ただいま電話に出ることができません。ご用のある方はピーという発信音の後にメッセージを録音してください。  
 
ピーッ。  
 
俺だ。相良だ。  
 
千鳥、助けてくれ。  
 
今動けない。  
 
目も見えない。  
 
もしこの留守電を聞いたら、合鍵を持ってセーフハウスへ来てほしい。  
 
待っている。  
 
*  
 
「ってあんな留守電いれられたら不安になるじゃない!しかもあんたの部屋の前に来たら、中から凄い音が聞こえてくるし……もう少しちゃんと状況を説明しなさいよね!」  
 
「す、すまん……だが千鳥、君の携帯のような普通の回線で多くの情報を伝えるのは、非常に危険だ。どこでテロリストが盗聴しているかわからないし、そんな連中に君の護衛である俺が、こんな状態だと知られるのは問題が……」  
 
と弁解する相良宗介を見ながら、千鳥かなめは肩をすくめた。  
バイトを終えて携帯の留守電を確認したときは、本当に驚いた。  
タフな彼が護衛対象の自分にあんな切迫した声で助けを求めるなんて、余程のことなのだろう。  
そう思って彼のセーフハウスに駆け付け、財布に入れておいた合鍵でドアを開けて、室内へと入り込めば。  
 
「ソースケ、大丈夫!?どこにいるの!?」  
 
物音に異常なほど敏感なこの部屋の主が、勝手にドアを開けられたにも関わらず一切の反応を見せない。  
普段とは違う静けさと、姿を見せない彼に不安を覚えて彼の名を呼ぶ。すると弱々しい返答が部屋の奥から聞こえてきて。  
 
「千鳥か?リビングだ……来てくれ」  
 
「ソースケ……本当にどうしたぬぉっ!!?」  
 
くぐもった彼の声をたどってリビングへと進むと、そこには──ボン太くんの頭をはめた泣く子も黙るエリート軍曹が、ベッドの下に両手を挟んでうつ伏せになっていて──ごめん、まったく意味がわからない。  
 
「まったく……一体何があったのよ?あたしにもわかるように、常識的な表現で説明してくれる?」  
 
「実は……」  
 
着ぐるみの下からくぐもった声で語られる事の顛末は、真面目に聞くのも悲しくなるほど間抜けな話で、かなめは自分の護衛が彼でいいのだろうかと、半ば本気で考えた。  
 
*  
 
完璧だ、この完成度なら確実に売れる、と傭兵兼死の商人である相良軍曹は、自らの最高傑作の頭部を持ち上げて感嘆の溜息を漏らした。  
 
単体急襲型ボン太くんver.3。  
 
以前に売り出した量産型とは違う。プロ中のプロが部隊の先陣を切るために設計された、新モデルだ。  
以前の量産型は火力と操縦性を重視した大隊向けの仕様であったため、大口の顧客にしか売れなかった。  
隠密性と機動力を重視する少人数の作戦には不向きで、それが量産型の売上不振の原因となったというのがベルギーの軍需会社、ブリリアント・セーフテック社のマーケティング部門の見解である。  
 
(……だが今回の単体急襲型は違う)  
 
最低限の電子兵装だけを残し軽量化と、メンテナンスの簡易化を計った。戦場ではいついかなる時にマシントラブルが起きるかわからない。  
今回の単体急襲型は基礎的な知識さえあれば、オペレーター自身でもある程度の改修が可能な設計になってる。  
また、電子兵装を抜いた空間には最新型の衝撃吸収材が詰め込まれており、人体へのダメージはもちろん機材へのダメージも軽減する造りになっている。  
 
例えアマゾンの蒸し暑さのなか一ヶ月以上、銃風雷火に曝されても最後の最後までオペレーターを見捨てない──そういうプロのツールを目指して造られた。それが単体急襲型ボン太くんver.3。  
これならば小規模な部隊しかない小口の客にも売れるだろう。間違いない。二の鉄は踏まない。  
宗介はセーフハウス内で分解したボン太くんを見ながら、一人ごちる。  
 
「売れたら、今度千鳥にトライデント焼きを奢ろう」  
 
きっと喜ぶ……宗介は不可視の尻尾を振りながら、うれしそうにサベージモデルの頭パーツを頭上に掲げた。  
軽い。頭部の重量は以前の半分ほどだ。以前はその重さのために重心がずれ、容易に転倒を引き起こした。  
 
「だが今回は違う」  
 
彼はポツリと呟くと、頭にボン太ヘッドを装着した。  
頭部の中に灯りはない。完全な闇。初代を除いたボン太くんシリーズは、カメラによる画像認識を行っていたため本体から電源をとらないと前すらも見えない。  
しかし着け心地は悪くない。詰め込まれた衝撃吸収剤により頭部が安定し、激しく動いてもとれることはなさそうだ。  
 
(なかなか良いできだ……これならば売れるだろう)  
 
とボン太ヘッドを外そうとして。  
 
(むっ?)  
 
グイグイッ  
 
(ふん!)  
 
ミッチィッ!  
 
「くぅあ……っ!」  
 
ググッ!  
 
ぎゅーっ。  
 
ギギギ……。  
 
「……はぁ」  
 
溜息の末、彼は気の抜けた声で呟く。  
 
「抜けん」  
 
一人では無理だ……真っ暗なボン太ヘッドの中で遠い目をしながらそう悟った宗介は、胸元の携帯電話を取り出すと、いつも自分を助けてくれる護衛対象の番号を手探りで入力した。  
 
*  
 
「電話をして二時間後、君が来たので迎えようと立ち上がった際に、壁に立て掛けてあったベッドを倒してしまい、今に至というわけだ」  
 
「なんでベッド立て掛けといたのよ」  
 
「解体するにはスペースが足りなかったのでな」  
 
「あぁそぅ」  
 
状況説明を終えた宗介に、溜息混じりに返答するかなめ。  
頭が痛い。大変なのはわかるけど、心配して損したわ──こめかみを揉みながらかなめは尋ねる。  
 
「で、あたしはどうしたらいいわけ?とりあえずベッドどかす?」  
 
「そうだな……いや、やはり先に頭を外してくれ。ベッドの下にはおそらく、各種武装が転がっているだろうからな。先に視界を確保して、俺が確認しながら動かさないと危険だ」  
 
「危険ねぇ……」  
 
彼女は部屋を見回す。  
丸太でも分断しそうなゴツいナイフに、あからさまに怪しげな色をした小瓶。様々な大きさの弾薬や、まったく用途不明の鉄の塊が床に散乱している。  
例の囁きは強力な演算能力や未来の技術は教えてくれても、武器に込められた意図を察知する能力、歴戦の戦士だけが持つ皮膚感覚は教えてくれない。  
別に知りたくもないけど……彼女はそう思いながら、部屋の隅に置いてあった工具箱を自分の方へと引き寄せた。  
 
「とりあえず工具箱を探してくれ。確か部屋の隅に……」  
 
「もう見つけたわ」  
 
「そうか。ならば中から赤い取っ手のドライバーを取り出して……」  
 
彼の言うとおり工具箱を開けながら、かなめは溜息をついた。  
まったく、こいつときたらいつもいつも余計な仕事ばかり増やして……もし帰りが遅くなったら、ソースケに夕飯の支度手伝ってもらおうかな?などと彼女は思いながら、赤い取っ手を握った。  
 
*  
 
「黄色の取っ手のドライバーでプレートを外して、緑のつまみを回して空気を抜いてくれ」  
 
「つまみってこの醤油の蓋みたいな奴?」  
 
「そうだ」  
 
かなめは宗介の背にまたがり、うなじの上にあるつまみを右に捻った。  
逐一質問しながらなので、時間はかなりかかりそうだが、確かに彼が言ったようにメンテナンスが容易な造りになっているらしく、素人のかなめでもなんとか解体することができそうだ。  
 
「それにしても、なんか新鮮ねー」  
 
「何がだ?」  
 
「あんたにこうやって教えられながら作業するってのがさ」  
 
「そうか?」  
 
「そうよー。日常生活であんたがあたしに教えられるようなことがあると思う?度を超した戦争ボケのあんたが」  
 
「……少しはあるだろう。例えば学校の自分の下駄箱に不審な点があった場合の処理、もとい爆破方法など……」  
 
「それはあんた限定の日常だから……どうやったらあんたに、下駄箱の爆破が日本人の日常とかけ離れてるってことを教えられるのかしらね……」  
 
「……むぅ」  
 
まったく……かなめはまたしても溜息をつく。  
自分たちにとっての日常と彼にとっての日常のギャップに目眩がする。当然彼の世界では自分は、常識知らずの小娘なのかもしれないが……と考えて、自分もあの囁きのせいで彼の世界に片足を突っ込んでいるのだと、かなめは不意に悟った。  
 
日常生活だけではない。彼の世界でも自分は、彼に命令ばかりしている。  
北朝鮮の山奥で、巨人に追われた街中で、あのハイテク潜水艦の中で、自分は彼になんと言っただろう。今は断片的にしか思い出せない。  
だが彼の領分であるはずのことを、ウィスパードとはいえ自分のような素人が言うのは、彼のプライドを傷つける行為かもしれない──などと今はどうでもいいことを考えていたら、うっかりネジを彼の足の間に落としてしまった。  
 
「あっ!」  
 
「どうした、千鳥?」  
 
「ううん。ネジおっことしちゃって……少し足開いてくれる?」  
 
と言って彼の背にのったまま上体を反らして──そういえば、ソースケの上にのるのもあんまないわね……いつものられてばっかりだから──などと考えて一人で勝手に赤面した。  
かなめの手が宗介の下半身へと伸びて、腿に触れる寸でのとこで静止する。  
なんだろう。いつもキビキビとした彼が、妙に足をモジモジと動かしていて。  
 
「……なによ。足開いてくれないと取れないんだけど」  
 
「いや……すまん。今開く」  
 
宗介が苦し気に身を捩る。  
 
「もしかしてあたし重い?だったら退くけど」  
 
「いや、そうではない……ただ……」  
 
その先を言おうとして、彼はなぜか恥じ入ったように口をつぐんだ。そして両足を、腿をすり合わせるように動かし始めた。  
 
「ただ、どうしたのよ?腕でも痛いの?」  
 
「それは問題ない。はまってるだけで圧力はそれほどかかっていないからな……ただ……少し溜ってきたのだ……」  
 
と言われて、かなめはやっとのことで悟った。  
 
「もしかして……おしっこ?」  
 
「……肯定だ」  
 
ボン太ヘッドの中で耳まで真っ赤にして、宗介はそう答えた。  
無理もない。ボン太ヘッドがはまってから、かれこれ三時間近くたっている。  
実を言うとかなめがセーフハウスに到着したころには、大分切迫した状況になっていたのだ。しかし動けない。当然部屋の間取りは熟知していたが、床には激物や刃物、危険物が散乱していたため目隠しで動くのは危険だと判断した。  
千鳥が来たら案内してもらおう……と思っていたが、まさかこんなことになるとは──この状況を甘く見た、彼自身の失策である。  
 
「ど、どれくらい溜ってるのよ?」  
 
「既に尿道の半ばまできている……ように感じる。千鳥、早く解体してくれ」  
 
「早くって……後どれくらいかかるの?」  
 
「俺がやれば後十分ほどで解体できるだろう。だが今の調子だと……三十分はかかりそうだ。ベッドも退かさねばならんしな」  
 
「あんた我慢できそうなの?」  
 
宗介は微かな俊巡のすえ、  
 
「無理だ」  
 
たった一言だけそう答えた。  
 
*  
 
「こらソースケ!観念しなさい!!」  
 
「や、やめろ千鳥!俺は我慢できる!だから早く解体してくれ!!」  
 
「さっき無理って言ったじゃない!なに恥ずかしがってんのよ!おしっこ漏らすほうが百倍恥ずかしいでしょうが!!」  
 
「お、俺は漏らしたりなぞせん!こんな場所で放尿などできるか!!」  
 
両手をベッドに拘束され、視界も失った百戦錬磨のエリート軍曹──のズボンを無理矢理下ろしにかかる──黙っていればモデル以上との呼び声高い、美しいかんばせの女子高生。  
彼女の左手にはスーパーのビニール袋が握り締められている。  
 
逃げる。のたうつ。はねのける。  
鍛え上げられた肉体を最大限に活用し逃げ続ける彼。しかしそれも限界がある。  
 
両手が拘束されていることもそうだが、切迫した尿意を我慢していることと、彼女を決して傷つけないという決意が、彼の動きを極度に制限する。  
尻や腿に触れる華奢な手の感触で、相手のおおよその体勢がわかる。無防備な彼女を蹴りの一撃で無力化するのは、さほど難しくない。だがそんなことは論外だろう。  
彼女が無防備に自分に触れてくれるのが嬉しい。こんな自分を信じてくれるのが嬉しい。それなのに彼女を泣かせてしまった。  
 
苦い思い出が宗介の脳裏を過る。  
 
すまない。知らなかったんだ。君がそんな痛がるなんて。  
彼女が欲しい。彼女と一つになりたい。そんなエゴを彼女の細い身体に叩きつけた。  
涙を流し歯を食い縛り、それでも「やめて」とは言わない彼女に甘えて、自身の精を奥深くまで注ぎ込んだ。  
自分が感じていた快感と同じ物を君も感じていたらいいのに、という薄氷のような希望は、君の再奥から流れ出た赤いモノによって粉々に砕かれてしまって。  
この世の何よりも大切な人を己の手で傷つけてしまった愚かな自分に、なぜ君は「ありがとう」と言ったのだろう──今でもよくわからない。  
 
「うっふっふ〜、覚悟しなさ〜い」  
 
両足をまたぐようにして拘束し、両手をワキワキと動かしながらかなめは、悪魔じみた笑い声をあげだ。  
彼女の手がベルトにがかり、尻の半ばまでズボンをずり下げる。ズボンとともにトランクスも一緒にずり下がり、引き締まった、それでいて白桃のようにみずみずしい尻が露になった。  
あまりの良い尻にかなめは一瞬たじろぐ。  
 
「あ、あんた……結構可愛いお尻してるわね……」  
 
ぉお……と感嘆の溜息を漏らしながら、尻を撫でまわすかなめ。  
彼のお尻をこんなまじまじと見るのは、よく考えてみたら初めてだ……他の部分は傷だらけなのに、なぜお尻だけこんなツルツルなのだろう──と考えながら彼女は、目の前の尻をリズミカルに叩いた。  
ぺぺぺンぺン♪  
思った通り良い音がした。  
 
「や、やめろ千鳥!衝撃で、出る……!」  
 
「あ、ごめん。じゃ、下にビニール袋入れるからお尻持ち上げてくれる?」  
 
もはや観念したらしい宗介は、黙って腰を突き上げる。かなめの鼻先に、宗介の良い尻が突き付けられる。  
 
ズボンを膝まで下げ、股間の下にビニール袋を差し入れた。  
 
かなめの位置からは直接、宗介のホースを見ることができない。恐らくこの位置で正しいはずだが、彼のホースは人よりも少し長いのだ。そして少し太い。  
参考に読んだ本に、男の人のおしっこの勢いは女の人よりも強いと書いてあった。そのことを思い出し、意を決したかなめは、宗介の半ばまで硬くなったモノを躊躇いがちに握り締めた。  
 
白い指。細い指。垂れ下がる絹糸のような華奢な指が、尿意によって硬くなった、それでいてまだ柔らかい性器に絡み付く。力んだ指先が竿に食い込み、とらえどころのないそれをにゅるにゅるとしごく。  
小水とは別のモノが、玉の底から込み上がってくる。  
 
「なっ、千鳥!?ナニをする!!?」  
 
「ナ、ナニって狙いを定めてるだけよ!ってかあんたこそナニ考えてんのよ!……こんな格好で大きくしちゃってサイテー!」  
 
「君が不用意に揉むからだろう?」  
 
「も、揉んでないわよバカ!ちょっと強く握っただけじゃない!!」  
 
憤りとともに更に強く握り締めれば、それはもう指先が食い込まないほど硬くいきり立っていて……ありていに言ってビンビンである。  
 
「も、もう!バカなこと言ってないで早く出しなさいよ!」  
 
と言ってかなめは、彼の先端にビニール袋の口を押し当てた。ビニールのシワが擦れて、デリケートな部分が少し痛い。  
 
「……君が強く握るからなかなか出んのだ……少し緩めてくれ」  
 
「あ、うん」  
 
固く握り締められた指がほどけて、竿を優しく撫でるようになって。  
 
「ち、千鳥……出る」  
 
「うん……ってかそういう言い方やめなさい」  
 
瞬間、宗介の先端から勢いよく小水が吹き出した。  
ズババババババッ!  
と信じられないような下品な音が聞こえる。ビニールと小水が激しく衝突しているのだ。  
 
弾けた飛沫がかなめの手にかかる。生暖かさが少し気持ち悪いが、今離したら袋の中身がこぼれてしまう。  
それに汚いからといって拒絶したら、彼が可哀想だ。そもそもこれは自分から望んでやったことだ。彼は最後まで嫌がっていた。  
だから平気。ソースケのなら平気だよ、という意味を込めて、彼女は彼の腰を抱き締めた。  
 
それにしても。  
 
「……長いわね」  
 
「仕方ないだろう……溜っていたのだ」  
 
ボン太ヘッドの下から覗くうなじが、羞恥に赤く染まっている。  
恐縮したような彼とは対称的に、下半身は元気に溜ったものを吐き出している。  
袋が重くなってきた。最初はビニールに当たるズバババッ!という音だったのが、今は液体に液体が飛び込むジョボボボッ!という音に変わっている。  
 
宗介は昔、女子トイレに盗聴器を仕掛けたことがあった。喫煙生徒を見つけるためだったが、かなめを含めた女子生徒達に烈火の勢いで怒られた。あの時は彼女達がなぜ怒っていたのかわからなかったが、今ならわかる。  
なるほど。これは恥ずかしい……お願いだ。聞かないでくれ、千鳥──という願いが通じたのか、水流の勢いが幾分弱まってきた。  
先端からチョロチョロと滴るのが宗介自身にもわかる。これはこれで情けないものがあった。そして止まる。  
 
「いっぱい出たね」  
 
ソースケのが溢れちゃいそうだよ……と続けて、彼女はビニールを彼の先端から外した。  
 
「……そういう言い方は止せ」  
 
「え、なんで?でも破けなくて良かったわねー。ペットボトルがあればよかったんだけど……」  
 
いや、そんな大きくなったら入んないか……という言葉を飲み込んで。  
 
「で、どう?」  
 
「なにがだ?」  
 
「すっきりした?」  
 
「……屈辱的だった」  
 
「あっそ。じゃ、トイレに中身捨ててくるから。ビニール袋はゴミ箱に捨てて構わないわね?それと、お尻下げちゃダメだからね?その……あんたの大事なとこまだ濡れてるから……後で拭いてあげるから少し待ってなさい」  
 
「……了解した。早くしてくれ」  
 
遠ざかる足音。尻を突き出したまま精神的にうなだれる宗介。  
トイレの方から「うわー、たっぷんたっぷんねー」という聞き慣れた声が聞こえたが、今の彼にはどうでもよかった。  
この時間が早く終われば良いのに──ただただそんなことを考えながら、彼は尻を天に突き上げたままで過ごした。  
 
*  
 
「……いつまであんた、大事なとこ膨らましてんのよ」  
 
手を洗い、洗面所から戻ってきたかなめは、開口一番そう口走った。  
言い付けどおり尻を突き上げたまま、リビングで待機していた宗介。  
洗面所から戻ってきた彼女の視界に最初に入ったのは、白桃のように艶やかな尻と、その下から垂れ下がる野生剥き出しの剛直であり、彼女は見たままのことをそのまま口走った。  
 
「仕方ないだろう……君に触られたのだぞ?……とにかく、早くズボンを履かせてくれ、千鳥」  
 
「はいはい。でも、あんたの……それ、拭いてからだからね?パンツ濡れちゃうでしょ?誰が洗うと思ってんの?」  
 
「だから俺が洗うと……」  
 
「エコよエコ。パンツ一枚のために水出したら勿体ないでしょ?世界平和はよりよい地球環境から生まれるのよ。ミスリルの傭兵ならそれくらい考えなさい」  
 
「む……むぅ」  
 
怒涛の勢いで宗介を言い包めたかなめは、戸棚の上にあったティッシュボックスを手に取った。  
中身を数枚抜く。濡らしたほうが良いだろうか?  
彼のあそこは自分のあそこと同じくらいデリケートにできていて、彼のあそこは自分にとって、自分の身体のように大切なのだ──そのことに今更気付いて、彼に確認をとる。  
 
「今から拭くけど、ティッシュで平気?濡らしたほうがいいかな?」  
 
「いや、問題ない。そのまま拭いてくれ」  
 
と言って腰を突き出す宗介。  
腰を突き出しても、いきり立った先端が彼の顔の方を向いていたため、股の下からは拭くことができない。  
仕方なし横に回り、彼の濡れた先端にティッシュをあてがうと、引き絞られた弓のように張り詰めたモノが弾け上がった。  
 
「もう。動かさないでよ。上手く拭けないじゃない」  
 
「す、すまん」  
 
彼の大切な部分が傷つかないよう右手で固定すると、彼女はまるで国宝の彫像でも磨くかのような丹念な手付きで、張り詰めたモノをティッシュで拭いはじめた。  
 
亀頭。カリ。裏筋。竿。それにはしる血管の一本一本。  
 
こんな風にまじまじと彼のモノを見るのは初めてだ。そもそも男を宗介しか知らないかなめにとって、目の前のそれはまるで未知の生物のようであった。  
 
人並みに知識はあるつもりだ。彼とする前にビデオで勉強した。しかしそれには全て、モザイクがかかっていて、大きさや大まかな形はわかっても肝心なところが見えない。自分の性器でさえ普通の形なのかどうか未だにわからない。  
 
まして異性の性器など……今日は大胆に攻めたかなめであったが、普段の彼女はベッドの上ではおとなしく、宗介になされるがままになっていた。  
 
よくよく考えてみたら、手で直に彼のモノに触れたのは今日が初めてである──ど、どうしよう、あたし……エッチな女の子の仲間入り?──とズレた羞恥に顔を赤くして、それでも彼女は拭うことを止めなかった。  
 
「まだか、千鳥?早くしてくれ」  
 
「ちょっと待って……ちゃんと拭かないと、病気になっちゃうから、ね?」  
 
言い訳だ。彼女は自分に憤る。  
確かにまだ拭くべきところはある。しかしそれが全てではなく、自分の中にある卑しい好奇心と情動の存在も否定できない。  
 
思ったより複雑な造りをしていて驚いた。  
暗がりで見た彼のあそこは、まるで煮えたぎる散弾砲の銃身のようで、見るからに熱く太く硬く──恐怖と恋慕が入り交じった暴力的な造形物で──今、手のなかにあるものとは似てもにつかない。  
 
変にてかてかとして筋張った気持ち悪い形にも関わらず、彼のモノだと思うとなぜこんなにも愛嬌があるように感じるのだろう。  
 
裏筋やカリ首など複雑な部分を丹念に拭う。  
時にはティッシュで。時には素手で。彼女はそここそが、男を一番喜ばせる部分だとも知らずに、細く柔らかな指先を優しく這わせてしまう。  
拭っても拭ってもどこかが濡れている気がして両手の指、十指をまるで卑猥な舌のように蠢かすと、やっとのことで彼女はティッシュを通して自身の指が、ベタベタに汚れていることに気付いた。  
 
えっ!もしかしてイッちゃった?……いや、これってたしか……。  
 
「ソースケ、ごめん!」  
 
「なにがだ?」  
 
「その……いっぱい我慢させちゃったみたいで」  
 
濡れた指先を弄び、やっとわかった……これって、我慢汁だ。  
 
「俺は我慢など……」  
 
「してるよ。すっごい我慢してる……ずっと大きかったもんね。それってずっと苦しかったってことでしょ?」  
 
「そ、それは……」  
 
「今日はふざけ過ぎたわ……反省する……だから」  
 
セーフハウス内でボン太ヘッドを頭にはめ、ベッドの下敷きになった彼を見たときは本気で呆れた。呆れたを通り越して怒りすら感じた。だから、少し彼にイジワルになってしまったことも否定できない。  
 
「だから?」  
 
「気持ち良くしてあげる」  
 
かなめは宗介の股間を覗き込むと、蒸れた性器を両手で掴み、まるで搾乳をするようにしごき始めた。  
 
*  
 
彼女はセックスが嫌いなのだと思っていた。ただ自分が求めるから、仕方なく相手をしてくれるだけで──いつも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。  
それなのに彼女に精を吐き出したい衝動と、彼女の肉体ごと精神を独占したいという欲求を押さえられず、大切な彼女に無理強いしてしまう自分に腹が立った。  
 
だと言うのに。  
 
「よ、止せ、千鳥!」  
 
「なんでよ?もしかして気持ち良くない?」  
 
「いや……かなり気持ち良いが、と、とにかく止めろ!」  
 
「だからなんでよ?まさか快楽に溺れるのはいけませーん、とかキリスト教みたいなこと言うんじゃないでしょうね?あんたイスラム教でしょ?ってかいつもあたしで、いっぱいいーっぱい気持ち良くなってるくせに……」  
 
なぜか最後の方は小声になった。  
 
そうだ。この男はいつもあたしの身体で、沢山気持ち良くなってるんだ。あたしに気持ち良くされるのが大好きなんだ。  
そのくせ口ではカッコいいことばかり言って……下半身はこんなになってるってのに。  
これはイジワルなんかじゃない。素直になれない彼の本当の願望を叶える、慈悲に溢れた行為だ。なんて。  
 
「ぉあぁあ!ち、千鳥!!」  
 
自分の敏感な部分を彼女の清い指が這いずるだけでも我慢ならないのに、不意に得体の知れない、柔らかく、暖かく、湿ったモノに包まれてしまい、彼は間抜けな声を上げた。  
 
ぷりぷりとした感触の熱いモノが、剛直の側面を上下にしごき、溶けだしそうなくらい柔らかく濡れたモノが、張り詰めた先端を飴玉のようにねぶっている。  
宗介は一瞬で悟る。  
 
こ、これが噂の、フェラチオというやつか……!?  
 
「くぅ……ち、千鳥!……止めろ、な、なぜそんなことをする……くぁっ!」  
 
「ふぁっへ、にゅれてふぁいひょいちゃいひゃとおひょっちぇ……」  
 
訳:だって、濡れてないと痛いかと思って……。  
 
「く、く、くわえたままで喋るな、ぁあ、あっあ……あぃ!」  
 
耐える宗介。攻めるかなめ。  
 
なんかいつもと逆で楽しいかも……と、蛇口から直接水を飲むような体勢で性器をくわえながら、彼女は思った。  
 
味は不味くもないし美味しくもない。舌先で先端の割れ目を突くと、粘液が染み出てくるけれど、これと言って感想はない。強いて言えば、これが宗介の味なんだと思う。  
 
「ひぃほひぃひゅい、しょひょしゅけ?」  
 
訳:気持ち良い、ソースケ?  
 
「……な、ナニを言って、ぅあぃ、ぬぉか、わきゃ、らんぁ!」  
 
訳:なにを言ってるのかわからん!  
 
と互いに新機軸の言語で語り合う。  
 
かなめの小さな口内を、宗介の性器がいっぱいに占める。  
溶けかけたバターのような舌が、ナメクジのように敏感過ぎる部分を這いずる度に、性器が破裂しそえなほどに張り詰めて、彼女の口内を圧迫する。  
 
大きくなるたびに唇の端から、彼女と彼の混交液が溢れ出る。  
溢れ出たそれが彼女の細い顎を伝い、首、鎖骨、ブラジャーを濡らす。その卑猥な液が彼女の乳首まで染みて、彼女は無意識に自分の豊かな乳房を揉んだ。  
乳首の先端が愛しい彼の汁で濡れて、今までにないくらい勃起する。ブラジャーに擦れて少し痛い。  
彼女は熱を逃がすように身を捩ると、襟元から左の乳房を無理矢理取り出して、いやらしい汁を肌に馴染ますように揉みしだいた。  
 
左手で乳房を揉みながら彼女は、子犬が親犬の乳首を吸うような体勢で、彼の性器に必死にしゃぶりつく。  
まるで唇と舌の力だけで性器にぶら下がるような勢いで、しゃぶりつく、吸い付く、からみつく。  
 
しゃぶりつくしてやる。吸い付くしてやる。引っ込抜いてやる。  
 
枯れるまで。死ぬまで。あんたがあたしのものになるまで──そこまで考えて、彼女はやっとのことで悟った──彼があたしを抱き締めるのは、あたしを彼のモノにしたいから、なのだと。  
 
なんてことだ。今更過ぎる。  
禁欲的な彼が、あたしを過保護なくらいに大切にしてくれる彼が、ただ気持ちいいからというだけであたしを抱くわけがないじゃないか。  
不安だから。どこにもいかないよう、自分であたしを占めてしまいたいと思ったから──なんだ、あたしが彼に抱かれてあげる理由と一緒じゃないか。  
性欲はある。抱き合いたいとも思う。だけどこれが、彼をつなぎ止める手段でないと、誰が言い切れるだろうか。  
 
彼も結局はあたしと同じように相手のことを思って、勝手に思い悩んで──と思うと、花が咲くように嬉しくなって。  
 
好き。  
 
たった一言そう呟こうとしたのに、彼の大切なモノが口内を占めていたので声にならない。  
けれど、彼の先端を這う舌先が何かを彼に伝えたのか、一際大きく彼が張り詰めて。  
 
「あっあぁ、千鳥、んぁあっあっあっあぁ……ぁあ!」  
 
「むぁ、むぅ……むー!むー!」  
 
張り詰めたモノが口内で暴れだす。舌を這わせた割れ目がパクパクと動いて、いがらっぽい濃厚な汁が大量に流れ出る。  
あっという間に口のなかが性器と彼の汁でいっぱいになって、歯や舌に絡み付く。  
濃い。凄い匂い。喉がイガイガする──だけど、飲み干してやる。  
頬をへこませて、一心不乱に吸い付いた。柔らかい内壁が熱い竿に密着し、玉の底から精を吸い上げる。  
その口内の蠢きに反応し、一層力強く竿自体が退けぞって、かなめの上顎を持ち上げる。  
 
絶対に離すまいと、柔らかく蒸れた唇と舌でしゃぶりつき、必死でしがみつくのに、結局はにゅるんと抜け出てしてしまった。  
跳ね上がる瞬間にかなめの唇と性器の間に、白濁した橋ができて、彼女の放心したような顔にタパタパと降り掛かる。  
かなめの頭が床へと落ちる。宗介の腰が小刻みに痙攣し、熱く濃い汁を吐き出しながら、彼女の顔の上に崩れ落ちた。  
 
「はぁ……ふぅ…あっあっあぅ……あっあっあっあっ」  
 
「むっむにゃ……むぅむぉ……ちょ…しょしゅけ……退い、て……苦し……」  
 
ポカンと開いたかなめの口に、偶然にも蒸れた玉袋が滑り込んだ。舌で必死に押し出そうとするのに、宗介の身体が邪魔になって吐き出すことができない。  
 
その間も彼女の鼻の横に押し当てられた剛直から、火傷しそうなほど熱いモノが溢れ出て、彼女の艶やかな頬や鴉の濡れ羽のような髪を白く汚していった。  
 
あまりの快感ゆえに下半身に力が入らない。むしろ本能的に彼女の顔に強く強く、下半身を押しつけてしまう。  
その下で玉を口に含みもがいていたかなめは、鼻と喉に彼の種を詰まらせ、酸欠で失神してしまった。  
失神したのちも彼は精を吐き続け、彼女の上半身をぐちゃぐちゃに汚してしまう。  
断続的な射精が三分程続き、やっと宗介は彼女が失神していることに気付く。  
 
「ち、千鳥!しっかりしろ!!死ぬな、千鳥!起きてくれ!!」  
 
と彼女の肩を足で揺すり、ほどなく目覚めた彼女に、  
 
「出しすぎよバカ!服までぐちゃぐちゃにしてどうしてくれんのよ!!」  
 
と怒られた。  
頭にハリセンをくらう。だが、流石は単体急襲型ボン太くんver.3。最新の衝撃吸収剤のおかげでなんともない。  
特に効いた様子もない宗介に腹をたてたかなめは、  
 
「もう知らない!あんた一人でどうにかしなさい、じゃーね!!」  
 
と言って顔中を精液でぐちゃぐちゃに汚したまま、ドアを開け、帰ってしまった。  
たまたまマンションにつくまで誰とも合わなかったからよかったものの、もし知り合いにあっていたら変な噂がたっただろう。  
 
「……千鳥」  
 
結局彼が助けだされたのはその三時間後。  
自宅で風呂に入り頭を冷やしてもどってきたかなめを、トライデント焼き五つで買収して以後のことである。  
 

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