「わたしが、すべてを教えてあげるわさ!」  
 ビスケはそう言って、フリルのついたワンピースを脱ぎ捨てた。  
「さあ、あんんたたち、服を脱いでかかってらっしゃい」  
「……って、言われてもなぁ」  
 ぼさぼさの髪をかきながら、キルアが呆れたように呟く。  
「あんな貧弱な身体じゃ、こっちがその気にならねぇーよ。なぁ? ゴン」  
 しかいゴンは、意外にも首を振った。  
「ううん。オレ、くじら島じゃいろんな女の人と付き合ったことあるから。幼児体型でも、いけるよ」  
(こ、こいつ……大人だ!)  
 二人のひそひそ話に眉を顰めながら、ビスケは右手の人差し指を立てる。  
「7!」  
「な、7!」  
「――はい、今のはゴンの方が早かった。というわけで、キルア。あんたが先よ」  
「ちぇー」  
「ゴンは《凝》を使って、しっかりと見てなさい」  
「はぁい。……がんばってね、キルア!」  
 とぼとぼと歩いていくキルアの前で、ビスケは下着を脱ぎ、可愛い尻を突き出すような格好で四つん這いになる。  
「さあ、キルア。《発》でも使わないと、わたしをイカせることはできないわよ!」  
「……まだ、充電が足りないんだよなぁ」  
 盛大にぼやきながらも、キルアはいそいそとズボンを脱ぎ始めた。  
 
(うっ、こいつは……)  
 対峙した瞬間、キルアは悟った。  
 自分とビスケの格の違いを、だ。  
「あんなの弱点は、それよ! 念能力者だって人間。調子のいいときもあれば、悪いときだってある。状況しだいでは、能力の劣るものでも、勝つことができるかもしれない。でもあんたは――」  
 四つん這いで前方を見つめたまま、ビスケはずばり指摘した。  
「常に相手の力をMAXではかろうとする。典型的な負け犬の考え方!」  
「……くっ」  
「でもそれは、あんたのせいじゃない。そういう風に育てられてきたんだわね」  
 にげろ――にげろ――にげろ――  
 頭の中に冷たい声が響く。  
 勝てない相手とは、絶対に戦うな。一旦身を引いて、体勢を整えるんだ。  
(ちっ、こいつのことか……)  
「さあ、自分の本能に打ち勝ってみせなさい」  
「く――肢曲〈しきょく〉!」  
 キルアの身体が不規則に揺れ、一気にビスケとの間合いを詰める。  
 ずん!  
「ああっ」  
 堅《けん》を維持したまま、キルアは攻防力八〇で突く。そして引く時は二〇。  
 誤差一パーセント以下の精度を要求される行為だ。  
「あ、ああっ! お、恐ろしい才能。わたしが……このレベルに達したのは、んっ……おそらく、二十台の前半……」  
 うわ言のように呟きながら、ビスケは自らも腰を動かし始める。  
「雷掌〈イズツシ〉!」  
「おおうっ!」  
 電撃に全身を貫かれ、ビスケは絶叫した。  
「揺らめく危険な色――ああっ、まさにサファイア!」  
 
 

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