散々な誕生日を終えた翌日――クリスマス当日の夜。
テッサは指し当たっての雑務を手早く片付けると、基地の自室にさっさと戻った。
カーキ色のスーツの襟を緩めようともせず、重力に任せてベッドに倒れ込む。
なにもかもが億劫だった。
「はあ・・・」
――ふられてしまった。正真正銘、完全に。
せわしない状態からひとまず解放されて一人になったためか、じわじわと実感が湧いてきた。
同時に・・・耐え難い哀しみの感情も。
「うっ、うう・・・・・・サガラさん・・・」
どうして彼に選ばれたのが、自分ではなく『彼女』なのか。
記憶力には相当な自信のある自分でも、回数など忘れてしまうほどに何度も抱いてきた疑問。だが、答えは決して返ってこない。
どうにもならない。本当に、どうにもならないことなのだ。・・・でも、それでも。
「うっ、えっ・・・ひ、うえぇっ・・・」
大きなふわふわの枕に顔をうずめ、ただひたすらに泣きじゃくる。
しばらくの間、嗚咽の声だけが狭い空間を満たした。
「っ・・・サガラさん・・・サガラさぁん・・・」
やがて目を真っ赤に腫らした彼女は、我知らず、上着とブラウスの胸元をはだけていた。
お気に入りの純白のブラジャーの上から、やや控えめな二つの丘を両の掌中にそれぞれ収める。
「サガラさん・・・」
彼の顔を思い浮かべながら、軽く捏ね回してみる。
『彼女』に比べると明らかに見劣りしている、そのサイズ。
わかっている。彼は、そんな理由で『彼女』を選んだわけではないということは。
それでも、羨む気持ちは止まらない。
自分になくて、『彼女』にあるもの全てが羨ましい。彼の選んだ全てが――
「うっ、ん・・・サガラさぁん・・・」
背中のホックを外し、仰向けに寝転がる。
天井の照明がぼんやり翳んでいた。
次々と目尻を伝い落ちる雫をテッサは拭おうともせず、
「んっ、ん・・・・・・あ・・・」
カップを上に除け、直に房を掴んだ。すでに硬く立ち上がった頂点を白魚さながらの指先がつまみ、ひねるように弄ぶ。
彼を想うだけで、こんなにも胸が高鳴る。自分の雌の部分が痛いほどに疼く。
・・・なのに、なぜ。どうして・・・
「あ、ああっ・・・サガラさんっ・・・」
手中の乳房を握り締め、千切れんばかりに激しく揉み始めた彼女は、熱い吐息と共に喘いだ。
色白な肢体にはうっすらと汗が浮かび、火照った頬は対照的な紅に染まっていく。
「あっ、ん・・・ふ、ああ・・・」
テッサは顎を反らし、伸びをするようにのけぞった後、いつしか立てた膝を擦り合わせて腰を揺らしていた。あたかも、なにかをねだるように。
半開きの口端から雫が垂れ落ち、次々とシーツに染みを作った。だが、彼女は少しも気に留めない。
そんなことより・・・熱く疼くのだ。さっきから、しきりに自己主張する壷の口が。
タイトスカートのファスナーを下ろし、ショーツの中へと手を差し込むと、彼女は割れ目の周辺を指先で撫でた。
「ん、あぁ・・・あ、あ、ふあぁっ」
宥めるような指の動きに反し、疼きはいっそう強く、激しいものとなる。
テッサはスカートをショーツもろとも一気に引き下げ、邪魔だと言わんばかりに纏めて放り投げた。
覆う物のなくなった下半身を大きく開く。ひんやりと空気の当たる感覚と、付随してくる羞恥心。
だが、今は自分ひとりだ。躊躇いも我慢も必要ない――
彼女は剥き出しの壷の奥へと最も長い中指を一杯に挿し入れ、内壁に沿って中を乱暴に掻き回した。同時に、手前二本の指で付近の突起を摘まみ上げる。
「ひ、あぁんっ! んあ、ふぁ・・・あぁんっ!」
小さな実りを包む柔らかい皮をめくり、敏感な先端を弄くるたびに、反射的に腰が跳ね上がる。
徐々に中指に絡まっていく粘質な感触と、併せて響く淫らな液体音が、彼女の昂ぶりにさらなる拍車を掛けた。
「ひぁっ! ふぁ、あぁ・・・サガラ、さんっ・・・」
――彼の『それ』は、一体どのようなものなのか。
知るすべはない。だが想像し、自身を使って疑似体験する。・・・今はそれしか、できないのだから。
彼を求め続ける上の口には気休めに片手を突っ込み、指先に噛り付く勢いでしゃぶる。
下の口の疼きも止まることはない。抉るように激しく指で掻き混ぜ、襞を撫でては突起をひねり続けた。
壷からとうとうと湧き出す蜜が、周辺一帯に魅惑的な輝きを付与する。
ふやけて緩んだ下の口は、文字通り手に余る拡がりを見せていた。
突起を摘まむ二本以外の指を全て挿し込んでも、足りない。
「ん、ふっ、あぁ・・・んぁ、ふあぁっ!」
まだだ、まだ全然足りない。彼のは、絶対にこんなものではないはず・・・
「あぁっ! ひ、あっ、はあぁっ!」
左右の手を入れ替えてみる。なにかが変わるかもしれない――と、儚い期待を抱いて。
引き抜いた指からトロリと垂れる蜜をしゃぶり、舐め尽くしつつ、逆の手をまた壷に突っ込んで掻き回す。だがやはり、心の乾きが満たされることは決してない。
満たされるはずがない。欲しいのはひとつ、彼なのだ。
彼がこんなにも愛しいのに・・・なぜ、神は与えてくださらないのか。
「はあ、あぁっ! ・・・うっ、ん、あぁっ・・・!」
いつしかテッサは五本の指先を尖らすようにすぼめ、壷へと力任せにねじ込んでいた。
だが手の形状は、どう頑張っても雄のそれとは等しくならない。
成熟しきっていない雌の部分が、道幅以上の挿入物に悲鳴を上げる。途端に生じる鋭い痛み。
「うあっ、あぁっ! あ、あぁっ・・・!」
それでも彼女は壷に指先を打ち付け、ピストンの真似事を続けた。
かりそめの恍惚感を纏って、次第に迫り来るオルガズムの感覚。テッサは痺れを生じてきた指先を壷から引き抜くと、しばらく放置していた手前の実りを一息に押し潰した。
「あぁぁっ!! ふああぁ、サガラ、さぁぁんっ!!」
脳裏に描いた彼の顔が、真っ白な閃光の中に消えていく――
「こら。少しは加減しなさいよ」
不意に間近から声が聞こえ、はっと我に返る。
「えっ、あ・・・え、ええぇぇっ!? やだ、やだ、メリッサ、いつ入ってきたんですか!?」
跳ね起き、慌てふためいてベッドから転げ落ちそうになるテッサを、彼女――メリッサ・マオは冷静に支えて座らせた。
「ついさっき、到達間際。あんたったら、ドアが開いてもぜぇんぜん気づかないんだもの・・・って、ほら」
と、傍らからボックスティッシュを持ってきて、ぽんと手渡す。
「拭きなさいよ。血」
「あっ・・・ありがとう、ございます」
テッサの陰部と真下のシーツは、無理な擬似ピストンによる出血で真っ赤になっていた。
背を向け、俯いて黙々と後始末をする彼女の後ろ姿を、マオも無言で見つめた。どこか、憐憫を含んだ瞳で。
数瞬、ティッシュの擦れる音だけが流れた後。
作業に合わせて規則的に揺れていたアッシュブロンドが、ある時ぴたりと動きを止め・・・細かに震えだす。
シーツの染みの上から新たな雫が加わり、染め絵のような紅い花弁が滲んで広がった。
「わた、しっ・・・サガラ、さんにっ・・・ひっ、ふら、れ・・・えっ」
「・・・そんなことだろうと思ったわ」
ベッドの反対側に回ったマオが、ちょうど胸の高さにあるテッサの頭部を正面から優しく抱き寄せる。そしてほつれきった髪を手で梳いてやり、あやすように何度も撫でた。
「メ、メリッ・・・・・・え、ええぇっ・・・」
「よしよし。今夜はとことん付き合っちゃるわよ」
願いの届かない聖夜もある。哀しみに暮れる夜もある。
だが絶望するなかれ。願いの数だけ、チャンスは巡ってくるのだから・・・
おわり