下校途中に立ち寄ったスーパーで、かなめは先ほどから食品売り場を右往左往していた。
いつもなら食材を見た瞬間、頭の中でメニューが決められるのに。
後ろからカゴを持ってついて回る忠犬のような宗介に意識が乱されっぱなしだった。
当の本人は、今日未明に帰還してそのまま通常の学校授業をみっちり6時間と補習まで受けて
もう少しで眠りの世界に落ちそうな状況だったが。
一昨日の夜、初めて通信機越しにした。
予定ではもっと過激な事を言ったり、やったり…だったのだが、実際はあまり凄いことは出来なかった。
(でも結構興奮しちゃったなあ・・・)
思い出して、ふわりと頬を染める。そしてちら、と後ろを見る。
今日は宗介に、夕飯をご馳走してやると言ってあるのだ。
どうせ戦場帰りのあいつに味の良し悪しなんて判らないだろうけど、でも自分の口にも入るんだし美味しいに越した事はない。
かなめは買い物カゴに適当な食材をつっこむと、宗介をせかしてさっさと買い物を済ませた。
帰宅したら宗介に手洗いうがいをさせ、ついでに買っておいたスウェットの上下を押し付けて風呂場に行かせる。
任務の為とはいえ、数日風呂に入っていなかったのだ。
食事の前にサッパリしておいて貰う位、やましくもなんともない、とかなめは自分に言い聞かせる。
「あんたちょっとくさいわよ」
照れ隠しのつもりか、かなめが遠慮なくそう告げると宗介は少しショックを受けたようで無表情のまま固まり、
そしてそそくさと風呂場に消えて行った。
「…さてと!」
制服からラフな普段着に着替えて、おろしたてのエプロンをつける。
そこで先日の彼の発言が頭に蘇る、と言うかずっと考えていた。
無線機越しに彼の言っていたシチュエーション。
(…ソースケも、一人エッチとかするのかな…?)
あの何も考えていなさそうなムッツリ無表情で、料理している自分に対して破廉恥な妄想を日ごろから
していたのか、とか。だとしたら。
悪い気はしないのだ、実際。つい緩む頬を止められず、きゅっと身をすくめた時、背後でぱさりと音がした。
振り向くと、バスタオルが床に落ちていて。
次の瞬間には、かなめの振り向いた方向と逆側から宗介に抱きしめられていて危うく手にした包丁を取り落とす所だった。
「ちょっ…ソースケ!危な…っていうか!なっ、な…!」
宗介の両腕ががっちりかなめの体に回されて、首筋に彼の顔がぎゅっと押し当てられている。
かろうじてまだ腰とお尻はひっつけられてはいないものの、臨戦態勢なのは確実だろう。
「す、すまない。その…!」
宗介は顔を上げずにもごもごと喋る。
「風呂場にある物を使わせてもらった」
「えっ!?」
お風呂場にあるもので何かヤラシー事を!?かなめは非常に驚いた。が、違う。
「シャンプーを…借りたのだ。その、君と同じ香りなもので…つい、何と言うか…は、反応してしまったのだ」
真面目に説明する宗介の様子と話の内容の間抜けさに、かなめはずっこけそうになった。
勿論きつく抱きしめられているのでよろける事もままならないが。
「そして今の君の姿だ。たまらないのだ…すまん、すぐに済む」
「あ、そう…じゃなくてねえ!ソースケ、あたし今ご飯作ってるでしょ。離」
「離れ難い。このまま料理を続行する事は出来ないか?」
「…ムチャ言うわねアンタも」
「君ならやれる。そう思う」
大真面目に言う宗介に、かなめははぁーっと深いため息をつく。
出来ればそのセリフ、もっと別な時に言って欲しかった。
「じゃまになったら遠慮なく振りほどくからね」
「了解した」
背後で犬のしっぽがばたばたと振り回される空耳を聞きながら、かなめは目の前のまな板と包丁に集中する。
温野菜のサラダにしょうと思っていたけれど、面倒くさいのでスティックサラダで良いや、と人参と
セロリをざくざく切る。
手元を宗介が覗き込んできて、少し視線を横にずらすと彼の意外と長い睫毛が視界に入った。
(…何なのかしら、コイツ。甘えてるのかな)
だいたい興奮したらなさっさと押し倒してくれれば良い物を、なぜこうも中途半端なスキンシップで
満たされようとするのか。全然足りないくせに。
(あたしだって困るのよ、こーいう、中途半端な…)
湯上りの彼の肌はいつもよりしっとり潤っていて、襟ぐりの大きく開いたシャツを着たかなめの鎖骨に
宗介の腕が密着して、頬同士もくっついている。
お腹の底のもっと下、体の付け根がきゅん、と反応してしまう。
して、とでも言えば、この大型犬もぴょこんと自分に乗っかるのだろうか。絶対言えないけど。
「ちどり?」
ふいに彼から声をかけられ、かなめは遠くにお出かけしかけていた意識を取り戻す。
悶々としすぎて料理をする手が止まっていたのだ。
気取られるのが嫌でかなめは何も言わず、煮えたぎる大き目のお鍋にパスタを投入する。
タイマーをかけて、お皿の準備をしようと体の向きを変えたところで宗介にぎゅっと抱き寄せられた。
今までも充分抱きしめられていたので、ちょっと苦しい位だ。さらに彼の足が両側から自分の足を
締め付けてきて、お尻に知っている感触が押し当てられる。
「そ、ソースケ…」
「茹で上がるまで、いいか?」
「え?いや、お皿用意したり色々するから、そろそろ離し」
「言っただろう。離し難いと」
言って宗介はがっちり掴んでいたかなめの両肩から手を離し、片腕でお腹を撫で、もう片方の手で
何やら股間をごそごそして
「ひっ!?」
さすがにびっくりして悲鳴をあげてしまった。
目線を降ろすと、前の開かないズボンの為、中途半端な位置までずり下ろした宗介のズボンが視界に入る。
そしてエプロンで見えないけれど、きゅっと閉じたかなめの太ももの間に彼の物がにゅっと挿入
されていた。すでに先走りでぬめって、ショートパンツの素肌に電気が流れたような衝撃が走る。
「あ、やだ…ソースケ…」
「すぐ、済む…」
そのまま両手で胸やお腹をまさぐられて、挿入する時よりも乱暴な調子で腰を振られる。
かなめは今キスしていないのが凄く寂しく感じた。あんただけなの?と思う。
恐る恐る手を伸ばして、エプロンの上から暴れる彼のものを掴んで見る。
「ち、どり…っ…く…!」
もっとあんあん鳴いちゃえば良いのに。前屈姿勢になってされるがまま彼の律動を
太ももで受け止めながら、彼の手の中で形を変える自分の胸と、エプロンを捲り上げて
顔を覗かせた彼の先端が視界に入る。
乱暴に揉まれているのに痺れる様に気持ち良い。
こんな状況でうっとりするなんてあたし、変態かも…かなめはそう思った。
彼女を思いを知ってか知らずか、宗介は一度ビクリと震えてからシンクの扉にびゅくびゅくと吐精した。
一度では我慢ならず宗介は再び自分のものをしごいて、今度はかなめのショートパンツを
脱がせにかかる。薄い布地の下着をずり降ろし、直接あてがう。
(パスタが吹きこぼれちゃう…)
かなめは冷静に考えて、コンロの火を消す。
なんとか体をねじって彼と向き合うと、ちゅ、と軽くキスをした。
「ね、ベッド、いこ?」
「し、しかし…君は食事を作って…」
「そんな事言う態度?これ」
かなめはエプロンを押しのけて存在する宗介のものを、じーっと睨む。
「その、いや、あと数分で終わる。茹であがるまでには」
「そんなに早いの、イヤなんだけど…」
「む…!」
「ってゆうか、ね。あたしだって、し、したいのよ。ちゃんと」
「〜〜!」
照れてもじもじと先端を弄るかなめの様子に宗介はたまらなくなり、無言のまま横抱きに
抱えるとキッチンからかなめの部屋へ移動した。
ベッドに辿り着くなり宗介はそそくさと脱いでしまい、かなめの服も一通り脱がして
その中からエプロンを拾い上げる。
「これをつけて、してくれないか」
緊張と興奮で無表情のまま怖い顔になった宗介がふざけている訳では無さそうで、
かなめは恐る恐る、聞き返す。
「…マジ?」
「本気だ。その…先ほどの様な状況を想定して、したい」
「…はあ、そう…」
驚いた。どこでそんな事覚えてきたんだろう。それとも自然とそういう嗜好にいきついたんだろうか。
おおよそシチュエーションだとかそういうものにこだわりのあるタイプとは思って居なかった
けど、案外彼の情緒はこういう事から発達していくのかも、とかなめは考える。
その間の沈黙を悪い意味に捉えた宗介が、眉間のしわに深刻な後悔を浮かべている。
「その…いや、ダメなら良い。セックスに着衣などナンセンスだな」
「あ、ううん。そうでもないよ。結構一般的なんじゃないかな…」
「そ、そうか!」
「うん。…ソースケ、着せて?」
両腕を投げ出して彼を導いて、かなめは先ほどよりかなりきつめにエプロンを身につけた。
あまり分厚くない生地の都合上、既に胸の先端は形がくっきり浮き上がっているし
先ほどの彼の先走りや何やのせいで、股の間にはしみが広がっていた。
宗介は浮き上がった乳首を甘噛みし、もう片方を指先で捏ねる。
舌先でくりくりと胸の先端を嘗め回しながらお腹を撫でると、かなめがよがって腰を浮かせた。
「そ、スケ…あん…」
宗介の頭を抱いて気持ち良さそうに感じるかなめに目を細めて、下腹に手を伸ばす。
ごわごわした淡い茂みの奥、かなめの今の所一番感じる部分を摘んでひねると、軽くいったらしく
悲鳴に似た短い嬌声が出た。
快感にぼんやりした彼女を抱き起こし、膝の上に後ろ抱きに座らせる。
エプロンを身体の中心にずらして乳房を露出させると、両手でゆっくり揉んでみた。
豊かだとは思っていたが、こうして中途半端な着衣にしてみるとより際立つように感じる。
宗介は手の中で自由に形を変えるかなめの胸に集中し過ぎて、おずおずと彼女にその手を止められる
まで時間が経つのを感じなかった。
「あのさ、ソースケ…」
「む?」
「おっぱいすきなの?」
「…こ、肯定だ」
「ふうん。じゃあ、こっちは?」
言ってかなめは、そろりとエプロンの端を両手でつまんで持ち上げる。
大切な所を彼の太ももに押し付けて、そこはぬめっていて熱く、準備万端といった風体だった。
「無論、そちらも大好きだぞ」
生真面目に答えるので、かなめはくつくつとお腹を震わせて笑いを堪えた。
「ヘン。ふふ」
「そろそろ挿入しよう…千鳥、コンドームをつけてくれ」
宗介は胸を弄びながら、姿勢を変えてかなめの身体の中心に自身をずらし、あてがう。
姿を現した凶悪な突起にかなめはちょっとひるみ、それからそっと掴んだ。
寝そべった彼の腹に馬乗りになって、薄いゴム製品を装着させる。
流れでそのまま自分が上になってしまい、かなめは恥ずかしくて泣きそうになりながら
先端をあてがった。にゅ、と入ってくる感覚が気持ちよくて、すこしだけ挿入してじっと
していると困ったような表情の宗介と目が合う。
「きもちいい…」
「そうか、それは…よかった。千鳥、その」
宗介の腰が少し浮き上がって促しても、かなめは無視してじっとしていた。
彼女が感じている時にしかない締め付けによる心地よさに宗介は眉をひそめる。
これではまた1分と持たない。自分の上に跨って惚けているかなめ、という絵面も
まずい。さっきからまともに正面を向く事も出来ず、状況を打開するために
少々強引に動く事にした。
「ここは台所だ、と思ってくれ」
「え?」
宗介は浅い挿入のまま身体を起こし、かなめの脚を持ち上げるとあっさり体勢を反転
させた。四つん這いの彼女を後ろから犯して、器用に後退するとベッド脇に降り立つ。
かなめもベッドから降りさせると、壁際にひょいと移動する。
「…そこに両手を突いて。こちらに尻を突き出してくれ」
「えっ…や、やだ!そんなの…」
いつもの事ながら情緒のかけらもない指示にかなめが抗議して振り向くと、この場に
不釣合いな程に真剣な宗介の顔。抑揚の足らない言葉使いと同じ位無表情であれば
良いのに、残念ながら彼はとても熱いまなざしをしていて、結局抗いきれず言うとおりにした。
腰を打ち付けられる度、卑猥な水音が響く。
「料理の最中に欲情とは、厭らしい事だな」
「へ…?」
そーいうシチュエーションなのだろうか。彼はリズミカルに腰を振りながら、
かなめの背筋を撫で回す。ぞわぞわと昇ってくる快感に、かなめはつま先立ちで震える。
「あまり声を出すと隣に聞こえるぞ…」
えーと。つまりはこの家に他にも人が居る状態でこんな事してると?そういう妄想?
かなめはツッコミたい気持ちがむくむくと育ってきたが、頭の理性より腰の辺りから
湧き上がる快感でその衝動もすぐにどこかにいってしまった。
ここは彼の妄想に付き合った方が、色んな意味でイイかもしれない。
きゅっと一度目を閉じて、次に開いたとき…かなめの表情に先ほどまでの知性はなかった。
「だって…きもち、いっ…ンン!」
腰を掴んで深く擦られて、今までで一番奥まで突き上げられてかなめは初めての感覚に襲われる。
こつこつとどこかに当っているのが判る。
彼のものと自分の内側は溶け合ったようにどろどろと快感を共有しているのに、
そこだけが明確にぶつかり合っている。
知らずかなめは壁に爪を立てて、もっと深く咥え込もうと腰を動かした。
耐え切れずずるずると身体が下へ下へ下がり、床に膝を着いてしまう。
腰を高く掲げられて抜き差しを繰り返されると、訳の判らない快感が押し寄せてきた。
「そーすけ…ふぁ…何、か…へ、へん!や〜〜!ああ〜!」
「ぐ…千鳥っ、いっ…!」
最奥に押し当てられた先端に射精の勢いを感じて、かなめも後を追うように震えて達する。
宗介が腰を引いて出ていった後も、しばらく快感が収まらずにかなめは床で惚けていた。
宗介に抱き起こされベッドに横になってもまだ自分から動こうとはせず、強い快感の
波は去ったのに奥のほうでじわじわと何かが燃え上がっているように感じられた。
彼はコンドームを外すのも忘れてかなめの服をかき集め、彼女がさっきから一言も喋らずに
居ることに少し怯えているふうでもあった。
何か言ってあげなきゃ。かなめはもごもごと口を動かす。
宗介はすぐに気付いて、彼女の口元に耳をぴったりくっつけた。そして顔中の血管が切れた
のではないか、と言うくらい赤くなる。
「すっごく、よかったの」
「そ、そそそ、そうか…それは、何よりだ。ああ、全く、そうか…」
しどろもどろになりながら彼女に服を着せようとして、下着を履かせようと脚を持ち上げ
たら彼女の中心を真正面から見てしまい、まだものほしそうにくぱっと開いたそこに
ぎょっとして首を100度位後ろに回転させて視線をそらす。
さっきまで奔放に腰を振っていたのと本当に同じ人なんだろうか。かなめは苦笑する。
何回やっても彼のこういう所は変わらず、うれしいなあ、としみじみ思った。
「さて…」
パンツは自分ではいて、かなめはよっこいしょういち、と言いながら身体を起こした。
「とりあえずゴハンだね。ソースケ、スパゲティー食べたいんじゃない?」
台所の鍋を思い浮かべて、宗介は真面目に答える。
「肯定だ。責任は、俺が取ろう…」
この後、皿にてんこもりになった湯だってさらに1時間程放置した麺の味に、宗介は今後
調理中に欲情はすまい、と新たなおかず探しを決意するのだった。