ネフェルピトーは迷っていた。あの日以来、自分の中にもう一人の自分がいるのに気づいていた。 
カイトの腕を落とし、首をとった時、自分の中に感じた不思議な感情。 
それがなんなのかはずっとわからなかった。  
自分は女王のために生まれ、そして生き、死んでいく。 
そう、それが自分の運命。そう信じてきた。でも、今は・・・・・・・  
NGLでは、一部の蟲たちの反乱以来混乱が続いていた。 
その反乱の背景には、自分以外の直系の戦士が絡んでいることをネフェルは知っていた。  
この混乱は、他の2戦士がそれぞれ、蟲界の覇権を握ろうと起こしたものだったのだ。  
一部の蟲の中に、女王や王にただ仕えていることだけに疑問を感じていたものがいた。  
キメラアント直系2戦士は、この蟲たちを扇動し反乱を起こさせた。 
反乱は成功し、女王や王以下従順な蟲達は皆殺された。 
その中にはコルト以下、最後まで女王を守ろうと必死に反乱軍に抵抗していたものもいた。 
反乱は終わったが、その後に始まったのは2戦士同士による覇権争いだった。  
ネフェルはどちらにもつかなかった。もちろん双方から勧誘を受けた。でも今は戦う気にはなれなかったのだ。  
ネフェルは目の前にある死体に目をやった。右腕がない死体。カイトの死体である。  
 
「君を修理しようとしたけど、ダメだったよ!」  
 
ネフェルはフッと微笑む。ネフェルの後ろには、おびただしい数の死体が積まれている。  
人間のものから蟲まで、かるく100体は超えるだろう。 
その全てが、まるで生気を吸われたように萎んでいる。  
 
「他の生き物の生命力を君にあげればいいと思ったんだけどな〜。でも皆失敗しちゃった。  
なかなかこういうのってうまくいかないもんだね!」  
 
ネフェルはテヘっと無言のカイトに笑う。でも少し寂しげに、  
 
「僕は今までたくさんの生き物を簡単に殺してきた。なにも考えずに。 
だから、君を生き返らせるのも・・・簡単だと思った。なにも考えずに。 
でも、死んだ物を生き返らせるって・・・大変なことなんだね。今気づいたよ。 
最初は君ともう一回戦いたいと思ったんだ。ただそれだけだったんだ・・・。」  
 
ガランとした部屋。ここはかつての女王の巣であるが、反乱により崩壊し今はネフェルが一人いるだけである。  
かつて栄華をほこったこの巨大な建造物も、今は廃墟と化し、その無残な姿を寂しく晒しているだけである。  
 
「ここにもたくさんの蟲達がいたんだよ。責任感ばっかり強いコルトに、 
参謀のくせにおっちょこちょいなペギー。あと自己中なラモットも!」  
 
ネフェルは楽しげに語りつづけた。  
 
「でも皆、死んじゃった・・・・。 
あの時はなんにも感じなかったけど、あいつらとはもうずっと会えないんだね。 
死んだものはもう生き返らないんだね・・・。 
外じゃ、おれが王だとかなんとかで色々やってるけど、僕は興味ないね。 
だれが王になるなんかは。僕はただ、君を生き返らせたいだけなんだ。」  
 
カイトの顔にそっと手をやる。  
 
「冷たい・・・。君も死んだんだよね。ずっと前に。そしてもう・・・・・」  
 
ネフェルはうつむいて昔のことを思い出していた。カイトと戦ったこと。蟲達の反乱。女王の死。 
女王は最後まで自分の子を守ろうと必死に生まれたばかりの王を抱いていた。 
コルトはその女王を身を呈して守ろうとしていた。 
女王を守ろうとした者は、皆自分の命を投げ出して守ろうとしていた。  
 
ネフェルは思った。  
 
「そーだ!僕の生命力を君にあげればいいんだ!」  
 
ネフェルは自分の心臓部分に手をやった。ポウっと光が照る。  
命の光〈エンド・オブ・ライフ〉。ネフェルピトーの能力である。  
生命力を吸い取り、それをまた他の生命体に移す。 
ただし死んだものにはいくら生命力を移しても効果はなかった。  
ネフェルピトーは自分の生命力を両手に移し、その手をカイトの心臓部分にやった。 
カイトをまばゆい光が包む。  
その光が消えると、見る見るカイトの肌が血色えお帯びていく。  
 
「や、やった・・・・。出来・・た・・・・。」  
 
ネフェルが自分の命と引き換えにカイトを蘇らせたのだ。  
ネフェルはカイトの顔に手をやり  
 
「温かい・・・・。生きてる物って・・・温かいんだ・・・。」  
 
ネフェルは満足そうに微笑む。カイトは目を開けた。 
そしてネフェルの姿を見ると同時にバッと立ち上がり、クレイジーシークレットで大きな刀を取り出す!  
 
カイトは大刀を振り上げ、ネフェルピトーに振りかざそうとした!  
が、ネフェルの様子に気づき、寸でのところで止めた。  
ネフェルは自分の生命力のほとんどをカイトに渡したため、もう自分で立てないほど衰弱しきっていた。  
 
「・・・・・・・」  
 
ネフェルは元気そうなカイトを見て、フッと笑う。しかしもう言葉もでない様子  
 
「も、もしかして、お前が俺を・・・!?」  
 
まだ緊張を解いていないカイトにネフェルピトーはまた、フッと笑う・・・。  
カイトはネフェルがしたことを察した  
 
「でも・・・、いったいなぜだ!?」  
 
「ぼ・・、僕にも・・・・わから・・な・・い」  
「た・・ただ・・・、君に・・・もう1度・・会い・・・たく・・・て」  
 
「・・・・おまえの名は?」  
 
「ネ・・ネフェル・・ピトー・・」  
 
「ネフェルピトーか・・・。いい名だな。」  
 
カイトはネフェルにフッと笑う。ネフェルも、フッと笑う  
 
「――が、俺もハンターだ。人を傷つけてしまった動物は始末するのが決まりだ。 
弱っているとはいえおまえが人間の脅威であることに変わりはない」  
 
ネフェルは一瞬悲しい顔をするが、仕方がないことだと、静かに目を閉じる。  
カイトは大刀を振り上げる。そして・・・・・・・  
 
ブシュ!!!  
 
赤い鮮血が辺りを舞う・・・・。  
 
ネフェルピトーは目を開けた。そこには、自分のふくらはぎに刀を刺したカイトがいた  
 
「!!!ど・・・、どうして・・・?」  
 
「チッ、どれだけ寝てたかは知らんが、おれもなまったもんだ。自分で自分を刺しちまうとは。 
ま、でも・・・・これでこの刀も消える。」  
 
ボンっと消える刀。座り込むカイト。  
 
「別にお前を助けたつもりじゃない。ただ・・・、相手がどうであれ命を奪うのは辛くて嫌なものさ。 
命を奪うのは簡単だが、創るのはすごく難しい。特に死んだものを生き返らせることとなったら・・・ 
それは不可能だ。しかし、お前はそれが出来る。」  
 
カイトを見るネフェル。ネフェルを見るカイト  
 
「お前はもう・・・・・蟲じゃない。」  
 
ボンっ!カイトはクレイジールーレットをだす。  
 
「クレイジールーレットはどれも攻撃用のものばかりだが、ひとつだけ、癒しの力をもつものがある。 
確率は9分の1、だが・・・・、今の俺なら出せそうな気がする」  
 

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