玄関のドアを開けた瞬間、かなめは悲鳴を上げた。  
「千鳥、待っていたぞ」  
確かに宗介は待っていた。むっつり顔で、正座して。ただし全裸で。  
彼はG19をひざの上において、ご丁寧に股間を隠していた。  
「なにやってるのよ!痴漢、変態、レイパー!」  
「どうした、急に。昨夜、君は俺の全裸を見ていたではないか。  
見ていただけではなく上に乗って……」  
かなめの顔がみるみる赤くなった。  
確かに昨夜は上に乗って、あんなことやこんなことをして  
そんなことまでしてしまったが。  
「どうした。顔が赤いぞ。病気なら医者に」  
「やかましいっ!」  
かなめは持っていたスーパーの袋(バナナ1房、牛乳1リットルパック1個、  
キッチンペーパー1箱、牛肉150グラム、以下省略入り)を宗介の側頭部に叩き付けた。  
げしっ。  
宗介は床に叩きつけられた。全裸で。  
なぜか、この期に及んで股間はG19でしっかり隠していた。  
つつしみがあって立派といえないこともない。  
だが、無論かなめは賞賛する気には全くなれなかった。  
「あのね、あたしは女子高生なの。  
裸の男を玄関先で見たら悲鳴を上げる義務があるのよ!  
大体、帰ってくるなり裸を見せるってなんのつもりよ。  
ひょっとしてあんた、裸を人に見せると興奮する性癖があるの?  
露出狂なの?きもいわよ。最っ低!!」  
「むう」  
宗介は頭をなでながら、むっくりと起き上がった。全裸で。  
「いや、俺はロシュツキョウとやらではない。一応イスラム教徒だ。  
これにはわけがあるのだ」  
「……。一応、わけとやらを聞きましょうか  
どうせろくでもないんでしょうが」  
 
かなめは極力、宗介の全裸を見ないですむように目をそらせた。  
ベッドで裸は見ていても、玄関で見るのは気恥ずかしい。  
かなめの常識では、玄関はそういうことをする場所ではないのだ。  
宗介は生真面目な顔で説明した。全裸で。  
「君が続きは買い物から帰ってきてから、と言ったではないか。  
それで、クルツから以前、  
日本では真剣に待つときは、全裸で待機すると教わってな。  
こうして、君の帰りを真剣に待ちわびていたのだ。  
しかし、全裸とは家の中でも不安になるものだな。  
一応、銃は持っていたのだが、いけなかったのだろうか」  
あのエロ外人か。余計なことを教えて。かなめはこぶしを振るわせた。  
宗介は、そんなかなめを幾分不安そうに眺めていた。  
ご主人様にしかられるのを恐れている犬のようにも見える。  
彼は悪気はなかったのだ。悪気がなければ良いと言うものではないが。  
それに露出狂でもなかったのだ。露出狂でなければ良いというものでもないが。  
結局、帰りを待ちわびていたの一言が、かなめの勢いを殺いだ。  
「あー、わかったから、とにかく全裸で待機はやめなさい。  
あたしはそういうの好きじゃないの。  
それより、早く服を着なさい。風邪引くわよ」  
照れ隠しにわざとお姉さん口調になった。  
「了解した。それで続きは」  
宗介が恐る恐る尋ねてきた。  
そういえば買い物に行く前に盛り上がって、  
だけどかなめがスーパーの閉店時刻が迫っているし、明日は休みだしと  
途中で打ち切ったのだった。  
閉店間際の叩き売りで、牛肉を半額で捕獲した喜びのあまり、  
すっかり忘れていた。  
宗介は玄関先で熱っぽい目でかなめを見つめている。全裸で。  
家を出る前にも彼はこんな目でかなめを見ていた。  
そして、彼の手が、ジーンズ越しに太ももをそっと撫でて、  
首筋にやわらかいキスが落ちて……熱がうっすらと体の中に戻ってきた。  
宗介の手がかなめのあごを捉えた。無骨な指が繊細な動きで頬を撫でる。  
「やだ。ここだと、恥ずかしいよ」  
かなめはうつむいてつぶやいた。  
宗介はむっつり顔で、堂々と反論した。全裸で。  
「気にするな。君も全裸になればお互い同じ状態になる。  
問題解決だ」  
かなめは、ハリセンを取り出した。  
 

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