マフィアンコミニティのかけた懸賞金を目当てに尾行をしていた  
ゴンとキルアを捕えた世界を股にかける盗賊集団・幻影旅団。  
ウボォーギンの代わりとして二人を気に入ったノブナガを残し、  
残るシャルナーク、フェイタン、マチ、ヒソカ、フィンクス、フランクリン、シズク、  
ボノレノフ、パクノダ、コルトピの10人は、鎖野郎捜索の作戦を立てていた。  
「それじゃ午後10時、ここに集合ってことで。」  
現在の時刻は午後5時。  
わずか五時間で有力な手掛かりが見つかるとはシャルナークも思っていないが、  
手掛かりが欲しいのは鎖野郎の方も同じだろうと考えていた。  
本当の目的は自分たちが姿を晒すことで敵をおびき出すということにあった。  
しかし鎖野郎はウボォーギンを一人で倒したと考えられる。  
そこで今回もペアで行動するということになったのだが…。  
「ねぇ、ノブナガは留守番だろ? アタシはどうすんの?」  
他のペアがアジトから出て行き始めたところで、マチがシャルナークに尋ねた。  
いつもはマチとペアを組んでいるノブナガは、ゴンとキルアを  
クモへの入団を推薦すると言い出し、今は二人のお守りをしている。  
「今は10人いるだろ? 誰か余ったのと組みなよ」  
と言い残し、シャルナークもまたアジトを出て行った。  
(余ったのって…)  
マチが視線をやると、そこにはヒソカの姿。  
「やあ」  
「ゲッ…」  
全く気が進まなかったが、今回マチはヒソカとペアを組むことになった。  
 
「アンタさぁ、あの腕相撲の子と知り合いなんでしょ? 妙に余所余所しくなかった?」  
変装のジャージからいつもの装束に着替えたマチが、髪を後ろに束ねながら  
戻ってくるなり、さっきから気になっていた疑問をヒソカにぶつけた。  
天空闘技場でヒソカがゴンと闘っているのを、マチは目撃している。  
「さぁ?」  
トランプを弄っていたヒソカが不敵な笑みを浮かべてマチを振り返る。  
「…アンタがそういうなら、別に良いけどさ」  
マチはその射貫くような鋭い目でヒソカを威圧したが、ヒソカは  
笑みを浮かべたままで、本心を語る気配はなかったので話題を変えた。  
「それでアタシたちはどうすんの?」  
髪の毛のセットを終え、マチは腕組みをしてヒソカに歩み寄る。  
するとヒソカは表情をそのままにトランプに目を落し再びトランプを弄った。  
「情報収集の基本は人の集まるところに行くこと…」  
「そんなの当たり前でしょ?」  
「ヨークシンでお酒の美味しい飲み屋さんを見つけたんだ」  
「!?」  
飲み屋さんという言葉にマチが一瞬反応を示したのを、ヒソカは見逃さなかった。  
ちなみに飲み屋とは、基本的にジパング料理屋のことを指す言葉である。  
(ヒソカのヤツ、アタシがジパング酒に目がないのをいつの間に知った!?)  
 
「ボクが御馳走してあげても良いんだけど、どうする?」  
ヒソカは見透かしたような目でマチに視線を送る。  
「…アンタねぇ、アタシらがすべき事ちゃんと理解してるわけ?」  
少し心を動かされたマチだったが、ヒソカの誘いに乗るのは癪に感じた。  
「鎖野郎を見つけだすこと。私怨なら向こうから仕掛けてくるさ」  
「そりゃそうだけど…」  
「折角の美味しい飲み屋なんだけどなぁ…。すっごく美味しい飲み屋なんだけどなぁ…」  
ヒソカはマチが納得したところで、マチを一気に畳み掛けてた。  
「味も香りも良く辛口ですっきりしていて料理にも、すっごく合うんだけどなぁ…」  
ここまで言われればジパング料理に目のないマチは喉を鳴らさずにはいられなかった。  
「…わかった、案内しなよ」  
「マチならそう言うと思ったよ」  
視線を逸らし、どこか悔しそうなマチの表情を確認して、  
ヒソカは満足そうにそう言うと、立ち上がってマチの横に立つ。  
「?」  
マチは何も言わずボケッと立ったままのヒソカに視線をやる。  
「これから楽しいデートなんだ。腕くらい組んで歩かないかい?」  
「…やっぱ止めた」  
と、マチはプイッと向き直って一人でアジトを出て行こうとする。  
「じょ、冗談だよ。一緒に行こう。ボクが前を歩くからさ」  
ヒソカは慌ててマチの後を追ったのだった。  
 
「へい、らっしゃい!!」  
マチが店の引き戸を開けるなり、威勢の良い声がかかる。  
(この感じが好きなんだよね…)  
店は縦に長くカウンター席が10席あるだけの小さな店だった。  
こういう静かな店ほどちゃんとした料理が楽しめるというのがマチの持論である。  
まだ時間が早いこともあってか、他に客の姿はなかった。  
「おじさん、熱燗二本。それと適当にお酒に合うのを頂戴」  
マチは一番奥の席に座るなり注文をし、その横にヒソカが座る。  
「あいよ。お茶とおしぼりどうぞっ」  
店主が差し出した湯飲みとおしぼりを受け取るマチとヒソカ。  
「こういう店は慣れてるのかい?」  
おしぼりで手を拭いているマチにヒソカが尋ねた。  
「…さぁね」  
マチはヒソカに顔を向けることなくぶっきらぼうに答えた。  
実際、マチは任務のなく自由な時間があるときは、  
頻繁に飲み屋を探し求めては一人、酒と料理を楽しんでいた。  
他の団員たちは自分が盗賊であることを強く自覚しているためか、  
飲みたくなったら奪い、食べたくなったらまた奪うという生活をしている。  
だがマチはきちんと金を払って料理を楽しむことを旨としていた。  
 
「へい、熱燗ね」  
二人が先付けを摘まんでいると店主が徳利とお猪口を差し出す。  
ヒソカがそれを受け取ると、お猪口の一つをマチに手渡した。  
「さっ」  
マチがそれを受け取ると、ヒソカはマチにお酌をする。  
「…」  
マチはヒソカに一瞥すると、目を閉じてお猪口をグイッと行った。  
コクコクとお酒がマチの喉を流れて行く。  
ピンク色の奇麗なマチの唇と陶器の白いお猪口との密着が実に艶めかしい。  
(アァ、ボクが想像した通り。マチは本当に色っぽいよ)  
「ネェチャン、良い飲みっぷりだねぇ」  
どうやら店主はヒソカとは別のところを見ていたらしい。  
「おじさん。この銘柄、何ていうヤツ?」  
「此奴はなぁ、俺がジパングを渡り歩いて見つけた『鬼笑い』ってヤツだ」  
マチがお猪口を置き、店主と話をしている間にヒソカはお酌をする。  
「その名の通り、狂暴な鬼も笑っちまうくらい美味い酒だろ?」  
「へぇ…」  
感嘆の返事をして、再びマチは『鬼笑い』一気に喉に流した。  
「どうだい、ボクのお薦めは?」  
ふと見るとマチの様子をずっと観察していたのか、ヒソカは身体ごとマチに向いていた。  
何だか恥ずかしいところを見られた感じがして、マチは空のお猪口をヒソカに持たせると、  
徳利をヒソカから奪い取って、ヒソカにお酌をした。  
 
「…アンタも飲むんだよ」  
「おっ。マチがボクにお酌してくれるなんて嬉しいよ」  
そんな二人のやり取りを見て、店主は頬を緩ませた。  
「お宅ら恋人同士かと思ったが違うのかい? でも中々お似合いで良い感じだねぇ」  
「なっ!?」  
「ふふっ、ボクが見込んだお店のご主人は、人を見る目もあるようだねぇ」  
素面なら全面的に否定したいところだが、酒を不味くするだけなので、  
マチはあえてこの場はサラリと受け流すことにした。  
「おまち。刺し身の盛り合わせだよ」  
マチたちの注文が来たところで他の客がやってきた。  
「らっしゃい!! じゃ、お二人さん。オラァあっちのお相手してくるんで、二人仲良くな」  
と要らぬお節介な台詞を残し、店主は入り口近くに座った三人連れの注文を取りに行った。  
「ったく…」  
マチは自分のお猪口に酌をして、すぐさま喉に流し込んだ。  
そんなマチの様子を見て満足そうにヒソカが言う。  
「照れたマチも可愛いよ」  
「・・・」  
マチは完全にヒソカを無視して、黙ったまま出された刺身に箸をつけた。  
「ボクにも食べさせてくれないか?」  
口をあーんと開けて待つヒソカだが。  
「・・・」  
「・・・残念」  
マチはヒソカを無視したまま、次の一切れを自分の口に放り込んだ。  
 
≪続く≫  
 

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