シドニーの作戦本部爆撃に始まった<アマルガム>による総攻撃は、非情にして凄絶なものだった。
ほとんど有効な反撃もできないまま――わずか数時間で<ミスリル>は壊滅的な打撃を受けた。
そしてメリダ島基地陥落時、からくも大海原へと脱出した西太平洋戦隊<トゥアハー・デ・ダナン>。
「悩むのは来週にしましょう」
デ・ダナンの戦士達を率いるテレサ・テスタロッサ大佐は、副長のマデューカス中佐に力強い口調でそう告げた。
脱出後も執拗に続いていた敵の追撃をどうにか振り切り、とりあえずは一息つける状態になったところで、テッサは操艦を副長に譲って休憩を取ることにした。
時計の動きにすれば長針が数周する間に過ぎなかったが、まさしく怒涛のようなひとときだった。
ある程度は覚悟していた事態だったとはいえ、あまりにも突然に多くのことが起こりすぎて、テッサは気力・体力とも消耗しきっていた。
それでも発令所を出るまではそのような素振りなどおくびにも出さず、しばらくはしっかりとした足取りで通路を移動していたが・・・
「・・・・・・ふうっ・・・・・・」
角をいくつか曲がったところで、壁に凭れ掛かって大きく息をつく。
膝がガクガク震えて止まらない。壁際のパイプに添えた手からは血の気が失われており、額には脂汗が滲んでいた。
――駄目だ。こんなことで挫けてはいられない・・・
瞳をきつく閉じて、懸命に心を静めようと努力する。
自己の感情のコントロール。TDD-1艦長として、今までにも何度となくやってきた行為だ。
感情に縛られていては思考が鈍る。適切な指示、冷静な判断を、最善のタイミングで行えなくなる。
その一瞬の足踏みが、隊を全滅にすら追いやりかねないのである。
テッサはそれを重々承知している。だからいつも艦長席では瞬時に感情をシャットアウトし――酷な表現をすれば、機械のような冷徹さを保たせていた。
だが、今は制御がうまくいかない。公務の場を離れて一人でいるためもあるだろうが、なにより精神が疲弊していたのだ。
・・・どのくらいの間、そうしていたか。
「テッサ・・・? おい、どうした?」
突然前方から声をかけられ、はっと目を開く。
「あ・・・」
心配顔で立っていたのは、つい先刻までベヘモスと激闘を繰り広げていたSRT要員。
いつもの野戦服姿で、顔や腕にはいくつか真新しい絆創膏が貼ってあった。傷の手当てを終えてきたのだろう。
「ウェーバーさん・・・お疲れ様です。情けないところ、見られちゃいましたね」
少しはにかんだ表情を浮かべ、壁から身を起こす。
コールサイン<ウルズ6>、クルツ・ウェーバーは、所在無げに後頭部を掻きつつ答えた。
「いや、それは気にする必要ねえけどさ・・・おっと」
テッサがふらついたのを見て慌てて駆け寄り、肩を支える。
「具合悪いのか? 医務室に連れて行ってやるよ」
「いえ、大丈夫です。このくらい・・・」
「顔も蒼いぞ。無理しない方がいいって。ほら」
と、クルツは向き合う形からくるりと体勢を変え、軽く屈んで自分の背を指し示した。
どうやら、負ぶされということらしい。
メリッサなら反射的に「このスケベ!」とか言って蹴り飛ばしそう・・・などと考えながらも、テッサは彼の申し出に素直に従った。
なぜだか今の彼からは、いつもの下品な雰囲気がまるで感じられなかったのだ。
小柄な少女を軽々と背負ったクルツは、音も立てずに歩き始めた。
比較的年の近い男性の大きな背に揺られて、鼓動が微かに上昇していく。
「・・・ウェーバーさん」
「はいよ」
「艦長室が近くですから。・・・そちらまで、お願いします」
「了解、お客さん」
こんな状況を他の者に見られるのは、さすがに恥ずかしい。
短い距離とはいえ、移動中に誰かと鉢合わせたりはしないかと、テッサは内心気が気ではなかった。
テッサを艦長室まで運んだクルツは、収納式のベッドを展開し、そこに彼女を座らせた。
さほど広くない簡素な室内を興味深そうに眺め回した後、
「ま、とりあえず少し休めよ」
それだけ言って、すぐに背を向けて立ち去ろうとした。
その野戦服の裾が、くいっと引っ張られる。
「お?」
「急ぎの用がないなら、少しだけ・・・そばにいてくれませんか?」
「あ、ああ・・・いいけど。・・・これ、動かすぜ」
珍しく気後れした様子でもう一度辺りを見回してから、彼は室内で唯一のソファーをベッド脇に移動した。
運んでもらった手前、一応はベッドに身を預けたテッサだったが、目の前に存在する気掛かりのせいで寝付けなかった。
・・・逆に言えば、気掛かりだったから引き止めたわけなのだが。
やはり、どこか変だ――顔まで引っ張り上げた毛布の端から様子をうかがい、再確認する。
クルツは膝の上に両肘を付いた姿勢で座り、ただ黙って俯いている。
目は開けているが、どこを見ているわけでもなさそうだ。なにか物思いに耽っているようでもあった。
「・・・あの」
テッサはやがて、違和感の正体を突き止めるべく声をかけた。
「ウェーバーさんは、大丈夫なんですか」
「へっ? お、俺か?」
スイッチでも入ったようにひょこっと顔を上げた彼は、打って変わって大仰なジェスチャーを交えて喋り始めた。
「ぜんっぜん平気、この通りぴんぴんしてるぜ。幸い、怪我らしい怪我もなかったし。ついさっきまで人手不足の医務室で処置を手伝ってたくらいだからさ。そうそう、姐さんや大尉の怪我も軽いって。ただロジャーやヤンがけっこう大変らしいが、それでも命に別状はない・・・」
「そうじゃなくて。・・・そちらの話も、ありがたいことですけどね」
言葉の奔流をやんわり遮りつつ、テッサは毛布を捲って身を起こし、自然な仕草で右手を動かした。
そのまま、人差し指で彼の胸板を軽くつつく。
「ここの問題です。今、わたしが訊いているのは」
クルツは目をぱちくりとさせた後、口端をわずかに吊り上げた。
「・・・テッサの恋人になる奴は大変だな。下手に浮気もできやしねえ。きっと、一瞬でバレちまうぜ」
と、多分に話を飛躍させた賛辞を述べてから、再び俯く。
テッサはその台詞には敢えてコメントせず、手を引っ込めて彼の次の言葉を待った。
数瞬の沈黙。
「確かに今回は、ちとキツかったかな・・・」
蒼い双眸に、悲嘆の色が宿った。
「ミスリルに来る前にも、味方が大打撃を受けた経験は何度もあったんだけどな。ここんとこそういうのと御無沙汰だったせいかな・・・『あいつら』と、けっこう長い付き合いになってたせいもあるかもな」
彼が指しているのは言うまでもなく――先ほどの戦いで帰らぬ人となった、西太平洋戦隊の者達である。
SRTだけではない。基本的に人懐っこくて気さくなクルツは、部隊の各方面に顔が利いた。当然ながら、基地で犠牲になった者の多くと、単なる顔見知り以上に懇意だったのだ。
「特にスペックの野郎は・・・俺のミスで死んだも同然だ。俺が一撃目であのデカブツを仕留めてさえいれば・・・!」
(ウェーバーさん・・・)
胸中を赤裸々に吐露する彼を見たテッサは、胸が締め付けられるような感覚に包まれた。
「真面目なウェーバーさんって、ちょっとかっこいいです」
思えば、そのときから始まっていたとも言える。
かつての恩師のためにライブを開催しようと、即席で結成したバンドの練習に励んでいる彼を見た時。
その時点では、別の対象を半ば盲目的に追いかけていたので、気付かなかったのかもしれない。
彼が、他の男とは違う『特別な存在』になりつつあったことに――
「・・・ちっ。『狙撃の天才』が聞いて呆れるよな。肝心な時に役に立ちやしねえ・・・って」
そこで初めて彼女の視線に気付いたかのように口を噤み、クルツは決まり悪そうに頭を掻いた。
「わりぃ、愚痴って。テッサの方がずっとつらいのにな」
「いいえ。そんなこと・・・」
テッサは大きくかぶりを振って立ち上がり、座ったままの彼に正面から歩み寄った。
流れるような動作で、今度は両腕を伸ばし・・・
「お・・・おいおい・・・・・・」
彼の頭部に、やや小振りだが形の良い双丘がふわりと密着する。
予想外な彼女の行動に、さしものクルツも驚きを隠せない。が、返す言葉は落ち着いていた。
「勘違いするぞ。こういうことすると」
「・・・・・・いいですよ。しても」
その一言を告げるには、さすがに相当な勇気が要った。
彼女の言葉から真剣な響きを感じ取ったクルツは、ソファーから静かに立ち上がった。
並んで立てば、彼の身長はテッサより優に頭ひとつ高い。
「近いうちに背後から刺されるぜ、俺。確実に」
懸命に伸びをする彼女の腰に手を回して支えつつ、心持ち会釈をするように高さを落としてやる。
「あら? 簡単に敵に後ろを取られるような人を、SRTに置いた記憶はありませんけど」
「いや、味方にな・・・・・・ああもう、いいや」
それ以上ぼやくのはみっともなく感じたので、彼は会話を強制終了させた。
「ん・・・」
まずは、浅いキスから。
ファーストキスを奪ってしまったのかは分からないが、詮索するほど野暮ではない。
そもそも彼女が気にしない限り、それは特に意味を持たないことだった――この後のメインイベントに比べれば。
テッサもクルツの背に腕を絡め、より密着しようとしがみついてくる。
四肢の動きに彼女の気が向いている間に、彼は歯列の隙間から内へと侵入を試みた。
「っ・・・!」
少なくとも、これは初めての経験なのだろう。小さな体が過敏なまでに強張る。
赤子を撫でるような優しさで、徐々に慣らしていく。舌先で内周を幾度も巡り、口内で縮こまる彼女のそれと柔らかく触れ合わせた。
「ふ・・・ぅんっ・・・・・・ん・・・」
しばらくするとテッサの全身からは、緊張が解けるのを通り越して、弛緩に近いくらいに力が抜けていった。
絡み付いていた華奢な腕が外れかけたあたりで、クルツは唇を離して彼女をひょいと抱き上げた。
いわゆる『お姫様抱っこ』である。
「きゃっ・・・」
「ナイトが姫をお持ち帰り、の図かね」
ベッドが目の前にあることをかえって残念がるかのように、彼は散々もったいつけてから姫君を横たえた。
そして自分も寝台を軋ませ、傷み放題の淡いブラウンの上着に手を掛けたところで――突然ぴたりと静止する。
躊躇いとも、戸惑いともつかない表情。
「・・・・・・・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「ん? ん〜。ちょっとな・・・」
彼らしくないまでに、歯切れの悪い返答だった。
「・・・ひょっとして」
くすっ、とどこか自虐的な微笑を見せるテッサ。
「軽い女だと思いました? ついこの前までサガラさんを必死に追いかけていたのに、って」
「いやいや。そんな風には思っちゃいないよ。ただ・・・」
「ただ?」
「なんて言うか。ほんとに俺でいいのかな〜、って」
テッサがどう考えてるかはもちろん知らないけど、と前置きしてから彼は続けた。
「あのさ・・・初めて、なんだろ? 俺の経験から言わせてもらうと、女の子にとって『これ』ってすごく大事なことだと思うからさ・・・・・・理屈抜きに」
目線を逸らし、照れ臭そうにぽりぽりと後ろ頭を掻く。
テッサは一瞬きょとんとした顔を向けたが、
「・・・意外です。あなたがそんなことを言うなんて」
と言って心底可笑しそうに、肩を揺らして笑った。
「ひっでえ。俺みたいな紳士、滅多にいないぜ」
自己評価に関しては臆面もなく言ってのける彼にも、彼女は冷静に切り返す。
「ナイトじゃなかったんですか?」
「騎士で、紳士なの」
再び、彼女の押し殺した笑い声が流れる。
クルツは憮然とした面持ちで、スーツの襟を持った手を一旦離した。
「ふふっ。ごめんなさい・・・」
彼が浮かせかけた手首を、テッサが掴んで引き戻す。
「おっ、とと・・・?」
彼女はスーツの胸元に彼の掌を置いて、その上に自分の手を重ね――高鳴る心音と一緒に、一言ずつ区切るようにして伝えた。
「いいんです。許可します。TDD-1艦長としても、ひとりの十七歳の女としても」
――ようやく、気付くことができたのだから。
「・・・『クルツ』さん。近くに来てください・・・誰よりも、わたしの近くに」
数々の武勇伝(?)から察せられるとおり、クルツの経験値は相応に高いらしい。
タイトスカートでさえ、脱がす手つきに淀みがない。ブラジャーも難なく片手で外してのけた。
純白のショーツを残して瞬く間に露わになった、絹のように滑らかな素肌へと、巧みに舌を這わせていく。
「あ・・・・・・あんッ・・・」
鎖骨や喉元、うなじ、耳の裏。反応の良い箇所を的確に把握した後に、集中的な攻め立てが繰り返された。
新雪のごとき白さを持つ彼女の手足には、各所に包帯や絆創膏が巻かれていて痛々しい。どれも脱出の際の白兵戦で負ったものだ。
傷に障らないように――ライフルを意のままに操る指先が、狙撃以上に繊細な仕草で彼女の身体をさする。
やがてテッサを抱き起こして膝に座らせたクルツは、細い腰を片腕で支えながら発育途上の乳房を鷲掴みにした。
丁寧に揉みほぐしては、頂点を摘まんで弄くる。合間に唇や舌も織り交ぜた波状攻撃である。
「うんっ・・・・・・あっ・・・」
くすぐったい中に、時折混じる蕩けるような甘い感覚。
十ヶ国語ほどをマスターしているテッサであっても一言では上手く表現できない『それ』が、じわじわと全身を包んでいくのが分かった。
身じろぐたびに傷が若干疼いたが、次第にそんなものは全く気にならなくなっていく。
「やっぱ可愛いな、テッサ。それに・・・世界中のどんな美姫も霞むくらい、輝いてる」
愛撫を続けるうちに、クルツもいつもの調子が戻ってきたようだ。彼だからこそ言えるような気障な台詞が、テンポ良く飛び出していた。
「なっ・・・なに言ってるんですか・・・・・・ぁんっ・・・あッ!」
また乳房に吸い付かれて、少々大きな声が出てしまう。その羞恥心が余計にテッサを昂ぶらせた。
「ほんとだって。女神も裸足で逃げ出すぜ。俺、もう明日死んでもいいね・・・」
何気なく言って、彼がショーツの近くへと手を滑らせた時、
「・・・ダメです、死ぬなんて。許しません」
潔癖に思えるほど真剣な返事が来て、苦笑いが浮かんだ。
「冗談だって」
「冗談でも、ダメです・・・」
「・・・テッサ?」
声の震えに気付いて手を止め、彼女の顔に目を向ける。
青灰色の瞳から、大粒の涙が溢れ出していた。
しまった、とクルツは自らの軽はずみな発言を本気で後悔した。
「ごめん。本当に悪かった。不謹慎だったな・・・今日みたいな日に」
「っ・・・それだけじゃ、ありません」
深く頭を下げる彼に、テッサはしゃくり上げながら言った。
「もう嫌なんです。『特別』になった人が、遠くへ行ってしまうのは・・・」
・・・袂を分かった双子の兄は例外だとしても。
あの白き芸術品を作り上げた、今はもうこの世にいないウィスパード、バニ。その芸術品を託されて東京で護衛任務を続け、今や安否の掴めない相良宗介。
次々に、手の届かない場所へ行ってしまった。
「そばにいて。近くにいてください。わたしから離れないで」
「・・・・・・・・・・・・」
彼女の言葉の真意をクルツが完全に理解するには、持っている情報が足りなかった。
だが、自分が彼女にとって特別な存在らしい――それは掴めたので。
「・・・なんか、男冥利に尽きるよ」
呟くように言って、彼女の目尻を指の背で拭ってやってから、下側の手の動きを再開した。
「っ・・・ん」
「大丈夫だ。テッサ、お前が望むんなら、いつだってそばにいてやるさ」
ショーツの隙間から指を差し入れ、微かに湿った秘部を直に刺激する。
「ぅんっ・・・あっ、んあぁ・・・・・・ひぁ、あんッ!」
小さな突起を優しくひねり、割れ目からじわりと分泌される雫をすくって縁に塗り込めていく。
続いてショーツを完全に下ろし、より壷の深みへと指を突き入れては内部をまさぐった。
「あっ、あぁん! うぁ、ぁんっ・・・ふあ、あぁんッ!」
テッサの身体は痙攣するように何度も小刻みに揺れ、初めて使用される下の口は徐々に雄の受け入れ準備を整えようとしていた。
「テッサは持ってないよな・・・これは」
呟いたクルツが、常備しているマイ避妊具――やたらと用意の良いことだ――を野戦服の内ポケットから覗かせる。
「・・・・・・あ・・・それなら・・・」
すでに全身汗だくのテッサは、それこそ全力疾走後のような呼吸を続けていたが、
「・・・ありますよ。そこの端っこの引き出しに」
ふらふらと腕を持ち上げて部屋の隅のデスクを指した。
「え・・・」
「前にメリッサから、強引にプレゼントされたんです。『記念すべき初体験に使いなさい』って」
その時の顛末を思い出したようで、テッサの口からふふっと笑いが零れる。
「姐さん・・・さすがと言うべきか」
文字通りクルツはぽかんと口を開けて、示された引き出しを眺めた。
マオのことだ。テッサが初体験を終えたと知ったら、きっと相手を追及しようとするに違いない。
まして、あらかじめ『そのためのアイテム』まで渡してあるとあっては・・・
――途方もない身の危険を感じた。
「クルツさん、取ってきてもらえますか?」
「・・・えーと。俺が開けていいのかい? あの引き出し」
「ええ。他の物は動かさないでくださいね」
「了解。・・・・・・とりあえず、姐さんを拝んでおくか。敬愛と謝罪の意を込めて」
と、クルツは独りごちて手を合わせ、マオがまだいるはずの医務室の方角に一度頭を下げた。それから気を取り直して、すたすたとデスクへ向かう。
もしバレたら問答無用に殺されそうな気がしたが。艦長直々に許可が下りたし・・・と精一杯自己を正当化し、クルツは引き出しの中から『それ』を手に取った。
一物への装着を完了したクルツは再度テッサに向き直り、仰向けになっている彼女の両脚に手を掛けた。
「それじゃ、行くぞ」
「・・・どうぞ」
一言だけ返して、唇をきっと引き結ぶ。無理もないが、相当緊張しているようだ。
「できるだけ力抜けよ。その方が痛くないから」
こくりと頷く彼女の脚部を押し開き、壷の入り口に先端を合わせて、クルツは硬く勃起した一物を少しずつ挿入していった。
「んうぅ・・・うっ、ん・・・・・・あぁっ、ああぁ!!」
懸命に歯を食い縛っていたテッサの口から、抑えきれない悲鳴が出る。
「テッサ。我慢できそうか? きついようなら・・・」
「だい、じょぶ・・・です。続けて・・・」
控えめに見てもつらそうだ。だが、一度出したゴーサインをやすやすと引っ込める彼女ではない。
「・・・オーケー。もうちょっとだ。頑張れ」
「うっ、あぁ・・・! あぅっ・・・」
秘裂から殿裂を伝って血が滴り落ち、白いシーツに紅い染みをいくつも形成していく。
「ぅあぁっ・・・!!」
そしてひとつの叫びの後に伝わる破瓜の感触。それは、永遠のような刹那だった。
乱れたアッシュブロンドをよしよしと撫でてから、クルツは荒い息をつく彼女に問うた。
「このまま続けられそうか?」
「・・・もちろん、です。来てください」
その声からは、艦長席に座っている時とは異質の――女性としての強さが感じ取れた。
「よし」
短い一言を合図に、クルツはゆっくりと腰を動かし始めた。
血液で潤滑液が補われたことで、膜を破る前より幾分滑りが良くなっているようだった。
「あ、うっ・・・あ、んっ、あぁんッ!」
苦痛を伴いつつも、快感の色を含んだ嬌声が室内に響く。
クルツはじっくり一速ずつギアチェンジしていき、様子を見ながら角度も変えて、彼女の奥深くへと幾度も自身を突き立てた。
「あっ、ああっ・・・クルツ、さん・・・来て、来てぇ、もっと近く・・・・・・ああぁッ、ああぁんッ!」
しきりに悶え、喘ぐ彼女の恍惚とした瞳は、妖艶とも言える光を帯びている。その輝きにクルツは魅了され、彼の欲情はいっそう昂ぶりを見せた。
「・・・おう。今いくぜテッサ・・・くっ、う」
「ひあぁ、クルツさぁんっ! ああん、ああぁぁッ!!」
彼女の叫びとともに壷の口が締まり、彼の絶頂への追い風が吹く――
(エピローグ)
壁に背を預けたクルツは、毛布にくるまったテッサを抱きかかえて、もう一度頭を撫でた。
「よく頑張ったな、テッサ。偉いぞ」
「・・・子供扱いしないでください」
典型的な子供発言の後、彼女は彼の肩に頭を凭せ掛け、静かに告げた。
「わたし、負けません。どんな『敵』にも・・・絶対屈しません。闘い続けて、勝ってみせます」
強靭な意志と、猛々しささえ感じられるその言葉は、彼女の高いトーンの声と正対照的に重厚な響きを持っていた。
少しの間を置いて頭を持ち上げたテッサが、彼の碧眼をまっすぐに見つめる。
「だから・・・クルツさん。これからも助力をお願いしていいですか」
――そう、彼女は戦場に生きる姫君。
その真摯な眼差しと申し出に、自称騎士は恭しい一礼を返した。
「・・・仰せのままに、マイ・プリンセス」
「もう! 茶化さないでください!」
「うぇっ、そんな。真面目に答えたつもりだったんだけどなぁ」
途端に頬を膨らませる彼女を宥めるのには、苦手な接近戦より手こずってしまった。
おわり