身長二メートルあまりのアジア系の男の左第十二肋骨が、身長170センチメートルたらずの小娘の拳打によって叩き折られる。  
 
「失礼」  
 
私は口だけの謝罪をする――最高の気分だ。私の足元に跪く大男の苦痛に満ちた表情。脂汗に塗れた呻き声さえ爽快に聞こえる。  
 
「畜生、この小娘が」  
 
最低の気分だ。不用意に叩いたせいで右手の第三中手骨が痛い。  
折れてはいない。半刻もすれば霧散するような痛みだが、もし万が一、今どこかの誰かが攻めてきてASに乗るような事態になったらどうすればいいのか。  
貴様のように火薬と鉄を振り回すだけの大雑把な仕事とは違うのだ。ASを駆る私の手に不具合があれば、あの人の身に危険が及ぶかもしれない。  
手の甲を親指で揉む。あの人に触っていただければ、半刻待たずとも完治するかもしれないけれど――まったく。半端に反応して半端に身を捩るから半端な折れ方をして、私の手も中途半端に痛むのだ。  
 
*  
 
錦糸を思わせる黒髪や黄色人種特有の肌理の細かい肌と、氷結したかのように透き通る銀髪や白い肌――それらが交わる姿は甚だ淫靡であったが、その行為に及ぶための精神の具合が、淫靡な方向に傾いていたどうかは、一切判然としない。  
 
「カナメ、声をだしてもいいんだよ?」  
 
銀髪の人物が、カナメと呼ばれた黒髪の人物を後ろから犯しつつ、そう問いかける。  
黒髪の人物は何も言わない。ただシーツを強く鷲掴み、羞恥か屈辱かの何事かに耐えているようであった。  
物言わぬ上の口とは対照的に、黒髪の人物の下半身から淫らな音が上がる。  
銀髪の人物の濡れた剛直が、黒髪の人物の下半身の穴に深く深く挿入される。挿入の際に、周りの皮膚ごと穴へと押し込まれ、抜け出る際に吸盤のように張り詰めた肉棒に絡みついた。  
ズグッズグッと良心の呵責のない一突き一突きが、この行為が恋愛の行く末にある甘ったるい情交ではなく、ただ性欲を発散するためだけの野蛮な行為であることを物語る。  
銀髪の人物は目の前の黒髪を引っ掴むと、その耳たぶを卑しくかみ締めた。黒髪の人物は眉をしかめる。  
歯の鬱血が数瞬で消えるほどの軽い噛み付きの末、銀髪の人物は嘲るような調子で言う。  
 
「本当は気持ちいいんだろう、カナメ?そういう時は正直に言うんだ。その方がいい。僕は正直者が好きだし、自身の本心を明け透けにするというのは、開放感があって実にいい」  
 
酷く楽しげな彼を余所に、黒髪の人物は苦痛と恥辱から歯を思いっきり食いしばった。  
黒髪の人物の下半身から血の雫が滴り落ちる。その流れが銀髪の人物の灰色の瞳に映りこんだが、その一筋を目撃したのは、彼一人だけではなかった。  
レナードの邸宅の一室――二人が交わるベッドと正反対のところに、廊下へと続く扉がある。  
その扉が僅かに開けられていた。髪の毛ほどの隙間から強い視線が刺し入れられる。  
すらりとした立ち姿の視線の強いその人物は、自身のブラウンの髪を強く引っ掴むと――その場で発狂しそうになる情動を必死で抑えつつ、目の前の扉を静かに閉めた。  
 
*  
 
体育館から男が一人運び出される。彼は傍目から見てもわかるほど変形した脇腹を抱え、うわ言のように罵声を繰り返す。  
曰く、この売女が。曰く、後で犯して殺してやる。  
その言葉は全て自分に向けられたものだったが、私は黙殺し、目の前の男を見据えていた。  
その男は自慢の長髪を靡かせると『やれやれ』という仕草をした。  
 
「サビーナ――どうも君は、体力が余っているらしい。もし組み手の相手に困っているようなら、私が相手をしよう」  
 
リー・ファウラーという兵はこういう男だ。何かにつけて格好をつけたがる。  
あの糞女。『彼』の寵愛をその身に受けながら、その幸運を厄介事と考える万死に値する女と同じ人種の癖に、ナルシズムだけは一人前なのだ。まったく。虫唾が走って仕方がない。  
私は周囲を見回す。広い体育館内。屈強な兵士が私を含めて17人――その内6人が邸宅付けの兵士で、残りがファウラー率いる実行部隊の人員である。私が殴り倒した男はファウラーの部下にあたる。  
 
「あなたがそうおっしゃるなら、断る理由はありません」  
 
あいわかった。そんなにこいつらの前でいい顔がしたいのなら、それもいいだろう。  
付き合ってあげる――部下の仇に制裁を加えようとするファウラー隊長。そのありきたりな筋書きにのっかってもいい。  
ただし、現実は小説よりも希なり。悪役が勝つというのも大いにありえるシナリオだろう。  
 
*  
 
明け方。潮風に乗ってどこからか喧騒が聞こえてくる。  
男たちの罵声。ニケーロの外れ、海岸沿いのこの邸宅には似つかわしくない低い唸りに、千鳥かなめは早めの起床を迎える。  
 
「そういえば、ファウラーの部隊が来てるんだっけね」  
 
自室のベッドの上。状況の整理にかなめは一人ごちる。  
リー・ファウラー率いるアマルガムの精鋭部隊。次の任地に赴く中継地にこの邸宅が選定された――別にさほど興味はなかったが、あの鉄面皮のサビーナが心底いやそうな顔をしていたので覚えている。  
今は恐らく体育館で早朝訓練でもしているのだろう。  
まったくごくろうなことだ、とかなめは大きく欠伸をした。  
 
「失礼いたします」  
 
「どうぞ」  
 
そんな彼女のところに、計ったかのように邸宅の侍女が現れた。  
控えめなノックと控えめなドアの開け閉め。カートを押して控えめに入ってきたその侍女は、いつもサビーナの影にビクビクしている。  
 
「朝食をお持ちしました」  
 
「いらない。今はあまり、食欲がないの」  
 
「――と思いまして、軽食、サンドイッチにいたしました。置いておきますので、お好きなときにお召し上がりください」  
 
カートの上に控えめな大きさのサンドイッチが乗っている。恐らくサビーナの入れ知恵だろう。  
以前朝食のことで少し注文をつけたことがある――そういえば朝食は、かなめの様子見と日程の確認のため、普段はサビーナが運んでくるはずである。  
かなめは思いついた疑問を、端的に表現する。  
 
「サビーナは?」  
 
「サビーナ女史は只今体育館で訓練中です」  
 
「もしかして、ファウラーの部隊と一緒に?」  
 
「はい。どうもあちらから合同訓練、格闘訓練の申し出があったようです……ここだけの話、女史はあまり気乗りしない様子でしたけど」  
 
「でしょうね。あたしがサビーナの立場だったら、絶対参加しないもの」  
 
「なぜです?」  
 
侍女は心底疑問だと言う顔をする。かなめは小さく溜息をついた。  
 
「サビーナも結局、女の子なのよね」  
 
若年で女のサビーナが幹部の右腕である、という事実は、恐らく末端の兵士からはあまりよく思われていないに違いない。  
テッサがそうだった。きっといわれのない誹謗中傷を受けるだろう。  
そんな彼女に合同訓練の申し込み――馬鹿馬鹿しい。ただ理由をつけて乱暴を働きたいだけだ――かなめは予想する。  
 
「怪我しないといいわね」  
 
「女史が、ですか?」  
 
「相手が、よ」  
 
見た目の倍以上の戦力をその身に宿したサビーナ・レフニオが、黙って制裁を受けるとは思えない。  
日頃よりサビーナの狂気に触れているかなめは、そう予見する。  
 
*  
 
「なんだ、一方的じゃないか」  
 
「当然だろう。凄腕でも所詮は女だ……そもそも隊長は格が違う」  
 
好き勝手なことを言う馬鹿面どもを一瞬睨みつけ、その隙にファウラーの前蹴りが私の鳩尾を襲う。  
私はその蹴り足を身を捩って受け流すと、一歩踏み込んで膝を取りにいく――弾かれる。距離が開く。  
ファウラーは自身の長髪を掻き揚げるとまたしても『やれやれ』という仕草をした。その靡きがあの女のことを思い起こさせる、昨日の情景を想起させる。私は本当に彼のことを、どうにかしてやろうかと思ってしまう。  
 
「元気があるのは結構だが、それだけでは勝てはしない。君はもう少し賢い女だと思っていたんだがね」  
 
なぜこの組み手を受けた?――ファウラーは言外にそう含める。  
私とファウラーの間には徒手における圧倒的な実力差がある。  
片や邸宅付けのAS乗りと、片や実行部隊隊長のAS乗り及び格闘家。  
その辺の傭兵ならまだしも彼のような一流どころを相手にした場合、私の華奢な体では荷が重い。多少腕力があろうと質量の差は覆せない。リーチも違う。  
だから私はあの時、何かと理由をつけて断ってもよかったのだ。時間がない。私も手を傷めた。恐らくファウラーは嫌味一つも言いつつも、特に食い下がるようなことはしなかっただろう――何せ彼にはやる気がない。打撃一つに殺気がない。  
 
「さっきまでの元気はどうした?訓練なのだからもっと突っかかってこい――それとも、そんなに一方的にされるのが好きかね?私には君のような毛が生えたばかりの小娘を、いたぶるような趣味はないんだがね」  
 
ファウラーの下卑た挑発に、周囲からさらに下卑た笑い声が上がる。  
似合わないことをする、と私は思う。ファウラーは本来、性的な罵りを吐くような男ではない。ただ部下の目を気にして敵役である私を貶めただけである。  
恐らく彼はその口ほどには怒りを覚えていないのだ。私が壊した部下のことなどさほど気にしていない。  
古びた靴だ。いずれ履き潰して捨てるはずだった靴に、泥水が跳ねて思ったよりも早く捨てることになった――その程度の感慨しかないのだろう。如実に語っている。彼の手足が。打突の一つ一つが。  
見た目は派手でも演武のように、彼の一言一打は私の芯には響かなかった。  
 
「どうした?さっさとこい――そんな程度では、レナード様の側近は務まらんぞ」  
 
気がつけば突っかけていた。  
あまりに不用意な突進だ――案の定、私の右太腿に回し蹴りが、額には掌打が突き刺さる。  
鼻の奥に疝痛が走る。しかし所詮は気のない打撃。激情に駆られた私を止めるには重さが足りない。  
そうだ。激情だ。  
不用意に『彼』の名を出して、悪戯に刺激するからいけないのだ。  
なるほど。そうか。私があの兵を壊したのもこの組み手を受けたのも、貴方達があの女と同じ肌、同じ髪質をしているからこそなのだ。さっきのアジア人もあなたも、私の八つ当たりの的でしかない――距離はつぶれた。私は満身の力で右腕を奮う。  
 
「勢いやよし。だが甘い」  
 
衝突音が二つ重なった。  
ファウラーが卑しく笑う。私の拳打は彼の肩で阻まれた。そして私の脇腹に、深々と彼の膝蹴りが突き刺ささる。  
今までのお遊戯とは違う。体重の乗った硬質な打撃に息が詰まる。横隔膜が急激に競り上がり、深海に引きずり込まれるような心持になる。  
子宮を割られるような吐き気。握られた拳が緩み、たったの一発でその場に崩れ落ちそうになる――だがあの女がそれを許さなかった。ついっと視線を泳がせた先に乱れる黒髪を見た。ファウラーの長髪。それにあの女の影を見て、私は溺れる者のようにそれを引っ掴む。  
 
「あの女、髪引っ張りやがった。ありかよ」  
 
「実践的だがなしだろ」  
 
不平を垂れる男どもを尻目に、私は握りこんだ髪を引き、ファウラーの背に回りこむ。  
考えてしたことではない。身体に刻まれた反射が最も効率的な動作を模索し、それがたまたま『相手の膝を流し、髪を引き、相手の背後をとる』という流れになっただけである。  
偶然と必然が重なってファウラーの背後をとった。偶然にも私の拳は緩み、手の高さは彼の腰元――下半身にタックルを決めるには絶好の状態だ。  
ふらつく足腰に活を入れる。地面を蹴りこんでファウラーを引きずり倒そうとした瞬間。  
 
殺気。  
 
『接近警報、接近警報。邸宅から南西10キロ、M76地点に所属不明の飛行物体を確認。総員直ちにレベル2警戒態勢で待機。繰り返す。総員直ちに、レベル2警戒態勢で待機』  
 
体育館内、邸宅全域に警報が鳴らされる。  
オーディエンスに今までとは異質な緊張が走る。  
ファウラーは周囲を見回すと、良く通るテノールで指示を出す。  
 
「聞いたな?訓練は中止だ。全員持ち場に着け。操縦兵は180秒以内にASを機動させろ。解散」  
 
*  
 
レナードは言う。  
 
「心配しなくていい。ただの民間の飛行機だよ。威嚇するまでもなく領空から消えた。少し過敏になりすぎていたかもしれないね」  
 
期待してしまった自分が恥ずかしい。  
邸宅内に鳴り響いた警報を聞いて、千鳥かなめは、もしや彼が来たのではないかと密かに期待した。  
なんたる軟弱だ。まるで悪者に囚われたお姫様。彼が来なければ自分はこのまま。彼が来れば自分は解き放たれ――他人の行動如何によって行く末を決められる精神薄弱のお姫様。  
自分の人生の岐路すら投げ出した無責任な小娘に、いつの間にかなっていた自分に気づいて、かなめは人知れず憤る。  
 
*  
 
警戒は解かれた。なのに私はまだエリゴールの中にいる。  
一人になりたかった。考え事がある――なぜ私はあの時、タックルを決めてしまわなかったのだろう?なぜ無様な形でも引きずり倒して、玉の一つも潰してやらなかったのだろう?  
警報があったから?邸宅の死守が私の任務だから?確かにそれもある――だが本質的には違う。  
なぜなら私は、もし警報が鳴らなかったとしても、あそこでタックルを決められなかったと思うから。  
 
「臆したのか?」  
 
呟いて気づく。あの時感じたものは確かに殺気だった。  
警報が鳴る直前、ファウラーの腰に的に絞った瞬間、私の背に尋常でない怖気が走った。タックルするのを躊躇った。  
何故彼は背後を取られたときだけ、あんな異常な殺気を放ったのだろう――コンコン。ASのハッチが小さくノックされる。  
私は思考を中断し、ハッチを開ける。  
 
「中途半端になってしまったな。続きでもするかね?」  
 
件のファウラーが顔を出す。アルカイックスマイル。どうせやる気などない癖に、つまらんジョークだ。  
 
「いいえ、もう結構です。肋骨が痛いですから」  
 
「私も肩と頭が痛い。肩の痣はともかく、禿げたらどうする」  
 
「私の脇腹にも痣があります」  
 
「なるほど。痛み分けか」  
 
ファウラーは笑う。なにが面白いのかまったくわからない。  
 
「まぁいい。今回のことはこれで終いにする。君にもストレスがたまることくらいあるだろう。深く追求はしない――たが、八つ当たりは愚行だ。何があったかは知らないが、怒りは当人にぶつけるべきだと思うがね」  
 
ファウラーが私の肩を叩く。二本指をキザに振って、操縦席から退席した。  
私の方が年下だからと、余計なお世話を言う――しかし彼の言うことももっともだろう。  
そう、怒りは当人にぶつけるべきだ。  
 
*  
 
かなめは自分への憤りを発散するように運動に精を出した。  
自分など籠に囲われた鳥だ。時間は腐るほどあれど、この籠から逃げられないと頭でなく肌で理解している――されどもし機会があったなら。自分に都合のいい何事かが起きた時、その機会をものに出来るだけの自分になっておかなければ。  
ある顎の長い人が言っていた。元気があれば何でも出来る。全くそのとおりだと彼女は思う。  
かなめはとにかく走った。レナードに用意されためかしこんだ服を脱ぎ払い、運動のしやすい姿になる――この邸宅は広い。走る場所にはことかかない。  
空き缶の落音のように乾いた太陽と、鼻を突く潮風。運動靴で踏みしめた大地はこの上なく確かで、彼女は、生まれて初めて自分の足で立った人間のような気分になった。  
日頃使っていなかった汗腺から毒の汗がしたたる。久々の運動は肉体を思った以上に活性化させる。彼女は自分がどういった人間であるかを改めて思い知る。  
平地を走ることに飽きると、歩道沿いの草むらに勢いよく分け入った。  
平地と違い足場の悪い草むらは、下半身の細かな筋肉に適度な刺激を与える――思ったほど筋肉は衰えていなかった。  
かなめは飛ぶように走ると、行き当たった木に気まぐれに飛びついた。そして登る。  
木登りなど何年もしていなかった。麗しの女子高生にあるまじき行為だと彼女は思ったが、ここは日本ではない、女子高生などという平和ボケしたレッテルは、すでに自分には貼られていないのだと気づいて、彼女は小さく笑う。  
 
「さっさと来ないと、あたし、こっちから会いに行っちゃうかもしれないわよ?」  
 
木に登ってみると海が見えた。海の端は空と繋がっている。きっとこの空は、彼の見る空とも繋がっているのだろうと思って、かなめはそんなことを呟いた。  
 
*  
 
「そんなところで何をなさっているのですか?」  
 
「別に。運動よ運動」  
 
「この季節です。汗をそのままにするとお体に触ります。早めにシャワーを浴びた方がよろしいかと」  
 
「わかってるわよ。もう部屋にもどるっつーの――ていうかあんただって汗だくじゃん。油?なんかシャツ汚れてるわよ?いい歳した女がそんなきったない格好してるのは感心しないわね。ま、あたしが言うようなことじゃないけど」  
 
「警戒の後、ASの整備をしていたもので――失礼いたしました。お見苦しいようでしたら、脱ぎます」  
 
「別にいいわよ。でも、シャワーはあんたも浴びた方がいいんじゃない?これから仕事?」  
 
「ちょうど貴方の部屋に伺おうと思っていたところです。今朝は朝食をお持ちできませんでしたので、日程の確認をいたします」  
 
「あっそ。じゃあついでに私の部屋のシャワー浴びれば?そんな汚れた格好で、その辺うろちょろしないで欲しいのよね」  
 
「ご命令ですか?」  
 
「命令じゃないけど……まぁそう言っといた方が都合いいわよね」  
 
「了解いたしました」  
 
*  
 
あたしと同じ女で年頃も近いサビーナが、あんな捨て犬のような格好をしているのが不快だった。あんな姿の彼女を見て周りは一体どう考えるだろう?  
若く才気溢れる女だ。  
容姿も並以上で、あのレナードと時折ベッドを共にしている、らしい。  
そんな彼女が汗と油に塗れ、シャツを着崩して酷く不機嫌な様子で歩いている――きっと碌な噂は立たない。下衆な中傷の的になるだろう。  
真偽に関わらず、サビーナは汚された女になるわけだ。それが我慢ならない。  
まるで昔の自分を見るようで、あたしは彼女にシャワーを勧めずにはいられなかった。  
だのに――  
 
「なによその痣」  
 
別に見る気はなかった。ただサビーナの裸体があまりに妖艶だったので、思わず視界に入ってしまった。  
凄惨な青痣。  
長い手足に白い肌。女のあたしから見ても魅惑的なその肢体に、無数の青い花が咲いている。  
 
「訓練の際のものです。お気遣いなく」  
 
「訓練って……こんなに痣つくって――」  
 
思わず二の腕を掴んでしまう。  
痣の上から掴んだためサビーナが眉根をしかめる。  
あたしは小さく「ごめん」と言うと、それでも二の腕をはなさず、痣の上を薄く撫でた。  
肩から肘、太腿の外側が斑に変色している。  
手足だけでなく可憐な乳房の下にも大きな痣があって、あたしはサビーナが、男に組み伏せられる様を想像してしまった。  
だが一体誰に、こんな煮えたぎる砲口のような女を屈服させることが出来るだろう?  
あたしは問う。  
 
「誰にやられたのよ?」  
 
「ファウラーです」  
 
あたしは、ああ、駄目だ、と思った。  
もしサビーナが他の誰かの名であったり、階段から転げ落ちたと言ったならば、あたしはそれで納得しようと思っていた。  
彼女の言葉を鵜呑みにして、これは訓練中の出来事だと、全てを納得してしまっていい――だがファウラーは駄目だ。あの凄腕の男は駄目だ。  
あの男には説得力がある。  
大して話したこともない。知っていることも少ない。だがあの男なら、サビーナを屈服させることが出来るかもしれない。  
 
――凄腕のリー・ファウラーは、訓練と称してサビーナ・レフニオを呼びつけ、全身を殴打した挙句、無理矢理彼女を犯してしまった――  
 
酷く腑に落ちた。  
良くない想像が現実味を帯びて、あたしは目の前の傷だらけの女を、抱きしめたくて仕方がなかった。  
 
*  
 
「どこまでされたのよ?」  
 
「どこまでとは?」  
 
「だから、その……挿入れられちゃったのかってこと」  
 
「(膝を)入れられましたね」  
 
「痛かったわよね」  
 
「そうですね」  
 
「血とか出た?」  
 
「血は出ませんでした」  
 
「ファウラーはちゃんと、その……(ゴムは)着けてくれたの?」  
 
「(防具、グローブは)着けてませんね」  
 
「外に出した?」  
 
「(体育館の)中でやりました」  
 
「何回くらい」  
 
「(ガードの上からのも含めれば)10発以上です」  
 
「そんなにたくさん……酷いわね、ファウラー」  
 
「はい」  
 
*  
 
なんかカナメ・チドリが優しくて気持ち悪い件。  
 
「痛かったわよね……体きれいにしようね」  
 
とか何とか言いつつこの女は、私の背中を流している。  
バスルーム。一人でシャワーを浴びようと思ったらこの女が「よかったら背中でも流そうか?」などと言ってきた。  
当然私は断ったが「こういう時って、あまり一人にならない方がいいのよ。あたしじゃあれかもしれないけど、いないよりはマシだと思うわ」などと言って強引に入ってきた。全力で意味がわからない。そして今に至る。  
 
「そういえば、その、お腹大丈夫なの?」  
 
「お腹?」  
 
膝蹴りのことだろうか?  
 
「万が一さ、えぇーと、産むようなことになったら大変じゃない?」  
 
「別に膿むことはないと思いますが」  
 
「そう……でもちゃんと後で、お医者さん行きなさいよ?」  
 
「はい」  
 
痣くらいで大げさなものだ。  
この女の国は暴力とは疎遠な土地柄らしいが、この異様な気遣いは何だろう?  
心底居心地が悪い。私に嫌味を言ってこそのカナメ・チドリではないだろうか?  
 
「早く治るといいわね」  
 
と言いつつこの女は、私のアバラの痣を撫でる。  
左手を痣に、右手を腹に。ほとんど後ろから抱きしめられるような形だ。肩甲骨の上に豊満な乳房を感じる。  
暖かい。私のそれよりもたわわなモノだ。畜生。なんだ。見せつけか。それを使ってあの人を――気に食わない、腹立たしい。  
 
「ふざけるな」  
 
気がつけば私はそう呟いていた。  
背中に感じた女体の感触に、私は昨晩の情景を思い出す。  
同情の理由は知らないし、そんなものはどうでもいい。  
だが私の心に、この痣よりも深い傷をつけたこの女に、情けをかけられるのが我慢ならなかった。  
怒りは当人にぶつけるべきだ――そうだ。全くその通りだ。  
 
「少しでも不憫だと思うなら、返して」  
 
「えっ?」  
 
私は振り仰ぐ。間の抜けた顔のこの女。抵抗する間もなく押し通す。  
バスタイルに飛沫が跳ねる。  
手の平と手の平を重ね、足を絡めて自由を奪う。額で額を押さえつけた。  
鼻先どころか唇と唇が触れ合うような距離で、私は再度、言う。  
 
「あの人を私に返して」  
 
*  
 
柔肌の擦れ合いはシャワーの音にかき消された。人種の違う二人の肌が酷く馴染んで見えるのは、濃い色をしているはずのかなめの肌が、雪よりも白く透き通った色合いをしているためである。  
むしろ白人のサビーナの方が、怒りによって全身を血色良く彩らせていている。湯気の中全身を桃色に染めて、サビーナは再度言う。  
 
「彼を私に返して」  
 
「な、なんの話よ!……いたっ、痛いってば、放しなさいよ!」  
 
柔らかいベッドの上ではない。硬いバスタイルの上で組み伏せられて、かなめは暴れる。ゴツゴツと張り出した腰骨や肩が床を叩く。  
あまり暴れられて、他の人間が来たらまずい――サビーナはその馬鹿力で、無理矢理かなめの動きを指の先まで押さえ込んでしまう。  
コマンドサンボや柔術にあるような理に適った拘束ではない。  
かなめとサビーナの間には、サビーナとファウラー以上の圧倒的な身体能力の差がある。  
両手を繋いで胸を押し付ける。股の間に片足を入れて、足首をもう片足に絡ませるだけで、サビーナはかなめの動きを掌握することができた。  
しかし声までは抑えることができない。  
 
「誰か――んぅ!」  
 
サビーナの目的はわからない。しかし本能的にヤバイことはわかる。  
危険や怪我はもちろん、押さえられた太腿の感触と触れ合う柔肌、なにか別の意味でもマズイ気がして、かなめは大声をだそうとし――その瞬間、湿った柔らかいもので唇を塞がれてしまった。  
なに?と思う。  
サビーナの顔が、額と額が当たっていたときよりも更に近い。互いの鼻が邪魔だ。眉の突き出しさえも邪魔だと言うように首を捻る。  
柔らかさの向うに硬さがある。硬さの合間から何か意思を孕んだ軟体が差し入れられて、かなめはやっと自身がキスされているのだと気づいた。  
もがくこともままならない。歯のエナメル質を溶かすように舌がねめつけられる。唾液を掬うように押し入った舌が引き抜かれると、今度は小鳥が水を飲むように唇をちゅっちゅっとついばまれた。  
互いの唇が唾液によってテカる。かなめの唇の端から唾液が垂れるのを見て、サビーナはその筋を舐め取った。  
酸欠の金魚のように口をパクパクとさせて、かなめは言う。  
 
「なによ。な、なにしてんのよ、いきなり」  
 
「あなたが声を上げようとしたため、塞ぎました」  
 
息が荒い。サビーナは拘束を緩め、上体を持ち上げる。馬乗りになってかなめを見下ろした。  
ははっ、と笑う。  
なんて貧弱さだと思う。ファウラーに圧倒された自分よりも更に、この女は力がない。だのにあの人を惹きつけてやまないとはなんと皮肉な話だろう。  
皮肉、皮肉、皮、肉……こんな肉付きのいい身体をしているから!  
サビーナは重力に負けて左右に広がったかなめの豊満な乳房を両手でわしづかみにした。  
指の間から柔肉がハミ出る。伸ばしたり回したり。サビーナは思う様にかなめの乳を揉みしだく。  
 
「や、やぁだ!ちょ、揉み、揉みすぎだってば!……女同士とかどうかして……んぅ!もう、はなしてってば!!」  
 
反撃の手もないまま乳房を蹂躙されるかなめ。苦痛とも快楽とも言えない淫らな呻きにサビーナは同姓にも関わらず興奮する。  
ああ、そうか。今まで私を犯そうとした糞野郎どもも、こんな気持ちだったのだ――彼女は妙なところで納得する。自身にペニスがないにもかかわらず、かなめの薄い腹に押し付けられた自分の性器が酷く怒張するような心持になった。  
震える。シャワーの温水以外の液が自分の股から湧き出るのに気づいて、サビーナは自分の性的なアイデンティティを見失ってしまう。  
顔を真っ赤にして狼狽する千鳥かなめ。指先でつまんだ愛らしい乳頭は、さっきよりも一際硬くなっているように思った――サビーナは思わずその硬く勃起した乳首にしゃぶりつく。  
ペニスの裏筋を舐め上げるように乳首を下から上にベロリとしゃぶり上げ、母乳など出るはずがないのにワッシワシと揉みながら乳頭を吸引した。  
彼女は不意に気づく。きっと昨日のあの人も、自分と同じようにこの女の乳首を吸ったのかもしれない。私はあの人と同じことをして、同じものに興奮しているのだ。乳房に溺れる。乳房に酔う。  
 
「あっあっあぁ……!くすぐった、んぅう……出ないから!もういやぁ……さびぃーナ……そんなに吸っても何も出ないから、やめなさいぃってば…ひぅ!……ん!……すこしなら出そうかも……はぁっ」  
 
いやいや出ねーよ――かなめは自分の言葉に心中で突っ込みを入れる。  
正直言ってすこし気持ちよかった。  
女体の触り方に女性特有の柔らかさがあった。最初は酷く暴力的だったのに、今は赤子のように乳首を吸っている。かなめはなんとも言えない気分になる――かなめのサビーナに対する印象は、酷く微妙なものだ。  
年頃は同じ。背格好も近く、自分とタイプは違えど容姿に恵まれている。白い肌に細いのに野生的でメリハリのきいた肢体。野暮ったい眼鏡が勿体無いくらいの整った顔立ち。  
もし真っ白でフリフリのついたドレスなんて着てたら、絶対ヤバイ。超かわいい。サビーナたんマジ天使――かなめは彼女を見て、度々そう思った。  
その上、有能。何人もの使用人をまとめる邸宅の実質上の権力者であり、荒事も得意。電子工学に明るくASに乗れば一騎当千。生身でも男の兵士にひけをとらないとか、どこのスーパーウーマンだと思う。  
ただレナードの部下だというだけで彼女を憎悪するには、サビーナ・レフニオはあまりに完成されすぎていた――嫌いだが、軽蔑することは出来ない。  
もし彼女がミスリルに所属していたら、自分は彼女をかっこいいお姉さんと思うかもしれない。気さくなマオのように懐くことはないが、サビーナを見るたび『今日もサビーナさんキレイでかっこいいなー、眼鏡とればいいのに』なんて思うかもしれなかった。  
そんな彼女が自分の乳房を赤子のように吸っている。それがなんともかんとも……。  
だがそれが、今の状況を是としていい理由にはならない。  
 
「ちょっと……サビーナ、もうやめてよ、ほんと、まずいぅひぃ……ん、ん、まずいって、女同士でこんなぁぁぁっ……変だわ、どぅ考えても……」  
 
力ずくで止めさせるのは、サビーナの気質を鑑みれば大変危険である。弁を尽くし静止を試みるかなめ。  
しかしそんな言葉も対岸の火事。サビーナはただひたすら乳を揉み、吸う。自身の崇拝する人物がこれを舐めたのかと思うと、なるほど、これが間接キスか、とサビーナは考えた。  
揉みたくりしゃぶりたくる。乳首がひりひりするくらい舐めたくる。揉んだくれるサビーナ・レフニオ。かなめなめなめである。  
 
「やっだぁ……乳首痛いって…なんかかゆい……くすぐったいってばぁ――いいの?どういわれてるかしぃぃいぃらないけど、あたしになんかすると、レナードに怒られるんじゃないの…ん……っ」  
 
かなめは最後の手段で、あの男の名を口にする。  
こうすればきっと止まると思った。サビーナのレナードに対する心酔は度を越している。恐らくこう言えば今のところは誤魔化せるだろうと思ったのに――乳首を口に咥えたままのサビーナに、上目遣いで睨まれた。  
ちゅぽん、と乳首から唇が離れる。濡れた乳頭が外気に触れてすこし寒いなー、なんて思ったとき、プッチン、何かが切れる音がした。  
シャワーの温水で温かいはずなのに、急激に冷える。  
 
「あなたが言わないで」  
 
今まで乳首を吸っていた唇から、鉛のように重く硬質で冷たい音が漏れる。サビーナはそのまま続ける。  
 
「彼のことをあなたが話すたびに私はいつも思う。その舌を打ち抜きたい。苦いものを食べたときのような渋い顔で彼の名を呼ばれるくらいなら、その口などいらないだろう、と――私は何度も空想の中で、あなたの頭をライフルの尾で殴打しているわ。  
死ぬまで。命乞いが止むまで殴打する。一発で楽にするなどもったいなすぎてできるはずがない。頭部にある全ての感覚器官を台無しにして、それでも私は殴ることをやめない。そんな空想」  
 
サビーナの手がずいと伸びて、かなめの首を掴む。呼吸を阻害するほどの力は入っていなかったが、急所への圧力に全身が竦んだ。  
サビーナは彼女に似つかわしくないほど、饒舌に続ける。  
 
「それを空想で終わりにしているのは、一重にレナード様がそれを望まなかったから。それをいいことにあなたはわがままを言い続ける。  
私や邸宅の人間だけでなく、レナード様にまで聞くに堪えない悪態を吐く。それが許せない……なのにあの人はそれを許してしまう――ねぇ、知ってた?私、昨日の夜、あなたと彼のことを、見ていたのよ」  
 
「な、なんの話よ……?」  
 
引き攣る喉元に満身の力を込めて、かなめは一言だけ、搾り出すようにして言った。  
要領をえないかなめの言葉に、サビーナはいささか鼻白む。「とぼけないで」と言葉を叩きつける。続ける。  
 
「すごく悔しかった。あの人が心も身体もあなたのものになってしまった。あの人が私のものでないことよりも、あの人があなたのものであることが許せなかった。  
でもね、カナメ・チドリ。私はあなたが無理に犯されているのを見て、そう悪い気分ではなかったの。あなたとあの人が結ばれることには反対でも、あなたが蹂躙される様を見るのは、正直悪くなかったわ。  
溜飲が下がる――と思ったのだけど、ダメね。あなたの肌に触れて気が変わった。私はあなたが許せない」  
 
「サビーナ、本当に、なんの話よ……ぜ、ぜんぜん意味がわからない……」  
 
「とぼけないでと、言ったはず」  
 
サビーナはそう言うと、今まで触れていなかったかなめの秘所――いわゆる女性器に手を伸ばした。  
撫でるなどという生易しい触れ方ではない。股間を掴みデリケートな部分をガシガシと掻き毟る。サビーナの指がアナル、陰唇、陰毛と何度も往復する。  
激しいが痛くはない。同じ女性であるサビーナは、女性器の触り方には一定の知識がある。かなめは半泣きで喘ぐ。  
 
「ひ、ひぐぅ……やぅっ…や、やめ……ぅっあ、やだ、あっあぁ、んん……」  
 
「あの人にどう触っていただいたの?こう?彼は優しくてとても上手だけれど、私は出来れば、あなたに対しては乱暴に振舞って欲しいと思っている。  
あなたの薄汚い性器を無理矢理引き裂いていただけたら。最奥まで指を捻じ込んで、血が出るまで掻き毟っていたなら、私の溜飲は更に下がるだろう、と」  
 
サビーナはかなめの首から手を放すと、両手でかなめの性器を弄り始めた。  
辱めたいという欲求もあるが、単純に他人の性器というものに興味があった。一体どんな形をしているのか、自分のと比べてどうなのか――一体レナードは、この性器をどんな風に押し広げて射精にいたったのか。  
彼女は野卑た好奇心を胸に、かなめの足の付け根を覗き込む。  
 
「や、やめ!…見ないでよぉ……ひぅ…マジで、な、なんの話よ…んん……レナぁーどとなんか、寝てないってば……だいたい、無理矢理されちゃったのは、さぁびーナの、ほ、方じゃない……ひぐぅっ」  
 
「なにを言っているの?私はいつも望んでレナード様に抱かれている。無理矢理されたことなど一度も……いや、もし彼がそういうプレイを望むなら、嫌がる振りをすることも…できるけど……」  
 
「れなぁーどじゃなくてファうぅん……もぉいいわ…と、とにかく、あたしはれなードとなんか、ね、寝てないってば……っ!」  
 
「……そう。あなたにとって彼に抱かれることが、口に出すのも憚られるような不名誉なことだと……あなたはそう言いたいのね」  
 
「ち、違う!ほ、ほんとにしてないのよ!」  
 
「……もういいわ。あなたが抱かれたか抱かれてないかなんて、見ればわかるもの」  
 
焦れたサビーナはかなめの腰を持ち上げると、その背後に回りこんだ。股を力ずくで割る。膝裏を押して足を逆Vの字に固めた――俗に言うマンぐり返しである。  
出しっぱなしのシャワー。偶然にも温水がむき出しになったかなめの性器にあたる。彼女のクリトリスの包皮はサビーナの愛撫によってズルリと剥けていた。  
露になった陰核に温水を受けて、かなめは「ぁあ!…ん、やだ、へ、変なかっこ、させない、でよ」と甘い声を上げる。  
 
「ここに彼のモノを入れていただいたのでしょう?何度も何度も、一晩中……」  
 
「してないっての!あ、あたし……れなーどどころか、まだ、だ、誰とも……んん!」  
 
「何を言っても無駄――レナード様に愛していただいたのなら、味でわかるもの」  
 
十指がわらわらとかなめの性器に殺到し、桃色の粘膜を菱形に押し開く。そこにサビーナの舌先のとがった舌が捻じ込まれた。  
野生の勘に恵まれた彼女にとって、愛する男の性器がそこを出入りしたかどうか、味と匂いから判断することなどいたって容易いことである。  
今まで何度も触れて舐めて揉んで扱いて射精されて注ぎ込まれてねめつけられてきた性器だ。  
大きさや形、色艶や匂いどころか味、それも舌ではなく膣の粘膜で味がわかるレベルである。安全日に中出しされて「あ、なんか今日はいつもより苦いかも」などと思うわけだ。触覚だけでなく、ヴァギナに味覚を持つ女、それがサビーナ・レフニオであった。  
かなめの唇、乳房を貪った舌が、とうとう女性器を舐りに掛かる。  
むき出しの真珠をついばんで、膣口に舌をねじ込む。周囲の柔肉を無理矢理押しのけるという動作が、まるで勃起したペニスを強引に捻じ込む様に似て、サビーナは、きっと彼のペニスもこうやって強引にヴァニナの中に入り込んだのだと夢想した。  
自分の舌がレナードの性器になったような感覚を覚えて、彼女はかなめの膣内を舌先でじゅるりじゅるりとこそぎ倒す。  
 
「ひぃあっ!……いや!そ、そんなの、き、汚い、ぃあぅ、んん……やだぁっ!」  
 
喘ぐかなめ。舐めるサビーナ。  
 
「やだやだやだ!……ダメ…あぁっあっあぁ!!」  
 
喘ぐかなめ。舐めて舐めて舐めるサビーナ。  
 
「こ、こんなの、へ、へんたぁい……も、も、やめ、んぁ、あぅ……!」  
 
喘ぐかなめ。舐めて舐めて舐めたあげく、ヴァニナから舌をはなすサビーナ――そんな。どういうこと。こんなの絶対おかしいよ。  
彼女は愕然とした表情で呟く。  
 
「処女くさい」  
 
常人の三倍の対レナード感覚を持つサビーナの診察の結果、かなめの下半身は白であった。  
レナードの足跡どころか誰のものも納められていない。なら昨日の人物は?この邸宅には、この女の他に黒髪の女はいない。ならばあの情景は幻か?――なにもかもわからなくなって、サビーナは彼女らしくもなく顔を赤くしてオロオロしだす。  
その傍らでサビーナの愛撫によって骨抜きになり、今だ立ち上がることも出来ない全裸のかなめ。「酷いわよ……サビーナ」暖かいバスルームに、震える声が響く。  
 
「せ、責任、とってよね」  
 
声の奮えと同様に下半身をヒクつかせるかなめの中で、新たな銀河が花開いた。  
 
*  
 
「この度は大変おせわになりました。隊を代表して、感謝の意を述べさせていただきます」  
 
「別にかまわないさ。そもそも今回の作戦は僕が立案したのだから、感謝されるいわれもないしね」  
 
明朝、レナードの執務室にファウラーが現れた。彼率いる実行部隊は本日の午後、次の任地へと旅立つ。その挨拶と今後の予定の確認のために、彼は信奉するレナードのもとをおとずれた。  
特に変更するような用件はない。予定の確認も要点を照合しただけで終了し、ファウラーは足早に部屋を退室しようとする。  
彼には時間がない。もともとタイトなスケヂュールだったが訓練中にトラブルが起きた。サビーナの知らないところで彼はその処理に奔走していた。「そうだ、ファウラー」踵をかえすファウラーに、レナードが声をかける。  
 
「はい、レナード様」  
 
「次回、君がこの邸宅に来るまでに陣代高校の女生徒の制服を用意しておくから、そのつもりで頼むよ」  
 
「かしこまりました」  
 
ファウラーの尻に力が篭った。かなめと同種の黒髪が、またしても艶やかに靡く。  
彼は二日前に、処女を失っている。  
 
 
 
完。  
 
 
 

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