「ねえ、ソースケ。今日は仕事とか予定は無いのよね。」  
 HRも終わって皆帰り支度をしている中、かなめは教科書をカバンに詰め込んでいた  
宗介に声をかけた。  
「ああ。問題ない。予定は空けてある。」  
「そ。じゃあ、今日はあたしんちでクリスマスパーティするから、寄っていきなさいよ。」  
 本当は今日はかなめの誕生日なのだが、素直に祝って欲しいと言えないかなめは  
クリスマスにかこつけて宗介に祝ってもらおうと考えていた。  
 だがそこは空気を読まないことにかけては定評のある宗介である。  
「いや、俺はイスラームだ。キリストの祭りには参加できないのだが。」  
「あたしんちだって仏教徒だから関係ないわよ。日本じゃ単なるお祭りなんだから。  
 単に飲んで歌って馬鹿騒ぎするの。OK?」  
 ついでにクリスマスイブは日本では恋人達の聖(もしくは性)なる夜でもあるが、  
素直に言えないかなめはそれを飲み込んだ。  
 宗介は少し考え込んだが、やはり空気を読まずに答える。  
「いや、一応とはいえイスラームとして教義に反する事は避けたい。」  
「……あっそ。」  
 かたくなに断る宗介の態度に、かなめは不機嫌さを隠そうともせず、吐き捨てるように  
言ってからカバンを手にして立ち上がった。  
「じゃあキョーコ達でも誘うことにするから。お堅い軍曹様はせいぜい信心深くつつましく  
 過ごせば良いでしょ。」  
「それは困る。」  
「何が困るのよ。」  
 宗介は一つ咳払いをすると、真摯な視線をかなめに向けて言った。  
「今日は大切な人の誕生日だ。俺は是非その人の……つまり、その……君の誕生日を  
 祝いたいと思っていたのだが。」  
「えっ……ソースケ……」  
 その言葉にかなめの鼓動が高鳴った。  
「その……ダメだろうか?」  
「ずるい……ずるいよソースケ。」  
 かなめの目から少しだけ嬉し涙が零れた。  
 それをあわててぐっと拭うと、今度は100%の笑顔といつも通りの大きな声で答えた。  
「仕方ないわね。そんなに祝いたいなら特別に許可してあげる。感謝しなさい!」  
 
                   ◇  
 
 その頃、メリダ島では……  
 基地をあげてのクリスマスパーティが行われていた。  
 
 地下格納庫の一角を空けて作られたパーティ会場では、有志の隊員による屋台なども  
設営されていた。  
 SRTユニットもクルツ他の隊員が地上で捕獲してきた巨大な野豚を使った丸焼きを行い、  
パーティの目玉となっていた。  
 
 そのパーティ会場の一角、こってりとした肉の山ののったテーブルを前にアッシュブロンドの  
少女……テッサが猛烈なやけ食いを繰り広げていた。  
「全く……はむ……らしかに……もぐもぐ……わらしとからめさんのらんりょうびは  
 一緒れすから……ろちらかは振られる事になるんれすけど……むぐ……らからって、  
 あっさり休暇申請をらしてかなめさんの所に行っちゃうらんて……んぐっ……そりゃ、  
 私は一回振られちゃってますけど……もぐもぐ……メリッサ、聞いてるんれすか?」  
「はいはい。でもね、あの朴念仁に両方と上手く付き合うなんて器用なことが期待できないのは  
 あんただってわかってるんでしょ?」  
「そりゃ、そうですけど……」  
 胸焼けしそうな肉の山を猛烈な勢いで片付けているテッサを呆れ顔で見ながら、マオは  
3本目のバドワイザーを空けた。  
 4本目を取りに行こうとして椅子から腰を上げかけたところで、よく冷えたバドワイザーの  
缶が目の前に差し出される。  
「今夜一緒にどう?」  
「却下。」  
「つれないねぇ。」  
 縋る間もなく振られたビールの主……クルツは肩をすくめた。  
「あんたパーティにかこつけてあたしをナンパしに来たわけ?」  
「いんや、そっちはついででね。ほい、テッサに。」  
 そう言ってクルツは肉を頬張ったままのテッサにリボンのかかった細長い箱を差し出した。  
「ハッピーバースデー、テッサ。」  
「へっ? あ、ありがろうごりゃいまふぅ。」  
 口いっぱいに頬張っているせいでろれつの回っていないテッサの顔は頬っぺたがパンパンに  
膨らんでいて、色気も何もあったものではなかった。  
 
「あんたねぇ……クルツもテッサに手を出す気じゃないでしょうね。」  
「いんや。今日の俺はしがないメッセンジャーボーイでね。そいつはソースケから。」  
「えっ、サガラさんからですかっ!」  
 思い人の名が出たとたん、テッサは箱をひったくるように受け取ると包み紙を開いた。  
 中から出てきたのはビロード張りの箱に納まったアクセサリーと便箋が一枚。  
「……なんて書いてあるの?」  
「誕生日なのに同席できなくてすまない、せめてプレゼントだけでも贈ろうと思う、  
 自分は日本から君の幸せを祈っている、ですって……ああ、サガラさん……」  
「はいはい、よかったわね。」  
 手紙を抱きしめて夢見心地のテッサを置いて、マオは席を立った。  
 クルツもその後を追う。  
「あれ、あんたの入れ知恵?」  
「姉さん……入れ知恵なんてひどいなぁ。俺はソースケにどうしたら良いか聞かれたから  
 アドバイスしただけだって。」  
「まあ良いわ。あの子も喜んでるみたいだし……あとでかなめともめなきゃ良いけどね。」  
「ところで……さっきは断られたけど、今夜一緒にどう? 考え直さない?  
 目くるめくような一夜にするぜ〜」  
 やらしい目つきでマオの肩を抱こうとしたクルツは、次の瞬間みぞおちに思い一撃を  
食らって昏倒した。  
 
 それぞれのクリスマスイブが更けてゆく……  
 
 

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