「……今年度から、このクラスの担任となった桃衣です。色々と至らない所がありますでしょうが、どうかよろしくお願いします」  
 堂々としているようで微かに上ずっているその声を、俺は覚えている。  
 時の流れを経ても変わらないその可憐な顔立ちを、俺は忘れていない。  
 一時間目の鐘が鳴って立ち去ろうとする時、少しの間がある。  
 右足か左足か迷って、右。……当たり。緊張している時の癖、変わっていない。  
 間違いない。もう何年も会ってなかったけど、あの人は―――。  
 
 
「ひろや……もしかしてヒロ君!?」  
「そうだよ俺だよ、藤宮博也。覚えててくれて良かった〜! そうじゃなかったらマジ恥かくところだった」  
 桃衣愛。通称愛ねーちゃん。  
 俺が小さかった頃、隣に住んでいた年上のお姉さん。  
 恥ずかしい話、昔の俺はこの人にべったりで、暇さえあればどこかへ遊びに連れてもらっていた。いわゆる初恋の人ってやつだ。  
 引っ越して数年が経ち、その頃の記憶も曖昧になっているけど、愛ねーちゃんの事だけは覚えている。綺麗で、優しくて、賢くて、それから確か……かくいう自分でもよく思い出せていないな。  
 でも、思い出の人はおぼろげに残っている記憶と変わらず、目の前にいる。今の俺には、こうして再会できただけでも嬉しくてしょうがない。  
「本当懐かしいわねぇ…。運命って本当にあるみたい。そうだ、放課後になったら進路指導室に来て。みんなで再会のお祝いしましょ」  
「えっ、何でそんな所で? 俺、今はここの地元っ子なんだぜ。飲むんだったら他に良いトコ知ってるけど」  
 『飲む』という単語が出てしまった瞬間、内心で舌打ちする。  
 放課後や休日ならともかく、学校での俺たちは生徒と教師。こんな校則違反上等な話をして良い筈がない。  
 けど愛ねーちゃんはそれを咎めず、こう続けた。  
「フフッ、それは実際に行ってみてからのお楽しみ♪ それじゃ、待ってるからね」  
 そう言って、あの人は俺のそばから離れていった。  
 俺はそれをただ黙って、そこに何が待っているのか分からずに見送るだけだった……。  
 
「失礼しまーす。……桃衣先生いらっしゃいますかー?」  
 使い慣れない丁寧語で恐る恐る尋ねてみる。返事は、すぐには返ってこない。  
 この時期、進路指導室に訪れる生徒はまずいない。…っていうか、教師もほとんど来ない。  
 いるとすれば、それは―――。  
「アラ、進路の相談? 悪いんだけど、今日は……って、ヒロ君! もう来てくれたんだ?」  
 奥まった所から現れたのは、愛ねーちゃん。  
 さっきまで書類か何かを漁っていたらしく、今は白衣に眼鏡という出で立ちだ。こうして見ると、さっき会った時とはまるで別人。俺の知らない一面っていうのを思い知らされる。  
「あ、ああ。ここに来てくれって愛ねーちゃん言ってたじゃないか。だから俺、急いで」  
「…………そっか。キミって昔からそうだったよね、いつも後ろにくっ付いて」  
 懐かしそうに目を細めて近づいてくる愛ねーちゃん。  
 俺は見つめられた瞬間、緊張で身体が動けなくなっていた。普段、会話をする時の間合いをあっさり詰められ、その顔が間近に迫ってもマトモに対応できない。  
「久しぶりだね、ヒロ君」  
 よく分からない香水の匂いがブワッと広がる。  
 その勢いはまるで一陣の風のよう。それでいて、匂いは穏やかに俺の鼻をくすぐる。  
「今まで元気にしていた? ちゃんと勉強はできてる?」  
「オ、オウ」  
「彼女とかはいたりするの?」  
「……か!? い、いねぇよ。こっちには愛ねーちゃんみたいな人いなかったし……」  
 我ながら情けないとは思うが、アップアップだった。  
 いくら初恋の人だからって、ここまで緊張するものだろうか。いや、目の前の人はそれを差し引いても魅力的な女性だからだろう。  
 俺はこれ以上飲まれまいとして、息を吸…  
「そっか……。それじゃ」  
 …おうとして、すぐに吐き出してしまった。  
 
 唇に熱が点る。背中には手を回されて胸板に柔らかな感触。  
 俺は愛ねーちゃんに抱きつかれて―――。  
「……再会のお祝い。ただいま、ヒロ君」  
 いたずらっ子みたいな顔して微笑む愛ねーちゃん。  
 でも、その瞳には確かに熱い視線が、少なくとも親愛の情以上のものが込められているのを感じられる。  
 それは俺を遠いどこかへ誘っているようで、だからなのか俺は、  
「あっ……!?」  
 気が付けば彼女を押し倒してしまっていた。  
「ヒロ君……」  
「愛ねーちゃん……俺、昔からねーちゃんの事好きで、そんなコトされたら……我慢、できない」  
 愛ねーちゃんを見下ろしながら語るその言葉は、自分でもひどく弱々しい。  
 心音は狂ったように身体の内部から響いてくるし、自分を支えている腕もブルブルと震えて姿勢が保てない。  
 遠い昔に置き去りにしたはずの感情は、言ってしまってから急速に重圧として襲い掛かってくる。  
「ヒロ君だったら……いいよ?」  
 そんな俺を、愛ねーちゃんは優しく引き寄せ、抱き止めてくれていた。  
 
「んっ……ん、んッ、ンゥ………」  
 繋がった口の中で舌が絡み合う。ファーストキスはレモン味とは言うけれど、そんなコト確かめる暇も無い。さっきのは不意打ちだし、今度はディープなんだから。  
 その上、抱き合った身体は完全に密着していて、そこから愛ねーちゃんの感触が伝わってくる。胸とか、お腹とか、二の腕とか、男とは全く違う柔らかさに鼻息は荒く、身体は熱くなっていくばかり。  
「……? んっ……」  
 愛ねーちゃんの手が伸びて、軽くさすってきた。  
 股間のモノは押し倒してしまった時から勃起している。それはもうパンパンになって。  
 ズボンはあからさまに盛り上がっているし、その怒張が行き着く先は愛ねーちゃんの大事な場所。  
 俺が愛ねーちゃんの身体を感じるという事はつまり、ねーちゃんも俺の身体を感じる訳で……恥ずかしくて死ねる。  
「……ンフッ、ンムゥ、……ゥッ、んんっ!」  
 キスを続ける傍ら、愛ねーちゃんは器用にも片手でズボンのファスナーを下ろしていく。  
 その瞬間デロンとはみ出る俺のイチモツ。勃起しているとはいえ、皮が自力で剥けていない。  
 ソレをねーちゃんは素手で掴み、扱き下ろした。  
「ゥッ…!」  
 衝撃で目が飛び出そうになる。  
 皮が剥けたからじゃない。“皮を剥いてくれた”からだ。  
 だって昔憧れていた人が、今こうやって俺のモノを愛撫してくれるなんて、ありえない。  
 昔以上に綺麗な顔して、オトコの下半身をイヤラシイ動きで弄んでいるなんて、信じられない。  
 たまらず俺は顔を上げてしまった。  
 
「あ……もしかして痛かった? 痛くしてたならゴメンね」  
「いや、そんなことない。そんなことないよ。ちょっとビックリしちゃってさ。愛ねーちゃんがこんなコトしてくれるなんて思わなかったから」  
「フフ……そうね、多分しないでしょうね。でも……相手がヒロ君なら」  
 こうやって話している間も、愛ねーちゃんは手を上下に動かして肉棒をしごき上げていた。  
 俺に配慮してか、そのスピードはゆっくり目で、剥かれた時よりは落ち着いて手の感触を楽しめる。  
 愛ねーちゃんの手は同じ人間の手とは思えないほど柔らかく、その上素人目にも巧みな指使いで弄るから、気持ちよさは止まることを知らない。  
 押し倒しといてなんだが、このまま手でしてもらった方がいいのかなーと思ってしまうほどに満ち足りてしまうのだ。  
「……っ!?」  
「してもらうだけで満足なの? ここ、触っていいんだよ?」  
 俺の手を取って、自分の胸を押し当てさせる。  
 その手に込められた力は、言外に触ってほしいという意味なのか。ロボットアームになったような気分で手を動かし、揉んでみる。  
「あん……ッ」  
 ……柔らかい。マジ柔らかい。ヤバイ、俺こんな触り心地いいなんて知らなかった。  
 直に感じるべくシャツをめくり上げると、桜の花を散りばめたピンクのブラジャーが目に飛び込む。カップがどれ位あるかなんて分からない。いや、それが何を包み隠しているかを目の当たりにしたら、そんなコト馬鹿馬鹿しくて考えてられるかっての。  
「愛ねーちゃん、着やせするタイプだったんだ……」  
「うん、よく言われる」  
 巨乳。否、爆乳。  
 一つにつき赤ん坊の頭ほどもあるソレは、これ見よがしに揺れている。その揺れ方はある意味局地的な地震といっても過言ではなかった。  
 後ろに手を回してホックを外すと、ブラジャーから解放された乳房が一際よく跳ねる。  
 ここまでよく出来ていると素直に喜びを露わにしていいものか分からず、当たり障りのないコメントしか口に出来ない。  
 
「もぉっ、ヒロ君たら甘えんぼさん」  
 思い切って胸の谷間に顔を埋めてみた。上に、下に、右に、左に、果ては両側から挟みこむ。  
 窒息してもおかしくない程の質量を持つ愛ねーちゃんの胸。そこにどこまでも沈み込みそうな錯覚がとても気持ちいい。  
 そうやってパフパフを楽しんでいる間に、俺の手は手探りで愛ねーちゃんの腰元にたどり着く。  
 サイドのファスナーを下ろし、スカートがずり落ちるのを物音で確認。  
 胸に挟まれて目が見えない状態のまま、愛ねーちゃんのパンティの中へ手を突っ込む。  
「……ゃっ、アッ、そこ、もっと下、下からさするように……ッ!」  
 パンティの中―――愛ねーちゃんの股間は濡れに濡れてグッショリだった。  
 愛液自体はもちろん湿気も充満しており、触れるよりも先にまず手が湿ってしまいそうになる。もっとも、中に突っ込んでから一秒するかしないかの内にアソコに触れているのだから、濡れていない状態なんてありえないんだけど。  
「そうッ、そこそこ、モッ、もっと突っ込んでッ、でも力は入れないで……っ!」  
 俺は愛ねーちゃんの指示に従って、下からすくい上げるようにアソコを撫でていく。  
 形は一本の筋なのだから滑らかにいくものだと思っていたが、実態は何かビラビラしたものや突起物があって、そう旨くはいかない。  
「ゥうう………ッ、クゥゥン……ッ!」  
 下から上へ、引っかかるものは適度に弄りまわすと、愛ねーちゃんは比較的大きめな声を上げて身体を震わせる。  
 性知識としてクリトリスがどうのこうのという原理は知っていたが、この反応はそれがどういうものかを感覚的に、この上もなく判りやすく説明してくれている。  
 それは見ているだけでも、その気にさせるような色っぽさを持っていて、俺にも興奮が伝染してしまうからだ。  
 
「そろそろ……いいかな?」  
 お留守になっている肉棒を掴み、愛ねーちゃんのアソコに押し当てる。  
 モノは今にもスリットを貫きそうだったが、必死に息を整えつつ、お伺いを立てた。  
 一応、男のプライドにかけて余裕は見せておかないとな。  
「……うん。来て……アッ………ァぁぁッ!!」  
 愛ねーちゃんが頷くと同時に、腰を突き出す。  
 しかし、それでは挿入が上手くいかなかったので、愛ねーちゃんの先導で入れてもらう。  
「オッ、あ゛、あ゛、愛ねぇっ……ちゃん!」  
「いいのよ、ヒロ君そのまま……うっ、んッ!」  
 愛ねーちゃんの中に入って最初に感じた事は、『熱い』というものだった。  
 別にそれで腰が引けてしまう訳じゃない。ただ、身体の深奥から伝わる熱に圧倒されてしまう。  
 熱くて……、気持ちよくて……、それをどうにかすべく身体が動く。  
 愛ねーちゃんに触れてからこっち、引きずられるようにエロに走っているが、これはその最たるものだと思う。  
「……ッ、クッ、あっ……ッ……うぅッ!」  
 素人目に見ても力任せなセックス。自分でも乱暴だと思うが、俺はこんなやり方しか知らない。  
「あっ、ふぁっ、ヒロ君のっ、ヒロ君のが……ハァッ、暴れてるよぉっ………アフンッ!」  
 それを愛ねーちゃんはさしたる抵抗も見せずに受け入れてしまう。  
 膣壁は中を通るモノを程よく締め付け、襞がソレを更に擦りあげる。まるで意思を持ったかのような膣内の反応は、やっぱ経験の差ってやつなんだろうか?  
 
「フゥッ、フッ……、クッ、クゥゥッ…!」  
「ィイッ! ハッ、ヒッ……ィィ良い、良いよぉ……ヒロ君ゥゥゥン!」  
 腰に手を添えて、ひたすら前後運動を繰り返す。  
 乳首を立たせた豊満な胸が揺れに揺れる。  
 愛ねーちゃんは苦しいような、気持ちよさそうな顔でこちらを見つめる。  
 その顔は、俺が知っていた愛ねーちゃんのものじゃない。隣のお姉さんでも、学校の先生でもない、一人の女性としての顔。ともすれば、震え上がってしまうほどに妖艶で、抱きしめたくなるほどに可愛らしい。  
 俺はそれで堪らず愛ねーちゃんに抱きついた。  
「愛ねーちゃん……ッ!」  
「ンンッ……、んッ、ンフッ、ン〜〜〜〜!!」  
 自分を膣内の奥まで押し込んでからのキス。そして、キスした直後に尿道から精子の放出される感覚。  
 いけない事だと分かってはいたが、俺はそうしたかった。  
 単なる性欲の充実だけでなく、好きな人とこうやって結ばれ―――  
 
「二人とも何やってるの……!?」  
 
 突如指導室の入り口から響いた愛ねーちゃんの声。……入り口?  
 声のした方へ振り向く。ソコには愛ねーちゃんと寸分違わぬ姿の誰かがいる。  
「――――――え?」  
 もう一度目を凝らして、よく見てみる。  
 俺の下で余韻に浸る愛ねーちゃん。  
 俺と愛ねーちゃんを見てポカーンとしている愛ねーちゃん。  
 愛ねーちゃんが二人。二人の愛ねーちゃん……………………!?  
「ッ…………ああ嗚呼アァぁァッ!!!」  
 今思い出した。  
 過去というアルバムの中で、愛ねーちゃんという写真(きおく)の隣にかろうじて引っかかっていた、もう一つの写真。  
 桃衣舞。通称舞ねーちゃん。  
 俺が小さかった頃、隣に住んでいた双子のお姉さん。  
 思い出したくもないが、昔の俺はこの人に散々オモチャにされて、暇さえあれば何かしらの被害をこうむっていた。いわゆる目の上のタンコブってやつだ。  
 引っ越して数年が経ち、その頃の記憶も薄れていたというのに急速に思い出していく。綺麗だけど、いじわるで、ズル賢くて、それから確か……もうこれ以上思い出したくない。  
 しかも、思い出の二人は現在に至っても瓜二つで、目の前で二人揃うまで俺は全く気付けなかった。……という事は。  
 
「あっ、やっと気付いてくれた。博也ってば全然気付いてくれなかったから、お姉さん傷ついちゃった」  
 俺とセックスしていた方の愛ねーちゃん―――舞ねーちゃんは、服を着るより先に眼鏡をかけて、そんなコトを抜かしやがった。  
 そして、怒り心頭で詰め寄ろうとした俺に向かって、こう囁く。  
「(いいじゃないの。お陰で脱・童貞できたんだし。これで今度は愛をリードしてあげられるじゃない?)」  
「なぁ……ッ!? (舞ねーちゃんソレどういう意味だよ)」  
「(さっきのアレ、全然早すぎ。女の子の扱い下手だし、未通のあの子じゃ泣いちゃうかもよ? もう少し練習つまないと)」  
「…………!」  
 さっきまであんなに楽しんでいそうだったのに、辛辣な意見を出されてドキリとする。  
 ……っていうか、早漏とか下手とか言われて正直ヘコむ。  
「ちょっと舞、貴女いつもの要領でヒロ君まで誑かしたんじゃないでしょうね!? いい加減、男漁りはやめなさいっていったでしょ」  
「だってぇ、あの博也があんなにカッコ良くなっていたから、つい」  
「その気じゃないのに、相手が本気になったらどうするの。ほら、ヒロ君傷ついて落ち込んでるじゃない」  
「落ち込んでいる原因は多分別の所にあると思うんだけどなぁ……」  
 天国から地獄へ。いや、姿形のそっくりな天使と悪魔が目前で戯れている。  
 憧れていた人との再会。秘めていた想いの発露。そして……いきなり叶った初体験。  
 何もかもが運命だとは思わないが、これはあんまりじゃないだろうか。だけど―――、  
「ま、何はともあれ、改めて宜しくね」  
 チャンスはもう一度。  
 かつての姉弟(きょうだい)が揃い、あの頃とはまた違った時が動き出す。  
 

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