「セックスってたことある?」  
 
突然の質問にフィンクスは少々面食らった。  
――――今日は少し特殊な日だ。  
普段はコンビを組むことの無い2人がコンビを組み、アジトで居残りだ。  
いつも高い確率で戦闘へ参加するフィンクスにとって、少し気に食わない日でもあった。  
「おい、どうしたよ?いきなり」  
「ねぇ、したことある?」  
催促するかのように腕を掴む。眼鏡の奥の目は酷く真剣だった。  
ようやくシズクが本気なんだと気づいた。  
「・・そりゃあるだろ」  
「そっかぁ」  
「お前はどうせねーんだろ?」  
からかうように右手をシズクの頭の上に置きパシパシとたたく。  
「あるよ、私も」  
「え?まじで?」  
もちろんフィンクスは彼女の過去やプライベートを知っているわけではない。  
ただ、シズクはどこか性欲からはかけ離れているように見えた。  
「セックス好き?」  
「は?!」  
あまりにストレートな質問に、ついつい大きな声を出してしまう。  
「ねぇ、好き?」  
「好きっつーか、本能だろ」  
「・・・気持ちよくないよね?」  
感情の起伏が感じられないシズクだったが、少し声のトーンが落ちた気がした。  
頭の上においていた手を引っ込め、真っ直ぐシズクに向き直る。  
 
「そりゃあれだな、相手が悪かったんだろ」  
「相手かぁ」  
「まさか旅団の人間とヤッたんじゃねーよな?」  
「うん、正確には旅団じゃなかったから」  
「お前っ!それって」  
フィンクスの脳裏に、嫌でも一人の男の顔が浮かぶ。  
何を考えているんだか分からない、喰えない男。  
 
「なんでまたヒソカと・・・」  
「2人きりの時にね、しようって言われて」  
「断ればいいじゃねーか」  
「でも私の力じゃヒソカには敵わないし」  
シズクは少し顔を曇らせ俯いた。  
旅団の中でも腕力の無いシズクに、ヒソカを拒むほどの力は確かにないだろう。  
「そんなんセックスじゃねぇよ、強姦だ」  
「・・・強姦?」  
「嫌だったんだろ?」  
「・・・」  
小さく一度、頷く。  
大袈裟に悲しみを表現しないシズクだが、その表情は心底悲しんでいる様に見えた。  
シズクは俯いたまま黙り込りこんだ。  
出来れば会話を止めたくない。目の前のシズクは今までに観たことが無い程に落ち込んでいる。  
沈黙は重い空気を作り、更にシズクの表情を曇らせていく。  
フィンクスは、必死になって何かを喋ろうと頭をフル回転させた。  
「ったく、ヒソカの野郎は何考えてんだかな」  
「・・・本当はマチが良かったみたいなんだけど」  
「は?」  
「終わった後、やっぱシズクじゃ満足できなかったーって言ってたから」  
言葉の語尾が少し震えた。  
フィンクスは自分を恨んだ。  
どうにかして沈黙を打破しようとして発した言葉は、見事に逆効果だ。  
更に辛い事を、自らの口から話させてしまった。  
こんな時他の誰かなら・・・例えばフランクリンやシャルナークなら、もっと気の利いた慰めの言葉をかけて  
シズクを励ます事が出来るだろう。  
「・・そんな落ち込むなよ」  
肩を落とすシズクに、そう一言言葉を掛けるのが精一杯だった。  
沸々と胸の奥底から怒りが湧き上がるのを、フィンクスは確かに感じた。  
 
「気持ちいいセックスってどんな感じかな?」  
その質問には変な邪念はなく、本当に心底疑問に思っているかのような聞き方だった。  
「どんなって言われても・・説明できるよーなモンじゃねぇしな」  
「でも気になるよ」  
素早くフィンクスとの距離を縮めると勢い良く抱きついた。  
その細い腕からは想像も出来ないくらいの強い力で抱き締める。  
「おい、痛いよ」  
「ずっとこうしてると、少しはドキドキするかな」  
 
純粋だからこそ、シズクは怖い。  
女として申し分ない程のプロポーション。男である以上、ドキドキしない筈がない。  
手のやり場に困ったフィンクスは無意識のうちにシズクの髪を撫でた。  
「あ」  
フィンクスの胸の辺りに埋めていた顔を上げる。  
2人の顔は、今までとは比べ物にならないくらい近づいていた。  
「今、フィンクスが髪を撫でたとき、少しドキッとした」  
新しい玩具を見つけた子供の様に、嬉しそうな声を出す。  
どこまでこの状況を理解しているのか定かではないが、フィンクスはこれ以上、理性を保てそうに無かった。  
「試してみるか?」  
「何を?」  
「気持ちいいセックス」  
シズクが頷くより早く、フィンクスはゆっくりと唇を落としていった。  
 
唇が触れるか触れないかの口付けを何度か繰り返した。  
シズクは緊張しているのか、さっきまでの積極性がなくなり硬直していた。  
「なんかしずれーな」  
身長差がかなりある二人では、フィンクスがかなり腰を屈めないと顔の高さが合わない。  
フィンクスはひょいとシズクを持ち上げ、自分の膝の上に座らせた。  
「このほうがいいだろ」  
「うん。近いね」  
フィンクスはその言葉に小さく笑うと、シズクの頭を優しく撫でながらもう一度唇を重ねた。  
「でさ、もうちょい積極的に来てくれるとありがてぇんだけど」  
「でも」  
「お前がそんなんだと無理矢理ヤってるっぽいだろ」  
「嫌じゃないよ、でもどういう風にしていいか解らないかも」  
「じゃ、次は口開けて」  
ゆっくりと口付けを交わす。  
シズクが口を小さく開いた瞬間、フィンクスが優しく下唇を噛んだ。  
背筋をゾクっとするような衝撃が走った。  
 
――――違う、あの時とは確かに違う。  
 
それは体がしっかりと感じている。  
 
―――本当に嫌じゃない。  
 
口内に温かい舌が侵入してきた。  
閉じ込めるようにフィンクスはシズクを抱き締める。  
その華奢な体は、少し力を入れれば折れてしまいそうに思えた。  
無意識のうちにシズクはフィンクスの首元に腕を回した。絡み合う舌の間から、声が漏れる。  
「ふ・・っ」  
顔を離すとほんの少し糸を引いていた。  
フィンクスは小さく笑うと、左手の人差し指で糸を切った。  
その仕草がやけにエロティックに見えて、シズクは自分が興奮しているんだという事に気づいた。  
「眼鏡、ちょっと邪魔だな」  
そう言いながらフィンクスはシズクの顔から眼鏡を外し、傍に置いた。  
視界がぼやけたせいか、少し虚ろな目になる。少し赤みを帯びた頬と合わさり、いやに色っぽい。  
「もう止まらねーぞ」  
「うん」  
フィンクスは軽々とシズクを抱き上げ、近くのベットに横にさせた。  
首筋に舌を這わせながら上着を脱がすと、白いブラジャーに包まれた大きな胸があらわになった。  
「色気ねーなぁ」  
「これじゃ、ドキドキしない?」  
「いーや、すげぇドキドキしてる」  
フィンクスが口元だけで小さく笑う。今日は何回もこの顔を見たな・・そうシズクは思った。  
いつもの機嫌悪そうに眉間にしわを寄せている顔とは大違いで、優しい。  
続いてズボンも脱がした。  
下着姿になったにも関わらず、羞恥心という物が全く無いかのようにシズクは平然としている。  
「フィンクスも脱いで」  
そう言いながらジャージのジッパーに手を伸ばす。  
少しぎこちない手つきで、ジャージの下のランニングまで脱がした。  
鍛えられた男性の上半身を見て少しハッとする。  
「綺麗」  
「あ?」  
「フィンクスの体って綺麗」  
分厚い胸板に、吸い込まれるように口付けをした。  
「積極的だな」  
フィンクスはそう言いながらシズクの胸に手を伸ばした。  
顔に似合わず成長しているその胸は、大きな手からも零れ落ちる程だ。  
ブラジャーの上から触れただけでビクンと小さく震えた。  
ゆっくりとした手の動きに合わせ、柔らかい胸は自由自在に形を変える。  
体は熱を帯び、呼吸は短く速くなった。  
フィンクスはシズクの背中に手を回しブラジャーのホックを外した。  
ブラジャーが外れても胸の形は崩れることなく、美しいままだ。  
 
「お前の体の方が綺麗だ」  
片方の手で右胸を優しく愛撫しながら、左胸の突起を口に含み転がした。  
「っんん・・」  
自然に声が漏れる。  
両方の胸の中心にあっる突起物はツンと尖って、フィンクスを挑発しているように思えた。  
体の固さを取れてきたものの、まだ足には力が入り真っ直ぐに伸びたままだ。  
そっと太ももに手を伸ばし、優しく撫でる。  
「ちょっとくすぐったいかも」  
フフっと小さく笑いながらシズクは言った。  
「でも力は抜けてきみたいたな」  
さっきよりも強い力で胸を掴んだ。  
「あっ」  
一瞬顔を歪めたものの、体を走る快感に息は熱くなる。  
太ももを撫でていた手が、蜜で溢れている中心に触れた。  
粘着質の熱が、フィンクスの指に絡まる。  
「やっぱりお前も女だなー」  
そこは小さくひくつきながら、フィンクスの指を一本飲み込んだ。  
しかし、無理矢理の経験しかない体は、侵入物を拒んでいるようにも思えるほど  
きつく指を締め付けた。  
「・・・きついな」  
ゆっくりと指を動かす。  
「あっ・・いやっ・・ふ」  
指の動きに合わせて、声をあげる。  
シズクは、胸の愛撫を続けるフィンクスの手を、懇願するかの様に両の手で掴んだ。  
「どうした?」  
「っなんか・・おかしくなりそうで」  
「なっちまえばいいだろ」  
「自分じゃないみたい」  
こんなシズクの表情はきっと団長だって見た事が無い筈だ。  
少し潤んだ目、朱色に染まった頬。  
「でも・・何かいい気分」  
掴んだフィンクスの手を顔まで持っていき、そっとキスをする。  
自分でも大胆だな、と思いつつもそうせずにはいられない。  
もっと触れたい、触りたい。  
「俺はさぁ、元からそんなに優しく抱くっつーのが苦手でさ」  
「うん」  
「今の時点で理性も吹っ飛びそうな感じなんだけど」  
「うん」  
「キツかったら言ってくれ」  
そこまで言うと、フィンクスはシズクの唇を塞いだ。  
少々強引に舌を絡める。息遣いは荒くなる。  
中心で動かす指を一本増やした。少し慣れてきたのか、すんなりと指を飲み込んだ。  
蜜は止めどなく溢れ、フィンクスの手とシーツを濡らしていく。  
「はぁ・・っん・・っん」  
自分から快楽を探すかのように、自然と腰が動く。  
なんど唇を重ねたか判らない、あまりの温かさに体が溶けてしまいそうだ。  
秘所を掻き回す指は三本に増えていた。  
少し体を痙攣させながら、シズクは絶頂に達した。  
 
放心状態で天井を見つめたまま、息を整えようとシズクは大きな呼吸を続けた。  
「おい、どんな気分だ?」  
シズクの頬をペシペシと叩いた。  
「フィンクス・・」  
「ん?」  
「ちょっと何も考えられない・・」  
潤んだ目で自分を真っ直ぐに見詰めるシズクに、フィンクスの欲情は駆り立てられる。  
自分の顔に置かれたフィンクスの手を握り、頬擦りをした。  
「・・落ち着く」  
「本気で、抱くからな」  
シズクが小さく頷くと同時に両足を割って間に入り込む。  
膝を掴み少し持ち上げ折り曲げると、未だ蜜の溢れるそこに自身の先端をあてがった。  
一瞬、体を引き裂かれるような痛みを思い出し、体が強張った。  
そのシズクの様子を察知したのか、フィンクスは1度頭を優しく撫でた。  
体の緊張は完全には解けてないが、恐怖はもうない。  
フィンクスが相手なのだ、怖がる事は何もない。  
ゆっくりと、シズクの中に侵入していく。  
「は―-あっ」  
痛みで顔が歪む。  
あまりじらしてもしょうがないと、一気に奥まで突き上げた。  
そのままシズクの痛みが過ぎるまで、動かずに待ち、強張る体を撫でつづけた。  
大きく乱れたシズクの呼吸は少し落ち着いてきた。  
「大丈夫か?」  
「・・・・・優しく抱くの・・苦手なんでしょ?」  
「あ?」  
「もう平気、好きにしていいよ」  
本当に食えない奴だ、そんなシズクがなんとも可笑しく愛しい。  
そこからはもう欲望に任せ、腰を振りつづけた。  
下腹部に連続して伝わる激しい快感にシズクは声をあげる。  
「あっ・・・あっ・・・っん」  
融合部から聞こえる淫靡な水音と小さく肉のぶつかる音が響き渡る。  
恥ずかしくなるほどのいやらしい音は、2人の欲望を激しく駆り立てていく。  
フィンクスはシズクを抱え上げ、唇を合わせた。  
膝に座る形になったシズクは自ら快感を求め必死に動いた。  
目の前でシズクの豊満な胸が揺れる。なんとも言えない、魅力的な景色だ。  
時々口で胸を刺激すると、シズクは更に切なげに喘いだ。  
 
「あっはぁはっ・・んっ・・フィ・・」  
名前を呼ばれる寸前で、フィンクスはシズクの唇を塞いだ。  
奥まで侵入する深い口付けに、息も絶え絶えになっていく。  
名前を呼ばれるのは嫌だった。  
愛しくなってしまう。これ以上、心が乱されてはいけない。  
口付けを繰り返しながらも、シズクは何度もフィンクスの名前を呼ぼうと必死だった。  
「・・名前、呼ぶなよ」  
小さく呟く。  
そのまま動きを早めていく。フィンクス自身も限界が近づいていた。  
「ぁぁ・・あっ」  
体中に電気が走るような感覚に教われ、シズクは2度目の絶頂を向かえた。  
体を離そうとフィンクスが腰の辺りに手を置くと、それを拒むように首に腕を絡ませる。  
汗ばんだ体がさっきよりも更に密着し、今にも限界を超えてしまいそうになった。  
「離せ、シズク」  
その言葉が耳に届いていないのか、シズクはフィンクスを離そうとしない。  
「・・もうやべーんだよ」  
体に圧し掛かる温かい重みまでもが快感に変わる。  
シズクは気持ちよさそうに満足気な笑みを浮かべながら、頬に擦り寄る。  
「フィン・・クス・・」  
吐息にも似た、か細い声を耳元小さく発した。  
その声を聴いた瞬間、欲望の全てをシズクの中に吐き出していた。  
 
しばらくそのまま抱き締めあっていた。  
人の肌は暖かく心地いい。こんな気持ちになるのは久しぶりだった。  
ようやく満足したのか、シズクが強く絡めていた腕を解いた。  
「お前が離さないから、中に出しちまったろ」  
そう言いながらも、フィンクス自身も満足気だ。  
「多分、安全な日だから大丈夫だよ」  
全く気にしていない様子で言う。  
フィンクスの膝から降りると、まず眼鏡をかけた。そのまま脱ぎ捨てられた服に手を伸ばす。  
「シャワーは?」  
「いいよ、このままで。汗かいて少し気持ち悪いけど、温もり消したくない。  
それにもうすぐ皆帰ってきちゃうよ」  
慌てて時間を確認する。  
さすがに裸のまま向き合っていたんじゃ、どんな釈明をしても意味が無いだろう。  
旅団同士の性交禁止なんて掟は団長の口から聞いたことはなかったが、なんとなくタブーな気がしていた。  
ことが全て終わり冷静になった今になって、内心少し焦っていた。  
「後悔してる?」  
いち早く服を着終わったシズクが顔を覗き込みながら聞いてきた。  
いきなり確信をつかれたようで、冷や汗が出る。  
「・・なんで」  
「やっぱ、私じゃ満足できない?」  
シズクの中で、ヒソカに言われた一言はずっと引っ掛かっていたのだ。  
瞳の奥が悲しみで曇っている。  
「逆だな。満足しすぎて、自分がこえーよ」  
ジャージの上着をはおりながら答えた。  
「はは、よかった」  
逆十字のネックレスが胸元で光る。  
―――本当は団長に・・そう言いそうになったが、フィンクスは言葉を飲み込んだ。  
そう言葉にした瞬間に、団長に対して嫉妬を感じそうで嫌だった。  
 
「お前は、よかったか?」  
既にいつもの定位置に、何事も無かったかのように座っているシズクに声をかける。  
「うん。セックスって暖かいんだね」  
「あぁ」  
「また、しようね」  
そう言うとシズクは、幸せそうに顔をしわくちゃにして笑った。そんな顔は見た事がなかった。  
その顔を見たフィンクスも、自然と顔が綻んでしまっていた。  
 
「俺でよけりゃな」  
「フィンクスが良かったから、誘ったんだよ」  
 
ドクンと心臓が激しく脈うった。  
言葉を発した当の本人は、実に平然としている。顔が赤くなっていないかが、気がかりで仕方ない。  
早まる心臓の鼓動を抑えようと、シズクに気づかれぬよう何度か深呼吸をした。  
なぜここまで胸が熱くなるのか、分からなかった。  
ただシズクの火照った顔を、甘く切ない喘ぎ声を、綺麗な裸体を、他の誰にも見せたくないと思った。  
席を立ち、シズクの隣に乱暴に座った。  
「フィンクス?」  
「他の奴は誘うなよ」  
自分でもビックリするほどに、幼稚な発言だと思った。  
「だから、フィンクスがいいから誘ったって言ったじゃん」  
言葉の意味が分からないとでも言いたげな表情で答える。  
「そうだったな」  
「うん、そうだよ」  
他の団員が戻ってくるまで、恐らくあと5分足らず。  
2人は言葉も無くそっと寄り添い、時間を惜しむように互いの温もりを感じあっていた。  
 
 
 

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