玉座のある一室、其処は今ただならぬ雰囲気に満ちあふれていた。
室内に居るのは王と、その傍らに仕えているシャウアプフの二人。
静寂の中、王が書物の頁を捲る音だけが響いている。
王はもう数時間ほどそうして読書に耽っており、読み終えた書物が小さな山を作っていた。
「……」
ばさ、と王が読み終えた書物を置く音がする。
ぴりぴりとした空気がまた一段と増し、シャウアプフは王の探し物が未だ見付からない事を悟った。
「…王様。何かお探しですか?」
王の方から尋ねられるまでは自分は只の空気に徹していようかとも思ったのだが、やはり放っておけずにシャウアプフが王の御前に跪いて尋ねる。
「私で宜しければ、何なりとお申し付け下さい」
「…そうだな。これだけ探しても見付からぬのだから、この城の書庫には無いのかもしれぬ」
王が横目で本の山を一瞥して呟く。
シャウアプフは改めて身を正した。
一体王は何を求めているのだろうか?国家機密クラスの情報か…
何にせよ、王が求めるのならそれを手に入れるだけ…それだけのこと。
全ては王への忠誠の元に。シャウアプフは王の言葉を待った。
「人間との性交はどう行うのだ?」
………静寂。
シャウアプフの脳に王の言葉が理解されるのと同時に、頬に打撃を喰らったのを感じた。
「分かるのか、分からぬのか。早く答えろ」
王に殴られても、シャウアプフは未だ混乱していた。
製鋼?成功?精鋼…やはり…性交でしょうね…
「失礼致しました…はい、性交……あの、ちなみに相手の人間は決まっているのですか…?」
気のせいか、くらくらとめまいがするのは殴られたせいだけでは無い。
シャウアプフは、無礼を承知で尋ねた。そうせずにはいられなかった。
王の目は鋭く、射抜くようにシャウアプフを睨む。その唇が動いた。
「コムギ…あの阿呆だ。分かりきったことを訊くな」
半ば予想していたが、王の口から告げられてシャウアプフは目の前が真っ暗になったように感じた。
だが堪え、姿勢を正す。
「…申し訳ありません。性行為についてなら…ここの書庫にもあるかと存じ上げます」
「それらしき物は大概読んでしまったぞ」
王が本の山を顎で指して言う。
「は…あれらは医学書に近い部類かと。人間の生態からして、もう少し俗的に書いている書物の方がより詳しく載っているのでは無いでしょうか」
「…ふむ。成る程な。それを持って参れ」
王がごく当たり前の様に命令を下す。
シャウアプフは、部屋を出て重い足取りで書庫に向かった。
「…書庫に有るめぼしい本は、これで全てです」
シャウアプフが王の前に数十冊の書籍を積み上げる。
「……『女子校生大全集』?何だこの不細工な女は」
王が一番上に乗っていた写真集を手に取って眺める。
表紙の少女は短いスカートを穿き挑発的なポーズをしているが、王やシャウアプフにとっては無意味な物だった。
「はぁ、それは…いわゆる特殊なマニアに標準を合わせて作られた物ではないでしょうか…」
王の手にそんな下品な物が握られていることに、シャウアプフはめまいを覚えた。
「マニア…。余には必要あるまい」
ぽい、と『女子校生大全集』を放り投げ、次の書物に手を伸ばす。
それはいわゆるヌード写真集で、王はぱらぱらと頁を捲る。
「ふむ…身体の造りは似ているな」
王が呟く。
誰にですか?とは訊けず、シャウアプフはただ美しくよろめいた。
「…い。おい、プフ」
シャウアプフがはっと気付くと、王の尾の先端が自らの喉に突きつけられていた。
慌てて跪いて王に答える。
「は…申し訳ございません」
「二度言わすな。これは何だと聞いている」
王はそのヌード写真集を指している。
失礼致しますと言って覗いてみると、人間の女が股を広げている頁だった。
その股の中心にはぼかしがかかっていて、王はそれが何であるか気になったようだった。
「これは…モザイクです。人間の法ではこのような書籍では性器を晒してはいけないという法律があるようですね」
「ふむ…このような豚の裸にも規制が架かっているのか」
王は純粋に感心したようにその頁を眺める。
「ですが規制が緩い国もあるようで…そんな雑誌も書庫にございました」
シャウアプフは自分が運んできた本の山からそれを探し出し、王に差し出す。
それは無修正の写真集だった。
再びぱらぱらと頁を捲り、王はいかにもつまらなそうに呟く。
「…汚いな。全く美味そうに見えぬ」
誰と比べてですか?とはやはり訊けず、シャウアプフはただひたすらに涙を堪えていた。
王は早々に写真集を閉じる。
「こんな写真ばかりの本では何もわからぬ。もっと詳しい物は無いのか?」
「は、はい…ええ…こちらなど如何でしょうか」
シャウアプフはまた本の山から探し出し、王の手に手渡す。
その本の表紙には『明るい夫婦生活』と書かれていた。
「これは、人間同士の場合に限られますが…『性交の基本的な行い方、応用編、
また数多くある体位などはイラスト付きで紹介されており、明るい夫婦生活のために役立つでしょう』…うっ…」
書籍に挟まれていたリーフレットを読みながら嗚咽を上げるシャウアプフのことは気にも留めず、王はその書物に没頭し始めた。
それから小一時間ほど過ぎただろうか。
王はその書物を隅々まで読み、情報を頭に叩き込んでいるようだった。
そして早くも最後の頁まで行き着き、ぱたんと本を閉じて置くとシャウアプフに目を向ける。
「コムギは何処にいる?」
その時のシャウアプフの心中は暗澹たる物だった。
だが勿論そんなことは顔には出さずに、王の問いに答える。
「は…客間に控えております。もう夜ですので、人間の生活リズムに添うなら、彼女は既に休んでいるかと…」
少しでも時間を伸ばそうとする。
王の気が変わることは無いだろうが、シャウアプフは一縷の望みにもすがりたい心境であった。
「夜か…よい。余が起こせば寝てなどいられぬだろう」
いつもは乱暴ながらコムギの体調を気にかける節のある王が、今は本来の横暴さを発揮する。
しかしそれは、シャウアプフにとっては有り難くない言葉だった。
「………かしこまりました…客間はこちらです…」
オーラまで暗くなってきたシャウアプフが先に歩き、その後に王がついて歩く形で、部屋を出る。
長い廊下をしばらく歩き、客間の前で立ち止まる。
「…ここにいらっしゃいます」
「ああ、ご苦労」
…
ほんの何秒か、二人の視線は交わっていた。
「…下がれ」
「…はっ…申し訳ございません。…失礼致します」
シャウアプフは、後ろ髪引かれる思いでその場を立ち去った。
王が扉をノックもせずに開ける。
室内を見渡すと、その部屋はなるほど客間らしく、調度品などにも高級感が溢れていた。
コムギの目が見えていたなら、こちらが申し訳なくなるくらい恐縮したことだろう。
その雰囲気を作るのに一役買っている、天蓋付きのベッドの真ん中辺りが小さく膨らんでいた。
王はベッドの傍らに立ち、柔らかい布と綿で出来た布団を剥がす。
コムギは、広いベッドの上に小さく丸まって眠っていた。
身体を伸ばして眠れば良かろうに、と王は思う。
やはりここでの生活は慣れぬのか。
「…くしゅっ」
布団を剥がされたコムギが寒いのか、小さく震えて子猫のようなくしゃみをした。
小さな身体を見つめていた王は、そのくしゃみで我に返りコムギの肩を軽く揺さぶる。
「…起きろ」
「…ん…んむ…そ…そーすいさま…?」
呼びかける声に目を覚まし、もうすっかり覚えたのであろう、その声の持ち主に返事を返す。
よほど深い眠りに入っていたのだろう。
ベッドの上に半身を起こしたコムギは未だ夢の中にいるようにぼーっとしている。
枕を抱きかかえて、時折首がかくんと舟を漕いでさえいた。
今にも再び眠りに就きそうな様子に、王は早急に用件を伝えた方が良さそうだと判断する。
「寝るな。余は其方に用が有って来たのだ」
「…?は…はい、何のご用ですか?」
王の言葉に漸く頭が回転してきたのか、コムギが姿勢を正して王がいるらしき方向に顔を向ける。
「其方は、余のことを好いておるか?」
「……え゙?」
王が読んだ書物『明るい夫婦生活』にはまず第1ステップとして、
『嫌がる相手に無理やり性交渉を強いる事は最低な行為です。まずは互いの愛し合う気持ちを確認しましょう』
…と大見出しで書かれていて、王はそれを忠実に記憶していたのだった。
「…は、はいっ!総帥様はすごい方だと思います!」
コムギは質問の裏にある王の考えには当然気付かず、笑顔で自分の気持ちを答える。
「…そうか。それならばよい。…余も、貴様の事が」
王は、言葉を詰まらせた。
『互いの愛し合う気持ち』なのだから、勿論コムギにも伝えなければならない。
だが、王の内にある、暖かな感情。
それが愛であるのか、王にはわからなかった。
それは確かにこの人間の少女を目の前にした時にしか感じ得ない物であるが、確信が持てない王は口を濁らす。
「…総帥様?どうかすたんすか?」
急に言葉の途絶えた王に、コムギは首を傾げる。
「…いや、何でもない。
余は、貴様と性交を行いたいと思っているのだがよいな?」
『明るい夫婦生活』第2ステップ。
『気持ちの確認が出来ても、そんな気分じゃない時もあります。相手をさり気なく誘ってみましょう!』
全然さり気なく無かったが、取りあえず王は書物の教えを守った。
が、コムギはよく理解出来ないのかぽかんと口を開けたまま固まっている。
そのまましばらく時間が過ぎた。
「嫌なのか?」
王の尾がゆらゆらと揺れる。
目の見えないコムギはそれでも王の苛立ちを感じて慌てて首を横に振り、小さな声で答える。
「あ、あの…せ、性交って…この前すたみたいな…のですか?」
その時の恥ずかしさを思い出しているのか、コムギの顔が真っ赤になっていく。
「そうだ。今回はあれより先に進むであろうな」
いともあっさりと王が答える。
「そっ…その先?…すか?」
コムギは、性に関して全く無知なわけでは無かった。
だがそれも『そういうこと』をすれば子供が出来る、ぐらいのレベルの物であり詳細なやり方などは知らないのであろう。
コムギには王の言葉が飲み込めずに、ただ首を傾げている。
「案ずるな。其方は余に全てを任せておけばよい」
王の手が、ぼさぼさのコムギの髪を撫でる。
「は…あ、あの!ひとつだけ訊いても良いですか?」
「何だ。申せ」
コムギは少しだけ躊躇い、そして口を開く。
「…どうすて、わだす……なんですか?…わ、わだすは、バカで、礼儀知らずで、軍儀すか無いような人間す。
軍儀が無ければゴミだって、自分でもわかっています、だから、…総帥様ですたら、他に美すい人が……っ」
言い終わらぬ内に、唇に何かが触れて言葉を抑えられた。
それは王の尾だったのだが、コムギには分かるはずもない。
代わりにぎし、とベッドが鳴る音が聞こえた。
王はコムギと同じようにベッドの上に腰を下ろし片膝を立てて、さながら対局する時のように向かい合う。
「余は、ゴミなどに興味はない」
その言葉に、コムギは思わず俯き、目を固く閉じる。
「…余が貴様を抱きたいと思ったのだ。そのお前が自分を卑下することは、余を愚弄する事でもあるのだぞ」
静かに、だがしっかりと王の言葉がコムギの耳に響く。
コムギは慌てて顔を上げて、次にベッドに頭を擦り付ける様にして平伏した。
「すっ、すいません!わだ、わだすそんなつもりじゃ…申す訳ありません!」
「面を上げろ」
そろりそろりと、コムギは顔を上げる。
その余りに狼狽した様子に、珍しく王は唇を緩めた。
「…余はゴミに興味はない。その余が、其方に興味を持ったのだ。
お前は余を信じていればよい。…嫌でなければだがな」
言い終えると王は顔を赤くしているコムギの手を取って、その甲に口付けた。
それは例の書物に表紙として使われていた絵の所作を真似た物であった。
だが、今の自分の気持ちをこの少女に伝えるのに相応しいように王は思った。
唇を離して顔を上げると、あわあわと狼狽えるコムギが目に入る。
「あっ…い 嫌なんてとんでもねーっす!嫌なんて…」
口ごもる。
コムギは王がそこまで、自分に言葉を掛けてくれる事はとても嬉しかった。
『総帥様』は正に雲の上にいる様な存在なのだ。
だが心の中には、一抹の不安が渦巻く。
コムギはどうしたら良いのかわからず混乱した頭で考えていた。
しばらく沈黙が流れる。
「余が恐ろしいか」
王が聞くと、コムギはぶんぶんと頭を横に振った。
「そんな!総帥様は、わだすなんかにもとても良くすてくだすって…怖いなんて思いません。…ただ、」
言葉を切る。王は敢えて黙っていることで、先を促した。
「…自分が変になるようで…それが怖いんす…この前も、あ、あんなふうになってすまって…
今こうすて総帥様と顔を合わせているのも…申す訳なくて…恥ずかしい…です…」
言いながらコムギは熱くなっていく自分の顔を隠そうとするように俯く。
王はいつもと同じように真っ直ぐにコムギに目を据えている。
王はこのような状況は想定していなかった。というか、本には書かれていなかった。
互いの気持ちを確認したのちに誘い、それが上手く行けば後は本題だとしか記されていなかったのだ。
小さく縮こまるようにして頭を垂れているコムギを見ていると、確かにあの媚態は想像出来ない。
自分が変になったと思っても仕方ないだろう。
だが、王の中の感情は消せない。
「やはり、お前は簡単には落ちぬ女だな」
「え…っば!?」
コムギの平衡感覚が揺らぐ。背中がふかふかとした感触のベッドに付いて僅かに跳ねた。
上から声が降ってくる。
「心から嫌ならば逃げろ。余は追わぬ」
その言葉通り、押し倒しはしたが王はコムギの手も脚も捕らえずに自由にしていた。
「…あ………」
コムギは両手をぎゅっと胸の前で握りしめたまま暫く固まっている。
が、思い切ったように一つ息を吸い、ゆっくりと瞼を開けて王のいるらしき方向に目を向けた。
王はその自分を映してはいない瞳に、自らの鼓動が僅かに早まったのを自覚する。
コムギが唇を開く。
「…嫌じゃありません…、よ、よろすくお願いすます!」
王はコムギを安心させようとするかのようにその頬を撫でる。
そのまま手を滑らせ、もつれかけた髪に指を通すと現れた耳に舌を付けた。
「っひゃ!」
生暖かい、独特の感触にコムギが声をあげる。
王はそれに構わずに、コムギの耳朶を軽く咬んだ。
「っ…総帥様…、なにを…」
「どのように感じるんだ?」
耳は人間の性感帯である場合もあると書かれていた件の本の記述を王は覚えていた。
「ど…くすぐったいっす…」
「快感は感じぬか」
王の問いにコムギは少し困ったように眉を下げ、小さく頷いた。
「……左様か」
「…すみません…」
何故だかとてつもない無礼を働いたような気がして、コムギは落ち込む。
「謝る必要は無かろう。人間の性感帯、つまり身体的快楽を感じる箇所は個体により多様だと……」
書物に書いていた、とはコムギを前にしては何故か口に出せずに王はそこで黙る。
コムギはさして不審に思うわけでもなく、そうなんすかぁ、とただ感心していた。
「じゃあ、わだすにもあるんすか?」
コムギは純粋に気になったようで、首を傾げる。
「有るであろうな」
「はー…」
コムギは突然、両手で自分の身体をぱたぱたと触り始めた。
「…どうした?」
「どこにあるのかと、探すてます」
首を捻りながら手のひらで自分の身体を触る。
「…そのような雑な手つきでは解るものも解るまい。余に任せておけ」
動き回る両手を力加減しながらそっと掴み、コムギの頭の横で捕らえる。
「あ…はい、すみませ……っ」
王は、謝りかけるコムギの唇に口付けた。
小さく柔らかな唇を開かせ、咥内に舌を入れる。
「んっ…んんん?!」
コムギが驚いて目を見開く。と、一旦王は唇を離した。
「暴れるな。舌を噛むぞ」
再び唇を重ねる。
歯列をなぞり、角度を変えながら舌を絡ませると、くちゅっと音が洩れた。
「はぁっ…ぁ…」
十分に堪能して唇を離すと、コムギは真っ赤な顔をして大きく呼吸をした。
「…どうした」
「そ…すいさま…はぁっ、息が…」
そういえば鼻が詰まっていたのだったな、と王は今更ながら思い出した。
「許せ。今のはもうやらぬ」
失神されては困る、と考えてコムギに詫びる。
が、コムギは小さく首を振った。
「…でも、なんか不思議な感ずで…気持ちよかったす」
「…ならば早く鼻を治せ。いくらでもしてやる」
照れくさそうに笑うコムギの髪を撫で、王は今度は軽く口付けをした。
唇を離すと、王はおもむろにコムギに告げる。
「では、衣服を脱げ」
「…………はべ?」
これで何回目だろうか、コムギはまた口をぽかんと開けた。
「二度言わすな。お前が着ている物を脱いで裸になれと言ったのだ」
平然と言う王に対して、コムギは大いに狼狽えた。
「はだ、裸…すか?わだすの裸なんか見ても…お、面白くねーです…!」
「先日、僅かだが見たではないか。面白かったぞ」
ぼっ、とコムギの顔が真っ赤になる。
「其方の身体を余す処無く見たいのだ。
自分で脱ぐのが嫌なら余がやってもよいが、破くぞ。衣服の仕組みはわからぬ」
「ぬ、脱ぎます!よそ行きの服はこれすか無いんす!」
半ば脅しのような言葉に、コムギは慌てて返事をする。
王は身体を起こし、コムギが服を脱ぎやすいようにベッドの上に座り直す。
「服が無いなら、用意させるが。この城には腐るほどあろう」
「いいえ!そんなお世話にはなれません」
自分の上にかぶさっていた王の気配がなくなったのを察知し、コムギも半身を起こす。
しばらく戸惑うように服の襟を掴んだまま固まっていたが、意を決したようにそれを脱いだ。
上着を脱いで、たどたどしく畳む。
「…下も、ですか?」
「……」
「すっ、すみません!」
王の無言の圧力に、慌ててスカートのホックを外し、それを足から抜く。
下着だけになったコムギは、身に纏う物が無い分余計に痩せて見えた。
「お前、きちんと喰っているのか?」
「あ…は、はい…大丈夫です!」
何が大丈夫なのか。思いながら、王はコムギの身体を抱え上げる。
やはり軽い。
「わ…総帥様?」
ぽすん、とどこかに下ろされたのをコムギは感じる。
「まるで綿のようだな」
王はコムギを自分の膝の上に乗せて、細い腕をなぞってその先にある手を見つめた。
この手で、余を翻弄する一手を打つのか。
華奢で脆く、少し握れば壊れそうな癖にその内に秘める強さ。
余はそれに惹かれたのか?
ぼんやりと思いを巡らせながら、コムギの白い胸に手のひらを這わす。
「ん…っ」
小さく声を上げたコムギは、少し身じろいだが王から逃れようとはしなかった。
「此処はどのように感じる?」
乳房の先端に小さく膨らんだ突起を、指先でくにくにと弄りながら王がコムギに問いかける。
「どっ…?…くすぐった…くはないす……っ」
「ふむ……ならば、此処はどうだ?」
言うと王はコムギの腰を浮かせて膝立ちにさせ、開いた脚の間に指を滑らした。
下着の上から触れる其処は、熱を持っていた。
「!!そ、総帥様…あの、そそそこは……」
「嫌だと申すか?」
ゆるゆると指を動かしながら耳元で囁く。
耳に掛かる吐息に、コムギの背はぞくりと震えた。
「…いえ、…また…変になりそうで…」
泣きそうな顔でコムギが呟く。
「……なれ。余は構わぬ」
王の指が、やや硬くなった小さな突起を見つけた。
それをくっ、と軽く押すとコムギの身体が一際大きく跳ねる。
「っあ…!総帥さま…だめ、だめです!」
反射的に腰を落としかけるコムギだが、王がそれを許すはずもない。
「これが陰核か。人間の女の最も敏感な箇所らしいな」
「ぇあ…っ…んんっ」
王が与える刺激に上がりそうになる声を抑えようとコムギが両手で口を押さえる。
「堪えるな。良いのなら、その声を余に聞かせよ」
恥ずかしさに震えながらも、王の命令に背く事は出来なかった。
「は…はい……」
「やはり快感を感じるのか?此処は」
片手ではコムギの腰を支えながら、王は愛撫の手を緩めない。
そのままの姿勢でコムギに尋ねる。
「ん、んぅ…ぇ、と…あの……へんなかんじ…っす…あ、あっ」
コムギの脚が辛そうに震えるが、王の問いは続く。
「具体的に申せ」
「……はぁっ、んっ…は、…い……きもち、い…っす…」
羞恥に顔を赤くしながら、コムギが途切れ途切れに答えると、王はそっとコムギを抱き寄せた。
「良く言えたな」
そのままそっとコムギを寝かせ、自身もその上に覆い被さる。
「はぇ……は、はぁ…」
王の手が離れて快感の波は一旦去ったが、まだぼうっとしているコムギの足から下着を容易く取り去った。
「褒美をやるぞ。何がいい」
戯れに王が尋ねる。言いそうな事はわかっていた。
何も要らない、だとかそんな所であろう。
だが王の予想に反し、コムギは躊躇いながらだが望みを言葉にする。
「…あ…さ、さっきの…口と口を付けるの……もう一度だけ……っ」
言い終わらぬうちに、王はコムギに接吻した。
先程より乱暴に舌を絡ませる。コムギの小さな舌を蹂躙していると、王は胸をかき立てられるように酷く興奮している自分に気付く。
「…は…」
唇を離すと、コムギの唇は唾液で濡れていて、それはいやらしく美しかった。
「…何故これが欲しかったのだ?」
コムギの唇を指で拭いながら訊く。少し息を整えてから、コムギは答えた。
「総帥様のあったかさが、すごく感ずられて…なんか嬉すかったんす……」
「…ふん…今から、嫌と言うほど感じることになるぞ」
乱暴に言葉を吐いて、再びコムギの脚の間の秘めた場所に指を這わす。言葉とは裏腹に、その手は静かに動く。
「あっ…や、総帥様…!」
直に触れる其処は、蜂蜜を垂らした様に濡れていた。
「十分過ぎるほど分泌されているな。もう挿入しても良いであろうが…」
「えっ…あ、んんっ…ゃ…」
ぬるぬると滑りながら陰核を刺激するごとに、コムギの腰が小さく揺れた。
つ、と中指を下にずらして探ると、深みを感じさせる場所を見つける。
「…此処か」
「!?…っや……った!」
ぐっと僅かばかり指を押し込むと、コムギの身体は途端に硬直する。
初めての痛みなのか、顔を見ると眉を寄せて目をぎゅっと瞑ってしまっている。
「…痛いか?」
「…は、はひ」
更に少しだけ指を進めると、王の指は締め付けられる。コムギは必死に痛みを堪えているようだ。
「…どのくらいだ」
「……か、かなり…す」