道を外れると、祭りの騒がしさが遠くなり、薄暗い境内に出る。  
 薄暗いとはいっても月明かりがあるので、2人の顔が見えないほどではない。  
「それじゃ、帯貸して」  
 まず薫子の方からやろうと手を伸ばしたが、姉妹はなにやら内緒話の最中。  
「ん? どうしたの」  
 言うと、  
「ねえねえ、あれやってみない? 帯クルクルって」  
「お代官様お許しを〜ってやつ」  
 何話してるのかと思えば……  
「そんなマニアックな趣味は持ち合わせておりません」  
『え〜〜〜』  
 なるほど。ただ単に2人がやってみたいだけか。  
「それに、そんなことやったら……見えるよ?」  
 回りながら帯を解いたら、遠心力で着物がはだけることは間違いないだろう。  
 本音を言うと見てみたいけれど。  
「ンフフ、見たい?」  
 菫子が挑発的な表情をして、軽く胸元をはだけながら言う。  
 僕をからかうのが好きなんだよな。だけどたまには、  
「うん」  
「え!?」  
「僕も男だしね、見たいよ。 恋人の浴衣の中身を」  
 僕からからかうのもいいだろう。菫子はポカーンとした顔をしている。成功、かな?  
 薫子から帯をもらおうとすると、薫子もポカーンとしていた。失敗、かな?  
 やっぱり失敗だった。2人は本当に、僕の思いもよらない返事をくれる。  
『……いいよ』  
「へ?」  
 僕の気の抜けた返事にもかまわず、2人はなんと解けかけた帯を取っ払ってしまった。  
「ちょ、ちょっと2人とも!」  
『見たいんでしょ? ……なら」  
 

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