「千鳥、落ち着いて聞いてくれ――どうやら、俺のペニスがなくなったようなのだ」
「多分あんたのちんちんなら、ここにあると思うんだけど」
と言いつつかなめは、自分の股間を指差した。
*
千鳥かなめは気がつけば色気狂いであった。
初めはそうでもなかった。
彼女の思い人である相良宗介と肌を重ねて当初、その行為は身に纏う空気をねめつけるのが心地よいだけにとどまり、いざ挿入に至ると身を裂かんばかりの激痛に見舞われ、彼女自ら進んで行うような事柄ではなかった。
彼の性器に愛着を持ちつつも、その先端が自身の粘膜を引き裂くのだと思うと、心の底からぞっとする。
硬いかと思い触れてみると、芯は鋼のように硬くとも先端はそれほどでもなく、これほど柔いものに引き裂かれてしまう自身の性器に今更のように驚いた。
「それなのに今のあたしときたら……」
かなめは自身の左手の小指をしゃぶりつつ、自分の部屋で一人呟く。
その指は最後に宗介が触れていった部分だった。
学校からの帰り道、それとなく握られた左手が名残惜しげに解けて――最後、小指と小指が糸屑のように絡まったけれど、結局離れ離れになってしまった。
誘う気になれば誘えたはずだ。それにも関わらず何事もなかったかのように「また明日ね」と別れを告げたのは、彼が酷く疲弊していたからに他ならない。
四日間の任務の末、東京に帰宅した宗介は柳のようにしなだれて泥のように眠りに落ちる。
例のごとく授業中、眼を開けながら眠る彼を見て、かなめは自身の中で沸き立つ雌を抑える決心をした。
*
「私が訓練教官のハートマン先任軍曹である。話しかけられた時以外は口を開くな。口でクソたれる前と後に『Sir』と言え。わかったか蛆虫ども――はい、この台詞の英訳を、今日の日直の小野寺君にやってもらいます」
耳では神楽坂恵里を教鞭を、眼では目の前の宗介の背中を眺めながら、かなめは授業の時間を過ごした。
宗介の両肩が規則的に上下している。寝ている。かなめはそのことに気づいたが、特別注意するようなことはなかった。
彼は酷く疲れているのだ。学級委員としては見過ごせないが、かなめ個人としては休ませてやりたかった。
そもそも奇怪な専門英語を駆使する彼は、ある種ネイティブスピーカーよりも英語に熟達している。今更高校英語を勉強する動機が薄い――それは帰国子女であるかなめも同様であり、だからこそ彼女は、目の前の背中をボンヤリと眺めた。
彼女は知っている。その学生服の下に隠された肉体がどれほど屈強で、ある瞬間にどれほどの熱さで脈動するのかを。
彼女は知っている。その鉄面皮の下にどれほどの情熱をはらんでいて、その情熱の末端が自身の肉体を貫く時、どれほどの奮えでこの身を焼くのかを。
かなめは宗介の腰元を見据え、彼の股にぶら下がる肉棒のことを夢想した。
なんのかんので一週間も彼の身体に触れていない。
身も蓋もない言い方をすれば、一週間も彼とセックスをしていない。
昔はただ宗介を満足させるためだけの行いだったというのに――今はもう、宗介なしには自身の火照りすら逃がすこと叶わない自分を自覚して、かなめは小さく溜息を吐く。
ソースケは喜ぶけどさ、女の嗜みとしてどうかと思うわよねー。
思いつつかなめは、無意識に机のパイプを右手でシコシコしてしまった。
宗介の股間のことを考えていたら、ついうっかり机の柱を手コキしてしまった。
宗介が喜ぶようにねっとりと擦り上げ、先端を絞るように親指でクリクリする――自分のとんでもない行動にかなめは気づき、慌ててパイプから右手を離す。
「千鳥、どうかしたのか?」
狼狽の気配を敏感に感じ取った宗介が、ふと眼を覚まし、かなめに小声で問いかける。
あんたのちんちんのこと考えてたら、うっかり机を手コキしちゃっただけよ――などと口が裂けても言えないかなめは、冷や汗を垂らし「いや、なんでもないわよ、あはははは」と空笑いをした。
*
千鳥かなめは夢を見る。
宗介と抱き合いたいのにそうできないジレンマから自慰に耽った彼女は、自慰と日頃の心労がたたり、気絶するように眠りに落ちた。
夢の中、かなめは掃除をしていた。
掃除と言っても、見知った自室や学校の教室ではない。いかにも中世ヨーロッパといった、古びたレンガ造りの一室だ。
床を箒で掃きつつ、かなめは大げさに振り仰ぐと、芝居がかった台詞を口ずさんだ。
「きっと今頃お姉さまがたは、あのお城でダンスパーティに興じてらっしゃるのだわ。それなのにあたしときたら、こんな薄汚れた格好で留守番を任せられて、ああ、あたしはなんてかわいそうな娘なんでしょう、ヨヨヨ……」
くすんだ紫のワンピースと、元は白かっただろう灰に汚れたエプロンを着込んだかなめ。
どこぞの某灰かぶり姫のごとく継母にいじめられる彼女は、当然舞踏会に着ていくようなドレスを所有していない――アワレ、かなめは家で留守番。ただ舞い上がる埃と日差しの陰影だけを戯れに、報われない日々を送る。
「ああ、かわいそうなカナメさん。よろしければこのわたくしが、あなたにお似合いのドレスと城までの馬車をご用意いたしましょう」
そんな彼女の前に現れたるは、黒いローブと尖がり帽といういかにもな格好をした銀髪の魔女。
銀髪の魔女にかなめは「あなたの名は?」と問いかけ、魔女は「テッサって呼んでください」と軽く答える。
テッサ曰く、自分はかなめの願いを叶えるためにここに馳せ参じたとのこと。そして彼女には、それをなしえるだけの神通力があるとのこと。
「では早速、某シンデレラのごとくカボチャやネズミを捕まえてきてください。それをわたしがチチンプイ♪して、あなたはなんやかんやでアマルガム城のレナード王子と結ばれるんです。そしてサガラさぁーんはわたしのものに――
きゃーっ、どうしましょう。よく考えてみたらカナメさんがアマルガムに捕まってるほうが、わたしにとってはアタックチャンスですぅ〜」
「ごめんテッサ。この家、カボチャがないみたい」
「なんですって!?」
不謹慎な桃色幻想に酔いしれるテッサの耳に届いた驚愕の事実。
物語の進行上、あるべきものがないというウィスパード夢空間で、テッサは狼狽し、珍しく語気を荒げた。
「そんなはずありません!なんですかカナメさん。もしかして夢の中でさえサガラさんを独占する気ですか?
いいじゃないですか夢の中でくらい。わたしだってサガラさんとあんなことやこんなことがしたいんです!舐めたり舐められたり、入れたり出したりしたいんです!
それなのに、どっかの誰かがサガラさんを『性豪おっぱい星人』にしてくれたせいで、エロパロ板でさえわたしの活躍がないんですよ!?
だいたい兄のことだってムゴすぎます。カナメさんがいっつもサガラさんとばっかりえっちするから、兄はついにアラストルとえっちしちゃったんですよ?酷い。キリスト教じゃなくても人道的に問題ありすぎます。でもわたしもサーガレストが欲しいですぅ。
だからせめて今回だけは、わたしはサガラさぁんと、カナメさんは兄と――そういうエロパロがあっても、たまにはいいじゃないですか……!」
泣きじゃくる般若の様相をていしたテッサ。小柄な彼女から尋常でないプレッシャーを感じつつも、かなめはなんとか反論する。
「い、言ってることよくがわかんないけど、ない物はないのよ」
テッサがかなめを睨みつける。品定めをするようにねめつけた末、彼女は大きな音で舌打ちをした。そして言う。
「もういいです……そこまでしらばっくれるのなら、そういうことにしておきましょう」
「いや、マジでないんだって」
「じゃあ、他になにかないんですか?カボチャじゃなくても丸い食べ物なら、強引にどうにかできるかもしれません」
「例えば?」
「そうですね――スイカ(西瓜)なんかありませんか?」
ちなみにカボチャは(南瓜)である。
「中世ヨーロッパの一般家庭には不似合いな代物ね……うん?ちょっとまって。たしか他の『瓜』ならあったかも」
かなめはそう言うと、部屋の奥へと引っ込んでいった。ガサゴソと物をあさる音が聞こえる。
テッサは考えた。他の瓜?一体なんだろう?そもそもスイカというのは果物と野菜、どちらに分類されるものなのか、などとどうでもいいことに心を巡らす。
*
オムニスフィアの深層に時勢の概念はなく、また、そこで手に入れた情報を現世に持ち帰ることも不可能である。
だから彼女は知らない。
TDDの艦長であるテレサ・テスタロッサは、彼女の親友であり恋敵でもある千鳥かなめが、いずれアマルガムに攫われる運命であると理解していない。
それにも関わらず彼女は呟く。
明け方近くに起きて、自分がどんな夢を見ていたかを理解するより早く、彼女は寝ぼけ眼でポツリと呟く。
「キュウリって……『胡瓜』って書くんですね」
夢の中でかなめが持ってきたのは、何故か彼女の手に馴染んで見えた、青々としたキュウリであった。
テッサは知る。キュウリの書き方を知って、天才を超えた天才である彼女は、また一つ賢くなる。
テッサは知らない。かなめが持ってきたキュウリの形が、宗介の股間のキュウリの形と、全く一緒であることを、彼女は知らない。
*
気がつけばかなめの股間には、穢れたバベルの塔が建築されていた。
朝起きて、かなめは股間の異変を認識する。
最初は何事かと思った。
股間が熱い。何か弾き出すような圧力を股間に感じる。パンツがきつく感じられ、自分は夜の間に太ってしまったのかと考えた。
異変を確認しようと布団の下――股間へと手を伸ばせば、熱く滾るソレへと指先を這わせてしまう。
なんだこれは。硬いようで柔い。一際熱く燃え立っていて、胸をざわつかせる形をしているのに、強く握ってみると、何故か酷く安心した――っていうか揉むときもちいい。
かなめは寝ぼけた頭でそう思い、自身に生えた新たな生殖器をシコりつつ、やっとこあることに気づく。
「これってソースケのだ」
ベッドの上。胡坐をかいて、尋常でない勢いで反り返った肉棒を、フリフリのついたお気に入りのショーツから取り出した。
男性器を宗介のモノしか見たことのないかなめであったが、宗介の性器をこれでもかと弄繰り回してきた彼女にとって、自身の股間に生えたソレを愛しの彼のモノであると認識するのは容易いことであった。
*
やめろ、千鳥、俺のペニスを引っ張るのはよ……た、大佐殿!!?
宗介は地獄のような夢を見た。
セーフハウスでいつものごとくチンコをシゴいていると、いきなりかなめが現れた。
「ち、千鳥……これは違うんだ!最近君と、その、性交に及んでいなかったため、どうしてもペニスが張ってしまって……このままでは君の望まない形で暴挙に及んでしまう危険性があったのだ。だから自分で処理を……うん?どうしたちどはぁうん!!」
宗介の弁明もなんのその、かなめはおもむろに勃起した彼のペニスを引っ掴むと「あった」と呟いた。そして引っ張られる。
なんだこの展開は?と宗介は狼狽したが、自分でシゴき、いきり立ったペニスをいきなりかなめに握られて、彼はかなり気持ちのいいことになってしまった。
かなめは宗介のペニスを握りつつセーフハウスの玄関へと向かう。
もしやこのまま野外露出プレイを……!?と最近仕入れたクルツ知識を呼び起こした宗介は、多少の好奇心を覚えつつも、持ち前の自制心から反論する。
「ち、千鳥!君がアブノーマルなプレイを好むと言うのなら、俺はそれに応える準備があるわけだが、こ、これはダメだ!
あまり認識していないかもしれないが、君は大勢の敵に狙われているのだぞ?それなのにこんな目立つことをしては――やめろ、千鳥!ドアを開けるんじゃない!」
かなめはそんな宗介の懇願に気づかないかのような足取りで玄関に至ると、左手でペニスを、右手でドアノブを握り、そのドアを開いてしまう。
するとそこから見えたのは、見慣れたアパートの廊下と町の風景ではなく、中世ヨーロッパを髣髴とさせる長閑な田園風景であった。
下半身丸裸で宗介は唖然とする。ここはどこだ?と思い――そういえば、なぜ彼女は紫のワンピースにエプロンという見慣れない格好をしているのだろう、と考えた。
そんな宗介をよそに、かなめは玄関近くにいた全身黒尽くめの人物に話しかける。
「テッサ、ほら、キュウリ持ってきたわよ」
「キュウリですか?」
「た、大佐殿!!?」
宗介は再び驚愕する。なぜこんなところに大佐が――彼女は今メリダ島にいるはずだ。
というか自分は、尊敬する大佐殿の前でなんというはしたない格好を……!
宗介はかなめの手をどけて、勃起したペニスを隠そうとしたが、なぜか彼女の手を、ペニスから放すことができなかった。
まるで岩で固められたかのように頑ななかなめの腕。
さっきからそうだ。なぜかこの空間では、こちらからかなめに干渉することができない。宗介はやっとのことでこの空間が、酷く非現実的な場所であると思い至る。
力どころか声すら彼女達には届かないのだろう――自分の存在を完全に無視した二人から、彼はそう結論付ける。
とりあえずことの成り行きを見守ることにした宗介の前で、彼の肉棒をキュウリと知覚する少女二人が、キュウリについて話し始める。
「知らないの?キュウリって胡散臭いとか、胡錦濤の胡と、瓜って書くのよ。あたしもついこの間知ったんだけどね」
「たとえが非常にアレですが勉強になりました……でも流石にキュウリから馬車を作ると言うのは――形状的にもう少し球体に近くないと」
言いつつテッサは、宗介のペニスの先端を指先で摘み、亀頭をこねる様にクリクリとしだした。
自分に思いを寄せる二人の少女に股間を弄られて堪りかねた宗介は「大佐殿……お、おやめ下さい」と言ったが、例のごとく二人の耳には届かない。
「仕方ないじゃない。これしかないんだからさ」
「中世ヨーロッパの一般家庭にキュウリしか野菜がないと言うのがいかにもご都合主義ですが、まぁいいでしょう――ただ本編の物語とは違う要素が入り込むだけに、どんなおかしなことがおこるかわかりません」
「ぅあっ……大佐殿、そこは拙い……で、出てしまいまぁっあっ……」
そんな宗介の呻きも、二人には届かない。
「なによ。驚かさないでよ」
「可能性の話です。キュウリよりもカボチャの方が、より確実に馬車を生成できるというだけです」
「ち、千鳥、そんなに擦ったら……ふっ……あまり顔を近づけるんじゃないぃあぅ……っ」
そんな宗介の呻きも、二人には届かない。
「とりあえずやってみればいいんじゃない?」
「いいんですか?本当に何が起こるかわかりませんよ?」
「大佐殿……そ、その穴は小便を出す穴です……あまり触ってはぅううぅ……千鳥、あまり手を上下に動かすんじゃない……っ!あっあっあっ」
二人は宗介のキュウリを吟味しながらそんな会話を続けた。
形はもとより硬さはどんなものか、匂いはどのようなものか。
四本の腕、二十本の指が隈なく宗介のキュウリを這いずり回る。
しなやかで清い指にこれでもかと愛撫されて、宗介の先端から我慢汁が溢れ出る。その汁が二人の指を汚す。
二人は話しつつ無造作に――特に意味はなく、ただの癖として自分の唇をその指で触れてしまう。
唇を我慢汁で濡らし、おもむろに舌なめずりをする二人を見て、宗介はもはや辛抱堪らんことになってしまう。
「いかん、いかんぞ千鳥!そんなものを舐めるんじゃない……大佐殿もいけません……!それは俺のふしだらな汁です」
と言ったところで、彼の声が二人に聞こえるはずもなく――二人の大きな瞳が彼のキュウリをガン見する。
愛撫と羞恥があいまって、宗介のキュウリはもはや暴発寸前になっていたが――今の位置関係で射精しては、二人の顔にぶっかけてしまう――それだけを心の支えに、彼はどうにか射精を我慢していた。
「成功するにしても失敗するにしても、やって見ないと話が転がらないわ。
言っとくけど、私はお城の中で一人メソメソしてるだけの精気の薄い被害者面のナル姫様ってのが大っ嫌いなの。
状況を好転させるのは、いつだって自分の行動よ。どうなったって構わないわ。早いとこキュウリに魔法をかけてちょうだい」
と言いつつかなめはテッサに宗介の肉棒を突き出した。
いきなり持ち上げられて、宗介は爪先立ちになる。勃起したちんこで体を支えるというしんどい姿勢だが、そこは夢の中。あいにく物理法則は不在である。
肉棒を突きつけられたテッサは、かなめの手に自身の手を重ねた。
「わかりました。ではカナメさんはこれからキュウリの馬車に乗って、レナード王子と結ばれる決心がついたということで――」
「ついてないわよ!ただここでキュウリ弄ってても仕方ないと思っただけだってば!」
「そうですか――だけど本当になにがおこるかわかりませんよ?何がおきても揺るがない自分でいられるよう、心の準備をしておいてください」
しつこいテッサにかなめは眉をひそめつつ「わかったわよ」と小さく言った。
テッサはかなめの承諾に頷くと、その場で膝立ちになった。そして顔を肉棒に寄せる。
吐息が亀頭の粘膜に染み込むような距離で、彼女は言う。
「ではこういった場合のお約束として、キュウリにお目覚めのキスを」
「……なんだと?」
宗介は愕然とする。
彼女はなんと言った?キュウリにお目覚めのキス?自分のような凡庸な脳ミソでは、ウィスパードの考えることは理解できない――というか彼女は、かなめの唇を性器に押し当てさせる気でいるのか?
愕然とする宗介を余所に、かなめは「魔法のキスってわけね。わかったわ」とその申し出を快諾してしまう。そんな彼女の顔を、宗介はエライ表情で凝視したが、例のごとく彼女に気づいた様子はない。
テッサに続いてかなめも膝立ちになる。宗介の股間に二人の顔が寄せられている。テッサとかなめの呼気が入り混じり、熟した肉棒を包み込んだ。彼はそれだけで達しそうになる。
汁滴らせるペニスを凝視しつつ、かなめは言う。
「ちょっとどいてよ。うまくキスできないじゃない」
テッサもまた肉棒に顔を寄せていたため、かなめは彼女を少々煩わしく感じた。
テッサは微笑みつつ、言う。
「いいえ、どきません。わたしもキスするんですから」
「なんでよ?」
「なぜ!?」
かなめと宗介は同時に疑問の声をあげる。
「さっきも言ったでしょう?たまにはわたしとサガラさんが、えっちなことをするエロパロがあってもいいじゃないですか。それなのにカナメさんにもキスさせてあげるのは、わたしなりのサービスです」
「なんの話?……なんか今日のあんたは、いつも以上にわけわからないわね」
「ミステリアスと言って下さい」
そんな二人を余所に宗介は全力で暴れた。
このままではいかん。清く正しい二人の唇を、自分のイチモツで穢すことなどあってはならない――特に大佐殿にキスされたとあっては、自分は中佐に、本当に魚雷と一緒に発射されてしまう――だがチンコが外れない。
外れないというより動かない。まるで肉棒だけが中空に固定されているようだった。
「では同時にキスしましょう。わたしがチチンプイプイ♪と言いますから、最後のプイ♪で同時にキスします。いいですね?」
「わかったわ……それにしてもセンスが古いわね」
「放っておいてください」
二人は照準を合わせるように、パンパンに膨れ上がった亀頭に唇を寄せた。
宗介はいよいよもって激しく暴れだしたが、まったくもって外れる様子がない。彼は恐怖と歓喜を同時に感じ、思わず涙目になってしまった。こんなことは戦場ですらなかった――テッサがカウントダウンを開始する。
「ではいきますよ。チチンプイ――」
「大佐殿!いけません!!唇はそういうことに使う器官では――」
「――プイ♪」
「はぅうっ!」
テッサの『プイ♪』とともに、二組のぷりぷりとした唇が、亀頭にむっちりと押し当てられた。
二人の美少女が亀頭にこれでもかと吸い付いている。黒髪と銀髪の間から見える自分のキュウリ――そこに吸い付く愛らしい唇、その光景に宗介の中で何かが吹っ切れた。
宗介は股間に吸い付く二人の頭を鷲掴むと、二人の唇で自分のペニスを挟み込んだ。そしてその間で破裂寸前のペニスを前後させる。
まるで二人の頭部を尻肉になぞらえ、唇の間にできた擬似女性器をバックで犯すような乱暴な腰振りだ――なぜ今まで彼女らに干渉できなかったのに、今更になって二人の頭を動かすことができるのか?――所詮は夢の中。細かいことを気にしてはいけない。
「むっ……あむぅ……なんか、こ、このキュウリ……変な味がする……ぅんむっ!」
下の唇では肉棒を腐るほど貪っても、上の唇ではまだ貪ったこのなかったかなめ。
かなめは初体験の味に戸惑ったが、それでも懸命に肉棒に喰らいついた――彼女は本能で理解する。これが愛する彼の性器であると、頭でなく子宮で理解した。
「変な味?……よく言ぃま、すね……んむ、い、いつも……ちゅむ……違うところであ、いっぱい、いっぱい……ぅん……味わってるく、くせに……ぁんむっ」
しょうもないことを言いつつ、テッサもまた、ねっとりと唇を蒸れた肉棒に押し当てる。
二組の唇が肉棒を食むように蠢く。唇の裏側の粘膜が性器の粘膜を這いずって、濡れそぼったそこが癒着しそうになる。
特に美味いものでもないのに、二人の唇から生唾が流れ出た。それと我慢汁が混じって、ジュパジュパと卑猥な音を立てる。その音が宗介の耳に届き、さらに股間の張りを大きくした。
彼は二人の頭髪をクシャクシャにしつつ小刻みに腰を揺する。
熟した竿が唇の間を忙しなく往復する。強く押し当てたせいで唇が上下に押し広げられ、時折前歯を歯磨きで磨くように、亀頭が押し当てられた。
「味どころか匂いも変」
「そうですか?わりと好ましい匂いだとわたしは思いますよ?」
「そう?なんか磯臭いっていうか、イカ臭くって……あんま好きにはなれないわね。なんかベタベタしてるし、舌にからみつくし」
「じゃあわたしにください。わたしならこのキュウリを四六時中、生涯ねぶり続けてもかまいません」
肉棒に唇どころか舌まで這わせつつ、二人の少女はそんな会話をする。
酷い物言いのかなめは、その言葉のとおり乱暴にペニスを舐った。噛み付くような勢いで食み、舌でベロンベロンと舐めたくる。好きじゃないと言いつつもしゃぶることを止めない彼女の姿は、日頃の天邪鬼な彼女の暗喩である。
それと対照的にテッサは、ペニスから甘い蜜でも染み出せているかのように蛭の如く吸い付いた。尿道口に唇を押し当て、その中を吸い出さんと欲するさまは卑猥の一言で、あの精錬な大佐が自身の性器にこれほど執心しているのだと思うと宗介はもう耐え切れなくなってしまった。
彼は、どうなっても知らん!と思った。
二人の美しいかんばせを精液で汚し、魚雷とともに海底に射出されたとしても、ソレが何だと言うのだろう?知らん。もうなにも知らん。
肌理の細かい肌。輝く瞳。長い睫。潤った唇――それらを自分の下卑た汁で汚すのは酷く躊躇われたが、もはや尿道を駆け上る射精感を諌めることは不可能になってしまった。
宗介は二人の唇で、自身の亀頭を強く挟み込むと、短く呻き、その場で射精した。
「きゃっ!」
半開きの口に勢いよく精液が流し込まれ、かなめは短く悲鳴を上げた。
彼の竿の中を熱い濁流が駆け上る。先端から異常に濃い精液が大量に流れ出る。
惚けたような二人の顔にドロドロと精液がねめつけられる。
彼女らの口の周りどころか髪の毛までグチャグチャにして、それでもなお、宗介の射精は終わらなかった。
「むっ……なんにょこれぇ……おいちくないぃ……ぁんむぅ、もう、このキュウリ腐ってるんじゃにゃいの?……まだドロドロが出てるち、口ん中いっぱい入っちゃったじゃない……ぁむ…歯に挟まる……ぁん……まじゅいいぃ……」
「く、腐ってなんかいません……むぅ……むしろ新鮮ですよ……だってこんなに元気いっぱい出してるじゃにゃいですか……むちゅ……おいしくないならわたしにください、じぇんぶ飲みましゅ……しゃがらさぁ〜ん、もっと出してくださ〜いぃ……ぅん」
口の中で精液をクチャクチャとさせつつ、ふたりはそんな会話をした。
その会話を聞きつつ、宗介の意識が遠のく。
圧倒的な射精感と自身の精液の感想を述べ合う二人を尻目に、宗介の思念は霞の向こうへと消え失せた。
*
朝起きて、宗介は股間の異変に気づく。
酷く気持ちが悪い。股間がなにやら粘液に濡れているようで、夜露のように冷たかった――稀にしか自慰を行わない宗介にとって、この感触は確かに覚えがあった。
夢精している。宗介は静かにそう悟ると、ベッドの下で溜息を吐く。
やってしまったと思い、また、どんな夢を見たのだろうと考えた。
とにかくエラくエロい夢だったのだろうと推察はつく。誰が相手でどのようなプレイに興じたのかは判然としないが、それは特に問題ではないだろう。
真に問題なのは、今の自分が、夢の中でことに及んでしまうほど切迫した情熱を持ち合わせていると言うことである.
交渉が必要だ。自身の精を受け止めてくれるコードネームエンジェルと、生物として繋がる機会を設けなければならない。でないと自分は、とんでもない暴挙に打って出てしまうかもしれない――彼はそう考える。
「今回は千鳥に洗ってもらうわけにはいかんな」
ベッドの下から抜け出つつ、宗介はポツリと呟く。
彼の洗濯物は、専らかなめが処理している。最初は彼女の親切心から始まり、今は彼女の独占欲を満たすための行動となった。そのことに彼は気がつかない。
宗介はベッドから抜け出すと、床に座り込み、おもむろにズボンの下へと手を差し入れた。
予想した感触がある。指先が不愉快な汁で濡れて、背筋に不快な汗が流れた。
「?」
予想した感触がない。
差し入れた指が、触れるであろう剛直を素通りし、そのまま恥骨へと至る。
寝起きで感覚が鈍っているのかと考えて、念入りに股間に指を這わせたが、触覚が伝えるのは結局、男性器の不在に相変わらず。
粘液に覆われながらも、随分とすっきりしてしまった自身の股間を指先で堪能した末、彼はやっと、味わいなれたあの感触を思い出した。
「千鳥の、か?」
宗介はそう呟くと、すばやくズボンを脱ぎ捨てた。そして下半身を凝視する。
全身を支える二脚は紛れもなく自分のものであったが、その付け根にはあるべきものがなかった。
あるべきものがなく、そこには見慣れた割れ目と見慣れた縮れ毛が鎮座していて――普段なら見ただけで達してしまいそうになるそれらなのに、達するための器官すら今、自分は持ち合わせていないのだと悟ると、彼はふと泣きたくなってしまう。