天蓋の掛かった大きなキングサイズのベッド。
ふわふわの布団。
ぴったりフィットする枕。
肌触りのいいシルクのキャミソールと下着。
ここに来てから、レナードはあたしに最高のものを提供してくれる。
知的好奇心を満たすだけの読み物もあったし、健康に生活できるだけの運動もできた。
満たされた生活だ。何もかも。
ただ、すっぽりと大きく抜け落ちた心の空間以外は。
かなめがベッドの中でただ何もない空間を見詰めていると、レナードが横に寄り添うようにやってきた。
腕の中で他愛もない話をする。(以前までの他愛もない話とは比べようもないレベルの話だが)
世界から切り離された様な感覚。
今までの生活が幻覚だった様に洗い流されていく。
ただ残るのは寂しさと切なさだけだった。
「かなめさんは綺麗な髪をしているね。」
レナードは「如何にして超広域レーダーを備えた誘導ミサイルを歩兵携行用のサイズまで小型化するか」
を途中で打ち切るとかなめの髪に触れ、キスをした。
「ありがと。 …でもあなたの方が綺麗だと思うわよ」
微笑んでレナードの髪に触れる。
実際、テッサと同じ白銀の髪は絹のように柔らかく手触りが良い。
彼とは似ても似つかない程、手入れの行き届いた綺麗な髪。
胸が苦しくなって、かなめはその思いを頭から叩き出した。誤魔化す様にレナードの胸に顔を埋める。
「どうしたの?」
かなめの細い身体を抱き締めて耳元に囁く。吐息には幾らか熱が篭っていた。
「…何でもないわ」
レナードに身を任せ、抵抗の類は何もない。
それはまるで、今自分が立たされている境遇に対する自分の反応と似ていた。
レナードは恭しく唇を寄せ、美しいかなめの唇に触れるとそれを何度も繰り返す。
少しずつ深くなっていく口付けに無感動に応えていると、布団にゆっくりと押し倒された。
背中に手を回し、脇からキャミソールの中に手を滑り込ませる。
ぞくぞくと背中を駆け上る感覚に不思議と嫌悪感は無かった。
レナードの手はゆっくりと乳房を目指し、乳頭を刺激しながら緩やかに揉む。口付けはより深くなっていった。
黒髪で逞しい身体つき、無骨な手。たどたどしい愛撫に何度じれったい思いをした事だろう。
それでも良かったし、幸せだった。心から愛されていると感じていた。
絡め取られ、吸い付かれる。
口腔を侵され、蹂躙される。
「彼」とは比べ様も無い程に上手い接吻に息が上がり、
否が応にも高められてしまった身体には甘美な疼きが広がった。
離れて行く舌と舌との間に透明な糸が引く。
レナードはキャミソールを捲し上げると、硬く実った双頭に舌を絡ませた。
身体中に広がっていた甘い疼きが自然と腰に集中する。
「ん…ッ、ぅ……はぁ……ぁ」
甘い吐息を堪えようともせず腰を浮かせ、シーツを握り締めた。
レナードのもう片方の手が下着の上から割れ目をなぞり、溢れ出て来た愛液が染みを作る。
ぴくんとかなめの身体が反応すると、レナードは満足そうに微笑んだ。
「ふ、ぁ……ッ、あ…ぁ!」
レナードが肉芽に軽く爪を立てると、かなめは腰が跳ね上げ、快感を貪る様に目を瞑った。
先程までとは比べ様も無い快感がかなめを襲う。
秘所が濡れ切った頃を見計い、レナードは下着の濡れている部分を横に除けて息衝く秘所を指で弄ぶ。
ゆっくりと上下になぞるとかなめは切なげに腰を揺らめかせ、自ら脚を開いた。
そう何度も開いた事のない淡いピンク色の秘所は愛液に塗れ、てらてらと光る様は酷く卑猥なものだった。
かなめの媚態に誘われる様にレナードは指を奥に進め、数度抽送を繰り返すともう一本指を増やし、
大袈裟に音を立てながら出し入れを繰り返す。
「…ッあ、……っ、は、んッ、あぁっ…」
乳房と秘所、同時に与えられる快感はかなめの意識を朦朧とさせた。
「もう一本、入るかな…?」
レナードは愛しそうにかなめを見詰めながら、その様子を窺っている。
まるで視姦されている様だ、と、かなめはぼんやり思った。
ゆっくりと挿入される三本の指は肉襞を掻き、一番敏感な場所を捉えた。
あくまで紳士的に、確実に其処を責める。
かなめはぶるっと身震いをすると、意識が白い靄に包まれるような、重く甘い感覚に襲われた。
鼻に掛かった甘い嬌声は豪奢な作りの部屋に響き、耳につく粘着質な音が更に情欲を煽る。
レナードはかなめの腹に舌を滑らせ腰骨にキスを落とすと、淡く茂る下腹に潜む果実をひと舐めした。
「あ…ああ…ッッ!!」
かなめの身体がビクンと弓なりに反り返り、過度の刺激だった事を知らせる。
構わずに舌で刺激し続けると秘所は一層ぬめりを増し、グチャグチャと卑猥な音を立てた。
目を閉じたかなめの前には「彼」がいた。
勿論、自分の想像でしかないのは分かっている。
分かっているのに、その幻覚の「彼」から目を背く事ができない。
忘れ切れない、元居た世界の残滓。
まるで宗介がそこにいるかのように。
幻覚から引き戻され、うっすらと目を開けたかなめの前にいるのは
言うまでもなくレナードだった。
幻覚に手を伸ばしても虚しくなるだけだと分かっているのに、その甘美な誘惑に勝つことができない。
なんと自分は愚かで弱い人間だろう。
もうこの手には戻らないと分かっているのに、情けなくも手を伸ばし続けてしまう。
レナードはゆっくりと指を抜き、敏感な内股にキスを落とすと
起き上がってかなめの身体の横に手を突き、首筋から耳元にかけてを丹念に舐め上げた。
いつの間に脱いだのか上に着ていた白いシャツはもう無く、透き通るような白い肌が露わになっていた。
想像していたようなテッサの様に細く華奢な体躯ではなく
宗介程ではないにせよ、程よく筋肉の付いた男性の身体がそこにあった。
「忘れさせてあげるよ…僕が何もかも…」
かなめの頬に優しく手を添え、慈しむ様にキスをする。
ここに来てからすっかり忘れてしまっていたはずの涙が一筋頬を伝った。
侵入してくる異物が酷く大きく感じる。
レナードの侵入を悦んでいるのか阻んでいるのか、己の意志とは関係なく、肉壁が蠢く。
「…んく――っうぅ…ッ」
眉根に皺を寄せ、重くほの甘い圧迫感に耐えるかなめの表情に魅入られた様に、レナードは絶え間なく口付けた。
始めはゆっくりと労わる様だった動きは今や激しさを増し、かなめの最奥を穿つ様に激しく腰を打ち付けている。
「あ、ぁあッ!!く、ぅ…ッッ!!んっ、あ、ああああァ!!!」
かなめは弓なりに背を引きつらせた。
わずかに痙攣した後、ゆっくりと弛緩してゆく。
その様子を眺めていたレナードは過敏になったかなめの身体を弄ぶように、間を置かずに抽送を再開した。
より感じやすくなったかなめの秘所の、最も感じやすい場所を深く抉る。
かなめは快感に耐えようとかぶりを振って目を閉じた。
「(…ソースケ…)」
記憶の中の宗介がかなめの目を覗き込みながら、慈しむように、気遣うように、それでいて激しく追い立てる。
初めての時、どうしていいか分からずに恥ずかしそうに教えを乞うてきた彼。
ぶっきらぼうでも実直で従順な性格そのままの彼の愛撫。
激しい律動。
暖かい掌。
逞しい腕。
広い胸。
愛しいあなた。
過度の快感にかなめの意識がホワイトアウトする。
体内に暖かいモノが放出されるのをうっすらと感じながら、抗うことなくその絶望さえ感じる程の白に身を任せた。
ここに来てからずっと、頭の奥が重い。
いっそ囁きに身を任せてしまおうか。
<アマルガム>のAS開発に従事させられてどれくらい経っただろう、
合間にこうして海を眺めるのがいつの間にか日課となってしまっていた。
学校のみんなは心配しているだろうか
父と妹は元気だろうか
あの聡明な潜水艦の乗組員たちは無事だろうか
勇敢な彼は今どうしているのだろう
元いた世界には多分、恐らく、もう、二度と、帰る事はできない。分かっている。
最初は生き残った<ミスリル>の彼らが助けてくれるのではないかと、そう思ってここに来た。
そんな甘っちょろい希望的観測は棄て、今となってははただ、彼らの安息と安全を祈っていた。
もう自分の事などどうでも良かった。
どうか、学校のみんなが、父と妹が、元気でありますように。
どうか、あの聡明な潜水艦の乗組員たちが一人でも多く生き残れますように。
どうか、私の愛しい、最高に勇敢な彼が、無事でありますように……。
空ろな視線は空しく虚空を見詰め、吹き付ける海独特の生臭い風が髪を揺らす。
傍に控えていた女性が時間を告げ、研究所へ戻るよう促されると、重い腰を上げてのろのろと歩き始めた。
ふと、かなめの脳裏にある思いが浮かんだ。
そうだ、AIをボン太くん仕様にしてやろう。
[終了]