「カナメさんは乳房が豊満だね。たゆんたゆんしてるよ」  
 
「そうですね」  
 
この日からサビーナ・レフニオのおっぱいマッサージが始まった。  
 
*  
 
銀髪の大変態レナード・テスタロッサの右腕、ブラウンヘアーのキレ女──サビーナ・レフニオの乳房は控えめである。  
 
質素だが小さく整った顔立ちと、すらりとした立ち姿。  
レナードの命令で細心まで手入れされた肌には曇りひとつなく、兵士として限界まで鍛え上げられたその肢体は、それでもなお雌の色香を忘れない。  
150キロの大型ガトリング砲を片手で振り回し、ガラスコップをたやすく握り潰すほどの膂力を有するその肢体は、上質な筋肉の塊である。  
 
彼女を三度抱いた後、ベッドの中でピローなトークを紡ぎだすレナードの唇は、ふと思い出したようにこう言った。  
 
「日本にいたときバキという格闘漫画で読んだんだけどね、マリリン・モンローとモハメド・アリの肉の柔らかさは同じらしいよ」  
 
言いつつレナードはサビーナの尻肉を揉む。  
酷く柔らかい。脱力した臀筋は水ほどの抵抗もなくレナードの指を埋没させるのに、サビーナがくすぐったさから身を捩ると、力んだ筋肉が彼の指を締め付けるように堅くなる──剛と柔の落差が彼女の魅力だとレナードは考えた。  
深海と表層を往復するマッコウクジラのように浮き沈みの激しいサビーナの肉体と精神を、レナードは酷く気に入っていた。  
スーツを着こんだ堅物のサビーナと、霰もない姿で自分を喜ばしてくれるサビーナ。  
柔らかな肢体で自身を包み込んでくれるサビーナと、大磐石をひっくり返す程の剛力で破壊の限りを尽くすサビーナ。  
ウッチのゴミ溜めで抜き身のナイフの真似事をしていたサビーナと、とりあえずの鞘に納まって澄ました顔をするサビーナ。  
 
「女心と秋の空とはよく言ったものだね」  
 
とレナードは、サビーナの尻を揉みながら言ったが、彼自身この用法が正しいのかどうか判然としなかった。  
昔日本にいたときに聞いた。ただ女性特有の精神変化を表す言葉だったと記憶している。  
だから呟いた。目の前で下半身を弄ばれて、困ったように身を捩るサビーナが──ある意味男よりも男性的な彼女が、実のところ誰よりも女らしい──そのことに今更気付いて、それを確かめるように溜め息ほどの弱さで呟いた。  
揺れ動かぬことが男らしさの一部だとすれば、理性の鎖を引きちぎらんばかりに揺れ動く彼女の肉体と精神は、この世で最も女らしいものに違いない。  
 
「レナード様」  
 
とささやいて、恐る恐る触れてくる彼女もまた一興だが、狂ったように性器を貪る彼女もまた一興だ。  
レナードは、彼女の震える指先を軽く取ると、その先端に自分の唇を淡く押し当てた。  
その態を眼と指先で感じて、彼女は恥じ入ったように視線を逸らす。  
そのいじらしさにあてられて、レナードの股間が再び暑く燃え立つのだった。  
 
だがサビーナの乳房は控えめだった。  
 
*  
 
「君は美しい」  
 
サビーナはレナードに抱かれて、初めて自身の肢体の優美さに気付いた。  
 
処女などウッチのゴミ溜めに捨ててきた。  
ウッチのゴミ溜めの下衆野郎に、下衆な体液を注ぎ込まれる身分から脱するために、彼女はその柔い肉体を鋼に変えた。  
苛烈な暴力と吐き気をもよおす種の滴は、たやすく彼女のリミッターを焼き切ってしまう。  
齢十の彼女は、自身の処女を無理矢理奪ったSM趣味の警官を殴り殺す。  
自身の血を見た瞬間に頭で何かが弾けた──気が付けば彼女の両手は血塗れ。股の下には脳漿をぶちまけた元警官が寝ていた。肉だ。人の残骸だ。  
我が身を焼く暴力で両手の骨を折ったサビーナは、股間から破瓜の血を滴らせて立ち上がる。歩きだす。その足で自分を売った母親を殺した。  
そして殺し屋に堕ちる──もしくは昇る。  
ゴミ溜めの吐き溜めから脱して、下衆野郎を吐き溜めへと突き落とす──頭を撃つより膝が良い。そのまま川に落とすのが彼女のウッチでの娯楽だ。  
 
「アハハハ!」  
 
サビーナは大笑いする。  
男など皆同じだ。総じて下衆だ。きっと股間の玉に矮小な脳を積み込んでいるに違いない──サビーナは気まぐれに下衆野郎の股間に鉛弾を叩き込む。  
その男は恥に満ちた顔をして、自身が作った血溜まりに崩れおちた――痛快だ。どうしよう。笑いが止まらない。  
 
「君は僕に抱かれる気があるかい?」  
 
アマルガムでメイドの真似事をしていたサビーナに向かって、レナードはそう語り掛けた。  
彼が彼女を雇っていたマフィアを潰した──ゴミ溜めは焦土になる。焦土では生きられない──そう悟ったサビーナは、マフィアのボスの首を手土産にアマルガムへと下った。  
飼い主が変わるだけだ。結局のところ自分には、殺す以外に能がない──そう思っていたというのに、アマルガムに入ってからは、この男の邸宅でメイドの真似事をさせられている。  
この邸宅に入ったその日に服と部屋をあてがわれた。  
伸ばし放題の髪に櫛と鋏をいれ、ボロボロの爪にヤスリ掛けをする──全て専門の職人によって行われ、吐き溜めの女は一晩で、誰もが振り替える可憐な美少女になった。  
ブラウンの細い髪には、白いドレスが良く似合った。  
自身の変貌にサビーナは動揺したが、それよりも彼の動機がわからない。  
 
「誰か、どこかのパーティーで、人を殺すのですか?」  
 
サビーナは慣れない言葉使いで、レナードに問い掛けた。  
言葉は丁寧に扱うこと──それが彼から下った最初の命令だった。  
 
「殺さないし、パーティーも行かないよ。なぜたい?」  
 
「私にこんな格好をさせるから……パーティーに連れてかれて、来客を殺すのかと思って」  
 
サビーナにとってパーティーとはそういう場所だった。  
肥太った金持ちが無防備に集まって、その中の何人かが血溜まりに沈む──彼女が行ったパーティーでは、必ず血の花が咲いた。当然彼女が咲かせたのだ。  
サビーナのズレた解答を聞いて、レナードは大笑いをする。  
 
「君はおもしろいね」  
 
と言って、ブラウンの髪を梳くように撫でる。彼女はそう悪い気はしなかった。  
 
「しばらく殺しはしなくていい。とりあえず君は、この邸宅で働いてくれ」  
 
そんなやりとりがあってから半年がたったころだ。  
彼の精の発露。直接的な欲求を言葉で聞いて、彼女は少なからず落胆した。  
格好をつけた男だ。結局のところ穴に種を注ぎたいだけの癖に「抱かれる気はあるかい?」だなんて──所詮この男も他の男と一緒だ。  
下衆野郎だ。  
下衆野郎は殺す。  
 
*  
 
「こう乳腺を意識して持ち上げるように揉むんです。……あぁ!サビーナ様!そんな強く掴んではいけません。せっかくの綺麗な形が崩れてしまいます……」  
 
おっぱいマッサージの仕方は邸宅のメイドに教わった。  
サビーナの日常は苛烈を極める。  
邸宅の支配人と戦士という二足のわらじ。さらにレナードの夜の相手を合わせれば三足のわらじである。  
さらに最近になって、  
 
「どうしても呼びたかったら、魚沼産のコシヒカリとひきわり納豆を用意しなさい。ああ、それから──うるめいわしの干物も食べたいわ。よろしく」  
 
彼の寵愛を煩わしがるバカ女──千鳥かなめの相手という腹立たしすぎる仕事が増えた。  
その合間をぬってサビーナは自分の乳房を揉む。  
朝起きたらとりあえず揉み、仕事中もバレないようにひっそりと揉む。移動中の車やヘリの中。事務処理をしながらそれとなく揉み、電話を取り次ぎながら何気なく揉む──だがそのマッサージには一つ問題があった。  
一日の仕事を終え、シャワーを浴びた後、洗面台の前で乳房を揉みながら、サビーナは誰にともなく呟く。  
 
「気持ち良くない」  
 
別に快楽を得るための行為ではないが、乳房を揉んでも感じないというのは問題だと彼女は思った。  
いったいどうしたというのだろう?  
彼に触られた時は腰が抜けるほど感じ入ってしまうというのに──。  
 
*  
 
なぜこれほどにやさしく触れられるのかわからない。  
 
節くれだった関節や硬く厚い爪はゴミ溜めの下衆野郎と重なるのに、その挙動は酷く紳士的だ。  
服とは乱暴に剥ぎ取られるためにあるものだと思っていたが、本来は繊細に脱がされるものらしい──ふとレナードの指先がサビーナの胸元に走ったかと思うと、流れるようにボタンを外し、彼女の引き締まった腹をやわやわと揉み解す。  
 
「緊張しなくてもいい。力を抜いて」  
 
言いつつレナードは、サビーナの首筋に淡いキスを落とした。  
噛みつきもしなければ吸いつきもしない。吸い付きのあとを残すような独善的なキスではなく、花に熱を移す程度の薄いキス。  
その白い肌に一切の傷をつけぬよう──細心の注意を払って触れられるのがくすぐったくて、サビーナはいやいやと身を捩る。  
捩った瞬間に目と目が合う。  
ふと紅を孕んだ妖艶なサビーナの表情。それを見てレナードの瞳に一層の欲望が宿る。  
股間の立ち上がりが一層激しくなり、太ももに押し当てられた熱さと固さから、彼の欲望がピークに達したのだとサビーナは悟った。  
悟ったと同時に鈍痛が彼女を襲う。  
荒れ狂う指先。先ほどまで紳士に撤していたレナードの掌が、ブラジャーを乱暴に剥ぎ取り、白く、形の良い乳房をこれでもかと揉みしだき始めた。  
武骨で男性的な先端が、溶けだしたように柔い乳房に、包み込まれたように埋まる。  
どこまでものめりこみそうな指先がコツリと肋骨に当たり、それ以上先には進めないと悟ると、大きくはないが掌に収まりのよい乳房を、持ち上げるように揉みしだいた。  
色素の薄い乳首を親指で擦りあげ、そのコリコリとした感触が掌に心地よくて、レナードは乳首をくびるように強く摘む。  
摘んだソレを親指と人差し指の間で転がす。  
勃起した乳首を強く引っ張ってみると、乳房全体が円錐形に変形し、青い果実が熟すように、白い肌を桃色に変えた。  
 
「ぁっ」  
 
サビーナが苦し気な、それでいて男の脳を溶かしそうな声をあげる。  
その声を聞いてレナードは慌てて手を離した。そして言う。  
 
「すまない……痛かったかい?」  
 
サビーナはその問に答えず、小さくうつむくと自分の勃起した乳房を両手で抱え込んだ。  
なんでそんなことを言うんだ?──このまま乱暴に蹂躙してくれれば、殺すのに一切の躊躇など必要ないのに──サビーナは痛くなるほど自分の乳房を鷲掴む。  
変にやさしくするな。ただ吐き出したいだけだろう?結局自分など、三十億ある穴のうちの一つに過ぎない──下衆野郎は下衆野郎らしく振る舞うべきだ。  
それなのに──  
 
「なんで」  
 
食い縛った歯の隙間から疑問の声が流れ出る。  
それに気付いたのか気付かないのか、レナードは、乳房に痣を残しそうなほど強張ったサビーナの手を握ると、  
 
「君は美しい」  
 
と言った。  
 
*  
 
かなめのブラジャーを付けてみてサビーナは絶望的な気分になった。  
 
邸宅への物の出入りは全て、ここの支配人であるサビーナが管理している。  
邸宅内で使う雑貨や食料、ASや火器類、はては生理用品まで、全てサビーナのチェックののち敷地内へと運びこまれる。  
その段で必然的にも見つけてしまった──千鳥かなめのブラジャー。  
サビーナは驚愕する。発注の際は気に留めていなかったが、いざ実物をとってみるとなんという大きさだろう。  
水色の生地にフリルがついたそれはなんとも愛らしい。しかしその中に収まるものの凶悪さを、如実に語る容量の大きさ。  
もし自分がつけたらどんなことに──サビーナはそんな卑しい好奇心にあらがうこと叶わず、トイレに向かうと、個室の中でひっそりと装着してしまった。  
 
「ぶかぶか……」  
 
手を離したら落下してしまうほどのサイズの差。  
ブラジャーの上の隙間から自分の可愛らしい乳首が見える──パット二枚分くらいの差はあろうか。  
サビーナは悔しくて泣いた。  
 
*  
 
結局殺さなかった。  
「君は美しい」などと言う陳腐な言葉にほだされたわけではなく、ウッチの下衆野郎とあまりに違う挙動に、困惑してタイミングを逸したというのが正しいのかもしれない。  
 
「美しいということは、愛するに価する」  
 
などと言う歯の浮くような台詞を平気で言い放つレナード──そして唇に唇を押し当てる。  
サビーナの唇は厚さ、色素ともに薄い。小作りで整った顔立ち。陶磁器を思わせる白く透き通った肌。  
野暮ったい眼鏡に隠された、明け方の水平線を思わせる灰暗い瞳──その愛らしい造形に彫り込まれた深い渓谷──レナードは吸い込まれるように、その渓谷に舌を差し入れた。  
サビーナの口内は、侵入者をたやすく迎え入れる。  
手で手を引くように、レナードの舌先に己の舌先を絡めた──今殺すとするなら、このまま舌を噛み切ってしまえば容易かろう──そう考えて、これが自分のファーストキスなのだと彼女は気付いた。  
レイプをするのにキスをするような迂濶な馬鹿がどこにいる?今までの相手は全員がそうだ──こんな無防備なまねはしない──そこでやっと、サビーナは自分が、性欲のみならず情愛によって抱かれようとしているのだと知った。  
 
「サビーナ」  
 
唇と唇が離れる。  
サビーナの唇と、彼女の名を呼んだレナードの唇の間に、唾液の橋ができた。  
サビーナはその橋を、行儀悪くもズズッとすすった。レナードは苦笑する。  
その苦笑に気付いて、サビーナは頬を赤らめつつ返事をする。  
 
「はい」  
 
「どうも僕は、君が好きらしい」  
 
いったいどの舌で言うのだろう?  
サビーナは理解していた──きっとこの男は、抱く女全てに似たような台詞を吐いているに違いない。  
そうわかっているのに──誰一人にも、親にさえ愛されず、こちらから愛すこともしなかったという今までの自分が──たった一言で『全部帳消し』にされてしまうような、そんな心持ちになってしまって。  
 
*  
 
「カナメさんのブラジャーを貸してくれないか?ブラジャーを型にして、彼女のおっぱい型のプリンを作りたいんだ」  
 
「かしこまりました」  
 
そんな会話をしたその日、レナードはサビーナを二日ぶりに抱いた。  
一日の業務を終えて、疲れ切った体で彼の部屋におもむいたはずなのに、彼にふと柔らかく抱き締められてしまうと──煮えたぎる彼の股間──それを下腹部で感じるだけで、肉体が淫らな活力に満たされるのだから不思議だ。  
 
「今日も君は美しい」  
 
と言いつつレナードは、サビーナをベッドへと押し倒す。  
柳ほどの抵抗もなく倒された彼女は、物言わぬ果物のようにじっとして、たやすくその皮を脱がされてしまう。  
野暮ったい眼鏡はベッド脇の机の上に──色気の欠片もないダークスーツは、一度はだけてみると、他のどのような衣装よりも官能的なものに感じられる。  
外されたワイシャツのボタン。フロントホックのブラジャーを撫でるように外したそこには、三日前も触れた母性の象徴が鎮座していて──レナードの股間が、ズボンのチャックを壊さんばかりに張り詰めた。  
 
「苦しいですか?」  
 
彼の熱情を女性器で感じて、サビーナが彼の身を案じる。  
レナードは知らずうちに、ズボンの上から彼女の性器に押し当ててしまった剛直に気付いて、ひどくバツの悪い思いをしたが──この行為自体がある意味バツが悪いのだ──ということに気付き、  
 
「そうだね。苦しいよ」  
 
と言って微笑した。  
眩しいものを見たように目を背けたサビーナは、レナードの肩を押して起き上がると、彼の膨らみに掌を添えた。  
ベッドの上に座り込んで、お互いに向かい合う。サビーナは熟した熱棒をズボンの上から擦りつつ、上目遣いで問う。  
 
「直に触れてもよろしいですか?」  
 
「拒否するわけがないだろう?……こういうときは、黙って触れてもかまわないんだ」  
 
「失礼しました」  
 
サビーナは謝罪の頭を下げると、頭を下げたままでレナードの膨らみを弄び始めた。  
ズボンのチャックを下げる。その瞬間にトランクスが跳ね上がり、サビーナの右手を叩いた。叩かれた右手でトランクスを僅かにずり下ろす。  
すると上端のゴムの上から、彼の最も雄臭い部分がひょっこりと頭を出した──サビーナは更に頭を下げる。まるであぐらをかいたレナードの前で土下座をするような体勢になって、彼のパンパンに張った先端にキスをした。  
一際張り詰めて我慢汁を滴らした肉棒を見て、サビーナが質問をする。  
 
「昨日の夜はいかがされたのですか?」  
 
「夜?」  
 
「はい」  
 
「別に。何もしていないよ。いつも通り書類の整理をしたら、そのまま寝てしまったね」  
 
レナードはサビーナの頭を撫でる。彼女はくすぐったくて身を捩った。その瞬間に肉棒の先端が、彼女の白い頬によって擦られる。  
やはりな──とサビーナは思った。  
我慢しかねるといった様子だ。三日前は自分と寝た。その時と同じ匂いがする──他の女の匂い、特にあのバカ女の匂いなど、一切しない。私の匂いだけがする──サビーナはいきりたった肉棒に鼻先を押しつけて匂いを嗅いだ。  
 
「君はそういうことが好きなのかい?」  
 
「えっ、いえ……その……失礼しました」  
 
頭上から、からかうような声が降ってきて、サビーナはやっと自分の変態的な行為に気付いた。  
慌てて肉棒から顔を離そうとした彼女を、レナードが押し留める。  
 
「いや、いいよ。そのまま続けて」  
 
と言われても困ってしまう。  
 
サビーナは些かの俊巡のすえ、汁を滴らせる肉棒を、その薄い唇でくわえこんだ。  
レナードは新雪に足跡を残すような気分になる。  
あらゆる汚いことをして、あらゆる汚いことをされただろうその身体は、一見すると雪のように純粋に見受けられて、僅かばかりの混乱を起こす。  
氷原の誰も触れたことのないクレパスに、雄臭い足跡を残すような──あまつさえ、下卑た体液を注ぎ込むことが、酷く背徳的な行為に思えて、レナードは短く呻いた。  
 
「サビーナはにおいを嗅ぐより、舐める方が好きなようだね」  
 
股間から這いあがる快感を押し返そうと、レナードは再び意地悪を言った。  
サビーナは何も答えない。彼の物言いに腹を立てたわけではなく、ただ単に、口内を満たすペニスに声をだすことが叶わなかっただけだ。  
彼女の愛らしい舌がぺちゃぺちゃと肉棒にまとわりつく。唇をすぼめて、唇の裏の粘膜で竿をしごくように刺激する。サビーナの動き一つ一つに反応を示すレナードの下半身が、彼女にはうれしくて仕方がなかった。  
いったい彼はどんな顔をして、自分に性器をねぶられているのだろう?──そう思って、上目遣いでレナードを伺い見ると、彼は快感に身悶えるような、それでいて泣き出しそうな顔でこちらを見下ろしていた。  
 
「ラクダみたいな顔だよ」  
 
肉棒をくわえて唇を突き出したサビーナを、レナードはからかい半分にそう評した。  
そう言われてしまうとなんだか恥ずかしい。  
サビーナは肉棒を口内からズルリ……と引き抜くと、溶けだしたアイスの雫を舐めとるように、竿をペロリッと舐め上げた。  
敏感な裏筋を濡れた舌が摩擦する。  
ペニスの根元にサビーナの両手が添えられている。  
その握りの具合は、使い慣れたナイフを握るのに似通っていて、レナードはまるで、自分の性器がサビーナの持ち物に変えられてしまったかのような──まるでサビーナが、彼女のお気に入りのナイフに付いた血糊を、丹念に舐めとっているような──そんな錯覚を覚えた。  
 
「ラクダ顔も嫌いじゃないけど……」  
 
と言いつつ、レナードはサビーナの頬を薄く撫でる。  
指先が濡れた。汗か唾液か。それとも自分の体液か。  
だがレナードは、その種混じりの汁に些かの不快感も覚えなかった。  
彼は思っている。自身以上に清浄な存在などこの世にないだろうと、彼は信奉している──肉体が許すなら、彼は自分で自分のいちもつをくわえるだろう──レナードはそういう男だった。  
そんな男の股関を這いずるのは、外見こそロココのように美麗だが、吐き溜めで拾った女だ。  
気まぐれの溝さらい中に、偶然金剛石の破片を拾ってしまった。  
清浄とは程遠い。自分から最も遠いところにいる女が、自分の中心を必死で貪る様というのは、視覚的に悪くない。  
 
「サビーナ……もう……」  
 
卑猥な造形を辿る、清浄とは程遠いが愛らしすぎるかんばせは、あっという間にレナードの精を崖の淵へと追い込んだ。  
 
「ん……出しても構いませんよ……んむ」  
 
サビーナは破裂寸前の亀頭を唇で包んで、上目遣いでレナードの顔を見つめた。  
彼はさらに泣き出しそうな顔をしている。しかしどこか期待に満ちている──まるで、今くわえている性器と同じだ。先端から涙のように我慢汁が滴る。  
彼の本能の期待に応えなければならない。  
サビーナは例のラクダ顔で、再び肉棒に激しく吸い付いた。頬の裏側が竿にへばりつく。口内に唾液を溜めて、それと肉棒を、舌と歯茎でみちゃむちゅとこねくりまわした。  
そのまま頭を上下に揺する。口内の粘膜と剛直が擦れあって、そこに性感帯などないはずなのに、まるで膣の裏側を引っ掛かれるような心持ちになる。  
犯しているのか犯されているのか知れない。  
ふと、このまま口の中で射精されてしまったら、自分は妊娠してしまうのではないだろうか?──そんな妄想に取りつかれて、サビーナの子宮がズンッと重くなる。ショーツが滲み出る愛液で濡れた。  
 
「サビーナ……もう、イクよ……?」  
 
レナードが短く呻いた瞬間、彼の先端が一際張り詰めて、サビーナの口内で破裂した。  
レナードの下半身が小刻みに痙攣する。それに合あわせてサビーナの頭が揺れる。  
彼女の桃色の舌に、濃厚な精液がドロドロと滴る。  
整った奥歯にねめつけられた精液を、そのままにしたら虫歯になってしまう気がして、肉棒をくわえたままで、歯に挟まったものをとるように舌先で絡めとった。  
勢いよく飛び出した精液が彼女の喉を叩く。サビーナはむせて、レナードの剛直を僅かに噛んでしまった。  
 
「も、申ち訳ありません……」  
 
サビーナは肉棒を口から放し、鼻から鼻水のように精液を垂らしてそう言った。  
肉棒の射精は止まらない。酷く神妙な表情をするサビーナの白い肌を、雄臭い汁が汚し続ける。  
レナードはそれが忍びなくて、ベッド横からティッシュを取り出すと、サビーナについた汁を丁寧に拭き取った。  
それでもなお射精は続く。我慢ならないレナードは、サビーナの口に射精する肉棒をねじ込むと「全部飲んで」と言った。  
サビーナは視線だけで頷くと、棒アイスを食べるようにちゅーちゅー吸った。  
 
「全部飲んだかい?」  
 
レナードにそう言われて、サビーナは今自分がくわえているペニスが、既に射精を終えていると初めて気付いた。  
あらかた出し切ったペニスに、用もないのに吸い付いていた自分が恥ずかしい。これではただのニンフォマニアだ──だが彼は、そんな自分のことも嫌いではないらしい──そう考えるとまぁ、いいかと彼女は思う。  
 
「じぇんぶ飲みまちた」  
 
濃い精液で鼻がつまって、発音が不鮮明なってしまった。  
レナードは苦笑しつつ、彼女の鼻にティッシュをあてる。  
 
「鼻をかんで」  
 
崇拝する彼の手で鼻をかむのはいかがなものか──サビーナはいくばくかの俊巡を覚えたが、結局、レナードの手を自身の掌で包み込むと、そのまま鼻をかんでしまう。  
鼻水と精液の混合液がティッシュに付着する。どう控え目にみてもグロすぎた。サビーナはレナードに混合液を見られる前にティッシュを奪い取ると、さっさとゴミ箱に捨ててしまった。  
 
「口を開けて」  
 
証拠隠滅を計った彼女を尻目に、レナードはそんなことを言った。  
言われた通り開けられた口を、レナードが熱心に覗きこむ。  
 
「少し残ってるよ」  
 
と呟いた舌が、サビーナの口内へと差し入れられる。  
思わずレナードの唇に吸い付いてしまいそうになった彼女は、寸でのところでその欲求を押さえ込むと、口を開けたまま、ただ貪られるだけの体になって、彼の行為を受け入れた。  
先端をすぼませた舌が、歯のエナメル質を溶かすように執拗に擦り付けられる。  
サビーナは小さな口をいっぱいに開けてこの行為を受け入れた。  
いったい彼は何をしたいのだろう?と考えて、直ぐ様彼が、自身の種の残りを舐めとっているのだと気付く。  
変態だ──彼女はそう思ったが結局、彼の行いを拒むこと叶わず──口腔にたまった互いの唾液が、唇の端からだらしなくたれた。  
 
*  
 
「たれてますね」  
 
レナードが持ってきた出来たてホヤホヤのかなめのおっぱいプリンを見て、サビーナは素直な感想を洩らした。  
皮膚と筋肉の引っ張りによって造形された本物の乳房とは異なり、ただ乳の形をしただけのプリンでは、自重に耐えることが難しかった。  
真上にツンと突き出されるはずだった乳首はへたりこむように萎えて、二次関数の倍は美しいはずの稜線は今はもう見る影もない。  
ザマアミロ──サビーナは心の中でかなめに毒づいたが、肩を落としたレナードに気付いて──嗚呼、自分は彼の僕であるにも関わらず、彼の望むままを願うことを良としないなんて。  
 
「……今度また作りましょう。卵の量や混ぜ方を工夫すれば、再現可能かもしれません。次回は微力ながら、私もお手伝いいたします」  
 
神にも等しい彼に対する背信にも似た思考を打ち消すべく、サビーナはそんなことを言った。  
 
「本当かい?」  
 
「ええ」  
 
実のところあのバカ女のおっぱいプリンを作るなど、奥歯を噛み砕かんばかりの屈辱的な行いだったが、目の前の落ちた肩が上がり、銀髪の彼が太陽のように晴れやかに笑うならば、それはそれで。  
 
*  
 
女のように細い顎と、その上の眼差しを隠す銀色の髪は、酷く艶かしい曲線を描いていて、抱きしめられるだけのサビーナはまるで同性にしがみつかれているような――なんとも倒錯的な気分になって、はらりと視線を逸らす。  
視線を逸らして気付くのは、その腰に回された腕の力強さと、波立つような雄特有の匂いだ。  
ベッドの上で、すっくと立ち上がったサビーナの前に膝立ちになったレナードは、目線の高さの乳房に顔を埋めると、彼女の腰に腕を回し、交差させた掌で柔い尻肉を揉みしだく。  
すっと息を吸ってみるとサビーナの匂いがした。  
舌先を柔肌に這わすと、ネクターのように濃厚な甘味があるのに、炭酸の刺激を孕んだサビーナの味がした。  
張り出した臀部を桃の実を握りつぶすようにぐにゃぐにゃと揉んでみると、柔肌の下から弾き返すような弾力を感じて、これがサビーナの感触なのだと思った。  
 
「静かだね」  
 
レナードはサビーナの胸の谷間に耳を押し当てた。  
胸骨越しに心音を聞き取ろうと試みて、押し当てるまでもなく聞こえるほど、その胸が高鳴っているのだと悟る。  
その音が耳を介して胸に響いて、だからこそレナードは「静かだね」と言ったのだ。他の音など何も聞こえないと感じた。  
サビーナの唇から漏れた「そうですね」という言葉でさえ、彼の耳に届いたかどうか定かではない。  
耳が感じ取る器官なら、口は与える器官だろうか。  
彼女の同意を受け取ったのかどうかさえわからない彼の唇は、新たな刺激を与えようと――もしくは感じ取ろうと――彼女の心音を聞きつつも、視界を満たすふくらみの突端をついばんで、桃色のそれを淫靡に弄び始めた。  
 
「ふっ……ぅん……っ!」  
 
食いしばったサビーナの歯の隙間から、彼女の肌に似た甘い響きがもれる。  
心音しか聞こえないだろう彼の耳にその響きが割り入って、彼の背に興奮の震えが走った。  
唇ではんだその部位は、時間の経過とともに硬く勃起していく。自己主張の乏しいサビーナにして、ことその身体に関しては、自己主張が乏しいとは言えなかった。  
その間もレナードの両手は、サビーナの臀部をこれでもかとまさぐっていた。  
脱力した柔肉にレナードの指が埋まる。尻肉に飲み込まれたそれが縦横無尽に蠢いて、表皮ごと肛門や陰部を引き伸ばした。  
既に濡れだしていた割れ目から、堪りかねたように愛液が、ショーツ越しに滴り落ちる。  
サビーナは濡れた下着が気持悪くて、不快気に身を捩った。  
 
「脱がそうか?」  
 
その様子をレナードが見咎める。  
 
「いえ、自分で脱ぎま――」  
 
「いいから」  
 
言いかけたサビーナを遮って、レナードは彼女の湿ったショーツに手を添えた。  
腰元のゴムを横に引っ張る。サビーナは身を固くした。  
レナードは不意に気付く――愛らしいヘソだと思った。  
初め抱いた時はその肉体の流麗さと、蜜壷という俗称では表現しきれないほど充実した陰部に注視してしまったが、ふと顔を上げるとこれほど美麗なくぼみを見つけてしまった。  
レナードはそのくぼみに、気まぐれにキスをする。  
不意の生暖かい感触に、サビーナの身体が絞るように縮こまった。  
絞られた濡れ布から余分な水分が滲み出るように、サビーナの割れ目から彼女の汁が流れ出る。  
半ばまで下ろされたショーツが、汁を吸って毛ほど僅かに重くなった。  
レナードは指先の感触でサビーナの奮い立ちに気付くと、意地悪を言う。  
 
「どうかしたかい?」  
 
サビーナは何も言わない。何を言っていいのかわからなかった。  
頬を上気させ困った顔をする彼女に苦笑を禁じえず、レナードは口元を歪ませつつショーツを下げていく。  
細いブラウンの陰毛は手入れされた牝馬の毛皮のように手に心地よい。  
ゴムの上端から覗く濡れた陰毛が、レナードの荒れた息で鬣のように揺れた。  
白い皮膚と陰毛のコントラストに頭がくらくらする。濡れて恥丘に張り付いた布地が、耐えかねるほど卑猥で、焦らすなどという遊びに興じること叶わず、レナードはショーツを太ももの半ばまでずり下ろした。  
露出する。サビーナの最も卑猥で、それでいて最も美しい部分が、レナードの眼前に差し出された。  
美女のそれは野獣のように唾液を垂らし、ショーツに染みを拡げていく。  
 
「なぜこんな風になるのだろう?」  
 
陰唇とショーツの間に出来た愛液の柱を見て、レナードがまたしても意地悪を言う。  
サビーナは自身の股間のみだらさに気付くと、その気付きと羞恥から再び愛液を滴らせた。  
彼女は「あの、その……」と要領を得ない受け答えをする。  
レナードはそんな彼女をからかうような口調で、今一度言葉を発した。  
 
「誰に、どうされると、君の、どこが、どうなってしまうんだい?」  
 
尋問に似たレナードの物言いに、サビーナはやっと彼の真意を悟る。  
彼女はその言葉を口にするのをためらったが――彼の前で言ってしまえばきっと、どんなはしたない台詞もムースのように舌触り良く感じられるだろう――そう思い込み、薄い唇を僅かに開いた。  
 
「あなたに身体を触られると、私の……その…性器が、熱くなってしまいます」  
 
「性器?熱くなる?それじゃわからないよ」  
 
レナードがサビーナの陰唇を下から覗き込む。  
汁が滴る。足の付け根の唇はまるでグロスを塗ったかのように光り輝いている。  
動くはずのない外側のヒダがにちゃにちゃと動いているように見えて、彼の股間が一際張り詰めた。  
 
「もっと詳細に言うんだ」  
 
膣内の熱が鼻先に触れるほど、サビーナの膣口に顔をよせて、レナードはそう言った。  
彼の視線が粘膜に突き刺さって、神経が泡立つように敏感になる。弱い高周波が性器に流れたような気がして、触れられてもいないのにサビーナは、浅く達してしまう。  
彼女の下半身が僅かに痙攣し、プシッと数滴、愛液を振り撒いた。  
間近で見ていたレナードの顔にタパタパと降りかかる。彼に気にした様子はない。  
ふと意識が遠のきかけたサビーナは、自分の淫靡な汁でレナードの顔を汚した事にも気付かず、彼の命令通り言葉を紡いだ。  
 
「あなたの肌や頭髪が、私の身体に擦りつけられたり、私の唇や乳房に触れると……その…奥のほう……腸の裏側や、子宮、のあたりが熱く感じられて……さっきショーツを汚したような、汁を、股の付け根……から、漏らしてしまいます」  
 
言いつつサビーナは、失禁したかのように愛液を漏らし続ける。  
異常な量だという自覚が、彼女にはある。他の女がどの程度愛液を漏らすかは知らないが、昔はこんなに濡れなかった。  
むしろ乾いていた。望みもしない剛直を受け入れざる負えない――脆弱だった頃の彼女の性器は、砂漠のようにざらついて、それだけが下衆野郎に対する反発の印だった。  
きっとあの頃出すはずだった愛液が、今になって溢れてきているのだ――サビーナはレナードの前でだけ淫らに動く下半身に対して、そんな考えを持っていた。  
股間の疼きをとめたいのに、そう願えば願うほど淫らに疼く自身の身体に悪態を吐く。  
そんなサビーナにレナードが問う。  
 
「大量に、ね。じゃあ水分を補給しないと、脱水症状を引き起こしてしまうんじゃないのかい?」  
 
さすがにそこまでは出ません――と言いかけたサビーナの唇が、股間から内臓を吸い出されるような感覚によって遮られた。  
今まで外気に触れていた性器に、何か柔らかく熱いものが覆い被さっている。  
吸盤のように張り付いたそれの内部がにちゃにちゃと蠢いて、剥き出しの花芯や割れ目から覗く粘膜を、ざらついたもので擦り上げた。  
ああ、まただ――とサビーナは思う。  
ついさっき上の唇で味わったものが、今、舌の唇をこれでもかと貪っているのだ。そう思うと酷く興奮した。  
 
「あぅ…ふっ……レナぁドさ、ま……く、くすぐったあっぁぅっ!」  
 
自身の股間を見下ろしてみると、長い銀髪が股に挟み込まれていて、まるでブラウンの陰毛が銀髪に生え変わってしまったかのように見えた。  
そんな馬鹿な妄想に苦笑することすら阻むような、背筋を駆け上る濃厚な刺激。  
 
吸い付いている。レナードの唇がサビーナの二枚のヒダに張り付いて、その中を吸い出さんと欲する。  
サビーナは自分の膣にホースを挿入されて、そこから淫らな汁を吸い出されているような、そんな錯覚に襲われて、フェラチオをされる男のように、レナードの頭を掴んで自身の股間に押し付けてしまった。  
サビーナの恥骨にレナードの顔面が衝突する。少し痛い。その痛みが彼女の我を呼び戻して、自身のはしたない行動を彼女に気付かせた。  
彼女は、しまった、と思い腰を引きかけたが、抗いがたい快楽によって、動きが緩慢になる。  
その僅かの逡巡が、彼女にレナードが笑っているのだと悟らせる。  
彼の口元の微笑みを股間で感じる。  
唇の両端が吊り上がって、その形のまま蛇のような舌が膣内に入り込んでくる。  
サビーナは堪らなくなった。  
こんな状況で微笑む彼に哀れみを感じるとともに、彼にこんな顔をさせる自身が誇らしくて仕方がなかった。  
その高揚が腹の底を叩いて、彼女は何かを吐き出したい衝動に襲われる。  
抗いがたい。排泄したい。下半身にあるあらゆる穴から、何事かを吐き出したい――サビーナの全身の筋肉が収縮し、レナードの頭を両足で強く挟み込んだ。  
万力のような力で、彼の頭蓋が軋むほど絞まる。それでも彼は笑っている。  
サビーナの尿道を熱い濁流が駆け下りる。子宮の裏側から精の雫が滲み出すように感じた。  
 
「いやっ……れなーど、さ、ま!……はなれ、て、くだ……あっ!……出ちゃう……ぅあっあぅっあっあっ……!」  
 
言葉とは裏腹に、サビーナはレナードの頭を掴んで離さなかった。  
尿意を我慢するように内股になって、尿道口に蓋をするようにレナードの顔を股間に押し付ける。  
サビーナは眼を瞑る。白い肌が真っ赤に染まる。身体の芯を水銀が流れ落ちるような気になる――その重い液体が股間の土手に溜まって、とうとう決壊させてしまう。  
 
「ぅあっ……やぁあぁ……レナぁ、ぁ…どさ、ま……ごめんな、さ、ぁん……おしっこ、出ちゃ、あっ!……いやぁっ、あっあっあっ……ぁんんっ!!」  
 
サビーナは歯だけでなく唇まで食いしばる。そうでないと開放感で、あらぬことを口走ってしまいそうだった。  
食いしばった上の唇とは対照的に、下の唇は開放感にむせび泣いている。  
自身の股間にレナードの口を尿瓶のようにあてがって、その中に自身の熱情を吐き出した。  
プシャァアァッ!と勢い良く潮を噴く。尿道が擦り切れそうなほど勢いよく吐き出された彼女の体液が、レナードの喉を叩く。彼はむせることもせず受け入れた。  
サビーナの全身が痙攣して、下半身から力が抜ける。性器周りの穴が脱力して、だらしなく汁を滴らせた。  
性器どころか四肢からも力が抜け、立っていることさえ難しくなってくる。  
とうとうサビーナは、股間に押し当てたレナードの頭の重さに耐えきれず、膝を折り、潮を噴きながらひざまずいた。  
膝立ちになっていたレナードも一緒に崩れ落ちる。ベッドの上に仰向けになる。  
仰向けになったレナードの上に、サビーナが顔面騎乗位の形でへたり込んだ。  
彼女はベッドに両手をつく。雌豹のポーズのように背を反らせて、股間をグリグリとレナードの頭に擦りつける。その間もプシッ!プシャッ!と断続的に潮吹きが続いた。  
本当に脱水症状になるかもしれない――と思った彼女の下で、レナードが苦しげに蠢く。  
 
「申し訳ございません……その…私の体液で……汚してしまって」  
 
サビーナは脱力した下半身をどうにか持ち上げて、性器をヒクッヒクッと痙攣させながら、レナードの顔を覗き込んだ。  
彼女の愛液で濡れた銀髪が額に張り付いている。その銀の一筋が、彼の瞳に走っていて、彼女は指先でその一筋を払いのけた。  
その瞬間に眼と眼があう。  
レナードの酸欠で放心したような瞳に、サビーナの顔が移り映りこんだ。  
その像が揺れて、欲望の炎に焼かれてしまう。  
レナードは口の中にサビーナの体液を溜めたままで、ゴポッゴポッと言う。  
 
「君、は……本当に、水分補給が必要らしい、ね……」  
 
言い終えるのと同時に、彼の投げ出された腕が鷲の翼のように動いて、サビーナの頭を掻き抱いた。  
顔と顔が急速に近づき、唇と唇で強く触れ合う。体液がはじけて高い音が鳴った。  
レナードは唇を押し当てたままで身を翻す。二人の位置関係が逆転し、レナードがサビーナに覆い被さった。  
逆転した衝撃で唇と唇が離れる。  
サビーナの視界に悪魔のように笑うレナードが映りこんだ。  
股の下にいたときのように、唇の端がいやらしく吊り上がっている。その吊りあがった端から体液が垂れて、血を滴らせる吸血鬼をサビーナに想起させた。  
コポリ。  
彼の口元から酷く汁気の多い音がした。その音を聞いて、サビーナの背に鳥肌が立つ。  
水分補給が必要らしいね――彼女は悟る。  
レナードの唇が、サビーナの唇に噛み付くように舞い降りて、自身の口の中のものを注入していく。  
互いの体液の混合物を無理矢理飲まされて、サビーナは酷い気分になる。  
だが何も言わない。拒まない。  
ただ注がれるだけの体になって、彼の遊びに付き合った。  
愛するとは受け入れることだろう――サビーナはそう考える。  
 
*  
 
レナード作のかなめのおっぱいプリンは、形こそ残念であったものの、彼のセンスもあいまってプリンとしてはかなり上出来な部類に属する。  
おっぱいプリンは二つある。  
右乳と左乳。レナ―ドはそれとなく、右乳とスプーンをサビーナに差し出すと、  
 
「一緒に食べよう」  
 
と言った。  
ふざけないで――サビーナは心底そう思ったが、彼の手料理だということで黙って受け取る。  
受け取った瞬間に双球が不規則に揺れた。そのたゆたいさえ腹が立つ。  
サビーナは射殺さんばかりの眼でおっぱいプリンを睨み付けると、怒気をスプーンから発するように、その先でおっぱいプリンを叩いた。  
おっぱいが型崩れする。スプーンと接触した部分が無様に崩れて、サビーナはザマアミロと思った。  
そのままスプーンの裏でピタンピタンする。  
一発でなど押しつぶさない。徐々に苦痛を与えるように、屈辱的な崩し方をしてやる。  
このプリンと本物のかなめ乳がリンクしていて、このプリンを陵辱すれば陵辱するほど、あの女の乳が損なわれたらどんなにいいだろう――サビーナはそんなことを考えた。  
口に運ぶこともせずピタンピタンし続ける彼女に、レナードは言う。  
 
「サビーナ。食べ物で遊ぶのはよくない」  
 
あなたに言われたくない――サビーナは心の底からそう思った。  
 
*  
 
齢十四にしてレナードは、すでにセックスに飽きていた。  
彼が抱いた女は三桁を軽く超える。正確な数字はわからないし、ただ精を吐き出しただけの穴のことなど、興味もなければ思い出す意味もない。  
以前は猿のように欲したと言うのに、百人を越えた頃には女の裸を見るのが億劫になってしまった。  
美女に飽きると醜女を抱いた。白人に飽きると黒人を抱いた。黒人に飽きると黄色人を抱いた。黄色人に飽きると、また白人を抱いた。  
ひとえに結局は女だった。  
どの女を抱いても結局セックスという範疇に収まって、目新しさの欠片もない。  
目新しさの欠片もない行為にも何かと不都合が伴って、レナードはセックスをするのが面倒になってしまった。  
彼は自慰に耽る。  
人並みに性欲はあったが女に興味をなくしていた。  
ただ吐き出したいだけだ。これは排泄に似ている。  
排泄物を拭うのに女もちり紙も大差なく、どうせ差がないのなら、面倒のないちり紙で拭うのも道理だろうと考えた。  
 
「殺しの腕は熟達していますが、性格を鑑みると大変危険かと」  
 
リー・ファウラーのサビーナに対する第一印象は大変悪い。  
レナードはファウラーの持ってきた資料に眼を通す。  
顔写真と各種検査の結果が記載されている。被験者の名はサビーナ・レフニオ。マフィアの飼い犬というありがちな運のない女だ。  
レナードは資料を読みつつ、言う。  
 
「どう危険なんだい?」  
 
「裏切りと衝動です。彼女は発作的な行動が多い。それにも関わらず狐のように狡猾です」  
 
「言っていることが矛盾してないかい?」  
 
「発作的に思いついたことを、慎重かつ冷静に行う、という意味です」  
 
「それはいい。ぜひとも部下に欲しいね」  
 
とぼけたレナードの返答に、ファウラーは僅かに苛立つ。  
その苛立ちを隠しつつ、言う。  
 
「彼女は仲間を殺すことに、なんの躊躇いも感じていません。事実、彼女は自分の雇主を殺して――だからこそここにいるのです」  
 
「生き残るための判断としては、まぁ妥当だと思うけどね」  
 
珍しく強硬なファウラーに、レナードは苦笑を漏らした。  
その頑なさが彼の危機管理能力の高さを如実に表しているが、レナードには少々煩わしかった。  
ファウラーの意見を黙殺しつつ、レナードは資料を読み進める。  
年齢は十五歳。身体的には到って健康で、ある程度の教養もある。教育を施したのは今回壊滅させたマフィア。そのボスは当の彼女によって殺されている。  
前々から恨みがあったのか?それともアマルガムにくだるための手段として殺されたのか?資料からは判断できない。  
ただ、あんな掃き溜めの町だ。血の繋がりのない育ての親。しかも男親に、恨みを抱かない女というのも稀だろう。  
育ての親――彼女の実の親はどうしたのだろう?――レナードは疑問を口にする。  
 
「彼女の両親はどうしたんだい?」  
 
「父親はいません。はっきりしたことはわかりませんが、恐らく強姦による妊娠ではないかと――母親は彼女が十歳の時に殺害されています」  
 
「殺害?」  
 
「ウッチの警察に当時の記録がありました。撲殺されたそうです。遺体が激しく損傷していたため、身元を調べるのに時間がかかったとか……ただ、あの町の警察ですから、どの程度の捜査がされたかは疑問です」  
 
ふとレナードの脳裏に自身の母親の顔がちらついた。  
カーディガンをはおり、楚々とした母親と、ベッドの上で身悶える母親。  
瞬きのように二つの映像が交互に映される。  
誰だ、と思った。  
母の上に覆い被さって下卑た笑みを浮かべる男は、一体誰だと考えた。  
男は下半身を叩きつける。その衝撃で母は嬌声を上げた。  
父以外に許されない行為をするのは一体誰だろう?  
そのことを知りたいのに、知ってしまえば何かが壊れてしまう気がして、鉛のように目蓋が重くなる。  
薄められた視界。今見えるのは、調理場に立ち、夕食を作る理想的な母の姿だ。  
母が父に笑いかける。  
あなたが好きな――を作ったの。  
父が何を好物だったのか、今はもう思い出せない。ただ母の言葉を聞いて、頬をほころばせる父の姿だけは思い出せた。  
母は次にレナードへと視線を向ける。  
あなたの嫌いな――が入ってるけど、好き嫌いしちゃダメよ?  
レナードは困った顔をした。眉間にシワを寄せて、この窮地をどう乗り越えるか考える。  
そこで彼は疑問に思う。何故自分の視界に、自分の顔が映りこむのだろう?  
眩暈のように世界が反転する。  
反転した世界で見えたのは、またしても自分の顔だった。ただ前よりも成長している。年頃は二十前後といったところか。  
年頃の自分は息を荒げ、何かにしがみ付くように必死で身体を揺すっていた。  
気が付けばしがみ付かれるのは母の姿で、母に下半身を叩きつける男が自分自身であったとレナードは悟る。  
彼は撲殺したいと思った。  
父以外に身を許した母を、殺してしまいたい衝動にかられる。  
 
「どうかされましたか?」  
 
空想の海に沈んでいたレナードに、ファウラーは不審気な声をかけた。  
レナードはその言葉にハッとして、首を横に振る。  
 
「なんでもないよ。で、犯人は見つかったのかい?」  
 
「はい。ただ、捕まえようとした際に抵抗したので、射殺されたそうです。犯人は被害者の近所に住んでいた元軍人。大分問題のある男で、近隣住民とだけでなく、マフィアともよく諍いを起こしていたそうです」  
 
ここでのマフィアとは、サビーナを雇っていたマフィアのことである。  
レナードは少なからず落胆した。  
彼は心のどこかで、この犯人がサビーナであることを期待していた。  
彼は聞いてみたいと思った。  
身内の肉を押しつぶす感触とは、一体どのようなものだろう?  
快感を得るのだろうか?それとも不快だろうか?  
そして仮に不快だったとして、それは自身の保身のために我が子を差し出した、不貞淑な母に対する自分の憎悪と――どちらがより醜い感覚なのか、そういったことを問い掛けたくて仕方がなかった。  
 
 
 
361 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2010/02/19(金) 00:02:28 ID:OPPFG7ns 
*  
 
「昔、ガラスのコップを割ってしまって。その時についた傷です」  
 
サビーナは嘘をついている――医療にも明るいレナードは、握りこんだ掌の感触から、彼女の嘘を感じ取った。  
サビーナがレナードのもとで、メイドの真似事を始めて半年がたった頃だ。  
銀食器を並べる彼女の手付きを見て、レナードは今更のように気付く。  
陶磁器の肌に走る一筋のヒビ――古傷だろうか?――レナードは発作的にサビーナの手を掴むと「この傷は?」と問い掛けた。  
別になんということはない質問だ。レナードは一瞬で理解する。これは手術痕だ。切り傷ではない。恐らく骨までいかれただろう。  
あの町であんな仕事をしていた女だ。拳を潰された経験があったとしても、なんら不思議はない。むしろ機能面に問題がないことが奇跡的だと考えるべきだ。  
なんということはない質問。だのに彼女は、一瞬身を固くして、舌触りのいい嘘を吐いた。  
その嘘が彼に何かを悟らせる。  
 
「君の母親は、撲殺されていたね」  
 
レナードはそう呟くと、久々に女を抱きたいと思った。  
半年前に思った願望が真実だと悟って、目の前の大罪の女を、抱きしめたくて仕方がなかった。  
 
*  
 
肉棒は歓喜する。  
レナードは初めてサビーナを抱いた時のことを思い出した。  
それは童貞を喪失した時以上の衝撃だった。  
彼女を抱いて、本物の情交とはなにかを理解した。彼女に欲望の一端を突き入れたとき、レナードは魂ごと引っこ抜かれるような快感に襲われた。  
魔膣だと思った。  
見た目からはわからない。サビーナに股を開かせた時、レナードはなんと愛らしい性器かと思った。  
ぷっくりと膨れた土手の間から、花弁に似た恥肉が僅かに覗いている。  
薄いブラウンの陰毛が白い肌に張り付いて、それをねめつけるように指先で擦ると、桃色の花弁が風にたゆたうようにヒクヒクと蠢いた。  
愛らしいそれを貪るつもりで欲望を埋めると、まさかこの自分が、貪られる側の人間であったとは。  
いきり立つようだ。思い出しただけで鼻血が出そうになる。  
そして今目の前に、本物の彼女の肉体があるのだと思うと、それだけで精神の針が振り切れてしまいそうになるのだ。  
 
「大分我慢していらしたのですか?」  
 
既に一回出してしまったにも関わらず、激しくいきり立つレナードの股間を見て、サビーナがそんな感想をもらす。  
意識的か無意識か、彼女の舌先がチロリと唇から覗いて、レナードの股間が一層熱くなった。  
どうしようもない、とレナードは思う。  
目の前で膝立ちになったサビーナの肢体を、抱きしめたくて仕方がない。  
蒸れ立った彼女の股の真下に、レナードのいきり立った性器がある。  
互いの距離は20センチ。それにもかかわらず熱が空気中を伝わって、二つの性器が触れ合ったように熱くなった。  
サビーナの両腕がレナードの背に回る。  
汗ばんだ肌と肌が触れ合って、ただ身体を抱きしめただけにもかかわらず、レナードはまるで、彼女の肢体に全身が飲み込まれたような気分になった。  
彼女の肢体は熱い。  
頭蓋を砕く膂力を有するその肢体は、低体温や低血圧とは無縁である。  
よく食い、よく動き、よく寝る女だ。  
その取り澄ました外見とは裏腹に、なんと活力に溢れた肉体か。  
彼女に抱かれることは太陽に抱かれるのに似ている。物言わぬあの星の生命の余波で、この星の緑が保たれていると思うと、不思議な感慨がある。  
物言わぬサビーナの肢体の熱さが、自身の生命を騒ぎ立てるのだ思うと――結局のところ自分たちは、どれだけ高尚な言葉を並べようと、畜生と変わりない動物なのだと思い知らされた。  
恋愛とは性欲の詩的表現である。だがそのことに何の問題があろうか?  
 
「愛してるよ」  
 
レナードは溜息ほどの軽さでそんな台詞を呟く。  
この言葉が本心なのか、それとも、ただ目の前の彼女を喜ばせたくて呟いたのかは、レナード本人にさえ判然としない。だが、唇から流れ出たそれは酷く舌触りがよくて、そう悪い気はしなかった。  
包み込むように覆いかぶさるサビーナの肢体が、その台詞を聞いて、焼けるように火照りだす。  
飲み込んでしまいたい、と彼女は考えた。  
彼の末端を埋め込まれるだけでは飽き足らず、全身を飲み込みたいと考えた。  
彼にまとわりつく空気や汗の雫さえ、自身の一部であったならどんなにいいだろう――彼女はそう欲して、レナードの身を磨くように柔らかな肢体を擦り付ける。  
 
「挿入いたしますか?」  
 
強張った筋肉と、溶け出すような柔肉をレナードの身体を舐めるように動かしつつ、サビーナはそんなことを言う。  
身も蓋もない物言いにレナードは苦笑を漏らす。  
 
「もっと艶っぽい言い方はないのかい?」  
 
と問いかけてみて、艶っぽい言い方など、当の彼女には似合わないだろうとレナードは思い至る。  
鈍器のような女だ――精神の表層を薄く裂くような、女々しい言葉遣いを求めたところで、それが彼女の質に合わないのなら、極めて不自然に聞こえるだろうと彼は考える。  
どことなく困った顔をしつつ、艶っぽい台詞を考えるサビーナだが、その考察の時間すらレナードにとっては一種の焦らしに等しい。  
自身が問いかけたことにもかかわらず、レナードは目の前でうんうんと唸るサビーナに焦れて、思わず彼女の腰を掻き抱いた。  
 
「レナード様?……はぁあぅっ!」  
 
不意に下っ腹を襲った圧迫感に、サビーナは思わず嬌声を上げる。  
血滴る肉を前にした獣に等しいレナードは、彼女の尻肉を鷲掴みにすると、そのまま下半身を引き落として、彼女の淫靡な穴に自身の剛直を突き入れた。  
内臓を持ち上げるような深い挿入に、サビーナの息が詰まる。  
レナードの先端が彼女の最奥にこれでもかと押しつけられる。戸を叩く拳のように、サビーナの奥の扉にレナードの末端がゴツゴツと叩きつけられる。  
ノックの度に、彼女は強くレナードの身体を抱きしめた。  
万力のような力だ。締め付けられるレナードの肩や背が、ギシギシとベッドのように軋む。  
それでも彼は突き入れるのを止めなかった。サビーナの性器がこれでもかとレナード自身に絡みついて、腰振る以外の行動を彼にさせまいとする。  
魔膣とはこういうことだ。  
普段は常人の倍以上の速度で回転する彼の頭脳は、サビーナを抱いている――もしくは、彼女に抱かれた時のみ、発情した雄猫のように短絡的なものにシフトする。  
 
「はっはぁ……サビーナ……君はいつもこうだね」  
 
氷のように取り澄ました外見の癖に、腹の中には灼熱を飼い込んでいる。  
彼女の中にズッと刺しいれたとき、一番驚くのはその肉体の熱さだ。  
温かいのではなく酷く熱い。心地よさを通り越して、肉棒が焼け落ちるような錯覚に見舞われる。  
痛みすら感じる強い締め付けと、無数の手や舌に愛撫されるような常軌を逸した淫らな蠢き。  
彼女の全身の筋肉が、ただ肉棒を貪る為に蠢くかのような、全霊を振り絞るサビーナの絡みつきに、レナードは彼女の尻を揺するのを止められなかった。  
レナードはサビーナの肛門が引き伸ばされる程、柔い尻肉を強く掴んで、ズボッズボッ!と腰の上で彼女の尻をバウンドさせた。  
 
「ふっ……あぁ!れぇ……なぁどさ、ま……いやぁ!」  
 
「なにが嫌なんだい?……はっぁ……まさか、もう僕と繋がりたくない……ぅぁ…とでもい言うわけじゃ、ないだろうね……?」  
 
「ち、ちがぁあっあっあっいま、す……!んぅ!」  
 
「では君は、こ、の僕と……はぁ……もっと繋がっていたいと?」  
 
レナードのどうしようもない問いかけに、サビーナは涙目になる。  
乱れたと肉体と息遣いのままで、睨み付けるようにレナードの顔を見下ろした。  
レナードの視線は今、無造作にサビーナの鎖骨の間に置かれている。彼女はそんな彼の長い睫を無遠慮に眺めた。  
この男を常に自身の腕の届く範囲――いっそ、この腕の中に囲い込んでおくことができたら、どんなにいいだろう――そんなことをサビーナは思い、不意に彼に初めて抱かれたときのことを思い出した。  
あの時サビーナは、舌を噛み切ることを考えたのだ。レイプされる経験しかなかった彼女の唇を、初めて欲した無防備な馬鹿がこのレナード・テスタロッサだ。  
サビーナは考える。あの時噛み切ってしまえば良かったと考える。  
舌を噛み切るだけでは足りない。四肢を引き千切って、瞳を潰して、耳を抜けばよかった。  
だが殺さない。人間が生きるだけの最小限のパーツを残して、彼を解体してしまえばよかったのだ。あのガウルンのように。  
そうすれば彼は誰かの助けなしには生きられなくなる。  
その誰かに自分がなることができたなら――あのバカ女を欲する彼に憤りを感じることなど、一切なかったに違いない。  
繋がっていたい?当たり前だろう?なぜそんなわかりきったことを訊く?――皮膚を突き破るような激しい眼差しを第六感で感じて、レナードはふと上を見上げた。  
泣き顔で睨み付けて、サビーナは呟く。  
 
「そうですね」  
 
レナードがサビーナの表情から何事かを悟るより先に、彼女は彼の唇に噛み付かんばかりの勢いでむしゃぶりついた。  
二人の唇は共に薄い。強く押し当てると、唇の裏側から前歯の感触が感じられて、サビーナは相手の存在をこの上なく近しい者のように感じることができた。  
薄い唇で唇を食む。歯茎と唇の間に舌を差し入れてみると、何故か痺れるような刺激があって、彼女はその味を貪るように追い求めた――求めあう。互いの口を行き来するのは彼女の舌だけではなく、レナードのそれもまた同様だった。  
歯を立てる。口内に侵入してきた舌の一端を、サビーナは僅かに噛んだ。レナードは僅かに顔にしかめたが、彼女の真意に気づいた様子もなく、ただ戯れに噛み付いただけだろうと、悠長に唇を押し当て続けた。  
危機感の薄い男だ、とサビーナは思う。  
レナードは自分が特別な人間だと信奉している。実際そのとおりであり、その認識に間違いはないが、彼にはそういった人間特有の無防備さがあった。  
自分に限って――という感覚が彼の世界を支配している。  
選ばれた人間である自分が死ぬはずがない。世界が自分を必要とする限り、自分の未来は天上の誰かによって保障されているはずだ――そんな妄想に似た信仰が彼にはある。  
その性質は彼自身も認識しており、だからこそ『慎重な楽観主義者』であるアンドレイ・セルゲイビッチ・カリーニンを、側近としてアマルガムに迎えたのだ。  
 
「はぁ……」  
 
と溜息一つ発して、サビーナはレナードの唇を放した。  
別段、噛み千切ることに臆したわけではない。  
もし今の自分が、彼のことをよく知らないままであったなら、一思いに噛み千切ってしまっただろうと彼女は考えた。  
噛み千切った後のことを考える――今の自分なら、彼の舌を噛み千切ったのと同時に、自身の耳に中指を突き入れるだろう。  
必要ない。彼の声をもう聞くことが叶わないのなら、聴覚など必要ないと考えた。  
他の部位もそうだ。  
彼に見つめられない瞳になんの意味がある?彼に触れられない身体になんの意味がある?――ジレンマだ。彼のことを知る前には、噛み千切るという発想など生まれないはずで、彼を知った後では、噛み千切ることなど、とても、とても。  
結局どちらに転ぼうと自分には、ただ彼のそばに寄り添うことしかできないのだ――サビーナはそう結論付ける。  
 
「痛いのは僕のはずなのにね」  
 
レナードはそう言うと、サビーナの目尻にキスをした。  
何を?とサビーナは思ったが、すぐさま彼が、目尻から伝う涙を舐めとっているのだと悟る。  
くすぐったい。めったに上がらない口角が僅かに上がるのが、彼女自身にも理解できる。  
それにつられてレナードも小さく微笑んだ。サビーナの股間の下での笑みとは違って、極めて自然な微笑だ。  
イヤイヤとサビーナは首を振る。レナードは涙の軌跡を逃すまいと、彼女の頭に両腕を軽く巻きつけた。サビーナのブラウンの髪がクシャクシャとなる。その軽い音が、互いの耳に心地よかった。  
安心しきった猫のように戯れる。ただ、その間も、彼らの下半身は深く繋がったままである。  
互いがくすぐったさから身を捩るたびに、サビーナの腹の中で愛棒がグチュリグチュリと動き回った。  
いままで大人しくしていたモノが動き出して、サビーナの背に蟻が這い上がるような快感が走る。  
その間もレナードは涙の筋を舐め続け――目尻から始まるそれは、頬を伝い、首、鎖骨を通って乳房へと至る。  
レナードの舌が乳房の突端に触れる。小さな乳輪を包み込むように舐めたかと思うと、ビンビンに勃起した乳首をついばんだ。  
 
「ひぁっ……ぅん…れなぁあぁぁああ!…あん!……あっあっあっあっ!……ひぅっ!んぅ!」  
 
レナードの唇が乳首を絞めるのと同時に、サビーナの膣がレナードの肉棒を強烈に抱きしめた。  
幾度となくレナードの肉棒を出し入れされた彼女の膣は、すでに彼の味と、形状を覚えきっている。  
彼女の中の充血した粘膜が、隙間なく彼の粘膜に密着する。その粘膜が胎内に肉棒を引き込むように、ジュルジュルと蠢いた。  
サビーナの腰が跳ねるように浮く。愛液まみれの精棒がカリ首まで引き抜かれ、膣口が嫌らしく引っ張られる。  
ラクダ顔でレナードの性器を唇でしゃぶったサビーナ。その時のように下の唇が亀頭にこれでもかとへばりつく。  
そして落下。外気に触れていた竿が、あっという間に灼熱の胎内に飲み込まれた。  
 
荒れ狂う膣壁。螺旋を描くように膣壁が動いて、レナードは自身の性器が雑巾のように絞られる錯覚を覚えた。  
ジュッポジュッポ!と汁気の多い音が股間から上がる。  
彼女の身体全体が激しく上下する。それでもサビーナは肉棒を、レナードは乳首をしゃぶって放さなかった。  
掻き毟られるようだ。  
性器どころではない。膣周辺の筋肉どころか、尻、太もも、果ては上半身の筋肉まで、サビーナの全身、あらゆる筋肉が活発に動いて、レナードの剥き出しの粘膜をこれでもかと掻き毟る。  
吸い付かれるようだ。  
自分から吸い付いているにもかかわらずレナードは、サビーナの乳首に吸い付かれるような――唇と乳輪が癒着してしまうような錯覚を覚えた。  
まるで一匹の動物になったようだ、とレナードは思う。  
溶け出すような柔肌と淫靡な体液の雫が、互いの境目を曖昧にして、自身の身体が彼女の一部に、彼女の身体が自身の一部になったかのように感じた。  
もし今この瞬間、彼女の肌にナイフの刃先が刺しいれられたするなら、まるで自分の身体が刺されたかのように感じるに違いない。ウィスパードの共振とは違う野卑た同一性をこの行為に感じる。  
自身が快感を感じたなら、彼女も快感を感じてしかるべきだ――などという自己中心的な発想も、この状況では極めて自然なことのように思えた。  
 
「いい気分だ」  
 
君もそうだろう?――とレナードは言外に含める。  
サビーナは舌足らずにも「私もです」と呟くと、レナードの頭をこれでもかと抱きしめた。  
寒いと思った。濡れた先端から熱が逃げるように感じた。  
自身の乳房から離れた彼の唇が惜しくて、彼女は縋るように二の腕に力を入れる。  
サビーナの意図を知ってか知らずか、レナードは押し当てられた乳首を、再び赤子のように唇でついばんだ。  
ふと彼女は、今日食べたレナードの手作りおっぱいプリンのことを思い出した。  
あれは甘かった。美味しかった。卵本来の甘みを生かしきった匠の仕事を目の当たりにして、サビーナはそのプリンがあのクソ女の乳房を象ったものであることも忘れて、夢中で齧り付いてしまった。  
それゆえに彼女は、レナードがどのようにプリンを食べたのかを記憶していなかった。必要のない情報だとその時は判断したが、今更になって彼女は、彼がどのようにプリンを食べたのかを知りたくてたまらなくなった。  
スプーンですくって食べたのだろうか。それとも直接丸齧りしたのだろうか。どこから食べたのか。乳首から食べたのか。それとも、下乳から突端に向けて削ぎ上げたのだろうか。  
そんなことが気になる。無心で乳首をしゃぶるレナードを見下ろして、サビーナはかなめのおっぱいプリンに対して僅かに嫉妬した。  
彼女は問いかけたかった。  
――あのプリンの味はお気に召されましたか。  
――あのプリンの舌触りはいかがでしたか。  
――あのプリンは美味しかったですか。  
――あのプリンと私の乳房では、どちらがお好きですか。  
 
どちらがお  
 
「好きですか」  
 
「好きだね」  
 
考え事が掠めるように唇から漏れた。サビーナがそれに気づいて顔を赤くするよりも早く、レナードはその問いに答えていた。  
レナード自身、一体何の質問をされたのか理解していない。だがそれ以外に答えようがないように思えた。  
頭の上から降りかかる質問はあまりに儚げな声色にのせられていて、もし否定の言葉を発すれば、目の前の彼女が朝霧のように消えてしまうように感じられたからだ。  
『どちらがお好きですか』という質問に対して、『好きだね』という回答はいかにも要領を得ていない。  
だがそれでもよかった。問いに対する回答は得られなかったが、好意の対象が自分に向けられているというだけで、サビーナは満足だった。  
好き、という単語が鼓膜を揺らして脳を焼く。  
回答するために乳首から口を離したレナードの頭を、再び胸元に抱き寄せる。その反動で二人はベッドへと倒れこんだ。対面座位から正常位へと移行する。質の良いクッションが深く沈みこみ、体勢が不確かになる。  
それでも二人は離れなかった。抱き合った腕どころか、下半身までも深くまぐわって、互いを放さんと欲した。  
掻き抱くとはこのことだ。細身の二人にとって、互いの肢体はあまりに儚いように思えた。良質なクッションの波にさえ翻弄されるような華奢な肢体を繋ぎとめようと、二人の四肢に力が篭り、内臓さえも相手を引っ張るのに躍起になる。  
挿入された肉棒を是が非でも死守しようと、サビーナの股間が今宵一番の絞め上げを見せる。  
幾度となく肉棒の出し入れを繰り返された彼女の膣は、レナードの形を完璧に覚えきっている。  
レナードのペニスが再奥を叩いた瞬間に、カリ首周辺の膣壁がぞわぞわと迫り出し、一ミリたりとも引き出させまいと膣壁全体で抱きしめた。  
ゾッとするような快感がレナードの背を駆け上る。神経の全てが股間に集約され、脳の活動全てを、サビーナを感じることだけに集中させられたらどんなにいいだろう――そうレナードは考えて、この考えさえ余計な思考であると、彼はサビーナの腕の中で首を振った。  
ジュグリッジュグリッと淫らな音が接合部から上がる。開いた股の間を卑猥な汁がつたう。肛門をつたいシーツを濡らす。仰向けになってこれでもかと股を開いた姿勢を、サビーナは馬鹿みたいな形だと思った。  
 
「あぁっ!……いや……ふっ、も、もぅ……!」  
 
はしたない。ふしだらだ。だのにサビーナは、腹から舞い上がる情動を押さえきれず、甘い声を上げてしまう。  
一ミリたりとも引き出させたくないのに、ズリズリと無理矢理外に這い出そうとする肉棒が、過度に彼女の粘膜を掻き毟る。締りがいい分密着が強く、ほんの少しの挙動でさえ、骨の髄まで響くように感じられた。  
 
「はぁっ……あっ…ぁっ……あっ…あっ…ぅう……」  
 
サビーナの全身が細かく痙攣する。水面の金魚のようにパクパクと口を開け閉めする。  
喘ぎ声などという高尚なものではない。声にすらならない。脳が声を出すことを忘れる。ただ気道を通った熱い吐息が口内で反響して、音になって聞こえるというだけである。  
恐らく人類の声帯がいまよりもっと単純であったころに発した音と同程度の音を、サビーナはその薄い唇の間から発し続けた。  
サビーナの喘ぎともとれない喘ぎに合わせて、彼女の蜜壷が断続的に締め付けを強くする。粘膜と粘膜が強く擦れあって、彼女の奥からは愛液が、レナードの先端からはカウパー腺液がこれでもかと溢れ出た。  
エロ過ぎるサビーナは、我慢汁の漏れを膣奥で敏感に察知する。  
彼女は集中する。指先以上の器用さと、舌先、唇以上の繊細さを子宮に求めて、彼女の中のペンフィールドのホムンクルスが奇怪に変形する。  
飢餓に苦しむ難民のように下っ腹が出っ張って、無様な様相を呈した彼女の中のホムンクルス。しかし、セックスの場においてはこの脳の使い方が最良であるように思えた。  
彼の子を孕んでしまうかもしれない――そう思うと、骨の髄まで熱くなる。火を吐くほどに白い肌を赤く染めて、小振りな乳首を破裂しそうなほど硬くした。  
 
「ダメだよ――サビーナ」  
 
言葉が切れるようにレナードはそう言った。  
彼は、背に絡みついたサビーナの両足を振りほどくと、吸盤のように吸い付く彼女の股座から、普段の倍以上に張り詰めた肉棒を強引に抜き出す。  
抜き出す瞬間にもサビーナの中身が必死でレナードの先端にしがみつき、強烈な射精感を彼に味合わせる。  
反り返る肉棒が彼女の出口を下から突き上げる。膣口にカリ首が引っ掛かり、レナードは彼女の中から抜け出るか抜け出さないかのところで射精にいたる。  
性器と性器の間に白濁した吊り橋が出来る。その吊り橋は川からの上昇気流に煽られるように次の瞬間には弾け飛んで、白い飛沫となって、それよりも更に白いサビーナの肌にタパタパと降り注いだ。勢いよく弾けた精液は、彼女の股間から右頬にかけて白い点を残す。  
まるで酸をかけられたように汚れた部分が熱くなったが、サビーナはそれを拭おうとはしなかった。ただその場で息を切らして脱力し、膝立ちになったレナードをぼんやりと眺めた。  
ぼんやりと眺められるレナードもまた、精を出し切った疲労からぼんやりと中空を眺める。視線があいまいで一見危ないように見えたが、サビーナを抱いたあとの彼は大体こうなってしまうのだ。  
サビーナはレナードの性奴隷か?――答えは違う。逆だ。全てが終わってからの互いの状況を見る限り、仰向けになったサビーナよりも、覆いかぶさるレナードの方が一層疲弊して見えて、貪った側が実のところどちらであったかなど一目瞭然の有様で。  
サビーナは性奴隷ではない。むしろ性主人――男を勃起(エレクト)させることに長けた勃起主人(エレクトマスター)であった。エレクトロマスターではない。  
奴隷のように疲れきったレナードは、柳のようにサビーナの体の上に倒れこむ。  
倒れこんだレナードを抱え込もうとして、サビーナは一瞬躊躇う。今、彼女の体は彼の精液によって汚れている。  
そのことを彼は不快に思わないだろうか――思わない。この男は可能なら、自分のイチモツを自分で咥えるような男だ――サビーナはヒシと抱きしめた。レナードはそれに抱き返すことはなかったが、代わりに彼女の乳を揉んだ。  
レナードはサビーナよりも10センチほど身長が高い。それにも関わらず彼は、赤子のようにサビーナに抱きしめられてしまった。  
流れるような鎖骨に額を当てて、ほどよい大きさの乳房を見下ろした。乳首をなぞる様に指先で弾くと、乳房全体がプリンのようにぷるぷると揺れた。それにともなって、柔肌に付着した精液も一緒に揺れた。レナードはそれを目で追った。  
サビーナがその刺激に軽く仰け反る。レナードは更に強く抱きしめられた。彼は揺れる乳房と白濁液からある発想を得て、ポツリと言う。  
 
「サビーナは、練乳プリンは好きかい?」  
 
「好きです」  
 
サビーナはそう肯定したが、実際には練乳プリンがどういったものなのか、いまいち理解していなかった。  
ただ尊敬するレナードの言葉を否定することが憚られたのと、練乳プリンがわからなくともプリンは好きだったため、とりあえず肯定しておいただけである。  
サビーナの返答を聞いて、レナードは彼女の乳房を揉みつつ満足げな顔をする。  
これならできるだろう、と思った。  
 
「次は、君のにしようか」  
 
レナードは思う。  
ミルクのように白く、甘いサビーナの乳房は、練乳プリンでこそ再現されるものだろうと考え、そのまま彼女の腕の中で眠りに落ちた。  
 
 

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