「千鳥は俺のヨメ」
「は?」
学校からのいつもの帰り道。
突然ぼそっと呟いた宗介の言葉に、かなめは一瞬頭が真っ白になった。
「えっ、そ、それ、、それって……」
「今日小野寺が『誰某は俺のヨメ〜』と叫んでいたので、気になって聞いてみたのだ。」
真っ赤になって聞き返そうとするかなめを無視して、宗介は淡々と話し始めた。
「『萌え』とか言う、ある種の愛情を抱いた異性へ自分の気持ちを表す言葉として
使うのだそうだ。」
「……ああ、そう。」
ぱしん!
理由を聞いてすっかりクールダウンしたかなめのハリセンが
抜く手も見せず一閃して宗介の横っ面を張り倒した。
「痛いじゃないか。」
「誤解を招くような事言うんじゃないわよっ!
ああ、もう、こんな戦争馬鹿に期待して馬鹿みたい……」
「むう。」
困ったような顔をして一言唸ると、むくりと起き上がって宗介は続けた。
「『萌え』と言うのはよくわからないが、俺にとって特別な感情を抱く異性として
千鳥の名を用いてみたのだが……君の気分を害する事になるとは思わなかった。」
宗介は気が付かなかったが、髪の間から覗くかなめの耳たぶの先が、
宗介の言葉を聴いて赤く染まっていた。
「……し、しょうがないから、ゆ、許してあげる。」
「そうか、ありがたい。今後はあのような事は言わないように気をつけよう。」
「た、たまになら……い、言ってもいい。」
「……? 言っても良いのか?」
かなめの心変わりの理由が解らずに、宗介は首をかしげた。
「ああ、もう、言っても良いって言ってるでしょ!
そ、そんなことより、今日も家で夕飯食べていきなさいよ。
今日は肉じゃが作ってあげるから。」
「む、それはありがたい。千鳥の肉じゃがは絶品だ。」
「じゃ、買い物に付き合ってよね。ほら。」
「うむ、了解した。」
かなめに手を取られながら、宗介は商店街へと歩き出した。
そんな平和なある日の夕方。