カイジとアンジ 〜出会い〜  
 
暗く、黴の臭いのする廊下。  
E班の連中が皆寝静まった頃合を見計らい、カイジは起きだして来た。  
一日の重労働で体が重い。本来なら休める時間帯にできるだけ休んでおくべきである。  
だが、それも致し方ないといえた。  
人目のつかない時間帯、この時間にしかできない作業がある。  
 
廊下の突き当たりには分厚い扉がある。  
昼の間に一度だけ、ここを管理している奴らの行き来があるらしいと聞いた。  
その時間帯を見計らって強行突破しようとした輩が過去に一度だけいたらしい。  
だが、常に屈強な黒服達が数名連れ立っているため、すぐに取り押さえられてしまったそうだ。  
その男は二度と帰ってこなかったと言う。  
 
(まあ…いいさ。もう脱出に関しては見切りをつけてるんだ…。  
それよりも…こっち…!)  
カイジは右手を部屋着のポケットに突っ込んだ。  
ポケットの中で転がる、小さな石ころのようなそれを掴むと、ひとつため息をつく。  
 
あと3ヶ月。  
それまでに思った通りの形に仕上げなければならない。  
しかし、Tボーンステーキの骨を削る作業は、思っていた以上に骨の折れる仕事であった。  
削るための道具が、食堂からくすねて来た先割れスプーンしかないのであるから、なおさらである。  
 
(けど…やるしかないんだっ…!これは今回の計画の核になる部分…!  
出来上がったサイコロが、とてもサイコロに見えないような代物じゃ、どうしようもねえし…!)  
 
廊下の突き当たり、その左側にトイレがある。  
人目につかぬよう念には念を入れ、いつもトイレの個室の中で作業をしている。  
カイジがトイレの入り口に入りかけた、その時である。  
 
ギギ…イィ………  
 
突き当たりの扉が、軋みながらゆっくりと開いた。  
 
(えっ……!?)  
呆然と様子を伺っていると、その扉から一人の人間が出てきた。  
扉の前に立ち尽くしたカイジと目が会い、その人物も驚愕した様子で固まる。  
 
(お…女……?おんなあっ…!?)  
扉から出てきたのは小柄な少女であった。  
少々痛み気味の真っ黒なザンバラ髪、カイジと同じ汚れた部屋着で分かりにくいが、  
くっきりとした眉、鼻筋の通った顔は多少中性的な雰囲気はあるものの、体のラインは間違いなく女である。  
カイジのように、頬に痛々しい傷跡があるのが印象的だった。  
 
「あ……」  
「……あ?」  
 
「アンジって言うんだ、あたし…。伊藤アンジ…」  
「……はあ…」  
 
急に自己紹介をされ、反応に困っていると、アンジと名乗る女は目を輝かせて言った。  
「アンタ、伊藤カイジだろ…?」  
「…はあ、そうだけど…。何で俺の名前…」  
「っしゃっ…!探す手間が省けたっ…!僥倖…!なんという僥倖…!」  
「……はあ?」  
 
アンジはガッツポーズをとると、急に慌てて開きかけの扉を後ろ手に閉めた。  
「昼間、ここを通った上の連中が鍵をかけ忘れているのを、偶然見たんだ…!  
でも、明日の昼には閉め忘れに気がつくだろ…?もう今日しかないと思って…。  
見つからないようにこっそり部屋抜けて来てみたんだ…」  
 
カイジは唖然としていたが、ふと疑問が口をついて出た。  
「…だ、脱走が目的じゃないのか…?」  
「違う…。ていうか、無理だろ?ここの施設の仕組みじゃ…」  
「…ああ…。聞きたいことはたくさんあるが…廊下じゃ声が響くからまずい。  
誰かに見つかる前に、一旦あそこへ移動しないか…?」  
カイジがトイレを指すと、アンジの顔が僅かに曇る。  
ギャンブルクルーズに乗った時、トイレの個室の中で仲間に襲われかけた出来事が脳裏をよぎる。  
 
「どうした…?」  
「いや、何でもない」  
アンジは素直にカイジの後についてトイレに入った。  
 
「…で、ええと…」  
カイジはアンジを便座に座らせ、自分は座るスペースがないのでドアを背にして立っていた。  
個室の中は思ったよりも狭く、初対面の相手と話すにしては距離が近すぎて息苦しく感じる。  
 
「で、何で俺のこと…?」  
カイジは所在無さげに目線を逸らし、顔を横に向けたまま話しかけると、アンジは言った。  
「上の人が言ってたんだ。あたしによく似た奴が男子棟のほうにいるって…」  
「男子棟…。扉の向こうは女子棟になってるのか」  
「そうだ。たぶんこっちと造りもあまり変わらない」  
「そうか…。知らなかった」  
「女子棟の連中のほうが、アンタらのことよく知ってると思うよ。  
アンタがもし、何年か後に出世して班長とか補佐クラスになったら上から聞くことになると思うしね」  
「何で…?」  
「月給が上がって個室を持てるようになった連中は、買えるようになるからだ」  
「何を…?」  
 
アンジは俯き、小声でボソボソと話した。  
「……女は、労働力以外にも金になるものがあるからさ…」  
「ああ………」  
「何でアンタが知らないのかってそりゃあ、下に知れたら女が買えない不満が募るのは目に見えてる。  
だからそんなシステムがあるのは下には秘密にされてるんだ。」  
「そうか…。」  
「…向こうにいる女全員売春してる訳じゃない。働けないのとか、若いのとかに限定されてる。…あたしは両方だけど」  
「………」  
「なんか、普通に仕事してるつもりなんだけど、『アンタがやるとこっちの仕事が増えるからやめろ』って言われるんだ…」  
「………何で?いじめられてるのか?」  
「いや、そうじゃないけど…普通に使ってても、道具がぶっ壊れたり…。アタシの掘ってるとこだけ土砂崩れが起こったり…爆発したり…」  
「………………は?」  
「ま、そんな話はいいんだけどな。だから、アタシ仕事で何度かこっち側来ることがあるんだ。監視されて、個室のある一角に繋がる場所だけだけど…」  
「…そうか」  
「………大槻っていう奴に呼ばれて…」  
「大槻…!」  
 
アンジは頷いた。  
「あいつ…とんでもない変態だよ。前は取り巻きの二人も連れて来て…まあ、それもどうでもいいんだけど…。  
そいつが言ってたんだ、あたしに似てるのがこっちにいるって」  
「ああ、なるほど…」  
 
確かに黒髪や頬の傷など共通点があるかも知れないが、自分がこの小柄な少女と似ているとは思えなかった。  
ふと、悪い予感がして、カイジはアンジに聞いた。  
「……何かひどいことされなかったか?」  
「………………」  
「されたのか…!」  
 
アンジは座ったまま、カイジの顔を見上げた。  
 
「アンタ、あの男に何したんだ?目の敵にされてるみたいだけど…」  
「………………」  
カイジが顔をしかめたまま黙ってしまったので、アンジは笑みを浮かべながら言った。  
「いやいや、違うって!アンタに文句言いに来たんじゃないんだ。  
ただ、大槻の奴が、アンタの悪口は言っても、何されたのかは絶対言わないからさ、何してやったんだろと思って」  
「………ビールぶっかけてやった」  
「は?」  
「俺を懐柔しに来たから、こう、バシャッと顔に…」  
「……ぶっ」  
 
アンジは口を手で押さえ、笑いを堪えた。  
「…はは、そりゃいいや」  
「……その腹いせに、アンタにひどい事してるのか…?」  
「………」  
「クソ…!仕返しなら俺にやれよ、あの野郎…!」  
カイジは握り拳を固め、吐き捨てた。  
アンジはきょとんとした顔でカイジを見ていたが、やがて得心して頷いた。  
「ふうん…。あの男が煙たがるわけだ…」  
 
「でさ、あの大槻が…」  
「しっ…!」  
カイジの手がアンジの口を塞いだ。  
「………………っ!」  
 
ギャンブル船での一件が脳裏を過ぎり、アンジは軽くパニックになりかける。  
「…じっとしてろって!人が来る」  
「………!」  
 
耳を済ませると、アンジの耳にもぺた、ぺたと小さく足音が聞こえた。  
少しずつ近づいてきた足音は、トイレの中で止まり、、ジョロジョロという音に変わった。  
水道を使う音が聞こえ、やがて足音の主は、個室のほうに気を止めることもなく去っていった。  
 
「…ニブい奴で良かった…」  
カイジほっと胸を撫で下ろすと、アンジから手を離した。  
「…ぷはっ、ごほ…!」  
「あ…悪かった…!」  
 
カイジは、アンジが咳き込むのを見て背中をさする。  
しばらくして、アンジに何か異変が起こっていることに気がついた。  
「…はっ…はあっ…」  
 
短い呼吸を繰り返し、目を見開いて肩を震わせている。  
顔が真っ青になっているのに気がつき、カイジは慌てた。  
「おいっ…どうした…?」  
「……………」  
アンジはカイジから逃れるように身をよじり、背中をトイレの壁に擦り付けた。  
 
「……前…トイレで嫌なことがあって…」  
「………!」  
アンジの身に何があったか、話の流れからなんとなく察した。  
 
「…ああ、じゃあ俺、すぐに出るから…!」  
カイジがドアノブに手をかけると、アンジはその背中にしがみついた。  
「ま…待ってくれ…!」  
 
アンジは背中にしがみついたまま、ぶるぶると体中を奮わせた。  
「……逆なんだ」  
「逆…?」  
背中に当たる柔らかい感触にドギマギしながら聞き返すと、アンジは言った。  
 
「怖いはずなのに……こ…興奮してきちゃって…!」  
「ええ…!?」  
それは、利根川と戦い、敗れた後のこと。  
強烈な恐怖体験と、快楽の体験が同時に起こったため、アンジは恐怖を思い出すと欲情してしまうようになっていた。  
 
(ど、どうするあたし…!?)  
体が熱くなり、じっとりと湿っていくのをアンジは感じていた。  
抱きついている背中から、鼻腔をくすぐる異性の体臭もアンジの脳幹を刺激する。  
 
「な、なんかよく分からねえが…体調が悪いならもう帰って休んだほうがいいんじゃないか…?」  
フラグクラッシャーの異名を持つカイジが恐る恐る提案する。  
 
が…駄目…!自分の分身にフラグ崩しは通用しないっ…!  
 
「…お願いがあるんだ、です、けど…(もじ…もじ…)」  
「…何でしょう」  
「抱いてくれないですか」  
「……………は?」  
「駄目…!駄目なんだ…!こうなっちまうと…!自分で押さえることも処理することも不可能っ…!  
頼む…!一生のお願いっ…!人助けと思って…!」  
「え?は?」  
「何でもする、いや、何でも奉仕するからっ…!」  
後ろを向くと、アンジの涙目と目が合った。  
 
「………………」  
「………………」  
気まずい沈黙のあと、アンジが呟いた。  
「…悪い…!初対面の相手に頼むようなことじゃなかったな…」  
「え…?」  
アンジは胴に廻していた腕を下ろし、カイジに背中を向け、ボロボロと涙を流した。  
 
「まして、あたしは特別美人でも愛らしいわけでもないっ…!処女もとっくに喪失…!ないないづくしっ…!  
むしろ迷惑…!押し売りっ…!クーリングオフ…!今までのは聞かなかったことにしてくれ、じゃあ…!」  
「いや、そこまで自分を卑下しなくても…」  
「ううっ…!」  
 
情けない顔でボロ…ボロ…と泣くアンジを見ていると、カイジもなんだか泣けてきた。  
「な、泣くなっ…!何でもしてやるから…だから泣くな…!」  
「………ううっ…ありがとう、やさしいお兄さん…!」  
 
せまい個室の中、アンジを後ろ向きに立たせると、後ろから恐々アンジを抱き寄せる。  
正面からだと照れてしまってやりにくいからだ。  
普段売春させられてるにしては、リードするそぶりもないアンジは、されるがままになっていた。  
もっとも、アンジの体がもう限界近く、何かする余裕が無いからでもあるが。  
 
しきりにもじもじと内股を擦り合わせるのを見て、太腿に手を伸ばすと、小さな矯正が聞こえた。  
右手でアンジのスラックスに手を伸ばし、ジッパーを下げようとするも上手くいかない。  
「悪い、自分で下ろしてくれるか…?ここからだと、片手だけじゃやりにくい…」  
「…左手、怪我してるのか…?」  
右手だけしか軍手を外そうとしないのを見ていたアンジは、聞いた。  
「ああ…まだちょっと動かしにくくて…」  
「…わかった」  
 
アンジは荒い息を抑えようとこらえながら、自分でジッパーを下ろした。  
簡素な白の下着も一緒に膝までずり下ろす。  
遠慮がちに伸びてくる後ろからの手を待ちわびて、体が過剰に感応してしまう。  
 
「あんっ…!」  
右手の指が秘所に触れると、アンジの体がびくびくと震え、思わず大きな声を上げてしまう。  
「しいーっ…!静かに…!」  
慌てたカイジが人差し指を立てて口に当て、アンジを嗜める。  
アンジは、自分の両手で口を塞ぎ、涙目でコクコクと頷いて返す。  
カイジは一つため息をつくと、意を決してアンジの体を慰めにかかった。  
 
「んっ……んく…」  
指が敏感な部分をなぞる度、声を上げそうになるのをアンジは懸命に堪えた。  
いつも乱暴にされるのが当然だと思っていたアンジの体には、緩い愛撫は焦らされている様で辛いとすら感じた。  
そこはすでに蜜でたっぷりと濡れ、かき回すたびじゅくじゅくと淫猥な音を立てる。  
 
(苦しい…ああ…上げたい…声…!吐き出したい…!目茶苦茶にされてしまいたい…!)  
アンジの願いを知ってか知らずか、その指はなおもアンジを痛めつけることなく、徐々に緩急をつけてクリトリスの周りを撫で回してゆく。  
アンジの頭の中で何かが弾けた。  
 
「………きもちい……」  
必死に口に押し当てていた腕をだらんと下げ、アンジはカイジにもたれかかり、そっと漏らした。  
「…そ、そうか?」  
「うん…」  
ふうっと息をつくと、アンジは頬を赤らめて言う。  
「…も…もう少し…強く…」  
「……ああ」  
「あと…胸…さわって…」  
もじもじとアンジは自分の上着を捲り上げた。  
 
「はああ……」  
身長の割に大きい胸に手を伸ばし、手のひらで包むようにすると、アンジは深く息をついた。  
軽く指に力を入れただけで、指の隙間から柔らかく盛り上がる。  
親指の腹で乳首の先をいじってやると、アンジはくすぐったそうに体を捩じらせた。  
 
「ん……」  
自分の指を甘噛みし、意識が飛びそうになるのを堪えながら、アンジは考えていた。  
今まで、こういう風にされたかったのに、誰もそうしてはくれなかった。こんな風にされたかったのに。  
 
アンジは、後ろのカイジに気づかれないように声を殺して、少しだけ涙を流した。  
 
「………………当たってる…」  
「え!?」  
「背中に…硬いのが…」  
涙が収まると、アンジは後ろのカイジに水を向けた。  
「………………」  
カイジが黙り込んでしまったのでアンジは後ろを振りむくが、俯いていて前髪で隠れ、顔が見えない。  
 
「口でしてあげようか…?」  
アンジが聞くと、カイジは「いや…」と何やら喉の奥でモゴモゴ言っている。  
「あ…やっぱり…入れたい、よね…?」  
恥ずかしさ半分、期待半分で言ったのだが、カイジはそれを聞いて勢いよく顔を上げた。  
 
「あ…そうか…!口でのほうがリスクが低いっ…!悪い、気使わせて…!」  
「ええ…?」  
「仕方が無い…こうなってしまうのは自然の摂理…!抗えない…!でも、気にするな…!なんとか静めるからっ…!」  
「……………静めちゃうのか…?」  
「え…?」  
「いや…むしろあたしの方が……モゴモゴ…」  
 
アンジが口ごもると、カイジは呆けた顔でアンジを見つめ、トイレのドアのほうに向いて何やら反省のポーズになった。  
「…何でもない。気にしないでくれっ…!」  
「なあ、本当に似てるな、あたしらって……」  
「………避妊具とか…無いし…」  
「…毎日薬飲んでるから、大丈夫。それに、そんな事言ったの今までアンタだけだ」  
アンジは、へへ、と泣き笑いの表情を作った。  
 
「…あっ………」  
モノの先がアンジの入り口にあてがわれると、アンジはぴくりと体を痙攣させる。  
アンジは便座に両手をつき、体を曲げ、尻を突き出す形で立っている。  
「…ちょっと持ち上げるぞ」  
アンジと身長差がある為、カイジはアンジの腰を少し持ち上げると、背後から挿入した。  
その硬さに、僅かに鈍い痛みを感じ、アンジはぶるぶると体を奮わせた。  
 
「大丈夫か?」  
「…大丈夫だ…。」  
アンジはうっとりと陶酔しながら呟く。鈍い痛みは甘い酒のようにじわりと体に広がってゆく。  
 
くちゅっ…くちゅ…  
抽送を繰り返すたび、結合部からアンジの愛液が溢れ出し、太腿を伝って流れる。  
「ああっ…」  
膣の上部にごりごりと棒が押し付けられる度、感覚が冴えて来るような気がして、アンジはこれから襲ってくるはずの波の予感に身を振るわせた。  
 
「…はあっ、はあ…はあ…」  
アンジのうなじに熱い息がかかる。アンジの背中が互いの汗でじっとりと濡れる。  
規則的な動きに、もう躊躇いは無かった。もう少し強い刺激が欲しくて、アンジの腰が揺れる。  
それに答えるように、背後から力を込めて突き上げる。腰を掴んでいる指に力が入る。  
 
「…あ…もっと……もっと突いてっ…!」  
限界かと思っていたところからより強く、深く奥まで挿入され、アンジは息が出来ずにぱくぱくと口を開けた。  
己の意思に関係なく、膣内が収縮する。モノを離すまいとぎりぎりと締め付ける。  
 
「……………ふああっ……!あっ………来るっ………!」  
頭が真っ白になり、脚がびくびくと痙攣する中、体の奥に熱い物が溢れ出すのを感じた。  
 
「………元気でな。と言っても…こんな環境下じゃ、いつまで元気でいられるか分からないけれど…。」  
扉の前、アンジが俯きながら、名残惜しそうに呟く。  
「…少しの間…。いや、あと3ヶ月くらい、耐えてくれねえか…」  
「え…?」  
アンジが顔を上げると、カイジは真剣な表情でアンジの肩に手を置き、正面から見つめた。  
 
「三ヵ月後…。必ずあの大槻を倒す…。倒して、俺は一度外出券を使って外に出る。  
そしたら…きっと開く…突破口が…!」  
「…何か勝算があるのか…?」  
「ある。少なくとも大槻相手には…!完全にこっちの思惑通りになるかは、8…いや、9割強っ…!」  
「…外に出たら…そこからは…?」  
「………そこからは、当てがある…ワケじゃないが…。何か一発当てりゃあ…!  
俺と…アンタを救うだけの金を作る…必ず…!」  
「あたしはいいよ、カイジ」  
「え…?」  
 
アンジの顔を見ると、アンジは笑みを浮かべ、照れくさそうに言う。  
「あたしは、自分で何とかする」  
「けど…ここに10年もいたら体がもたねえ…!」  
「売春やらされてる女は、最初に契約するときに借金を4分の一に減らしてもらえるんだ」  
「そ、そうなのか…!?」  
「その代わり、仕事もキッツいけど…。でも、数年立ったら地上に上がれる…というか、上がらされる。  
上がった先にも同じ仕事が待ってるワケだけど…」  
「………そうか…」  
「…じゃあ、また地上で会えるよな」  
「え…?」  
 
カイジが聞き返すと、アンジは自分の肩に置かれたカイジの右手を取り、言った。  
「だって、アンタは地上で一発当てて、ここから抜け出すんだろ…?ならきっと、上の世界で会えるじゃないか…!」  
「…ああ、そうか。…そうだな……!」  
 
カイジが力強く頷くと、アンジもつられて頷いた。  
「大槻にカウンター食らわせてやってくれよ…!3ヵ月後、噂を聞くのを楽しみにしてるからな…!」  
「ああ…!わかった…!」  
 
「なあ…あたしらってもう仲間だよな…?」  
「ああ…!」  
互いに手を握り合うと、アンジはゆっくりとその手を外した。  
そして、俯き加減にもじ…もじ…と頬を掻く。  
 
「どうした…?まだ何か言いたいことがあるのか…?」  
カイジが覗き込むと、アンジは「ああ、うん」と小声でボソッと呟き、意を決したように顔を上げて言った。  
 
「あと一つ、忘れ物が…」  
「何だ…?言っとけよ、もう次は数年先になるぞ」  
「ちょっと屈んでくれないか、膝に手を置いて」  
「あ…?こうか?」  
 
カイジが屈むと、丁度アンジと同じ目線になった。  
すかさずアンジが口付けをする。  
 
「じゃあな、また」  
固まったままのカイジを背に、アンジは照れながら鉄製の扉に手をかける。  
扉を閉めるとき、カイジのほうを振り向くと、引きつった笑みを浮かべていて、アンジは思わず笑ってしまった。  
 
ガチャリ…。  
静かに扉の閉まる音が聞こえ、二つの世界は再び切り離された。  
 
 
扉を背にして廊下を歩く二人…。  
互いの双眸は、真っ直ぐ前を見据えていた。瞳の内に決意を固めて。  
それは戦場に赴く戦士の目…!  
 

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