此処へ来てさあ早く、  
しなやかな夜にさらわれて、女は我をなくし、男は美しき獣となる。  
 
日に晒されたものうい躰を起こし、マチは髪を結び、水を浴び、身支度をととのえる、この時間が大ッ嫌いだ。  
この情事の後のほのかな倦怠に苛まれる自分が嫌で嫌で仕方ない。  
記憶の一切を部屋に置いて、今へと逃げる。  
 
平生のごとく男はもういなかった。  
 
幻影旅団という奇っ怪な名前の面々は皆が別々の秘密を共有している。  
その為、個々が何をしている云々に興味・疑念などは一切ない。  
それが有難くもあり、少し寂しくもある。  
ぽっかりと虚空の如き穴が心に。  
そんな事を考えていたらこのごとき関係が出来上がっていた、何故?  
夜が来ればあらわになる秘密の関係にからめとられて。  
 
月は薄く照りに照る。  
男はまためぐってくる無慈悲な夜のおとずれと共に。  
ああ、嫌だ、嫌いだ。  
誰かが呼んでいる。  
 
―来るな、  
「早くこち来るね」  
近寄るな、  
「耳聴こえてるか?マチ、早くこち来るよ」  
ささやくな、名前を呼ぶな、ああ。  
「…そう、いい子ね」  
見つめるな、浅ましいあたしを。  
フェイタンはマチを抱き寄せ、顎を引き面を上げさせると一気にくちびるを奪った。  
「んうっ、」  
舌の根を引き千切られそうな口付けに目暈がして、マチはものの分別を失った。  
互いの唾が交じり、垂れる、したたる。舐める。舐めとられる。  
「くぅ…っ」  
フェイタンの小ぶりな舌が、魔物のようにマチの口唇を犯す。  
むずがゆいような情欲に、身が沸きたってフェイタンを見た。  
「その眼、いいよ」  
欲情にゆらめく眼に見下ろされる。  
フェイタンはマチの着物を剥ぎ、白き裸体に愛撫を加える。  
舌が、指が口唇が、喉、ゆたかな胸乳、臍、そしてひめやかな肉の芽を摩擦、刺激した。  
「あぁっ」  
「いぱい濡れてるね、ワタシとこうするの楽しみにしてたか?」  
加虐的な眼でにやにやしながら、フェイタンが、マチの眼をのぞきこむ。  
「そんなわけないだろ…っ」  
余りの羞恥に、フェイタンの顔を直視できず、横を向いた。  
「嘘吐きね、身体は正直よ」  
「やっ」  
ぬっちゃぬっちゃ膣内の愛液をかきまわし、指を膣から抜きとり、指をマチの眼前に持っていった。  
 
ぎらぎらとだらだらとマチの愛液がしたたる。  
「マチがワタシの事これだけ欲しいという証ね」  
妄言をはき、ふっと忍び笑いをしながらフェイタンはマチの心を追い詰める。  
「な、馬鹿な事言ってんじゃないよっ」  
血が沸き立つような心もちがしてマチは身悶えた、  
「今の顔初めて見たよ」  
フェイタンはそれを逃さず、マチのなめらかな足を持ち上げて、  
「ひっ」  
一気に自身を突き入れた。  
「あっ、あ、やっ」  
マチは虚空を掴むような動作と共に躰を弓なりにした。  
「は…、マチの中ぬるぬるよ」  
「んっ、ちがっ」  
「違うか?…これでもか?」  
濡れた肉の打つ音が慌ただしくなり、灼かれるような羞恥にマチは耳を塞いで、声の限りに叫びたくなった。  
「いやっ、はっ、あ、あんっ」  
フェイタンの腰が鞭のように動いて、マチは動きの一々に翻弄される。  
「んうっ」  
フェイタンの指がマチの肉の芽をとらえた。  
「マチ」  
熱い息が耳朶にさわって、摩擦がはやまる。  
「やっ、ん、はぁ」  
「マチ、」  
快楽でかすれた声音にマチの胸がふるえる、  
「は、あっ」  
「…ん、好きよ…っ!!」  
「あぁっ、」  
男と女は同時に絶頂を迎え、何度も総身をわななかせ、痙攣した。  
意識が遠くにいく前に男の声が聴こえた気がした。  
 
「今ワタシが言ったこと、秘密ね」  
 
 
朝が来て、いつもの身支度をととのえる時間が来る。  
しかし今は不可思議なことに前程この時間が嫌でない己に気がついた。  
昨晩の記憶を遡る、  
 
―次はアタシが言う番だね。  
 
秘密がもう一つ増えて、薄く微笑んだ女の顔を陽の光が燦爛と照らし出した。  
 
終  
 

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