばさん…二人が帰りたくないって言ってるんだ…それに、お父さんの手紙にもそうあったんだ…」
「うん…“自分達で決めろって”…だから私達…。」
「子供だけで何が出来るって言うの?」
伯母はふんっと鼻で笑った
「…少なくとも俺達は、今まで紅と二人でやってきました…金銭面なら心配ありません、父が残したものがあるし…来年…高校に上がればアルバイトも許可されます…。」
「さすがは、片桐さんの息子さん達ね…口だけは達者…。」
「伯母さん…片桐君たちのお父さんを知っていたの?」
「ええ…でも、そんな事今はどうだって良いの…さ…坊や達、そこをどいて…。私達はこの二人のために言ってるの…」
しかし、紅と蒼はまったく動かず、キラとユラも動く気配がなかった…。
「…どうしても…どうしてもと言うのなら…」
「…私達…転校だけはしたくないんです…!だから…それだけは…」
伯母はふぅと溜息をついて…
「大人の言うことは聞くものよ…?それに、子供にはどうしょうもできない事もあるの…」
「法律…ですか?」
蒼は小さくつぶやいた…。
「あら、少しは賢いのね…その通りよ…だから、分かるでしょ?」
その言葉を聞いて、キラ、ユラは少し暗くなった
―法律と言うものを出されてはどうしょうもできない…。
「でも、親権者と子が一緒に暮らさないといけないなんて法律はありませんよ?」
蒼が淡々と言った。
「良く知ってるわね、でもその二人は私の決めた場所で暮らさなきゃいけないの…それも法律…」
「あんたが、親権者なら…だろ?」
伯母の顔が少し引きつった…。
「何を言って…私は…」
「話は全て、あの執事さんから聞きました…。」
「あなた…なにか知っている、いえ、桜月さんからなにか言われていますね?」
『……』
「いくら、桜月家御用達の執事と言っても、突然よその家に行くといっても普通納得しませんから…。」
『あまり細かい事はいえませんが…』
そして、執事はある程度のことを話した。この執事にも遺言状が残されていた。
実は、親類に渡された遺産は全体の3分の1ほどで、後はキラとユラのものになっているらしい。
その為、分配された遺産に疑問をもつ者がいても当然だという事だ…。
しかし、キラとユラの親権が現在自分にあるだめそれが分かっても手が出せない、
更には、もしものときの為に対抗策も残されている、という事だった。
「…親権が貴方にないためユラさんとキラさんの遺産に手が出せない…
それでどうにかして親権を手に入れたい…。 結局のところ…金目当てですか…。なんと醜い。」
「でも、そう上手くは行かないみたいだぜ…あの人、あんたの秘密も握ってるって言ってたしな…」
その言葉を聞いて、伯母の顔は青くなった。なにか心当たりがあるようだ。
しかし、キラとユラはいまいち良くわからない顔をしていた、とりあえず、大丈夫だと言う事だけは理解した。
「「さあ、それでもこの二人を連れて行くのか?」」
伯母は苦々しそうな表情をし…
「貴方達に…この二人を守る事が出来るの?」
その質問に、当然のように
「あたりまえだろ…この娘達は」
「俺達が守ります…」
「…帰るわよ…」
伯母は、お供を引き連れて車に乗って引き上げた。
「ふぅ…」
すると、入れ替わりに昨日の執事の車が来た。
「あ、善光寺さん…」
「キラ様、ユラ様、大丈夫でしょうか?」
「はい、彼らが…守ってくれました…。」
それから、4人はその場で話をされた、
主に、残されたもう一つの遺言状の事だったが、話の中に、家が壊されずに済むと言う話もあった…
最終手段を使えば…
「私は、その位しても罰は当たらないと思いますが?」
「そうね…だけど…」
残ったとしても、それを管理する人がいない。今まではかなりの人を雇っていたがその殆どは再就職先に就こうとしている。
仮に、キラ達が戻るとしても、やはり世話をする人が必要になる、しかし、その人たちに支払うお金の出所がない…。
そう簡単に戻って今までどおりというわけにはいかない、伯母の判断も当然かもしれない。
「伯母様は、あそこを何にするつもりなの?」
「集合住宅地か何かにするとおっしゃいました…。」
「そう…」
キラとユラはふと暗い顔になった。小さいころから暮らした家がなくなるのはやはり悲しいのだろう…。
「それなら、あの屋敷をそのまま残して何かに利用していただくよう掛け合ってみましょう…」
「「(脅迫の間違いじゃ?)」」
「それなら…ね、ユラちゃん?」
「うん、それなら…」
部屋数も多いのであのままホテルか何かにすれば、たくさんの人たちに喜んでもらえるし、今まで働いていた人もそのまま従業員として働ける。
「しかし、お嬢様方はよろしいので?」
「私達は…」
キラとユラは蒼と紅の方を向いて
「「この人たちと、一緒に暮らしてみたいんです…。」」
「さようでございますか…、紅様、蒼様、お嬢様方をよろしくお願いいたします。一応、私が親権者なので…」
最後の言葉の意味がわかったのか、蒼と紅は苦笑いを浮かべていた。
「よかったの?家に戻らなくて…」
「ううん、今まで誰かにお世話してもらうばっかりだったから、自分達で出来るようにならなきゃ。」
「それに…せっかく貴方達と一緒にいられるんだし…パパの気持ちも無駄にしたくないから…。でも、迷惑じゃないの…?」
紅たちの家も、キラたちの家に比べればかなり小さいが、それでも一般水準よりかは上だ。
使ってない部屋が3つ位ある上に、一つ一つの部屋が大きい。
「迷惑だ何て思ってませんよ…こちらとしても…その…うれしいです。」
「お前にしてはやけに素直だな…雨でも降るのか?」
「紅!まったく…」
紅と蒼は家の扉の前まで歩くと、
「「お帰り、キラ、ユラ」」
「「…ただいま」」
4人がドアを開けて入ると、ネコが二匹、それを祝福するかのように「にゃあ」と鳴いた。