「んん…、ぁっ」
分厚い手のひらに体をまさぐられたかなめの腿がソファの肘掛けに引っかかる。
その感触で少し頭の覚めた彼女は、自分を強く抱え込んで再び唇をふさごうとする男の胸板を
やわく押し返した。
カーテンと窓まで数センチというごく狭い隙間はただでさえ息苦しいのに、いつもより荒い彼の
呼気で肌が焼けそうだ。
「も、ソースケ…だめだよこんなとこで」
「そうか?…そうだな」
一瞬考えたのち、深くからめていた足を後ろに引いた相良宗介は、かなめの腰を密着させるように
引き寄せてソファへと向かうが、ソファを通り越して壁際に添うようにかなめを床に横たわらせ、
彼女の体を何かから隠すように覆い被さった。
「…ちょっとソースケ」
「何だ」
答えつつもかなめの衣類のボタンを外し続ける宗介のあごを押しやるように彼女が身を起こすと、
彼はわずかながらも焦った様子でかなめを壁際に抑えつけて自分の体を傾ける。
「?」
反対側に腕を動かしたとたん素早く抑え込もうとした彼の様子に何かを感付いて
斜め上を見上げた彼女の顔に、宗介の上着がばさりとかけられた。
こめかみの辺りでブチっと音のしたかなめは、はち切れそうな胸の谷間もあらわな姿で
宗介を蹴り飛ばして怒鳴りつけた。
「ー…っ!!とっとと出てけこの変態ーっ!!」
「ま、待て千鳥。映るぞ」
「やっぱ防犯カメラのスイッチ切ってなかったんじゃない、この大バカのスットコドッコイ!!
何やってくれてんのよあんたは!!」
「切っていないのではなく、俺の一存では切れないのだ。ミスリルから先日支給されたものでな、
内部に敵側の工作員がいた場合に備えての措置だそうだ」
壁や天井の隅を見わたしてもどこに設置したのやら、皆目見当もつかない。さすがプロの仕業である。
つまりこの手でぶっ壊して蓄積したデータを破壊することは、壁を引っぺがしでもしなければ
ほぼ不可能ということだ。
ふとあることに思い当たったかなめは胸元で宗介の上着を握りしめ、ゆっくりと尋ねた。
「…まさかこれ、データ転送式じゃないでしょうね」
「すまん、死角はいくつか確保しておいたのだが。死角部分は俺の個人的設備で完璧かつ
徹底的にカバーしてある。ゆえに安全面については問題ないので安心してくれ。……千鳥?」
「二度とうちにくるなこの超絶変態ムッツリ仮面ーっ!!あんたなんか大大大だいっきらい!!」
連続キックとハリセン殴打で宗介を玄関から放り出したかなめは、パソコンを立ち上げて
猛烈なスピードでキーボードを叩き出す。
後日「千鳥邸から転送されてきた防犯カメラのデータに改竄の疑いあり」という報告を
ダーナから受けたテッサは半眼になると、手早く防犯カメラの増設申請書類を自ら作成し、
それにサインした。