「一年半ぶりね」  
「正確には五日ぶりだ。シチリアで会った」  
「・・・そうだったわね」  
 昔と変わらぬ彼の厳格な態度に、マオは苦笑を禁じえなかった。  
 じんわりと懐かしさが込み上げてきたが、『個人的欲求』はひとまず横に除けておく。  
 野暮用を済ませるのが先だ――  
 
 
 諸々の情報交換が終わったところで、  
「今日は疲れた。君ももう帰れ」  
 戸口に立つマオから視線を外し、クルーゾーはシャワールームへと足を向けた。  
 直後――彼の死角となった空間で、ごく僅かに風の流れが変わる。  
 だが彼は別段驚く素振りもない。無言で振り返った時には、すでに一歩引いて距離を取っていた。  
「・・・っと」  
 背後から音もなく組み付こうとしていたマオが、おどけた調子でつんのめってみせる。  
「ほんっと、いいセンスよねぇ。鼻が利くっていうか。クルツの馬鹿にも分けてやって欲しいわ」  
「変わらないな、君も」  
 馴染みの者にしか判別できない微笑を見せ、彼は短く息をついた。  
「いや・・・違うな。昔より活気に溢れている」  
 彼女はさも意外そうに、やや釣り上がり気味の瞳を丸くした。  
「そう? 悪ガキどもに手ぇ焼きっぱなしでほとほと困り果ててるんだけど」  
「困っているようにはとても見えないが。むしろ楽しそうだぞ」  
「そんな、心外だわぁ・・・」  
 教科書的な「オー、ノー」のジェスチャーと共に天井を仰ぎ、そのまま無造作にきびすを返す。  
「おやすみ」  
 戸口に戻る後ろ姿に一声かけてから、クルーゾーはドアノブを回した。  
 二つの扉の開閉音が重なる。  
 彼が浴室へと一歩を踏み出しかけた時、また付近で空気が動き・・・  
「・・・風呂にまで入ってくるつもりか」  
 今度は長い溜息が漏れていた。  
 もう避ける気も起きなかった――先刻とは異なる『匂い』を感じ取ったせいもあるが。  
 部屋のドアを閉めるなりUターンしてきた人物が、  
「いいじゃない。久しぶりなんだし」  
 甘えた口調で言って、彼の肩甲骨を覆う立派な筋肉にそっと触れる。続いて、二の腕の真新しい包帯へと指  
を沿わせていった。  
 逆の手は硬い腹筋をなぞりながら胴に回し、自分を彼に寄せる形で密着する。同時に、豊富な密度を持つ双  
丘を押し付けてたっぷりとアピール。  
 下では脚部を彼の太腿に擦り付けつつ、足先だけで器用に靴を脱いでいたりする。  
「・・・『こっち』は間違いなく、一年半ご無沙汰だもの」  
 素足になった彼女がついと背伸びをして、息を吹きかけるような仕草で耳元に囁く。  
 その一挙一動は繊細にすら思えるしなやかさを持ちながら、標的を決して逃さない狡猾さをも兼ね備えてい  
た。  
「ね、ベン。すっきりしてぐっすり眠れるように、あたしが処理してあげるわよ・・・」  
 彼の包帯に添えられていた指先が、腕から腰、腰から腿へと滑らかに伝い下りていく。  
 艶麗なる雌豹の危険な誘い。並の男なら瞬時に陥落するであろう蠱惑的な香りを、抑えることなく振り撒い  
てくる。  
 しかし、ターゲッティングされた雄鷹に目立った変化はない。  
「・・・処理、か」  
 顎に手を当てて反復し、腹に巻き付いている無駄のない肉付きの腕を見下ろすと、  
「それが今必要なのは、どちらかと言えば君のほうじゃないのか」  
 その東洋美女のきめ細かい素肌を丁寧に撫でながら、淡々と移動を再開する。  
「・・・・・・言うようになったわね。下士官の頃より」  
 図星を指された美女は幾らかばつの悪い表情を浮かべたが、密着した体は離さず後に続いた。  
 
 浴室はトイレと一繋がりの簡素な造りで、いわゆるユニットバスの類だ。大人二人が並ぶには、トイレ側も  
浴槽側も少々狭い。  
 そのことを見越したのか、マオは後ろ手にドアを閉めるや、早々に空っぽの浴槽内へと移った。  
 縁を隔てて向かい合う形になったところで、クルーゾーは彼女の野戦服の襟に手を掛けた。  
 そのまま躊躇なく脱がせ始めたかと思うと、  
「メリッサ。今いくつだ」  
 唐突に質問を投げかける。  
「デリカシーがないわね。女に年なんて訊かないでよ」  
「それは失礼」  
 冷たい返事に肩を軽く竦めはしたが、作業はやはり淡々と進める。  
 確認のつもりで訊いてみたものの、クルーゾーはマオの年齢をほぼ把握していた。確か、この一年半の間に  
二十代の折り返し地点――俗に言う『お肌の曲がり角』というやつだ――を通過したはずである。  
 にもかかわらず・・・  
「肌の色つやが少しも変わらないと思ってな・・・」  
 思考過程の最終部分を口にした時には、件の肌はショーツを残して露わになっていた。  
 意外なタイミングで賛辞を貰ったマオがきょとんとした表情を向ける。その抜群のプロポーションを、彼は  
一旦顔を離してからしげしげ眺めた。  
「・・・な、なによ・・・」  
 棒立ちになっていたマオは、一瞬遅れて視線を逸らした。微かに頬を紅潮させ、思い出したように胸元を隠  
そうとする。  
 その両腕が目的を達する前に、大きな手が素早く割って入った。  
「あっ」  
「反応も若いな」  
 ブラジャーに頼らずとも美しいラインを保っている半球体。彼はその全体を掌中に収めると、皮膚に感触を  
馴染ませるように一度くいっと捏ねた。  
「ンッ・・・」  
 彼女が小さく顎を反らすのを合図に、柔らかなドーム上での舞踏会が始まる。  
 歴戦の兵士の指先が、その骨太さに似合わぬほど軽やかにステップを刻んでいった。  
「ぁん・・・地中海戦隊じゃ、口説き方も教わるのかしら・・・? んっ、ふぅッ・・・」  
 クルーゾーは口端だけで微笑むと、空いた手を彼女の美麗なうなじへと滑らせた。  
 お喋りは終了とばかりに、引き寄せた途端に唇を塞ぐ。  
「んんっ・・・んふっ、ぅンッ・・・ふぅ、ンッ」  
 指先が性感帯にクリティカルヒットするたび、マオの身が強張る。その竦み自体は見逃しそうなほどに僅か  
だが、懸命に反応を抑えているのが即座に掴める。  
 内側が実に正直だからだ。普段目に映らぬ口内での反応は、彼女の逞しさをもってしても、そう簡単に抑え  
きれるものではないのだろう。  
 蠢く舌先の不規則な一時停止が、すなわち精神の揺さぶられる刹那。  
 ――ならば、『全身の臨界点』は?  
 と、外側の強靭なリミッターも取り払いたくなる。  
 クルーゾーは愛撫の速度を徐々に上げていった。  
 唇を強く吸い上げては最大限に侵入して舌を絡め取る。その一方で、両手は双丘と首筋の一帯を縦横無尽に  
這い回った。  
 鼓動が確実に強さを増していき・・・いつしか、制御の効かない血液がマオの全身を巡り始める。  
「ふっ、んぅ・・・んッ・・・! ふぅ、ぅんッ・・・」  
 舞踏会のBGMは、主催者が発する色っぽいハミング。  
 主賓にして進行役の彼は、手と口の動きは緩めずに、次のステージを脳裏に描いた。  
 移動した視線の先――壁際の一角には、給水ホースに繋がったシャワーヘッドが掛けられていた。  
 
 閾値に達する愛撫を執拗に受け続けたマオは、段々と身体に力が入らなくなってきた。  
「んふぅ・・・ン・・・ッ」  
 放置されている箇所までもが、熱く疼き始める。  
 内腿を落ち着きなく擦り合わせると、すかさず彼の手が標的を変えた。  
 ショーツを半ばまで引きずり下ろすや否や、探る素振りもなく、無骨な指が茂みの奥へと挿し込まれる。  
 ちゅぽっ、と濁りのある侵入音。  
「ぅひァッ!」  
 見事な不意打ちにマオの全身が大きく震え、はずみで離れた口から切なげな鳴き声が上がった。  
「触ってもいないのに、この有様か」  
 クルーゾーは呆れた口調で呟いたが、顔は笑っている。  
「よほど飢えていたようだな・・・あるいは」  
 肩に手を掛けて押し下げると、彼女はまるで抵抗する気配もなく浴槽内にへたり込んだ。  
「ァ・・・あるいは、なによ?」  
「・・・・・・・・・・・・」  
 途端に押し黙り、彼はマオの足に引っ掛かっていたショーツを完全に脱がせた。  
 もはや「湿っている」とは形容しがたいそれを隅に置いてから、彼女の脚を掴んでM字開脚位を取らせる。  
 しとどに潤った彼女の秘所は、いつでも来いと言わんばかりに勇ましく口を開けていた。  
 縁越しに身を乗り出した彼は、再び指を挿入し、豊潤すぎる蜜液を掻き出すように膣内を弄くった。  
「ひぁ・・・あぁっ、ふあァッ・・・!」  
 刺激に反応して閉じかける太腿を押さえつつ、延々と掻き出し作業を繰り返す。  
 水滴のひとつも落ちていなかった浴槽に、小さな雌の池がいくつも形成されていった。  
「はぁ、あァンッ・・・! ひぅっ、あぁ・・・」  
 自分の作り出した獣性のエキスに浸かり、全身を反らして喘ぐマオ。やがて彼はその脚を再び掴むと、足先  
だけ浴槽の外に出させた。  
 曲がった両膝がちょうど縁に引っ掛かる格好である。  
 壷の口が上向きになったのを確認してから、壁際のシャワーヘッドを手に取る。  
「・・・?」  
 マオには彼の行動の意図が完全には読めなかった。が、少なくともシャワーを使うつもりなのは明らかだ。  
「あ・・・それ、1分くらい待たないとお湯にならな・・・ぅひゃっ!」  
 少し言うのが遅かった。  
 クルーゾーは放水開始と同時に、ヘッドをマオの秘所へと向けていた。  
「そうなのか、すまん」  
 僅かに瞠目してすぐ謝罪したものの、手を除けようとはしない。  
「いや、だからっ・・・冷たいって!」  
 逃れようとばたつく足を押さえ付けた彼は、紅く充血した一帯をシャワーで狙いつつ言ってのけた。  
「せっかくだ。火照った部分を冷やせば水も無駄にならんだろう」  
「んッ・・・ぅ・・・あんた、いつから・・・そんなキャラになったのよ・・・?」  
 非難混じりの問いかけと、潤みを帯びた半眼の視線に対しては、ひたすらノーコメント。  
 ようやくシャワーの水が温まってきたところで、彼は水浸しのマオの割れ目にまた指を挿し入れ、壷の内周  
を大きく掻き回した。  
 ぬかるみを踏み荒らすような音が鳴り響く。  
「あッ・・・はあぁ・・・っ、ん、ふぁ・・・ッ」  
 蜜液に温水が加わった分、水音は先刻より豊潤で深い。絶えず耳朶を打つその濁ったメロディが、一度は遠  
のきかけた熱い滾りを再び手元へと引き寄せる。  
 クルーゾーは身をよじる彼女の体勢を手際良く修正し、天井に向けられた壷の口を押し開くと、集中的に湯  
を注いだ。  
「ひあっ・・・!?」  
 贅肉やたるみと無縁の下腹部が、水風船さながらに膨らんでいく。  
「え、ちょっと・・・中に溜まってるじゃない! やだ、なんか気持ち悪っ・・・」  
「そうか。じゃあ出そう」  
 悪びれもせず言うなりヘッドを下に置き、高い高いの要領で彼女の両脇を掴んで、軽々と持ち上げる。  
 逆さになった壷から一気に水が流れ出し、内股を生温かく伝い落ちていった。  
 まるでお漏らしだ。連想した瞬間、マオは頬がかっと熱くなるのを感じた。が、  
「うわ・・・ぁはァァ・・・」  
 上の口から漏れ出たのは、艶に満ちた吐息。  
 上昇の一途を辿る昂揚感が、羞恥の心を即座に消し飛ばしていた。  
 
「嫌がっていたわりに気持ち良さそうだな。どれ、もう一度」  
 クルーゾーは意地の悪い笑みを見せながら、彼女を浴槽内に下ろして同じ体勢を取らせた。  
 再びシャワーの湯が注がれる。  
「ぅあッ・・・ン、や、待って・・・水、溜まってるってばァ・・・なんなのよ、さっきから?」  
「洗っているのだが」  
「だから、どうして・・・」  
 と、そこで彼は、僅かに不機嫌さを滲ませた口調で答えた。  
「おそらく、他の男に使用されているだろうからな」  
「・・・はあ!?」  
 マオはようやく、言わず仕舞いだった台詞の続きの見当が付いた。  
 飢えていたか、あるいは――それだけ頻繁に使っていたか。先ほど彼の頭に浮かんでいたのは、きっとその  
ような類の皮肉だろう。  
(変なところで鋭いヤツね・・・)  
 ・・・なにせ一年半だ。さすがに寂しくもなる。  
 下手に弁解すると泥沼にはまると悟ったマオは、逆ギレに等しく開き直って切り返した。  
「なんなの、その潔癖ぶり! あんたA型?」  
「血液型と性格の相関など、迷信だぞ」  
「そっちの問題じゃな・・・あ、ンッ!」  
 愛撫を突然再開され、反論が途切れる。  
 双丘の片割れを鷲掴みしたクルーゾーは、また浴槽の縁から身を乗り出し、もうひとつの房を口に含んだ。  
 豊かな弾力に護られる中にありながら、頂は正対照的にして刺激的な舌触りで彼を迎える。  
「ふ、あぁっ、あァンッ・・・! んあっ・・・あぁ・・・ひあゥッ!」  
 至高の実りにしゃぶりついては前歯を立て、隣の房を容赦なく揉みしだく。その都度、芸術的とすら言える  
淫らさを振り撒く雌の裸身を、彼は存分に観賞した。  
 一方、注水を終えた下腹部は子供のような膨らみを見せ、成熟しきった肢体の中にミスマッチな味わいを追  
加していた。  
 マオが身悶えるたびにたぷたぷと可愛らしく揺れるそこを、シャワーヘッドを放り出した手が撫で回す。  
「なかなか面白い感触だ」  
「やっ・・・人の体で、遊んでんじゃないわよっ・・・ゥンッ」  
 へその下に当てた指先に軽く力を込めると、満タンの濁水が壷から溢れ出る。  
「ふむ」  
 クルーゾーはひとつ頷いた後、顔を壷の口に近付けた。と同時に、女体を気遣った優しい手つきで、下腹を  
さらに少しずつ押し込んでいく。  
「ん、ぅっ・・・」  
 彼女の小さな呻きに続いて、お世辞にも品があるとは言えないバキューム音が浴室中に響いた。  
「ひっ・・・あ、あ、あぁッ! ふ、ああぁッ・・・んあァッ!」  
 熟れた二つの房をがむしゃらに振り回し、牝馬が嘶く。  
 彼は吸い上げた液汁と舌を用いて、秘裂を丁寧に洗浄した。恥丘や秘唇の表裏、臀裂周辺に至るまで残らず  
舐め尽くす。  
 水を注ぎすぎたせいで蜜の味が薄いが、こればかりは自業自得なので仕方ない。  
 それでもしっかりと喉を潤し、彼女を奥深くまで味わう。無論、つぶらな亀頭とその包皮を重点的に弄って  
やることも忘れない。  
「あゥッ! ぅあぁ、ンッ・・・ひぅ、あァッ! ぃあ、ああァァンッ!」  
「・・・・・・ふぅっ」  
 獣の色香に満ちた嬌声にしばらく聞き惚れていた彼は、やがて名残惜しげに顔を上げた。  
 恥毛を張り付かせて蠢く輝きの中心へ、三本の指が様子見に侵入する。と、すぐに咥え込まれてしまう。  
「んはぁッ・・・!」  
「まったく・・・がっつきすぎだ、君のここは」  
 クルーゾーは溜息混じりに言うと、挿し込んだ指を支点に彼女を少しだけ持ち上げ、左右に揺すった。  
「ひあァッ! ん、ふあぁぁッ・・・!」  
 指に喰らい付いた口は、なかなか彼を放そうとしない。  
 その貪欲に雄を求めるさまを目の当たりにし、ふと、一刻も早く自身で応えてやりたい衝動に駆られる。  
 求めていた『そのもの』が飛び込んだ時の雌の鳴き声を、すぐにでも聞きたい――  
 彼は自由なほうの手で素早く準備をしつつ、割れ目から指先を脱出させた。  
「ああ・・・ッ」  
 引き抜かれた感触に反応する間もなく、マオは抱え起こされていた。かと思えば、  
「ひぅ・・・!? んぁ、あァッ!!」  
 なんの予告もなしに、長大な一物が根元まで挿入される。  
 自身で彼女を一本釣りしたクルーゾーは、仰け反る背を支えながら浴槽の縁に腰掛けた。  
 
 不覚にも、一度貫かれただけで軽く逝ってしまった。  
 完全に彼の為すがままになっているマオは、正直面白くなかった。だが悔しがる暇も有らばこそ。  
 壷の奥底まで抉り上げる抽挿が開始された瞬間、全てがどうでも良くなっていた。  
「ふぅ、あぁっ、はあァァンッ! イ、イイッ・・・んうぅ、あぁ、ひあァァッ!」  
 ――もう、好きにするがいい。自分はこの快感さえあれば満足だ。  
 がくがくと全身が狂喜に打ち震え、唾液の滴る口からは獣の叫びと喘ぎが止め処なく撒き散らされる。  
 野性を剥き出しにする彼女を抱えたクルーゾーは、骨盤を一杯に引き上げては自身へと叩き付けた。  
「むっ、く・・・ん、ふ、うっ・・・ふっ、くっ」  
 時おり勿体ぶるような引き上げも織り交ぜ、突く内壁の箇所も巧妙にずらす。  
 打ち鳴らされる本能の音に合わせて、甘美な飛沫が二人を好き放題に濡らした。  
「くっ、ふぅ・・・・・・う、ぐッ・・・!」  
 ある瞬間、至上の締め付けで下されるゴーサイン。それに迷わず応じた彼は、雄の猛々しき欲情を先端から  
一斉に放出した。  
「ひィィッ!! ぅあ、ああぁあぁぁッッ!!」  
 肺活量の限りに絶叫した彼女が、痙攣の余韻を残しながら崩れ落ちる。  
 全身の凄まじい倦怠感に気力で耐え、彼は脱力した裸身をしっかり抱き止めた。  
 
 
「疲れたとか言ってたくせに、えらく絶好調だったじゃないの」  
「・・・いや、やりすぎた。本当に疲れた」  
「バカねぇ。明日に響いたらどうすんのよ」  
 寝台スペースの天井に向けて豪快な笑声を飛ばす彼女の横顔を、クルーゾーは複雑な面持ちで眺めた。  
 抑えが利かなくなってしまうだけの魅力があるのだ――とまでは、さすがに照れ臭くて言えない。  
「ま、少なくともぐっすり熟睡はできるでしょ。そこは予定通りってことで」  
 どこか自分自身に言い聞かせるような口調でマオが呟く。  
 クルーゾーは赤面ものの思考を胸中の片隅に押しやり、彼女に話を合わせた。  
「確かによく眠れそうだが・・・寝る前のビデオ鑑賞はお預けだな・・・」  
「へえ〜、あんたそんな習慣あったの。なに、ドラマ? 映画?」  
「・・・まあ、一応・・・映画、だな」  
 視線を泳がせ、心なしか歯切れ悪く答える彼に、マオが怪訝そうな顔を向ける。だがその時点では特に追求  
しようとせず、気楽な態度で申し出た。  
「ふーん、今度貸してよ。どんなやつ持ってる? あたしも久々に観たいわ、映画」  
「な!?」  
 沈着冷静な新任中尉の口から発せられた予想外なまでの奇声に、マオは思わず飛びのいた――器用なことに、  
寝た姿勢のままで。  
「な、なによいきなり。驚かさないでよ」  
「メリッサ、それはちょっと待った。俺の持っているやつは・・・こう、少しばかり特殊なジャンルなんだ。あま  
りお薦めできない、というか人を選ぶ部類の作品だから・・・」  
 焦りも顕わに、別人の様相で抗弁する。余裕がないためか、完全に下士官時代の砕けた口調に戻っていた。  
 口では薦められないと言っていても、自分は睡眠時間を削って鑑賞するほど執心しているのだ。よほど人に  
知られては都合の悪いジャンルなのだろう。  
「・・・あっやし〜、その反応」  
 いじめっ子の本性が疼き、マオは横目とニヤニヤ笑いを組み合わせながら彼の横っ腹を肘でつついた。  
 なにしろ、主導権を握られっぱなしのまま行為を終えたせいで鬱憤が溜まっている。奇しくも訪れた反撃の  
好機を、みすみす逃す手はない。  
「余計に気になるじゃない・・・あ、もしかしてエロ? 18禁? 意外と普通ね、あんたのストレス解消法って」  
「ち、違うっ!! アラーに誓ってそれは違うぞ!」  
「じゃあなんなのよ」  
 ごまかしを一切認めない空気を纏って、ずずいっ、と詰め寄る。  
「だから・・・だな、映画ではあるんだが・・・・・・つまり・・・なんと言うべきか・・・」  
「ベ〜ン〜?」  
「つまり・・・その・・・」  
 クルーゾーは彼女を納得させる上手い言い訳を必死に考えた。これまでの人生でも一、二を争うほどの全力  
だったろう。  
 ・・・だが、それでも逃げ道が見つからない。  
 この窮地から彼が抜け出せるか否か――それはまさに天のみ、アラーのみぞ知ることであった。  
 
 
おわり  
 

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