げし、とかなめの足の裏が正確に宗介の鼻柱にヒットした。  
「…痛いじゃないか」  
「う、うるさい!どこさわってんのよ、このヘンタイ!!」  
 かなめは色白の頬を淡く染めながら、かき集めたシーツや毛布で体の前面を隠す。  
 しかしはだけた制服の衿の奥からきゃしゃな首筋や、そこから続く丸みを帯びた細い肩が  
のぞいているのにはまるで気付いていないので、宗介は既に臨戦態勢の己を持てあましながら  
途方に暮れた。  
「そうは言われても、俺が君の下半身にさわらなければ行為が続行できんのだが」  
「それでもだめ!どうしてもって言うんならあたしにさわらないでやって!」  
 これまで性交渉に及ぶこと既に数回、はじめは必死だったせいか羞恥心の出る幕が  
なかったと見えて、むしろかなめの方が積極的に体を開いてきたこともあったというのに、  
急にここに至ってのこの反応である。  
「それは無理だ」  
 正直な話、宗介としては彼女の体にふれたくて、肌を重ねてしまいたくてたまらない。  
 そろり、と身をよせると容赦のない鋭い蹴りが飛んできて、紙一重でかわした彼の頬をかすった。  
「千鳥。…その」  
 片手で顔の下半分をおおったまま横を向いた宗介がぼそりと「見えるぞ」と言うと、かなめは  
悲鳴をあげて布の固まりをすらりとした腿の間に押し込んで彼を睨む。  
「こっち見ないで!」  
 彼女を見もさわりもしないで完遂するにはどうしたものかとの思案のあげく、宗介は  
「俺から君をさわるのが嫌なのか」とかなめに聞いた。  
 
「……嫌…、って訳じゃ…ない、けど」  
 ごにょごにょと口ごもる彼女に、ならば、と詰め寄れば「だめって言ってんでしょ!」と  
身をすくめてぐしゃぐしゃのシーツ類をかき抱いたままの彼女から横なぎに回し蹴りを  
食らいそうになって、のけ反った宗介は、むう、と呻いた。  
 はっきり言ってそろそろ限界なので、このまま我慢しきれなくなってしまえばおそらく  
自分のやることは彼女の気にくわないことでしかない。  
最悪、心身のどちらか、もしくは両面で彼女を傷つけかねないし、そんな事態は絶対に  
避けなくては。  
 彼は顔には何も出さないまま、ぎりぎりの状態まで追い込まれた思考で導き出された答えを  
口にした。  
「俺から君をさわってはいけないのなら、君から俺をさわってくれ」  
 ここで「やめる」という選択肢が存在しないあたりが若気のいたりというものだろう。  
 一方、あまりに堂々と言われてしまったかなめにもその選択肢は浮かばず、これまでの  
幾度かは自分がお姉さんぶってしかけてしまったこともあり、彼女はついうなずいてしまった。  
「見ないで、よ」  
「了解した」  
 宗介は少しだけほっとして目を閉じる。  
彼女の姿を見ることも出来ず自分からはふれられないにしろ、いい加減この切羽詰まった  
状態から解放されたかった。  
 ごそごそと布の固まりから抜け出す音がして、柔らかい布地がすれる音、ぱさり、とベッドの  
下に何か軽いものが落ちて、きし、とマットのスプリングが鳴る。  
 浅いのか、呼吸が速い。さらさらというかすかな音は髪だろう。その周囲より高い温度を  
やわらげるうっすらとした湿り気は、汗ばんででもいるのだろうか。  
 視覚を遮断したせいで研ぎ澄まされてゆく聴覚と彼女の気配を肌で捕らえようとする意識の  
おかげで、早くも彼自身がはち切れそうに痛んできて宗介は焦る。  
 おずおずと伸ばされてきた指先と、傍らにかがみ込むあたたかみを感じていると、手の甲に  
ふわふわとやわらかな刷毛で掃くように彼女の髪がすれた。  
 一番下までシャツのボタンを外してベルトの金具をといてジッパーを下ろした辺りで、彼女の  
動きが止まる。  
 
 わかりやすく反応している自身の欲を目の当たりにして逃げてしまったのではないかと宗介は  
慌てたが、探るまでもなく彼女の気配は傍らにあった。  
 考えてみれば話しかけるなとも動くなとも言われてはいなかった、とようやく思い当たった彼は  
「脱ぐぞ」と言って身を起こし、裸になる。  
 本当は薄目を開けて彼女が本当にそこにいるのか、どのような表情をしているのか、どんな姿勢で  
いるのか見たくてたまらなかったが、どうにかこらえて乱れた寝具の上にあぐらをかいた。  
 花のような甘い香りが近づき、ひんやりした柔らかい指先と手のひらが頬をなでて、唇がふれる。  
思う存分彼女の中に入ってしまいたいのをこらえて待っていると、彼の内側に入り込もうと  
した舌先はすぐに引っ込んでしまった。  
「千鳥」  
「な、なに?」  
 彼女の顔の一と角度からすると自分の側に膝立ちしているらしい、とそちらを向いて宗介は  
交渉を始める。  
「当初の話では、俺がさわってはいけないのは君の下半身だけだったのではなかったか」  
「そ、…うだっけ」  
「そうだ」  
 欲を言えば目も開けて彼女の全身を見たかったが、そこはおいおい交渉することにしよう、と  
宗介はかなめの熱を感じる方向へ手を伸ばした。  
 声を飲む気配を撫で上げた背の肌ごしに感じて、彼は手を止める。怖がらせてしまったのだろうか。  
 
 だが、それにしては…何か妙に、甘い、…ような。  
「や、やっぱりだめ、ソースケはさわらないでっ」  
 焦ったような彼女の声が何故か腹の下をうずかせるように体中に響いて、宗介はたまらなくなる。  
「そもそも何故俺は君にふれてはいけないのだ?」  
 律儀にも肌の上すれすれに広げたままでいたら、手のひらの下で身をよじる動きを感じて彼は  
熱にかすれた声で彼女の名を呼んだ。  
 もっとうんとキスがしたい、力一杯抱きしめたい、髪を肌を全身で撫でて歌う声も途切れる声も  
全部を余さず聞いて、奥底でも末端でも君と深くつながりたい。  
「…千鳥」  
 だって、と固くうずくまる今にも逃げ出してしまいそうなからだから、蚊の泣くような声がした。  
「………へんな声、…でちゃう、から…っ」  
 かなめの体を囲い込んで硬直した腕と広げたままの手のひらのそばゼロコンマ一ミリで、  
熱と湿度がふわっと上がり、甘い香りが濃くなる。  
「断じて君は変な声など出していないぞ」  
「あ、あたしがいやなのっ」  
「では君が耳をふさいでいれば済むことではないのか」  
 ついうっかり言ってしまった言葉に彼女がうなずくはずもなく、宗介は至近距離からの腹への一撃に  
体を丸めてうめき声を上げた。  
 
 いつものように「痛いぞ」とも言わず膝蹴りの入った箇所を押さえて動かない宗介に、つい容赦の  
ない攻撃を無防備極まりない姿の相手に入れてしまったかなめは口ごもりながら言った。  
「あ、あんたがバカなこと言うからなんだからね」  
「………っ」  
 返事がしたいらしいのに言葉がないのに急に怖くなって、彼女はそろそろと宗介の背を撫でる。  
「だ、大丈夫?」  
 小さく上がった片手が小刻みに振られて、どうも「大丈夫だ」と示したいらしいが、汗だくで  
腹を抱えて身を伏せている姿はどう見ても大丈夫そうではない。  
「…ご、ごめんね?わざとじゃなかったんだけど」  
「………」  
 ぼそぼそと聞こえた声はどうやら「問題ない」と言っているらしいが、ほとんど音になって  
いないのに慌てたかなめは、青くなった。  
「ちょっと、ほんとにごめん。おなか見せて」  
 宗介の手をどかせて見た箇所は赤くなっていた。彼女はそうっと彼の下腹を撫でて彼の顔を見る。  
 苦しそうに寄せられていた眉がゆるんで細く息が吐かれたので、かなめも肩から力を抜き患部に  
手を当ててゆっくりとさすってやる。  
「まだ痛い?ほかにどっか痛いとこある?」  
「……ないわけでは、ないが」  
 彼女の手の甲に重ねるように手のひらをかざして、宗介は「さわってもいいか」と尋ねた。  
「あ、あたりまえじゃない、何言ってんのよあんたは」  
 こんな時にまで我慢しなくても、と半泣きのかなめの手を包んで腹に押し当て、さりげなく彼女の  
背に腕を回した宗介はじわじわと彼女を抱き寄せて己の体に密着させると、長い息を吐く。  
 首筋に固い髪のすり寄せられるのを感じた彼女は「この方が楽?」と聞いた。  
「ああ」  
 低い声で答えた宗介は、時おり腕や手のひらを動かして、かなめの背筋や脇腹の形をなぞるように  
撫でては彼女の体を引き寄せるように、ごく軽く腕に力を入れる。  
 
 彼に悟られないようそろそろと息を吐いていた彼女の呼気が、わずかに震えた。  
 …ソースケ、あたしのこと撫でてるだけなのに。  
 彼の腿にぴたりとふれている裸の下腹の奥がむずがゆくしびれてくるようで、かなめは彼の胸板の  
上で伏せていた顔をしかめる。耳たぶにかかる暖かな息に、頬のうぶ毛がぞくぞくとあわ立った。  
 尖っていく胸の先端を止めることも隠すことも出来ず、ほんのわずかな彼の動きに肌の下で  
熱が上がる。  
 彼女の優しい手のひらに撫でられて痛みは薄れたものの、薄れきってしまうまでに別のところの  
欲求に抑えが効かなくなってしまい、この辺りか、と遠くなりそうな気をどうにか彼女にふれている  
箇所に集中させた宗介は、先ほどからそこにふれると明らかに彼女が身をすくめる肌の薄いところを  
やわやわと撫でた。  
 これまでのことから比較的わかりやすい直接的な箇所の他に、彼女の体にはそういう場所が  
いくつかあるらしいことは知っていた。  
 ふれているうちに、布に染みが広がっていくようにあちこちの感度が上がる、というのも。  
 最後には全ての色が変わるのではないかという期待は、どうも事実になりそうで、彼は彼女の  
肌をたどる指先に不自然な力をこめてしまわないよう集中する。  
 ざらり、と固い毛先が首筋をかすり、下腹から這い上がる熱が広がって彼の肌のふれていると  
ころとつながるようにむずがゆさが増した。  
 漏れそうになった声を飲み込んだかなめは、慌てて体に力を入れて宗介の顔を見上げる。  
「あ、あのね、ソースケ」   
 続きを言おうとしてかすった唇が、じん、と痺れてひるんだ瞬間、隙を突かれた。  
「……ふ、…っ」  
 絡め取られるように深くキスをされて、潤んだ目をかたくつむる。  
 息を切らせた彼女が何も言えなくなるまで何度も唇を押し当てて、既に充分なほど感じやすくな  
っている彼女の腿の間に膝を割り入れて、ゆるりとこすり上げる。  
 
「!んん、…、――っ」  
 びくびくとしなやかな背がはねるのを押さえ込んでしまいそうになって、彼は息をつぐように  
かなめの唇を放して小さな頭を強く抱え込んだ。  
「そ、すけ、やだ、…ぁ、」  
 彼女のももが彼の膝上を挟むが、制止なのか次の仕草への懇願なのか、お互いもうわからない。  
 ぬるぬるとにじむ熱くてやわらかなところをこねるようにこすってやると、かなめは細く声を  
上げて強く背を反らせた。  
 宗介は放ってしまいそうな己にどうにか片手と歯で封を切った避妊具をかぶせて、彼女の体を  
開き、未だひくつくところへ自身を押し当てる。  
 彼のあご先から流れ落ちた汗が、かなめの透けるように白い下腹や抱え上げた腿の裏側に  
いくつも降りかかって垂れた。  
「いくぞ、千鳥」  
「や、やだ、いま来ちゃだめっ、」  
 いやあ、と悲鳴を上げた彼女の起こした波が彼の先端に吸い付くように彼をほんのわずかに  
内側へ引き込んで、強くかぶりを振って長い髪を乱した彼女の中に穿つように全てを収めてしまった  
宗介は、かなめのがくがくとふるえる背中を宥めるように何度も撫でた。  
 少し収まりはしたものの、彼の弾む息がかかるだけで身をよじる彼女の涙で濡れた頬にキスを  
する。  
「動いて、いいか」  
 く、と息を飲んで彼を見上げたかなめの焦げ茶の大きな瞳から、じわりと涙があふれて宗介は  
たまらなくなる。  
 もっと彼女をむちゃくちゃにこわして作り替えて、自分無しでは立ち上がれないようにして  
しまいたい。  
 そんな彼女を見てみたい。  
 けれどそれは例え叶えられたとしても、叶えてはいけない類の夢だ。  
 そもそも自分もそこまで持たないだろうと、冷や汗の出そうな気分で彼は勇み足の体に最後の  
意地でブレーキをかける。  
 
 宗介の激しい痛みをこらえているかのような、強く眉根を寄せている表情に彼の限界を悟ったのか、  
かなめは涙の跡の残る、それでもきれいな顔で微笑んだ。  
「いいよ、ソースケ」  
 きて。  
「や、あ、あああっ」  
 数度突き入れただけで背を反らせた彼女の中に思いきり放ってしまうと、彼は汗にまみれた肩を  
抱きしめてくれていたやわらかな細い腕を名残惜しい気持ちで外して、ゴムを取り替えた。  
 当たり前のように一度では終えないのを、断られずいるのをいいことに受け入れさせてしまっている。  
 彼女に蹴られた腹の辺りは明日には痣になるだろうが、本来この程度の痣で済ませてもらえるような  
ことではないのだろうとも思ってはいるけれど、それでこの欲の収まるわけでもなく。  
 再び収めた彼女の中がねばって脹らむように彼を押し包む。  
 放って間がないのに余裕がなくなりそうで、宗介はかなめの豊かな胸をつかんで先を軽く噛んだ。  
「ひぁっ」  
 もう中に入ってるのに、なんで。  
 ぞくぞくと胸から体の中心に電気のようなものが走って、彼を受け入れているあたりで何倍にも  
増える。  
 彼の出入りしている湿った音が大きくなった気がして、かなめはしわだらけのシーツを握りしめた。  
「ん、く…やああああん」  
 体を打ち付けてくる宗介の汗が肌に落ちるのさえ響いて、気が付くといつの間にかうつぶせに  
なっていた上、自分が上げているものとは思えないような泣き声が喉から絶え間なく漏れていて、  
彼女は慌ててシーツをつかんでその端を口に入れる。  
 今し方まで自分を煽っていた声が急に途切れたので何かあったのかとのぞき込むと、  
食いしばるようにしてシーツの端を噛んでいて、彼女の声が聞こえなくて不安になった宗介は  
動きをゆるめてさりげなくシーツを引いてみたが、なかなか外れない。  
 そのうち彼女の頭がベッドマットにわずかに押しつけられた時だけ布地が外れそうになるのだと  
気付いて、伏せた細い背を抱え込んでベッドの端にすがりついている彼女の耳元で彼女の名を  
呼んでやる。  
 途端に彼を深くくわえ込んでいる内側が絞られるように狭まって、苦しげに鳴いた彼女の  
ゆるんだ口元からシーツが外れた。  
 
「ひあ、あん、あ、ああ…も、やめて…」   
 彼女の懇願にもかかわらず聞き入れてやることもできなくて、宗介はせめて、と動きを速くして  
自分を追い込んだ。  
 自身を彼女の最奥に押し当て、きゃしゃな腰を引き寄せるようにして揺すぶると、きゅうっと  
形のいい尻が持ち上がって、ずるずると彼を引き抜きながら床にへたり込んだ。  
「っ、大丈夫か、千鳥」  
「……んなわけ、ない…しょ…」  
 ばか、と横抱きに抱え上げられたかなめは呟いて黙る。  
 今夜だけで何度貪ったことか、いくら彼女が元気な女子高生と言ったところでフルマラソンを  
重装備で走りきる十代の現役傭兵に欲が尽きるまでの相手をさせられれば、当然保つまい。  
 彼女が何度も行き着くところまで行き着いたのなら、尚更だった。  
 それでも彼女以外に求める気など無い彼は、彼女の唇に台所から持ってきたスポーツドリンクの  
ペットボトルをあてがう。  
 少しずつ飲み下したかなめはペットボトルの飲み口から口を離すと、彼の腹の辺りにそっと  
手を伸ばして言った。  
「…あとで湿布貼らなきゃ…ね…」  
 ふう、と息を吐いてそれきり寝入ってしまった彼女の傍ら、宗介はうっかり握りつぶしかけた  
ペットボトルをベッドサイドに置くと、彼女を横たわらせて毛布を掛けてやり、熱くなった額を  
押さえた。  
 今の彼女に抱いた気持ちを彼女に知られたら、腹を蹴破られても文句は言えまい。  
 そろそろ寝床で全力を尽くす以外に彼女を喜ばせる他の手を身につけなければ、逆効果の  
ような気がする。  
 はあ、とため息をついた宗介は自分の体の始末を終えたあと、彼女の隣にもぐり込んで寝息を  
立てている彼女の髪をしばらく撫でていたが、ふと思いついて非常にていねいに彼女の体の  
始末をもしてしまい、翌朝かなめに悲鳴を上げられた上で「余計なことしないで」ととりあえず  
昨晩とは違う場所にしこたま蹴りを入れられた。  
 

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