桜月キラ、桜月ユラ。もしかしたら、
一生会うことはなかったかもしれない姉妹。
俺は出会うまでその存在を知らなかった。彼女らは知ってはいたようだけど。
今では誰より何より大切な存在だ。
「「お〜い!」」
学園の校門で二人を待っていた俺を呼ぶ声。
もちろん、キラとユラだ。
外見は全く同じで、リボンの色が赤くて元気なのがキラで、
青くて多少大人しめなのがユラ。
実際のところ、未だに区別はつかない。
それをいうと怒るから言わないが。
「お待たせ!」
「ごめんね、待たせちゃって」
長い髪をなびかせて、二人が走りよってくる。
二人が俺だけに向ける笑顔を見ることはこの上ない喜びだ。
だけど、彼女らと出会えた喜びは、両親を失った悲しみとは切り離せない。
俺が中学二年のころ両親が死んだ。交通事故だった。
深夜、酔っ払い運転で暴走した車にはねられ、即死した。
病院からの呼び出しを受けた俺は、頭の中が空っぽになる状態をはじめて体験した。
遺体の状態はひどかったが、確認のために肉塊となった両親を見た。
嘔吐こそしなかったが、当分肉は食えないなと思った。
悲しみはあったが、それはそれとしてこれからのことを考えていた。
冷たいと思うなかれ。天涯孤独になってしまった人間の気持ちはその人にしかわからない。
両親には親族がいなかったので、俺は身寄りがないのだ。
不幸中の幸いというか、加害者は金持ちだったので賠償金が多く早く手に入った。
生命保険やら財産は少々もらえるのに時間がかかるらしい。
だからもらえるものはもらっておきたかった。
とはいえ、日々の忙しさに悲しんでいるだけではいられなかった。
事故からすぐに俺は中学三年になった。最初の進路決定の年。
あの人と出会ったのは夏ごろ。そろそろ心を決めなければならない時期だった。
中学三年八月。まだ夏休みのころにその人は我が家へ訪れた。
「こんばんわ」
「……こんばんわ」
ドアを開けた向こうには、親父とほぼ同年代だろう中年男性がいた。
「私は桜月という。君のお父さんの友人だった。ご挨拶させてもらえないだろうか」
特に断る理由もないしと、桜月さんを招きいれた。
家の正門前にゴツイ車が止まっていたのが気になった。
どこぞのお偉いさんなのかな?
「……」
熱心に両親に手を合わせる桜月さん。
こういうとき、人は何を思っているんだろう。
後姿にそんなことを考えていると、桜月さんは立ち上がり、茶の間へきた。
「ありがとう」
「いえ……。あ、粗茶ですが」
「ありがとう」
何かにつけて偉そう、ってのは表現がひどいか。
威厳があるのでなんだか緊張するな。
「……」
「……」
か、会話がない。なんて物静かな人だ。
「私と奴は……小中高と同じ学校だった」
「は? ああ」
いきなり話し始める桜月さん。
変な声を出してから、身の上話を始めたのだとわかった。
「まあ、親友といって差し支えない間柄だっただろうな」
親友ですか。その割りに親父が死んでから随分たってるけど。
「仕事で外国に行っていてね。来るのが遅れてしまった」
俺の考えを読んだかのようなセリフに少し驚いた。
「ところで、失礼でなければこれからどうするのか、聞かせてもらえるかな?」
これから……それは俺も考えていたことだけど。
「……とりあえず、この家は手放そうと思っています」
「ほう……」
「管理にも手間取りますし。でも、中学卒業まではここにいる予定です」
思い出はある。けどそれはそれ、現実問題として一人じゃ広すぎる。
「高校にはバイトしながらになりますけど、通う予定です。受かればですけど」
生命保険もおりたし資金面では問題ない。成績も問題ない。
ちなみに入学以来、ベスト10以内をキープしているぞ。
「学校の近くにでも部屋を借りて一人暮らししようと」
一人暮らしをして母さんの苦労がわかった。
けど、めんどくさいけどなんとかなるものだ。
「そうか……ちなみにそれ以降……つまり大学はどうする?」
「それはまだ……その時になってみないとなんとも言えません。
行きたくなったらがんばります」
本当に行きたいなら、奨学金取るぐらいのことはやってみせないとな。
「……そうか。やはり奴の子だな」
「は? まあ、そうですが」
何を言い出すんだ、この人は? というか、さっきから何を言いたいんだろう?
「いや、あいつも君と同じころに両親を無くしている。
そのころ君と同じことを言っていたよ」
そうか、数少ない親父の昔を知る人なんだな。
桜月さんはしみじみと語る。急に親父と同い年だって気がした。
「高校はどこに行くのか決めているのかな?」
「ええ、一応。双恋学園に(←突っ込み無用)」
県下で一番偏差値の高い高校だけど、推薦は取れそうだと担任は言っていた。
「そうか……。それなら私は君の力になれると思う」
どうやら本題に入りそうだ。桜月さんは座りなおして言った。
「私の資産の一つにアパートがあって、ちょうど双恋学園の近くにある。
そこに入居しないか?」
話を要約すると、友人の息子を助けたいってことだ。
もちろん、俺はお願いした。
家賃はいらないと言ってくれたけど、
さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない。
と言うと、
「そう言うと思った。家賃は学生価格で構わない」
笑いながら答えた。なんだか読まれているような気がする。
そんなに親父と似ているのかな?
「代わりというわけではないが、一つ頼まれごとをしてくれるかな」
それから……
三月、俺は中学を卒業した。高校には合格し、家は売却された。
新しい生活が始まる。
その起点となるのが、今目の前にあるこのアパート。
家賃の割にはいい物件だ。ありがたいことだ。
「うっし! やるか!」
気合一発。荷物は先にアパートに送ってある。とっとと片付けるとしよう。
と、意気込みはしたけども、早速、その気合は崩れてしまった。
「「あ、お帰りなさい!」」
人生二度目の、頭の中が真っ白になる状況。
俺の部屋のはずなのに、すでに女の子が二人いて、
同じ顔をしていて、梱包を解いている。
「あ、驚かせちゃったよね、ごめんなさい」
赤いリボンをしているほうが言う。
「私は桜月キラ」
「私が桜月ユラ」
今度は青いリボンのほうが言う。
「「よろしくね」」
名前を聞いて思い当たった。彼女らは桜月さんの娘さんだ。
そう、桜月さんと初めて会った日、
最後に彼が言った頼まれごと、そのものだ。
ちなみに、一緒に住むわけではない。
桜月さんが俺に頼んだことってのが、この双子のお守り、かな?
今まで学校へは車で送り迎えされていたそうだけど、
何があったか高校からは徒歩で行きたいと言い出したらしい。
ま、普通の家ならそれでいいんだろうけど。
桜月家ってのはお金持ちなわけで、誘拐の危険は一般人の俺よりはるかに大きいわけだ。
黒子衆なんていう護衛団まであるっていうんだから、わけわからん世界だ。
だけどこの姉妹はごくごく普通の学校生活が送りたいと主張したわけだ。
ちょいと遅い反抗期ってとこか?
黒子衆はしょうがないにしても、黒服、強面のSPを連れ歩くなんてことはしたくないと。
で、桜月さんは娘たちを送り迎えするお守りを探さざるをえなくなった。
しかし、桜月さんは大事な娘を安心して預けられる奴を簡単に見つけられなかった。
で、それはそれとして親父の訃報があり、俺に出会ったというわけだ。
親父を知っているとはいえ俺を信じていいのか、
と聞いたら話せばそれくらいわかると言われた。
まあ、そちらがいいのならいいんですけどね。
とまあ、そんなことがあったわけで。
とりあえず二人を座らせた。荷物で満載だけど、三人が座るぐらいのスペースはあった。
「えーっと、キラさん、ユラさん、始めまして。俺……
僕が君らを送り迎えすることになった、ってのは知ってるんだよね?」
「うん。お父様のご友人の息子さんってことも知ってるよ」
「それはともかく、さんづけやめてね。あと敬語も」
「そう? じゃ遠慮なく」
話の内容を聞くに、彼女らは俺のことを桜月さんから聞いていたらしい。
とはいっても、友人の息子が同い年だってことぐらいだ。
で、その人が自分たちの送り迎えをしてくれるということなら、
一度挨拶をしておこうと思ったらしい。しかし……
「一歩間違えば不法侵入だぜ?」
「あ……そうよね。ごめんなさい」
「中で待てばって言われたものだから」
いつくるかわからない男を外で待たせるわけにはいかない、というのがSPの本音だろう。
ま、別に入られたことはあまり気にしてはいないけど、
「ちなみに、すでにプライバシーを侵害している」
待ってる間に部屋を片そうと考えたのは善意からだろうが、実行に移すなといいたい。
「あう……重ね重ねごめんなさい」
「ごめんなさい。お片づけ手伝うから、許して、ね?」
少し話しただけだけど、双子の性格が多少分けられた。
ユラの方が多少おとなしめだ。キラの方は活発というか、
なれなれしいとも違うけど、ま、そんな感じ。
「いや、結構。下着とか見られたくないし」
俺はトランクス派だ。今にして思うと、
小学生のころ履いていたブリーフってすっごい恥ずかしい気がする。
――どうでもいいか。
「あ、ちょっと興味あるかも」
キラ……勘弁してくれ。
「……私も……」
ユラ、君もか。
二人をSPに引き渡し、今度こそ人心地つく。
「しっかし……可愛い顔してとんでもねえ子たちだな」
……うん、可愛かったな。ちょっとずれてるけど。
今時世間知らずのお嬢様って漫画でしかお目にかかったことないな。
これからどうなるんだか……。
さて、それから。入学式は滞りなく済ませた。
姉妹も入学式は車で行くということなので俺の出番はその翌日、初授業の日からだ。
俺が遅刻しないよう、姉妹には少々早めに出てきてもらうことになっている。
桜月家の前まで来たわけだが、
なんだか桜月家に関わるようになってから驚くことばかりだ。
目の前にある家、いや屋敷だな。これホントに個人所有か?
門から屋敷まで五〇mくらいあるぞ。
インターホンで到着を伝えると、すぐに姉妹が出てきた。
はじめて見る制服姿。短すぎないスカートが俺的にヒットだ。
「おはよう」
「おはよう! 今日からよろしくね!」
「おはようございます。さ、行きましょう」
朝から元気だ。
徒歩での登下校を許可するにあたり、桜月さんが姉妹にいくつかの決まりごとを課した。
俺が迎えに来るまで家、学校から出ないこと。
呼び出しは家はインターホン、学校ではメール。
寄り道は多少許すが、危ないところには行かないこと。
俺のバイトが五時からなので、遅くとも四時半までには帰っていること。
バイトがない日は門限六時。
飲食は夕ご飯が食べられないほどならばよし。
本当に子供に言い聞かせてるような内容だけど、
実際町デビューが今日だからしょうがないか。
「んー! やっぱり新鮮な感じがするわね、ユラちゃん」
キラが伸びをしながら言う。待ちわびてた、って体中で言っているようだ。
「そうね。ゆっくり周りを眺めながら登校できるものね」
ユラも冷静そうに見えるけど、きょろきょろ周りを見て落ち着かない様子だ。
「俺にとっちゃいつものことだけどね。なんで歩いていく気になったわけ?」
とりあえず、無難な話題を振ってみる
「えーと……どっちから話し始めたんだっけ?」
「キラちゃんからよ。寄り道したーい、って」
「あら、ユラちゃんだってゆっくり帰りたいなんて言っていたじゃない」
「送り迎えされてりゃ無理だろうね」
俺が桜月さんから頼まれたことに、できる限りワガママに
付き合ってほしいってことがある。
ま、俺にも用事があるからそこら辺は適当にやっていくとして。
部活だとかバイトだとか、色んな話をしながら登校した。
双恋学園に初登校。ここでも色んな話はあるんだけど、今は省略しよう。
あっという間に時は過ぎ、放課後。
初めての下校のお迎え。仲良くなった連中のお誘いを断り、お嬢様方のお迎えだ。
「もうすぐ着くよ……と」
キラの携帯にメールを送る。
ともあれ、ボチボチ俺の行く方向とは逆に進む女子高生の姿が目立ってきた。
「っていうか、俺が目立つ気がするな」
女子高の校門前にたたずむ男。目立たないわけないよな。
「不審者に間違われないようにしないと」
お嬢様学校ってそういうのに過敏になってそうなイメージがあるし。
「こえーなー……」
とか思ってる間に到着。女子高生がざっくざく。
歩いて帰っている娘もいるし、車が来ているのもいる。さておき、
「お嬢様学校といっても可愛い娘ばっかりじゃないんだな」
と、失礼なことを考える俺がいる。
大きな声では言えないけども、お嬢様といっても様々だ。
「おっ待たせー!」
「……お待たせしました」
校門前で待っている俺に、姉妹が向かってくる。
なぜかご機嫌なキラと、微妙に不機嫌そうなユラ。
「ユラ、なにかあったのか?」
尋ねる俺に、ユラは不機嫌、というかふてくされたような顔を向ける。
「何でもないです」
と言ってさっさと歩いていく。仮にも護衛である俺が置いていかれてはたまらない。
キラを連れてユラの後ろをついていく。
「なあ、ユラどうしたんだ?」
小声でキラに尋ねると、彼女も小声で答えた。
「お迎えのメール、私だけに送ったでしょう。だからすねてるの」
なんとまあ……。俺がなぜキラだけに送ったか。アイウエオ順だ。
同じクラスだって聞いていたから、深い意味も何もないんだけどな。
第一、なんですねる。
はぁ、とため息をつき、メールを送信する。すぐに前のユラに届く。
液晶には俺の名前が出たのだろう。ユラは一瞬こっちを向き、メールを見た。
『今日はキラ。明日はユラ。順番の予定だった。でも、明日からは二人に送るよ』
こんな内容だ。ユラは納得してくれたようで、俺とキラの所まで戻ってきた。
さて街デビューだ。二人は行きたいところといってもピンと来ないらしい。
だからとりあえず手近なところで、下々の暮らしを感じられるところは……
「ま、こんなところか」
二人を連れてきたのは公園だ。
「ここって……」
「むかーしお父様たちと来たことがあるわよね、キラちゃん」
「雰囲気いいよね。ドラマの撮影にも使われたらしくて、けっこう有名らしいよ」
この森林公園は全国的にも有名だ。入場無料なのはありがたい。
公園内をうろつく俺たちは、はっきり言って目立っていたろう。
美少女双子にはさまれている俺に嫉妬の目線、ってわけじゃあない。多少、そういうのがないでもないが。
キャーキャーはしゃぐユラキラ。彼女らはヒジョーーーに目立つ。
フリスビードッグをしている飼い主と犬に凄いの連呼。
サイクリングコースにて、チャリに乗れないことも判明。今度練習に付き合う約束をした。
桜並木を通るとき、姉妹はお互いをみて笑いあっていた。俺の知らないなにかがあるんだろう。
んで、だ。
もしかしたらと思っていたけど、ブランコとかジャングルジムの遊び方がわからんらしい。
アスレチックエリア。といってもしょぼい所だけど、そこをクレープを食いながら歩く。
「ねえ、これって何?」
俺に尋ねるキラの指差す先にはブランコ。
「何って、ブランコだよ」
「ああ、これがそうなんだ!」
「じゃあ、こっちは?」
今度はユラだ。正方形がいくつも折り重なっている。要はジャングルジムだ。
「ジャングルジムだね。二人とも、初めて?」
「うん。ねね、やってみたい!」
「あ、私も」
「ジムは……このカッコじゃ無理だからまた今度ね」
……ああ! 本音はみたいさ! それが悪いか!
「ねえ、なんでジャングルジムなの?」
「そうねえ、『密林湿地帯の屋内体操場』よね」
ユラの疑問にキラが英訳した。
「ジャングルジムは商標で、固有名詞だよ」
豆知識だ。もとは鉄棒がジャングルのようにある中で運動するってのが有力。
ちなみにジャングルジムシステムなんていう森林保全に使われてたりもする。
どうでもいいね。
俺は知った。ブランコはけっこう難しいものなのだと。
「あれ〜? 止まっちゃうよ」
「んしょ! む〜」
今じゃブランコなんて余裕だけど、最初はなかなかコツが掴めないもんだ。押しても押しても続かない。
それでもやり続ければ、運動神経が悪くは無い姉妹は徐々に上手くなっていった。
「やった、できたよ!」
「わぁっ! 速い!」
う〜む、子供のようだ。にこやかにスピードをあげていく姉妹に、言っておかなければならないことを忘れていた。
というか、俺の目に白い物が飛び込んできたから気づいたんだけど、
「あのさ、スカート気をつけなよ!」
「ん、あ!」
「へ? きゃ!」
「あ、バカ!」
キラは落ち着いてスピードを落としたが、ユラは咄嗟にめくれるスカートを押さえてしまった。
ただでさえ慣れてない上にスピードもあって、さらに片手になったもんだから、
板からユラのお尻が外れたのが見えた。
「ユラ! 手ぇ離せ!」
この状況で俺の声が聞こえたのか、それともたまたまかはわからないけどユラは鎖から手を離した。
走り寄った俺の腕の中にユラが落ちてくる。
「オーライ、っと」
「……」
腕の中でユラが目をパチクリさせている。状況が掴めてないんだろうな。
「アイテッ!」
ふくらはぎにブランコがぶつかる。すっかり忘れてた。
「だ、大丈夫? 二人とも」
キラがあわてて隣のブランコから駆け寄ってくる。
「俺は平気。ユラは?」
「わ、わわわたしも大丈夫。お、下ろして!」
「わ、わかったから暴れるなって!」
顔を真っ赤にして腕の中で暴れるユラ。全然重くはないけど、暴れられては持っていられない。
「怪我はないな、よかった。初日から任務失敗かと思ったよ」
「まったく、ユラちゃんたら。いきなり外出禁止令が出たらどうするのよ」
「うう……ごめんなさい」
「でも、本当に怪我がなくてよかった」
うつむくユラを抱きしめるキラ。仲が良くていいことだ。
しかし……やーらかかった。
鼻の下が伸びそうになるのをこらえるのって、結構つらいわ。
こんな事はそうそうなかったけど、ちまちました事件なら何個かあった。
例えば、微笑み事件壱号・テスト勉強は板ばさみ。
微笑み事件第弐号・手作り弁当はイタリアンマフィアの贈り物。
微笑み事件第参号・逆ナンの羅刹。
……こうしてみると微笑み事件ばっかだな。
ま、内容は想像してくれ。多分その通りだ。
これらに共通しているのは、いわゆるところの嫉妬だ。
壱号、弐号はユラキラがお互いに競争心を持っていた。
参号は逆ナンの相手に、そして俺に怒りを。
まあ……俺に好意を持っているのは確かだろうが、
それは周りに俺以外の男がいないからだ。
二人の俺への好意に気づいたとき、もちろん嬉しかったが別のことにも気づいた。
俺の中にくすぶるユラキラへの恋慕の情――いや、執着なんだろうな。
俺を好いていてくれる人から離れたくない、っていう独善的な心。
二人から離れようと思った。
俺は天涯孤独の身、ユラキラは大金持ちのお嬢様。
二人はいずれお見合いとかしたりするんだろう。
そう思ったのもあるけど、俺の中の嫌な心に気づきたくなかったから。
できるだけユラキラへの関わりを使用人と主人となるようにした。
最初はおどけてお嬢様と呼んでいた。次第に敬語に変えた。
「ねえ、最近冷たくない?」
キラがふてくされたように言ってきた。
「気のせいでしょう」
俺はそっけなく返す。
「ほら、敬語になってる。ねえ、そう思うよねユラちゃん?」
「うん。そう思います」
ユラまでのってくる。少々迷って、
「気のせいでしょう」
と繰り返した。キラは目に見えて膨れ、ユラは悲しそうな顔をした。
「それで今日はどうします、お嬢様方?」
俺のバイトがない日はどこか遠出するか、長居するかが普通なのだけど、
「……私、帰る!」
「私も、今日は帰ります」
胸が痛んだが、これでいいんだと納得する。納得……させる。
意識してから態度を変えてから、四、五日といったところか。
さすがにユラキラも俺の態度が前とは違うことに気づいたようだ。
「そうですか。それじゃ、帰りますか」
家に帰り着くまで、いや帰ってからも二人は俺と喋ろうとしなかった
それからさらに数日がたった。俺は毎日送り迎えをしていた。
だけど、寄り道をすることはなくなっていた。
まあ、今の俺みたいな慇懃な奴が送り迎えじゃ気が詰まるのかもしれないしな。
もう、夏休みに入ろうとしていた。
夏休み前だからか、尋常でなく混んだ今日のバイト先。
はけるのにかなり時間がかかり、とんでもなく疲れた。
部屋に入ると同時に、服を脱ぐことすらおっくうで、そのままベッドに倒れこむ。
ああ、食器洗わないと……
だめだ。もう何もしたくない。
意識が薄れていく……
俺を眠りの世界から引き戻したのは、電子音。つまるとこインターホンだ。
時間を見ると、もう翌日になっていた。
「誰だ、こんな時間に……」
ほんの二、三時間だが、寝たおかげで多少は元気になっていた。
ぶつくさいいながら、インターホンに出る。すると、
『久しぶりだな』
「あ、桜月さん!?」
聞こえてきた渋い声は、まぎれもなくユラキラの父、桜月さんのものだった。
『遅くに申し訳ないが、上がってもかまわないかな?』
「は、はい。どうぞ」
いったい、何事だ? なんて、言うまでもないか。
「……」
「……」
以前のように、桜月さんにお茶を出す。
これまた以前のように、静かにお茶をすする桜月さん。
プレッシャーがきつい。
「私は……」
しばらくして、桜月さんが重い口を開いた。
「君を買いかぶっていたのかもしれんな」
何が言いたいのか、俺はすぐにわかった。
「何のことでしょう?」
とりあえず、とぼけてみる。
「……うそが下手なのは、親譲りか」
まったく、何もかも親父に似てるってわけか、俺は。
「かも、しれませんね」
自嘲めいた笑顔を浮かべる。本当に、嘲るしかないよな。
「色んなことに気づいてしまったんですよ」
カラカラになったノドをお茶で潤す。
「聞かせてもらえるか?」
「……最初に気づいたのは、ユラとキラの気持ちです。
周りに男がいないせいでもあるでしょうが、俺に好意を持ってくれています」
「そうだな。家で話すときの二人の顔は、とてもいい笑顔だった」
だった、か。少し残念だ。
「それに気づいた俺は、俺の中の気持ちに気づきました。
恋愛感情みたいにきれいじゃない、薄汚くドス黒い執着」
もはや顔を上げることもできず、うつむいたまま話し続ける。
「隠したまま二人と付き合っていけるほど、俺は器用じゃありません」
「……」
桜月さんは無言でいた。それから少しして――
「ここまで来ると、DNAに刻みこまれているとしか思えないな」
「は?」
いきなり何を言い出すかと思えば。
「寂しがりやなのに、人を頼らずに一人で立ちたがる」
「お、俺は寂しくなんか!」
俺の叫びを意に介さず、続ける桜月さん。
「何事も損得で考える傾向がある。
何でも一人で考え、答えを出そうとする。
その結果に盲目的に従う。
自分が人のためにならないと気づいたら離れようとする。
そしてまだ寂しさが増す」
「やめてください!」
聞きたくなかった。
例え、自分で気づいていることだとしても。それを他人の口から聞くのは我慢できなかった。
「いいや、やめない。
私は後悔しているんだ。ヤツと同じことを君にさせてなるものか!」
あの桜月さんが声を張り上げている。俺は呆気にとられていた。
「大学に入る前のことだ。ヤツは置手紙一つで私の前から姿を消した。
そのころ、私とヤツは同じ女性を好きになっていた。
しかし、身勝手にもヤツは家柄だなんだと理由を決め付けて、姿を消した。
私は葬式に来れなかったな?
外国に行っていただけじゃない。ヤツが姿を消したからだ!
消息を追ったが、当時の私は、身一つで身軽に立ち回るヤツを捜せなかった。
家の仕事を継いで余裕ができると、人を雇って捜した。
残念ながら、報告を受けたときには遅かったのだがな」
話を聞く限りじゃ、確かに俺は親父と同じことをしようとしているのかもしれない。
そして、俺まで桜月家から離れていこうとしている。
止めようと思うのも無理はないのかもしれない。だけど、
「……ありがとうございます。気にかけてくださって。
でも、これ以上俺が近くにいると、ユラとキラにいいことにはなりません。絶対に。」
「執着のことか?」
「はい」
もう、目をそむけてはいられない。
これほど真摯に俺のことを考えてくれている人に、向き合わないで話すなんてことはできない。
「俺は、ユラとキラを俺のものにしたいと思っています」
最初の頃はよかったんだ。俺もそれほど意識してなかったから。
ただ無邪気にはしゃぐ二人が可愛いな、としか。
でも、もうそんなレベルじゃない。
「ユラを、キラを抱きしめたい。側にいたい。キスをしたい。一つになりたい」
もう、隠すことはない。俺の思っていることを全て垂れ流した。
「離れようと思って、意識して接して何とかバランスが取れているんです。
わかったでしょう? 俺は危ないやつなんですよ」
ここまで言ったからには、近いうちにここを出ないとならない。
高校だけは出ておきたいから、近くで安い物件を探さないとな。
「そうは思わない」
だけど、俺の決心はすぐに否定された。
「今君が言ったことは、全て人として正しい欲求だ。
もしかしたら薄汚く、ドス黒い感情なのかもしれない。
しかし、清濁あわせ持つのが恋愛というものだ。
もう、数十年も前の話だが、私はそうしていた」
そう言ってニヤリと笑った桜月さんの顔は、妙に幼く見えた。
「父親の私が言うのもなんだが、娘たちはいい娘だ。
可愛いし、性格もいい。年相応のスタイルも持っている。
そんなことを考えない高校生がどこにいるというのだ?
仮にいたとしても、娘には近づけさせんよ」
あれ? なんか話の方向がずれているような気がする。というか完全にずれてる。
「いや、だから桜月さんは俺がユラやキラに手を出してもいいっていうんですか!?
駄目でしょう!?」
何とか話を元に戻そうと言って見たが、無駄だった。
「かまわんよ」
「なっ……!」
絶句。わけわからんぞ、この人。
「もちろん、同意の上でという条件は付くがね。
娘たちもそれでいいと言っている」
と、そこでガチャと音がしたのでそちらを見ると、俺は金魚のように口をパクパクさせた。
だって、何も言えないんだからしょうがない。
「や、やっほー」
「こ、こんばんわ……」
玄関にはユラとキラがいた。
「……」
「……」
「……」
「どうした?」
何も言えない俺たち高校生トリオ。何を言っていいのかわからないのだけど。
「どうした? じゃありませんよ。なんで二人がここに!?」
「連れてきたからだ」
そりゃそうでしょうが……ってことは、最初から聞いてたってことで……。
俺の泣き言や、あのやばげな独白も聞いていたってわけで。
「うわー、ヤバ! 恥ずかしい!」
死にたくなるってこと、あるんだな……。顔に血液が集まってるのがわかる。
「基本的に私は放任主義だ。
頼られればアドバイスも協力もするが、あれこれ口出しはしない。
娘が決めたことなら私が反対する理由はない」
なるほど。筋金入りの親バカであるのは確かなようだ。一風変わってはいるけど。
「私とキラちゃん、話し合いました」
「いっぱい……いっぱい話したよ。
あなたが言ったように他に男の人がいないからっていうのも、考えた」
ユラキラが話しはじめると、桜月さんは部屋から出ていった。
もしかして、気を利かせているってことなのか?
「でもね、そうじゃないと思うんです。
私も、キラちゃんも。あなただから、一緒にいたいと思うんです」
「あなただから嫉妬もするし、ユラちゃんとも張りあったりしたの」
ユラキラは顔を真っ赤にして、俺の顔をじっと見つめていてくれる。
胸が熱くなった。
そうか――
「こんな気持ちになったのは初めてだから、どうしていいかわからなかったけど……」
「気持ちは伝えなくちゃ、って。だから、言います」
これが――
「私、あなたのことが好きです」
「私、あなたのことが好きです」
恋、ってやつなのか――
俺は二人を抱きしめていた。そして、泣いていた。
「っく……ぐ……うぅ……」
両親が死んでも、俺は泣かなかった。
忙しかったからってのもあるけど、それを理由に無理をしていたのだろう。
だから泣いた。泣けなかった分まで、泣いた。
「うっ……うぅ……うううううっ!」
我慢していた壁を、ユラとキラは壊してくれた。
俺は泣いた。そりゃあもう、子供のように。
さっき俺が二人を抱きしめていたといったけど、間違いだ。
俺が抱かれていたんだ。ユラキラは俺の頭を、聖母のように抱いていてくれたんだ。
俺が泣いて、ユラとキラが抱きしめてくれている間に桜月さんは帰っていた。
これはつまり、親公認の外泊か?
「あの……お父様が今日は帰らなくてもいいって」
そういうことらしい。ホントに物分りよすぎるぞ、あの人。
「私たちも……その……そうしたいって思うし……」
俺はユラとキラを両手に抱いて、ベッドを背にしていた。
「いや、でも……ホントになんなんだかな、あの人」
ここまで来ると、あの人の掌で踊らされてる気がする。
いや、実際その通りなんだよな。
「もしかして、嫌だった?」
キラが耳元でささやいた。吐息がこそばゆい。
「もし、そうなら……」
ユラが不安そうに、やはり耳元でささやく。
ところで、よくできた罠ってものはよけようと思っても、かからざるをえない物だという。
こんな罠なら喜んでかかってやる。踊らされてやる。
「あっ!」
「きゃん!」
俺は無言で二人を抱きしめた。俺の動機が二人に届くように。俺の気持ちが届くように。
しばらく、そのままでいた。俺もなんだかんだで緊張しているんだ。落ち着いたころに、俺は言う。
「俺は、ユラが、キラが、好きだ」
一言一言をしっかりと言う。強調するためってわけじゃない。そうしないと言葉が震えそうだったから。
「二人が、大好きだ」
もう一度言って、抱きしめる力を少し弱める。
二人は俺の顔をじっと見つめ、同時にキスをした。かなり難しい。
さて、今俺たち三人は誰ともなくベッドの上に座っている。
完全にヤル気である。……下品だな、俺。反省。
「……」
「……」
「……」
まあ、その気になったとはいえ、いざとなると腰が引けてしまうものだ。
いつまでも、このままではいられない。だから、
「ユラ」
「は、はい!?」
「キラ」
「う、うん!」
「俺、二人を抱きたい。……SEXしたい」
か〜なり恥ずかしいが、俺は目をそらさずに言った。言えた。
少しの間ボーっとしていた二人だけど、多分俺の言葉を咀嚼していたんだろう。
すぐに真っ赤になって俯いてしまったが、二人ともうなづいてくれた。
ユラとキラは服を脱いだ。といっても、二人が脱ぐ間は見ることは禁止された。
裸はよくても脱いでいるところを見られるのは嫌だということだ。よくわからん。
「あ、あの……もういいですよ」
ユラの声がして、俺はつむっていた目を開けた。
「は、恥ずかしいからジロジロ見ないでね」
それは無理な話だ。俺は二人を凝視する。
双子は成長につれて差異が出来てくるらしいが、ユラキラは性格はともかく、体つきは非常に似ていた。
大きいというほどではないが、形がよくやわらかそうなバスト。
ツンと自己主張をしている乳首。
なだらかなラインの腰つき。
ムチムチの太腿。
漫画なら鼻血が出てるところだ。
「キレイだ……」
なんて月並みな言葉しかでてこない。それでも二人は喜んでくれたようだ。だけど、
「私たちだけなんて、ズルイです」
「あなたも……脱いでよ」
なんて言ってくる。
男の場合は興奮の度合いが一目でわかるから、とんでもなく恥ずかしいことを伝えておく。
「あ……う……」
「うわぁ……」
二人してじっくりと俺のものを凝視する。もちろん、ヘソまで反り返ってる。
「触っても……いい?」
キラが上目遣いで言ってくる。
「う、うん」
おずおずと手を伸ばしてくるキラ。触られたとたんに、モノはビクンとはねる。
「きゃ!」
弾かれたように手を引いたキラは、再度挑戦する。
今度ははねるような事はなかったけど、やわらかい手は俺の快感度を上昇させる。
「キラちゃんばっかりずるいよ。私も……」
今度はユラまでもが触ってくる。
「うわっ、ちょ、待った!」
待ってくれなかった。やばい。人に触られるのがこんなにも気持ちがいいもんだとは。
ともすれば暴発しそうになるのを気合で抑え続ける。そして、
「あれ?」
「何か、出てきましたよ?」
我慢してますから。俺の数少ないエロ知識からすると、
「気持ちいいと出てくるらしい」
出てきたのはこれが初めてなもんで、よくわからないけど。
「気持ちいいんだ……」
「嬉しいです」
そして、ユラキラは顔を近づけると、俺のモノに舌を這わせた。
「お、おい。いいのか?」
「やり方はよくわからないですけど……」
「もっと気持ちよくなって欲しいから」
それ以前にどこで存在を知ったのかが気になるけど。
二人は作業を分担していた。頭を舐めるほうと、幹を舐めるほうと。
「ん……ちゅ……」
「はあ……んぷ……」
最初は舐めるだけだったけど、口に含んだり、吸ったりしてくる。
あまりの気持ちよさに腰が引けてくるが、二人の手が腰に回っているので逃げることはできない。
「っく……」
どうやら二人は舐める場所をチェンジしたようだった。感触が微妙に変わっていた。
「あふ……ん……」
「ん……ん……」
そろそろ気合が尽きそうだけど、この快感をもっと味わっていたい。
少しでも気を紛らわせようと二人の髪を撫でたりしていたけど、ユラキラの脇から覗く胸に興味が出てきた。
「んん!」
「あっ、やん!」
脇の下に手を差し込み、やわらかい乳房を包み込む。掌に固い感触があった。
「硬くなってる……」
「〜〜〜〜〜!!」
「イジワルぅ……」
俺を見上げる姉妹の顔は真っ赤で、酔っているようで、熱に浮かされているようで。
俺のモノを舐めながら、興奮していたようだった。
「ん、ふぅ……」
「や、だめだったらぁ……」
まったく同じようで、実は微妙に感触が違う乳房をもみしだく。癖になりそうだ。
気がまぎれるかと思ったけど、実際は興奮を増加するだけだった。
「や、やばい……でそう」
俺が言っても、二人は舐めるのをやめてくれない。
「だから、出るって!」
「大丈夫、です」
「出していいよ……」
舌の動きが激しくなった気がした。ラストスパートはあっという間にゴールまで届く。
「あ、ぐ……うっく……!」
一瞬、頭が真っ白になる。下っ腹から熱い塊が昇り、モノからほとばしりが放たれた。
「ひゃん!」
「んん!」
ああ、出してしまった。しかも顔射だよ。
「ご、ごめん」
うわ。顔にかかって、すげえエロい絵になってる。
「はあ……はあ……」
「ん……」
ユラキラは顔にかかったのを飲み込み、さらにお互いのを舐めだした。
うわー、よりいっそうエロいぞ。
「苦ぁい」
「でも、おいしい」
どっちだよ。
恍惚とした表情ってのはこういうのをいうんだろうか。出した俺のモノにこびりついているのまで舐めだす。
もともとエッチな娘たちだったんだろうか、それともスイッチが入ったのか。
ともあれ、今度は俺の番だ。
「たしか、ユラのほうがお姉さんだったっけ?」
「え? ええ、そうですよ」
「じゃあ、ユラからだ」
「え、あん!」
ユラを抱え上げ、あぐらをかく俺の脚の上に乗せる。後ろから抱きつくような形だ。
「ん……むぅ……」
ユラを後ろを向かせ、初めての一対一のキスをする。やわらかい唇を割って舌を差し込んだ。
さっきまで俺のモノを舐めていてくれたものだけど、気にしない。しちゃいけない。考えない。
「ふぅ、ん……!」
片手で胸をやさしくもみながら、もう片方は腰のラインをなぞり、ムチっとした腿を通り過ぎて目的地へ。
「や、あぁん! そ、そこは」
もちろん、キラのことを忘れていたわけではない。
「キラ。キスしよう」
「う、うん!」
ユラから唇を離し、横から抱きついてくるキラの唇を奪う。
先にしたユラへの対抗からか、性格なのか、キラから舌を差し込んでくる。それに長い。
「ん、ちゅく……ぴちゃ」
やりづらくはあったけど、ユラへの愛撫も忘れてはいない。
「あっ……や、やだぁ……気持ち、いいよぉ……」
硬い乳首と、舌の花芽をコリコリといじってやる。
「んんぅ! それ、強い、ひぃうううう!」
ユラの背が反る。快感が強すぎたようだ。
そろそろいいかな? 俺の手はビチョビチョとまではいかないが濡れていた。
キラから唇を離し、ユラをベッドに寝かせる。
「ユラ、いくよ」
荒く息をついていたユラは、だけどしっかりとうなづいた。
「ん……んん!」
モノがゆっくりとユラの中に入っていく。すごくせまくて、キツイ。俺まで痛くなってくる。
だけど、気持ちよくもある。ともすれば猿のように腰を振りたくなる気持ちを押さえ、慎重に進む。
「く……うう、痛いよぉ……」
それまでこらえていたのだろうが、我慢できなくなったのだろう。ユラが呻いた。
「ユラ、止めないぞ」
「ユラちゃん、頑張って」
ハラハラしながら見ていたキラも応援する。
「お、願い……んんっ!」
モノがユラの中で抵抗にぶつかり、そして突き抜けた。
「あああああっ!」
モノ全部を包む暖かくやわらかいユラ。見れば、ユラの底からは一筋の血が流れていた。
「ユラ……入った」
「うん……ご、ごめん。まだ動かないで」
「ああ」
目じりの涙をぬぐってやり、そのままで待機。腰を動かさないようにするのに精神力を使う。
俺はふと思いついたことを、キラにささやいた。そして、
「ユラちゃん……」
「キラちゃん? あっ」
キラがユラにキスをした。その手はユラの乳房へ。
「キラちゃん、何するの!?」
「痛いのをごまかすには、気持ちよくなるのがいいからね」
代わりに俺が応えた。
「だからって、あん!」
「ユラちゃん……可愛い」
さすが同姓だけあって、ポイントをつかんでいるようだ。キラの指がユラの感じるところを的確に捉える。
「あっ……はぁん! や、ああ……」
俺も負けじと攻め入る。
とはいえ、体勢が体勢なので割れ目に手を添えるぐらいしかできなかった。それでも十分だったけど。
「ん! あ、ああ……だめ、だめになっちゃうぅ……」
何がなのかは男の俺にはわからないけど、もう大丈夫そうだな。
腰を軽くゆすってみる。
「あ!」
ユラが声を上げる。痛みの悲鳴ではなさそうだけど。
「ユラ、どう?」
「おなかが、ズンッって……。でも、気持ちいい……」
「じゃあ、動くよ」
「ああ! あ! ふあああ!」
モノの前後に合わせてユラの嬌声が上がる。もう、大丈夫なようだ。
「ひっ! あ! は、はやい、よぉっ!」
とは言われても、俺ももはや我慢の限界だったんだ。
「ユラちゃん、気持ちいい?」
「う、うん! 気持ち、気持ちいい!」
一心不乱に俺は腰を振っていたが、キラとユラの絡みを見て、また思いついた。
「ひゃん!」
俺にお尻を向けていたキラの割れ目を指でなぞる。
「な、何するの!?」
「この後はキラにもするんだからさ。一緒に楽しもうぜ」
テンションが上がってるんだろうな。俺の性格が変わってるようだ。
「ひっ、くふっ!」
「あふっ……ふあああ!」
暖かく柔らかい感触。さっきの手や口もよかったけど、なるほどこっちは格別だ。
そちらだけに意識がいかないように苦労しながら、キラの割れ目に指を差し込む。
「ひゃああ!」
「キラちゃん……」
「む、うう!」
俺に攻め立てられながら、ユラはキラにキスをした。
うわ、双子レズ。すっげえドキドキする。
「ちゅ……む……」
「はあ……ん……」
目を潤ませ、舌を差込み、夢中になっているようだ。
ええい、俺のこと忘れてんじゃないか? 思い出させてやる。
「ひゃああん!」
「あっ、はあああ!」
手とモノの出し入れを激しくする。二人はキスをやめ、快感に浸る。よきかな。
とか言ってる場合じゃない。俺の快感もうなぎのぼりだ。
「ひっ、あっ、も、もう……!」
「あ、くる! 何か来るよぉ!」
「む……くっ!」
キラとユラの中がキュッときつくなり、俺もまた熱い塊が爆発していた。
「あ、ああ……熱いのが入ってくる……」
「……って、ヤベッ! ごめん、ユラ。中に出しちまった」
やばい、やばいぞ。さすがにまだ父親になる度胸も力もない。
「はあ……はあ……だ、大丈夫。今日は大丈夫な日だから」
そ、そうか……よかった。
ズルリとモノがユラの中から抜け落ちる。さすがに二連発で元気がなくなっているが、
「さあ、今度はキラの番だぜ」
「え、もう? ちょっと……休ませて」
俺を振り向くキラの顔を見たらすぐに元気になってきた。
なんつーか、とても色っぽくていやらしい、潤んだ瞳。
「ダーメ。最初に言ったろ? 俺は二人としたいんだから」
「あっ、やぁん!」
ぐったりしてるキラの腰をつかみ、引き寄せる。
「このまま、いくよ」
「え、このままって? あ、んんっ!」
モノの先端をキラの割れ目にあてがい、ゆっくりと差し込んでいく。
「あ、入ってくる……入ってくるぅ」
異物の挿入に抵抗するかのように、キラの肉は押し返してくる。
それでも押し進めていくと、かたく閉ざされた門にぶつかる。
「んっ、んっ……んぅ……!」
こらえるようなキラの目じりに浮かぶ涙。やっぱり痛いのを我慢してるんだろうな。
「キラちゃん、力抜いて」
「ユラちゃん?」
ぐったりしていたユラがキラに言った。
「力が入ってるとね、すっごく痛かったの。だから」
「う、うん」
ユラの上で、キラが深呼吸した。そうすると、圧迫が多少緩んだようだ。
「キラ、もう一回いくよ」
「うん……ふっ、ううぅ」
もう一度押し込む。今度は多少スムーズにいった。そして何か破れたような感触があった。
「あ、うう……」
そしてとうとう、モノが全て飲み込まれた
押し返してきていた抵抗が、今度は逆に飲み込んでくるようだった。
「キラ……」
「う、うん……入ったの?」
「ああ、全部入ったよ」
「うれしい……!」
俺は体を曲げてキラ首筋にキスをした。
「キラちゃん、おめでとう」
ユラがそう言って、キラの涙を舐めとった。
「今度は、私がキラちゃんを気持ちよくさせてあげるね」
「え、ひあ!」
いつのまにやら、ユラが下方に移動し、キラの乳首を口に含んでいた。
「ん、はあ……ん」
「ね、あなたも……」
ユラが俺を見る。う〜む、本気でスイッチ入ってるな。人のこと言えた義理じゃないが。
「んは、あっ、あっ!」
後ろからキラの胸をもむ。
乳首を強調するようにしてやると、俺の考えがわかったのか、ユラがそれを舐めた。
「やあ……おっぱい溶けちゃう……」
すぐにキラも燃え上がってきたようだ。腰をゆすると、熱い声が聞こえる。
「ひぅ!」
いい頃合だ。俺は腰の動きを速くした。
「ああっ……はぅっ! あん!」
さて、俺はユラキラを平等に愛することに決めている。
ってなわけで、片方の手をキラの胸から放し、俺のからだの後ろのほうに回す。
ユラは下に移動してキラの胸を舐めているから、膝立ちのおれの脚の間からなまめかしい足が出ている。
「んくぅ!」
不意打ちだったようだ。
ユラのはまだ湿っていて、もしかしたら俺のもまだ入ってるかもしれないけど、指を突っ込む。
「な、何?」
「キラと同じこと言うな。もちろん、ユラにも気持ちよくなってもらいたいんだ」
「はうっ……ぅあん!」
「や、やめないでぇ!」
おっと、腰の動きが散漫になっていたようだ。腰も指も、同時に動かす。
「ひぃぅ! あ、気持ち、いいよぉ!」
「はぁん! ああっ、うぅん!」
ユラとキラの二重奏。世の中でこれが聞けるのは俺だけだと思うと、嬉しすぎる。
三度目ということで、多少余裕のできてきた俺は、少し捻りを加えてみたりした。
「な、何!? ふぁ、あ、何か違う!」
「や、あ! ズルイ」
感じる箇所が急にずれたためか、俺の下でのけぞる姉妹。背筋がゾクッとする。
やばいぐらいに興奮する。ユラもキラも、俺のモノだ。
「っく……キラ、そろそろ」
「う、うん! 私も……大丈夫な、日ぃ」
しゃべるのもつらそうなほど感じてくれている。
「はぅぅっ! だ、ダメ。もう……」
ユラも同様だ。
もちろん、俺だってともすれば失神するのではないか、ってぐらいに気持ちいいのだ。
『ああああああん!!』
「っく、おぉっ!」
ユラが達し、キラが達し、モノが絞られて俺も達する。
キラの中に欲望の塊を放出した。引き抜くと、赤と白の液体が流れ出てきていた。
これまたエッチぃな。
翌朝。
目を覚ますとまだユラキラは眠っていた。最後のほうは記憶が曖昧だけど、裸でいる以外は普通に寝ていた。
二人の柔らかい髪を撫でると、同時に目を覚ました。
「おはよう」
「……おはよう」
「……おはようございます」
にっこり笑って言うと、まだ二人も笑って返してきた。すがすがしい。
その後、シャワーを浴びたのだが、どうしてもとせがまれ三人で入った。
さすがに行為にはおよんでいない。俺のモノは、まあ、朝だったから元気だったけど。
朝食。二人に好き嫌いはないようなので、俺がハムエッグにトーストにコーヒーを作ってやった。
尊敬のまなざしを向けられるのは気分がよかったけど。
まあ、なんというかだ。
恋人と、いや恋人たちと過ごした翌朝としては最上級の部類に入る時間を過ごせたわけだ。
二人を家に送るために外に出ると、隣の人と目があった。
会釈すると、隣人は親指を上にグッとつきたてた。
しかし、出てきた女の子が二人だと見ると、今度は下につきたてた。
まあ、夜遅くに隣からあえぎ声が聞こえて。しかも二人なんだから妬むわな。
桜月家。ユラキラを送りにきた俺は、桜月さんに呼び止められ、箱を手渡された。
「まあ、注意はしておくように」
箱の中身はゴムだった。
いや、物分りよすぎるだろ。
追記。ユラとキラに性行為を教えたのは学校の友人だそうだ。
う〜む、お嬢様学校侮りがたし。