9mmの弾丸が、小さなテッサの頭蓋を貫通し、射出口から血と脳漿を巻き込んで飛び出した。  
 …彼女の体は一度だけ痙攣し、かなめの手を離れてその場に倒れ伏した。  
「て……」  
「だから言ったのに! あなたがいけないのよ!? あれほど──あれほど来るなと言ったのに!  
 あなたがこの子わ殺したんだわ! どうしてくれるのよ!!」  
 なんてことを。  
 ヒステリックに叫ぶかなめに向かって、宗介は走り出した。  
 考えも何も無い。ただかなめを取り押さえようと。  
「こないでって言ってるでしょ!」  
 かなめの指がためらいも無く銃の引き金を引いた。  
 一発目は宗介の胸に命中した。その重い衝撃に一瞬息が詰まる。だが操縦服の防弾性能は  
拳銃弾を受け止めきった。  
 二発目は腹のど真ん中に命中し、まるでボクサーに殴られたような一撃に意識が遠のきかけた。  
 でもまだ宗介の足は止まらない。  
 三発目はその宗介の足、蹴り足の膝に命中した。  
 操縦服は三度銃弾を受け止めたが、その衝撃は膝を砕き、全力で走っていた宗介の足は  
自重を支えきれずにあらぬ方向へと曲がった。  
「!」  
 足元を掬われた格好の宗介は受身を取る間もなく、バランスを崩して前のめりに地面に  
叩きつけられた。  
 そして、頭を強打した宗介の意識は急速に遠のいていった…  
 
                   ◇  
 
 宗介が意識を失っていたのはほんのわずかの間のことだった。  
 意識を取り戻した宗介の視界に最初に飛び込んできたのは、無慈悲な視線で見下ろす  
かなめの姿だった。  
「く…」  
 宗介は素早く自分の肉体をチェックした。  
 左足は先ほど打ち砕かれた左ひざからあらぬ方向を向いていて、少なくともあて木を  
当てるなどの治療を施さなければ歩くことさえかなわないだろう。  
 そして左腕は元々捻挫で満足に動かせない状態だったのに加え、先ほど転倒した際に  
肩を痛めていて、まるで使い物にならなくなっていた。  
 少なくとも脱臼、悪ければ骨折しているかもしれない。  
 まともなのは右腕と右足だけ。  
 対してかなめは仰向けの宗介の腰の上に馬乗りになっていて、宗介は全く身動きが取れない  
状態だった。その手には銃も握られている。  
「千鳥…俺を殺すのか。」  
 このまま、かなめを止めることもかなわないのなら、殺されるのもまた良い。  
 宗介はそんなことを考えながら、答えを待った。  
 だが、かなめは答えなかった。  
 代わりに、暫しの沈黙の後でかなめは宗介に問いかけた。  
「…そう、怖いのね。」  
「何がだ。」  
「あたしを逃すことで…あたしとのつながりを失うことが。」  
 冷たいその一言が、宗介の心をえぐった。  
 そうだ。俺はそれを恐れている。  
 宗介の頭の中に、先ほどまでのレナードとの会話がよみがえった。  
 
 恐らく、かなめが「大事な仕事」を果たせば、レナードの言う狂った歴史は是正される。  
 そして、そこではかなめは普通の少女として生きてゆくのだろう。  
 宗介もまた両親を失うことも無く、戦場に身を置くことも無く、平凡で幸福な少年として  
生きる人生をやり直す事ができるのかもしれない。  
 だがそれと引き換えに、今までのかなめとのつながりは失われる。無かったことに  
なってしまう。  
 
「大丈夫。あたしと出会わなくても、宗介にもきっと新しい恋人が現れて、幸せになれる。  
 あたしがいなくても問題なくなるの。」  
「だが…俺はっ!」  
「そうね。そんな簡単に人の心は割り切れない。…いいわ。最期に、思い出をあげる。」  
 かなめは左手で宗介の顔をそっと撫でると、上半身を倒して覆い被さり、自分の唇を  
宗介のそれに重ねた。  
「…ん…む…ふ。」  
「む…ちゅ…は…あ…」  
 宗介の口腔をかなめの舌が蹂躙する。宗介の唇を食み、歯茎をなめ上げ、積極的に舌を  
絡ませた。  
 濃密なキスを終えて唇を離したかなめの頬は桜色に紅潮していた。  
「約束したよね。次に会えたら、思い切りキスしようって。」  
「…ああ。」  
「キスだけじゃなくて、もっといっぱい恋人らしい事しましょう。」  
 かなめは妖艶に笑いながら、後ろ手に宗介の右膝に銃口を押し付けると、少しの躊躇も  
無く引き金を引いた。  
 乾いた破裂音と共に9mmの弾丸は操縦服の膝パッドにめり込んで止まった。  
 だがその運動エネルギーは吸収しきれずに、鈍い音と共に確実に宗介の膝を砕いた。  
「ぐあっ…」  
「こうしないと、宗介、また無駄な抵抗するでしょ。」  
 そう言いながらかなめは立ち上がると、タイトなジーンズを下に履いていた下着ごと  
脱ぎ捨てた。同様に、上に着ていたぴったりしたシャツを脱ぎ捨て、その下のブラジャーも  
はずして放り出す。  
 
 裸となったかなめは再び仰向けの宗介の体を跨いで見下ろした。  
 宗介は、かなめから目が離せなかった。  
 すべらかな肌、カタチの整った大きく張りのある乳房、細くくびれたウエスト、そして  
対照的に程よく肉の付いた官能的でしなやかな腰、すんなりと伸びた健康的な素足。  
 それをわずかに隠すのは彼女自身の長いつややかな黒髪だけだった。  
 あれほどに恋焦がれ、求め続けたかなめが、生まれたままの姿で目の前に在るという事実は、  
異常な状況にあるはずの宗介の思考能力を奪っていた。  
 もしこんな異常な状況でなければ、かなめが自分の知るかなめのままであったなら、  
宗介は本能のままに彼女の肉体に溺れていたかも知れない。  
 だが思考能力を奪われながらも宗介の頭の奥底の冷静な部分が警告を発し続けている。  
 彼女は危険だ、と。  
 
「どう?私は綺麗?」  
「ああ…綺麗だ。」  
「そう。嬉しい、ソースケ。」  
 かなめは先ほどと同じように宗介の腰の上に馬乗りになった。  
 両足はすでに役に立たず、左腕も満足に使えない宗介には、これだけで身動きを封じる  
には十分だった。  
 かなめの細い指がタクティカル・ベストのジッパーに懸かり、一気に引き下ろす。  
 そして、続けて焦らす様にゆっくりと操縦服の前を開いた。  
 もう宗介の肉体を守るものは、コットンのアンダーウェアしかない。  
 今銃弾を叩き込まれれば、抵抗する間もなく致命傷を負うだろう。  
「…邪魔ね。」  
 かなめはポツリとつぶやくと、宗介の腰にあったコンバットナイフを引き抜き、その切っ先を  
宗介の引き締まった腹に当てた。  
「く…」  
 緊張が走る。かなめがその気なら、体重を乗せて突き立てるだけで鋭利なナイフが宗介の  
腹筋を切り裂き、腸を易々とえぐるだろう。  
 
 だがかなめはナイフの刃を上に向けるとアンダーシャツの下を首に向かって一気に滑らせた。  
 シャツはあっけなく切り裂かれ、下からは鍛え上げられた宗介の肉体が現れる。  
 触れた外気の冷たさに、鳥肌が立った。  
 次にかなめは腰を後ろにずらして、再びナイフの切っ先を宗介の腹に当てた。  
 切っ先はわずかに宗介の肌を傷つけながらすべり、今度はブリーフのウエスト部分に  
もぐりこむ。一旦そこで止まり、かなめは薄い笑いを浮かべて宗介の表情を伺った。  
「動かないでね。 …動くとアレを斬り落としちゃうかも知れないから。」  
 ナイフの切っ先が再び滑り出し、宗介のブリーフをあっさり切り裂いた。  
 中から、かなめの裸身と死の香りに反応して大きく硬く膨張した男性器が勢い良く飛び出す。  
「こんな場所なのに、ソースケも興奮してるのね。」  
 かなめはナイフを放り出すと、宗介のペニスに触れた。  
「うっ。」  
 自分で触れるのとは全く違う、細くひんやりした指の感触。  
 宗介の背筋に、しびれるような快感が走った。  
「気持ち良い? じゃ、もっと触ってあげようか?」  
 かなめの手が宗介のペニスを握り締め、しごき始めた。  
「よ、よせっ、千鳥。」  
 先端から先走りの液が溢れ出し、かなめの手を汚した。かなめはそれを指先に絡めると、  
自らの秘部に摺りこんだ。  
「ん…」  
 宗介のペニスをしごきながら、かなめは自らの秘部を愛撫する。  
 やがてあたりには湿り気を伴った音と性臭が立ちこめ始めた。  
「ふ…んぁ…」  
「う、や、やめろ…千鳥。」  
 下腹部の底からこみ上げてくる何かに耐え切れなくなりそうになり、宗介が悲鳴を上げる。  
 その宗介の願いを聞き届けるつもりになったのか、かなめは宗介のペニスを開放した。  
 宗介は一瞬安堵した。が、それは次なる行為への小休止でしかなかった。  
 かなめの腰が最初と同じように宗介の腰の上に移動してきた。  
 程よく肉の付いた、弾力のある尻が宗介の腰の上に乗り、ときほぐされ綻び始めたかなめの秘裂が、  
反り返って腹部に張り付いていた宗介のペニスの根元あたりに押し付けられた。  
「あん…熱い…宗介のアレ、物凄く熱い。」  
「千鳥、何をするつもりだ。」  
 かなめはそれには答えずに、宗介の胸に両手を突くと、1度だけ鋭く腰をしゃくった。  
「!」  
「あんん!」  
 愛液で光るかなめの秘裂が、愛液を擦り付けながら宗介のペニスをこすり上げる。  
 先ほどとは比べ物にならない快感に一度静まりかけた高まりがぶり返し、宗介は声に  
ならない悲鳴を上げた。  
 そんな宗介の反応を見てかなめはクスリと笑うと、今度は立て続けに腰を振り始めた。  
「ふっ…んんっ…ふぅっ…うんっ…」  
「!…!!…!…うぁっ!」  
 耐え切れずに宗介の口から声が漏れた。  
 それが切欠となったのか、宗介の我慢が限界を超え、下腹の奥底から熱い滾りが堰を  
切って噴出した。  
 それは、尿道を通り、かなめの秘部が触れた部分の真下を通って勢い良くペニスの先端から噴出し、  
おびただしい量の精子は宗介の腹とかなめの下腹部を白く汚した。  
「熱い…すごい…男の子の精子って、こんなにいっぱい出るのね…」  
「ち…千鳥…」  
 知識としては知っていたが、体験したことの無かった射精の快感に宗介は朦朧としていた。  
「ソースケ、気持ちよかったのね…ぼーっとしてるわ。」  
「……」  
「じゃあ、もっと気持ち良いことしてあげるわ。」  
 かなめは宗介の腹の上に飛び散った精液を手に掬い取ると、萎えかけた宗介のペニスに  
塗りつけて再びしごき始める。  
 宗介は朦朧とした意識のまま、それをただ見つめていた。  
 
 やがて宗介の一物が力を取り戻したのを見ると、かなめは腰を浮かせてその上に跨り、  
先端を自分の秘裂に押し当てた。  
 先端が狭く熱い膣口にめり込み、宗介にわずかな快感をもたらした。  
「う…千鳥…」  
「…かなめって呼んでよ。ソースケ。」  
「か、かなめ…」  
「良くできました。 ソースケ、あたしのバージンあんたにあげるわ。…世界中であたしを  
汚しても良いのはあんただけよ。」  
 そう言うとかなめは一気に腰を落とした。  
 途中にあった抵抗も硬くそそり立った宗介のペニスは難なく破り、先端は一気に子宮口にまで達する。  
「うあっ!」  
「うんっ!」  
 破瓜の痛みにかなめの膣が強烈に締まり、腹筋がぴくぴくと痙攣する。  
 そしてかなめの膣内は愛液と血液でぬめりながら、宗介のペニスをぐいぐいと締め上げてきた。  
「あ…はぁ…ソースケ…あんたのが…奥に届いてる。」  
 襲い来る未知の快感に翻弄されていた宗介を見下ろすかなめの顔に、わずかに愉悦の色が浮かんだ。  
 
 ややしばらくそのままかなめは動かなかったが、痛みが引いて来たのか締め付けが緩んできた。  
 代わって、かなめの中がゆるゆると蠢き始め、宗介のペニスに今まで以上の快楽を送り込み始める。  
「か、かなめ…まずい、もう。」  
「ダメよ…我慢なさい。私をもう少し楽しませて。」  
 かなめの指先が宗介の乳首をつねり上げた。そしてゆっくりと腰をくねらせ始める。  
「ふっ…」  
 宗介は砕けるかと思うほど奥歯を噛み締めた。  
 そうしなければ、かなめの蜜壷の中で暴れまわっている自分のペニスが暴発しかねな  
かったからだ。  
 だがかなめの腰使いには加減など微塵も見られなかった。ざわざわと蠢く膣内で宗介は  
刺激され続け、蹂躙され続けている  
 宗介の目の前には蕩けたかなめの顔と、腰使いにあわせてフルフル波打つ乳房。  
 その光景が宗介の性欲をなお一層刺激する。  
 宗介は少しでも気をそらそうとかなめから目をそらした。  
 そして、顔を右に振った宗介の視界に飛び込んできたのは、投げ出した自分の右腕と、  
その先にあったテッサの顔だった。  
 見開いたまま力を失ったテッサの瞳はからみあう宗介とかなめを責めるでもなく、  
ガラスのレンズのように冷たく見つめていた。  
 その眼差しが、熱くなり快楽に埋没しかかっていた宗介の思考を引き戻した。  
「あたしとセックスしてる最中に、他の女を見つめてるなんてマナー違反よ。」  
 そう言ってかなめは宗介の顔をテッサから自分のほうへとぐいと向けさせた。  
「あ、ああ…すまない。」  
「あたしと楽しもう、ソースケ。 …あたしもうすぐイキそうなの。 ん…ソースケも  
一緒にいこう。 …イってあたしの中にたくさん頂戴。 あたしの子宮を思いっきり汚して…  
妊娠しちゃうくらいに。 あたしは、ソースケの子供なら生んでも良いの…」  
「ああ…く…そうだな。 俺も、かなめに俺の子を生んでほしい。」  
 かなめの目から涙が一筋流れた。それははたしてかなめの物だったのか、それともかなめに  
宿った何かのものだったのか。  
 かなめの腰使いが一層激しさを増した。さらなる快感の奔流に宗介は歯を食いしばって耐えた。  
 宗介の右手が手がかりのないコンクリートの床をかきむしる。  
「ソースケ…ソースケぇ…ソースケぇ…」  
「かっ…か、かなめ…もう…」  
「うんっ…きて…ソースケぇ…きてえぇぇぇ!」  
 下腹の底からの突き上げるような衝動と共に、宗介の体が弓なりにかなめを突き上げた。  
 しびれるような射精感と共に、先ほどを上回る量の精液がかなめの子宮を直撃する。  
「あっ…あ…熱い!」  
「う、く、はっ…か、かなめ!」  
 宗介の体の上で、精液を受け止めるたびにかなめの体がビクビクと痙攣した。  
 視線は宙をさまよい、呆けたような口元からは涎が宗介の胸元に滴り落ちてくる。  
 かなめの手が宗介の胸板に爪を立て、皮膚に食い込み、傷だらけの宗介の体に、新たな  
傷跡を刻み込んだ。  
 
 オルガズムの後の圧倒的な虚脱感に、かなめは宗介の体に身を預けていた。  
 互いが互いのぬくもりをいとおしいと感じていた。  
 そして…ややあって、かなめが身を起こした。その右手には、いつの間にか再び拳銃を手にして。  
「どう?満足した? もう思い残すことはないでしょ。」  
「ああ…すばらしいひと時だった。」  
「なら、死んで。 …大丈夫よ。あたしが仕事を成し遂げれば、ソースケは幸せな人生を  
やり直せるわ。」  
「そうかもしれないな。」  
 宗介は答えながら、思い返した。  
 レナードはかなめを生きた『特異点』だと言った。だから死なない、良すぎるほど運が良いのだと。  
 そしてミラは言った。あなたは『わたしたち』を救ってくれるのかもしれないと。  
 テッサも言った。おれは『わたしたち』が破滅するのを見届けるためにいるのかもしれないと。  
 だが、俺はどちらでもないのかもしれない、と宗介は思った。  
 俺は今までたくさんの人を殺して生きてきた。ならば自分にできる最善のことは人殺しで、  
自分はウィスパードに『破滅をもたらす者』なのではないのか。  
 もしそうであるのならば、あるいは…  
「バイバイ、ソースケ。」  
 かなめの持つ拳銃の銃口が宗介の額に押し当てられる。  
 
 宗介の右手が、先ほど指先にひっかかった物を握り締めた。  
 
 かなめの指先が、引き金に懸かる。  
 
 宗介が唯一意のままになる右腕に力を込めた。  
 
 かなめの指先に力がこもると同時に、宗介の右手が動いた。  
 
 ずぶ…  
 
 かなめの顔が、困惑の色に染まった。  
 
 宗介の手に握られたナイフが、かなめの左のわきに突き立っていた。  
 宗介の兵士としての卓越したスキルは、ナイフの刃先を正確に肋骨間から突き入れ、  
心臓を確実にえぐっていた。  
「かなめ…」  
 宗介の目から涙がこぼれた。  
 自分こそが破滅をもたらすものであるならば、特異点たるかなめすらも殺せるのではないか。  
 そう気がついたとき、宗介は自分とテッサの間に放り出されていたナイフを手に取っていた。  
 …かなめを、自分だけのものにする。ただそれだけのために。  
 そんな宗介の心を感じ取ったのか…かなめはほっとしたような、困ったような、そんな表情を浮かべた。  
「バカね……」  
 引き金にかかった指に力がこもる。  
 
 宗介は目を閉じた。  
 次の瞬間、無煙火薬の発火する音と共に、9mm弾が宗介の脳漿を吹き飛ばした。  
 
                   ◇  
 
「ソースケ!ソースケ!!」  
 誰かが自分を呼ぶ声がする。  
 宗介が目を開けると、自分を覗き込むレモンの姿が見えた。  
「俺は…生きているのか?」  
 
 起き上がって周りを見渡すと、レモンが傍にしゃがみこんでいた。  
 5メートルほど離れた場所にはテッサが倒れていたが、頭の傷も血溜まりもなかった。  
 そして、かなめの姿はどこにも無かった。  
「どうなってるんだ…? それに…かなめは?」  
「彼女は…行ってしまった。君が彼女に駆け寄ろうとしたとたん、急に気を失って倒れて  
しまったんだ。」  
 あれは夢か錯覚だったのか…  
 宗介は先ほどまでの出来事を思い浮かべた。だが、夢にしてはあまりに生々しすぎた。  
 かなめの肌の滑らかな感触や肉の柔らかさ、心地よい香り…どれをとってもあまりにリアルだった。  
「だけど…」  
「何だ… 何かあるのなら言え。」  
「いや…撃ち殺されるのを見た気がしたんだ、テスタロッサさんが。そしてその後、  
君とかなめさんが…いや、きっと気のせいだ。あるいは…くそっ、あの既視感か。」  
 レモンが頭をかきむしった。  
「さっきのはきっと『ありえた未来』だったんだ。既視感はさっきから消えていたのに、  
なぜだろう。」  
 いつの間にか、先ほどまでの既視感が綺麗に消え去っていた。さっきこのホールに来るまでは  
際限なく襲い掛かって来ていたと言うのに。  
「かなめ…」  
 宗介は愕然とした。  
 かなめはまた自分の腕の中をすり抜けて行ってしまった。今度こそ手放さずに済むと  
思ったのに。  
 宗介がふらふらと出口に向かって歩き出そうとした。  
「よせ! 待つんだ、ソースケ。もう遅い!」  
「放せ…!」  
 静止するレモンを宗介は振り払った。  
「冷静になれソースケ!ここでバラバラになったら収拾が付かなくなる。」  
「五月蝿い。今追わなくては、かなめは、」  
「危ない!」  
 レモンが飛び掛り、二人はもつれ合って倒れた。  
 やや遅れて、二人がいた場所に銃弾が降り注いだ。  
「……!!」  
 その銃撃が、宗介の兵士としての冷静さを呼び覚ました。  
「とうとう追い付かれた。」  
 レモンが舌打ちする。南側の入り口から敵兵が迫っているのが見えた。  
「逃げよう。」  
「ああ…」  
 カービン銃で牽制しながら、焼夷手榴弾を放り投げる。  
 閃光と爆発が巻き起こり、敵兵との間に炎と煙の壁が作られた。  
 そして、レモンが助け起こそうとしていたテッサを肩に担ぐと、一番近くの出口から  
飛び出した。  
 
 時折、迫る敵兵を牽制するためにカービン銃を応射しながら、宗介は考えていた。  
 果たして、俺はかなめと再び会うことができるのかと。  
 そして、出会えたその時、どうすれば良いのだろうか、と。  
 

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