Plan 1211アラストルはアマルガムによって開発された最強の対人兵器である。  
 
基本構造は第三世代ASと変わり無いが、体長は2メートル強まで縮小されており、コートなどでカモフラージュすれば人混みに紛れ、連れ立って歩くことも可能である。  
その上動きは俊敏で、装甲は頑健。大口径の機銃を搭載しており、歩兵による撃退は困難を極める。  
ある意味ではLD搭載型ASよりも、注意するべき代物であった。  
 
そしてこのアラストルをもとにして新たなASの開発がニケーロの邸宅の地下で、銀髪のウィスパード──レナード・テスタロッサ個人によって進められていた。  
 
彼の計画の「かなめ」となる人物を捕えてから、彼の日常は苛烈を極めた。  
 
ある日は北へ、ある日は南へ駆け回り、ウィスパードの能力を活用することもあれば、自分の四倍は生きている爺さんと政治的駆け引きを展開する。  
西に苦戦する部隊があれば自ら指揮をとり、東に凄腕のAS乗りが入れば、自らASに乗り込み敵を粉砕した。  
 
そんな毎日の暇を見つけては、設計図に眼を通し、キーボードを叩く。自ら工具を取り、着服した部品を組み立てる。  
なにぶんこれは極秘に進められていたため、手助けする人はほとんどいなかった。  
 
ただ一人側近のサビーナだけには、計画のことは説明せずに協力を仰いだが、それも「局部の型取り」だけである。  
それ以外は全て自分でやった。スパナを握り、頬をオイルで濡らすのは久々のことだった。  
 
かなめを捕らえて二ヶ月がたったころ、やっとのことでそれは完成した。  
 
「やったぞ」  
 
彼は一言だけそう言うと、疲労のあまりその場に倒れこみ、横たわるASを枕に眠ってしまった。  
 
彼は後に、かなめの心を捕らえて離さない、薄汚い傭兵にこう語っている。  
 
「最後に言っておく。俺は全世界を敵に回してでも、自分の目的を完遂するぞ」  
 
*  
 
次の日の朝、彼は眼を覚ますと、目の前に横たわる「彼女」を見て、短い悲鳴を上げた。  
 
なぜだ?なぜ彼女が……カナメ・チドリがここにいる?……しかも下着姿で。  
 
と混乱し、ほどなくこの「AS」は自分が作ったのだと思いいたる。  
そう、彼がここ数ヶ月、寝食を忘れて製作していたのは、彼が愛する千鳥かなめ嬢そっくりのASであった。  
 
年頃の少年の性欲は恐ろしい。彼女を欲しいままにしたいのに、そう出来ないジレンマが、彼をこんな暴挙に走らせたのだった。  
 
*  
 
十歳の誕生日にレナード・テスタロッサは、世界は自分の物だと悟った。  
 
自分が本気で望めば、どんな物でも手に入った。  
十代にしてアマルガムのトップに立ち、類い稀なる美貌で、幾多の女に股を開かせた。  
美女も醜女もいたが、どちらも自分に媚びいる態度は同じで、特別記憶に残るような女はいなかった。  
 
金が欲しい、と思う必要のないほどの金を手に入れて、こんな紙切れに命を賭ける連中を、秘かに心の中で馬鹿にした。  
馬鹿にするのに飽きると、そんな連中の存在すら忘れた。  
 
ある日ふと周りを見回すと、眼に移る人間全てが、紐で吊された肉のマリオネットに見えた。  
レナードは自分の手に、その紐の一端が握られていることに気付くと、自分は神だと悟った。  
 
そんな彼の前に、唯一思うままにならない存在が現れた。  
ヨブこと、千鳥かなめ。  
ただウィスパードであるというだけで、他には雨が似合うことくらいしか取り得のない、ただの女だ。  
 
美しい女だと思った。だが幾多の女を抱いてきた彼にとって、それは宝石の輝きの一種に過ぎず、ここまで恋い焦がれる理由にはならない。  
 
強い女だと思った。そう思って唇を奪うと、儚いくらいの力で頬を叩かれた。  
痣どころか痛みすら雨に流されるような、非力な張り手にも関わらず、今も雨が降ると、火が点いたようにジンジンと痛む。  
 
頬に宿った炎が胸を焦がし、ある朝眼を覚ますと、股間が熱く燃え立っていることに気付いた。  
 
彼女の名前を小声で呼びながら、張り詰めた物をしごく。が、それでは逝けなくなってしまった自分に気付く。  
これが本物の恋かと頭でなく股間で理解した。  
よりにもよってこんな扱いにくい女に惚れるとは──と自嘲気味に笑い、だからこそ惚れたのだと納得した。  
 
この日からレナードは、ありあまる知識とありあまる性欲を糧に、前記したような暴挙に打って出たのである。  
 
*  
 
「僕は今日休みをとる。サビーナ、後のことは頼んだよ」  
 
『お任せください』  
 
地下室に備え付けた内線で、自分が今日休暇をとる旨を伝えるなりレナードは、汚れた作業着を素早く脱ぎ捨て、作業台に横たわる彼女におもむろに抱きついた。  
 
鼻息荒く彼女の小さな肩を抱きしめ、我慢ならんといった様子でカクカクと腰を振る。  
 
彼女の艶やかな黒髪に顔を埋め思いっきり息を吸うと、胸の中がそれだけで満たされて、張り詰めた先端から多量の我慢汁を滴らせてしまう。  
 
なだらかな背中。吸い付くような肌。柔らかい尻肉に指を埋めてみると、予想以上の甘美な感触に心の底から驚く。  
 
なんという肉体だ。素晴らしい。完璧なる美と官能とはこういうものか──とレナードは思い、ここにいたるまでの制作過程を回想した。  
 
*  
 
彼女を邸宅に迎えた際に行った健康診断のデータをもとに、素体となるアラストルの手足を切り詰め、ある程度の形を整える。  
パラジウムリアクターを最新式の小型のものに換え、各間接のモーターも貧弱だが小型のものに換える。  
 
彼女に出来る限り体に密着した服を買い与え、彼女の部屋の前にばれないように設置した、ラムダドライバの容器を成形する際に使われる高性能のセンサー測量機で、各部をミリ単位で密かに計測。  
 
その数値をASのマッスルパッケージの耐久力を算出するプログラムをアレンジしたものに代入し、各部の肉の弾性を予想する。  
 
その予想をもとに樹脂の配合や固める時間を調整し、リアルな感触を実現。  
 
その樹脂を人体の形に成形し、アラストルに丁寧に張り付ける。  
 
樹脂の下に電熱線を通し36度2分の温もりを与え、彼女の下着から採取した匂い成分を元に配合した香料を、丹念に肌に擦り込む。  
 
擦り込む際に、しこたま彼女の胸を揉んだのだが、彼は一切の性的興奮を覚えなかった。  
黒田清輝の裸婦像を見て勃起する奴がいるか?  
モナリザの手を見て勃起する奴がいるか?──彼の精神はその時既に、芸術家の域に達していたのである。  
 
まるでミロのビーナスの肌を研磨するように、彼の心はこの上ない崇高な満足感に満たされた──だのに今、目の前の双球を見つめる彼の瞳には、理性を焼き尽くすほどの劣情の炎が赤々と燃え立っている。  
 
「…んぁ……れぇなーど……ぁあ!」  
 
ブラジャーの下に手を差し入れ彼女の乳房を愛撫するする。彼女の人口声帯が震え、気持ちよさそうな喘ぎ声をあげる。  
そして自身の声を恥じるように、両手で顔を覆い、イヤイヤと身を捩る。  
 
ただのダッチワイフではない。これもまた天才中の天才、レナード・テスタロッサのアートであり、戦闘力はなくともベッドの上でネコを演じるには充分な能力を有していたのだった。  
 
「はっ…はぁ……カナメ…」  
 
と自身のアートに呼び掛けるレナード。  
両手で豊かなシリコンを揉み、よりこだわりをもって成型した唇に舌を這わせ、息つぐ度に「カナメ」と呟く。  
 
超小型のマッスルパッケージの唇を抉じ開けて、水と電解質を混合した、擬似唾液で濡れた電磁筋肉の舌に自身の舌を絡み付ける。  
 
もっともっとと深く舌を差し入れ、彼女の歯科記録から作ったセラミック性の歯をしごくように舐めあげると、なぜか酷く甘く感じられて頭がどうにかなりそうだ。  
 
プログラムの通りに彼の頬に手を添えて、口腔内を貪り返す彼女が、結局のところ合金とシリコンの塊であるとわかっているはずなのに、何故これほど愛しいと感じるのか。  
 
自身が常軌を逸した変態であることは理解しているはずなのに、腰回りの柔らかく、熱い樹脂に肉棒を押し当てるだけで、果ててしまいそうになる自分に困惑する。  
 
もっと長く楽しむために我慢しようと──こいつは機械だ──と念じるのに、まったくもって効果が無い。  
 
何故だろうかと思いながら唇を離し、彼女の顔を見下ろすと、あどけない物欲しげな表情が視界に入り──その時不意に気付いた。  
 
彼女は僕の娘なんだ。  
 
彼女はレナードが全身全霊を賭けて作り上げた最高傑作である。そして、人間に最も近いASでもある。  
自身の作品を我が子のように感じる一流技術者の感覚と、目の前で行われるあまりに人間らしい仕草が彼の父性を刺激して、彼は自分の娘を犯しているような感覚に捕われた。  
 
「カナメ」  
 
と呟いてみると、目の前のカナメそっくりの娘がコクりと頷く。  
その瞬間、彼の天才的な頭脳が一瞬にしてとある物語を作り出した──。  
 
僕とカナメ、母親似の美しい娘の三人家族  
↓  
ミスリルの残党に襲われる僕ら  
↓  
ソ「千鳥は俺のものだ!」  
↓  
追い詰められる僕  
↓  
カ「あなた!危なーい!」↓  
カナメ爆死  
↓  
ベリアルで残党を粉砕  
↓  
レ「ミスリルを壊滅させたところで僕のカナメは、もう……」  
↓  
娘「お父さん元気出して……あたしがお母さんの代わりになってあげるから……」←今ここ  
 
「カナメぇ……ふっ……くぅっ……」  
 
レナードは泣いた。何故泣いているのか自分でもよくわからない。  
 
カナメの死を悲しんで泣いたのか、娘の慈愛に感動して泣いたのか、自分の娘を犯す浅ましさに泣いたのか──それとも妄想と現実のあまりの落差に泣いたのか──なにもかもわからなくなって、レナードは泣きながら彼女の乳を揉みしだく。  
 
「あっやぁ……れぇなぁあん…どぉ……ぁ!」  
 
短く叫んだ彼女の肢体が、背を仰け反らせて僅かに痙攣した。  
豊かな乳房が更に張り出す。強く掌に柔肉が押し当てられ、指の間から卑猥にはみ出る。まるで両手が彼女の乳房に飲み込まれるような感触を覚え、彼は慌てて手を離した。  
 
離れた両手が下に下がり、ショーツのシミに触れる。  
ショーツの中に手を入れて、悪魔の唇のような割れ目にそって指を這わせると、にちゃにちゃと淫らな音がなって、レナードに彼女が達したことを伝えた。  
 
彼女の身体を辿るようにして下に移動し、彼女の濡れた秘部に顔を寄せる。  
恥ずかし気に股を閉じようとする脚を無理矢理開かせる。それと同時にショーツを素早く抜き取ると、夢に見た彼女の性器がそこにあって、見ただけで射精してしまいそうになった。  
 
いや違う。これは僕の娘の性器だ……。  
 
と二重三重に勘違いしたことを思いながら、目の前の秘裂を観察する。  
 
「……あんまり見るんじゃないわよ」  
 
という恥じらいの声を聞きながら──形がサビーナのと似ているな──と彼は思った。  
 
陰毛は彼女よりも濃く、色も違う。  
しかし秘裂の色合いといい付き方といい、まるでサビーナと瓜二つである。鼻を突く潮風の匂いまで似ている。  
 
盛りの大きな土手に舌の根元を這わせ、先端でブドウの皮を剥くように、彼女の好きな部分を執拗に攻め立てる。  
味までサビーナに似ているじゃないか──吸うようにして皮を剥くと、その下から現れた真珠の大きさまでも彼女そっくりで、まるでサビーナを相手しているような気分になる───が、それも当然のこと。  
 
なんせサビーナの性器をもとに、このオナホを作ったのだから。  
 
外見状のデータだけでは、流石に性器の形状はわからない──だが、あの彼女なら実に素晴らしい名器を持っているだろう──と考えたレナードの女性経験の中で、最も良い性器を持っていたのがサビーナだった。  
 
しゃぶるようであり絞るようであり噛み付くようである。  
時に痛みさえ覚えるような膣圧と、濡れた和紙のように絡み付く柔らかく、熱く、大きなヒダヒダ。  
なんど抱いても慣れない。  
もう幾度となく彼女と肌を重ねているはずなのに彼は、毎度、童貞のように素早く果ててしまうのだった。  
 
だから頼んだ。性器の型をとらせてくれと頼んだ。  
頼んだと言っても、彼女のレナードへの崇拝っぷりは部下の中でもトップであったため、実質命令したのとかわらない。  
 
「わかりました」  
 
と二つ返事した彼女のズボンをショーツごと脱がし、あえて上着を着たままで型取りした。彼の趣味だ。  
 
シリコンゴムを剥がしやすいよう、あらかじめ性器に離型剤を塗るのだが、奥の方を塗るために挿入した指に反応して、声を押し殺して涙目で喘ぐ彼女が可愛くて、二回いたしてしまった──ということをこの時、妄想に浮かされた彼は完璧に忘れていたのである。  
 
妄想の海に沈んでいたレナードはパニックに陥った。  
 
なぜだ。なぜサビーナに似ている?  
 
という疑問が頭の中をぐるぐるまわるのに──サビーナ似の外見なら、きっと中身も似ているだろう──という期待で股間がこれ以上ないくらいに熱くなる。  
その時彼の耳に、  
 
「も…もぅいぃわよ……きて……」  
 
という艶っぽい声が届いて、彼の中で何かの針が振り切れた。  
 
中空を泳ぐ彼女の両手に掌を重ねて、上半身をベッドに強く縫い付ける。  
無造作に開かれた股の間に腰を落とし、自身の先端をサビーナ似のそれに押し当てる。  
濡れた秘裂にたぎる剛直を挿し入れようとして、両手がふさがったままでは上手く照準があわないことに気付く。  
 
縫い付けていた両手を解放し、生の先端を柔肉に僅かに埋める。  
待ち焦がれたといった様子で身悶える彼女の唇を、再び唇でふさいで、舌の動きだけで「愛してるよ」と呟き、そのことを証明するように奥へ奥へと腰を進ませた。  
 
彼自身から出た粘液と独自開発のローションが混ざりあって、酷くみっともない音が上がる。  
 
「あっはっ、気持ち良い、カナメ、気持ち良いよ」  
 
「そ、そういうこといぃわ……ないで…ぁっああ!いぃやぁ!んぁ!」  
 
赤い顔をして涙と唾液でグシャグシャになりながら身悶える彼女を見下ろして、レナードは天に祝福されたような気分になった。  
 
素晴らしい。こんな完璧な性器が他にあるだろうか。この性器に一度踏み込めば、どんな聖人君子でも性の虜になるだろう──とサビーナのことをガン無視して考える。  
 
まるで蛇壺だ。  
 
牙を抜かれ鱗も剥がされ、もはやどちらが頭かさえはっきりとしなくなった、盲目の蛇。  
その蛇が油に濡れて、壺の中いっぱいにひしめきあっている。  
何匹も何匹も。大小様々な蛇が互いに絡み合い、歯の無い口で噛み付き合う。  
 
すぼまった壺の口から入り込んだ侵入者に、闘争心だけを武器に絡み付き、精一杯の力で絞り上げる。  
ただぬめるだけの口で蛭のように吸い付き、文字通り張り詰めた精を吸い付くそうと、身を硬くさせる──まるで毒壺だ。  
先端の粘膜から染み入った毒薬が、脳を焼き、腰を振る以外の行為を彼に許さない。  
 
「はぁ…ぃやぁぁあぁん、ぁあ!んぁ!れ、れなぁーどの、ぉ、大きいよぉ……ぁあ!」  
 
実はそんな大きくもない。そう言うように設定したのだ。  
 
「はぁ、はっ!……カナメ……君のが狭いんだよ……ん!」  
 
そう言って、抜けるか抜けないかのとこまで自身を引き抜く。  
カリ首が出口に引っ掛かり、彼女のいやらしい肉を引っ張っている。まるでタコのように亀頭に吸い付き、是が非でも離さん、といった風情だ。  
 
レナードは抜けるギリギリまで腰を突き上げると、落下するように一気に腰を突き入れた。  
 
「ひぃきゃあああぁああ!!」  
 
甲高い嬌声が上がる。  
狭まっていた肉が乱暴に押し広げられる。  
まるで熱したナイフをバターに刺すように性器を突き刺し、ナイフの熱によって油が溶けだすように、愛液とローションが傷口から滴る。  
 
彼女の薄い腹に手を置いて、やわやわと撫でてみると、彼女の中心で自身の欲望が暴れているのが、文字通り手に取るようにわかった。  
そのことに興奮し、一心不乱に腰を振る。まるでそういう機械になったかのように、その他一切を排して腰を振る。  
 
「ああ!あっ!いやぁあああ!!れぇなぁーど!こ、壊れちゃうぁやああああ!!!」  
 
涙や唾液や鼻水、あらゆる汁で顔を汚して、赤子のように泣き叫ぶ。  
普段の彼女からは想像できないような痴態だ──と考え、普段の彼女とは一体なんだ?と彼は疑問に思った。  
 
そもそも目の前にいるのは誰だ。  
 
「カナメ」  
 
と呼び掛けてみると、  
 
「レぇナードぉ……やぁあぁ!!」  
 
と呼び返された。  
しかし彼女はカナメではなく、自分の娘であるはずだ。  
 
そして彼女の中心はサビーナのように、天女の柔肉に突き入れたかの如き気持ち良さを誇っている。  
彼は密かに「アヴァロン」と呼んでいる──サビーナの中に突き入れる度、自分の三本目の足は、一足早くアヴァロンの大地を踏みしめるのだ。  
 
造られたアヴァロンに自身の劣情を叩きつけながら、レナードは目の前の謎の女に問い掛けた。  
 
「……君は、誰だい?」  
 
「な、何を言って……ん、やぁ!」  
 
彼女が口を開く間も、絶えず突き上げる。  
より一層深く突き入れようと、背中に手を回して、腰を持ち上げる。その瞬間接合部から愛液がはねて、彼女の顔に降り掛かった。  
 
「聞いているんだ」  
 
「ん!……ち、千鳥、か、あっ!……かなめよぉ……きゃっ!」  
 
「嘘つきは嫌いだよ」  
 
不意にわかってしまった。配水管の詰まりがとれるように、全てのことが急激に腑に落ちてしまう。  
 
疑問も何もない。自分は邸宅の地下室で、カナメそっくりのダッチワイフを作り、それに嬉しそうに腰を振っている。ただそれだけだ。  
 
彼女の背中に手を回したとき、気付いてしまった。  
より一層の快楽を得ようと、腰を持ち上げたときに感じた違和感。  
絶えず仰向けのまま使用されたため、臀部の上にある、膣圧を制御するモーターの熱を逃がすことができず、異常な熱を発してしまった。  
普通なら大したことはない。熱を持つといっても他より3℃高い程度で、それほど気にする必要はない──しかし、この危ういところで保たれていた空想と現実のバランスを崩すには、この程度の違和感でも十分すぎて──レナードは再び泣いた。  
 
「うわああああああああああああああ!!!!!!」  
 
雄叫び。そして射殺さんばかりの、激し過ぎる腰振り。  
あまりに激しくて、自分の股間が痛い。だがそんなことはどうでもいい。  
 
「いやぁあああ!!やめて、ぃや!ぁあんあ!い、痛い!んぁ!さ、裂けちゃうよぉ……やぁあぁ!!」  
 
「裂けるものか!この僕が造ったんだ……耐久力は折り紙つきだよ!!」  
 
両足を抱いて更に密着を強める。あまりに速いピストン運動のため、摩擦熱が発生し、それを冷却するためにおびただしい量の擬似愛液が溢れだす。  
二人の接合部から湧水のように愛液が溢れて、二人の全身をあっという間にぐしょぐしょにする。  
 
「ぁあん……こ、こんなにいっぱぁい…出ちゃって……や!んん……!」  
 
まるでローションプレイだ。  
濡れた両手で彼女の両乳を揉んだ。擬似愛液を馴染ますように丹念に、それでいて思いのまま乱暴に揉みしだく。  
 
シリコンと生理食塩水の袋だと、今は正しく理解しているはずなのに、なぜこんなに気持ちが良いんだ?  
ラムダドライバに精通した個体であるレナードは、流体に対する知識が飛び抜けていた。そのせいもあって、乳房の再現度は各パーツの中でもダントツで高かったのである。  
 
「カナメ」  
 
レナードはその乳房の間に顔をはさみ、くぐもった声でそう言った。  
 
その声と動きに反応し、彼女の両手が、自身の乳房のわきへとよる。そして彼の顔を乳房でサンドイッチしたまま、圧迫しはじめた。  
これも最初から設定しておいた動きである。  
 
憧れだった。沖縄の学校に通っていたときに読んだ「ドラゴンボール」。  
その中の亀仙人というキャラクターがこれと同じことをされていた。確か「パフパフ」と言ったか──ずっと夢だった。  
 
 
だからだろう。貧乳の女も巨乳の女も抱いた。誰彼かまわずキスもした。しかしパフパフはできなかった。  
パフパフは本当に自分を愛してくれる女にしてもらうと決めていた──なのに、今日レナードは、パフパフ童貞を失ってしまった──いや、これはダッチワイフだからノーカウントか?  
 
……だかどうしようもなく気持ちが良い。  
 
擬似とは言えアヴァロンだ。  
 
完璧な乳だ。この乳を持っているからカナメ・チドリに惚れたのではないか?と問われれば、真っ向から否定することはできない。  
 
完璧な膣だ。この膣を持っているからサビーナ・レフニオをそばに置いているのではないか?と問われれば、真っ向から否定することはできない。  
 
これ以上は耐えられない。  
今僕は、ダッチワイフ童貞を卒業する。  
 
と決心し、顔を胸の谷間から外す。スパートをかけようと、抜けるギリギリまで腰を引いた瞬間──目の前の彼女が消し飛んだ。  
 
生命の危機。人知を超えた集中力──時間の流れが緩慢になる。世界がスローモーションに見える。  
 
見えないはずの物が見える。向かって右側から高速で殺到する、黒く鋭利なつぶて。それが目の前の彼女の頭に着弾する。そして粉砕。  
 
これはなんだ?と思って緩やかな世界の中、目を凝らしてみると──それは先端の尖ったゴツいガトリング砲弾であった。  
それと同じ物が目の前の彼女を削り取っていく。  
 
レナードは絶望した。  
 
*  
 
総計1200発。アラストルさえ跡形もなく粉砕する金属砲弾の雨にさらされて、レナードは偶然にも、いや必然にも無傷で生き残っていた。  
 
アラストルだけでなく、彼がのっていた作業台まで木っ端微塵に吹き飛んで、その残骸の上に力なくヘタリこむ。  
 
全裸で茫然自失となった彼の耳に、ドゥルルンドゥルルンという不吉な回転音がとどく。緩慢な動きで音のしたほうを見やる。  
 
狭い地下室に立ちこめる砂埃。反響する回転音。鼻をつく硝煙の臭い。  
砂埃の合間から現われたのは、見慣れた人影で。  
 
「レナード様、お怪我はありませんか?」  
 
部屋の出入口には、携行型の大型ガトリング砲を小脇に抱えたスーツ姿のサビーナが、何食わぬ顔で立っていた。  
未だ回転し続ける砲身と、そこから吐き出される煙を見れば、彼女がアラストルを粉砕したのは明らかである。  
 
意味がわからない。なぜこんなことを?そもそもなぜ彼女はここに?  
 
という疑問が頭の中をぐるぐる回る。如何にウィスパードと言えど、今の状況はさっぱり理解できなかった。  
 
サビーナは150キロ近くあるガトリング砲を、よっこいせ、と床に置くと、レナードに向かって歩きだした。  
 
歩きながらスーツを脱ぎワイシャツ姿になる。ズボンのチャックを下げ、無愛想だが上品なショーツが露になる。  
ズボンとショーツを一緒に掴み、一気に下まで引き下げると、産毛のように細いブラウンの陰毛が露になった。  
くるぶしに引っ掛かったズボンとともに靴を脱ぐと、近くにあった椅子に脱いだ物を掛ける。そしてそのまま歩きだす。  
 
未だ状況を理解できないレナードの前に、上はワイシャツと赤いネクタイ、下は黒い靴下を除いて丸裸というあんまりな格好のサビーナが、仁王立ちで立ちはだかる。  
蒸れた陰毛が彼の鼻先で揺れる。  
 
「失礼いたします」  
 
サビーナはそう言うと、呆然とした彼の口にいきなり指を突っ込み、自身の指を唾液で濡らした。  
そしてその濡れた指で、自分の性器をちゅくちゅくと刺激しはじめる。何食わぬ顔で。さも当然と言った動きで。  
 
いつも通りの無愛想な顔で──しかし、彼の唾液が自身の敏感な部分に触れている。それだけで身体の芯がむず痒くなって、時折眉根を寄せてしまう。  
 
ポカンと開いたレナードの口とサビーナの性器を、彼女の指が無造作に往復する。  
 
最初は股間を撫でるようであった彼女の指が、次第に指先を細めて、自分の体内へと侵入しはじめる。  
再奥からにじみ出た汁でベトベトになった指を、レナードの口に入れ、唾液を掬い取ると、それを下の唇で飲み込むようにして、体内へと指を押し込む。  
もう片方の手もレナードの口に入れ、指先を濡らす。その濡れた指で自らの芯を剥き、彼の唾液を馴染ませるように柔らかく擦り始めた。  
 
「……ぅん!」  
 
短くサビーナの身体が痙攣し、仁王立ちしていた内股をやや粘性を帯びた汁が一筋流れ落ちる。  
尿意に似た快感によってやや内股になった膝の頭から、その淫靡な汁が伝い落ちて、努張した彼の性器に滴る。  
敏感な先端で汁が弾け、ポカンとした彼をよそに下半身がビクンッ!とざわめいた。  
 
「申し訳ありません。汚してしまいました」  
 
と言って彼女は、胸ポケットからハンカチを取り出して、銀食器を磨くような手付きで彼の顔を拭った。  
 
「綺麗になりましたね」  
 
互いの体液で汚れたハンカチを丁寧に畳むと、胸ポケットにしまい込む。  
その一連の動きを見ても、彼女が一体なにをしたいのか──当のレナードにはさっぱり理解できない。  
どうにか自分を取り戻しだした彼は、やっとその疑問を口にしたのに、  
 
「サビーナ……君は一体なにを──」  
 
「では、失礼いたします」  
 
という彼女の一言で遮られてしまった。  
 
レナードの肩にサビーナの左手が乗る。  
右手が彼の下半身に伸びて、張り詰めたモノを握り締めたかと思うと、彼女の真のアヴァロンにあっという間に飲み込まれてしまった。  
 
「ぅっあぁああぁあ……!」  
 
「レナード様、気持ち良いですか?」  
 
人工的に作られたシリコンの塊とは違う。本物の人間の熱と柔肉に包まれて、レナードは急速に追い詰められていく。  
彼女の両手が肩に回って、彼の銀髪を抱き締める。それと同時に下半身の充血した柔肉が、彼の芯を抱き締めた。  
 
まるで無数のサビーナに抱かれたような感触が、レナードの股間を襲う。  
彼女の大切な部分には、汗で濡れたサビーナが裸でひしめき合っていて、破裂寸前の雄が侵入してくるのを待ち構えていたのではないかと思った。  
 
擦れ合う女性特有の柔らかな肉体と肉体。サビーナとサビーナが裸のままで抱き合って、レズビアンのように互いの身体を貪りあう。食うような勢いで互いの身体を舐め合って、器用な指が敏感な部分をねっとりと刺激する。  
 
汗と唾液、下半身から滴るいやらしい汁に濡れ、顔を上気させ喘ぐ彼女らの間に、自分の雄臭い性器が割り行って──その自身の身の丈はあろうかという巨大な性器に、サビーナ達が蒸れた身体を擦り付けているような──そんな感覚が彼を襲った。  
 
レナードの腰の上で、よっこいせよっこいせと、腰を揺するサビーナ。  
特に技術があるわけではない。ただひたすらに、性器が素晴らしいのだ。  
彼女の引き締まった尻肉が彼の膝に当たり、ぴたんぴたんと情けない音を上げる。  
 
「ひっひっひぃ……うっあ!あ!ああ!あっ!」  
 
「れ、レナード…さま……ぅん…かわいぃです……」  
 
まだ五往復しかしていないにも関わらず、レナードはもはや堪らんことになってしまった。  
 
剛直がサビーナの蜜壺から抜けそうになる度に、小さなサビーナが「抜いちゃダメ」と言うように、カリ首に腕を回して抱きつき、絶対に離すまいとするのだ。  
裏筋を両手でギュッと掴み、カリに歯をたてる。痛いくらいに締まる。  
 
実際に彼の顔に押しつけられた彼女の、みずみずしい果実のような乳房と、腹の中で剛直を抱き締める、彼女らの肉体が重なる。  
 
煮えたぎる竿に彼女の乳房や、引き締まっているが華奢な腹、股間の土手と陰毛が擦れる。  
それが気持ち良いというように膣全体が実際に蠢いて、彼自身を更に追い詰めていく。  
 
「ぅん……先ほどお借りした唾液……お返ししますね?」  
 
サビーナが激しく彼の唇を吸う。  
 
相手の唇を引きちぎらんばかりの強烈な吸いつきと、犬のような乱暴な舐め方。  
顔の下半分をあっという間に唾液で汚す。激しく顔を動かしたので、眼鏡が少しズレた。だがそんなことはどうでもいい。  
唇の間に彼女の舌が割り入って、唾液を彼の口内に流し込んだ。唇の端から互いの交ざり合った液が流れ落ちる。  
 
その滴った唾液を舐めとるようにサビーナの頭が移動し、それにつられて腰がストンと落ちた。  
ズルゥ……と根元まで飲み込まれて、剛直の四方をサビーナに囲まる。彼女らはニヤリと笑うと、剛直に股間を擦り付けて自慰をし始めた。  
ポールダンスをのように足を絡ませ、腰を上下させる。慈しむように白い頬を擦り付けたかと思えば、実際に彼女がしたように犬のように舐め始めた。  
 
幻聴が聞こえる。  
肉棒に絡み付いたサビーナ達が、口々に何かを囁いている。  
 
「大好き」  
 
「はなさない」  
 
「ずっと一緒にいて」  
 
目の前の彼女は何も言わない。ただひたすら息を荒げ、不器用に腰を振っている。  
彼女のこんな言葉は聞いたことがないし、彼女の性格と立場を考えれば言うはずも無い──これはきっと自分の思い上がりが生んだ幻だろう、とレナードは考えた。  
 
「ぁ…ああ!ぅっ……ふっ…あああぁぁ!」  
 
「ぁあ…!ぅん!……またお口が…汚れてしまいましたね……んぁ!」  
 
膣内の柔肉が無数の手や足、舌のように絡み付き、発射寸前の肉棒をしごきあげる。  
腰を僅かに回すだけでジュルリジュルリ……と淫靡な音がたち、涎のように接合部から愛液を滴らせた。  
 
サビーナの腹の中の彼女らの腰が激しく、淫らに動き、我彼を追い詰めていく。  
やがて愛液に濡れた小人達が絶頂に達する。腰を小刻みに痙攣させ、目の前の巨大な肉棒を力一杯抱き締め、柔らかな、それでいて引き締まった肉体をこれでもかと押しつける。  
急激な膣の収縮。柔肉がやわやわとほぐれ、それでいて万力のように肉棒を締めあげた。  
愛液が大量に溢れて、彼の玉の底から精が湧き上がり──先端から濃厚な種を吐き出してしまう。  
 
「うっあ……ぅう、あ、さ、サビーナ……あぁあぁぁ!!」  
 
「ひゃぁ……ん!…れぇ、レナードさ、ま……やぁぁぁぁ……」  
 
腹の中のではサビーナ達が白濁液にまみれ、歓喜のダンスを踊っている。膣壁がやわやわと蠢き、最後の一滴まで残さず搾り取ろうとする。  
小さなサビーナが互いに手を繋ぎ、マイムマイムを踊りだす。締め付けが緩んだかと思えば、再びすぼまって、硬く勃起した乳首を肉棒に擦り付ける。  
亀頭の先がパクパクと開き、ダラリと精液が溢れ出る。  
その汁を彼女ら総出で、犬がミルクを飲むような形で舐めとりはじめる。それに刺激されてまた出る。それを飲み干す。出る。飲み干す。その繰り返しが三分ほど続く。  
 
レナードの銀髪が過労で更に白くなった頃になって、サビーナは、  
 
「大量に出ました。健康状態は良好です」  
 
と言って腰を浮かした。  
 
引き抜かれる肉棒に追いすがるように、小さいサビーナ達がカリ首に手を掛ける。それを無視してチュポンと引き抜くと、それに刺激されてまたしてもダラリと精液が溢れ出た。  
 
それを見た彼女は彼の前に、ぺたんと女の子座りをすると、彼の元気が無くなりかけたモノを口に含んだ。  
一気に根元までくわえ、頬をへこませズズズッと吸引する。カリ首に唇を引っ掛け精液を舐め取った。  
 
自分の性器にも大量の白濁液が残っているにも関わらず、サビーナは胸元から先ほど使ったハンカチを取り出すと、レナードの下半身を拭い始めた。崇拝する彼の大切な部分だからと、不潔にならないよう丹念に拭う。  
そんな彼女を見下ろして、彼はやっと、ずっと聞きたかったことを口に出した。  
 
「なぜ、だい……?」  
 
「いつまでも濡れたままにしておくと菌が繁殖して危険ですから」  
 
「いや、サビーナ、そのことでは──」  
 
「は、失礼しました……いえ、貴方の大切な部分が、いかにも苦しそうだったので……処理を……いけませんでしたか?」  
 
「いや、ありがとう……気持ちよかったよ……身体は大丈夫かい?」  
 
「はっ、今日は偶々安全日でしたので、問題ありません」  
 
「そうかい。安心したよ……」  
 
いや、そのことではなくて。  
 
「君がなぜここに……なぜガトリング砲を……?」  
 
肉棒を拭い追え、股の下から手を回して肛門周辺を拭いていた彼女は、さも「ああ、そのことですか」と言った表情でレナードを見上げた。  
 
「貴方が本日休暇をとっていたのは知っていたのですが、Mr.カリーニンから通達がありまして──」  
 
「通達?」  
 
「えぇ。手製のボルシチを用意したので、時間があれば自室に来てほしいとのことです。時間は指定されておりません。本日中に行けば問題ないかと思います」  
 
「その報告をしに僕の部屋に……それで?」  
 
「私がドアをノックした瞬間、部屋の中から貴方の叫び声が聞こえたので、非常事態と判断し突入しました。地下室への入り口が開いていたので、忍びより、置いてあったガトリング砲を使って──」  
 
「置いてあったガトリング砲?」  
 
サビーナ専用のエリゴールも、大型のガトリング砲を装備していたことを、レナードは不意に思い出した。  
非常に重く、使いかってが悪い武器だが、彼女はガトリング砲が気に入っていた。撃つとスカッとするらしい。  
 
それにしてもガトリング砲──この部屋はアラストルの部品しか置いていないはずだか、まさか──彼女が入ってきた地下室の入り口を見やる。  
 
そこには案の定、アラストルに搭載する予定の、M9の頭部チェーンガン並みの破壊力を持つ化け物ガトリング砲が転がっていた。  
使い方を間違えば脱臼ではすまない。  
 
「よく使えたね……それにしても、やりすぎじゃないかな」  
 
「貴方が拘束されているように見えたため、危険と判断し、粉砕してしまいました……申し訳ありません」  
 
危険なのは君だよ……という言葉を寸での所で飲み込む。  
 
「いや、僕の身を案じてのことだからね……気にしなくていいよ」  
 
「ありがとうございます」  
 
と言ってサビーナは、拭き終えたハンカチを胸ポケットにしまった。  
不潔だと思ったが、レナードは余計なことは言いたくなかった。  
何故なら彼女の嘘を、彼は見抜いていたからである。  
 
「サビーナ、少しじっとしてくれないか?」  
 
放置されたレナードの作業服を取りにいこうと立ち上がりかけた彼女を、彼は呼び止めた。  
彼女の胸ポケットからハンカチを抜き取り「君も拭いたほうがいい」と言って、ハンカチを彼女の股間にあてがう。  
 
「貴方にこんなことをさせるには……」  
 
「気にしなくていい。僕がしたいからするんだ」  
 
中指の先で股ぐらの柔肉を圧迫すると、ドロリと精液が流れ出た。それを掌で掬い、テラテラと光る唇をハンカチで拭う。  
 
──貴方が拘束されているように見えたため、危険と判断し、粉砕してしまいました──  
 
嘘をつくな──レナードは考える。  
常に冷静な君が、裸で抱き合う男女を見て、危険だと判断するわけがない。  
覆い被さっている側の僕が、拘束されているように見えた──そんな訳がない。  
 
地下室に来たまでは本当だろう。  
雄叫びに似た悲鳴。現実に絶望した僕の叫び声は、君の鋭敏な耳に、助けを求める泣き声に聞こえたかもしれない。  
 
だが君は、凍り付いた水面のように揺るぎない精神で、目の前の痴態を眺めたはずだ。  
僕がカナメを抱いている。  
それを心の底から理解したはずだ。全てを正しく理解したはずだ。  
たった一つ、僕が抱いていたカナメが、ダッチワイフであったこと以外は。  
 
許せなかっただろう。崇拝の対象に抱かれている女が、カナメであることが許せなかっただろう。  
 
今彼女を殺したら、自分がどうなるかわかっていたはずだ。  
もし本物のカナメを君が殺していたら、僕は君を同じように殺したと思う。  
 
彼女を殺すことで僕がどう思うか──君がどうなるか──そして世界がどうなるか──全てを正しく理解した上で、君は彼女を殺す判断を下した。  
 
君は女の本能にしたがい、戦士としての全能をかけてガトリング砲の引金を引いたはずだ。  
 
殺す。  
 
だがそうはならなかった。もとよりそうなるはずがなかった。  
彼女は生きた特異点だ。死ぬはずが無い。必然的な偶然が折り重なって、彼女の盾となるだろう。  
だから僕は安心して、君にカナメを任せておけるのだ──そこまで考えて、レナードはポツリと呟く。  
 
「嘘つきは嫌いだよ」  
 
彼の唐突な物言いに、困惑した表情を浮かべるサビーナ。  
そんな彼女をよそに股間を拭き終えたレナードが、スッと立ち上がる。  
彼女の胸ポケットにハンカチを収め、手を洗おうと地下室の洗面台へと向かう。蛇口を捻り、手を水にさらす。  
 
嘘つきは嫌いだよ。だが、まぁ──  
 
「君のことは、嫌いじゃないけどね」  
 
彼のその言葉は流れる水の音に隠れて、スーツを着ていた彼女の耳には届かなかった。  
 
「サビーナ」  
 
蛇口を絞り、彼女の名を呼ぶ。  
 
「はい」  
 
「パフパフという言葉を知っているかい?」  
 
「知りません」  
 
「じゃあ、今夜教えてあげるよ」  
 
彼女を振り返り、胸に視線をそそぐ。  
ツンと突き出して感度の良い、理想的な乳房だ。しかしそれほど大きくはない。  
果たしてパフパフできるだろうか──とレナードは悩んだが、この後食べたボルシチによって彼は腹を壊し、パフパフを教えるどころの話ではなかった。  
 
 

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