帰宅した宗介は下腹部に妙な倦怠感を覚えていた。むかむかとするような…いや、もぞもぞと言った方が適切かもしれない。  
そして動悸が速まり、どうにも股間を押さえていないと落ち着かない気持ちだった。  
自分が倒れたら誰が千鳥の護衛をすると言うのか。うう、千鳥千鳥…。揉めばほぐれるかと思い、木綿の下着越しに圧迫  
してみて…驚愕した。体から白っぽい膿が、排出されたのだ。変な臭いもする。妙な罪悪感もある。恐ろしくなった宗介  
は先日級友らがやたら楽しそうに眺めていた書物をセーフハウス内で探すが、ない。疾患についてパソコンで調べるのは  
ためらわれた。検索結果はダーナにつつぬけだ。もし、自分がよからぬ病に犯されていると疑われて、即刻任務解除とな  
ってはたまらない。宗介はまだ少し変な臭いのする手で携帯端末を掴むと、一番近所に住んでいる知人に連絡をとった。  
「もしもし?どうしたの?」  
「千鳥か、相良だ。…一つ、借り受けたい書籍があるのだが」  
「なに?」  
「君の家に家庭の医学はあるか?」  
「あるけど…ソースケ、どっか悪いの?」  
「まだ決まった訳ではないが、気になる兆候があってな…調べさせて欲しいのだが、これから防護服を着て君の家まで行  
くので、玄関前に書籍を置いておいてはくれないだろうか」  
「ええっ…、ソースケ…マジなの?」  
「何でもなければ良いが…大事を取るに越したことはないのでな」  
「そう…わかった」  
耳元で喋るかなめの声音が急にしっとりと熱を帯び初めたのは気のせいではないだろう。彼女が心配してくれているのだと  
無意識に悟って、宗介はまた下腹に熱を感じた。  
「では、30分後そちらに向かう。書籍は玄関に置いて、君は室内にいるようにしてくれ」  
「うん…」  
電話を切ってまた膿が出て、宗介は絶望的な気持ちで久しぶりにNBC防護服に袖を通した。 ずんぐりとしたシルエットで  
キビキビと歩き、向かいのマンションまで来た。  
何度も通ったかなめの部屋までの道、病気によっては本当にもう会うこともできないかもしれない…そう思うと宗介の胸は  
張り裂けそうなほど痛んだ。香港から帰った時、あの時君を抱きしめていればよかった、と後悔しても遅い。涙を流す女性  
が胸にもたれ掛かってきたら抱きしめるべきで、それでさらに相手が抱き着いてきたらキスすべきと言ったのは軽率な同僚  
だが、あの時…キスというのはともかく、いや、その、それは話が別というか…悶々とした思考とさっぱり重みの減らない  
袋(何回射精すれば気が済むのか、甚だ疑問である)を抱えて、宗介は目的のドアまでたどり着く。  
顔を上げた宗介は、まず…驚いた。  
かなめが、分厚く思い家庭の医学を両腕に抱え、豊かな胸にややめり込ませるようにして立っていた。  
「ちど…」  
「約束破ってごめん。…でも、あたしやだよ…」  
目元が赤いかなめは既に涙を流した後なのだろうか。宗介は込み上げる衝動に前屈みになった。また膿が出そうだ。  
「千鳥…しかし、君に」  
「あたし、病気がうつっても良いよ…」  
喋るかなめの唇が艶やかに赤くて、宗介は酷くこころが落ち着かなかった。  
自分を思って今にも涙をこぼしそうなかなめは正視に耐えない。よろけた宗介を支える為に近づいたかなめの真っ直ぐな目が、  
美しくて。  
「千鳥…本を、貸してくれ」  
「うん…」  
宗介から離れるつもりがないことを寄り添うことでアピールして、かなめは本をそっと渡す。  
「ね、中、入ろ?」  
「しかし…」  
肘をつまんで引っ張られ、宗介はフラフラと上がり込んでしまった。防護服も着ているし消毒もしてきたので多分大丈夫だろ  
う、などと急に楽観的になる。  
 
疑わしい項目を一つずつ調べてみたが、どこにも該当する症状はなかった。真剣な目つきでページをくる宗介を黙ってみつ  
めていたかなめも、30分にもなる無言の時間に耐え兼ねて恐る恐る、尋ねてみる。  
「ねえ、宗介…どんな病気なの?」  
「わからん、全く未知だ」  
「熱とか、咳は?」  
「熱はない。…と、思う。咳もだ。だが動悸が速い。倦怠感の様な物がある。それから…変な臭いの膿が出るのだ…」  
「ウミ?どっか怪我してるの?」  
「いや、現在目立った外傷はない。…ペニスの先から出る。尿と同じ穴と思われる」  
この時、真剣な面持ちだったかなめの顔に明らかなツッコミの色が浮かんだことに、宗介は気づかなかった。  
かなめも、あくまでも深刻な様子の宗介に、それオナニーしてるだけんんじゃ…とは言えなかった。でも多分そうだ。  
「宗介、あのさ…それ、って…どう、やるの?」  
「どう、とは?」  
不思議そうな宗介はとりあえず説明を始める。  
「最初は股間に奇妙な倦怠感があったので揉んだのだ。そうすると白く臭い膿がでた」  
うわ、臭いんだ。とかなめは妙に冷静に考える。多いとは言えない知識を総動員したところ、宗介は多分…初めて射精した  
のだ。そりゃ、びっくりするだろう。突然体からそんな、そういう…それが出たら。かなめはもじもじと居心地悪そうにし  
て、ちらちら宗介を見る。  
「…出るとき、痛い?」  
「いや、痛みはないな…ただ少し体が弛緩して、意識が遠のくぞ」  
「ふうん…」  
あたしは体がきゅっとなってその後、ほわ〜っとなるけどなとはかなめも言わない。相変わらず深刻な表情の宗介に、かなめ  
はそっと言ってやった。  
「ソースケ、それ多分病気じゃないよ」  
「そうなのか?」  
「ん…生理現象、って言うのかなあ」  
「君は、この症状について俺よりずっと知識があるようだ」  
ほんのりと色づいたかなめの顔や腰を捻って座る体を見ているとまた排出したくなり、宗介はおずおずと切り出す。  
 
「千鳥、これが病気でないのならば良いのだが、その…やはり不安なのだ」  
「うん?」  
「見て、もらえないだろうか」  
「え…え。ちょっと、ソースケ!?」  
もぞもぞと防護服を脱ぎはじめた宗介を止めかけて手を引っ込め、あれよあれよという間に彼は色気のない木綿の下着姿に  
なってしまった。中心がこんもりしているのは気のせいではないと思う。  
 
「ペニスがこのように硬く腫れてしまい…こう、揉むと…」  
一度下着をずり降ろしてそこがどうなっているかかなめに見せてから、宗介はもう一度はきなおしてその上からぐいぐいと  
股間をまさぐる。程なく、くっと小さく息をのんで射精した。その時のとろけたような表情は、簡単には忘れられないと思う。  
「どう…だ?」  
はあはあと息を荒げ涙目できかれて、かなめは思わず「あたしも」と言いかけ慌てて口をつぐんだ。  
「あ、うん…それ、病気じゃないよ。あの…えっと」  
気持ち良かったのかな。誰の事考えてしたのかな。  
(…あたし?)  
ティッシュを渡してやりながらかなめの体は中心からじんじんした熱が出る。  
「皆それは、で、出るよ…それとはちょっと違うけど、女の子も、出るの」  
「そうなのか?では君も初めての時は不安に?」  
「あたしの時は…もう学校とかで教えてもらってたからそんなには。でも血だから…」  
「血!?…出血したのか?」  
「うん。毎月出るのよ。でもそれって当たり前の事なの。あ、あと…」  
かなめはちらり、と宗介の股間を見遣る。さっきよりもっと大きくなっていた。  
「…あたしに、見せたこと誰にも言っちゃだめよ?学校でも、ミスリルでも…普通、一人でコッソリするものだから」  
「そう…なのか…」  
一人でコッソリ、と聞いて宗介の股間が更に持ち上がる。つらそうで、かなめはごく優しく囁いた。  
「あのね、ソースケつらそうだから…このままじゃ家帰れないよね?だから」  
前屈みになって宗介にぐっと近づく。越えてはいけない領域へそっと、踏み込む。  
「もう一回だけ見てあげる…ソースケ、パンツ脱いで…」  
「あ、う…」  
「このままじゃ気持ち悪いでしょ?中…ほら、どろどろだよ」  
下着を脱がされ、床に正座した宗介は余りの事態に硬直した。かなめの本意が解らない。一人でこっそりするものだと言う  
くせに、見てあげるとは…まるでそうすると気持ち良いとばれているようで、後ろめたくもある。いや、これはただの親切心だ。  
確かにこの衝動に襲われると、歩行困難に陥るし、動悸も激しくなる。だから…だすのだ。 宗介は改めて自分の物を見下ろし、  
右手で掴む。ソファに座ったかなめがじっと見ている。掴んだはいいが、下着越しに揉むのと直接掴むのは勝手が違った。  
しかもかなめに直接見られている。緊張と混乱で宗介の股間は徐々に威力を失い、目に見えてしぼみはじめた。かなめの方を  
向くことが出来ず、宗介は俯いたままぼそぼそと「今日はもう仕舞いの様だ」と呟いた。  
 

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