どうしたんだろ…体に力が入らない…
一体何が起こったの?
もしかして、僕…。
「全くてこずらせてくれたな、この化け猫め。」
反転する視界の中に、先ほどまで戦っていた人間の姿が映った。
キメラアントの巣から強そうな人間を見つけて、
腕を切り落としたまでは良かったんだけど…。
彼が“念能力”とかいうのであの変なピエロを出した後…
それから…。
激しい痛みに消え入りそうな意識の中、僕は思い出した。
何度目かの彼の攻撃が直撃して、
そうだ、僕は負けたんだ。
そうわかったとたん、いいようのない恐怖が沸き上がってきた。
全身が面白いくらい震えだして、瞳から涙が溢れた。
僕、死んじゃうの?いやだ…怖い…怖い!!
「お願い…殺さないで…」
思わずそう呟いていた。
自分でも驚くほど自然に出てきたその言葉。
今まで僕たちが狩ってきた人間たちのように。
「君の言うこと何でも聞くから、助けて…」
まだ生まれたばかりなのに、こんな所で死にたくない。
昔、どこかで味わったような恐怖。
その忌々しいほどの感情に僕はぎゅっと目を瞑った。
「全く、てこずらせてくれたな。この化け猫め。」
俺は遠くに転がる自分の腕を見ながら言った。
不覚だった。腕を一本持っていかれるとは…
しかし、相手は戦いにおいては経験不足な様子。
ひとまずゴンとキルアを逃がし、念を発動させる。
勝てるかどうかは分からなかった。
だが―…
勝負は俺の勝ちの様だった。
さすがにあの攻撃が直撃したのでは、しばらくはまともに動けないだろう。
止めを刺そうと近づく俺に、
このキメラアントは涙を流して命乞いをした。
「君の言うこと、何でも聞くから…助けて…」
猫のような耳をペタリと寝かせ、力なく木にもたれている。
やはり反撃する力は残っていないようだった。
(お前のその命のために何人犠牲になったと思ってるんだ。)
そう思ったが、その時同時に一種の悪寒のようなものが体を駆け巡った。
美しい。
こんなに美しい生き物、今まで見たことが無かった。
おまけにこの恐怖に体を震わせる姿…
一瞬にして黒い欲望が俺の体を支配する。
思えば、あまりに自然で簡単なことだった。
俺は哀れなキメラアントに向かって言った。
「何でも…?本当に何でも聞くなら、命だけは助けてやる。」
俺は、人を愛せない。
今まで何人もの女を経験してはいたが、
心の底から満たされたことなど一度も無かった。
しかし、コイツに遭遇したことがある意味幸運だったのかもしれない。
(まずは腕の分の代償をここで払ってもらうか…)
俺はしゃがみこみ、
痛みと恐怖に必死で耐える“彼女”の体を弄った。
わずかだが、胸に柔らかなふくらみを感じる。
予想どうり、女の形はしているようだ。
自然と口の端がつり上がって行く。
俺はこの未知の生き物に明らかな欲望を感じていた。
力任せに衣服を剥ぎ取ると、血にまみれてはいるが綺麗な肌が露になった。
くびれた腰に、小さな胸。
そして、人間のものとは違う、耳やしっぽや関節。
彼女は怯えきっていた。
しかし、青ざめ、引き攣るその姿は
俺が今まで見てきたどの女よりも美しかった。
すでに理性など、どこかに吹き飛んでいたのかもしれない。
どちらにしてももう我慢の限界だ。
彼女の白い脚を開かせ、慎重に奥にあるはずのモノを探る。
淡い茂みの中に、恐らくはまだ誰にも冒されたことの無い桃色の蕾があった。
些か未発達だったが十分にその役目を果たしてくれそうだ。
何故だか一瞬、罪悪感がふっと胸を掠める。
だが、いまさらこの膨れ上がってしまった欲望を止めることは出来ない。
俺は彼女の上を覆うと
ゆっくりとその奥へと体を進めた。
僕、何されてるんだろ…。
僕を裸にして、彼は一体何がしたいんだろう。
だけど今はもう、そんな事考えてる場合じゃなかった。
今まで感じたこともないような痛みが僕の体を貫いていく。
痛い…嫌…離して!!
「にゃあぁぁぁ!!」
あまりの痛みに僕は身を捩じらせて叫んだ。
傷の痛みなんて全く感じなくなるくらいだ。
どうして、どうして僕にこんなことを…?
「いやっ!やめて!!」
ここから逃れたくて必死に抵抗すると、
彼は動きを止めずにこう言った。
「やめてもいいのか…?
俺の命令に従わないなら殺す約束だったハズだが?」
…諦めるしかなかった。
今ここで下手に抵抗すれば、全て無駄になってしまう。
だけど…
ふと自分の上の彼の顔を見ると、
彼はなにか美しいモノでも見るような恍惚とした表情で僕を見ていた。
ぞくっと体が凍りつく。
どうしてだろう、僕はこの人から逃げられない…
そんな根拠の無い事が頭に浮かんだ。
(このままじゃ、僕、おかしくなっちゃう…)
それにさっきからすごく体が熱い。
彼と繋がっている所から、痛みに混じってじんわりと
心地良ささえ伝わってくる。
なんか変な感じ…
全身が火照って胸が苦しい。
「ぁっ…あんっ…」
自分でも聞いたことの無いような声が口から漏れる。
あわてて口をつぐんだけど、もう止められないみたい。
(どうしよう、自分が自分じゃなくなっていく…)
次から次へと奥をつく快感に
僕はこらえる事もせず、甲高い叫び声を上げた。
そう、本能のままに…
「にゃあああん!ああぁぁんっ!」
突然大きな嬌声を上げた彼女に俺は驚いた。
ついさっきまで嫌がって抵抗していたのに。
コレも動物の本能を受け継いでいるからなのだろうか。
その小さな体に受け継がれた雌猫の本能・・・。
気が付くと二人の結合部分からは
生暖かい透明な液体が溢れ、ぐちゃぐちゃといやらしい音をたてていた。
「んっ…はぁっ…なにこれ…すっごい気持ちいよぉ…」
何も知らない彼女は恥じることもなく声を上げ、
激しく腰を動かす。
俺もそれに答えるように強く深く奥を突いた。
「ああん!!にゃぁあ!」
暖かな愛液で満たされた彼女の膣がきゅっと締まる。
汚れを知らないその内部はまるで吸い上げるかの勢いで
しなやかに、だがしっかりと俺を締め付けた。
知らなかった。
こんなに気持ちいいことがあったなんて。
本来なら僕は負けて、殺されてるはずなのに。
こわい。たったこれだけの間にどんどん変わっていく自分が怖い。
だけど、それ以上に…
「にゃあぁぁぁ!!!」
彼が今までに無いくらい強く僕を突いた。
一瞬、ふらりと気が遠くなる。
僕はただ、彼の好きなようにされてるだけなのに。
どうしてこんな気持ちになるの?
胸の奥がきゅんとなるような淡い痛み。
なんだか凄く苦しいよ。
お願い、もっともっと気持ち良くして。
こんなこと考えなくて良くなるくらいに、
僕をメチャクチャにして!!
彼の動きに合わせて、僕はよりいっそう激しく腰を動かした。
もうちょっと…もうちょっとで…
「ああああぁぁっっ!!!」
その瞬間、目の前が真っ白になった。
お腹の下のほうに何か熱いものが注がれる。
彼の体が離れると白くドロリとした液体が僕との間で糸を引いた。
頭がボーっとして、何も考えることが出来ない。
やっぱり、どこかおかしくなっちゃったのかな。
だって今、僕は君のこと…
後に残るのは二人の荒い吐息だけだった。
すでに日が暮れようとしていた。
もうそろそろ帰らなくてはならない。
それに、腕の治療もしなければ…。
そう思い、俺はこんなことになる原因を作った張本人を横目でちらりと見た。
彼女はまだぐったりとしていたが、
意識はあるらしく薄目をあけてこちらを見ていた。
なめらかだった肌が血に染まり露になっている。
先程無理矢理引きちぎった服は使い物にならないだろう。
俺は自分の上着を脱いで彼女に投げてやった。
「約束だからな。仲間の所へ戻るなり、好きにしろ。」
…深手を負ったキメラアントが果たしてぬけぬけと自分の巣に帰れるのか、
そんな事は分かっていた。
だが、どうしても今ここで彼女を殺す気にはなれなかった。
(情が移ってきている…そんな、まさか。)
(だとしたら、早くここを立ち去らなければ…)
そのまま背を向けて立ち去ろうとする俺を彼女が呼び止める。
「お願い、行かないで!!僕、こんなんじゃもう女王様のところには帰れないよ…」
多分、彼女は泣いていた。
ズキッと胸に痛みが走る。
(このまま、彼女を置いて帰っていいのか…?)
俺は思わず立ち止まった。
なぜ、ここまで彼女を思うのだろう。たったの短い間の事だったのに…
こんな事でいいはずがない。
取り返しがつかなくなってしまう前に、
この愛にも似た感情を殺してしまわなければ。
「すまない…もう、さよならだ。」
未だかすかに残っているぬくもりを払うように、
俺は振り返らずにまた歩き出した。
背中越しの彼女の声がいつまでも耳に残った。