狩りをしてても、食事をしても、軍の指揮をしてても。  
いつのまにか、いつも、キミの事を考えてるんだ。  
長い足  
薄い唇  
金色のキレイな髪。  
どうしてだろうね?  
今は僕、キミじゃないと駄目みたい。  
 
 
 
砂の果実  
 
 
 
「こりゃ何だ?」  
 色とりどりの果物が、カイトの目の前に山積みにされていた。  
林檎や桃のようなありきたりなものから、紫色で星のような形をした、見た事のないようなものまである。 
たった今、ネフェルが運んで来たものだ。  
「ご飯の代わりだよ。お腹すいてるでしょ?キミに死なれちゃ困るもん。」  
林檎を一つ手に取って、ネフェルはちょこんとカイトの隣に座った。  
 
「あんなに美味しくて栄養価のあるもの食べれないなんて、キミって不便だねぇ。」  
言いながら、しゃりっと音を立てて林檎をかじる。  
 
 
『食べてよ。これ、キミの分。』  
…そう言って初めに彼女が運んで来たのは、ミンチのような肉の塊だった。  
 見るだけで軽く吐き気をもよおすようなそれを、『生肉は腹を壊すから』という理由で丁重にお断り 
したのだった。  
あれが何の肉で出来ているか考えただけで、カイトは背筋が寒くなる。  
『あはぁ、ホント、人間って弱いよね』  
食事を拒否された彼女は、無邪気な笑みを浮かべてケラケラと笑ったのだった。  
 
…なぜだろう。   
 子供のような純粋さで悪びれた様子もなく残虐な事をする彼女を、どうしても心の底から嫌う事が出来ない。  
 かと言って、好きにもなれないだろうが。  
いや、実際子供なのだろう。  
体こそ成長しているが、生れてからまだしばらくしか経っていないはずだ。  
 
そんな事を考えながら宙を見つめて黙っていると、ネフェルがひょいと顔を覗き込んできた。  
「これなら食べれるでしょ?食べてよ。」  
「悪いが今は食欲がないんだ。」  
そう言って、顔を背ける。  
「食べて。」  
「要らない。」  
「食べて。」  
「腹が減ったら食うよ。」  
「今、食べて。」  
むっとしたネフェルの声。  
そして突然、力任せに両腕を捉まれ、壁に押し付けられた。  
 
これまでのハンターの修行の中でそれなりに筋力はつけていたカイトだったが、それでもネフェルの力 
には敵わなかった。  
 腹が減っていたせいもあるのかもしれない。  
「せっかく、キミのために探して来たんだよ。傷んじゃう前に食べてくれなきゃ嫌。」  
その言い分は、まさに子供の我侭そのものだ。  
 
そして、強引にくちづける。  
 
「んんっ…」  
 
甘酸っぱい林檎の味が口の中に広がった。  
ネフェルが口に持っていた林檎を、舌で強引にカイトへ押し込んだのだった。  
 
しゃりっ  
 
唇を離して、林檎をかじる。  
そしてまた、それをカイトの口に押し込む。  
また、林檎をかじる。  
 
何度かそんな事を繰返すうちに、ついにカイトも観念した。  
「…はぁっ…分かっ…た!!自分で食うから離せ!!」  
途端に、ネフェルはその手を離してにゃははと笑った。  
「あはァ、いい子だね。」  
 
「あんっ!」  
相変わらず顔を近づけてくるネフェルを押しのけて、仕方なく、カイトは桃に手を伸ばした。  
一口かじる。  
鮮やかな桃色をしたそれは水気を帯びていて、ひんやりと甘かった。  
肉隗を見た後で食欲がなくなっていたカイトだったが、自然と二口目を口にする。  
「………」  
「ん?」  
「食べてる所を見られると落ち着かないんだが。」  
「だって、嬉しいんだもん。美味しそうに食べてくれてるからさ。」  
しっぽをゆらゆらさせながら、本当に、心から嬉しそうに笑っている。  
 
キメラアントがここまで感情豊かでころころと表情を変えるなんて、正直な所意外だった。  
 
「……旨いな、これ。」  
「へへっ。たった今、森に出てもいできたんだ。」  
そう言うと、ネフェルは再びカイトの隣に座り、ぴったりと体を寄せる。  
 
そのまま、無言でもくもくと果実を食べているカイトにしばらくの間見入っていた。  
瑞々しい果実に歯を立てる度に、果汁がカイトの口を零れ落ちる。  
彼はそれを起用に指で拭っていた。  
 
「……。」  
先ほど、無理やりカイトにくちづけた自分の唇を指先でなぞってみる。  
ぺろりと舐めまわすと、まだほんのり林檎の味がした。  
 
くちづけるのは初めてじゃない。  
…でも、くちびるを重ねる度に、頭がぽーっとするのは何故??  
体が熱くなるのは何故??  
その火照りが心地よくて、すぐにまたくちづけたくなるのは何故?  
 
「…ねぇ。」  
「ん?」  
「キミが食べてるの見たら、僕もお腹すいてきちゃった。」  
「じゃぁ一緒に食えばいいだろ。」  
カイトを見つめたまま、首を横に振る。  
「…こないだのアレ、ちょうだい?」  
ひらりとカイトの上に跨り、小首を傾げて、ねだるような眼差しでカイトを見上げた。  
「ね?いいでしょ?」  
 
『こないだのアレ』。それが何を意味しているのかは、それ以上説明されなくても容易に想像がついた。  
男として、別にあの行為が嫌なわけではない。  
しかし、相手はキメラアントであり、本来倒すべき敵。  
加えて行為の意味も分かっていない相手とするのは、しかもその相手に主導権を握られるとあっては、 
あまり気が進まなかった。  
 
「あーだめだだめだ。大人しくこれ食ってろ。」  
焦ったカイトは果実を一つ取って、ネフェルに押し付ける。  
「嫌。アレがいい。」  
渡された果実をぽいっと投げ捨てて、そのままズボンのベルトを外しにかかる。  
「お、おい!!やめろって。」  
慌ててネフェルをズボンから離そうと引っ張るが、効果はない。  
そのまま軽い揉み合いになった。  
 
「減るもんじゃないしいいでしょ?ね?」  
「駄目なもんは駄目だ」  
「なんで拒むのさ?あんなにうっとりしてたくせに。」  
「うっとりって…違う、あれは――」  
「あれからラモットとやってみたんだけど、あんまり美味しくなかったんだ。」  
 
「…え?」  
 
唐突に出たその言葉に、カイトは思わず引っ張る手を緩めた。  
「キミと同じもの持ってたからさ。でも、キミの時みたいなゾクゾクって感じ、しなかった。」  
カイトが手を緩めたのを良いことに、ネフェルはそのままベルトを外し取る。  
 
ラモット。ネフェルの下で働いている護衛軍の中の一人だったはずだ。  
『あれからラモットとやってみたんだけど』…彼女は確かにそう言った。  
同じ事をしたのか?  
そいつと?  
カイトは、胸の奥がちりちりと疼くのを感じた。  
 
ぐいっ  
「にゃっ!」  
唐突に、片腕でネフェルを引き寄せる。  
「知ってるか?アレ、お前でもできるんだぞ?」  
「え?だってボク、キミみたいなやつ、ついてないよ?」  
ネフェルは下を向いて、自分の下半身を見つめる。  
半ズボンから剥き出しになった太ももの間はぺたりと平べったく、彼のようなおうとつはない。  
カイトは片手で彼女を抱いたままそこに手を伸ばし、服の上からつうっと指でなぞった。  
 
「っ…」  
ぴくりとネフェルが動いた。  
やはり、生殖能力はなくとも、雌としての体の器官はしっかりと受け継いでいるらしい。  
 
「なんか…変な感じがするよ?」  
不安気にカイトを覗き込む。  
ぱちぱちと瞬きする灰色の瞳は澄んでいて、今までカイトが見てきたどの女性よりも綺麗で美しかった。  
 
どうしてこんな事をしてしまったのかは分からない。  
自分は彼女がどこで何をしていようと関係ないと思っていた。  
しかし、ネフェルの言葉を聞いた途端、考えるより先に体の方が動いていたのだ。  
 
「大丈夫。別に痛くないだろ?」  
「んー…」  
 
再び、指を往復させて、優しくそこを刺激する。  
ネフェルはそれに抵抗する事なく、目を細めた。  
「こないだと似てるけど、なんかちがう…」  
そのままカイトに寄りかかり体重を預け、首の後ろに手を回す。  
 
「この間お前が俺を襲った時も、俺はそんな感じだったんだよ。」  
「ふーん……ふぁっ…」  
思わず漏れたため息があまりにか弱く、いとおしくて、カイトは自分の気持ちが高まっていくのを感じた。  
ネフェルは目を細めたまま、体をもたれてじっとしている。  
 
「俺が他のやつにこんな事してたら、お前、どうだ?」  
不思議な事に、自然と口から出てきた言葉。  
指での刺激を止めずに、ネフェルを覗き込む。  
「ぃゃ…だめだよぉ…っ…」  
首を振り、回した腕に力が入った。  
 
「じゃあ、お前も、他のやつに同じことするなよ。」  
「うん…分かった……」  
 
ほどよく肉付いた白い太ももをモゾモゾと動かす。  
カイトはネフェルの腰を抱き上げ、自分に背中を向くように体位を変えさせた。  
後ろから抱きしめる形になる。  
カイトの細長い手足の中に、ネフェルの体はすっぽりと埋まってしまった。  
 
背中から伝わってくるカイトの温もり。  
顔にふりかかる、さらりとした金色の髪。  
その全てが心地よい。  
ネフェルはくすぐったそうに顔の位置をずらして、ゴロゴロと喉を鳴らした。  
「……きもちいい。」  
 
彼と最初に戦った時も、似たような感じがした。  
そう。ネフェルが会った中では誰よりも強かったし、楽しかった。  
手合わせしている間、始終背中がビリビリとしていて、、、あれも、『きもちよかった』。  
けれど、それとはちょっと違う。  
 
頭がぽーっとする。  
マタの所から太ももにかけて広がって行く、とろけそうなくらい甘い痺れ。  
生れて初めて経験する事なのに、怖くなかった。むしろ期待すら感じている。  
 
「はぁ……ん…」  
 
頬を紅潮させて息を荒げるネフェルの首筋に、カイトはそっと顔を埋めた。  
温かく、甘い香りがする。  
果実を持って暴れていた先ほどにうってかわって、彼女は大人しくカイトの中に収まっている。  
時々、猫の形をした耳がピクピクと動き、カイトの頬をかすめた。  
禍々しく凶悪であるはずのネフェルが、とても可愛らしく、いとおしく思える。  
 
くびれたウエストのあたりから服の継ぎ目を手で探り、もう片方の手をその中に滑らせる。  
「にゃっ」  
すべらかな肌は温かく、人間のそれと何ら変わりなかった。  
腹部から、徐々に上の方へと撫で上げて行く。  
 
「あんっ…くすぐったいよぉ」  
「うわっ…おいコラ、暴れるな。」  
たまらず、ネフェルはその手から逃れようとしてもぞもぞと体を捻った。  
しかし、温かいぬかるみに漬かっているかのような感覚のせいでいつも程の力は出ず、後ろからしっか 
りと抱きしめられているせいで、動く事が出来ない。  
 
観念したネフェルは大人しくなり、再び、くすぶる快感を受け入れた。  
 
カイトの手はさらに上り、胸に到達した。  
胸は平たく、ほんの少しだけ膨らみを帯びている。  
 
「っっ…」  
ネフェルの体が強張る。  
 
トクン…トクン  
 
肌を通じて、彼女の心臓が大きく波打っているのが分かった。  
心臓の緊張を揉み解すように、優しく胸を揉み解していく。  
頃合いを見計らい、手で先端の突起を探った。  
そして、指で転がすように刺激する。  
 
「ひゃぁっ」  
突然の新しい快感に、ネフェルは小さく悲鳴をあげた。  
「やぁっ…んあぁ…」  
ピクンと体を反らせ、喘ぐようにして桃色の声を漏らす。  
ネフェルの全ての動きが、カイトの感情を高揚させた。  
 
「…ぁんっ…やぁ…」  
段々と刺激を強めていく。  
「やぁんっ…ぃやだぁっ……」  
これまでにない快感に不安を感じたネフェルは、足をばたつかせて軽く暴れた。  
側にあった果実が一つ、ぐしゃりと潰れる。  
「………。」  
 
カイトは突然、ぴたりと全ての刺激をやめた。  
そのまま、抱きしめていた両手もネフェルから離す。  
 
「………?」  
 
そしてネフェルの耳元に唇を寄せて、  
「じゃぁ、やめるか?」  
と低く囁いた。  
「っ………」  
ネフェルは潤んだ瞳で、恐る恐るカイトの方に振り向く。  
「……ぃゃ。」  
消え入りそうな声で、そう答えた。  
 
息苦しいし、甘い痺れは広がって行く一方。  
このままでは自分が自分でなくなってしまいそうだった。  
でも、止めて欲しくない。  
 
ネフェルは自分の顔をぎゅっとカイトの胸にこすり寄せて、  
「…変なの…」  
甘えるように呟いた。  
 
そんなネフェルを見て、カイトは小さく笑った。  
そして、再び抱きしめ、行為を再開する。  
 
はじめは、ネフェルに分からせるだけのつもりだった。  
こういう行為は、誰とでもみだりにやってはいけないんだよ、と。  
心に決めた相手とでなければ、駄目なんだ、と。  
カイト自身今までそう思っていたし、そうしてきた。  
『………?』  
ふと、自分がしている事が矛盾しているという事に気づく。  
 
彼女は自分に好意を抱いている。  
しかし、自分自身は……?  
ネフェルピトーの事など、何とも思っていないのではなかったか?  
彼女の感情を利用しようと思っていたのではなかったか?  
 
何故、俺は彼女に手を出した?  
 
そんな考えとは裏腹に、カイトの体はネフェルを責め続ける。  
 
下半身を刺激していた方の手で、ネフェルの単パンのジッパーを、片手で器用に下ろす。  
「カイト…?」  
下着は付けていなかった。  
手を入れてみると、そこは温かい液体で満たされ、これ以上ない位に濡れていた。  
2、3度入り口を指先でつーっとなぞった後、指を一本、その中に突き立てる。  
 
くちゅ…  
 
十分に濡れたそこは、抵抗なくその指を受け入れた。  
「やぁっ…はぁん…」  
ネフェルの声に、艶が増す。  
くちゅ…ちゅ…  
くちゅっ…くちゃくちゃ…  
「にゃぁん、んぁ……はぁっ」  
「ふぁ…ぁん…」  
情に悶えたその声は、カイトが指を動かす度、刺激を加える度に、色を増した。  
それはまるで、美しい楽器を奏でるかのように。  
 
自分と手合わせをした獰猛な化け物と同一の相手だとは思えない。  
あの時は、殺意しか抱いていなかったのに…  
 
肩を捻じり、大きく広げた足を小さく震わせて、悶えるネフェル。  
快楽に細めた瞳も、半開きになった小さな唇も、全てがカイトの欲情を狩りたてる。  
自分の体も、気持ちも、これ以上ないほどに高揚しているのが分かった。  
 
熱が、集まる。  
体が熱い。  
 
彼女に、全てをぶつけてしまいたい――  
 
顔をうなじに埋め、口付けを落とす。  
そして、すがるように、ネフェルを抱きしめた。  
 
 
 
 
『これ以上は、止めておくんだ。』  
その時、心の中でもう一人の自分が呟いた。  
 
 
はっと我に返る。  
 
 
 
 
『今の状況でさえ、彼女を愛しいと思っている自分がいる。  
これ以上、彼女に引かれたら。彼女を抱いてしまったら。  
それこそ完全に、情が移ってしまうだろう?』  
 
『その気持ちは確実に、後の仕事の妨げになる。』  
 
 
「………」  
 
ちゅぷ…  
 
一呼吸置いた後、カイトはそっと、ネフェルから指を引き抜いた。  
そして、精液でまみれているそこを、指で拭ってやる。  
「ひゃんっ」  
敏感になっているそこを刺激され、ネフェルは小さく悲鳴をあげた。  
カイトはそのままその手を唇に持って行き、指先に絡まる液体を舌でぺろりと舐め取る。  
 
「…………もうおわり?」  
自分から完全に手を引いたカイトに、ネフェルは尋ねた。  
「あぁ。」  
「でも、僕まだあのドロドロ出てないよ?」  
「女の子は出ないんだよ。」  
「なんで?」  
「そういう仕組みになってるんだ。」  
「ふーん。。。」  
不満そうに、少し口を尖らせるネフェル。  
うつむいて、大きく広げられた太股の間を覗きこむと、ピンクに火照ったそこを、透明な液体が覆っていた。  
 
不満だった。  
まだ、足りなかった。  
変な気分。  
気持ちも体も満たしてくれるような、もっと確実な、大きなものが欲しい。  
もっと欲しい。  
欲しい。  
欲しい。  
 
「まだなんか…足んないなぁ…」  
ぽそりと呟く。  
 
「もうちょっと続けてよ?」  
カイトを見上げると、カイトはふいと顔を背けた。  
「疲れた。」  
そんなの嘘だった。  
しかし、これ以上続けると、途中で止める自信がない。  
「ごめんな。」  
自分に言い聞かせるように、つぶやいた。  
「うー………」  
ネフェルは顔をしかめた。  
続けてよ!というように、カイトの手を取り、自分のそこにあてがう。  
しかし、カイトは首を振って、その手を退けてしまった。  
もう一度試みたが、カイトの反応は同じだった。  
 
「………」  
仕方なく、自分の指をそこに入れてみる。  
 
ちゅぷ…  
 
いやらしい音がした。  
ゆっくりと動かしてみる。  
くちゅくちゅ  
「ん…」  
カイトの真似をしてみるが、ネフェルの細い指では、物足りなかった。  
「ん―…」  
もう一本、入れてみる。  
ちらりとカイトの様子を伺うと、カイトは再びふいと顔を背けた。  
俺はもうやる気はないよ、と言うように。  
 
本当は、内心、とても焦っていたのだが。  
そして、無垢な彼女をここまで引きずり込んでしまった罪悪感。  
抱きたい衝動を押さえきれない。手を出すべきじゃなかった。  
カイトの決意とは裏腹に、体はこれ以上ない位、その欲情に反応している。  
「終わりだよ、ごめんな。」  
自分を諌めるように、もう一度呟いた。  
ネフェルの手を取り、行為をやめさせようとする。  
「嫌ぁ。」  
そんなカイトを、ぴしゃりと振り払ってはねつけた。  
 
酔いが冷めないネフェルは、自分で続ける。  
くちゅ…くちゅくちゅ…  
「ぁん…んっんっ」  
「おい、やめろって…」  
くちゅくちゅ…  
くちゃっ…くちゅ…  
「あぁん、足りないよぉ…っ」  
ちゅぷっ…くちゅくちゅ、、、  
色白の頬をピンクに染め、潤んだ瞳で、一生懸命に指を動かすネフェル。  
 
 
限界だった。  
カイトの中で理性の糸がプツンと切れた。  
 
 
ネフェルの腕を取る。  
「カイト?…んんっ」  
そのまま、口付ける。  
次いで、初めてカイトから舌を入れた。  
一瞬驚いたネフェルだったが、そのまま気持ちよさそうに自分の舌をからませ、目をつぶる。  
ちゅっちゅっちゅっ…  
小切れの良い音が部屋に響く。  
唇をつけたまま、ゆっくりとネフェルを後ろに押し倒した。  
 
彼女の下敷きになり、再び、ぐしゃりと果実の潰れる音がした。  
 
そのまま、ネフェルの短パンを下ろす。  
キスに熱中しているネフェルは驚く事も抵抗する事もなく、その身をカイトに預けている。  
ふくらはぎを被っているブーツを、器用にはずしていく。  
まだ誰にも侵された事のないその体、脚は、ほんのり桃色に紅潮して、薄暗い部屋に映えていた。  
「っはぁっ…」  
息苦しくなったネフェルが唇から逃げ、大きく息をする。  
ネフェルの腕から手を離したカイトは、自分のズボンのジッパーを下ろす。  
「あっ……」  
そこには、ネフェルがこの間見たものと同じものがあった。  
それを掴もうと手を伸ばすネフェルの指を、カイトは自分の指で絡めとり、もう片方の手で彼女の太股を上に押し上げる。  
 
「カイト……?」  
不安の混じった表情で見つめるネフェルの頭を優しく撫で、カイトは自分のものを彼女にあてがった。  
そして、ゆっくりと彼女の中に入っていく。  
火照りの続いていた彼女のからだは、抵抗する事なくカイトを受け入れた。  
 
「やぁぁっっ!!」  
その刹那、ネフェルの体に、鈍い痛みが走った。  
先ほどの彼の指とは比べ物にならないくらいの大きな衝撃。  
熱い。ちょっとでも動いたら張り裂けてしまいそうだ。  
「痛いっ!!いたい!!こんな痛いのやだよう!!」  
それを抜こうとして、体を捩じらせる。  
自分が欲していたのは甘い痺れの続きで、こんな痛い事じゃない。  
痛い、痛い、こんなの嫌だ!!  
自分のすぐ上にいるカイトを腕で掴み、力任せに引き離そうとした。  
「お、おい、無理に動くなって…」  
カイトは慌てて、暴れるネフェルの肩を掴んで床に押しつけ、抱きしめる。  
「やだっ!痛い!!痛い!!」  
ネフェルは爪を立ててバリバリと彼の体を引っかいた。  
「つっ…」  
腕、胸、背中。鮮やかな赤い血が飛び散る。  
それでも、カイトはその腕を離すことはしなかった。  
「落ち着け…すぐに痛くなくなるから…」  
そのまましばらくその体勢で、ネフェルの痛みが和らぐのを待つ。  
 
どれだけ抵抗しても引っかいても効果がないと分かったネフェルは次第に暴れる事をやめ、静かになっていった。  
 
ポタリ…  
 
自分の上に落ちてくる、生暖かい血の雫。  
見上げると、痛みに顔をしかめるカイトの顔がそこにあった。  
彼の顔もまた、うっすらと紅潮しているのが分かる。  
「…ゴメンね。」  
悪い事をした、ネフェルはそう思った。  
耳をペタリと寝かせ、ネフェルはたった今カイトにつけたばかりの傷から、血をそっと拭う。  
まだ僅かに痛みは残っていたが、心も体も何かとても温かいもので満たされている気がした。  
「…つづきをしよう?」  
 
それを見たカイトは少し微笑み、そして体を動かし始めた。  
初めはゆっくりと。そして、段々と激しく。  
「あ……」  
僅かな痛みと共に感じる、新たな感覚。  
先刻と似た、甘い痺れがうっすらと戻ってくるのを感じた。  
「ぁん……」  
瞳を閉じて、その快感を受け入れる。  
 
いつのまにか、甘ったるい快感を貪るのに夢中になっていた。  
カイトの動きに合わせて、自分も腰を動かしてみる。  
甘い痺れは今や脚だけでなく、腹、胸、そして頭へと達していた。  
「にゃぁん…ぁん…」  
突き上げられる度に、快感が増して行く。  
 
背中がピリピリした。  
 
今はもう、彼以外、見えない。感じない。考えられない。  
 
くちゅっくちゅっ…  
お互いが擦れて、いやらしい音を奏でる。  
 
体はベタベタだ。  
 
潰れた幾つもの果実が、甘い香りを放っている。  
 
熱は上がる一方だった。  
 
「ふぁ…あんっ…ぁ…」  
桃色の吐息も徐々にその熱を増す。  
「カ…イトぉ…」  
甘えるように名前を呼ぶと、それに応えるようにして、カイトは何度もくちづけた。  
快感の波は絶頂に向かってじりじりと彼女の体を侵す。  
そして、ぎゅっと激しく突き上げたとき。  
「や、ぁぁん、にゃぁぁんっっ!!!!」  
下半身をピクピクと痙攣させ、彼女は遂に絶頂に達した。  
そして、それを感じ取った後すぐに、彼の方も果てた。  
 
「…っはぁ、なんだ、続きあるんじゃない。キミ、本当に色んな事知ってるんだね。」  
息を切らせたまま、ネフェルは満足そうに笑った。  
「やっぱり、生きてる方が温かくて好きだな。」  
温もりを確かめるように、ピタリと体をカイトにくっつける。  
「………」  
カイトはネフェルの呼びかけに応える事なく、片手で彼女を抱いたまま頭を抱えた。  
 
彼は気づいてしまったのだった。  
ずっと自分の中で否定し続けていた気持ち。  
ありえないと思って、蓋をしていた感情。  
ネフェルを抱いた時、心から愛しいと思った。  
自分の体の欲望を優先させるより、彼女に感じさせてやりたいと思った。  
それが何を意味するのか、もうここまできたら事実を受け入れざるを得ない。  
自分は、この、無垢で残酷なキメラアントを愛してしまった。  
 
この感情はいずれ確実に、任務遂行の妨げとなるだろう。  
 
フラッシュバックのように、ハンターの仲間達の顔が脳裏に浮かんでは消えていく。  
いずれは、始末せねばならない相手なのに。  
 
「……はぁ。」  
さて、これからどうしたものか。  
長い髪をかきあげて、小さくため息をついた。  
 
そんなカイトにはお構いなしで、ネフェルは嬉しそうにはしゃぐ。  
「すごい……楽しかった。…気持ちのいい夢、見てるみたいだったよ。」  
小さな八重歯を覗かせて、嬉しそうに微笑む。  
「カイト、僕、キミの事が好きだな。」  
今だに酔いから覚めないまま、トロンとした表情でカイトの背中に腕を回す。  
その手は精液と果汁でベタベタだったが、構わずにカイトの髪を撫でつけた。  
「キミがいなくちゃ、駄目みたい。」  
長い尻尾をゆらりと動かす。  
 
ネフェルはカイトの首筋を手で撫でつけた後、ぎゅっと爪を立てた。  
指がなぞって行く方向に、つーっと赤い血の筋が出来る。  
「っ…なんだ?」  
ちくりとした痛みに、カイトは顔を歪めた。  
「キミが、僕のものだって証。」  
ネフェルは指を進める。  
 
首筋から、肩を経て胸元へ。尖った爪は服を切り裂き、鮮やかな赤を描き続ける。  
 
「消えたらまた付けるよ。何回でも。誰にも奪われないように。」  
お気に入りのおもちゃを独り占めした子供のように、今自分がつけた傷を嬉しそうに指ででなぞった。  
 
「キミを傷つけていいのは僕だけ。僕をきもちくさせてくれるのはキミだけ。キミを一人占めできるのは、僕だけ。」  
 誰へとなく言い聞かせるようにゆっくりと言葉を放ちながら、ネフェルは妖艶な眼差しで、指についた血をペロリと舐めた。  
 
傷つけられた肌はズキズキと痛んだが、嫌な感じはしなかった。  
止めど無く溢れ出てくる鮮やかな血を舌で余すことなく掬い取り、ネフェルは満足げに喉を鳴らす。  
 
こいつには、敵わない。  
カイトは深くため息をついた後、ぶっきらぼうにぐしゃぐしゃとネフェルの頭を撫でた。  
 
「ねぇ、次は僕がキミに入れてみたい。」  
「…何の事だ?」  
突然のネフェルの申し出に、カイトは最初、何の事を言っているのか分からなかった。  
「キミが僕にしたみたいに、次は僕が、きもちくしてあげるの。」  
好奇心旺盛な表情で、にゃはっとカイトに笑いかける。  
「……!」  
ようやく意味を汲み取ったカイトは慌てた。  
どうやら先刻の行為を学習したネフェルは、次は自分が『入れる』方をやりたいと言っているのだ。  
「いや、俺とお前じゃ体の作りが違から無理…」  
「嫌だ。やるったらやるの。」  
「俺は嫌だ。」  
「なんでキミは僕に入れてもいいのに、僕が入れたらだめなのさ?」  
カイトの言葉を遮って、ネフェルはカイトに近づく。  
「第一、お前入れるものがないだろ!?」  
「これ、丁度よくない?」  
笑顔でネフェルが手にとったのは、床に転がっていた果実の一つ。  
黄緑色で、バナナのような形をしている。  
「……!!」  
カイトの顔がさーっと青ざめた。  
 
 
「さ、はじめよう?」  
カイトのズボンのジッパーを外しにかかるネフェル。  
「無理だ!!ちょ、やめろって」  
「あん、大人しくしてよ」  
ネフェルの体を離そうとして引っ張るカイト。  
そのまま軽いもみ合いになる。  
 
 
「ジ、ジンさ―――ん!!!」  
 
カイトの叫び声がキメラの城に木霊する。  
しかし、奇声、叫び声はキメラの達にとっては日常茶飯事。  
カイトの悲痛な叫びを、誰一人として気にする者はいなかった。  
 
END  

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