相良宗介軍曹は、このところ連夜の作戦に就いていた。
それは、とある島に単独上陸して主要拠点を制圧しながら各地の防衛システムを無力化した後、敵の最重要拠点を強襲潜水艦で攻略するというものだった。
まず、島の北側から上陸して声のする所へ押し入ると、いきなり敵の応戦があって絡み合いになる。
「んっ・・・ちゅくっ・・・はぁ・・・はぁ…」
敵の息があがってきたところでそこから離脱し、南下しながら島の各所を同時多発的に攻めて徐々に敵の防衛網をくぐり抜けていく。
攻撃対象を島の重要拠点であって深い谷を形成している二つの丘陵地アルファ・ワン、アルファ・ツーに移すが、ここの防衛システムはなかなかしっかりしていて防衛網の上からでは揺さぶりをかける程度で有効な攻撃が難しい。
宗介は防衛ラインに沿って島の裏手へ回って手探りで厳重な防衛システムを解除する。
(このあたりの筈だが・・・コレだな・・・)
「パチッ、パチンッ」
「ぷるっぷるるんっ」
これで二つの丘陵地アルファ・ワン、アルファ・ツーはもう無防備である。波状攻撃を仕掛けながら包囲網を徐々に頂上付近に狭めて集中攻撃を加える。
「ぺろぺろ・・・ちゅぱちゅぱっ・・・」
アルファ・ワン、アルファ・ツーを完全に制圧して敵が耐えられなくなった頃を見計らって蛇行しながら南下する。
小さな窪地を経由してさらに進むと島の最重要拠点があるはずのポイント・デルタだ。はじめはこの地域一帯を覆っている防衛システムの上から、あるいは隙間からの攻撃を試みる。
一見するとここの防衛システムはさほど堅牢ではないように見えるが、焦るとなかなか解除することができない。
宗介は、この防衛システムは島の裏手に回って滑らせるのがコツであることを最近学んだようで、今回はすぐに取り除くことに成功した。
「シュルッ」
あらわになった草原の柔らかいブッシュを掻き分けて更に奥へと進む。どうやら島の最重要拠点にたどりついたようで、この後の作戦行動を円滑に進めるために周辺を特に念入りに探索する。
「くりくり・・・ぴとぴと・・・くちゅくちゅっ・・・」
島の照明は少し前にダウンしていたが、かすかに差し込む月明かりに小粒の桃色真珠が濡れて、てらてらと光っている。どうやら海が近い。
いよいよ宗介の強襲潜水艦<トゥ・アハーン・デ・ウフン>の出番である。
(特殊マスカー作動!)
「ピリリっ・・・ぴとっ、しゅる、しゅるるる・・・」
(潜航準備よし!微速前進三分の一!)
少し船体を滑らせると浅瀬の距離は短く、すぐに深い海溝になっている。海底火山でもあるのだろうか温水が湧き上がってきている。
(潜航開始!ダーイブ、ダーイブ、ダーイブ!)
「ちゅぷっ、じゅぷぷぷ・・・」
ゆっくりと潜航を始めると、海溝は狭く複雑に入り組んだピンク色の壁面が迫ってくる。ねっとりと船体にまとわりついてきて思うように舵が効かない。
(こ、これは・・・気持ち・・・イイ国作ろう・・・鎌倉幕府・・・な、なんと・・・締まるな・・・竜宮城・・・)
宗介は、必死に何かから気を紛らわせるための呪文を唱えようとしたようだがまったくダメである。努力の甲斐もなく強襲潜水艦<トゥ・アハーン・デ・ウフン>は潜航開始から間もなく圧壊限界に近づいてしまった。
「うっ!」
(どぴゅっ!ぴゅ・・・)
強襲潜水艦<トゥ・アハーン・デ・ウフン>は、圧力に耐え切れず船首から『白いAS』を勢いよく放出してしまった。
ただし、潜航直前に船体の周囲に密着させた特殊マスカー(極薄の高分子ポリマー)のおかげで海洋汚染は免れたようである。
(むう・・・強襲攻撃に移る前に・・・これでは敵に責められてしまう・・・)
作戦行動の続行を断念した強襲潜水艦<トゥ・アハーン・デ・ウフン>が完全に浮上すると、なぜか宗介のすぐそばにいた千鳥かなめが、ゆっくりと上体を起こしてその場にへたり込む。
「あん、もう、ソースケだけイクなんてズルい!これからってところだったのにぃ・・・」
「あーあ、なんてかわいそうな私。るーるーるー」
どうやら、潜水艦の『白いAS』放出のタイミングが早すぎて満足な強襲攻撃も無く、あっけなく浮上してきたことが不満な様子である。説明が遅れたが、ここでいう『AS』とは『Abundant Sperm』の略である。
かなめは暫らく頬を膨らませていたが、気を取り直すと四つん這いの姿勢になって、やや元気のなくなった兵士に顔を近づけた。
「敵前逃亡は許さないわ! 軍法会議の後、再突入を命令します!」
「ペロッ、チュパッ・・・うぐっ・・・うぐぅんぐ・・・ちゅっぽッ、じゅぽじゅぽッ・・・」
軍法会議では、激しい『口頭尋問』がしばらく続いた・・・
おわり