ジョキ、ジョキと宗介の髪を切る。なぜ髪を切ってあげることになったのか。単なる気まぐれかもしれないし、  
他人の髪を切るということに興味があっただけかもしれない。ただ楽しそうだったからかもしれないし、実際に  
こうやって散髪していることは意外に楽しい。  
 あちらにハサミを入れたり、こちらに入れたり。少しずつ髪が切りそろえられていき、さっぱりとしていく。  
自分の手で、自分の思い通りの宗介になっていく。それはいつもの宗介と同じわけなのだが。  
 宗介はおとなしく髪を切られている。床屋さんであれほど暴れたのが嘘であるかのように、借りてきた猫よろ  
しくじっとしている。  
 指先から伝わってくる宗介の髪の感触。硬くてゴツゴツとした手触り。恭子のやわらかくてしなやかな髪とは  
正反対の男らしい髪。今まで知らなかった宗介の一面。今初めて知った宗介の一面。髪を切りながら宗介の髪を  
撫でる。こんな機会でもなければこんなことできるはずもない。だからこそ大事に、いたわるように、このわず  
かな時間を惜しむかのように、そして恋人にするように髪を撫でる。  
 宗介も恋人に触られているかのようにやすらいだ表情でかなめにされるがままを許している。宗介の頭をあれ  
これ動かしてみたり、まっすぐ前を向かせたり。髪を切りながらたわいもないことをあれこれと喋る。しんみり  
とした、やすらぐような会話。恋人同士だとか、夫婦だとかが話すような。こうやってスキンシップをしている  
ことで自分の気持ちが宗介に伝わるのだろうか。きっとそうなのかもしれない。そうなってほしい。口にはとて  
も出せないが、この瞬間だけは心が通じ合っている。そう想う。  
 
 いつの間にか好奇心を満たす楽しいという気持ちはどこかに消えていた。今ももちろん楽しい。  
でもそれは、宗介だから。こうやって、恋人同士の気分で近づけるから。  
 鏡に映る自分と宗介。こんな気持ちでべったりとくっつけるなんて、こんな時でないとありえ  
ない。ちょっと寄りかかれば宗介とくっつける。もしこのまま宗介を抱きしめたとしたら、彼は  
どう思うことだろう。宗介の頭を胸に抱き寄せてみたとしたら。  
 きっと、ありのままを受け入れてくれるのではなかろうか。  
 そんな都合のいいことをあれこれと夢想しながらハサミを振るう。少しずつ、でも確実に宗介  
の髪は切り揃っていく。切れば切るほど、この素敵な時間は終わりに近づいていく。もし散髪が  
終われば、またいつもの距離に離れなければならない。それは残念で寂しいことだった。もし許  
されるのであれば、この幸せな時間をずっと楽しんでいたい。そんなことは不可能だとわかって  
いたとしても、そう望みたくなる。ずっとこうしていられればいいのに、と。  
 かなめの想いとは裏腹に、宗介の髪はあらかた整ってしまっていた。どうしようか迷いながら  
話だけを続ける。顔と顔を近づけながら耳元でそっとささやく。  
「あたしね、宗介だけは信じているから」  
 ぎゅっと抱きしめてもよかったかもしれない。  
「もう少し、右を向いてくれる?」  
 なぜか宗介は逆を向いたので、頭を掴んで自分の方へ向き寄せる。これで前の方も切ることが  
できる。  
 前屈みになって散髪を再開する。ジョキ、ジョキと切る。  
 
 前髪を切っていると、すぐに宗介の異変に気づく。そわそわしているというか、落ち  
着かないというか、さっきまでのやすらぎムードとはまるで違う。どうしてこんなこと  
になったのかとちらっと宗介の目を見る。泳いでいるというか、どこを見ているのかピ  
ンと来た。こうやって屈んでいるとTシャツの胸元が丸見えだ。胸の谷間と水色のブラ  
が宗介の視界にも入っている。いつもなら「どこ見てんのよ!」とどつくところだが、  
その言葉がのど元まで込みあがってきたところでぐっと我慢をする。たまにはこうやっ  
てあいつをどぎまぎさせてやろう。谷間を凝視されているのはしゃくだが、見まいと思  
いつつも胸に視線がちらちらと行ってしまう宗介を見るのは楽しい。朴念仁だとばかり  
思っていたものだが、意外に普通の男子と変わらないのだと、こういう意外性を発見す  
るのもなかなかいい。気づいていないふりをして、もう少し困らせてやろう。前髪を切  
り終わるまで、いつも守ってくれているのだから、サービスしてやるのも悪くない。  
 宗介だって、こういうの興味あるのか。  
 もし、このまま宗介の顔を胸に埋めてやったら。抵抗するだろうか。慌てるだろうか。  
それとも、すべてを受け入れてくれるだろうか。  
 自然とキス、できるだろうか。そしてあれやこれやと、大人の階段を上れるのだろうか。  
 そんな風になれるだろうか。なってもいいのだろうか。  
 宗介とあれこれなる姿を妄想しながら髪を切る。ジョキ、ジョキと規則正しいリズム  
を刻む音が心地よい。  
「よし、できたぁ」  
 
 いつの間にか、宗介はうとうとと眠ってしまったようだ。終わりの声でも起きたりはせ  
ず、ゆらゆらと体を揺らしている。  
 じーっと宗介の顔を凝視する。いつも物騒なことばかりしている男でも、寝顔は可愛い  
ものだ。なんとなく、とても幸せそうに眠っている。こんな間近で宗介を観察するのはは  
じめてだろう。宗介の吐息がかなめの頬にふれる。少しだらしなく開いた口。意外に綺麗  
な唇がかなめをドキドキさせる。このまま、顔を近づけていけばキス、できるかもしれな  
い。普段は素直になれなくても、寝ているうちならなんでもできる気がする。この前に延  
期してしまった分を、取り返してもいいかもしれない。変な気持ちがどんどん膨らんでい  
って、かなめは静かに唇を近づけていく。  
 やっぱり、だめっ。  
 そう思った瞬間には唇と唇が合わさっていた。優しく、ふれあうだけの初心者のキス。  
宗介の唇の感触が唇越しに伝わってくる。  
 キスって、こんな味なんだ。  
 あたたかくて、あまくて、やわらかくて、心がとろけそうになる味。むさぼりたくなる  
ような、震えるような、しびれるような。宗介の息づかいを感じながら、軽く宗介の唇を  
自分の唇で噛む。  
 すぐにやめないと宗介が起きてしまう。そんなことがわかっていても、止められるもの  
ではなかった。ずっと味わっていたい。むさぼるように、もっと、もっと。このあまく、  
せつなく、ほんわかとした雰囲気を手放したくない。そんな気持ちが頭の中で支配的にな  
っていく。もし、宗介が起きたとしても、どうにかなるものか。今までの関係からほんの  
一歩前に近づくだけ。それで誰が困るというのか。誰も困るわけもない。少なくとも自分  
だけは。今この瞬間が手にはいるのだというのなら、今までの関係を失ったとしてもそれ  
でいい。宗介だって、きっとそうに決まっている。  
 
 悪魔なのか天使なのか、そう都合のいいことを頭の中でささやいてくる。  
 気づいてほしいのか、気づいてほしくはないのか。それもどちらなのかはもうよくわか  
らない。気づかなければ、そう長い時間ではないだろうが、この甘美な瞬間をもっと味わ  
える。宗介が目覚めれば、こんな唇をあわせているだけのキスではなく、次の段階に進め  
る。舌と舌を絡み合わせるディープなキス。唾液を交換し、飲み干し、とろとろに蕩けた  
吐息を混ぜたキス。さすがに一人だけではそんなことできるわけもない。  
 起こしたいのなら、声を掛けるなり、肩をトンと叩くなりすればいい。そんなことわか  
っていたとしても、どちらもする気は起きない。では起こしたくないのかというと、そん  
なこともない。体は次のステップに進みたくてうずうずしている。こんなささやかなキス  
をしているだけだというのに、胸は熱くなり、心臓は高鳴り、ほんの少し、少しだけれど  
股間が湿ってきてしまっている。こんなことだけで濡れてしまう。つまり、宗介のモノを  
欲しがってしまっているなんて、普段の自分なら断固として否定したことだろう。  
 次は何をすればいいのか。ずっとこのままでいいのか。宗介の頬を撫でたり、たくまし  
い胸板をまさぐったり、あるいは、宗介の股間に手を伸ばしてあれを愛撫したり。あれや  
これやを頭の中で考えているうちに気がついたら宗介と目が合っていた。  
 先に気づいたのはどちらだったのか。自分か、宗介か、それとも同時なのか。夢から醒  
めてすぐに目があったということはあるのかないのか。  
 
 きっと、自分も宗介と同じ表情をしているのだろう。瞳に映った自分が見えたわけでも  
ないのだが、そう確信する。宗介は驚き、戸惑っていた。だからといってすぐに悲鳴も行  
動もしなかったというのは、もっと前に目覚めていたからなのだろう。宗介はされるがま  
まにキスを受け入れていた。彼もキスを楽しんでいたに違いない。宗介の瞳はキスでのぼ  
せているみたいだった。そして自分の瞳も。  
 硬直していたのはそんなに長い時間ではなかった。あれやこれやを理解して軽く微笑む。  
そこには畏れも遠慮もいらなかった。目を閉じて唇を近づければ、予想よりも早く唇が合  
わさる。  
 一方的なキスではなく、宗介も積極的に求めてきている。キスの経験が豊富なわけもな  
く、きっとはじめてのくせにやたらと上手だった。それは自分も同じことで、こんな大人  
のキスをしたことなんて今までになく、それでも体が勝手に動くのはどうしてなのだろう  
か。赤ちゃんがおっぱいの飲み方を誰に教わるでもなく知っているように、ひとはキスの  
仕方を本能的にわかっているとでもいうのか。  
 くちゅくちゅと舌と舌が絡み合う。ぬめりとしていてとろとろで、心を直接触られてい  
るかのような快感。普通のキスも素敵だったけれど、こっちはひどく官能的だ。エッチの  
前哨戦ともいえるし、セックスそのものともいえた。薄目をあけて宗介を見る。宗介も同  
じことをしていたのがわかって少し照れる。宗介も照れる。同時に微笑む。  
 ちろちろと舌をつつきあうと、次は宗介の口の中に思いっきり舌をつっこんで舌で舌を  
搾り取る。舌の裏側だとか、歯茎のところだとか、そのあたりを舌で這わせると宗介は腰  
砕けそうなほど感じている。次は自分の番。宗介と同じように感じられることを待ちわび  
て心が震える。  
 
 唇を離すとお互いの混じり合った唾液が名残惜しそうに糸を引くのがとてもエロチック  
だ。くすっと微笑むとまた口づけを交わす。  
 宗介の口の中の唾液を舌ですくって自分の口の中に移す。それを宗介が舌で絡みとって  
いく。宗介がそれを自分の唾液と混ぜてまた受け渡し、再度かなめの口の中で唾液と混ぜ  
て宗介の口の中に送り込む。時折、それをお互いに美味しそうに飲み干す。舌の上にいっ  
ぱいに唾液をためて、飲ませるためにわざと唇を離す。上からのぞき込むようにして唾液  
をたらーっと宗介の開いた口の中に流し込む。  
 こうやってべとべとになるほどキスを続けていくと、体が火照ってくる。宗介だってズ  
ボンの前を痛そうなほどにパンパンに膨らませている。そろそろ次のステップに進みたく  
なってくるが、宗介は一向に手を出してこない。股間は宗介がほしくてぐしょぐしょに濡  
れているし、おっぱいは宗介に揉んでほしくてたまらないほど疼く。ここまで何もしてく  
れないと自分で弄りたくもなってくるが、さすがにこいつの前ではそんなことできない。  
さわって。なんて要求することももちろん。  
 こんな魅力的な女がねだっているのにどうして何もしないのか。宗介を恨めしく思うと  
ころではあるが、宗介の表情を見ると彼も苦しんでいるのがよくわかる。きっと、かなめ  
の許しを待っているのだろう。それが彼なりのルールであり、紳士的なつもりでもあるの  
かもしれない。この期に及んで理性を失って襲いかかってきたりしないのは自分への信頼  
であると受け取っておこう。  
 少し気分がよくなっても、体の火照りは収まるわけではない。だからといってやっぱり  
宗介に「して」とは言えない。自分でもできない。だから、宗介の体に擦りつけて彼を挑  
発する。  
 
 キスをしながらぎゅーっと胸を押しつける。抱きしめる。宗介が座っているところに対  
面座位のかっこうで座る。少し不安定な分、余計に宗介に抱きつく。抱きつくながらゆっ  
くりと体を上下に揺らす。勃起した乳首が制服越しに宗介の胸板でこすれて気持ちがいい。  
股間には宗介の勃起したものが感じられる。下着の湿りが宗介に伝わってしまっただろう  
か。さすがにズボン越しではそんなことないはずだが、少し不安になる。  
 上と、胸と、下でそれぞれが擦れあう。確かに気持ちがよくて先ほどの欲求不満感は薄  
れはしたが、これはこれでじれったくて余計に募るものがある。自分がたまらない以上に、  
宗介なんて苦しいだろう。それとも刺激が強すぎて腰砕け寸前だろうか。いつまで我慢で  
きるのか彼を試す。  
「ち、千鳥……」  
 想像以上に早く宗介は泣きそうな声を漏らした。わざとわからないふりをして首を傾げ  
てとぼける。宗介は声にならない悲鳴を上げる。射精しそうになっても、この程度で暴発  
するのは男として許せないのだろう。一度このまま出させて優位を築き上げるのも悪くは  
ないが、はじめてなのだからちゃんとすっきりとやりたかった。きっと、宗介だってそう  
だろう。唇を噛みしめ必死に我慢している宗介の顔を見ていると嬉しさと憐憫の気持ちが  
同時にわき上がってくる。  
「ねぇ、ソースケ。どうしたいの?」  
 擦りつけるのをいったんやめて、耳元で囁く。答えはあくまでも宗介から聞かなければ  
ならない。もし、意中の言葉が出てこなければ、再び宗介を刺激しなければならない。今  
度はきっと泣いて謝っても許さないだろう。  
 
 宗介はその一言を言うのにやや躊躇しているようだった。しばらく、いや、ほんのわず  
かな時ではあるが見つめ合う瞬間ができる。目で回答を促す。きっと通じないかも知れな  
いが、きっとわかってくれるはず。  
「千鳥を抱きたい」  
 宗介にしては婉曲な答えだった。八〇点。心の中でだけつぶやく。残りの二十点は終わ  
るまでに埋め合わせてくれればいい。宗介の問いかけにどう答えるべきか逡巡して、少し  
もったいぶって、頬を赤らめてうなずく。  
「うん……。でも、ベッドでして……」  
 宗介の首に抱きつくと、宗介はそのまま立ち上がって、お姫様だっこで寝室へ向かう。  
その間にもキスは忘れずに。この瞬間を惜しむかのようにゆっくりと、ゆっくりと歩いて  
いく。  
 宗介はお姫様だっこをしてもふらつくそぶりさえ見せない。意外に華奢な作りの体の割  
にはけっこう逞しいところがあるのだと改めて見直す。  
 優しくベッドに横たえさせられるとまたキスをする。宗介の手が胸にまで伸びてくる。  
待ちわびた快感に吐息を漏らす。ビクッと体が震える。自分でさわってもせいぜい気持ち  
いいかなという程度だというのに、異性にさわられるとどうしてこんなに違うものか。宗  
介も胸を揉んでいて気持ちがいいのだろうか。きっとそうなのだろう。  
 プチプチとブラウスのボタンが外されていく。下着は可愛いやつを付けていただろうか。  
こんなことになるんだったらこの前買ったものを付けておくんだったと少し後悔する。ブ  
ラウスがはだけて薄いブルーのブラが露出する。宗介は獣のような鋭い視線で谷間を凝視  
している。  
 
 ブラウスの次はブラジャー。後ろに手を回してガチャガチャとやっているがなかなか外  
れない。やっぱりケーケンないんだ。少し嬉しくなる。ブラが外れないので乱暴に上にず  
らそうとするのを制止する。  
「乱暴にしないで。優しく、ね」  
 ホックになっているから、そう、両手でしっかり外せば……。  
 指導してあげると今度はちゃんと外せた。胸の締め付けがゆるんでほっとする。  
 宗介は肩紐を一つ一つ外していく。お父さんにも見せたことがないおっぱい。それを異  
性に見られるのはやはり気恥ずかしい。大きさといい、形といい、どこに出しても恥ずか  
しくないものだとわかっていてもそれは変わらない。いっそのこと手で隠してしまおうか  
と思わないでもないが、無駄な抵抗なのは間違いない。  
 あれこれと頭の中で考えているうちにブラジャーがすとんと下に落ちる。宗介が生まれ  
て初めて異性の目に露わになった胸を凝視している。そしてすぐにこの処女地に手を出し  
てくる。瑕一つなくたわわに育ったおっぱい。男を悦ばすためにあるおっぱい。すでに乳  
首は服の上から宗介に揉まれて勃起していた。宗介は自分のおっぱいを気に入ってくれる  
だろうか。好きでいてくれるだろうか。そういうことばかり気になってしまう。  
「んっ」  
 宗介の無骨だが暖かい手が胸を包み込む。いつもは乱暴なくせに赤ちゃんを抱きしめる  
かのように優しく触っている。宗介の指が乳房の中にゆっくりと沈んでいく。乳房の感触  
とかなめの反応を一つ一つ確かめつつ優しく揉みしだく。  
 
 宗介の体温を胸から感じる。自分や恭子に触られるのとは明らかに違う。電気が走るか  
のような快感に思わずあえぎ声を漏らす。最初は不意打ちのような快感に驚いたりもした  
が、慣れてくればじわじわと広がってくる甘美な刺激に心地よくのみこまれていく。  
 宗介は唇に名残惜しそうに口づけをすると、次にあご、首筋、鎖骨へと舌を這わせてい  
く。鎖骨の次は乳房。宗介の狙いはもうわかっていた。乳首を口に含まれると今までにな  
い強い快感が襲ってくる。「あふん」と艶やかな声を漏らすと宗介は嬉しそうにおっぱい  
を飲み始める。おっぱいが出るなんてわけがないのに、宗介は一心不乱に乳首を吸ってい  
る。その姿は宗介が赤ちゃんになったみたいだった。母性本能をくすぐられてきゅんとする。  
「ねぇ、ソースケも脱いで……」  
 言われてはじめて自分がまだ服を着ていることに気づいたのか、宗介は自分の服を一瞥  
して一気に脱ぎ始める。さすがに全裸になることは躊躇したのだろう。トランクスだけは  
そのままだった。脱ぎ終わると覆い被さってきてまたキスをする。  
 宗介の裸は華奢ではあるが、よく引き締まっていてたくましさを感じる。古傷があちら  
こちらにある。新しいものから古いものまで。宗介の戦歴を物語っている。宗介の体重を  
感じながら、腕を宗介の背中に回す。裸で抱き合うのは心地よかった。古傷にそって指を  
なぞったり、厚い胸板をさすったり。こんなに気持ちがいいのだから宗介も同じだろうと  
乳首を弄ってみたりもするが、宗介はそんなに気持ちよさそうでなかったのが少し悔しい。  
 
 裸で抱き合っているといっても、まだ服は残されている。先に進むためには脱がされ  
る必要がある。トランクスに宗介のものがテントを張っている。鼻息も荒い。すぐにで  
も挿れたくなっているのだろう。男のものがどういうものなのか。知識では知っていて  
もまだ現物を目にしたことはない。まだ幼い頃にお父さんとお風呂を一緒に入った時に  
は目にしているはずだが、おぼろげにしか覚えていない。触ってみたいし、見てみたい  
のだが、なかなか踏み出せずにいると、宗介はスカートを脱がし、パンツに手をかけて  
いた。  
 上下でおそろいの下着。こっちを見られるのも恥ずかしいが、パンツをまじまじと見  
られるのも同じくらい恥ずかしい。なにせ今のあそこはびしょびしょに濡れてしまって  
いる。パンツにまで伝わったシミを見られたとしたら、これはもうどうにもならない。  
気づかれないうちに脱がしてほしかったし、中のものを見られるのももっと恥ずかしい。  
矛盾しているのだが、そういうことになる。どちらにしても恥ずかしいのだ。濡れてい  
るということは、感じているということだし、宗介のものが欲しくてたまらないという  
シルシなのだから。  
 パンツに糸を引いてませんように。  
 そう祈りながら一気に脱がされる。宗介にとってもそこは未知の秘境で、花園で、知  
的好奇心を刺激するところだったのだろう。ごくっとつばを飲む音が聞こえた。  
 恥ずかしい。もうそれだけでいっぱいだった。耳まで赤くなっているのではないだろ  
うか。足を閉じているから中までは見えないはずだが、黒いふさふさの陰毛とぷっくり  
とした恥丘が宗介の瞳に映っている。  
 そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、宗介は強引に足を広げさせて中身を見よう  
とする。ぎゅっと足に力を入れれば抵抗できたかもしれないが、どうしてか恥ずかしい  
気持ちだけで力が入らなかった。自分でさえもあまりよく見たことのない最後の秘境が  
宗介に見られてしまう。  
 
 変な形をしていないか。グロいとか思われないだろうか。弄られてもいないのに濡れて  
いてはしたない女だと思われないだろうか。そんな心配ばかりが脳裏によぎる。宗介は割  
れ目をこれ以上ないほど見つめている。ただ見られるだけというのはつらかった。触るな  
りしてくれれば気も紛れるというのに、などと正常な思考なら絶対に思いもすらしないこ  
とを考えてしまっている。  
「恥ずかしいよ……」  
 せめてもの抗議をしてみるが、宗介には通じない。  
「千鳥、綺麗だ」  
 などと的外れなことを返してくる。足を閉じてしまいたくなるが、宗介が両膝にがっち  
りと手を当てているためにそれもできない。恥ずかしさで余計に割れ目からじゅくじゅく  
と愛液がしみ出している。  
 宗介は割れ目を存分に視姦すると、もう十分に濡れていると思ったのだろう、トランク  
スを勢いよく脱ぎ捨てた。宗介の逸物が目に飛び込んでくる。  
 大きい。それに、なんかすごい。  
 百聞は一見にしかずとは言ったもので、想像していたものよりも大きくごつく、逞しい。  
凶器以外の何者でもないそれがかなめの膣にねじ込むために勃起している。宗介の顔は意  
外に整っていて綺麗だというのに、こっちのグロテスクさはどうだろうか。勃起したもの  
を初めて見るというのは意外にショックだった。  
 
 こんな大きいの、入るのかな。  
 客観的に見ればそこまで人並み外れたものではないはずで、冷静に知識をひもとけば平  
均程度であるはずなのだが、ほかに比べるものを見たことがないためもあって十分すぎる  
ほど大きく見える。なにせ自分のあの小さな穴の中に入るのだ。指一本が限界にみえるは  
ずの穴なのに、宗介のものの大きさといったら、比較にもならない。  
 性的興奮よりも破瓜のことばかり考えてしまう。痛いとか血が出るとか、痛いとか、痛  
いとか。あんなものを入れるのだから、痛いに決まっている。経験のある親しい人は瑞樹  
くらいしかいないが、はじめてのことは聞いていない。瑞樹によれば入れるのはすごく気  
持ちいいらしいが、そんなこと信じられないほどに宗介のは大きい。  
 そんなことを考えていると、宗介は逸物を手に持って割れ目に擦りつけていた。くちゅ  
くちゅと粘膜と粘膜が擦れあい音がする。あふれ出た愛液を竿やら先端やらになすりつけ  
ているようだった。いきなり入れられなくてよかった。まだ心の準備ができていない。つ  
い先ほどまでは宗介とひとつになりたくてたまらなかったが、いざその瞬間を迎えてみる  
となかなか決心がつかない。  
「あっ、ふっ、うん……」  
 性器同士を擦りあわせているとまた快感がじわじわとわき上がってくる。堅い棒がクリ  
トリスを通過するたびにあえぎ声が漏れる。こうやって生殺しみたいにされているのにだ  
んだんと我慢できなくなってきていた。確かにこうやっているのは気持ちがいいけれど、  
達するほどじゃない。いい感じになってきてもなかなか最後までは昂ぶれない。そんな自  
分の気持ちを代弁するかのように割れ目からは愛液が止めどなくあふれ出している。もし  
かしたらもう太もものあたりまでぐっしょり濡れているかもしれない。シーツに染みまで  
できていたとしたら、それを宗介に知られたとしたら、淫乱な女だと思われるかもしれな  
い。さすがにそれはたまらない。  
 
「ソースケ、せつないよ……」  
 潤んだ瞳で宗介に促すと、宗介もすべてを悟ったようだ。これから挿入するという合図  
に口づけをしてから逸物に手を添えてかなめの膣に入ろうと照準を定める。はじめてのく  
せに乱暴でないのは少し意外だった。それとも、はじめてではないのだろうか。そんな疑  
惑さえ頭の片隅に浮かんだほどだ。だが、彼が新兵だったのはすぐにわかった。ここまで  
大事に大事にしてくれていたのに、いざ挿入というところでなかなかうまく入らない。  
 そこ、違う。  
 最初は少し上だった。次は下過ぎ。今度は右。なかなか入れるのに手間取っている。何  
度やってもうまくいかないので宗介は焦り始めていた。きっと、自分はベテランのつもり  
だったのだろう。どこで仕入れた情報だか知らないが、もしかしたらクルツからなのだろ  
うが、かなめを上手にエスコートするつもりだったのだろう。それとも、童貞だというこ  
とを知られたくなかったのかもしれない。宗介の焦りはそんな色も感じられる。そんなこ  
とどうでもいいのに、いや、はじめてでかえって嬉しかったというのに。  
 さて、どうしてやろうかと考える。無理に入れなくてもいいからと言うべきだろうか。  
それとも、かなめが宗介のに手を添えて導いてあげるべきか。いや、どちらも宗介に恥を  
かかせるだけかもしれない。乗りかかった船なのだから、ここは最後まで宗介に主導権を  
握らせてあげよう。  
 
「もうちょっと右……。うん……、そう、そこ……」  
 これくらいなら大丈夫。入り口がしっかりわかったところで宗介は一息ためた。  
 ゴリゴリとこじ開けるかのように宗介が入ってくる。と、同時に引き裂かれるような激  
痛が襲ってくる。無理無理。こんなの入らない。メリメリっと何かが避けるような音が聞  
こえてくるようだ。悲鳴を上げたくなるがぎゅっと我慢をする。ある一定のところまで入  
ってくるとあとはスムーズだった。こんなペースで痛みにこらえなければならないのかと  
思っていたのに、一気に一番奥まで宗介が侵入してきた。  
「あはぁん」  
 一息をつく。子宮口を突かれたと思ったら、そこで止まる。どうやら根本まで入ったよ  
うだ。宗介も心配そうな表情でかなめを見つめる。  
「大丈夫か、千鳥」  
 問いかけに、小さくうなずく。ぎゅっとシーツを鷲づかみにして痛みをこらえていたが、  
慣れたのか、それとも一番奥まで入ったからか少しずつ痛みが和らいできたような気もす  
る。もちろん、まだまだ痛いと言えば痛いのだが。  
「やっと、ソースケと、ひとつに、なれた、ね……」  
 おなかの中で宗介を感じる。普段の宗介のようにむっつりで態度がでかいが、なぜだか  
とても嬉しい。痛みをこらえているかなめを気遣って優しく頬を撫でてくれる。宗介を包  
んでいるはずなのに、宗介に包まれているようなあたたかさだった。  
 ひとつになってキスをする。つながりあって動けない中で、唯一動かせる部分を交じら  
せる。舌をめいっぱい伸ばして宗介の舌を求める。くちゅくちゅと絡み合う。激しく、激  
しく。セックスしているかのように。  
 
 動かしていなくても宗介のものが膣でピクピクと蠢いている。下の口で激しく擦り合わ  
せたいのだろう。かなめも宗介の種子が欲しくてペニスを締め付ける。つながっているま  
まの状態というのは気持ちよくて、ちょっとくすぐったくて、せつない。もっと快感を貪  
りたくてたまらないのはきっと宗介も同じだろう。揺れるようにわずかながら宗介の腰が  
動いている。そしてかなめも宗介に合わせて腰が動きつつある。  
 宗介は何か言いたそうにして何度も躊躇している。言葉がなくても通じている。言葉が  
必要なのはかなめだった。これだけは言わないと宗介に伝わらない。  
「動いてもいいよ……。でも、優しくしてね」  
 かなめを気遣うように宗介はゆっくり、ゆっくりとペニスを抜いていく。もう抜けちゃ  
うというあたりでカリの部分だけで引っかかり、再び挿入していく。溢れ出た愛液を巻き  
込んでじゅぷぷぷと音を立てて沈んでいく。かなめの膣を広げながら。  
 押し込むたびに膣のひだひだに亀頭が擦れていく。一番奥で宗介のペニスがかなめの子  
宮口にキスをする。まだ苦しいという気持ちの方が大勢ではあったが、少しずつ、少しず  
つではあるが、あれ、これって気持ちいいのかもと思えてくる。  
 宗介も我慢ならなくなってきているのか、少しずつ腰の動きが速くなっていく。それに  
合わせてかなめもあえぎ声を漏らしていく。  
 宗介としていることは気持ちよかったが、それでもまだかなめはどこか楽しめないでい  
た。心の引っかかりとでもいうべきか、まだ宗介から聞いていないことがある。必死に腰  
を振りながら、時にキスをし、時に乳房を揉まれ、乳首を吸われたりしたとしても、その  
もやもやは晴れない。そんなかなめの微妙な気持ちの変化に気づいたのか、唐変木の割に  
はよくやったのだろう。かなめの頬を撫でて宗介はその言葉を囁いた。  
 
「千鳥、愛してる……」  
「うん……」  
 その言葉を聞いて、きゅーっと膣が収縮した。待ちわびていたたった一言。真に欲しか  
った言葉。かなめは全身で宗介に「あたしも愛してる」と応える。  
 おなかの中をぐちゃぐちゃにかき回されているかのような快感の中、かなめの意識は徐  
々に白濁していく。はじめは小さな声にすぎなかったものも、今では隣に聞こえてしまう  
のではないかと心配したくなるほどに大きくなっている。もうそんな些細なことを気遣う  
余裕はなくなっていた。ただ、宗介を感じたい。宗介を欲しい。ひとつになりたい、気持  
ちよくなりたい、という欲望だけがかなめを支配している。  
 えっ、あっ、なにこれっ? んっ、あっ、あっあっあっ……。  
「なにか来ちゃう。来ちゃうよぅ!」  
 宗介の背中に手を回し、きつく抱きしめる。ビクビクっと激しく痙攣しながら、宗介の  
背中に爪を立てる。  
 宗介も既に限界を通り過ぎていたのだろう。かなめの膣がこれ以上にないほど締まるの  
をきっかけとして、かなめの膣に激しく精を放出しはじめた。  
「あっ、うっ、ああっ、かなめ、愛してる。かなめぇー」  
「あたしも愛してる。ソースケ、ソースケ、ソースケ……」  
 意識が途切れそうになりながらも、勝手に口から言葉が飛び出ている。冷静だったらこ  
んなこと絶対に叫べない。きっと、恥ずかしくてハリセンで打っ叩いていたことだろう。  
射精しながら宗介がぶちゅーっと濃厚なキスをしてくる。狭い膣の中で宗介のペニスが暴  
れ回る。熱い白濁液が飛び散っている。びゅく、びゅくと勢いよく精子を子宮に注ぎ込ま  
れている。子宮はそれを美味しそうに吸い取ろうと膣が収縮を繰り返している。  
 
 射精を終えると宗介はぐったりとかなめにもたれかかってきた。宗介の体重を全身で感  
じる。精を絞り尽くしても、宗介のペニスはまだ小刻みに震えていた。まだ大きいままだ  
が、少しずつ小さくなって言っているような気がする。  
「ソースケぇ……」  
 すべてをやり終えて満足感いっぱいの宗介の表情を楽しみながら唇を重ねる。事を終え  
た後に重ね合わせる肌のぬくもりは心に染みるあたたかさだった。髪を優しく撫でてくれ  
たり、宗介の胸を指でなぞったり。いちゃいちゃとしているその様は幸せそのもの。宗介  
の胸に顔を埋めながら、この瞬間が永遠に続けばいいのにと思う。既に宗介のものは普段  
の大きさに戻って、いつのまにかつるんと膣から抜けていた。かなめのおなかに入りきら  
ない精液が破瓜の血に交じって割れ目から零れ落ちている。  
「千鳥、まだ痛むか?」  
「えっ? ああ、うん。あはは、うははは……」  
 まだ宗介にお腹をかき回されているような感触が残ってはいるが、痛みはほとんどない。  
それよりも気持ちよかったなんて宗介に言えるわけもない。  
 少しずつ普段の二人に戻ってきて、今まで忘れていたあれやこれやを思い出す。  
 
 コンドーム、付けてない。  
 精液はこれでもかというほどにかなめの子宮に注がれている。今日は安全日だったかど  
うか頭の中で計算する。  
「うっ……」  
 そろそろ危ない日なのを忘れていた。そんなに確率が高いわけも出ないが、もしかした  
ら、できてしまうかもしれない。気持ちよかったし、セックスのショックで排卵されるこ  
ともあるなんて授業で習った気がする。それは理にかなっているし、あれだけ気持ちいい  
のだからそんなことがあっても不思議じゃない。  
 もし、妊娠してしまったら、堕ろすなんてことは考えたくない。じゃあ、産むのかとい  
うと、宗介は認知せずに逃げるようなへたれでないことだけは確かだ。この非常識男のこ  
とだから、きっと喜んでくれるはずだ。ただ、このまま学校生活を送れるだろうか。日に  
日に膨らんでいくお腹。変な噂は流れるだろうし、噂ではなく事実としても、きっとろく  
な目で見られないのは想像に難くない。珍奇の目で見られるのもごめんだ。できることな  
ら卒業したかったが、そういうわけにもいかないかもしれない。  
 それに、法律的に結婚できるかといえば微妙なところだ。いきなりは無理でも、赤ちゃ  
んが生まれてから入籍ということになるだろうか、それとも、宗介と一緒に国外にでも引  
っ越しするのか。いざとなればツテでどうとでもなるのだろう。おそらくは物騒な国ばか  
りなのだろうが。  
 次から次へとろくでもないことばかり思い浮かぶ。なんで避妊しなかったのか。コンド  
ームは、こんなことになるなんて予想すらしなかったので用意していない。何はなくとも  
備えておくべきだったか。外に出してもらってもよかったのだが、あまりにも気持ちよす  
ぎて忘れていた。あの快感を知ったとしたら、これからも外で出してなんて言えないかも  
しれない。やはりできる限り安全日にしたほうがいい。けれど、したくなったらまたつい  
しそうではある。いやいや、それより問題なのは生理が来るかどうか。  
 
 既に快感よりも不安や怒りが勝っている。射精しおえてののほほんとしている宗介の顔  
を見るだけでも、殴り飛ばしたくなってきた。  
 そんなかなめの気持ちを機敏に察したのだろう。宗介は優しい手つきでかなめの頬を撫  
でてくる。  
「かなめ、愛してる……」  
 そんなことで籠絡されるつもりではなかったのに、たった一言で冷えかけていた心が氷  
解する自分が情けない。許してやってはいけないというのに。  
「ねぇ、ソースケ。今度はちゃんと、ゴム付けてよね」  
「ん? ああ。わかった」  
 そうやって宗介は素直に答えるが、宗介自身、ただうなずいただけで何のことなのかわ  
かっていないことをかなめが知るよしもない。  
 
 
 
 
おわり  
 

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